【課題】自動変速機の軸方向に並設された第1クラッチ及び第2クラッチのハブ部材を共に、動力伝達部材と連結するように構成する場合に、第1クラッチ及び第2クラッチ全体の上記軸方向の長さを出来る限り短くする。
【解決手段】第1クラッチ(前側クラッチ40)の第1ハブ部材35と動力伝達部材45のボス部45bとに設けられた第1スプライン嵌合部71における上記軸方向の中間部に、第1ハブ部材35の動力伝達部材45に対する上記軸方向の移動を規制する第1スナップリング72が設けられ、第2クラッチ(中間クラッチ30)の第2ハブ部材34と動力伝達部材45のボス部45b又は第1ハブ部材35とに設けられた第2スプライン嵌合部73における上記軸方向の中間部に、第2ハブ部材34の動力伝達部材45又は第1ハブ部材35に対する上記軸方向の移動を規制する第2スナップリング74が設けられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、スプライン嵌合される両部材の互いの移動を規制するためにスナップリングを設ける構成では、スナップリングが設けられる部材の上記軸方向の長さが長くなるという問題がある。すなわち、従来、スナップリングは、スナップリングが設けられる部材の周面においてスプライン嵌合部に対して上記軸方向の一方側の近傍に形成された溝部に嵌められる。この溝部は、該溝部が破損しないように、スナップリングが設けられる部材の端ぎりぎりに設けることはできず、該部材における該溝部のスプライン嵌合部とは反対側において、該溝部の縁から該部材の端にかけて、溝部の破損を防止するための所定長さの部分が必要になる。該所定長さの部分に、溝部の破損の防止以外の機能を付与できればよいが、そのような機能を付与できなければ、スナップリングが設けられる部材の上記軸方向の長さが無駄に長くなってしまう。
【0007】
ここで、自動変速機が、該自動変速機の軸方向に並設された第1クラッチ及び第2クラッチを有し、第1クラッチ及び第2クラッチのハブ部材が共に、上記軸方向において上記第1クラッチの上記第2クラッチとは反対側に設けられた動力伝達部材と連結するように構成する場合に、第1クラッチのハブ部材と動力伝達部材とに第1スプライン嵌合部が設けられ、第2クラッチのハブ部材と動力伝達部材又は第1クラッチのハブ部材とに第2スプライン嵌合部が設けられる。そして、第1スプライン嵌合部が設けられる両部材のうちの一方の部材(例えば、径方向内側に位置する部材)において第1スプライン嵌合部に対して上記軸方向の一方側の近傍と、第2スプライン嵌合部が設けられる両部材のうちの一方の部材(例えば、径方向内側に位置する部材)において第2スプライン嵌合部に対して上記軸方向の一方側の近傍とにスナップリング(溝部)をそれぞれ設けた場合には、第1クラッチ及び第2クラッチ全体の上記軸方向の長さがより一層長くなる可能性がある。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、自動変速機の軸方向に並設された第1クラッチ及び第2クラッチのハブ部材を共に、動力伝達部材と連結するように構成する場合に、第1クラッチ及び第2クラッチ全体の上記軸方向の長さを出来る限り短くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明では、自動変速機の軸方向に並設された第1クラッチ及び第2クラッチを備えた、自動変速機のクラッチ構造を対象として、上記第1クラッチは、第1クラッチドラム部材と、該第1クラッチドラム部材の内周側に、上記軸方向に並ぶ複数の摩擦板を介して設けられた第1ハブ部材とを有し、上記第2クラッチは、上記第1クラッチドラム部材の内周側に設けられた第2クラッチドラム部材と、該第2クラッチドラム部材の内周側に、上記軸方向に並ぶ複数の摩擦板を介して設けられた第2ハブ部材とを有し、上記軸方向において上記第1クラッチの上記第2クラッチとは反対側に設けられた環状の本体部と該本体部の内周側端部から上記第1クラッチ側に突出する筒状のボス部とを有する動力伝達部材と、上記第1クラッチドラム部材の外周側に設けられ、上記動力伝達部材の本体部の外周側端部と連結された動力伝達用ドラム部材とを更に備え、上記第1ハブ部材と上記動力伝達部材のボス部とに、互いに径方向に重合してスプライン嵌合する第1スプライン嵌合部が設けられ、上記第2ハブ部材と上記動力伝達部材のボス部又は上記第1ハブ部材とに、互いに径方向に重合してスプライン嵌合する第2スプライン嵌合部が設けられ、上記第1スプライン嵌合部における上記軸方向の中間部に、上記第1ハブ部材の上記動力伝達部材に対する上記軸方向の移動を規制する第1スナップリングが設けられ、上記第2スプライン嵌合部における上記軸方向の中間部に、上記第2ハブ部材の上記動力伝達部材又は上記第1ハブ部材に対する上記軸方向の移動を規制する第2スナップリングが設けられている、という構成とした。
【0010】
上記の構成により、第1スプライン嵌合部における、自動変速機の軸方向の中間部に、第1スナップリングが設けられるので、第1ハブ部材又は動力伝達部材のボス部において第1スプライン嵌合部に対して上記軸方向の一方の側の近傍に、第1スナップリングが嵌められる溝部を形成する場合とは異なり、第1ハブ部材又は動力伝達部材のボス部に、該溝部の破損を防止するためだけの部分を設ける必要はなくなる。また、第2スプライン嵌合部における、自動変速機の軸方向の中間部に、第2スナップリングが設けられるので、第1ハブ部材又は第2ハブ部材にも、第2スナップリングが嵌められる溝部の破損を防止するためだけの部分を設ける必要はなくなる。したがって、自動変速機の軸方向に並設された第1クラッチ及び第2クラッチ全体の該軸方向の長さを出来る限り短くすることができる。
【0011】
上記自動変速機のクラッチ構造の一実施形態において、上記第1クラッチは、該第1クラッチの複数の摩擦板同士を係合させるように上記軸方向に進出する第1締結ピストンと、該第1締結ピストンを上記軸方向に進出させるための作動油が供給される第1締結油圧室とを更に有し、上記動力伝達部材の本体部は、上記第1締結ピストンと共に上記第1締結油圧室を形成する第1締結油圧室形成部と、該第1締結油圧室形成部の径方向内側部分に設けられ、上記第1締結油圧室にその径方向内側から作動油を供給するための第1締結油圧室用油路とを有し、上記ボス部は、上記第1締結油圧室形成部の径方向内側部分から上記第1クラッチ側に突出しており、上記動力伝達部材において上記第1締結油圧室用油路と上記第1スプライン嵌合部とが上記軸方向に並んでいる。
