【解決手段】運転室4の床板4aから運転室4外へ突出する筒体17のうち運転室4外の開口端部から張り出す第1フランジ18にバルブ装置12がおねじ18aによって着脱可能に固定されており、しかも、運転室4外からおねじ18aを操作可能にする間隙が第1フランジ18と床板4aとの間に設けられている。これにより、運転室4外の一人の作業員だけで、床板4aから筒体17を外すことなく、バルブ装置12を支持しながらおねじ18aを操作してバルブ装置12を簡易に着脱できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。まず、
図1を参照して第1実施形態における搬送車1について説明する。
図1(a)は、搬送車1の側面図であり、
図1(b)は、搬送車1の正面図である。なお、
図1(b)では、運転室4の壁の一部を取り除いて、運転室4の内部を模式的に図示している。
【0012】
搬送車1は、搬送物を搬送するための車両であり、搬送物を載置する車体2と、走行装置3と、油圧式のパワーステアリング装置10とを主に備えている。車体2には、運転室4と、機械室7とが設けられる。
【0013】
走行装置3は、車体2の下方に複数配設され、運転室4内の機器の操作に応じて搬送車1を走行させる装置である。本実施形態において走行装置3は、搬送車1の車幅方向に2列配設され、各列に6つずつ設けられる。なお、車体2及び走行装置3におけるその他の構成は公知なので、詳細な説明は省略する。
【0014】
運転室4は、車体2の前方に設けられ、搬送車1を走行させるために運転手により操作される機器などが設けられた部分である。運転室4は、床板4aと、床板4aの前方から立ち上がる前壁4bと、を含む壁部で囲まれて形成されている。この壁部で囲まれた運転室4内には、運転手が着座する運転席6と、運転席6に着座した運転手が操作するステアリングホイール(ハンドル)11とが配置されている。なお、運転室4は、床板4a及び前壁4bを含む壁部で完全に囲まれている必要はなく、床板4aを除く壁部の一部がなくても良い。
【0015】
機械室7は、搬送車1の各部に作動油を送るための油圧ポンプや、作動油を貯留するタンク、油圧ポンプを駆動させるためのエンジン(いずれも図示せず)等を収納するためのスペースであり、床板4aを隔てて運転室4の下方に設けられている。機械室7内の機器をメンテナンスするため、特に後述するバルブ装置12を運転室4外から着脱するために、車体2の各部には点検扉9が設けられている。
【0016】
パワーステアリング装置10は、運転手によるステアリングホイール11の回転操作に伴って走行装置3を操舵する装置である。
図2を参照してこのパワーステアリング装置10の詳細を説明する。
【0017】
図2は
図1(b)のII−II線における搬送車1の要部拡大断面図である。パワーステアリング装置10は、ステアリングホイール11(
図1(b)参照)と、バルブ装置12と、第1シャフト13と、第2シャフト14と、ユニバーサルジョイント15と、ステアリングコラム16と、筒体17と、支持部材21と、を備えている。
【0018】
バルブ装置12は、走行装置3を操舵するためのアクチュエータや油圧ポンプ、タンクに繋がる配管が取り付けられる複数の取付孔12aが側面に開口し、それらの配管同士の連通や遮断を切り換える装置である。バルブ装置12は、メンテナンス時に運転室4内を作動油で汚れ難くするためや、バルブ装置12の作動音を運転手に聞こえ難くするために、運転室4外(機械室7内)に配設されている。
【0019】
バルブ装置12のうち、後述する筒体17の第1フランジ18と対向する対向面には、第2シャフト14が嵌合して連結される入力部12bと、複数のめねじ12cとが形成されている。バルブ装置12は、入力部12bに第2シャフト14からの回転が入力されると、その回転量に応じて作動油の給排量を制御して走行装置3を操舵する。めねじ12cは、入力部12b周りに複数配置され、バルブ装置12を第1フランジ18に固定するためのおねじ(締結部材)18aがそれぞれ螺合される部位である。
【0020】
第1シャフト13は、ステアリングホイール11の回転軸であり、ステアリングホイール11に一端が連結されている。第2シャフト14は、バルブ装置12の入力部12bに一端が連結されている。
