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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-165757(P2020-165757A)
(43)【公開日】2020年10月8日
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20200911BHJP
   G04F 10/00 20060101ALI20200911BHJP
【FI】
   G01N23/223
   G04F10/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-65572(P2019-65572)
(22)【出願日】2019年3月29日
(11)【特許番号】特許第6732347号(P6732347)
(45)【特許公報発行日】2020年7月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(72)【発明者】
【氏名】片岡 由行
(72)【発明者】
【氏名】森山 孝男
【テーマコード(参考)】
2F085
2G001
【Fターム(参考)】
2F085AA05
2F085CC10
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001EA02
2G001FA08
2G001GA13
2G001JA11
2G001JA17
2G001KA01
2G001LA02
2G001NA10
2G001NA11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】試料の品種や定量演算方法に関わらず、適切な計数時間と定量精度での測定ができる蛍光X線分析装置を提供する。
【解決手段】本発明の蛍光X線分析装置が備える計数時間計算手段13が、所定の定量演算方法により、1つの標準試料についての基準強度を用いて各定量値を求めるとともに、1つの測定線の測定強度のみを所定量だけ変化させた場合の各定量値を求めて、所定量に対する各定量値の変化の比を対強度定量値変化比として求める手順を、測定強度を変化させる測定線を変えて繰返し、そのようにしてすべての測定線について求めた対強度定量値変化比を用いて、各定量値に対し指定された定量精度から各測定線についての計数時間を計算する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に1次X線を照射し、発生する2次X線の測定強度に基づいて前記試料中の成分の含有率の定量値および/または前記試料の厚さの定量値を求める蛍光X線分析装置であって、
強度を測定すべき2次X線である測定線のそれぞれについて、計数時間を計算する計数時間計算手段を備え、
その計数時間計算手段が、
複数の標準試料について所定の仮の計数時間で測定することにより、所定の定量演算方法のための検量線定数と補正係数または装置感度定数を求め、
1つの標準試料について、各定量値に対し定量精度が指定されるところ、各測定線の測定強度を基準強度とし、
前記所定の定量演算方法により、前記基準強度を用いて各定量値を求めるとともに、1つの測定線の測定強度のみを所定量だけ変化させた場合の各定量値を求めて、前記所定量に対する各定量値の変化の比を対強度定量値変化比として求める手順を、測定強度を変化させる測定線を変えて繰返し、
測定強度を変化させた測定線ごとに、変化後の各定量値について、対応する前記対強度定量値変化比で前記指定された定量精度を除することにより強度の精度を求め、最も絶対値の小さい強度の精度を仮の必要な強度の精度とし、
各測定線について、前記基準強度に基づいて前記仮の必要な強度の精度を得るための計数時間を計算し、
各定量値について、各測定線の前記仮の必要な強度の精度および対応する前記対強度定量値変化比に基づいて推定定量精度を計算して前記指定された定量精度と比較し、
すべての定量値について前記推定定量精度が前記指定された定量精度を満足していれば、最終計数時間を出力する工程へ進み、満足していなければ次の工程へ進み、