【0012】
このことにより、動力伝達部材における第1締結油圧室形成部の径方向内側部分及びボス部の内周側に配置される入力軸又は出力軸の内部に設けられる油路から、作動油を第1締結油圧室用油路を介して第1締結油圧室に容易にかつ適切に供給することができるようになる。この場合、第1締結油圧室用油路の分だけ、動力伝達部材における第1締結油圧室形成部の径方向内側部分及びボス部全体の上記軸方向の長さが長くなるが、上記のような第1スナップリングの配置により、動力伝達部材における第1締結油圧室形成部の径方向内側部分及びボス部全体の上記軸方向の長さを出来る限り短くすることができる。
【0013】
上記一実施形態において、上記第2クラッチは、該第2クラッチの複数の摩擦板同士を係合させるように上記軸方向に進出する第2締結ピストンと、該第2締結ピストンを上記軸方向に進出させるための作動油が供給される第2締結油圧室とを更に有し、上記第1ハブ部材は、上記第2締結ピストンと共に上記第2締結油圧室を形成する第2締結油圧室形成部と、該第2締結油圧室形成部の径方向内側部分に設けられ、上記第2締結油圧室にその径方向内側から作動油を供給するための第2締結油圧室用油路と、上記第2締結油圧室形成部の径方向内側部分から上記第2クラッチ側に突出する筒状のボス部とを有し、上記第2スプライン嵌合部は、上記第2ハブ部材と上記第1ハブ部材のボス部とに設けられており、上記第1ハブ部材において上記第2締結油圧室用油路と上記第2スプライン嵌合部とが上記軸方向に並んでいる、という構成であってもよい。
【0014】
このことで、第1ハブ部材における第2締結油圧室形成部の径方向内側部分及びボス部の内周側に配置される入力軸又は出力軸の内部に設けられる油路から、作動油を第2締結油圧室用油路を介して第2締結油圧室に容易にかつ適切に供給することができるようになる。この場合、第2締結油圧室用油路の分だけ、第1ハブ部材における第2締結油圧室形成部の径方向内側部分及びボス部全体の上記軸方向の長さが長くなるが、上記のような第2スナップリングの配置により、第1ハブ部材における第2締結油圧室形成部の径方向内側部分及びボス部全体の上記軸方向の長さを出来る限り短くすることができる。
【0015】
また、上記一実施形態において、上記第1クラッチは、上記第1締結ピストンに対して上記第1締結油圧室とは反対側である上記第1ハブ部材側に設けられた第1遠心バランス室と、該第1遠心バランス室の壁部の一部を構成しかつ上記第1ハブ部材に当接する第1遠心バランス室形成部材とを更に有し、上記第1ハブ部材と上記第1遠心バランス室形成部材との間に、上記第1遠心バランス室の作動油を、潤滑油として上記第1クラッチの摩擦板へ導くためのオイル通路が設けられていてもよい。
【0016】
このことにより、第1遠心バランス室からの作動油を第1クラッチの摩擦板へ潤滑油として容易に導くことができるようになる。また、第1ハブ部材の内周側に配置される入力軸又は出力軸の内部に設けられる油路から、潤滑油を第1ハブ部材の内部を通して摩擦板へ供給する場合に比べて、第1ハブ部材の上記軸方向の長さを短くすることができる。
【0017】
上記のように、上記第1ハブ部材において上記第2締結油圧室用油路と上記第2スプライン嵌合部とが上記軸方向に並んでいる構成において、上記第2クラッチは、上記第2締結ピストンに対して上記第2締結油圧室とは反対側である上記第2ハブ部材側に設けられた第2遠心バランス室と、該第2遠心バランス室の壁部の一部を構成しかつ上記第2ハブ部材に当接する第2遠心バランス室形成部材とを更に有し、上記第2ハブ部材と上記第2遠心バランス室形成部材との間に、上記第2遠心バランス室の作動油を、潤滑油として上記第2クラッチの摩擦板へ導くためのオイル通路が設けられていてもよい。
【0018】
このことで、第2遠心バランス室からの作動油を第2クラッチの摩擦板へ潤滑油として容易に導くことができるようになる。また、第2ハブ部材の内周側に配置される入力軸又は出力軸の内部に設けられる油路から、潤滑油を第2ハブ部材の内部を通して摩擦板へ供給する場合に比べて、第2ハブ部材の上記軸方向の長さを短くすることができる。よって、自動変速機の軸方向に並設された第1クラッチ及び第2クラッチ全体の該軸方向の長さを出来る限り短くすることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の自動変速機のクラッチ構造によると、第1スプライン嵌合部における、自動変速機の軸方向の中間部に、第1ハブ部材の動力伝達部材に対する上記軸方向の移動を規制する第1スナップリングが設けられ、第2スプライン嵌合部における上記軸方向の中間部に、第2ハブ部材の上記動力伝達部材又は上記第1ハブ部材に対する上記軸方向の移動を規制する第2スナップリングが設けられていることにより、自動変速機の軸方向に並設された第1クラッチ及び第2クラッチ全体の該軸方向の長さを出来る限り短くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係るクラッチ構造が適用された自動変速機1を一例として示す。この自動変速機1は、FR式の車両に搭載される縦置き式の自動変速機である。
【0023】
自動変速機1は、変速機ケース11と、該変速機ケース11内に挿入されかつ上記車両の駆動源(エンジン、モータ等)からの動力が入力される入力軸12と、変速機ケース11内に収容されかつ入力軸12を介して上記駆動源からの動力が伝達される変速機構14と、変速機ケース11内に挿入されかつ変速機構14からの動力をプロペラシャフトに出力する出力軸13とを有している。
【0024】
入力軸12と出力軸13とは、車両前後方向に沿って同軸に配置されており、自動変速機1が上記車両に搭載された状態で、入力軸12が車両前側に位置しかつ出力軸13が車両後側に位置している。以下の説明では、入力軸12の軸方向(出力軸13の軸方向)における上記駆動源側(
