【解決手段】車両の外側に展開して膨張するエアバッグと、前記エアバッグの内部に膨張ガスを供給するインフレータとを備えたエアバッグ装置Eにおいて、車両の前方に展開される前方エアバッグ100と、前方エアバッグ100よりも後方に設けられるとともに、車両の上方側に展開され、車両の正面視において逆U字状の形状をなしたゲート状エアバッグ200とを備える。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、車両の前面側に展開するエアバッグ装置であって、車両への衝突を保護する保護対象者である歩行者等に対して傷害低減を図るためのエアバッグ装置である。
以下、本発明の実施形態のエアバッグ装置を、
図1〜
図7に基づいて説明する。
【0012】
図1は、エアバッグ装置Eを備えた車両1の斜視図であり、
図2は、エアバッグ装置Eにおけるエアバッグが展開しているときの車両1の側面図である。
【0013】
図1及び
図2に示すように、エアバッグ装置Eを備えた車両1は、車両1の前端部にフロントバンパ2、フロントバンパ2の上方かつ後方側にボンネット3、ボンネット3の側方側にフロントフェンダ4、ボンネット3の後方側にフロントガラス5、フロントガラス5の両側縁にフロントピラー6、車両1の天井部にルーフ7、車両1の側面部にサイドドア8、サイドドア8の上方にサイドミラー9等を外部構造として構成している。
【0014】
また、フロントバンパ2の上方には、ボンネット3の内部に空気を取り込むためのフロントグリル10と、装飾性のあるエンブレム11が設けられている。
【0015】
フロントバンパ2の内部(後方側)には、エアバッグ装置Eが設けられており、前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200が折り畳まれて格納されている。なお、エアバッグ装置Eは、フロントバンパ2の内部ではなく、フロントグリル10の内部(後方側)に設けてもよい。
【0016】
エアバッグ装置Eは、ナイロン等の合成繊維布の基布で構成された前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200と、前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200の内部に膨張ガスを供給するインフレータ(図示せず)とを備えて構成されている。
【0017】
また、エアバッグ装置Eは、保護対象者が車両1に衝突することを事前に検知すると、インフレータを作動させて、前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200の内部に膨張ガスを供給し、前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200を膨張させる。このとき、膨張した前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200の圧力により、フロントバンパ2が取り外されることになる。
【0018】
そして、
図2に示すように、前方エアバッグ100は、フロントバンパ2から車両1の前面側に展開して膨張することになる。
【0019】
前方エアバッグ100は、車両1の正面視において、車両1の幅方向に対しては車両の幅以上であることが望ましく、車両1の上下方向に対しては車の高さ(ルーフ7)以上であることが望ましい。
これにより、車両の正面視において車両1は前方エアバッグ100の後方側に隠れることができ、車両への衝突時の飛翔方向が安定しない二輪車の乗員が保護対象者であるような場合であっても、大きな前方エアバッグ100により保護対象者を捕捉する確率を高めることができる。
【0020】
また、前方エアバッグ100は、前方エアバッグ100の外部と連通し開孔された排出口110を有しており、排出口110から前方エアバッグ100に供給された膨張ガスが排出されることになる。このため、膨張した前方エアバッグ100の形状は、保護対象者との衝突により変形可能になる。
【0021】
これに対し、ゲート状エアバッグ200は、前方エアバッグ100よりも後方に設けられるとともに、フロントバンパ2から車両1の上方側に展開して膨張することになる。
【0022】
また、膨張したゲート状エアバッグ200は、
図1に示すように、車両の正面視において逆U字状の形状となるように、外周に沿って隆起部が形成され、ゲート状エアバッグ200の内周面の内側は、車両1への衝突を保護する保護対象者が通過可能な大きさで構成されている。
【0023】
