【発明を実施するための形態】
【0017】
[導電性インキ組成物]
本実施形態の導電性インキ組成物は、銅粉(A)と、下記一般式(1)で表される銅錯体(B)と、エポキシ基又はアミノ基を有するシランカップリング剤(C)と、溶剤(D)とを含有する。
【化2】
(一般式(1)中、配位子L
1及びL
2は、それぞれ独立に、アルカノールアミン、又はアルキレンジアミンであるか、L
1とL
2が連結した1つのアルカノールアミン、又はアルキレンジアミンである。)
【0018】
本実施形態の導電性インキ組成物は、銅粉(A)と、上記一般式(1)で表される銅錯体(B)(以下、単に銅錯体(B)ともいう)と、エポキシ基又はアミノ基を有するシランカップリング剤(C)(以下、単にシランカップリング剤(C)ともいう)とを組み合わせて用いる。
上記銅錯体(B)は、一般式(1)に示されるようにギ酸と、アルカノールアミン又はアルキレンジアミンとが配位している。当該銅錯体(B)の少なくとも一部は銅粉(A)間に配置される。アルカノールアミンやアルキレンジアミンが配位した銅錯体(B)は低温で分解しやすく金属銅となるため、前記銅粉(A)と組み合わせて用いることにより、焼結時に熱分解した銅錯体(B)が銅粉(A)の間隙を満たして銅粉(A)同士を電気的に接続する。また、シランカップリング剤(C)は基材との密着性を向上すると共に、少なくとも一部が銅粉(A)間に配置される。本実施形態においてシランカップリング剤(C)は、シロキシ基及びその一部が分解して生成するシラノール基と、エポキシ基又はアミノ基(エポキシ基等ということがある)を有しており、各々銅粉(A)の表面に吸着しうる。そのため、シランカップリング剤(C)の一部は銅粉(A)を架橋して連結した構造をとるものと推定される。そのため、本実施形態の導電性インキ組成物は、バインダーを含有しない場合であっても、強固な導電膜が得られ、密着性が向上する。また、得られた導電膜を折り曲げたときに、曲げによる負荷が銅錯体(B)の焼結体部分のみにかからず、シランカップリング剤(C)に分散されるものと推定される。その結果、本実施形態の導電膜は折り曲げ後においても導電性の低下が抑制される。
【0019】
本発明の導電性インキ組成物は、少なくとも、銅粉(A)と、銅錯体(B)と、シランカップリング剤(C)と、溶剤(D)とを含有し、更に必要に応じて他の成分を含有してもよいものである。以下このような本発明の導電性インキ組成物の各成分について説明する。
【0020】
<銅粉(A)>
本実施形態において銅粉(A)は銅錯体(B)とともに焼結後に導電パスを形成するものである。
銅粉の形状は、用途等に応じて適宜選択すればよい。当該銅粉の形状としては、例えば、真球状を含む略球状、薄片などの板状、棒状、楕円球状、繊維状、樹枝状などが挙げられ、中でも略球状又は板状が好ましく、高い導電性と折り曲げ耐性が得られる点で、板状が特に好ましい。
また前記銅粉の粒径は特に限定されないが、累積体積50容量%における体積累積粒径D
50が0.1〜20μmであり、0.3〜15μmが好ましく、1〜10μmがより好ましい。
なお、体積累積粒径D
50は、銅粉を水中で分散し、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により粒度分布を測定することで求められる。
【0021】
銅粉は、公知の湿式法やアトマイズ法により製造することができる。また、銅粉は市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、湿式銅粉1030Y、1050Y、1100Y;微粒アトマイズ銅粉MA−C015K、MA−C02K;フレーク状銅粉1050YP、1100YP、1200TP(以上、三井金属鉱業株式会社製)などが挙げられる。
【0022】
本実施形態において銅粉(A)は、酸化を抑制する点から被覆されていることが好ましい。銅粉(A)の被覆材としては、カルボン酸や後述するバインダー樹脂(E)などが挙げられる。また、本実施形態においてはシランカップリング剤(C)も銅粉(A)の酸化抑制に寄与している。
カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、酪酸等が挙げられ、中でもギ酸が好ましい。ギ酸で被覆された銅粉(A)を用いることにより、より低温かつ短時間の焼成で導電性に優れた焼結体を得ることができる。
ギ酸で被覆された銅粉(A)は、前記銅粉をギ酸に10分以上、好ましくは30分以上浸漬した後、遠心分離することで得ることができる。30分以上浸漬することにより、銅粉表面の酸化物を除去することができる。
【0023】
<銅錯体(B)>
本発明において銅錯体(B)は、下記一般式(1)で表されるように、2個のギ酸と、1個又は2個のアルカノールアミン又はアルキレンジアミンが配位した構造を有している。当該銅錯体(B)は、アルカノールアミンやアルキレンジアミンと、ギ酸が配位しているため、低温で分解しやすく、低温かつ短時間の焼成で導電性に優れた焼結体が得られる。
