【解決手段】配線Lを介して接続されたスピーカ2に伝送される放送音を発生する非常放送装置1は、配線Lの状態の試験に使用可能な複数の周波数の複数の試験信号を発生する信号発生部162と、複数の試験信号それぞれを配線Lに印加している間の配線Lの電気的特性の変動量を特定する変動量特定部167と、複数の試験信号それぞれに対応する複数の変動量に基づいて、複数の周波数から試験に使用する使用周波数を選択する選択部168と、配線Lの状態を試験する際に、選択部168が選択した使用周波数の試験信号を配線Lに印加する信号制御部169と、を有する。
前記選択部は、前記複数の試験信号を前記配線に印加している間に前記変動量特定部が特定した複数の前記変動量のうち、最小の前記変動量に対応する周波数を前記使用周波数として選択する、
請求項1に記載の非常放送装置。
前記変動量特定部は、前記使用周波数の前記試験信号を前記配線に印加して試験をしている間の前記電気的特性が所定の範囲外である場合に、前記配線が異常な状態であると判定し、判定した結果を出力する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の非常放送装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[非常放送システムSの概要]
図1は、非常放送システムSの構成を模式的に示す図である。非常放送システムSは、非常放送装置1と、非常放送装置1に接続された複数のスピーカ2とを備える。非常放送装置1は、火災感知器(不図示)が火災を感知したことに応じて、火災が発生したことを示す非常放送音に対応する交流信号を発生する。非常放送装置1が発生した交流信号は配線Lによりスピーカ2に伝送され、伝送された交流信号に基づく非常放送音がスピーカ2から出力される。
【0013】
スピーカ2は、配線Lを介して非常放送装置1と接続されている。
図1においては、配線Lとして、配線Lp1と配線Ln1の配線対、配線Lp2と配線Ln2の配線対、及び配線Lpmと配線Lnm(mは3以上の整数)の配線対が示されているが、非常放送装置1に接続されている配線の数は任意である。スピーカ2は、配線Lpと配線Lnの2本の配線Lの間に接続されており、配線Lの間に加えられた交流信号に基づく非常放送音を発する。
【0014】
非常放送装置1は、スピーカ2が接続された配線Lの短絡及び断線といった不具合を検出するために、スピーカ2に対して試験信号を印加する機能を有する。非常放送装置1は、試験信号を印加している間に配線Lの電気的特性(例えばインピーダンス)を測定する。非常放送装置1は、例えば、測定したインピーダンスが第1閾値以上である場合に配線Lが断線していると判定し、測定したインピーダンスが第2閾値(ただし、第2閾値<第1閾値)以下である場合に配線Lが短絡していると判定する。
【0015】
非常放送装置1が試験信号を印加している間に外部からノイズ(例えば商用電源のハムノイズ)が入ると、試験信号にノイズが重畳されることにより、測定したインピーダンスに誤差が生じる。その結果、非常放送装置1が配線Lの状態を誤判定してしまうおそれがある。そこで、非常放送装置1は、測定結果がノイズの影響を受けにくくするために、試験信号の周波数として、ノイズの影響が少ない周波数を選択する。非常放送装置1が試験信号の周波数を選択する方法の詳細については後述する。
【0016】
[非常放送装置1の構成]
図1に示すように、非常放送装置1は、表示部回路11と、操作部回路12と、制御回路13と、火災情報受信回路14と、電源回路15と、放送回路16とを有する。非常放送装置1は、複数の配線Lに接続される複数の放送回路16を有する。
【0017】
表示部回路11は、各種の情報を表示するためのディスプレイ、及びディスプレイを駆動するドライバを含む。表示部回路11は、制御回路13の制御により、例えば放送出力先を示す情報、又は配線Lの試験結果を示す情報を表示する。
【0018】
操作部回路12は、非常放送装置1を操作する警備員等のユーザによる操作を受け付けるための操作用デバイスを含む。操作部回路12は、例えば非常放送装置1の動作モードを設定する操作、及び配線Lを試験するための操作を受け付ける。
【0019】
制御回路13は、非常放送装置1の各部を制御するプロセッサを有する。制御回路13は、例えばCPU(Central Processing Unit)、並びにROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の記憶媒体を有する。制御回路13は、CPUがROMに記憶されたプログラムを実行することにより、各種の動作を実行する。