このゲート状エアバッグ200の内周面の高さは、
図2に示すように、ゲート状エアバッグ200の内周面の下端部210aから上端部210bまでの距離Lが、ゲート状エアバッグ200の内周面の下端部210aからフロントガラス5及びフロントピラー6の前端部までの距離S以下となるように構成されている。
後述するように、ゲート状エアバッグ200がボンネット3側に倒れ込んだときであっても、保護対象者がフロントガラス5及びフロントピラー6に衝突することを防止することができる(
図6(b)参照)。
【0024】
ここで、前方エアバッグ100とゲート状エアバッグ200とを比較すると、
図1、2に示すように、膨張した前方エアバッグ100の最大の体積(最大容量)は、膨張したゲート状エアバッグ200の最大の体積(最大容量)よりも大きく構成されている。また、膨張したゲート状エアバッグ200に囲まれる面の面積は、前方エアバッグ100が保護対象者との衝突により変形する面積よりも狭くなってもいる。
【0025】
さらに、前方エアバッグ100とゲート状エアバッグ200とを比較すると、前方エアバッグ100は膨張ガスを排出する排出口110を有しているのに対し、ゲート状エアバッグ200は膨張ガスを排出する排出口110を有していない。
【0026】
このため、膨張した前方エアバッグ100の内部圧力は、膨張したゲート状エアバッグ200の内部圧力よりも低くなる。そして、前方エアバッグ100は柔らかく、ゲート状エアバッグ200は固く保持されることになることから、ゲート状エアバッグ200は、柔らかく大きな前方エアバッグ100が後方側に倒れ込むことを支持することができる。
【0027】
次に、ゲート状エアバッグ200の詳細について説明する。
図3は、車両を正面視としたときのゲート状エアバッグ200の正面図である。
【0028】
<実施形態1>
図3(a)は、実施形態1のゲート状エアバッグ200の正面図である。
【0029】
図3(a)に示すように、ゲート状エアバッグ200の内周面の内側には、開口されたゲート開口部210が形成されている。
【0030】
このゲート開口部210は、車両1への衝突を保護する保護対象者が通過可能な大きさであり、上述したように、ゲート状エアバッグ200の内周面の下端部210aから上端部210bまでの距離Lは、ゲート状エアバッグ200の内周面の下端部210aからフロントガラス5及びフロントピラー6の前端部までの距離S以下となるように構成されている。このことは、後述する実施形態においても同様である。
【0031】
また、膨張したゲート状エアバッグ200に囲まれる面の面積は、前方エアバッグ100が保護対象者との衝突により変形する面積よりも狭くなってもいることから、ゲート状エアバッグ200が、保護対象者との衝突により変形した前方エアバッグ100に包み込まれて、前方エアバッグ100が後方側に倒れ込むことを支持することができる。
【0032】
<実施形態2>
図3(b)は、実施形態2のゲート状エアバッグ200の正面図であり、ゲート状エアバッグ200の内周面の側壁には、弾性を有する弾性布220が取り付けられている。
【0033】
ゲート状エアバッグ200の内周面の内側は、車両1への衝突を保護する保護対象者が通過可能な大きさで構成されており、この弾性布220によって、ゲート状エアバッグ200の内周面の内側を通過しようとする保護対象者及び前方エアバッグ100を確実に支持することができる。さらには、弾性布220の弾性力により、保護対象者が車両1に衝突する際の衝撃吸収をより効率的に行うことができる
【0034】
<実施形態3>
図3(c)は、実施形態3のゲート状エアバッグ200の正面図であり、ゲート状エアバッグ200の内周面の側壁には、基布230が取り付けられている。
【0035】
この基布230は、ゲート状エアバッグ200の内周面の内側の内面積よりも大きい面積であって、弛みを持たせて蛇腹状に上端と下端とがゲート状エアバッグ200の内周面の側壁に縫製されている。また、基布230の面積は、保護対象者及び前方エアバッグ100がゲート状エアバッグ200の内周面の内側を通過することを許容した面積で構成されている。
【0036】
そして、保護対象者及び前方エアバッグ100がゲート状エアバッグ200の内周面の内側を通過したときに、保護対象者との衝突により変形した前方エアバッグ100と基布230とが接触している接触面積が、基布230を広げたときの最大面積となると、基布230が張りつめて、ゲート状エアバッグ200の内周面の内側を通過しようとする保護対象者及び前方エアバッグ100を支持することができる。
