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  • 特開2020163249-脱水促進材 図000011
  • 特開2020163249-脱水促進材 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-163249(P2020-163249A)
(43)【公開日】2020年10月8日
(54)【発明の名称】脱水促進材
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/01 20060101AFI20200911BHJP
   G01N 23/207 20180101ALI20200911BHJP
   G01N 23/2055 20180101ALI20200911BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20200911BHJP
   C02F 11/145 20190101ALI20200911BHJP
   C02F 11/148 20190101ALI20200911BHJP
   C01F 11/46 20060101ALI20200911BHJP
【FI】
   B01D21/01 102
   G01N23/207ZAB
   G01N23/2055 320
   C02F1/52 B
   C02F11/145
   B01D21/01 110
   C02F11/148
   C01F11/46 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-63672(P2019-63672)
(22)【出願日】2019年3月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】511123429
【氏名又は名称】テクニカ合同株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 真吾
(72)【発明者】
【氏名】福光 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】尾花 誠一
(72)【発明者】
【氏名】高矢 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 康智
(72)【発明者】
【氏名】梅原 歩
【テーマコード(参考)】
2G001
4D015
4D059
4G076
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001FA18
2G001GA13
2G001KA08
2G001LA03
4D015BA03
4D015BA08
4D015BA11
4D015BB06
4D015BB13
4D015CA10
4D015CA11
4D015DA04
4D015DA06
4D015DA25
4D015DA32
4D015DA36
4D015DB04
4D015DB08
4D015DB13
4D015DB32
4D015DB33
4D015DB35
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4D015EA32
4D059AA09
4D059AA21
4D059BE31
4D059BE60
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4D059DA16
4D059DA17
4D059DA54
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4D059DB16
4D059DB18
4D059DB19
4D059DB20
4D059DB24
4D059DB25
4D059DB28
4D059DB29
4G076AA14
4G076AB08
4G076AB21
4G076BC08
4G076CA02
4G076CA40
4G076DA28
(57)【要約】
【課題】汚泥・汚濁廃水への分散性に優れて、固形分を効率よく沈降させることができ、より迅速に固形分から水分を分離できる脱水促進材を提供する。
【解決手段】本発明に係る脱水促進材は、無水石膏を含有する脱水促進材であって、前記無水石膏は、平均粒子径D50が5〜100μmであり、X線回折により求められるピーク強度のうち、(020)面のピーク強度(I(020))と、(102)面のピーク強度(I(102))との比(I(020)/I(102))が、5以上であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無水石膏を含有する脱水促進材であって、
前記無水石膏は、平均粒子径D50が5〜100μmであり、
X線回折により求められるピーク強度のうち、(020)面のピーク強度(I(020))と、(102)面のピーク強度(I(102))との比(I(020)/I(102))が、5以上であることを特徴とする脱水促進材。