図1の左側)を前側といい、入力軸12の軸方向における上記駆動源とは反対側(
図1の右側)を後側という。また、入力軸12の軸方向(出力軸13の軸方向)は、自動変速機1の軸方向とも呼ばれ、以下、自動変速機1の軸方向を、単に軸方向といい。軸方向に垂直な方向である自動変速機1の径方向を、単に径方向という。
【0025】
変速機構14は、軸方向に並ぶ、第1プラネタリギヤセットPG1(以下、第1ギヤセットPG1という)、第2プラネタリギヤセットPG2(以下、第2ギヤセットPG2という)、第3プラネタリギヤセットPG3(以下、第3ギヤセットPG3という)、及び、第4プラネタリギヤセットPG4(以下、第4ギヤセットPG4という)を有している。これら第1ギヤセットPG1、第2ギヤセットPG2、第3ギヤセットPG3及び第4ギヤセットPG4は、前側からこの順に並んでいて、入力軸12から出力軸13への複数の動力伝達経路を形成する。第1〜第4ギヤセットPG1〜PG4は、入力軸12及び出力軸13と同軸に配置されている。
【0026】
第1ギヤセットPG1は、回転要素として、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1及び第1キャリヤC1を有する。第1ギヤセットPG1は、シングルピニオン型であって、第1キャリヤC1に支持されかつ第1ギヤセットPG1の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP1が第1サンギヤS1及び第1リングギヤR1の両方に噛み合わされている。
【0027】
第2ギヤセットPG2は、回転要素として、第2サンギヤS2、第2リングギヤR2及び第2キャリヤC2を有する。第2ギヤセットPG2も、シングルピニオン型であって、第2キャリヤC2に支持されかつ第2ギヤセットPG2の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP2が第2サンギヤS2及び第2リングギヤR2の両方に噛み合わされている。
【0028】
第3ギヤセットPG3は、回転要素として、第3サンギヤS3、第3リングギヤR3及び第3キャリヤC3を有する。第3ギヤセットPG3も、シングルピニオン型であって、第3キャリヤC3に支持されかつ第3ギヤセットPG3の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP3が第3サンギヤS3及び第3リングギヤR3の両方に噛み合わされている。
【0029】
第4ギヤセットPG4は、回転要素として、第4サンギヤS4、第4リングギヤR4及び第4キャリヤC4を有する。第4ギヤセットPG4も、シングルピニオン型であって、第4キャリヤC4に支持されかつ第4ギヤセットPG4の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP4が第4サンギヤS4及び第4リングギヤR4の両方に噛み合わされている。
【0030】
第1ギヤセットPG1の第1サンギヤS1は、入力軸12の軸方向に2分割されており、相対的に前側に配置された前側第1サンギヤS1aと相対的に後側に配置された後側第1サンギヤS1bとを有している。つまり、第1ギヤセットPG1は、ダブルサンギヤ型のギヤセットである。前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bは、同じ歯数の歯を有して、第1キャリヤC1に支持されたピニオンP1に噛合しているため、これら前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bの回転数は常に等しくなる。すなわち、前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bは、常に同じ回転速度で回転し、一方のギヤの回転が停止しているときには他方のギヤの回転も停止する。
【0031】
第1サンギヤS1(厳密には、後側第1サンギヤS1b)と第4サンギヤS4とが常時連結され、第1リングギヤR1と第2サンギヤS2とが常時連結され、第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とが常時転結され、第3キャリヤC3と第4リングギヤR4とが常時連結されている。また、入力軸12は第1キャリヤC1に常時連結され、出力軸13は第4キャリヤC4に常時連結されている。具体的には、入力軸12は、前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bの間を通る動力伝達部材18を介して第1キャリヤC1と連結されている。後側第1サンギヤS1bと第4サンギヤS4とは、動力伝達軸15を介して連結されている。第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とは、動力伝達部材16を介して連結されている。
【0032】
変速機構14は、第1〜第4ギヤセットPG1〜PG4により形成される上記複数の動力伝達経路の中から1つを選択して動力伝達経路を切り換えるための5つの摩擦締結要素(3つのクラッチ20,30,40及び2つのブレーキ50,60)を有している。
【0033】
3つのクラッチ20,30,40は、第1ギヤセットPG1よりも前側に配置されているとともに、軸方向に並設されている。これら3つのクラッチ20,30,40は、後側(第1ギヤセットPG1に近い側)から、クラッチ20、クラッチ30及びクラッチ40の順に配置されている。以下、クラッチ20を後側クラッチ20といい、クラッチ30を中間クラッチ30といい、クラッチ40を前側クラッチ40という。
【0034】
軸方向において、ブレーキ50は、前側クラッチ40よりも前側に配置され、ブレーキ60は、ブレーキ50よりも後側であって、第3ギヤセットPG3の近傍に配置されている。以下、ブレーキ50を前側ブレーキ50といい、ブレーキ60を後側ブレーキ60という。
【0035】
後側クラッチ20は、入力軸12及び第1キャリヤC1と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。後側クラッチ20は、第1ギヤセットPG1の直ぐ前側に配設されている。