【0024】
【化3】
(一般式(1)中、配位子L
1及びL
2は、それぞれ独立に、アルカノールアミン、又はアルキレンジアミンであるか、L
1とL
2が連結した1つのアルカノールアミン、又はアルキレンジアミンである。)
【0025】
アルカノールアミンは、分子内に1個以上のヒドロキシ基と、1個以上のアミノ基とを有する化合物である。アルカノールアミンは、低温かつ短時間焼成可能な点から、中でも、分子内に1個のヒドロキシ基と、1個のアミノ基とを有する化合物が好ましい。
アルカノールアミンの好適な具体例としては、1−アミノ−2−プロパノール、1−アミノ−2−ブタノール、2−アミノ−1−ブタノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、3−アミノ−1−プロパノール、4−アミノ−1−ブタノール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオールなどが挙げられ、中でも、1−アミノ−2−プロパノールが好ましい。
【0026】
アルキレンジアミンは、分子内に脂肪族炭化水素鎖と2個のアミノ基を有する化合物である。アルキレンジアミンの好適な具体例としては、エチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミンなどが挙げられ、中でも、エチレンジアミンが好ましい。
【0027】
配位子L
1及びL
2がそれぞれアルカノールアミン、又はアルキレンジアミンである場合、銅錯体(B)には、アルカノールアミンとアルキレンジアミンが合計で2つ配位している。この場合、当該2つのアルカノールアミン乃至アルキレンジアミンは同一であってもよく、異なっていてもよい。例えば、L
1及びL
2がいずれも1−アミノ−2−プロパノールであってもよく、L
1及びL
2がいずれもエチレンジアミンで有ってもよく、L
1又はL
2の一方が1−アミノ−2−プロパノールであり、他方がエチレンジアミンであってもよい。また、アルカノールアミンは、銅原子に対して、アミノ基側から配位してもよく、ヒドロキシ基側から配位してもよい。なお、後述する方法によれば、アミノ基側から配位したものが優位に生成される。
【0028】
また、L
1とL
2が連結した1つのアルカノールアミン又はアルキレンジアミンである場合、銅錯体(B)には、1つのアルカノールアミン、又はアルキレンジアミンが2座配位している。この場合、当該アルカノールアミン、又はアルキレンジアミンは銅原子を含む5又は6員環を形成していることが、銅錯体(B)の保存安定性の点から好ましい。このようなアルカノールアミン及びアルキレンジアミンとしては、1−アミノ−2−プロパノール、1−アミノ−2−ブタノール、2−アミノ−1−ブタノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、3−アミノ−1−プロパノール、エチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、1,3−プロパンジアミンなどが挙げられ、中でも、1−アミノ−2−プロパノール、又は、エチレンジアミンが好ましい。
【0029】
銅錯体(B)は、例えば、アルコール等の溶剤中、ギ酸銅と、所望のアルカノールアミン乃至アルキレンジアミンとを混合し、遊離したギ酸と、溶剤とを除去することにより得ることができる。
【0030】
本実施形態の導電性インキ組成物において、銅粉(A)と銅錯体(B)の比率は特に限定されないが、低温かつ短時間で焼成可能で、導電性に優れた焼結体が得られる点から、質量比で、銅粉(A):銅錯体(B)が10:90〜90:10であることが好ましく、40:60〜80:20であることがより好ましく、60:40〜80:20であることが特に好ましい。中でも、銅粉(A)の比率が銅錯体(B)の比率より高い場合に、特に高い導電性を発現することが可能となる。
【0031】
<シランカップリング剤(C)>
本実施形態の導電性インキ組成物は、エポキシ基又はアミノ基を有するシランカップリング剤(C)を組み合わせて用いる。当該シランカップリング剤(C)は基材と導電膜(銅粉(A))および銅粉(A)同士とを架橋して密着性を向上するのみならず、銅粉(A)同士を架橋して銅錯体(B)焼結部分にかかる応力を緩和し導電膜の折り曲げ耐性を向上する。
【0032】
シランカップリング剤(C)は、銅粉(A)間を架橋しやすい点から、中でも、末端にエポキシ基又はアミノ基を有することが好ましい。具体的には、前記シランカップリング剤(C)が、下記一般式(2)で表される化合物(以下、単に化合物(2)ということがある)であることが好ましい。
一般式(2): (R
1O)
3−Si−R
2−X
(一般式(2)中、R
1は、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基であり、R