【0020】
制御回路13は、例えば、火災が発生したという通知を火災情報受信回路14から受けると、表示部回路11に放送出力先を示す情報を表示させたり、放送回路16を介してスピーカ2に非常放送音を発生させたりする。また、制御回路13は、複数の放送回路16が配線Lに印加する試験信号の周波数を決定させたり、決定した周波数の試験信号を用いて配線Lの試験を実行させたりする。
【0021】
火災情報受信回路14は、火災が発生したことを示す火災情報を火災受信機から受信する。火災情報受信回路14は、火災情報を受信したことを制御回路13に通知する。
電源回路15は、非常放送装置1の各部に電力を供給する。
【0022】
放送回路16は、制御回路13の制御に基づいて、スピーカ2が発する非常放送音を配線Lに送信する。以下、放送回路16の詳細について説明する。
【0023】
[放送回路16の詳細構成]
図2は、放送回路16の構成を示す図である。放送回路16は、制御部161と、信号発生部162と、電流測定部163と、平滑化部164と、A/D変換部165と、記憶部166とを有する。制御部161は、変動量特定部167と、選択部168と、信号制御部169とを有する。
【0024】
制御部161は、放送回路16の各部を制御する。制御部161は、例えばCPUを有しており、記憶部166に記憶されたプログラムを実行することにより、変動量特定部167、選択部168及び信号制御部169として機能する。
【0025】
信号発生部162は、非常放送音の一例であるサイレン音や音声に対応する電気信号を発生する。また、信号発生部162は、配線Lの状態の試験に使用可能な複数の周波数の複数の試験信号を発生する。信号発生部162は、例えば単一周波数の正弦波を含む試験信号を発生するが、複数の周波数成分を含む試験信号を発生してもよい。
【0026】
スピーカ2は、非可聴周波数帯域の信号に対する特性が保証されていない。したがって、スピーカ2が配線Lに接続された状態で、適切に電気的特性を試験するためには、スピーカ2が動作可能な周波数(すなわち音を発することができる周波数)の試験信号を用いる必要がある。そこで、信号発生部162は、可聴周波数帯(約20Hz〜20kHz)のうち、人が比較的認識しづらい下限周波数に近い60Hz近辺の周波数の試験信号を発生してもよい。
【0027】
例えば、信号発生部162は、周波数が42Hz、44Hz、46Hz、48Hz、50Hzのように、可聴周波数帯の下限周波数と、商用電源の周波数(例えば50Hz)との間の周波数の試験信号を発生することができる。信号発生部162は、商用電源の周波数よりも高い周波数(例えば51Hz)の試験信号を発生してもよい。
【0028】
また、試験信号として可聴周波数帯域の信号を配線Lに重畳すると、スピーカ2より発せられる音が周囲にいる人たちにとって耳障りであることが懸念される。そこで、信号発生部162は、耳障りにならない程度の音圧レベルに対応する大きさの試験信号を発生することにより、耳障りになることを防いでいる。
【0029】
信号発生部162は、信号制御部169からの指示に基づいて、これらの複数の周波数から1つの周波数を選択し、選択した周波数の試験信号を発生し、発生した試験信号を電流測定部163に入力する。信号発生部162は、例えば周波数シンセサイザを有しており、周波数シンセサイザに試験信号を発生させる。信号発生部162は、時間と振幅とが関連付けられた波形データを記憶部166から読み出して、読み出した波形データをアナログ信号に変換することにより試験信号を発生してもよい。
【0030】
電流測定部163は、信号発生部162から入力された試験信号を配線Lに流し、配線Lに試験信号を印加している間に配線Lを流れる電流を測定する。電流測定部163は、例えば、所定の抵抗の両端間の電圧に基づいて電流を測定する。電流測定部163は、測定した電流に対応する信号(例えば抵抗の両端間の電位差信号)を平滑化部164に入力する。なお、電流測定部163は、非常放送音信号が印加されている間は、信号発生部162から入力された非常放送音信号をそのまま配線Lに印加する。
【0031】
平滑化部164は、電流測定部163から入力された信号を平滑化する。平滑化部164は、例えば複数の試験信号を配線Lに印加している間に配線Lを流れる電流を平滑化する低域通過フィルタを有する。低域通過フィルタのカットオフ周波数は、試験信号の周波数よりも十分に低い周波数に設定されており、例えば1Hzである。平滑化部164がこのような特性の低域通過フィルタを有することにより、平滑化部164は、信号発生部162が発生した試験信号の周波数成分のみを含む信号が入力された場合には、交流成分を含まない信号を出力する。一方、試験信号にノイズ信号が重畳されたことにより、電流測定部163から入力された信号に試験信号の周波数とノイズ信号の周波数との差に相当する差分周波数の成分(うなり音成分)が含まれる場合、平滑化部164は、差分周波数の成分を含む信号を出力する。平滑化部164は、低域通過フィルタを通過した後の信号をA/D変換部165に入力する。