【0021】
ユニバーサルジョイント15は、第1シャフト13と第2シャフト14との端部同士を互いの角度が異なる状態で連結し、第1シャフト13の回転に応じて第2シャフト14を回転させるものである。ユニバーサルジョイント15の可動部はゴムカバー22で覆われており、ゴムカバー22内にグリスが封入されたうえで密閉され、ゴムカバー22内に水や塵などが入らないようになっている。
【0022】
ステアリングコラム16は、第1シャフト13を覆う筒状のカバーであり、内周面に嵌めた軸受16aを介して第1シャフト13を回転可能に支持・固定している。ステアリングコラム16は、軸受16aを軸方向に挟んで固定するため、軸方向に分割された2部材が互いに締結部材(図示せず)などで固定されている。また、第1シャフト13の外周面の溝に嵌めたCリング(図示せず)で軸受16aを軸方向に挟むことで、軸受16aが第1シャフト13に固定されている。
【0023】
筒体17は、第2シャフト14を覆うカバーであり、軸方向両端の内周面にそれぞれ嵌めた2つの軸受17a,17bを介して第2シャフト14を回転可能に支持・固定している。筒体17の内周面や第2シャフト14の外周面に設けた段差や、それらの内周面や外周面の溝に嵌めたCリング(図示せず)により軸受17a,17bが筒体17及び第2シャフト14に固定されている。
【0024】
筒体17は、床板4aに設けた貫通孔4cを通って運転室4内と機械室7内(運転室外)とに軸方向端部がそれぞれ開口し、筒体17の一部が床板4aから運転室4外へ突出している。また、筒体17のうち運転室4内に配置される開口端部と第2シャフト14との間にはシール部材17cが嵌められ、軸受17aに塵などが付着しないように構成されている。
【0025】
さらに、筒体17のうち運転室4内の開口端部と、ステアリングコラム16の下端とが蛇腹筒状のゴム製のダストブーツ23によって連結されている。このダストブーツ23によって、第1シャフト13や第2シャフト14、ユニバーサルジョイント15、軸受16a,17aに塵などを付着しないようにできる。
【0026】
筒体17は、機械室7内に配置される開口端部から径方向外側へ張り出す環状の第1フランジ18と、筒体17の軸方向の略中央の外周面から径方向外側へ張り出す環状の第2フランジ19と、を備えている。
【0027】
第1フランジ18には、その板厚方向(筒体17の軸方向)に複数の挿通孔18bが貫通形成されている。筒体17から突出した第2シャフト14をバルブ装置12に連結した状態で、挿通孔18bは、バルブ装置12に設けた複数のめねじ12cに対応するそれぞれの位置に形成されている。挿通孔18bに挿入したおねじ18aをバルブ装置12のめねじ12cに螺合することで、バルブ装置12が第1フランジ18に着脱可能に固定される。
【0028】
このように、市販のバルブ装置12自体に設けられているめねじ12cを利用して、バルブ装置12を第1フランジ18に固定できるので、市販のバルブ装置12を改良したり、バルブ装置12と第1フランジ18との間に別部材を介したりする必要がない。即ち、市販のバルブ装置12をそのまま使用でき、バルブ装置12の交換作業などを容易にできる。
【0029】
第2フランジ19は、ねじ19aによって運転室4内の床板4a(床板4aの上面)に着脱可能に固定される。詳しくは、貫通孔4cの周縁に沿って床板4aに設けた環状の取付座4dの上に第2フランジ19を重ね、第2フランジ19を板厚方向に貫通したねじ19aを取付座4dに取り付けている。第2フランジ19が床板4aに取り付けられることで、運転室4内と機械室7内とを連通する貫通孔4cが閉じられる。
【0030】
支持部材21は、床板4aに対してステアリングコラム16を支持すると共に、筒体17等に運転手の足が当たらないようにするためのカバーである。支持部材21は、第2フランジ19の上にねじ21aによって固定されている。そして、ステアリングコラム16の下部に固定されたスペーサ21cに、支持部材21の上部がねじ21bによって固定されている。このような支持部材21により、床板4aに固定された筒体17に対するステアリングコラム16の角度、即ち、第2シャフト14に対する第1シャフト13の角度が決定される。