【0036】
中間クラッチ30は、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。中間クラッチ30は、後側クラッチ20の直ぐ前側に配設されている。
【0037】
前側クラッチ40は、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。前側クラッチ40は、中間クラッチ30の直ぐ前側に配設されている。
【0038】
前側ブレーキ50は、第1サンギヤS1(厳密には前側第1サンギヤS1a)と変速機ケース11との間を断接するように構成されている。前側ブレーキ50の締結時には、第1サンギヤS1が変速機ケース11に固定される。前側ブレーキ50と前側第1サンギヤS1aとは、連結部材8によって互いに連結されている。
【0039】
後側ブレーキ60は、第3リングギヤR3と変速機ケース11との間を断接するように構成されている。後側ブレーキ60の締結時には、第3リングギヤR3が変速機ケース11に固定される。
【0040】
上記各摩擦締結要素は、該各摩擦締結要素の締結油圧室への作動油の供給により締結される。
図2の締結表に示すように、5つの摩擦締結要素から3つの摩擦締結要素を選択的に締結することにより、前進の1速〜8速及び後退速が形成される。尚、
図2の締結表では、○印が、摩擦締結要素が締結していることを示し、空欄が、摩擦締結要素が締結を解除(解放)していることを示す。
【0041】
具体的には、後側クラッチ20、前側ブレーキ50及び後側ブレーキ60の締結により、1速が形成される。中間クラッチ30、前側ブレーキ50及び後側ブレーキ60の締結により、2速が形成される。後側クラッチ20、中間クラッチ30及び後側ブレーキ60の締結により、3速が形成される。中間クラッチ30、前側クラッチ40及び後側ブレーキ60の締結により、4速が形成される。後側クラッチ20、前側クラッチ40及び後側ブレーキ60の締結により、5速が形成される。後側クラッチ20、中間クラッチ30及び前側クラッチ40の締結により、6速が形成される。後側クラッチ20、前側クラッチ40及び前側ブレーキ50の締結により、7速が形成される。中間クラッチ30、前側クラッチ40及び前側ブレーキ50の締結により、8速が形成される。前側クラッチ40、前側ブレーキ50及び後側ブレーキ60の締結により、後退速が形成される。6速では、入力軸12の回転速度と出力軸13の回転速度が同じになる。
【0042】
次に、後側クラッチ20、中間クラッチ30及び前側クラッチ40の構成について
図3により詳細に説明する。前側クラッチ40は、本発明の第1クラッチに相当し、中間クラッチ30は、本発明の第2クラッチに相当する。尚、
図3中、Cは、入力軸12の中心軸(出力軸13の中心軸)である。
【0043】
図3に示すように、前側クラッチ40は、第1クラッチドラム部材6と、該第1クラッチドラム部材6の内周側に、軸方向に並ぶ複数の摩擦板41を介して設けられた第1ハブ部材35とを有している。第1クラッチドラム部材6及び第1ハブ部材35は、入力軸12及び出力軸13と同軸に配置されている。第1クラッチドラム部材6は、前側に開口する有底筒状をなしている。第1クラッチドラム部材6の後側端部(底部)は、第2リングギヤR2に連結される。第1ハブ部材35は、後述の如く、入力軸12の周りに回転可能な動力伝達部材45に連結されて、該動力伝達部材45及び動力伝達用ドラム部材5を介して、第3サンギヤS3に連結される。このような連結により、前側クラッチ40は、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3との間を断接することが可能になる。
【0044】
動力伝達部材45及び動力伝達用ドラム部材5は、入力軸12及び出力軸13と同軸に配置されている。動力伝達部材45は、軸方向において前側クラッチ40の中間クラッチ30とは反対側(つまり前側クラッチ40の前側)に設けられた環状の本体部45aと、該本体部45aの内周側端部から前側クラッチ40側(後側)に突出する筒状のボス部45bとを有する。
【0045】
動力伝達用ドラム部材5は、前側に開口する有底筒状をなしているとともに、第1クラッチドラム部材6の外周側に設けられている。動力伝達用ドラム部材5の前側端部(開放側の端部)が、動力伝達部材45の本体部45aの外周側端部と連結される。動力伝達用ドラム部材5の後側端部(底部)が第3サンギヤS3に連結される。
【0046】
前側クラッチ40の複数の摩擦板41は、第1クラッチドラム部材6の前側端部(開口側の端部)の内側に、軸方向に移動可能に取り付けられたドラム側摩擦板41aと、第1ハブ部材35の外周部(後述の摩擦板取付部35b)に、軸方向に移動可能にかつドラム側摩擦板41aと交互に並ぶように取り付けられたハブ側摩擦板41bとを含む。
【0047】
前側クラッチ40は、複数の摩擦板41(ドラム側摩擦板41a及びハブ側摩擦板41b)同士を係合させるように軸方向(本実施形態では、後側)に進出する第1締結ピストン42と、第1締結ピストン42を軸方向(後側)に進出させるための作動油が供給される第1締結油圧室43とを更に有する。
【0048】
動力伝達部材45の本体部45aは、第1締結ピストン42と共に第1締結油圧室43を形成する第1締結油圧室形成部45cを有している。第1締結油圧室形成部45cは、第1締結油圧室43を前側、径方向外側及び内側から囲みかつ後側に開放する形状をなしている。ボス部45bは、第1締結油圧室形成部45cの径方向内側部分から後側に突出している。
【0049】
第1締結油圧室形成部45cの上記開放された部分を塞ぐように、第1締結ピストン42の受圧部42aが配置されている。受圧部42aは、受圧部42aに対して第1締結油圧室43とは反対側(第1ハブ部材35側)に位置する第1遠心バランス室48において周方向に並んで設けられた複数の第1リターンスプリング47(
図3では、1つしか示していない)の付勢力によって、前側に付勢されている。本実施形態では、各第1リターンスプリング47は、圧縮コイルスプリングで構成されている。尚、第1リターンスプリング47を板バネで構成することも可能である(後述の第2リターンスプリング37及び第3リターンスプリング27も同様)。