2は、オキソ基(=O)を有していてもよく、炭素鎖中にヘテロ原子を有してもよい炭素数が3〜12のアルキレン基であり、Xは、エポキシ基又はアミノ基である。)
【0033】
−(Si−OR
1)は、R
1が水素原子の場合、シラノール基である。また、R
1が炭素数1〜8のアルキル基の場合、−(Si−OR
1)は加水分解反応によりシラノール基となる部分である。本実施形態においてシラノール基は、基材又は銅粉(A)に吸着して{(基材/銅粉)−O−Si−}の構造をとる。
R
1におけるアルキル基は、加水分解後、導電膜に残留しにくい点から、炭素数1〜8が好ましく、炭素数1〜6がより好ましく、炭素数1〜2が更に好ましい。R
1のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、オクチル基等が挙げられ、特にメチル基またはエチル基が好ましい。
【0034】
R
2は炭素鎖中にヘテロ原子を有してもよい炭素数が3〜12のアルキレン基であり、直鎖型のアルキレン基が好ましい。R
2を、炭素数を3以上のアルキレン基とすることにより、銅粉(A)間を架橋しやすい。R
2におけるアルキレン基の炭素数は3〜12であればよく、3〜8が好ましく、3〜6がより好ましい。
炭素鎖中のヘテロ原子としては、N(窒素原子)、O(酸素原子)、S(硫黄原子)が挙げられ、N又はOが好ましい。炭素鎖中にN又はOを有する場合、当該N又はOも、基材や銅粉(A)への吸着部位となりうるため、密着性及び折り曲げ耐性がより向上する。中でも、R
2が窒素原子を有する場合、当該窒素原子もアミノ基として機能する点で好ましい。
またR
2の炭素原子は、置換基としてオキソ基(=O)を有していてもよく、この場合、オキソ基を有する炭素原子はカルボニル基{−C(=O)−}となる。
【0035】
シランカップリング剤(C)中のアミノ基は、1級アミノ基(−NH
2)、2級アミノ基(−NRH)、3級アミノ基(−NR
2)のいずれであってもよい。更に、前記R
2のX側末端の炭素原子がカルボニル基{−C(=O)−}を構成してもよく、この場合、当該カルボニル基とXにおけるアミノ基とが結合してアミド基{−C(=O)−NH−}となっていてもよい。さらに、R
2が窒素原子を有している場合、当該窒素原子と当該カルボニル基とXにおけるアミノ基とが結合して尿素結合{−NH−C(=O)−NH−}を形成してもよい。
前記アミノ基中のRとしては、アルキル基、アリール基が挙げられる。
当該アルキル基としては、炭素数が1〜8のアルキル基が好ましく、炭素数が1〜6のアルキル基がより好ましく、炭素数が1〜2のアルキル基が更に好ましい。またアリール基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられ、更に置換基としてアルキル基を有していてもよい。
また、R
2がヘテロ原子として窒素原子を有する場合、当該窒素原子もアミノ基として機能する。
【0036】
好ましいシランカップリング剤(C)として、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、(3−(N−メチルアミノ)プロピル)トリメトキシシラン、(3−(N−ブチルアミノ)プロピル)トリメトキシシラン、(3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル)トリメトキシシラン、(3−(N,N−ジエチルアミノ)プロピル)トリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(6−アミノヘキシルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、(3−(N−フェニルアミノ)プロピル)トリメトキシシラン、(3−(N,N−ジフェニルアミノ)プロピル)トリメトキシシラン、(1−(3−トリメトキシシリル)プロピル)ウレア、(1−(3−トリエトキシシリル)プロピル)ウレア、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、8−グリシジルオキシオクチルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのカップリング剤(C)は東京化成工業株式会社製の試薬や、信越化学工業株式会社製の市販品として入手可能である。
【0037】
導電性インキ組成物中のシランカップリング剤(C)の含有割合は、導電性インキ組成物中の銅粉(A)及び銅錯体(B)の合計質量を100質量%としたときに、0.05質量%〜15質量%が好ましく、0.2質量%〜10質量%がより好ましく、0.5質量%〜5質量%が更に好ましい。
シランカップリング剤(C)の含有割合を上記下限値以上とすることで、導電膜の密着性及び折り曲げ耐性がより向上する。一方、シランカップリング剤(C)の含有割合を上記上限値以下とすることで、導電性に優れた導電膜が得られる。
【0038】
<溶剤(D)>