前記推定定量精度が前記指定された定量精度を満足していない定量値ごとに、1つの測定線の計数時間のみを所定時間だけ増加させた場合の各測定線の強度の精度を前記基準強度に基づいて計算し、計算した各測定線の強度の精度および対応する前記対強度定量値変化比に基づいて推定定量精度を計算し、その計算した推定定量精度と前回計算した推定定量精度との差を改善定量精度とし、その改善定量精度に対する、前回計算した推定定量精度と前記指定された定量精度との差の比に、前記所定時間を乗ずることにより必要な追加時間を求め、この手順を、計数時間を増加させる測定線を変えて繰返し、前記必要な追加時間が最も短い場合について、該当する1つの測定線の計数時間のみを対応する前記必要な追加時間の所定倍だけ増加させて、各測定線の強度の精度を計算するとともに、推定定量精度を計算して更新し、
その更新した推定定量精度が前記指定された定量精度を満足していなければ、満足するまで推定定量精度の更新を繰り返し、満足していれば次の工程に進み、
最新の推定定量精度が前記指定された定量精度を満足していない定量値があれば、その定量値について推定定量精度を更新する工程に進み、なければ次の工程に進み、
各測定線についての最新の計数時間を所定の単位における所定の位に調整し、最終計数時間として出力する、蛍光X線分析装置。
【請求項2】
試料に1次X線を照射し、発生する2次X線の測定強度に基づいて前記試料中の成分の含有率の定量値および/または前記試料の厚さの定量値を求める蛍光X線分析装置であって、
各定量値について定量精度を計算する定量精度計算手段を備え、
その定量精度計算手段が、
複数の標準試料について測定することにより、所定の定量演算方法のための検量線定数と補正係数または装置感度定数を求め、
1つの標準試料について、強度を測定すべき2次X線である測定線のそれぞれに対し計数時間が指定されるところ、各測定線の測定強度を基準強度とし、
前記所定の定量演算方法により、前記基準強度を用いて各定量値を求めるとともに、1つの測定線の測定強度のみを所定量だけ変化させた場合の各定量値を求めて、前記所定量に対する各定量値の変化の比を対強度定量値変化比として求める手順を、測定強度を変化させる測定線を変えて繰返し、
各測定線について、前記指定された計数時間および前記基準強度に基づいて強度の精度を求め、各定量値について、各測定線の強度の精度および対応する前記対強度定量値変化比に基づいて定量精度を計算して出力する、蛍光X線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指定された定量精度または指定された計数時間で、試料中の成分の含有率の定量値および/または試料の厚さの定量値を求める蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析においては、定量精度は、計数時間に依存するが、試料における成分の含有率や蛍光X線のピーク強度とバックグラウンド強度にも依存し、所望の定量精度が得られるように計数時間を決定することが容易でないところ、適切な計数時間と定量精度での測定ができる蛍光X線分析装置として、測定線の測定強度と対応する成分の含有率が比例すると仮定して、測定線の強度の相対精度(以下、強度相対精度ともいう)が指定された定量精度となる計数時間を計算する蛍光X線分析装置がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−65765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、例えば、ステンレス鋼中の高含有率元素であるCrの含有率についてCr−Kα線を測定線として検量線法で分析する場合、Crの検量線は上に凸の曲線になり、共存成分の定量精度も分析成分の定量精度に影響するため、上述の仮定は成立せず、測定線の強度相対精度と定量相対精度とは正確には合致しない。また、薄膜試料における各成分の含有率と膜厚について、ファンダメンタルパラメーター法で分析する場合においても、同様に測定線の強度相対精度と定量相対精度とは正確には合致しない。
【0005】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、試料の品種や定量演算方法に関わらず、適切な計数時間と定量精度での測定ができる蛍光X線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の第1構成は、試料に1次X線を照射し、発生する2次X線の測定強度に基づいて前記試料中の成分の含有率の定量値および/または前記試料の厚さの定量値を求める蛍光X線分析装置であって、強度を測定すべき2次X線である測定線のそれぞれについて、計数時間を計算する計数時間計算手段を備えている。