【請求項2】
前記比(I(020)/I(102))が50以下であることを特徴とする請求項1に記載の脱水促進材。
【請求項3】
前記無水石膏は天然無水石膏であることを特徴とする請求項1または2に記載の脱水促進材。
【請求項4】
前記無水石膏100質量部に対して、10〜15質量部のポリマーが配合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の脱水促進材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高含水の汚泥、汚水(汚濁廃水)等の泥水の脱水に用いられる脱水促進材に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性物質によって汚染された湖沼の底質(高含水の汚泥)や、土地や道路、建造物を除染した除染水等の泥水には、放射性物質を含む泥等の固形分が含有されている。こうした固形分を凝集沈殿することで除去し、固液分離を行う除染水処理用凝集剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されている凝集剤には、パラクロレラ・バイノス(Parachlorella sp.binos)を乾燥させたバイノスパウダーが含まれている。
【0003】
各種の汚泥、汚濁廃水中の固形分(混濁浮遊物等)を沈降させるために、石膏粉末を配合した凝集剤が提案されている(例えば、特許文献2、3、4参照)。また、硫酸アルミニウム、硫酸カリウム、炭酸ナトリウム等の無機系の天然鉱物を主原料とした凝集剤が提案されている(例えば、特許文献5参照)。特許文献4に記載されている凝集剤は、固形分のフロックを短時間で形成して沈降させるとともに、被処理水に含まれる重金属類と、一部のハロゲン、メタロイド元素等を不溶出化することができる。
【0004】
しかしながら、これまで凝集剤に用いられていた石膏粉末は、結晶構造について何ら着目されていない。また、粒子径についても特に規定されていなかった。泥水に含まれる泥等の固形分をより迅速に沈降させて脱水を促進し、かつ固形分を極力含まない透明度の高い処理水が得られる脱水促進材が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−1963号公報
【特許文献2】特開2010−172883号公報
【特許文献3】特開2010−172882号公報
【特許文献4】特開2003−94100号公報
【特許文献5】特開2005−95880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、汚泥・汚濁廃水への分散性に優れて、固形分を効率よく沈降させることができ、より迅速に固形分から水分を分離できる脱水促進材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る脱水促進材は、無水石膏を含有する脱水促進材であって、前記無水石膏は、平均粒子径D50が5〜100μmであり、X線回折により求められるピーク強度のうち、(020)面のピーク強度(I(020))と、(102)面のピーク強度(I(102))との比(I(020)/I(102))が、5以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、汚泥・汚濁廃水への分散性に優れて、固形分を効率よく沈降させることができ、より迅速に固形分から水分を分離できる脱水促進材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】天然無水石膏の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図2】工業無水石膏の表面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明の脱水促進材には、無水石膏、特に天然無水石膏が含有される。本発明においては、例えば、天然無水石膏(タイ産)を用いることができる。その物性を、工業無水石膏(旭硝子(株)製)と比較して以下に示す。
【0011】
<平均粒子径D50>
各無水石膏について、湿式粒度分布から求めた平均粒子径D50を、下記表1にまとめる。なお、分散媒としては水を用い、超音波分散による前処理を施した後、粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル(株)製)により求めた。
【0012】
【表1】
【0013】
天然無水石膏は、平均粒子径D50が工業無水石膏より著しく大きいことが確認された。平均粒子径D50が大きいことは、泥水への分散性が向上する点で有利となる。
なお、天然無水石膏の平均粒子径D50が5μm未満と小さい場合には、泥水に良好に分散せず、脱水剤の機能が損なわれるおそれがある。一方、天然無水石膏の平均粒子径D50が100μmを超えて大きい場合には、他の成分との粒径の乖離が発生し、偏析が起こりうるという点で好ましくない。したがって、本発明においては、平均粒子径D50が5〜100μmの天然無水石膏が用いられる。天然無水石膏の平均粒子径D50は、好ましくは10〜40μmであり、より好ましくは15〜30μmである。