本発明において溶剤(D)は、導電性インキ組成物中の各成分を溶解乃至分散可能な溶剤の中から適宜選択して用いることができ、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
溶剤(D)の具体例としては、水; メタノール、エタノール等のアルコール系溶剤; エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール系溶剤; グリセリンなどの多価アルコール系溶剤; エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤(セロソルブ系溶剤); ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶剤; 酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶剤; ヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤; アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤が挙げられる。銅粉(A)の酸化を抑制する点から、中でも、グリコール系溶剤、多価アルコール系溶剤、セロソルブ系溶剤を含むことが好ましく、グリセリンを含むことがより好ましい。
【0039】
導電性インキ組成物中の、溶剤(D)の含有割合は特に限定されず、塗膜の形成手段などに応じて適宜調整すればよい。溶剤(D)の含有割合は、溶剤(D)を含む導電性インキ組成物全量に対して、1〜90質量%が好ましく、2〜70質量%がより好ましく、3〜50質量%が更に好ましく、5〜30質量%が特に好ましい。
【0040】
<任意添加成分>
本実施形態の導電性インキ組成物は、必要に応じて他の成分を含有してもよい。
【0041】
(シュウ酸)
本実施形態の導電性インキ組成物は、更にシュウ酸を含有してもよい。シュウ酸を含有することにより、焼成時における銅粉(A)の酸化が更に抑制されて、導電性に優れた焼結体を得ることができる。
シュウ酸を用いる場合、導電性インキ組成物中の含有割合は、導電性インキ組成物全量に対して、0.1〜10質量%が好ましく、0.2〜8質量%がより好ましい。
【0042】
(バインダー樹脂)
本実施形態の導電性インキ組成物は、更にバインダー樹脂を含有してもよい。バインダー樹脂は、導電性インキ組成物の焼結体に残留して、焼結体の柔軟性を向上し、折り曲げ後の焼結体の体積抵抗率の上昇を抑制できる。
【0043】
バインダー樹脂は、焼成時に分解しないものであればよく、適宜選択して用いることができる。中でも、銅粉(A)や、後述する基材(Z)との相互作用の点から、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基などの極性基や、2−ピロリドンなどのラクタム構造を有することが好ましい。
【0044】
このようなバインダー樹脂の好適な具体例としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、(メタ)アクリル酸共重合体などが挙げられ、中でもポリビニルピロリドンを含むことが好ましい。なお(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸の各々を表す。
【0045】
バインダー樹脂に用いられるポリビニルピロリドンの重合度は特に限定されないが、フィッケンチャーのK値として、15以上90以下が好ましく、20以上70以下がより好ましい。なお、当該K値はJIS K 7367−2に記載の方法により測定できる。また、ポリビニルピロリドンは、K値が特定された市販品などを適宜用いてもよい。
【0046】
バインダー樹脂は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本実施形態においてバインダー樹脂は、導電性インキ組成物の調製時に溶剤(D)などに添加してもよいが、銅粉(A)に付着させて用いることが好ましい。銅粉(A)に付着させて用いることにより、バインダー樹脂の過剰量の添加を抑制し、導電性に優れた焼結体を得ることができる。
【0047】
バインダー樹脂を銅粉(A)に付着させる方法は、特に限定されないが、例えば、前記銅粉を、バインダー樹脂を含有するギ酸に10分以上、好ましくは30分以上浸漬した後、遠心分離することで得ることができる。
【0048】
バインダー樹脂の添加量は、銅粉(A)100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下が好ましく、0.05質量部以上10質量部以下が好ましい。
【0049】
本実施形態の導電性インキ組成物は、効果を損なわない範囲で、更に他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、銅害防止剤、シランカップリング剤、防錆剤、還元剤、酸化防止剤、顔料、染料、粘着付与樹脂、可塑剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング調整剤、充填剤、難燃剤、樹脂の架橋剤等が挙げられる。