【0007】
そして、その計数時間計算手段が、以下のように動作する。まず、複数の標準試料について所定の仮の計数時間で測定することにより、所定の定量演算方法のための検量線定数と補正係数または装置感度定数を求める。次に、1つの標準試料について、各定量値に対し定量精度が指定されるところ、各測定線の測定強度を基準強度とする。次に、前記所定の定量演算方法により、前記基準強度を用いて各定量値を求めるとともに、1つの測定線の測定強度のみを所定量だけ変化させた場合の各定量値を求めて、前記所定量に対する各定量値の変化の比を対強度定量値変化比として求める手順を、測定強度を変化させる測定線を変えて繰返す。
【0008】
次に、測定強度を変化させた測定線ごとに、変化後の各定量値について、対応する前記対強度定量値変化比で前記指定された定量精度を除することにより強度の精度を求め、最も絶対値の小さい強度の精度を仮の必要な強度の精度とする。次に、各測定線について、前記基準強度に基づいて前記仮の必要な強度の精度を得るための計数時間を計算する。次に、各定量値について、各測定線の前記仮の必要な強度の精度および対応する前記対強度定量値変化比に基づいて推定定量精度を計算して前記指定された定量精度と比較する。次に、すべての定量値について前記推定定量精度が前記指定された定量精度を満足していれば、最終計数時間を出力する工程へ進み、満足していなければ次の工程へ進む。
【0009】
次に、前記推定定量精度が前記指定された定量精度を満足していない定量値ごとに、1つの測定線の計数時間のみを所定時間だけ増加させた場合の各測定線の強度の精度を前記基準強度に基づいて計算し、計算した各測定線の強度の精度および対応する前記対強度定量値変化比に基づいて推定定量精度を計算し、その計算した推定定量精度と前回計算した推定定量精度との差を改善定量精度とし、その改善定量精度に対する、前回計算した推定定量精度と前記指定された定量精度との差の比に、前記所定時間を乗ずることにより必要な追加時間を求め、この手順を、計数時間を増加させる測定線を変えて繰返し、前記必要な追加時間が最も短い場合について、該当する1つの測定線の計数時間のみを対応する前記必要な追加時間の所定倍だけ増加させて、各測定線の強度の精度を計算するとともに、推定定量精度を計算して更新する。
【0010】
次に、その更新した推定定量精度が前記指定された定量精度を満足していなければ、満足するまで推定定量精度の更新を繰り返し、満足していれば次の工程に進む。次に、最新の推定定量精度が前記指定された定量精度を満足していない定量値があれば、その定量値について推定定量精度を更新する工程に進み、なければ次の工程に進む。最後に、各測定線についての最新の計数時間を所定の単位における所定の位に調整し、最終計数時間として出力する。
【0011】
第1構成の蛍光X線分析装置では、所定の定量演算方法により、1つの標準試料についての基準強度を用いて各定量値を求めるとともに、1つの測定線の測定強度のみを所定量だけ変化させた場合の各定量値を求めて、前記所定量に対する各定量値の変化の比を対強度定量値変化比として求める手順を、測定強度を変化させる測定線を変えて繰返し、そのようにしてすべての測定線について求めた対強度定量値変化比を用いて、ある定量値の定量精度が1つの測定線の強度の精度のみに依存するという仮定と実際とのずれを修正し、各定量値に対し指定された定量精度から各測定線についての計数時間を計算するので、試料の品種や定量演算方法に関わらず、適切な計数時間と定量精度での測定ができる。
【0012】
本発明の第2構成は、試料に1次X線を照射し、発生する2次X線の測定強度に基づいて前記試料中の成分の含有率の定量値および/または前記試料の厚さの定量値を求める蛍光X線分析装置であって、各定量値について定量精度を計算する定量精度計算手段を備えている。
【0013】