【0014】
<乾式粒度比較>
下記表2には、各無水石膏の乾式粒度をまとめる。乾式粒度は、目開き150μmの篩と、目開き90μmの篩とを用いて測定した。
【0015】
【表2】
【0016】
天然無水石膏は、150μm篩上の粒子の割合が工業無水石膏より少ないことが示された。この結果は、天然無水石膏の粒子径が、工業無水石膏より揃っていることを示している。天然無水石膏は、工業無水石膏より粒子径が大きいことが、図1図2のSEM写真の比較からわかる。
【0017】
下記表3には、天然無水石膏及び工業無水石膏に含まれる成分の含有量をまとめる。各成分の含有量は、ICP分析により求めた。
【0018】
【表3】
【0019】
CaOの含有量は、30〜50%の範囲内であれば同等であるとみなすことができ、SOの含有量は、40〜60%の範囲内であれば同等であるとみなすことができる。したがって、含有される成分に関しては、天然無水石膏は、工業無水石膏とは明確な差異は確認されない。なお、各無水石膏中の残部は不純分等である。
【0020】
<結晶子測定>
全自動多目的X線解説装置(D8 ADVANCE ブルカー・エイエックス社製)を用いて、天然無水石膏(タイ産)及び工業無水石膏(旭硝子(株)製)の結晶子を測定した。測定条件は以下のとおりとした。
・管電圧、管電流:40kV、40mA
・走査範囲:20〜50° ・ステップ幅:0.02° ・計測時間:1S/ステップ
・発散スリット、受光スリット:いずれも0.3°
結晶子は、(020)面のピークからシェラーの式より算出した。結晶子の算出は、装置による自動計算で行われる。
D=Kλ/(Bcosθ)
(D:結晶子サイズ、 K:シェラー定数(0.9)、 λ:X線波長
B:ピーク半地幅、 θ:ブラッグ角)
得られた結果を、下記表4にまとめる。
【0021】
【表4】
【0022】
天然無水石膏は、ピーク強度及び結晶子が工業無水石膏より大きいことが確認された。したがって、天然無水石膏は、工業無水石膏と比較して配向性が高いことがわかる。
天然無水石膏は、工業無水石膏より配向性が高いことから、長さ方向に成長した繊維状を有していると推測される。下記表5には、(020)面と(102)面との強度比を示す。
【0023】
【表5】
【0024】
上記表に示される結果に基づいて、天然無水石膏のピーク強度比は、X線回折により求められるピーク強度のうち、(020)面のピーク強度(I(020))と、(102)面のピーク強度(I(102))との比(I(020)/I(102))を5以上に規定した。比(I(020)/I(102))は、好ましくは50以下であり、より好ましくは10〜40であり、最も好ましくは15〜30である。
比(I(020)/I(102))が小さすぎる場合は、配向性が高くなく、長さ方向へ成長した繊維状を示さないことから、泥水への分散性に悪影響を及ぼすと考えられる。比(I(020)/I(102))を5以上に規定することにより、泥水への分散性が向上することが見出された。容易に測定可能な強度比の範囲を考慮すると、比(I(020)/I(102))の上限は50程度とすることができる。
【0025】
以上の結果に示されるように、天然無水石膏は、工業無水石膏と比較して平均粒子径D50が著しく大きいのに加え、結晶性が高く配向性も高い。天然無水石膏は自然界で長期間かけて生成されるのに対し、工業無水石膏の場合、例えばリン酸石膏(phospho gypsum)では、リン鉱石と硫酸とを反応させてリン酸を製造する際、短期間に生成される。天然無水石膏と工業無水石膏との特性の違いは、結晶の生成速度の違いに基づいていると推測される。こうした物性に起因して、天然無水石膏を含有する脱水促進材は、水への分散性が工業無水石膏より優れ、汚濁浮遊物が凝集する際の核として有効に作用することが推測される。
【0026】
<脱水促進材>
本発明の脱水促進材は、上述したような天然無水石膏とポリマーとを混合して調製することができる。ポリマーは、凝集によるフロックの肥大化という効果を付与する。ポリマーが少なすぎる場合には、所望の効果を十分に得ることができない。一方、ポリマーが過剰に配合されても効果が顕著に向上するわけではない。ポリマーは、天然無水石膏100質量部に対し、10〜15質量部の割合で用いることが好ましい。
【0027】
ポリマーは、合成ポリマー及び天然ポリマーのいずれを用いてもよい。合成ポリマーとしては、重量平均分子量(Mw)が600万〜1200万程度の低アニオン低分子ポリマーと、Mwが1300万〜1600万程度の強アニオン高分子ポリマーとを組み合わせて用いることが好ましい。低分子ポリマーと高分子ポリマーとは、任意の割合で用いることができる。例えば、質量比(低分子ポリマー:高分子ポリマー)は80:20〜40:60程度とすることができる。
【0028】
