(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-167983(P2020-167983A)
(43)【公開日】2020年10月15日
(54)【発明の名称】食品用プレコート剤及び食品
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20200918BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20200918BHJP
A23G 4/06 20060101ALI20200918BHJP
【FI】
A23L5/00 F
A23G3/34 101
A23G4/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-72996(P2019-72996)
(22)【出願日】2019年4月5日
(71)【出願人】
【識別番号】307013857
【氏名又は名称】株式会社ロッテ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(72)【発明者】
【氏名】道口 靖央
(72)【発明者】
【氏名】藤本 一郎
【テーマコード(参考)】
4B014
4B035
【Fターム(参考)】
4B014GB06
4B014GB07
4B014GB13
4B014GE03
4B014GG07
4B014GG12
4B014GK05
4B014GL09
4B014GL10
4B014GL11
4B014GP20
4B014GQ17
4B035LC03
4B035LC05
4B035LE07
4B035LG15
4B035LG19
4B035LG20
4B035LG26
4B035LG28
4B035LK02
4B035LP21
4B035LP26
(57)【要約】
【課題】センター材が軟らかい場合でも時間経過とともに糖衣層にひび割れを起こしにくく、かつ歯に付きにくい糖衣物が得られる食品用プレコート剤の提供。
【解決手段】糖質と、皮膜性を有するゲル化剤と、からなる食品用プレコート剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質と、皮膜性を有するゲル化剤と、からなる食品用プレコート剤。
【請求項2】
前記糖質が、糖アルコールであることを特徴とする請求項1に記載の食品用プレコート剤。
【請求項3】
前記糖アルコールが、マルチトールであることを特徴とする請求項2に記載の食品用プレコート剤。
【請求項4】
前記皮膜性を有するゲル化剤が、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、及びプルランから選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の食品用プレコート剤。
【請求項5】
前記皮膜性を有するゲル化剤が、カルボキシメチルセルロースであることを特徴とする請求項4に記載の食品用プレコート剤。
【請求項6】
前記糖質と前記皮膜性を有するゲル化剤との比が、99:1〜10:90の範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の食品用プレコート剤。
【請求項7】
可食性のセンター材と、
該センター材の表面を被覆する糖衣層と、
前記センター材と前記糖衣層との間にプレコート層と、を有し、
該プレコート層が、請求項1〜6のいずれか一項に記載の食品用プレコート剤を含むことを特徴とする食品。
【請求項8】
前記食品中の前記食品用プレコート剤の含有率が、全体の重量に対して5重量%〜15重量%の範囲であることを特徴とする請求項7に記載の食品。
【請求項9】
前記センター材が、ソフトキャンディ、グミキャンディ又はチューインガムであることを特徴とする請求項7又は8に記載の食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用プレコート剤及び食品用プレコート剤を含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のガム、キャンディ、タブレットなどの市場においては、食感にこだわった商品が開発されており、様々な食感のものについて保形性、経時安定性などの観点から表面に糖衣処理を施す技術が普及している。しかし、このような糖衣処理では、糖衣が被覆されているセンター材が軟らかく保形性が悪い場合、糖衣がひび割れたり、角が欠けたりしてしまい、製造後に問題が発生して製造不良となるという問題があった。
そこで、糖衣のひび割れを防ぐために、糖衣処理を施す前のセンター材にプレコート剤を被覆する技術が知られている。例えば、特許文献1には、糖及びアラビアガムを含むプレコート剤が記載されている。
しかし、アラビアガムを含むプレコート剤では、効果が十分ではないという問題があった。また、センター材の可食物が、水分含量が高く軟らかい場合、時間経過とともに糖衣がひび割れやすくなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5080105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、センター材の可食物が柔らかい場合でも、時間経過とともに糖衣層にひび割れを起こしにくく、かつ歯に付きにくい糖衣物を得られる食品用プレコート剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、糖質と、皮膜性を有するゲル化剤と、からなる食品用プレコート剤が提供される。
【0006】
本発明の他の態様によれば、糖質が、糖アルコールであることを特徴とする上記に記載のプレコート剤が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、糖アルコールが、マルチトールであることを特徴とする上記に記載のプレコート剤が提供される。
