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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-164651(P2020-164651A)
(43)【公開日】2020年10月8日
(54)【発明の名称】コーティング用組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/16 20060101AFI20200911BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20200911BHJP
   C03C 17/10 20060101ALI20200911BHJP
   C03C 17/30 20060101ALI20200911BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20200911BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20200911BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20200911BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20200911BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20200911BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20200911BHJP
   B32B 18/00 20060101ALI20200911BHJP
【FI】
   C09D183/16
   C09D7/61
   C03C17/10
   C03C17/30 A
   B05D7/24 303C
   B05D7/24 302Y
   B05D7/00 E
   B05D5/06 G
   B32B27/00 101
   B32B17/10
   B32B27/20 A
   B32B18/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-66728(P2019-66728)
(22)【出願日】2019年3月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】松山 卓央
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 薫
(72)【発明者】
【氏名】溝口 大剛
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4G059
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AC64
4D075BB16X
4D075BB26Z
4D075BB29Z
4D075BB33Z
4D075BB38Z
4D075CA18
4D075CA47
4D075CA48
4D075CB01
4D075DA06
4D075DB13
4D075DC38
4D075EA10
4D075EB01
4D075EB42
4D075EC10
4D075EC21
4D075EC30
4D075EC51
4F100AA20B
4F100AB24B
4F100AB24H
4F100AB25B
4F100AB25H
4F100AG00A
4F100AK52B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10B
4F100CA13B
4F100DE01B
4F100DE01H
4F100EH46B
4F100EJ08B
4F100GB07
4F100GB48
4F100GB71
4F100JL10B
4F100JN24B
4G059AA01
4G059AC08
4G059DA01
4G059DA02
4G059DB04
4G059FA05
4G059FB05
4J038DL171
4J038HA066
4J038JA03
4J038JA16
4J038JA26
4J038JA30
4J038JA53
4J038KA06
4J038KA08
4J038LA06
4J038MA06
4J038MA14
4J038NA01
4J038PA05
4J038PA06
4J038PA19
4J038PB09