【0032】
図3は、平滑化部164の動作について説明するための図である。
図3(a)は、電流測定部163が単一の周波数の試験信号を配線Lに印加中にノイズが重畳されていない場合に平滑化部164に入力される信号の波形である。
図3(b)は、
図3(a)に示した信号が平滑化部164に入力された場合に平滑化部164から出力される信号の波形である。このように、試験信号にノイズが重畳されていない場合には、平滑化部164が出力する信号は変動しない。
【0033】
図3(c)は、電流測定部163が単一の周波数の試験信号を配線Lに印加中にノイズが重畳されている場合に平滑化部164に入力される信号の波形である。
図3(d)は、
図3(c)に示した信号が平滑化部164に入力された場合に平滑化部164から出力される信号の波形である。このように、試験信号にノイズが重畳されている場合には、平滑化部164が出力する信号が変動する。後述する選択部168は、この変動が最も小さくなる周波数を試験信号の周波数に選択する。
【0034】
A/D変換部165は、平滑化部164から入力された信号をデジタル値に変換する。A/D変換部165は、変換後のデジタル値を示すデジタルデータを変動量特定部167に入力する。
【0035】
記憶部166は、各種のデータを記憶する記憶媒体を含む。記憶部166は、例えばROM及びRAMを含む。記憶部166は、例えば制御部161が実行するプログラムを記憶する。記憶部166は、信号発生部162が試験信号の発生に使用する波形データを記憶していてもよい。
【0036】
変動量特定部167は、複数の試験信号それぞれを配線Lに印加している間の配線Lの電気的特性の変動量を特定する。変動量特定部167は、例えば、配線Lを流れる電流、配線Lの2線間の電圧、配線Lのインピーダンス等の電気的特性の変動量を特定する。変動量特定部167は、平滑化部164が平滑化した後の波形における変動量に基づいて、電気的特性の変動量を特定する。すなわち、変動量特定部167は、A/D変換部165から入力された信号の変動量を配線Lの電気的特性の変動量として特定する。変動量は、例えば、A/D変換部165から入力された信号の最大値と最小値との差分値により表される。変動量特定部167は、特定した変動量を選択部168に通知する。
【0037】
選択部168は、複数の試験信号それぞれに対応する複数の変動量に基づいて、複数の周波数から試験に使用する使用周波数を選択する。選択部168は、例えば、複数の試験信号を配線Lに印加している間に変動量特定部167が特定した複数の変動量のうち、最小の変動量に対応する周波数を使用周波数として選択する。具体的には、選択部168は、予め使用可能な試験信号の周波数として設定されている42Hz、44Hz、46Hz、48Hz、50Hz、52Hzのそれぞれの試験信号が配線Lに印加されている間の電気的特性の変動量を比較し、変動量が最小の周波数を選択する。選択部168は、選択した周波数を信号制御部169に通知する。選択部168は、複数の配線Lそれぞれに対して使用周波数の選択処理を実行し、複数の配線Lそれぞれに関連付けて、使用周波数を記憶部166に記憶させる。
【0038】
信号制御部169は、配線Lの状態を試験する際に、選択部168が選択した使用周波数の試験信号を配線Lに印加するように信号発生部162を制御する。信号制御部169は、例えば選択部168が48Hzを選択した場合、48Hzの試験信号を使用するように信号発生部162に通知する。
【0039】
放送回路16は、以上のようにして使用周波数が決定された後に制御回路13から配線Lの試験を実施する指示を受けた場合、選択部168が選択した使用周波数の試験信号を配線Lに印加する。変動量特定部167は、使用周波数の試験信号を配線Lに印加して試験をしている間にA/D変換部165から入力された信号が示す電気的特性が所定の範囲外である場合に、配線Lが異常な状態であると判定し、判定した結果を制御回路13に通知する。
【0040】