【0008】
本発明の他の態様によれば、皮膜性を有するゲル化剤が、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、及びプルランから選択されることを特徴とする上記に記載のプレコート剤が提供される。
【0009】
本発明の他の態様によれば、皮膜性を有するゲル化剤が、カルボキシメチルセルロースであることを特徴とする上記に記載のプレコート剤が提供される。
【0010】
本発明の他の態様によれば、糖質と皮膜性を有するゲル化剤との比が、99:1〜10:90の範囲であることを特徴とする上記に記載のプレコート剤が提供される。
【0011】
本発明の他の態様によれば、可食性のセンター材と、センター材の表面を被覆する糖衣層と、センター材と糖衣層との間にプレコート層と、を有し、プレコート層が、上記に記載のプレコート剤を含むことを特徴とする食品が提供される。
【0012】
本発明の他の態様によれば、食品中のプレコート剤の含有率が、全体の重量に対して5重量%〜15重量%の範囲であることを特徴とする上記に記載の食品が提供される。
【0013】
本発明の他の態様によれば、センター材が、ソフトキャンディ、グミキャンディ又はチューインガムであることを特徴とする上記に記載の食品が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の食品用プレコート剤によれば、センター材の可食物が柔らかい場合でも、時間経過とともに糖衣層にひび割れを起こしにくく、かつ歯に付きにくい糖衣物を得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(食品用プレコート剤)
以下、本発明の食品用プレコート剤(以下、単にプレコート剤と記載する場合がある。)について説明する。本発明のプレコート剤は、糖質と、皮膜性を有するゲル化剤と、からなる。本発明のプレコート剤は、糖衣物のセンター材に糖衣処理を施す前のプレコート処理に用いることができる。本発明のプレコート剤を用いてプレコート処理した糖衣により、「ひび割れ抑止効果」を持たせながら「歯につきにくい」糖衣物が得られる。
【0016】
「糖質」
本発明のプレコート剤における糖質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ショ糖、マルチトール、キシリトール、還元パラチノース、エリスリトール、マンニトールなどが挙げられる。中でも、糖アルコールが好ましく、マルチトールがより好ましい。
【0017】
また、糖質の形状としては、微粉であることが好ましい。糖質の形状が微粉であることにより、センター材の表面に粉体として分散させることができ、糖衣層を均一に形成することができる。微粉の大きさとしては、200μm以下、より好ましくは50μm以下の範囲であることが好ましい。微粉の大きさが上記の範囲であることにより、粉体として分散させやすく、糖衣層を均一に形成する効果が高まる。
【0018】
「ゲル化剤」
本発明のプレコート剤におけるゲル化剤は皮膜性を有するものである。ゲル化剤が皮膜性を有することにより、プレコート剤と糖衣用シロップをセンター材に掛けると、シロップの水分をゲル化剤が吸収して、センター材の表面に薄く膜を形成させることができる。その膜があることによって、センター材が多少変形してもその衝撃を吸収することができる。
【0019】
皮膜性を有するゲル化剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ゼラチン、プルランなどが挙げられる。中でも、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、及びプルランが好ましく、カルボキシメチルセルロースがより好ましい。
【0020】
本発明のプレコート剤に配合される糖質と皮膜性を有するゲル化剤との比は、特に限定されるものではないが、糖質:ゲル化剤の比が99:1〜10:90の範囲であることが好ましく、97:3〜90:10の範囲であることがより好ましく、95:5〜90:10の範囲であることがさらに好ましい。プレコート剤の配合が上記の範囲であることにより、糖衣がひび割れしにくく、かつ歯に付きにくいという効果が得られ、糖衣物の食感が良くなる。
【0021】
本発明のプレコート剤は、糖衣菓子などの一般的な糖衣物の他、様々な食品、医薬品及び医薬部外品に適用することができる。
【0022】
(食品)
本発明の食品は、可食性のセンター材、センター材の表面を被覆する糖衣層、及びセンター材と糖衣層との間にプレコート層を有し、プレコート層は、上記に記載のプレコート剤を含む。
【0023】
食品中のプレコート剤の含有率が、食品全体の重量に対して5重量%〜15重量%の範囲であることが好ましい。プレコート剤の含有率が食品全体の重量に対して5重量%未満の場合、ひび割れを防止することが難しい。プレコート剤の含有率が食品全体の重量に対して15重量%を超える場合、歯への付着の度合が強くなる。
【0024】
「センター材」
本発明において、センター材は可食性のものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ソフトキャンディ、グミキャンディ、錠菓、ゼリー、マシュマロ、チョコレート及びチューインガムなどの菓子や、ドラジェ・ボンボンなどの糖衣菓子に用いられる一般的なセンター材の他、キシリトール被覆菓子などの吸湿性の食品、マロングラッセ、ラスク、パイ、タルト、マドレーヌ、ミルフィーユ、エクレア、ドーナツ、ケーキ、クッキー、ビスケットなどの洋菓子全般、カステラなどの和生菓子、羊羹、餡類などの和半生菓子、かりんとう、おこし、あられ、おかき、せんべいなどの和干菓子、各種飴類、豆類、芋類、ナッツ類、シリアル、果実、ドライフルーツ、ドライベジタブル、ハーブ、茶、コーヒー、乳製品などの食品、及びサプリメントなどの健康食品が挙げられる。中でも、ソフトキャンディ、グミキャンディ及びチューインガムが好ましい。