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】本発明は、種々の色を呈する異方性金属ナノ粒子によりガラスを着色することのできる手段を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明のコーティング用組成物は、異方性金属ナノ粒子及びポリシラザンを含んでいる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異方性金属ナノ粒子及びポリシラザンを含むコーティング用組成物。
【請求項2】
前記金属が、金又は銀である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記異方性金属ナノ粒子の表面が、別の金属により被覆されている、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリシラザンが、無機ポリシラザンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
ガラス体をコーティングするために使用される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ガラス体の表面を着色するために使用される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
着色ガラス体の製造方法であって、
ガラス体、並びに、異方性金属ナノ粒子及びポリシラザンを含むコーティング用組成物を用意する工程と、
前記ガラス体の表面に、前記組成物を塗布する工程と、
前記組成物を硬化させる工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
ガラス体及び着色層を備える着色ガラス体であって、
前記着色層が、異方性金属ナノ粒子を含むことを特徴とする着色ガラス体。
【請求項9】
前記着色層が、硬化したコーティング用組成物を含み、前記組成物が、異方性金属ナノ粒子及びポリシラザンを含む、請求項8に記載の着色ガラス体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング用組成物及びその用途に関しており、特に、異方性金属ナノ粒子を含む、ガラス体の着色に有用なコーティング用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノプレートなどの異方性金属ナノ粒子は、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)により光を吸収することが知られており、その大きさや形状を制御することにより、光吸収の波長域を制御できることが知られている。特許文献1〜4には、各種異方性金属ナノ粒子が、被験物質を検出するために使用されることが記載されている。そして、特許文献5には、異方性金属ナノ粒子が、非水系分散液の形態で塗料などに使用される旨が記載されているが、これをガラス体の着色のために使用することは、いずれの特許文献にも記載されていない。また、非特許文献1〜3には、異方性金属ナノ粒子は熱安定性が低い旨が記載されており、非特許文献1には、三角形の銀ナノプレートに95℃の熱を加えると徐々に形状が円盤状に変化して粒径も縮小し、最大吸収波長が低波長側にシフトする旨が記載されている。
【0003】
他方、特許文献6〜8には、ポリシラザンを、ガラス体の着色のためのコーティング用組成物に配合する旨が記載されているが、これらの文献には、異方性金属ナノ粒子及びポリシラザンを含むコーティング用組成物については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/182770号
【特許文献2】特開2017−95744号公報
【特許文献3】国際公開第2017/154989号
【特許文献4】特願2018−111014号
【特許文献5】特開2017−119827号公報
【特許文献6】特開2008−201624号公報
【特許文献7】特開2007−169551号公報
【特許文献8】特開平9−48951号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Phys.Chem.C,2008,112,18361−18367
【非特許文献2】Anal.Sci.,2013,29,101−105
【非特許文献3】Anal.Sci.,2016,32,275−279