【0050】
(導電性インキ組成物の調製方法)
本実施形態の導電性インキ組成物は、銅粉(A)と、銅錯体(B)と、シランカップリング剤(C)と、必要により用いられる他の成分とを、溶剤(D)中に溶解乃至分散する方法であればよく、公知の混合手段により混合して得ることができる。
【0051】
<導電性インキ組成物の用途>
本実施形態の導電性インキ組成物は、密着性が高く、折り曲げ耐性に優れた導電膜を形成できる。そのため、例えばフレキシブル表示装置用の基材に形成する導電膜用に好適に用いることができる。
また本実施形態の導電性インキ組成物は、低温かつ短時間で焼結可能であり、更に大気中で焼結しても導電性に優れているという特徴も有するため、表示装置やタッチパネルなどの導電層や、RFID(Radio Frequency Identifier)用のタグなど、従来公知のあらゆる用途に適用し、生産性を向上することができる。また、低温で焼結可能であるため、比較的熱に弱い基材などにも適用することができ、基材の選択性野も優れている。
【0052】
[導電性積層体]
図1を参照して本実施形態の導電性積層体を説明する。
図1は、本実施形態の導電性積層体の一例を示す模式的な断面図である。
図1の例に示されるとおり、導電性積層体10は、基材(Z)1上に前記本発明のインキ組成物の焼結体を含む導電膜2を有する。
図1の例では、基材(Z)の全面に導電膜2が形成されているが、導電膜2は所望のパターン状に形成されていてもよい。また図示はしないが、導電性積層体10は、導電膜2上に更に保護膜を設けるなど、効果を損なわない範囲で任意の層構成とすることができる。
【0053】
<基材(Z)>
基材(Z)は後述する焼成温度に対する耐熱性を有するものであればよく、用途等に応じて適宜選択することができる。基材(Z)はフレキシブル性を有するものであっても、有しないものであってもよい。フレキシブル性を有しない基材(Z)を用いた場合でも密着性に優れた導電膜が得られる。本実施形態においては、前記導電性インキ組成物により得られる導電膜が折り曲げ耐性に優れていることから、当該効果を発揮する点から、基材(Z)はフレキシブル性を有する基材が好ましい。
基材(Z)の材質としては、例えば、ガラス;シリコン等の半導体;シリカ、アルミナ等のセラミックス;ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド、ガラス繊維にエポキシ樹脂を含浸したプリント基板などの非浸透性基材や、セルロース紙;セロファン、トリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂;セルロース繊維やレーヨン繊維などの合成繊維製の布帛などの浸透性基材が挙げられる。
【0054】
本発明において基材(Z)は、中でも、浸透性基材であることが好ましい。浸透性基材を用いることにより、基材と導電膜との密着性が更に向上し、折り曲げ耐性も更に向上する。浸透性基材の中でも、セルロース紙や布帛などの多孔質基材が好ましく、セルロース紙がより好ましい。多孔質基材を用いた場合には、基材が有する孔に焼結体が入り込み、アンカー効果によって折り曲げ耐性がさらに向上するものと推定される。
【0055】
基材(Z)として用いられるセルロース紙は、更にアミン変性してアミン変性セルロース紙としてもよい。アミン変性セルロース紙が有するアミノ基と、前記バインダー樹脂(E)が有する極性基やラクタム構造との間でイオン間相互作用や、双極子相互作用を生じることにより、焼結体の折り曲げ耐性が向上する。
【0056】
アミン変性セルロース紙は、例えば、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルエトキシシランなどアミノ基を有するシランカップリング剤を、水を含む溶剤に溶解して溶液とし、当該溶液にセルロース紙を浸漬し、乾燥することで得ることができる。
また、前記本実施形態の導電性インキ組成物において、シランカップリング剤(C)として上記アミノ基を有するシランカップリング剤を選択することにより、塗膜形成時に基材(Z)をアミン変性した場合と同様の効果を得ることができる。
【0057】
本発明において基材(Z)の厚みは特に限定されず、用途等に応じて適宜選択することができる。例えば、0.01mm以上1mm以下などとすることができる。
【0058】
(導電性積層体の製造方法)
導電性積層体は、前記基材(Z)上に、前記導電性インキ組成物の塗膜を形成し、当該塗膜を焼成することにより製造できる。
導電性インキ組成物の塗膜の形成方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、バーコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷、インクジェット法など公知の印刷技術を用いた方法を用いることができる。