合成ポリマーとして用いられる材料としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、アクリル酸ナトリウム等のカルボン酸塩系の重合体、カルボン酸塩とアクリルアミドとの共重合体、スルホン酸塩とアクリルアミドとの共重合体、アルキルアミノアクリレート塩とアクリルアミドとの共重合体、アルキルアミノメタクリレート塩とアクリルアミドとの共重合体等が挙げられる。このうち、ポリカルボン酸塩系物質、即ち、カルボン酸塩の重合体、及び、カルボン酸塩とアクリルアミドとの共重合体が好ましい。
【0029】
カルボン酸塩とアクリルアミドとの共重合体におけるポリカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。
また、スルホン酸塩とアクリルアミドとの共重合体におけるスルホン酸としては、例えば、アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸等を挙げることができる。
【0030】
アルキルアミノアクリレート塩とアクリルアミドとの共重合体におけるアルキルアミノアクリレート塩としては、アクリル酸ジメチルアミノエチル、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリロイル2−ヒドロキシプロピルリド等を挙げることができる。
【0031】
アルキルアミノメタクリレート塩とアクリルアミドとの共重合体におけるアルキルアミノメタクリレート塩としては、メタアクリル酸ジメチルアミノエチル、ジメチルアミノプロピルメタアクリルアミド、メタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、メタアクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、メタアクリロイル2−ヒドロキシプロピルリド等を挙げることができる。本発明に使用される合成ポリマーについて記載したが、その効果を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【0032】
天然ポリマーの例としては、グアーガム、ローストグアガム、ローストビンガムなどの種子多糖類、アラビノガラクタンガム、アラビヤガムなどの樹脂多糖類、アルギン酸、キトサンなどの海草多糖類、ペクチン、サイリュームガムなどの果実多糖類、澱粉、コンニャクなどの根茎多糖類、セルロースなどの繊維多糖類、微生物系のザンサンガム、ザンコート、ザンフロー、カードラン、サクシノグルカンなど、動物系のゼラチン、カゼイン、アルブミン、シュラックなどが挙げられる。また、澱粉、グアーガム、ローストグアガム、セルロース、アルギン酸などに酸化、メチル化、カルボキシメチル化、ヒドロキシエチル化、リン酸化、カチオン化などの処理を施すことによって得られる澱粉誘導体、グアーガム誘導体、ローストグアガム誘導体、セルロース誘導体、アルギン酸誘導体などを用いてもよい。本発明において使用される天然ポリマーについて記載したが、その効果を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができる。
【0033】
<その他の成分>
本発明の脱水促進材には、硫酸アルミニウム、ソーダ灰、粉末ポリ塩化アルミニウム(PAC)、珪藻土(P1200)等が含有されていてもよい。こうした成分は、天然無水石膏100質量部に対して、それぞれ以下の割合で用いることが好ましい。
硫酸アルミニウム:15〜30質量部
アルギン酸:1〜10質量部
ソーダ灰:10〜20質量部
粉末PAC:0.5〜10質量部
珪藻土:5〜20質量部
【0034】
<作製方法>
本発明の脱水促進材は、天然無水石膏に対し、所定量のポリマー、及び硫酸アルミニウム等の成分を配合し、粉体用混合機等を用いて混合することによって作製することができる。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の具体例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。
<使用する石膏の選定>
まず、天然無水石膏と工業無水石膏について、脱水性能の確認を行った。具体的には、ため池底質に天然無水石膏と工業無水石膏とをそれぞれ添加し、フロックの形成試験、及び沈降試験を行った。
【0036】
(試料の作製)
ため池底質25gに水475gを加えて、泥水500gを調製した。得られた泥水に、天然無水石膏(タイ産)と工業無水石膏(旭硝子社製)とを0.3gずつ添加し、試料を作製した。
(試験の内容)
フロック形成試験:作製した天然無水石膏添加の泥水と工業無水石膏添加の泥水とを、それぞれ、汎用攪拌機(新東科学株式会社製 汎用撹拌機BL300)を用いて混合速度200rpmで撹拌した。1分後、篩(篩目850μm)にて泥水を漉し、篩上に残った分量について質量測定を行った。測定結果を下記表6に示す。
【0037】
【表6】
【0038】