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来は、溶融ガラス中に金属酸化物を溶解させるか金属を分散させるかして着色ガラスを製造していたが、当該着色ガラスの色は、使用する金属又は金属酸化物の種類に依存していたため、その色の選択には制限があった。また、異方性金属ナノ粒子は、熱安定性が低く、溶融ガラス中に分散させると形状が球体に変化してしまうため、ガラスを様々な色に着色することはできなかった。そこで、本発明は、種々の色を呈する異方性金属ナノ粒子によりガラスを着色することのできる手段を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、異方性金属ナノ粒子をポリシラザンと配合してコーティング用組成物の形態とすれば、着色ガラスの製造に有用であることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示すコーティング用組成物、着色ガラス体の製造方法、及び、着色ガラス体を提供するものである。
〔1〕異方性金属ナノ粒子及びポリシラザンを含むコーティング用組成物。
〔2〕前記金属が、金又は銀である、前記〔1〕に記載の組成物。
〔3〕前記異方性金属ナノ粒子の表面が、別の金属により被覆されている、前記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕前記ポリシラザンが、無機ポリシラザンである、前記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔5〕ガラス体をコーティングするために使用される、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔6〕前記ガラス体の表面を着色するために使用される、前記〔5〕に記載の組成物。
〔7〕着色ガラス体の製造方法であって、
ガラス体、並びに、異方性金属ナノ粒子及びポリシラザンを含むコーティング用組成物を用意する工程と
前記ガラス体の表面に、前記組成物を塗布する工程と、
前記組成物を硬化させる工程と
を含むことを特徴とする方法。
〔8〕ガラス体及び着色層を備える着色ガラス体であって、
前記着色層が、異方性金属ナノ粒子を含むことを特徴とする着色ガラス体。
〔9〕前記着色層が、硬化したコーティング用組成物を含み、前記組成物が、異方性金属ナノ粒子及びポリシラザンを含む、前記〔8〕に記載の着色ガラス体。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従えば、異方性金属ナノ粒子及びポリシラザンを併せて配合することで、種々の色調を呈する着色ガラスの製造に有用なコーティング用組成物を調製することができる。しかも、意外なことに、塗布後に形成された塗膜で、異方性金属ナノ粒子は熱に安定なものとなり、製造した着色ガラス体のさらなる熱処理や高温環境下での使用によっても、その色は変化しない。したがって、種々の色の異方性金属ナノ粒子により色付けされ、かつその色が熱に対して安定な着色ガラス体などの着色物品を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例のコーティング用組成物で形成した塗膜の分光スペクトルを示す。
図2】実施例のコーティング用組成物で形成した塗膜の分光スペクトルを示す。
図3】比較例のコーティング用組成物で形成した塗膜の分光スペクトルを示す。
図4】比較例のコーティング用組成物で形成した塗膜の分光スペクトルを示す。
図5】比較例のコーティング用組成物で形成した塗膜の分光スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のコーティング用組成物は、異方性金属ナノ粒子及びポリシラザンを含むことを特徴としている。本明細書に記載の「異方性金属ナノ粒子」とは、金属から製造された粒子であって、ナノメートル(nm)オーダーの大きさを持ち、かつ形状が異方性である粒子すなわち球状ではない粒子のことをいう。前記異方性金属ナノ粒子の具体的な形状は、特に限定されないが、例えば、多面体状、立方体状、双錘状、棒状(ロッド状)、又は板状(プレート状)であってもよく、当該形状が板状である場合には、その上面と下面の形状は、三角形、四角形、五角形、六角形などの多角形(角が丸みを帯びた形状を含む)又は円形などの板状構造を有している。
【0011】
前記金属は、特に限定されないが、金又は銀であってもよい。そして、前記金属ナノ粒子の表面は、別の金属によって被覆されていてもよい。前記金属と前記別の金属との組合せは、特に限定されないが、例えば、前記金属が金である場合、前記別の金属はパラジウムであってもよく、前記金属が銀である場合、前記別の金属は金であってもよい。
【0012】