【0059】
塗膜の焼成方法は、特に限定されず、従来と同様の方法で焼成してもよい。一方本実施形態の導電性インキ組成物は、低温かつ短時間で焼成可能なことから、例えば焼成温度を90℃以上140℃以下、好ましくは95℃以上120℃以下とし、焼成時間を15秒以上120秒以下としても、導電性、密着性及び折り曲げ耐性に優れた導電膜を得ることができる。また、焼成時の雰囲気は、窒素雰囲気下であってもよく、酸素を含む大気雰囲気下であってもよい。本実施形態の導電性インキ組成物によれば、酸素を含む大気雰囲気下であっても酸化が抑制され導電性に優れた導電膜を得ることができる。
【0060】
本発明の導電性積層体における導電膜の厚みは、用途等に応じて適宜調整すればよい。導電性及び折り曲げ耐性を両立する点から、導電膜の厚みは1μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上30μm以下がより好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例、比較例を挙げて本実施を詳細に説明するが、本実施は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
[製造例1:銅粉(A−1)の製造]
粒径が1〜2μmの銅粉(三井金属鉱業株式会社製:1050YP、板状銅粉)1質量部をギ酸12.2質量部に1時間浸漬した後、遠心分離することにより、ギ酸が被覆した銅粉(A−1)を得た。
【0063】
[製造例2:銅粉(A−2)の製造]
製造例1において、粒径が1〜2μmの銅粉の代わりに、粒径が300nmの球状銅粉を用いた以外は製造例1と同様にして、ギ酸が被覆した銅粉(A−2)を得た。
【0064】
[製造例3:銅錯体(B−1)の製造]
メタノール5.54質量部中に、無水ギ酸銅2.5質量部と、1−アミノ−2−プロパノール(AmIP)2.48質量部とを混合し撹拌した後、真空乾燥することにより、ギ酸と1−アミノ−2−プロパノールが配位した銅錯体(B−1)を得た。
【0065】
[導電性インキ組成物の調製]
<実施例1>
エチレングリコール0.0779質量部とグリセロール0.0882質量部(体積比率1:1)の混合溶剤(D−1)に、製造例1の銅粉(A−1)0.9質量部と、製造例3の銅錯体(B−1)0.3質量部とを撹拌して得たペーストに、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン(AEAPTES:下記化合物(C−1))0.012質量部を添加して撹拌し、実施例1の導電性インキ組成物を得た。
【0066】
【化4】
【0067】
<実施例2>
実施例1においてAEAPTESの添加量を0.006質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の導電性インキ組成物を得た。
【0068】
<実施例3>
実施例1においてAEAPTESの添加量を0.024質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の導電性インキ組成物を得た。
【0069】
<実施例4>
実施例1においてAEAPTESの添加量を0.036質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例4の導電性インキ組成物を得た。
【0070】
<実施例5>
実施例1においてAEAPTESの添加量を0.060質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例5の導電性インキ組成物を得た。
<実施例6>
実施例1において、銅粉(A−1)に代えて製造例2の銅粉(A−2)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例6の導電性インキ組成物を得た。
【0071】
<実施例7>
実施例1において、AEAPTESに代えて、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS:下記化合物(C−2))0.036質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例7の導電性インキ組成物を得た。
【0072】
【化5】
【0073】
<実施例8>
実施例7において、GPTMSの添加量を、0.060質量部に変更した以外は、実施例7と同様にして、実施例8の導電性インキ組成物を得た。
【0074】
<実施例9>
実施例1において、AEAPTESに代えて、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES:下記化合物(C−3))0.012質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例9の導電性インキ組成物を得た。
【0075】
【化6】