【0050】
第1締結ピストン42は、後側に開口する有底筒状に形成されており、前側に位置する底部が受圧部42aに相当する。第1締結ピストン42の開口側の端部(後側の端部)は径方向外側に拡がっており、その拡がった部分の径方向外側の端部には、摩擦板41の前側に位置して該摩擦板41を後側に押圧する押圧部42bが設けられている。
【0051】
第1締結油圧室形成部45cの径方向内側部分には、第1締結油圧室43にその径方向内側から作動油を供給するための第1締結油圧室用油路45dが径方向に延びるように設けられている。
【0052】
ここで、入力軸12と第1締結油圧室形成部45cの径方向内側部分及びボス部45bとの径方向の間には、前側ブレーキ50と前側第1サンギヤS1aとを連結する連結部材8と、動力伝達部材45、第1ハブ部材35及び後述の第2ハブ部材34を回転可能に支持する回転支持部材9とが設けられている。回転支持部材9は、回転支持部材9の内周側に位置する連結部材8の回転支持も行う。
【0053】
入力軸12には、入力軸12の中心に沿って延びる油路12aと、油路12aから径方向外側に延びる複数の油路12bとが設けられている。連結部材8の各油路12bに対応する部分には、径方向に延びる油路8aが設けられている。油路12a,12b,8aにより作動油が回転支持部材9に供給される。この回転支持部材9に供給された作動油は、回転支持部材9における第1締結油圧室用油路45dに対応する部分に設けられた油路9aから第1締結油圧室用油路45dを介して第1締結油圧室43に供給される。この第1締結油圧室43に供給された作動油によって、第1締結ピストン42の受圧部42aが第1リターンスプリング47の付勢力に抗して後側に移動して、押圧部42bが摩擦板41を後側に押圧し、これにより、ドラム側摩擦板41aとハブ側摩擦板41bとが互いに係合して、前側クラッチ40が締結状態となる。尚、摩擦板41の後側には、押圧部42bによる押圧力を受け止める、第1ハブ部材35で構成されたリテーニング部35aが設けられている。
【0054】
第1締結ピストン42と第1ハブ部材35(詳細には、後述の径方向延設部35c)との間には、第1遠心バランス室48の壁部の一部を構成する第1遠心バランス室形成部材49が設けられている。第1遠心バランス室48の壁部は、動力伝達部材45、第1ハブ部材35、第1締結ピストン42、及び第1遠心バランス室形成部材49で構成される。
【0055】
第1遠心バランス室形成部材49は、第1リターンスプリング47の、受圧部42aを前側に付勢する付勢力の反力によって後側に押圧されて、第1遠心バランス室形成部材49の後側端が第1ハブ部材35(詳細には、径方向延設部35c)に当接されている。第1遠心バランス室形成部材49の内周側端の前側端部は、第1ハブ部材35における後述の前側突出部35dの外周面に当接している。第1遠心バランス室形成部材49の内周側端における前側端部以外の部分と前側突出部35dの外周面との間には、僅かな隙間が設けられている。
【0056】
尚、第1遠心バランス室形成部材49は、第1リターンスプリング47が当接する部分以外の部分が該当接する部分よりも前側に突出するように形成されている。これは、第1リターンスプリング47の長さを確保しながら、第1遠心バランス室48の容積を適切な値にするためである。
【0057】
動力伝達部材45のボス部45bには、第1締結油圧室用油路45dと同様に径方向に延びる第1遠心バランス室用油路45eが設けられている。第1遠心バランス室用油路45eは、ボス部45bにおいて第1締結油圧室用油路45dとは周方向で異なる部分に設けられている。第1遠心バランス室48には、油路12a,12b,8aにより回転支持部材9に供給された作動油が、第1遠心バランス室用油路45eを介して供給される。
【0058】
第1ハブ部材35は、ハブ側摩擦板41bが取り付けられる摩擦板取付部35bと、摩擦板取付部35bから径方向内側に延びる径方向延設部35cとを有する。摩擦板取付部35bの後側端部に、上述のリテーニング部35aが設けられている。
【0059】
径方向延設部35cの内周側部分には、動力伝達部材45のボス部45bの径方向外側で前側に突出する前側突出部35dが設けられている。ボス部45bの外周部と前側突出部35dの内周部とに、互いに径方向に重合してスプライン嵌合する第1スプライン嵌合部71が設けられている。これにより、第1ハブ部材35は、動力伝達部材45と共に回転するように連結されることになる。
【0060】
第1スプライン嵌合部71における軸方向の中間部に、第1ハブ部材35の動力伝達部材45に対する軸方向の移動を規制する第1スナップリング72が設けられている。この第1スナップリング72は、周方向の一部が切り離されたC形状のものであって、ボス部45bの外周部に設けられた溝部45fと、前側突出部35dの内周部に設けられた溝部35eとに嵌められている。溝部45f,35eも、第1スプライン嵌合部71における軸方向の中間部に設けられていることになる。溝部45fの深さは、ボス部45bに前側突出部35dを組み付ける前に、溝部45fに嵌められた第1スナップリング72が縮径可能な深さに形成されており、溝部45fに嵌められた第1スナップリング72を縮径した状態で、ボス部45bに対して前側突出部35dを軸方向にスライドさせ、溝部35eが溝部45fと軸方向において一致したときに、第1スナップリング72が拡径して溝部35eに自動的に嵌まる。尚、第1ハブ部材35を動力伝達部材45から外せるようにするために、ボス部45bの内周側の面又は前側突出部35dの外周側の面に、第1スナップリング72を縮径するための工具を差し込める穴を設けるようにしてもよい。
【0061】