粒子の最大長径対最大長径に直交する幅の比(最大長径/最大長径に直交する幅;例えば、棒状粒子の場合は長軸/短軸、板状粒子の場合は平面最大長/厚さ)で定義される指数をアスペクト比といい、これは粒子の形状を表すために用いることができる。前記異方性金属ナノ粒子の形状が変わると、その最大吸収波長の位置も変化するので、アスペクト比は、最大吸収波長の指標ともいえる。前記異方性金属ナノ粒子のアスペクト比は、1.00より大きい。アスペクト比が1.00より大きいことによって、前記異方性金属ナノ粒子は、球状の金属ナノ粒子では達成することのできない色調を示すことができる。例えば、前記異方性金属ナノ粒子は、赤色、マゼンタ、紫色、紺色、青色、シアン、又は、薄水色の色調を示すことができる。また、前記異方性金属ナノ粒子は、アスペクト比の調整により、最大吸収波長を近赤外領域、赤外領域、遠赤外領域、テラヘルツ波領域、又はミリ波領域等に設定することもできる。最大吸収波長を近赤外領域からミリ波領域等に設定した場合、光学用途(例えば、光学センサー)などに応用できる。
【0013】
前記異方性金属ナノ粒子としては、市販の異方性金属ナノ粒子、又は、異方性金属ナノ粒子の分野で通常採用されている公知の方法で製造した異方性金属ナノ粒子を使用することができる(要すれば特許文献1〜5及び非特許文献1〜3などを参照)。また、前記異方性金属ナノ粒子の配合量は、特に限定されないが、前記コーティング用組成物の全質量に対して、約0.05〜約5.0質量%であってもよく、好ましくは約0.17〜約3.3質量%である。
【0014】
本明細書に記載の「ポリシラザン」とは、以下の構造単位:
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、H、炭素数1〜4の低級アルキル基、又は隣接する同構造単位中のSi若しくはNであり、好ましくはR1及びR2の少なくとも一方がHであり、R3は、H、炭素数1〜4の低級アルキル基、又は隣接する構造単位中のSiであり、前記低級アルキル基は、−Si(R43で置換されていてもよく、3つのR4は、それぞれ独立して、水素、炭素数1〜4の低級アルキル基、又は炭素数1〜4の低級アルコキシ基である)
を有し、かつ数平均分子量が約100〜約500,000である、鎖状及び/又は環状のポリマーのことをいい、塗料のバインダーなどとして知られているものである。そして、構成原子がH、Si、及びNのみであるポリシラザンを、特に無機ポリシラザン(ペルヒドロポリシラザン)という。本発明のコーティング用組成物には、当技術分野で通常使用されるポリシラザンを、特に制限されることなく使用することができる。前記ポリシラザンの配合量は、特に限定されないが、前記コーティング用組成物の全質量に対して、約1.8〜約25質量%であってもよく、好ましくは約3.3〜約20質量%であってもよい。また、前記コーティング用組成物において、前記異方性金属ナノ粒子とポリシラザンの配合比率(質量比)は、1:200〜1:2であってもよく、好ましくは1:100〜1:4であってもよい。
【0015】
本発明のコーティング用組成物は、前記異方性金属ナノ粒子を分散させる分散媒として有機溶媒を含んでいてもよい。前記有機溶媒は、特に制限されないが、例えば、炭化水素、ケトン、エステル及びエーテルからなる群から選択される1種以上を含んでもよく、好ましくは、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及び、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群から選択される1種以上を含む。
【0016】
本発明のコーティング用組成物は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の添加剤をさらに含んでもよく、物品の着色に有用な他の着色剤をさらに含んでもよい。また、前記コーティング用組成物の調製方法は、特に限定されないが、例えば、前記異方性金属ナノ粒子の非水系分散液(要すれば特許文献5を参照)を用意し、これをポリシラザン溶液と混合することで、前記コーティング用組成物を調製してもよい。前記異方性金属ナノ粒子の非水系分散液は、任意の分散剤を含んでもよい。
【0017】
本発明のコーティング用組成物は、任意の物品に対して塗布することができるが、好ましくは、ガラス体をコーティングするために使用することができる。上述したように、前記異方性金属ナノ粒子は、種々の色調を示すものであるため、前記コーティング用組成物は、ガラス体などの物品の表面を着色するために使用してもよい。塗布後に形成された塗膜中で、前記異方性金属ナノ粒子は熱に安定なものとなり、着色した物品のさらなる熱処理や高温環境下での使用(例えば300℃で180分間の熱処理)によっても色がほとんど変化しない。そのため、前記コーティング用組成物は、耐熱性が求められるガラス体やセラミック体、例えば、電子レンジ用食器、ランプシェード、及び、電飾看板などの塗装にも有用である。なお、本発明のコーティング組成物による前記異方性金属ナノ粒子の熱安定性向上効果は、前記ポリシラザンから形成される塗膜自体の安定性とは区別されるものであり、従来技術からは予測することのできない優れた効果である。