そして、その定量精度計算手段が、以下のように動作する。まず、複数の標準試料について測定することにより、所定の定量演算方法のための検量線定数と補正係数または装置感度定数を求める。次に、1つの標準試料について、強度を測定すべき2次X線である測定線のそれぞれに対し計数時間が指定されるところ、各測定線の測定強度を基準強度とする。次に、前記所定の定量演算方法により、前記基準強度を用いて各定量値を求めるとともに、1つの測定線の測定強度のみを所定量だけ変化させた場合の各定量値を求めて、前記所定量に対する各定量値の変化の比を対強度定量値変化比として求める手順を、測定強度を変化させる測定線を変えて繰返す。最後に、各測定線について、前記指定された計数時間および前記基準強度に基づいて強度の精度を求め、各定量値について、各測定線の強度の精度および対応する前記対強度定量値変化比に基づいて定量精度を計算して出力する。
【0014】
第2構成の蛍光X線分析装置では、所定の定量演算方法により、1つの標準試料についての基準強度を用いて各定量値を求めるとともに、1つの測定線の測定強度のみを所定量だけ変化させた場合の各定量値を求めて、前記所定量に対する各定量値の変化の比を対強度定量値変化比として求める手順を、測定強度を変化させる測定線を変えて繰返し、そのようにしてすべての測定線について求めた対強度定量値変化比を用いて、ある定量値の定量精度が1つの測定線の強度の精度のみに依存するという仮定と実際とのずれを修正し、各測定線に対し指定された計数時間から各定量値についての定量精度を計算するので、試料の品種や定量演算方法に関わらず、適切な計数時間と定量精度での測定ができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態の蛍光X線分析装置の動作を示すフローチャートである。
図2】本発明の第2実施形態の蛍光X線分析装置の動作を示すフローチャートである。
図3】本発明の第1実施形態の蛍光X線分析装置を示す概略図である。
図4】本発明の第2実施形態の蛍光X線分析装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の第1実施形態の装置について、図にしたがって説明する。図3に示すように、この装置は、試料1(未知試料と標準試料の双方を含む)に1次X線3を照射し、発生する2次X線5の測定強度に基づいて試料1中の成分の含有率の定量値および/または試料1の厚さの定量値を求める蛍光X線分析装置であって、試料1が載置される試料台2と、試料1に1次X線3を照射するX線管などのX線源4と、試料1から発生する蛍光X線などの2次X線5を分光する分光素子6と、その分光素子6で分光された2次X線7が入射され、その強度を検出する検出器8とを備えている。検出器8の出力は、図示しない増幅器、波高分析器、計数手段などを経て、装置全体を制御するコンピュータなどの制御手段11に入力される。
【0017】
この装置は、波長分散型でかつ走査型の蛍光X線分析装置であり、検出器8に入射する2次X線7の波長が変化するように、分光素子6と検出器8を連動させる連動手段10、すなわちいわゆるゴニオメータを備えている。2次X線5がある入射角θで分光素子6へ入射すると、その2次X線5の延長線9と分光素子6で分光(回折)された2次X線7は入射角θの2倍の分光角2θをなすが、連動手段10は、分光角2θを変化させて分光される2次X線7の波長を変化させつつ、その分光された2次X線7が検出器8に入射するように、分光素子6を、その表面の中心を通る紙面に垂直な軸Oを中心に回転させ、その回転角の2倍だけ、検出器8を、軸Oを中心に円12に沿って回転させる。分光角2θの値(2θ角度)は、連動手段10から制御手段11に入力される。
【0018】
制御手段11は、強度を測定すべき2次X線5である測定線のそれぞれについて、対応する分光角2θで連動手段10を決められた計数時間だけ停止させ、測定強度を得る。第1実施形態の装置は、制御手段11に搭載されるプログラムとして、各測定線についての計数時間を計算する計数時間計算手段13を備えている。なお、各測定線について、ピークのみを測定したグロス強度を測定強度としてもよいし、ピークとバックグラウンドを測定してバックグラウンド除去を行ったネット強度を測定強度としてもよい。また、測定強度に基づいて定量値を求める定量演算方法は、後述する一連のステップにおいて所定の定量演算方法として一貫していれば、検量線法、ファンダメンタルパラメーター法(以下、FP法ともいう)のいずれでもよい。
【0019】