【0025】
なお、ソフトキャンディ、グミキャンディ及びチューインガムの一般的な水分量はそれぞれ、ソフトキャンディが5〜8重量%、グミキャンディが15〜18重量%、チューインガムが1〜3重量%である。
【0026】
また、本発明のプレコート剤は医薬品及び医薬部外品に適用することも可能であり、例えば、錠剤・丸剤、ドロップ剤などの医薬品及び医薬部外品をセンター材とすることもできる。
【0027】
「配合例」
本発明のプレコート剤をセンター材に被覆させた後に施される糖衣としては、特に限定されるものではないが、シロップであることが好ましい。また、糖衣には、アラビアガム、着色料、香料、光沢剤、その他任意の食品素材などを適宜配合することができる。
以下に配合例を示す。
【0028】
センター材がソフトキャンディである場合の配合の一例を表1に示す。
【0030】
センター材がグミキャンディである場合の配合の一例を表2に示す。
【0032】
センター材がチューインガムである場合の配合の一例を表3に示す。
【0034】
プレコート層の製造においては、センター材に対し、プレコート剤と、プレコート剤に使用する任意の糖質を用いた糖質シロップを用い、センター材をコーティングする。
【0035】
プレコート剤の配合割合としては、例えば、マルチトール90重量%に対して被膜性を有するゲル化剤・増粘剤を10重量%配合する。
【0036】
センター材とハード糖衣の製法については、それぞれ常法に従う。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
【0038】
(実施例1〜4、比較例1〜5)
実施例1〜4及び比較例1〜5におけるプレコート剤の配合割合は、マルチトール90重量%に対して各ゲル化剤・増粘剤を10重量%配合した。表4に示す配合のプレコート剤を、糖衣物のセンター材に糖衣処理を施す前のプレコート処理に用い、得られた糖衣物に対してひび割れ試験を行った。なお、センター材はソフトキャンディとした。
【0039】
「被膜性の有無」
被膜性の有無は、プレコート剤に含まれるゲル化剤・増粘剤の被膜性の有無のことであり、以下の基準により示す。
〇:被膜性有
×:被膜性無
【0040】
「プレコート処理」
以下の(1)〜(4)の工程によりプレコート処理を行った。
(1)マルチトールベースのシロップを作成した。
(2)センター材を形成する可食物を糖衣釜に投入した。
(3)(1)で作成したシロップとプレコート剤を糖衣釜に投入し、糖衣釜を回した。
(4)(3)をプレコート層が目標の重量になるまで繰り返した。
【0041】
センター材とハード糖衣層の製法については、それぞれ常法に従った。
【0042】
「ひび割れ試験」
検体200粒をシャーレに入れオープンの状態で、各条件で乾燥虐待試験を行った。16時間後、ひび割れが確認できる数をカウントし、全検体数に占めるひび割れが生じた検体数を百分率(%)で示した。
【0043】
「判定」
皮膜性及びひび割れ試験の結果から、以下の基準により判定した。
〇:製品として問題なし
△:製品としてやや問題有りも許容範囲
×:製品として許容不可
結果を表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
(実施例5〜12、比較例6〜8)
次にセンター材をソフトキャンディとし、プレコート剤における、糖質であるマルチトールと、被膜性のあるゲル化剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)の比率を変更した実施例5〜12及び比較例6〜8を作製し、ひび割れ試験を行い、歯への付着性を調べた。
【0046】
「ひび割れ試験」
検体200粒をシャーレに入れオープンの状態で、各条件で乾燥虐待試験を行った。16時間後、ひび割れが確認できる数をカウントし、全検体数に占めるひび割れが生じた検体数を百分率(%)で示した。
【0047】
「歯への付着」
菓子の評価に精通する専門パネラー5名それぞれの評価結果を示す。
◎:歯につかない
○:ほとんど歯につかない
△:やや歯につくも製品として許容範囲
×:歯につく、製品として許容不可
結果を表5に示す。
【0048】
【表5】
【0049】
(実施例13)
センター材がグミキャンディである実施例13を作製し、実施例5〜12と同様に、ひび割れ試験を行い、歯への付着性を調べた。結果を表6に示す。
【表6】
【0050】
(実施例14)
センター材がチューインガムである実施例14を作製し、実施例5〜13と同様に、ひび割れ試験を行い、歯への付着性を調べた。結果を表7に示す。
【表7】
【0051】
上記の結果から、以下のことが判明した。
表4に示したように、常温常湿下、常温乾燥状態におけるひび割れ試験の結果から、充分な皮膜性を有し、プレコート剤として適切なゲル化剤・増粘剤は、ゼラチン、プルラン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースであることがわかった。
表5に示したように、常温常湿下、常温乾燥状態におけるひび割れ試験と、歯への付着性試験の結果から、プレコート剤における、糖質と皮膜性のあるゲル化剤の適切な構成比は、99:1〜10:90の範囲であり、より好ましくは、97:3〜90:10の範囲であることがわかった。また、糖質の構成比が99を超えると、特に乾燥状態においてひび割れが生じやすくなり、ゲル化剤の構成比が90を超えると、歯への付着性が強くなってしまうことがわかった。
表6及び表7に示したように、センター材をソフトキャンディに代えてグミキャンディやチューインガムとした場合においても、実施例5〜12と同様に、ひび割れ防止効果や歯への付着性低減効果が得られることがわかった。
【0052】
本願発明は、実施例にて示した内容に限定されず、特許請求の範囲に示される範囲の中で様々な設計変更が可能である。