【0018】
前記ポリシラザンとして、前記構造単位中のR1及びR2の少なくとも一方がHであるポリシラザン(特に無機ポリシラザン)を採用した場合には、当該ポリシラザンの少なくとも一部は、前記コーティング用組成物を硬化させる工程において、次の化学反応式に従ってシリカガラスに転化するため、塗布対象のガラス体と一体化し得る。
[シリカガラス転化反応の例]
(SiH2NH)+2H2O → (SiO2)+NH3+2H2
【0019】
本発明のコーティング組成物の硬化反応(シリカガラス転化反応)は、特に限定されないが、例えば、約50℃〜約200℃で、約10分〜約120分の間、好ましくは約70〜約90℃で、約30〜約90分の間加熱することにより行われる。この程度の熱処理であれば、前記異方性金属ナノ粒子の形状は変化しないので、当該異方性金属ナノ粒子は、前記ガラス体と一体化した塗膜、すなわち前記ガラス体内部表面付近に分散した状態となり、その結果、当該異方性金属ナノ粒子が呈する色に染まった着色ガラス体が形成され得る。このように、前記コーティング用組成物を使用すれば、熱安定性の低い異方性金属ナノ粒子を溶融ガラス中に溶解させたり分散させたりしなくても、その吸光特性を維持しながら、ガラス体を着色することができる。
【0020】
ある態様では、本発明は、ガラス体及び着色層を備える着色ガラス体にも関しており、前記着色層は、前記異方性金属ナノ粒子を含んでいる。別の言い方をすれば、前記着色層は、前記コーティング用組成物が硬化したものであり、前記ガラス体と一体となって前記着色ガラス体を構成している。本明細書に記載の「着色ガラス体」とは、表面の少なくとも一部が着色されているガラス体のことをいう。前記着色ガラス体は、前記着色層及び/又はそれ以外の部分に、ガラスの着色に有用な他の着色剤をさらに含んでもよい。前記着色ガラス体に含まれる前記異方性金属ナノ粒子は、熱処理や高温環境下での使用(例えば300℃で180分間の熱処理)によっても色がほとんど変化しないため、前記着色ガラス体は、例えば、電子レンジ用食器、ランプシェード、及び、電飾看板などに使用することができる。
【0021】
また別の態様では、本発明は、着色ガラス体の製造方法にも関する。前記製造方法は、
ガラス体、並びに、前記コーティング用組成物を用意する工程と、
前記ガラス体の表面に、前記コーティング用組成物を塗布する工程と、
前記組成物を硬化させる工程とを含んでいる。前記塗布工程は、特に限定されず、当技術分野で通常使用される方法により実施することができるが、例えば、前記コーティング用組成物を、刷毛塗り、ディッピング法、スプレー法、バーコート法、ロールコーター法、リバースロールコーター法、キスコーター法、ブレードコーター法、スライドコーター法、スリットダイコート法、スクリーン印刷法、フローコーター法、スピンコーター法、凸版印刷法、凹版印刷(グラビア印刷など)、インクジェット法、又は、ディスペンサ(液体定量吐出装置)などによって、前記ガラス体の表面に塗布してもよい。また、前記硬化工程は、特に限定されず、当技術分野で通常使用される方法により実施することができるが、例えば、前記コーティング用組成物を塗布したガラス体を、熱風乾燥機などの中に入れて、約50〜200℃で約10〜約120分の間(より具体的には、約50℃で約120分間、約80℃で約60分間、約100℃で約40分間、約150℃で約20分間、又は、約200℃で約10分間)、好ましくは約70〜約90℃で、約30〜約90分の間加熱して、硬化させてもよい。本発明の製造方法は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の製造工程をさらに含んでもよい。
【0022】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
1.コーティング用組成物(塗料)の調製
(1)銀ナノプレートの種粒子の調製
2.5mMのクエン酸三ナトリウム水溶液20mLに、0.5g/Lのポリスチレンスルホン酸(分子量70,000)水溶液1mLと、10mMの水素化ほう素ナトリウム水溶液1.2mLとを撹拌しながら添加し、次いで、0.5mMの硝酸銀水溶液29mLを13mL/minで添加した。撹拌停止後、得られた溶液をインキュベーター(30℃)中に60分間静置し、銀ナノプレートの種粒子の水分散液を作製した。
(2)銀ナノプレート水分散液の調製