計数時間計算手段13による第1実施形態の蛍光X線分析装置の動作について、図1のフローチャートにしたがって説明する。まず、ステップS1で、複数の標準試料について所定の仮の計数時間で測定することにより、所定の定量演算方法のための検量線定数と補正係数または装置感度定数を求める。つまり、検量線法を適用する場合には検量線定数とマトリックス補正係数と必要に応じて重なり補正係数とを求め、FP法を適用する場合には装置感度定数を求める。この実施形態では、FP法を適用する。仮の計数時間は、例えば、高精度を要する成分では80秒、それ以外の通常の成分では40秒とする。また、仮の計数時間を例えば短く10秒としておいて、後述する最終計数時間を得た後、最終計数時間で標準試料を再測定して、上記の必要な定数、係数を求めなおしてもよい。なお、各測定線について、必要に応じてバックグラウンド強度を測定する。
【0020】
次に、ステップS2で、1つの標準試料について、各定量値に対し定量精度が指定されるところ、各測定線の測定強度を基準強度とする。Ni、Feの2元素系の単層薄膜である薄膜試料において、Ni−Kα線を測定線として厚さの定量値を求め、Fe−Kα線を測定線としてFeの含有率の定量値を求め、Niの含有率については残分とする場合を例にとり、表1に、各標準値(表中の厚さと組成)、指定された各定量精度(表中の指定定量精度)、各基準強度(表中のX線強度)を示す。なお、バルク試料において各成分の含有率の定量値のみを求める場合と異なり、薄膜試料において厚さの定量値をも求める場合には、測定線と定量値は1対1で対応するわけではないが、便宜上、上述のように対応させて表記している。また、ここでの1つの標準試料としては、ステップS1で用いた標準試料のうちの1つでもよいし、厚さと組成を仮定した架空の標準試料でもよく、その場合にはFP法を利用して基準強度を計算することができる。
【0021】
【表1】
【0022】
次に、ステップS3で、前記所定の定量演算方法(ここではFP法)により、基準強度を用いて各定量値を求めるとともに、1つの測定線の測定強度のみを、元の測定強度つまり基準強度から、所定量だけ変化させた場合の各定量値を求めて、次式(1)のように、前記所定量に対する各定量値の変化の比を対強度定量値変化比Fijとして求める手順を、測定強度を変化させる測定線を変えて繰返す。なお、対強度定量値変化比Fijを求めるにあたり、この実施形態では、測定線iの測定強度における所定量の変化として、元の測定強度を1とした数値、すなわち相対変化量を用いているが、本発明では、元の測定強度からの絶対強度での変化量、すなわち絶対変化量を用いてもよい。
【0023】
ij=ΔWij/ΔIreli …(1)
ij:対強度定量値変化比
ΔIreli:測定線iの測定強度における所定量の変化
ΔWij:測定線iの測定強度の所定量変化による測定線jに対応する定量値の変化
【0024】
上記の例において、測定強度における所定量の変化を、元の強度つまり基準強度の1%の増加とした場合について、測定強度の変化と定量値の変化を表2に示し、対強度定量値変化比Fijを表3に示す。なお、変化(表中では変更)後の、測定強度(表中では強度)、定量値は、計算により得られるものであり、実際に、測定または定量されるわけではない。
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
表3から理解されるように、Ni−Kα線の強度変化、Fe−Kα線の強度変化のそれぞれが、厚さの定量値とFeの含有率の定量値の両方に強く影響している。この対強度定量値変化比Fijを利用すれば、次式(2)により、測定線iの強度の精度、この実施形態においては測定線iの強度相対精度σreliから測定線jに対応する定量値の定量精度σWjが求められる。なお、前述したように、測定線iの測定強度における所定量の変化として絶対変化量を用いた場合には、測定線の強度の精度は、強度の絶対精度(以下、強度絶対精度ともいう)となるが、同じ定量値の定量精度σWjが求められる。
【0028】
σWj=Σijσreli …(2)
σWj:測定線jに対応する定量値の定量精度
σreli:測定線iの強度相対精度
【0029】