【0031】
次に、パワーステアリング装置10のメンテナンス作業などについて説明する。床板4aから運転室4外へ突出する筒体17の第1フランジ18にバルブ装置12がおねじ18aによって着脱可能に固定されている。そして、床板4aに筒体17を固定した状態で、第1フランジ18と床板4aとの間には、機械室7内(運転室4外)からおねじ18aを締緩作業(着脱操作)可能な間隙が設けられている。これらにより、運転室4外の一人の作業員だけで、床板4aから筒体17を外すことなく、バルブ装置12を支持しながらおねじ18aを締緩作業してバルブ装置12を簡易に着脱できる。
【0032】
第1フランジ18から軸方向に離れた位置にある第2フランジ19を運転室4内の床板4aに重ねて、筒体17の第2フランジ19が床板4aに着脱可能に固定されているので、運転室4内から筒体17を着脱して筒体17のメンテナンスや交換などができる。さらに、筒体17を床板4aに固定するための部位を、第1フランジ18と床板4aとの間隙に設けないようにできるので、その間隙でのおねじ18aの締緩作業をし易くでき、バルブ装置12をより着脱し易くできる。
【0033】
なお、ステアリングコラム16が支持される支持部材21を、第2フランジ19を介さずに床板4a等に固定し、筒体17の第2フランジ19を床板4aの下面(機械室7側)に着脱可能に固定しても良い。但し、この場合、各部のメンテナンスや交換のために床板4aから筒体17やステアリングコラム16を取り外すときに、ステアリングコラム16と筒体17とのダストブーツ23による連結や、第1シャフト13と第2シャフト14とのユニバーサルジョイント15による連結を解除する必要がある。
【0034】
これに対して本実施形態では、筒体17の第2フランジ19が運転室4内の床板4aに着脱可能に固定されているので、ステアリングコラム16側と筒体17側との連結を解除することなく、床板4aからステアリングコラム16や筒体17を取り外すことができる。特に、ステアリングコラム16を支持する支持部材21が第2フランジ19に固定され、その第2フランジ19が床板4aに固定されているので、第2フランジ19を床板4aに着脱するだけで、パワーステアリング装置10のうち運転手による回転操作をバルブ装置12へ伝達するためのユニットを運転室4内から容易に着脱できる。
【0035】
挿通孔18b、及び、その挿通孔18bに挿入されたおねじ18aは、第1フランジ18の外周縁に近接して配置されている。これにより、バルブ装置12の着脱時、作業員の手や工具が第1フランジ18に当たる等して、作業員によるおねじ18aの締緩作業が第1フランジ18によって妨げられることを抑制できる。なお、この近接して配置とは、おねじ18aよりも第1フランジ18の径方向外側に別の締結部材を取り付けるスペースがないことを示す。
【0036】
次に
図3を参照して第2実施形態について説明する。第1実施形態では、バルブ装置12のめねじ12cに螺合するおねじ18aによって、バルブ装置12が筒体17に固定される場合について説明した。これに対して第2実施形態では、バルブ装置12に設けた締結フランジ36と第1フランジ18とをボルト37及びナット38により締結固定する場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0037】
搬送車30は、運転室4の前壁4bの前方にも機械室7の一部が設けられている。そして前壁4bには、運転室4内と機械室7内とを連通する貫通孔31が形成されている。この貫通孔31に、パワーステアリング装置32の筒体34が挿通される。なお、ステアリングコラム16は、図示しない支持部材によって運転室4に固定されている。
【0038】
筒体34は、第2シャフト14を覆うカバーであり、第2シャフト14を回転可能に支持・固定している。筒体34は、ダストブーツ23が連結される小径部34aと、小径部34aよりも外径が大きい大径部34bと、その大径部34bのうち機械室7内に配置される開口端部から径方向外側へ張り出す環状の第1フランジ18と、を備えている。
【0039】