蒸留水800mLに、10mMのアスコルビン酸水溶液18mLと、上記工程(1)で調製した銀ナノプレートの種粒子の水分散液33.2mLを撹拌しながら添加した。次いで、7.35mMの硝酸銀水溶液48mLを10mL/minで添加した。得られた溶液に、250mMのクエン酸三ナトリウム水溶液8mLを添加し、攪拌を停止した。得られた溶液を大気雰囲気下のインキュベーター(23℃)中に20時間静置し、銀ナノプレート水分散液(極大吸収波長は504nm)を調製した。
(3)銀ナノプレート水分散液の金被覆処理
上記工程(2)で調製した銀ナノプレートの水分散液500mLを撹拌しながら、2.4mMの塩化金酸水溶液を0.8mL滴下し、銀ナノプレートの表面に金被覆処理を施した。
(4)金被覆銀ナノプレートのトルエン分散液の作製
2.5gの分散剤(DisperBYK145;ビックケミー社製)を50mLのトルエンに溶解し、この全量を上記工程(3)で調製した金被覆銀ナノプレートの水分散液500mLに撹拌しながら添加した。この混合液を23℃で1日間静置し、金被覆銀ナノプレートを水中からトルエン中に移行させた。上層のトルエン層を40mL回収し、それを遠心分離(4℃、20,000rpm、1時間)して、上澄み液を除去した。そして、沈降物を1.5mLのトルエンで再分散し、金被覆銀ナノプレートのトルエン分散液(極大吸収波長は512nm)を調製した。このトルエン分散液中に含まれている金被覆銀ナノプレートを、常法に従ってICP発光分析装置により分析したところ、その含有量は、当該分散液の質量に対して約1質量%であった。
(5)コーティング用組成物の調製
無機ポリシラザンMUS−20(無機ポリシラザン成分20%;株式会社goisei製)と、上記工程(4)で調製した金被覆銀ナノプレートのトルエン分散液とを、10g:3gの比で混合して、実施例1のコーティング用組成物を調製した。比較例としては、金被覆銀ナノプレートを含まないトルエンと無機ポリシラザンMUS−20とを混合して調製した比較例1のコーティング用組成物、及び、金被覆銀ナノプレートを含まないトルエン又は上記工程(4)で調製した金被覆銀ナノプレートのトルエン分散液とアクリル樹脂とを混合して調製した比較例2及び3のコーティング用組成物を用意した。
【0024】
2.塗膜の形成及び耐熱試験
ガラス板(7cm×7cm×1mm)の基材の表面に実施例1のコーティング用組成物又は比較例1〜3のコーティング用組成物のいずれかをスピンコーター法で塗布し、これを熱風乾燥機の中に入れて80℃で60分間加熱して硬化させ、塗膜を形成した。この塗膜を電気炉において200℃(又は300℃)で30〜180分間加熱して、加熱前後の分光スペクトルを紫外可視近赤外分光光度計V−770(日本分光株式会社製)によって測定した。結果を図1〜5に示す。
【0025】
無機ポリシラザンを含むコーティング用組成物(実施例1又は比較例1)を用いて塗膜を形成すると、当該コーティング用組成物は、無機ポリシラザンがシリカガラスに転化し、かつトルエンが揮発したため、基材と一体化して1つのガラス体を形成した。実施例1のコーティング用組成物を用いて形成されたガラス体は、ガラス中に金被覆銀ナノプレートが均一に分散した状態となり、全体として赤色に着色されていた。したがって、実施例1のコーティング用組成物を使用することによって、着色ガラス体を製造することができた。
【0026】
また、実施例1のコーティング用組成物で形成した塗膜は、200℃又は300℃で加熱しても、分光スペクトルに大きな変化を示さなかった(図1及び2)。すなわち、着色ガラス体中の金被覆銀ナノプレートは、加熱条件下でもその形状を維持し、安定に存在していた。
【0027】
これに対して、金被覆銀ナノプレートを含まない比較例1又は比較例2のコーティング用組成物で形成した塗膜は、加熱前後で分光スペクトルに変化を示さないものの(図3及び4)、金被覆銀ナノプレート及びアクリル樹脂を含む比較例3のコーティング用組成物で形成した塗膜(アクリル樹脂膜)においては、極大吸収波長が低波長側にシフトし、外観の色調も赤色から黄色に変化した。すなわち、比較例3のコーティング用組成物中の金被覆銀ナノプレートは、塗膜形成後の加熱条件下で形状が変化した。したがって、金被覆銀ナノプレートの熱安定性が塗膜中で高まるという効果は、他のバインダーには見られないポリシラザンに特異的な効果であった。
【0028】
以上より、異方性金属ナノ粒子及びポリシラザンを含むコーティング用組成物をガラス体の表面に塗布して硬化させることにより、着色ガラス体を製造することができる。しかも、意外なことに、当該着色ガラス体中の異方性金属ナノ粒子は熱に対して安定であるので、種々の色の異方性金属ナノ粒子により色付けされ、熱に安定な着色ガラス体を製造することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5