次に、ステップS4で、前式(2)を変換した次式(3)のように、測定強度を変化させた測定線iごとに、変化後の各定量値について、対応する対強度定量値変化比Fijで前記指定された定量精度σWjsを除することにより強度相対精度σreliを求める。この段階では、ある定量値の定量精度(測定線jに対応する定量値の定量精度σWj)が1つの測定線の強度相対精度(測定線iの強度相対精度σreli)のみに依存すると仮定して、当該定量値に対して指定された定量精度(測定線jに対応する定量値に対して指定された定量精度σWjs)を得るためにその1つの測定線に必要な強度相対精度(測定線iの強度相対精度σreli)を求めている。そして、表4に示すように、測定線iごとに、最も絶対値の小さい強度相対精度、つまり最も厳しい強度相対精度を仮の必要な強度相対精度とする。なお、前述したように、測定線iの測定強度における所定量の変化として絶対変化量を用いた場合には、強度相対精度に代えて強度絶対精度が求められる。
【0030】
σreli=σWjs/Fij …(3)
σWjs:測定線jに対応する定量値に対して指定された定量精度
【0031】
【表4】
【0032】
実際には、式(2)に示したように、ある定量値の定量精度は、1つの測定線の強度相対精度のみには依存しておらず、他の測定線の強度相対精度の影響も受けるので、すべての定量値について、指定された定量精度を得るためには、各測定線について、仮の必要な強度相対精度よりもさらに小さい(厳しい)強度相対精度が必要になるが、それを以下の手順で求める。
【0033】
まず、続くステップS5で、公知の次式(4)により、各測定線について、前記基準強度I(kcps)に基づいて前記仮の必要な強度相対精度σreliを得るための計数時間T(秒)を計算する。結果を表5に示す。
【0034】
T=1/(σreli×I×1000) …(4)
【0035】
【表5】
【0036】
なお、前述したように、測定線iの測定強度における所定量の変化として絶対変化量を用いた場合には、公知の式(4)に代わる公知の次式(4−1)により、各測定線について、前記基準強度Iに基づいて仮の必要な強度絶対精度σを得るための計数時間Tを計算する。
【0037】
T=I/(σ×1000) …(4−1)
【0038】
次に、ステップS6で、前式(2)を用いて、表6に示したように、各定量値について、各測定線の仮の必要な強度相対精度σreli(ステップS4)および対応する対強度定量値変化比Fij(ステップS3)に基づいて推定定量精度σWjを計算して指定された定量精度σWjsと比較する。
【0039】
【表6】
【0040】
推定定量精度σWjが指定された定量精度σWjsを満足しているか否かについては、例えば、推定定量精度σWjが指定された定量精度σWjsの103%(σWjs×1.03)以下であるか否かによって判定する。表6に示したように、厚さの定量値については、推定定量精度が指定された定量精度の103%以下であり、指定された定量精度を満足しているが、Feの含有率の定量値については、推定定量精度が指定された定量精度の103%よりも大きく、指定された定量精度を満足していない。
【0041】
次に、ステップS7で、すべての定量値について推定定量精度が指定された定量精度を満足していれば、最終計数時間を出力する工程(後述するステップ11)へ進み、上記の例のように、満足していなければ次の工程(次述するステップ8)へ進む。
【0042】
次に、ステップS8で、推定定量精度が指定された定量精度を満足していない定量値ごとに、前式(4)と同様に公知の次式(5)により、1つの測定線の計数時間Tのみを所定時間、例えば1秒だけ増加させた場合の各測定線の強度相対精度σreliを基準強度Iに基づいて計算する。上記の例では、表7の繰り返し1に示したように、Feの含有率の定量値について、各測定線の強度相対精度σreliを計算する。
【0043】
σreli=1/(T×I×1000)1/2 …(5)
【0044】
【表7】
【0045】
なお、前述したように、測定線iの測定強度における所定量の変化として絶対変化量を用いた場合には、公知の式(5)に代わる公知の次式(5−1)により、1つの測定線の計数時間Tのみを所定時間だけ増加させた場合の各測定線の強度絶対精度σを基準強度Iに基づいて計算する。
【0046】
σ=(I/(T×1000))1/2 …(5−1)
【0047】