第1ハブ部材35と第1遠心バランス室形成部材49との間には、第1遠心バランス室48の作動油を、潤滑油として前側クラッチ40の摩擦板41へ導くためのオイル通路が設けられている。具体的に、第1遠心バランス室形成部材49における第1ハブ部材35と当接する部分(内周側端及び後側端)の周方向の一部には、第1遠心バランス室48の作動油が、第1ハブ部材35の前側突出部35d及び径方向延設部35cの表面に沿って流れるようにするための溝部49aが形成されている。第1遠心バランス室形成部材49の内周側端及び後側端に形成された溝部49aを順に通過した作動油は、遠心力によって、径方向延設部35cの表面に沿って摩擦板取付部35bまで流れた後、摩擦板取付部35bに径方向に延びるように設けた不図示の貫通孔を通って摩擦板41に達する。
【0062】
このようなオイル通路(溝部49a)を設けることによって、第1遠心バランス室48からの作動油を摩擦板41へ潤滑油として容易に導くことができるようになる。また、入力軸12の内部に設けられる油路12aから、潤滑油を第1ハブ部材35の内部を通して摩擦板41へ供給する場合に比べて、第1ハブ部材35の特に径方向延設部35cの上記軸方向の長さを短くすることができる。
【0063】
中間クラッチ30は、第1クラッチドラム部材6の内周側に設けられた第2クラッチドラム部材7と、第2クラッチドラム部材7の内周側に、軸方向に並ぶ複数の摩擦板31を介して設けられた第2ハブ部材34とを有している。第2クラッチドラム部材7及び第2ハブ部材34は、入力軸12及び出力軸13と同軸に配置されている。第2クラッチドラム部材7は、前側に開口する有底筒状をなしている。第2クラッチドラム部材7の後側端部(底部)は、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2に連結される。第2ハブ部材34は、第1ハブ部材35に連結されていて、該第1ハブ部材35、動力伝達部材45及び動力伝達用ドラム部材5を介して、第3サンギヤS3に連結される。このような連結により、中間クラッチ30は、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と第3サンギヤS3との間を断接することが可能になる。
【0064】
中間クラッチ30の複数の摩擦板31は、第2クラッチドラム部材7の前側端部(開口側の端部)の内側に、軸方向に移動可能に取り付けられたドラム側摩擦板31aと、第2ハブ部材34の外周部(後述の摩擦板取付部34b)に、軸方向に移動可能にかつドラム側摩擦板31aと交互に並ぶように取り付けられたハブ側摩擦板31bとを含む。
【0065】
中間クラッチ30は、複数の摩擦板31(ドラム側摩擦板31a及びハブ側摩擦板31b)同士を係合させるように軸方向(本実施形態では、後側)に進出する第2締結ピストン32と、第2締結ピストン32を軸方向(後側)に進出させるための作動油が供給される第2締結油圧室33とを更に有する。
【0066】
第1ハブ部材35の径方向延設部35cは、第2締結ピストン32と共に第2締結油圧室33を形成する第2締結油圧室形成部35fを有している。第2締結油圧室形成部35fは、第2締結油圧室33を前側、径方向外側及び内側から囲みかつ後側に開放する形状をなしている。第2締結油圧室形成部35fの径方向内側部分からは、筒状のボス部35gが後側に突出している。
【0067】
第2締結油圧室形成部35fの上記開放された部分を塞ぐように、第2締結ピストン32の受圧部32aが配置されている。受圧部32aは、受圧部32aに対して第2締結油圧室33とは反対側(第2ハブ部材34側)に位置する第2遠心バランス室38において周方向に並んで設けられた複数の第2リターンスプリング37(
図3では、1つしか示していない)の付勢力によって、前側に付勢されている。本実施形態では、各第2リターンスプリング37は、圧縮コイルスプリングで構成されている。
【0068】
第2締結ピストン32は、後側に開口する有底筒状に形成されており、前側に位置する底部が受圧部32aに相当する。第2締結ピストン32の開口側の端部(後側の端部)は径方向外側に拡がっており、その拡がった部分の径方向外側の端部には、摩擦板31の前側に位置して該摩擦板31を後側に押圧する押圧部32bが設けられている。
【0069】
第2締結油圧室形成部35fの径方向内側部分には、第2締結油圧室33にその径方向内側から作動油を供給するための第2締結油圧室用油路35hが径方向に延びるように設けられている。
【0070】
上記のように油路12a,12b,8aにより回転支持部材9に供給された作動油は、回転支持部材9における第2締結油圧室用油路35hに対応する部分に設けられた油路9bから第2締結油圧室用油路35hを介して第2締結油圧室33に供給される。この第2締結油圧室33に供給された作動油によって、第2締結ピストン32の受圧部32aが第2リターンスプリング37の付勢力に抗して後側に移動して、押圧部32bが摩擦板31を後側に押圧し、これにより、ドラム側摩擦板31aとハブ側摩擦板31bとが互いに係合して、中間クラッチ30が締結状態となる。尚、摩擦板31の後側には、押圧部32bによる押圧力を受け止める、第2ハブ部材34で構成されたリテーニング部34aが設けられている。
【0071】
第2締結ピストン32と第2ハブ部材34(詳細には、後述の径方向延設部34c)との間には、第2遠心バランス室38の壁部の一部を構成する第2遠心バランス室形成部材39が設けられている。第2遠心バランス室38の壁部は、第1ハブ部材35、第2ハブ部材34、第2締結ピストン32、及び第2遠心バランス室形成部材39で構成される。
【0072】
第2遠心バランス室形成部材39は、第2リターンスプリング37の、受圧部32aを前側に付勢する付勢力の反力によって後側に押圧されて、第2遠心バランス室形成部材39の後側端が第2ハブ部材34(詳細には、径方向延設部34c)に当接されている。第2遠心バランス室形成部材39の内周側端の前側端部は、第2ハブ部材34における後述の前側突出部34dの外周面に当接している。第2遠心バランス室形成部材39の内周側端における前側端部以外の部分と前側突出部34dの外周面との間には、僅かな隙間が設けられている。
【0073】
尚、第2遠心バランス室形成部材39は、第2リターンスプリング37が当接する部分以外の部分が該当接する部分よりも前側に突出するように形成されている。これは、第2リターンスプリング37の長さを確保しながら、第2遠心バランス室38の容積を適切な値にするためである。