上記表に示されるように、天然無水石膏を用いた試料は、工業無水石膏を用いた試料に比べて、篩上に残った全質量及び全質量から水分を抜いた乾燥質量のいずれも大きい。これは、天然無水石膏を添加した試料が、工業無水石膏を用いた試料に比べて好適にフロックを形成し、泥質中の固形分(乾燥質量に含まれる材)をフロック中により多く取り込んで、泥質中の固形分が篩を通過することを抑制することに基づく。即ち、工業無水石膏に比べて天然無水石膏の方が、汚濁浮遊物が凝集する際の核として有効に作用して大きなフロックを形成しやすく、故に泥質に対する脱水性能が高いことが解る。
【0039】
沈降性試験:フロック形成試験で作製した試料と同じ試料を、フロック形成試験と同様に撹拌した後に500mlのメスシリンダーに投入・静置し、沈降量を測定した。本試験では併せて原水(石膏無添加の泥水)についても測定を行った。測定結果を下記表7に示す。
【0040】
【表7】
【0041】
上記表に示されるように、天然無水石膏を用いた試料は、10秒強で約70%が沈降し、1分では80%が沈降している。これに対して工業無水石膏を用いた試料は、70%沈降するのに30秒強、80%沈降するのに5分経過している。天然無水石膏を用いた試料は、工業無水石膏に比べて泥水中の固形分を早期に凝集して沈降させることができる。これは、天然無水石膏が工業無水石膏に比べて水への分散性が優れ、かつ大きなフロックをできることに基づいている。即ち、天然無水石膏は、工業無水石膏より早期にフロック形成することができるため、泥質に対してフロック形成を促進することが解る。
【0042】
以上の結果に示されるように、天然無水石膏は、工業無水石膏に比べて脱水性能も高く、脱水を早期に促すこともできる為、脱水促進性が高く脱水促進材に適している。以下、天然無水石膏を用いて脱水促進材を作製する。
【0043】
<脱水促進材の作製>
天然無水石膏100質量部に対し、下記表8に示す質量部で、ポリマー、硫酸アルミニウム、アルギン酸(粗粉)、ソーダ灰、粉末ポリ塩化アルミニウム(PAC)、珪藻土(P1200)を配合して、実施例1〜10の脱水促進材を作製した。
【0044】
【表8】
【0045】
比較のために、天然無水石膏を工業無水石膏に変更した以外は実施例3と同様の処方で、比較例の脱水促進材を作製した。
【0046】
<試料の評価>
上述のように作製された実施例1〜10の脱水促進材、及び比較例の脱水促進材を評価するために、福島県の所定のため池から採取した底質土25gと水道水475gとを混合して、500gの汚水を調製した。汚水に試料を加えてフロックを形成し、フロック形成速度、フロックの大きさ、上水のpH、及び上水の透明度を調べた。
1リットルのガラスビーカーに上記泥水を収容し、0.3g(0.06質量%)の脱水促進材をそれぞれ加えた。汎用撹拌機(新東科学株式会社製 BL300)を用いて、目視により観察しつつ、回転数200rpmで攪拌して脱水促進材と汚水とを混合した。
汚水中の脱水促進材の分散状態を目視により観察したところ、実施例1〜10の脱水促進材は、比較例の脱水促進材より良好に分散していることが確認された。
【0047】
<フロック形成速度>
混合開始からフロックが形成されるまでの時間(tF)を測定し、以下のようにフロック形成速度を評価した。
◎:tF≦30sec
○:30sec<tF≦60sec
△:60sec<tF≦120sec
×:tF>120sec
なお、フロックが形成されない場合も、フロック形成速度は“×”とした。
フロック形成速度は、“△”、“○”、“◎”を合格とする。
【0048】
<フロックの大きさ>
フロックを含有する汚水を目開き850μmの円形篩を用いて分離して、篩上に残ったフロックの大きさを測定した。フロックの大きさとは、泥水中に形成されたフロックの大きさをさし、目視及びビーカーの外からの計測により求めた。フロックの大きさが5mm以上10mm以下であれば“大”とし、1mm以上5mm未満であれば“小”とする。
【0049】
<篩下の水分の評価>
篩下の水分のpHは、卓上型pHメーターにより測定した。pHは、5〜9程度であることが好ましく、5.8〜8.6程度であることがより好ましい。
篩下の水分の透明度は、目視により調べ、以下の基準により評価した。
◎:浮遊物が見られず、水が透明になる
○:浮遊物が若干あるが、水がほぼ透明になる
△:浮遊物が若干あり、水に若干の濁りがある
×:浮遊物があり、水に濁りがある
透明度が優れていることは、汚水中の汚濁浮遊物が沈降したことに相当する。
【0050】
フロック生成速度、フロックの大きさ、上水のpH、及び上水の透明度を、総合評価とともに下記表9にまとめる。なお、総合評価は、フロック形成速度及びフロックの大きさを主とし、上水の透明度及びpHを従として総合的に判断して求めた。
【0051】
【表9】
【0052】
上記表9に示されるように、天然無水石膏を含有する実施例1〜10の脱水促進材は、120秒以下でフロックが生成され、上水の透明度も優れている。こうした結果から、天然無水石膏を配合することにより、脱水促進材の性能が向上することが確認された。
図1
図2