さらに、ステップS6と同様に前式(2)を用いて、計算した各測定線の強度相対精度σreliおよび対応する対強度定量値変化比Fijに基づいて推定定量精度を計算する。上記の例では、表7の繰り返し1に示したように、0.054405と0.054957が計算される。さらに、その計算した推定定量精度と前回計算した推定定量精度との差を改善定量精度とする。上記の例では、表7の繰り返し1に示したように、表6における0.056569との差が、改善定量精度(表中では定量精度差)として、0.002163と0.001611となる。さらに、その改善定量精度に対する、前回計算した推定定量精度と指定された定量精度との差の比に、前記所定時間を乗ずることにより必要な追加時間Tiaを求める。上記の例では、Ni−Kα線の計数時間のみを所定時間ΔT(1秒)だけ増加させた場合について、次式(6)により、必要な追加時間Tiaが7.66秒と求められる。
【0048】
ia=((0.056569−0.04)/0.002163)×ΔT …(6)
σWjs:測定線jに対応する定量値に対して指定された定量精度
【0049】
さらに、この手順を、計数時間を増加させる測定線を変えて繰返す。上記の例では、表7の繰り返し1に示したように、Fe−Kα線の計数時間のみを所定時間ΔT(1秒)だけ増加させた場合についても、必要な追加時間Tiaを10.28秒と求める。そして、必要な追加時間Tiaが最も短い場合について、該当する1つの測定線の計数時間のみを対応する必要な追加時間Tiaの所定倍、例えば1倍だけ増加させて、前式(5)により各測定線の強度相対精度σreliを計算するとともに、前式(2)を用いて推定定量精度を計算して更新する。上記の例では、表7の繰り返し1に示したように、Ni−Kα線の計数時間のみを7.66秒だけ増加させることにより、推定定量精度が0.047752に更新される。なお、前記所定倍は、収束性の観点から、例えば0.5倍としてもよい。
【0050】
次に、ステップS9で、その更新した推定定量精度が指定された定量精度を満足していなければ、満足するまでステップS8による推定定量精度の更新を繰り返し、満足していれば次の工程(ステップS10)に進む。上記の例では、Feの含有率の定量値について、ステップS8による推定定量精度の更新を、表7の繰り返し2、繰り返し3に示されるように繰り返し、更新した推定定量精度0.040077が、指定された定量精度0.04の103%以下となって指定された定量精度を満足し、ステップS10に進む。
【0051】
次に、ステップS10で、最新の推定定量精度が指定された定量精度を満足していない定量値があれば、その定量値について推定定量精度を更新する工程(ステップS8)に進み、なければ次の工程(ステップS11)に進む。上記の例では、最新の推定定量精度が指定された定量精度を満足していない定量値はないので、ステップS11に進む。なお、ステップS7において、複数の定量値について、最新の推定定量精度が指定された定量精度を満足していない場合には、指定された定量精度に対する最新の推定定量精度の比が大きい定量値を優先して、推定定量精度を更新する工程(ステップS8)に進むことが望ましい。
【0052】
最後に、ステップS11で、各測定線についての最新の計数時間を所定の単位における所定の位に調整し、最終計数時間として出力する。上記の例では、表7の繰り返し3における13.32秒、13.66秒が、所定の単位である秒において小数点以下が切り上げられて1の位に丸めて調整され、表8に示すようにいずれも14秒となって、最終計数時間として出力される。表8には、その最終計数時間により計算した各定量精度も示す。なお、ステップ1の説明で述べたように、この最終計数時間がステップ1での仮の計数時間よりも長ければ、ステップ1で求めた定数、係数では、指定された定量精度を満足しないことになるので、最終計数時間で標準試料を再測定して、ステップ1で求めた定数、係数を求めなおして、実際の分析に使用することが望ましい。逆に、最終計数時間がステップ1での仮の計数時間以下であれば、再測定は不要であるので、その観点からは、ステップ1での仮の計数時間は長めに設定しておくのがよい。
【0053】
【表8】
【0054】