【0037】
<実施形態4>
図4は、実施形態4のゲート状エアバッグ200の側面図であり、ゲート状エアバッグ200の内周面の側壁には、前方エアバッグ100の一部である後方部が連結されている。
【0038】
図4に示すように、ゲート状エアバッグ200の内周面の側壁には、前方エアバッグ100の後方部と連結するために、前方エアバッグ100の後方部を縫製した縫製部240が設けられている。なお、縫製部240は、ゲート状エアバッグ200の内周面の側壁において全域に亘って設けられていてもよいし、左右方向側の両端部等の一部にのみ設けられていてもよい。
これにより、ゲート状エアバッグ200が、ゲート状エアバッグ200の内周面の内側を通過しようとする保護対象者及び前方エアバッグ100を確実に支持することができる。
【0039】
また、実施形態4のゲート状エアバッグ200においては、ゲート状エアバッグ200は、ボンネット3側に倒れ込む易くするために、ボンネット3側にやや傾斜している。
なお、車両の上下方向の鉛直線に対し、ボンネット3側への傾斜角度を大きくしてしまうと、保護対象者及び前方エアバッグ100がゲート状エアバッグ200の内周面の内側を通過し難くなってしまうことから、車両の上下方向の鉛直線に対してボンネット3側への傾斜角度は、0〜30度以内であることが望ましい。
【0040】
<実施形態1の変形遷移>
以上を踏まえて、本発明のエアバッグ装置Eのエアバッグの展開内容と、保護対象者が車両1に衝突する際の衝撃吸収をより効率的に行うことができる仕組みについて、
図5〜
図7を用いて説明する。
【0041】
図5及び
図6は、実施形態1の前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200の変形遷移を示す模式図であり、保護対象者、前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200の変化を時系列に示している。また、
図7は、実施形態2〜4の前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200の変形遷移を示す模式図である。
【0042】
エアバッグ装置Eは、保護対象者が車両1に衝突することを事前に検知すると、インフレータを作動させて、前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200の内部に膨張ガスを供給し、前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200を膨張させる。
【0043】
図5(a)に示すように、インフレータは、前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200の内部に同時に膨張ガスを供給し、前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200が同時に展開していく。
【0044】
なお、本実施形態においては、前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200が同時に展開させるように構成したが、前方エアバッグ100をゲート状エアバッグ200よりも先に展開させるように構成してもよい。
【0045】
図5(b)に示すように、最終的に膨張ガスの供給が終了すると、前方エアバッグ100は車両1の前面側に展開して膨張を完了し、ゲート状エアバッグ200は車両1の上方側に展開して膨張を完了することになる。
【0046】
図5(c)に示すように、保護対象者が前方エアバッグ100に衝突すると、前方エアバッグ100の形状が変形する。
【0047】
このとき、前方エアバッグ100は、前方エアバッグ100の形状を変形させる変形力により、保護対象者が車両1に衝突する際の衝撃力から第1の衝突エネルギーを吸収する。
【0048】
その後、
図6(a)に示すように、保護対象者及び前方エアバッグ100の保護対象者近傍の変形箇所は、ゲート開口部210を通過する。このとき、前方エアバッグ100の外縁部は、ゲート開口部210を通過せずに、膨張したゲート状エアバッグ200の外側を包み込むように変形していく。
【0049】
このとき、ゲート状エアバッグ200は、前方エアバッグ100の外縁部を支持しており、この支持力により、保護対象者が車両1に衝突する際の衝撃力から第2の衝突エネルギーを吸収する。
【0050】
更にその後、
図6(b)に示すように、ゲート状エアバッグ200は、保護対象者から受ける衝撃力が所定の閾値を超えると、車両のボンネット側に倒れ込むことになる。