【0074】
第1ハブ部材35のボス部35gには、第2締結油圧室用油路35hと同様に径方向に延びる第2遠心バランス室用油路35iが設けられている。第2遠心バランス室用油路35iは、ボス部35gにおいて第2締結油圧室用油路35hとは周方向で異なる部分に設けられている。第2遠心バランス室38には、油路12a,12b,8aにより回転支持部材9に供給された作動油が、第2遠心バランス室用油路35iを介して供給される。
【0075】
第2ハブ部材34は、ハブ側摩擦板31bが取り付けられる摩擦板取付部34bと、摩擦板取付部34bから径方向内側に延びる径方向延設部34cとを有する。摩擦板取付部34bの後側端部に、上述のリテーニング部34aが設けられている。
【0076】
径方向延設部34cの内周側部分には、第1ハブ部材35のボス部35gの径方向外側で前側に突出する前側突出部34dが設けられている。ボス部35gの外周部と前側突出部34dの内周部とに、互いに径方向に重合してスプライン嵌合する第2スプライン嵌合部73が設けられている。これにより、第2ハブ部材34は、第1ハブ部材35(延いては、動力伝達部材45)と共に回転するように連結されることになる。
【0077】
第2スプライン嵌合部73における軸方向の中間部に、第2ハブ部材34の第1ハブ部材35に対する軸方向の移動を規制する第2スナップリング74が設けられている。第2スナップリング74も、第1スナップリング72と同様のものであって、ボス部35gの外周部に設けられた溝部35jと、前側突出部34dの内周部に設けられた溝部34eとに嵌められている。溝部35j,34eも、第2スプライン嵌合部73における軸方向の中間部に設けられていることになる。溝部35jの深さは、ボス部35gに前側突出部34dを組み付ける前に、溝部35jに嵌められた第2スナップリング74が縮径可能な深さに形成されており、溝部35jに嵌められた第2スナップリング74を縮径した状態で、ボス部35gに対して前側突出部34dを軸方向にスライドさせ、溝部34eが溝部35gと軸方向において一致したときに、第2スナップリング74が拡径して溝部34eに自動的に嵌まる。尚、第2ハブ部材34を第1ハブ部材35から外せるようにするために、ボス部35bの内周側の面又は前側突出部34dの外周側の面に、第2スナップリング74を縮径するための工具を差し込める穴を設けるようにしてもよい。
【0078】
第2ハブ部材34と第2遠心バランス室形成部材39との間には、第2遠心バランス室38の作動油を、潤滑油として中間クラッチ30の摩擦板31へ導くオイル通路が設けられている。具体的に、第2遠心バランス室形成部材39における第2ハブ部材34と当接する部分(内周側端及び後側端)の周方向の一部には、第2遠心バランス室38の作動油が、第2ハブ部材34の前側突出部34d及び径方向延設部34cの表面に沿って流れるようにするための溝部39aが形成されている。第2遠心バランス室形成部材39の内周側端及び後側端に形成された溝部39aを順に通過した作動油は、遠心力によって、径方向延設部34cの表面に沿って摩擦板取付部34bまで流れた後、摩擦板取付部34bに径方向に延びるように設けた不図示の貫通孔を通って摩擦板31に達する。
【0079】
このようなオイル通路(溝部39a)を設けることによって、第2遠心バランス室38からの作動油を摩擦板31へ潤滑油として容易に導くことができるようになる。また、入力軸12の内部に設けられる油路12aから、潤滑油を第2ハブ部材34の内部を通して摩擦板31へ供給する場合に比べて、第2ハブ部材34の特に径方向延設部34cの上記軸方向の長さを短くすることができる。
【0080】
後側クラッチ20は、第2クラッチドラム部材7の内周側に設けられた第3クラッチドラム部材4と、第3クラッチドラム部材4の内周側に、軸方向に並ぶ複数の摩擦板21を介して設けられた第3ハブ部材24とを有している。第3クラッチドラム部材4及び第3ハブ部材24は、入力軸12及び出力軸13と同軸に配置されている。第3クラッチドラム部材4は、後側に開口する有底筒状をなしている。第3クラッチドラム部材4の前側端部(底部)は、リベット80を介して第2ハブ部材34の径方向延設部34cに一体的に回転するように固定されていて、該第2ハブ部材34、第1ハブ部材35、動力伝達部材45及び動力伝達用ドラム部材5を介して、第3サンギヤS3に連結される。第3ハブ部材24は、第2ハブ部材34の第1ハブ部材35とは反対側(第2ハブ部材34の後側)に配設されていて、第1キャリヤC1の回転軸81の前側端部に結合された円板状部材82に連結される。上記の如く、第1キャリヤC1(回転軸81)は、動力伝達部材18を介して入力軸12と連結されている。このような連結により、後側クラッチ20は、入力軸12及び第1キャリヤC1と第3サンギヤS3との間を断接することが可能になる。
【0081】
後側クラッチ20の複数の摩擦板21は、第3クラッチドラム部材4の内側に、軸方向に移動可能に取り付けられたドラム側摩擦板21aと、第3ハブ部材24の外周部に、軸方向に移動可能にかつドラム側摩擦板21aと交互に並ぶように取り付けられたハブ側摩擦板21bとを含む。
【0082】
後側クラッチ20は、複数の摩擦板21(ドラム側摩擦板21a及びハブ側摩擦板21b)同士を係合させるように軸方向(本実施形態では、後側)に進出する第3締結ピストン22と、第3締結ピストン22を軸方向(後側)に進出させるための作動油が供給される第3締結油圧室23とを更に有する。
【0083】
第2ハブ部材34の径方向延設部34cは、第3締結ピストン22と共に第3締結油圧室23を形成する第3締結油圧室形成部34fを有している。第3締結油圧室形成部34fは、第3締結油圧室23を前側、径方向外側及び内側から囲みかつ後側に開放する形状をなしている。第3締結油圧室形成部34fの径方向内側部分からは、筒状のボス部34gが後側に突出している。
【0084】
第3締結油圧室形成部34fの上記開放された部分を塞ぐように、第3締結ピストン22の受圧部22aが配置されている。受圧部22aは、受圧部22aに対して第3締結油圧室23とは反対側に位置する第3遠心バランス室28において周方向に並んで設けられた複数の第3リターンスプリング27(