【0076】
<比較例1>
実施例1において、AEAPTESを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1の導電性インキ組成物を得た。
【0077】
<比較例2>
実施例1において、AEAPTESに代えて、テトラエトキシシラン(TEOS:エポキシ基及びアミノ基を有しないシランカップリング剤)0.012質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例2の導電性インキ組成物を得た。
【0078】
<比較例3>
実施例1において、AEAPTESに代えて、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTES:スルファニル基(−SH)を有し、エポキシ基及びアミノ基を有しないシランカップリング剤)0.012質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例3の導電性インキ組成物を得た。
【0079】
<比較例4>
実施例1において、銅錯体(B−1)を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例4の導電性インキ組成物を得た。
【0080】
[評価]
<導電性積層体の製造(1)>
上記実施例及び比較例の各導電性インキ組成物を用い、下記の方法で導電性積層体を得た。
Whatman(登録商標)定性濾紙グレード4(浸透性及びフレキシブル性を有する)を基材とした(紙基材ということがある)。当該基材上に、ドクターブレード法により導電性インキ組成物の塗膜を形成した。次いで、当該塗膜を、空気中100℃で15秒間加熱することにより焼成して導電性積層体を得た。
なお、比較例4の導電性インキ組成物はこの条件では導電層を形成できなかったため、以下の評価を行っていない。
【0081】
<導電性積層体の製造(2)>
前記導電性積層体の製造(1)において、紙基材に代えて、ポリイミド基材(フレキシブル性を有する)に変更した以外は、前記導電性積層体の製造(1)と同様にして導電性積層体を得た。なお本製造方法は、実施例1の導電性インキ組成物に対して行った。
【0082】
<体積抵抗率評価>
得られた導電性積層体について、それぞれ導電膜の体積抵抗率(Ωcm)を、4点プローブ装置(Loresta AX MCP−T370、三菱化学アナリテック株式会社)を用いて測定した。結果を表1に示す。
(体積抵抗率評価基準)
5:体積抵抗率が1×10
−4Ωcm未満であった。
4:体積抵抗率が1×10
−4Ωcm以上2×10
−4Ωcm未満であった。
3:体積抵抗率が2×10
−4Ωcm以上3×10
−4Ωcm未満であった。
2:体積抵抗率が3×10
−4Ωcm以上5×10
−4Ωcm未満であった。
1:体積抵抗率が5×10
−4Ωcm以上であった。
評価4又は5であれば導電性に優れていると評価でき、評価5が最も導電性に優れている。
【0083】
<折り曲げ耐性評価>
各導電性積層体を、曲げ半径5mmとして1000回反復して折り曲げを行った。1000回折り曲げ後の導電性積層体の体積抵抗率(R)を、前記4点プローブ装置を用いて測定し、折り曲げ前の体積抵抗率(R0)との比(R/R0)により評価した。結果を表1に示す。
(折り曲げ耐性評価基準)
5:R/R0が1.0以上1.2未満であった。
4:R/R0が1.2以上2.0未満であった。
3:R/R0が2.0以上2.5未満であった。
2:R/R0が2.5以上4.0未満であった。
1:R/R0が4.0以上であった。
評価が3、4又は5であれば、初期抵抗R0からの変化率が小さく折り曲げ耐性に優れていると評価でき、評価5が最も折り曲げ耐性に優れている。
【0084】
<密着性評価>
各導電性積層体の導電膜にカッターナイフで1mm間隔に6本ずつ切れ目を入れて1mm×1mmの25個の試験片を形成した。当該25個の試験片上にセロハンテープを密着させた後、当該セロハンテープを剥がし、導電膜の剥離状態を観察した。結果を表1に示す。
(密着性評価基準)
5:剥離割合が0以上0.2未満であった。
4:剥離割合が0.2以上0.4未満であった。
3:剥離割合が0.4以上0.6未満であった。
2:剥離割合が0.6以上0.8未満であった。
1:剥離割合が0.8以上であった。
評価が3、4又は5であれば密着性に優れていると評価でき、評価5が最も密着性に優れている。
【0085】
【表1】
【0086】
[耐酸化性評価]
実施例1、4、5、及び、比較例1、3の導電性積層体を、60℃、80%の高温高湿環境に7日間暴露した後の体積抵抗率Rを測定し、湿熱環境に保管前の体積抵抗率(R0)との比(R/R0)を、折り曲げ耐性評価と同一の基準で評価したところ、実施例1、4及び5の評価はいずれも4であり、比較例1及び3はいずれも1であった。このように、本実施形態の導電性インキ組成物を用いて形成された導電性積層体は、耐酸化性にも優れていることが明らかとなった。