【0051】
このとき、ゲート状エアバッグ200は、車両のボンネット側に倒れ込むことの屈折力により、保護対象者が車両1に衝突する際の衝撃力から第3の衝突エネルギーを吸収する。
【0052】
さらには、ゲート状エアバッグ200の内周面の下端部210aから上端部210bまでの距離Lが、ゲート状エアバッグ200の内周面の下端部210aからフロントガラス5及びフロントピラー6の前端部までの距離S以下(
図2参照)であることから、ゲート状エアバッグ200がボンネット3側に倒れ込んだ後には、倒れ込んだゲート状エアバッグ200により、保護対象者がフロントガラス5及びフロントピラー6に衝突することを防止することができる。
【0053】
そして、倒れ込んだゲート状エアバッグ200は、保護対象者の車両後方側への慣性力により、ゲート状エアバッグ200の形状が変形していくことになる。
【0054】
このとき、倒れ込んだゲート状エアバッグ200は、ゲート状エアバッグ200の形状を変形させる変形力により、保護対象者が車両1に衝突する際の衝撃力から第4の衝突エネルギーを吸収する。
【0055】
このように、実施形態1の前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200は、保護対象者が車両1に衝突する際の衝撃力から複数の段階に亘って衝突エネルギーを吸収し、保護対象者が車両に衝突する際の衝撃吸収をより効率的に行うことができる。
【0056】
<実施形態2〜4の変形遷移>
ここで、実施形態1の前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200の変形態様と、実施形態2〜4の前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200の変形態様とが異なることから、
図7を用いて、実施形態2〜4の前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200の変形遷移を中心に説明する。なお、
図7(a)は、実施形態1の
図6(a)に対応しており、
図7(b)は、実施形態1の
図6(b)に対応している。
【0057】
図7(a)に示すように、実施形態2〜4の前方エアバッグ100は、実施形態1の前方エアバッグ100とは異なり、ゲート状エアバッグ200の外側を包み込まずに、ゲート状エアバッグ200の内周面の内側を通過する。
【0058】
上述したように、ゲート状エアバッグ200の内周面の内側には、弾性布220または基布230が取り付けられているか、縫製部240により前方エアバッグ100の後方部が取り付けられている。
この弾性布220、基布230または縫製部240により、ゲート状エアバッグ200は、ゲート状エアバッグ200の内周面の内側を通過した前方エアバッグ100を支持することができる。そして、この支持力により、保護対象者が車両1に衝突する際の衝撃力から第2の衝突エネルギーを吸収することになる。
【0059】
図7(b)に示すように、実施形態2〜4のゲート状エアバッグ200は、保護対象者から受ける衝撃力が所定の閾値を超えると、車両のボンネット側に倒れ込むことになる。
【0060】
このように、実施形態2〜4の前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200についても、実施形態1のゲート状エアバッグ200と同様にして、ゲート状エアバッグ200は、前方エアバッグ100の形状を変形させる変形力により、保護対象者が車両1に衝突する際の衝撃力から第1の衝突エネルギーを吸収するとともに、前方エアバッグ100の支持力により、保護対象者が車両1に衝突する際の衝撃力から第2の衝突エネルギーを吸収する(
図7(a)参照)。さらには、車両のボンネット側に倒れ込むことの屈折力により、保護対象者が車両1に衝突する際の衝撃力から第3の衝突エネルギーを吸収し、ゲート状エアバッグ200の形状を変形させる変形力により、保護対象者が車両1に衝突する際の衝撃力から第4の衝突エネルギーを吸収する(
図7(b)参照)。加えて、倒れ込んだゲート状エアバッグ200は、保護対象者がフロントガラス5及びフロントピラー6に衝突することを防止することができる。
【0061】
以上のように、本発明のエアバッグ装置Eは、前方エアバッグ100及びゲート状エアバッグ200により、保護対象者が車両1に衝突する際の衝撃吸収をより効率的に行うことができ、保護対象者の傷害低減を図ることができる。