図3では、1つしか示していない)の付勢力によって、前側に付勢されている。本実施形態では、各第3リターンスプリング27は、圧縮コイルスプリングで構成されている。
【0085】
第3締結ピストン22は、後側に開口する有底筒状に形成されており、前側に位置する底部が受圧部22aに相当する。第3締結ピストン22の開口側の端部(後側の端部)は径方向外側に拡がっており、その拡がった部分の径方向外側の端部には、摩擦板21の前側に位置して該摩擦板21を後側に押圧する押圧部22bが設けられている。
【0086】
尚、本実施形態では、第3締結ピストン22と第3クラッチドラム部材4とは、軸方向にオーバーラップする部分を有している。このため、第3締結ピストン22の周方向の複数箇所に、第3クラッチドラム部材4との干渉を避けるための貫通孔22cがそれぞれ形成され、第3クラッチドラム部材4において複数の貫通孔22a間に対応する複数箇所に、第3締結ピストン22との干渉を避けるための貫通孔(図示省略)がそれぞれ形成されている。
【0087】
第3締結油圧室形成部34fの径方向内側部分には、第3締結油圧室23にその径方向内側から作動油を供給するための第3締結油圧室用油路34hが径方向に延びるように設けられている。
【0088】
回転支持部材9に供給された作動油は、回転支持部材9における第3締結油圧室用油路34hに対応する部分に設けられた油路9cから第3締結油圧室用油路34hを介して第3締結油圧室23に供給される。この第3締結油圧室23に供給された作動油によって、第3締結ピストン22の受圧部22aが第3リターンスプリング27の付勢力に抗して後側に移動して、押圧部22bが摩擦板21を後側に押圧し、これにより、ドラム側摩擦板21aとハブ側摩擦板21bとが互いに係合して、後側クラッチ20が締結状態となる。尚、摩擦板21の後側には、押圧部22bによる押圧力を受け止めるリテーニング部材76(スナップリングで構成される)が設けられている。
【0089】
第3遠心バランス室28は、第2ハブ部材34、第3締結ピストン22、及び第3遠心バランス室形成部材29で構成される。第3遠心バランス室形成部材29は、第2ハブ部材34のボス部34gに嵌合されている。該ボス部34gにおける第3遠心バランス室形成部材29の後側部分(溝部)には、第1スナップリング72及び第2スナップリング74と同様の第3スナップリング77が嵌められており、第3スナップリング77によって、第3遠心バランス室形成部材29の後側への移動が規制されている。これにより、第3遠心バランス室形成部材29は、第3リターンスプリング27の、受圧部22aを前側に付勢する付勢力の反力を受け止めることができる。
【0090】
第2ハブ部材34のボス部34gには、第3締結油圧室用油路34hと同様に径方向に延びる第3遠心バランス室用油路34iが設けられている。第3遠心バランス室用油路34iは、ボス部34gにおいて第3締結油圧室用油路34hとは周方向で異なる部分に設けられている。第3遠心バランス室28には、油路12a,12b,8aにより回転支持部材9に供給された作動油が、第3遠心バランス室用油路34iを介して供給される。
【0091】
ここで、例えば、第1スプライン嵌合部71が設けられる両部材(動力伝達部材45及び第1ハブ部材35)のうちの一方の部材(ここでは、動力伝達部材45のボス部45b)において第1スプライン嵌合部71に対して後側の近傍に、第1スナップリング72(溝部45f)を設けるとともに、第2スプライン嵌合部73が設けられる両部材(第1ハブ部材35及び第2ハブ部材34)のうちの一方の部材(ここでは、第1ハブ部材35のボス部35g)において第2スプライン嵌合部73に対して後側の近傍に、第2スナップリング74(溝部35j)を設けたとする。
【0092】
この場合、ボス部45bにおける溝部45fの第1スプライン嵌合部71とは反対側において、溝部45fの後側の縁からボス部45bの後端にかけて、溝部45fの破損を防止するための所定長さの部分が必要になり、その部分の長さ(所定長さ)の分だけ、ボス部45bは軸方向に長くなる。また、同様に、ボス部35gも、軸方向に長くなる。本実施形態では、第1スプライン嵌合部71と第2スプライン嵌合部73とが軸方向に並んでいるので、上記のように、第1及び第2スプライン嵌合部71,73に対して後側の近傍に、第1スナップリング72(溝部45f)及び第2スナップリング74(溝部35j)をそれぞれ配置する場合には、前側クラッチ40及び中間クラッチ30全体の軸方向の長さが無駄に長くなってしまう。
【0093】
これに対し、本実施形態では、第1スプライン嵌合部71における軸方向の中間部に第1スナップリング72が設けられるので、溝部45fの後側の縁からボス部45bの後端までは、第1スプライン嵌合部71として軸方向の長さが確保されており、ボス部45bには、溝部45fの破損を防止するためだけの部分を設ける必要がなくなる。また、第2スプライン嵌合部73における軸方向の中間部に第2スナップリング74が設けられるので、溝部35jの後側の縁からボス部35gの後端までは、第2スプライン嵌合部73として軸方向の長さが確保されており、ボス部35gには、溝部35jの破損を防止するためだけの部分を設ける必要がなくなる。したがって、前側クラッチ40及び中間クラッチ30全体の軸方向の長さを短くすることができる。
【0094】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0095】
例えば、上記実施形態では、第2ハブ部材34と第1ハブ部材35とに、第2スプライン嵌合部73を設けたが、第2ハブ部材34と動力伝達部材45とに、第2スプライン嵌合部73を設けることも可能である。この場合、例えば、第1ハブ部材35の第2締結油圧室形成部35fの径方向内側部分の一部及びボス部35gをなくして、動力伝達部材45のボス部45bを、ボス部35gの位置にまで後側に延長して、ボス部45bの外周部と前側突出部34dの内周部とに第2スプライン嵌合部73を設ければよい。
【0096】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。