前述したように、蛍光X線分析装置で得られる精度は、計数の統計変動によるばらつきのみではなく、装置のハードウェアの再現性にも影響され、得られる強度の相対精度には限界がある。以上においては、測定線の測定強度における所定量の変化として相対変化量を用いる場合と絶対変化量を用いる場合、つまり強度相対精度を用いる場合と強度絶対精度を用いる場合の双方について説明したが、強度相対精度を用いる場合には、指定された定量精度を満足する強度相対精度が、当該装置で得られる最小の強度相対精度、例えば0.0002よりも小さいときに、指定された定量精度が得られるような計数時間は求められないと判定することも可能であるので、そのような観点からは、強度相対精度を用いる方が好ましい。
【0055】
以上のように、第1実施形態の蛍光X線分析装置では、すべての測定線について求めた対強度定量値変化比Fijを用いて、ある定量値の定量精度が1つの測定線の強度相対精度のみに依存するという仮定と実際とのずれを修正し、各定量値に対し指定された定量精度から各測定線についての計数時間を計算するので、試料の品種や定量演算方法に関わらず、適切な計数時間と定量精度での測定ができる。なお、薄膜試料において1つの含有率の定量値と1つの厚さの定量値を求める場合を例にとったが、求めるべき含有率の定量値と厚さの定量値のいずれか一方または両方が複数であってもよいし、バルク試料において含有率の定量値のみを求める場合にも、同様に、各定量値に対し指定された定量精度から各測定線についての計数時間を計算することができる。
【0056】
次に、本発明の第2実施形態の蛍光X線分析装置について説明する。図4に示すように、第2実施形態の蛍光X線分析装置は、図3に示した第1実施形態の蛍光X線分析装置と比べると、制御手段11に搭載されるプログラムとして、計数時間計算手段13ではなく、各定量値について定量精度を計算する定量精度計算手段14を備えている点のみが異なっているので、定量精度計算手段14による第2実施形態の蛍光X線分析装置の動作についてのみ、図2のフローチャートにしたがって説明する。
【0057】
まず、ステップS1aで、第1実施形態の装置におけるステップS1と同様に、複数の標準試料について所定の仮の計数時間で測定することにより、所定の定量演算方法のための検量線定数と補正係数または装置感度定数を求める。つまり、検量線法を適用する場合には検量線定数とマトリックス補正係数と必要に応じて重なり補正係数とを求め、FP法を適用する場合には装置感度定数を求める。ただし、ステップS1aでは、所定の仮の計数時間に代えて、各測定線について指定されている計数時間を用いてもよい。
【0058】
次に、ステップS2aで、1つの標準試料について、強度を測定すべき2次X線である測定線のそれぞれに対し計数時間が指定されるところ、第1実施形態の装置におけるステップS2と同様に、各測定線の測定強度を基準強度とする。
【0059】
次のステップS3は、第1実施形態の装置におけるステップS3と同じで、前記所定の定量演算方法により、基準強度を用いて各定量値を求めるとともに、1つの測定線の測定強度のみを、元の測定強度つまり基準強度から、所定量だけ変化させた場合の各定量値を求めて、前式(1)のように、前記所定量に対する各定量値の変化の比を対強度定量値変化比Fijとして求める手順を、測定強度を変化させる測定線を変えて繰返す。なお、対強度定量値変化比Fijを求めるにあたり、第2実施形態でも、測定線iの測定強度における所定量の変化として、元の測定強度を1とした数値、すなわち相対変化量を用いるが、本発明では、元の測定強度からの絶対強度での変化量、すなわち絶対変化量を用いてもよく、その場合には、前述したように、以降のステップにおいて、強度相対精度に代えて強度絶対精度を用いる。
【0060】
次に、ステップS12で、各測定線について、前式(5)により、前記指定された計数時間および前記基準強度に基づいて強度相対精度を求め、前式(2)を用いて、各定量値について、各測定線の強度相対精度σreliおよび対応する対強度定量値変化比Fijに基づいて定量精度σWjを計算して出力する。
【0061】
以上のように、第2実施形態の蛍光X線分析装置では、すべての測定線について求めた対強度定量値変化比Fijを用いて、ある定量値の定量精度が1つの測定線の強度相対精度のみに依存するという仮定と実際とのずれを修正し、各測定線に対し指定された計数時間から各定量値についての定量精度を計算するので、試料の品種や定量演算方法に関わらず、適切な計数時間と定量精度での測定ができる。
【符号の説明】
【0062】
1 試料
3 1次X線
5 2次X線(測定線)
13 計数時間計算手段
14 定量精度計算手段
図1
図2
図3
図4