小径部34aの外径は、貫通孔31の内径と略同一である。大径部34bの外径は、貫通孔31の内径よりも大きく設定されている。そして、小径部34aと大径部34bとの段差34cが前壁4bに当たるまで、小径部34aを機械室7側から貫通孔31に挿入し、筒体34を前壁4bに溶接などによって接合することで、筒体34の一部を前壁4bから運転室4外(機械室7内)へ突出させている。
【0040】
パワーステアリング装置32のバルブ装置12には、第1フランジ18と対向する対向面を筒体34の径方向外側へ延長するように締結フランジ36が形成されている。この締結フランジ36と第1フランジ18とが重なった部位をその板厚方向(筒体34の軸方向)に貫通したボルト37にナット38を螺合することで、第1フランジ18に締結フランジ36が着脱可能に固定される。
【0041】
第1実施形態と同様に、本実施形態においても、前壁4bに筒体34を固定した状態で、第1フランジ18と前壁4bとの間には、機械室7内(運転室4外)からボルト37及びナット38(締結部材)を締緩作業可能な間隙が設けられている。そのため、運転室4外の一人の作業員だけで、バルブ装置12を支持しながらボルト37及びナット38を締緩作業してバルブ装置12を簡易に着脱できる。特に本実施形態のように、前壁4bに筒体34が着脱不能に構成されていても、筒体34に第1フランジ18を設けることで、バルブ装置12を容易に着脱できる。
【0042】
また、バルブ装置12に締結フランジ36が設けられているので、締結フランジ36側にボルト37の頭部を位置させて、第1フランジ18側にナット38を位置させることができる。第1フランジ18と前壁4bとの間隙に入れた工具などでナット38の回転を防止しつつ、その間隙よりも広く取り易いスペースでボルト37を回転させることができる。その結果、バルブ装置12の着脱作業をより容易にできる。
【0043】
なお、ボルト37の頭部の位置とナット38の位置とを入れ替えた場合にも、第1フランジ18と前壁4bとの間隙に入れた工具などでボルト37の回転を防止しつつ、その間隙よりも広く取り易いスペースでナット38を回転させることができ、バルブ装置12の着脱作業をより容易にできる。
【0044】
以上、各実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であることは容易に推察できるものである。
【0045】
上記各実施形態では、パワーステアリング装置10,32が設けられる車両として搬送車1,30を例示した。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、乗用車やトラック、農業用や工業用の各種産業車両などの他の車両にパワーステアリング装置10,32を設けても良い。
【0046】
上記第1実施形態では、筒体17の第2フランジ19を床板4aに固定する場合について説明し、上記第2実施形態では、筒体34を前壁4bに溶接して固定する場合について説明した。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、第1実施形態の筒体17の第2フランジ19を前壁4bに固定しても良く、第2実施形態の筒体34を床板4aに溶接しても良い。
【0047】
また、第1実施形態の筒体17に、締結フランジ36を有するバルブ装置12をボルト37及びナット38を用いて固定しても良く、第2実施形態の筒体34に、めねじ12cが形成されたバルブ装置12をおねじ18aを用いて固定しても良い。なお、バルブ装置12を第1フランジ18に固定するための締結部材は、おねじ18aやボルト37及びナット38に限られるものではなく、着脱可能なリベットなどその他の締結部材を用いても良い。
【0048】
上記各実施形態では、筒体17,34の一部が床板4aや前壁4bから運転室4外へ突出している場合について説明した。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、筒体17のうち運転室4内に配置される開口端部に第2フランジ19を設けたり、筒体34の小径部34aを省略したりして、筒体17,34の略全体を床板4aや前壁4bから運転室4外へ突出させても良い。