具体的には、変動量特定部167は、インピーダンスが第1閾値以上である場合に、配線Lが断線していると判定し、断線が発生していることを制御回路13に通知する。また、変動量特定部167は、インピーダンスが第1閾値よりも小さい第2閾値以下である場合に、配線Lが短絡していると判定し、短絡が発生していることを制御回路13に通知する。言い換えると、変動量特定部167は、電流値が第3閾値以上である場合に配線Lが短絡していると判定し、電流値が第3閾値よりも小さい第4閾値以下である場合に配線Lが断線していると判定してもよい。
【0041】
[放送回路16の動作の流れ]
図4は、放送回路16の動作フローチャートである。
図4に示すフローチャートは、制御回路13から放送回路16に試験信号に用いる周波数を決定するための指示が入力された時点から開始している。
【0042】
放送回路16は、制御回路13から指示を受けたことに応じて、信号制御部169が信号発生部162に対して、複数の周波数の試験信号を順次配線Lに印加する(S1)。この間、変動量特定部167は、電気的特性の変動量を測定する。変動量特定部167は、試験信号の周波数に関連付けて、変動量を記憶部166に記憶させる(S2)。
【0043】
続いて、選択部168は、全ての周波数の試験信号が印加された後に、記憶部166に周波数に関連付けて記憶された変動量を読み出す。選択部168は、複数の周波数のうち、最も小さい変動量に関連付けられている周波数を使用周波数として選択する。選択部168は、選択した周波数を使用周波数として記憶部166に記憶させる(S3)。その後、信号制御部169は、制御回路13から配線Lの試験を実施する指示を受信すると、記憶部166に記憶された使用周波数を読み出して、読み出した使用周波数の試験信号を信号発生部162に発生させることにより、配線Lの試験を実施する(S4)。変動量特定部167は、インピーダンスの値に基づいて配線Lの状態を判定し、判定した結果を制御回路13に通知する。
【0044】
なお、非常放送装置1は、以上説明した複数の周波数の試験信号に対する変動量の測定を、配線Lの試験を実施する度に行ってもよく、非常放送装置1の電源が投入された直後に実行してもよく、操作部回路12に設けられたスイッチ等の操作によって実行してもよい。非常放送装置1は、変動量の測定を所定の時間間隔で行ってもよく、以上の各種のタイミングを組み合わせて行ってもよい。また、非常放送装置1は、試験信号の印加による試験を、非常放送装置1の電源が投入された直後に実行してもよく、操作部回路12に設けられたスイッチ等の操作によって実行してもよい。非常放送装置1は、試験信号の印加による試験を所定の時間間隔で行ってもよく、以上の各種のタイミングを組み合わせて行ってもよい。
【0045】
[実験結果]
図5は、ノイズが印加された状態で周波数が異なる複数の試験信号を配線Lに印加した場合に平滑化部164から出力された信号の実測値を示す図である。
図5の横軸は時間を示しており、縦軸は電圧を示している。ノイズの周波数は50.1Hzである。
図5(a)は、周波数が50.0Hzの試験信号を配線Lに印加している間に平滑化部164から出力された信号の波形を示している。
図5(a)においては、ノイズの周波数と試験信号の周波数との差に相当する0.1Hzのうなりが発生していることが確認できる。
【0046】
図5(b)は、周波数が42.0Hzの試験信号を配線Lに印加している間に平滑化部164から出力された信号の波形を示している。この場合、平滑化部164に入力される信号においては、ノイズの周波数と試験信号の周波数との差に相当する8.0Hzの低周波信号が重畳された直流信号が現れるが、周波数8.0Hzの交流成分は平滑化部164のカットオフ周波数よりも高いので、平滑化部164で除去される。その結果、試験信号として周波数42.0Hzを用いる場合、周波数が50.1Hzのノイズの影響を受けないということがわかる。
【0047】
[非常放送装置1による効果]
以上説明したように、非常放送装置1においては、変動量特定部167が、複数の試験信号それぞれを配線Lに印加している間の配線Lの電気的特性の変動量を特定する。そして、選択部168は、複数の試験信号それぞれに対応する複数の変動量に基づいて、複数の周波数から試験に使用する使用周波数を選択する。その後、信号制御部169は、配線Lの状態を試験する際に、選択部168が選択した使用周波数の試験信号を配線Lに印加するように信号発生部162を制御する。非常放送装置1がこのように動作することで、非常放送装置1は、外部からノイズを受ける環境に配線Lが設置されている場合であっても、ノイズの影響を受けることなく配線Lの状態を試験することができる。その結果、非常放送回線の状態を判定する精度を向上させることができる。
【0048】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。