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特開2020-172700三価クロム化合物を含む電解液を使用するクロムおよび酸化クロムのコーティングで被覆された金属ストリップの製造方法およびこの方法を実施するための電解システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-172700(P2020-172700A)
(43)【公開日】2020年10月22日
(54)【発明の名称】三価クロム化合物を含む電解液を使用するクロムおよび酸化クロムのコーティングで被覆された金属ストリップの製造方法およびこの方法を実施するための電解システム
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20200925BHJP
   C25D 5/14 20060101ALI20200925BHJP
   C25D 5/26 20060101ALI20200925BHJP
   C25D 5/48 20060101ALI20200925BHJP
   C25D 17/10 20060101ALI20200925BHJP
   C25D 3/06 20060101ALI20200925BHJP
【FI】
   C23C28/00 C
   C25D5/14
   C25D5/26 J
   C25D5/48
   C25D17/10 101A
   C25D3/06
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-55305(P2020-55305)
(22)【出願日】2020年3月26日
(31)【優先権主張番号】10 2019 109 356.2
(32)【優先日】2019年4月9日
(33)【優先権主張国】DE
(71)【出願人】
【識別番号】513213841
【氏名又は名称】ティッセンクルップ ラッセルシュタイン ゲー エム ベー ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア マルマン
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ モルス
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン アルトゥング
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
4K044
【Fターム(参考)】
4K023AA11
4K023BA03
4K023BA06
4K023BA29
4K023CA09
4K023CB03
4K023DA02
4K023DA06
4K023DA07
4K023DA08
4K024AA02
4K024AB02
4K024AB03
4K024AB04
4K024BA01
4K024BA03
4K024BB21
4K024BC01
4K024CA01
4K024CA02
4K024CA03
4K024CA04
4K024CA06
4K024CB06
4K024CB07
4K024DA03
4K024DA04
4K024DB04
4K024DB06
4K024DB10
4K024GA04
4K024GA12
4K044AA01
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA02
4K044BA10
4K044BA15
4K044BA21
4K044BB04
4K044BB05
4K044BB06
4K044BC04
4K044CA04
4K044CA17
4K044CA18
4K044CA53
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い耐食性を有し、有機カバーコートの密着性に優れたクロム金属および酸化クロム含有コーティングで被覆された鋼ストリップを製造するために可能な最も効率的で費用効果が高く、省エネルギーの方法を提供する。
【解決手段】コーティングで被覆される金属ストリップ(M)を製造する方法であって、前記コーティングが、クロム金属および酸化クロム/水酸化クロムを含み、且つ、前記コーティングが、三価クロム化合物、導電性を高めるための少なくとも1種の塩、および所望のpH値に設定するための少なくとも1種の酸または塩基を含む電解液から、前記金属ストリップを電解時間の間、前記電解液(E1,E2)と電解的に効果的に接触させることによって、前記金属ストリップに電析される、製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング(B)で被覆される金属ストリップ(M)を製造する方法であって、前記コーティング(B)が、クロム金属および酸化クロム/水酸化クロムを含み、且つ、前記コーティング(B)が、三価クロム化合物、導電性を高めるための少なくとも1種の塩、および所望のpH値に設定するための少なくとも1種の酸または塩基を含む電解液から、前記金属ストリップ(M)を電解時間の間、前記電解液(E)と電解的に効果的に接触させることによって、前記金属ストリップ(M)に電析される、製造方法において、前記金属ストリップ(M)を、所定のストリップ移動速度(v)で、ストリップ移動方向に連続的に配置される複数の電解槽(1a、1b、1c;1a〜1h)を連続的に通過させ、前記ストリップの移動方向で見て、少なくとも第1の電解槽(1c、1h)または複数の電解槽のうちの前グループ(1a、1b)は、第1の電解液(E1)で満たされ、ストリップの移動方向で見て、最後の電解槽(1c、1h)または複数の電解槽のうちの後グループ(1g、1h)は、第2の電解液(E2)で満たされ、前記第2の電解液(E2)は、三価クロム化合物、少なくとも1種の塩および少なくとも1種の酸または塩基以外に、他の成分を含まず、有機錯化剤を含まず、緩衝剤を含まないことを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
少なくとも大部分が酸化クロムおよび/または水酸化クロムからなる層が、前記最後の電解槽(1c、1h)または前記複数の電解槽のうちの後グループ(1g、1h)において析出することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
酸化クロムおよび/または水酸化クロムからなる前記層が、90%超の酸化クロムおよび/または水酸化クロムの重量割合を有する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第1の電解液(E1)の組成は前記第2の電解液(E2)の組成と異なっており、前記第1の電解液(E1)および前記第2の電解液(E2)は、三価クロム化合物に加えて、少なくとも1種の塩および少なくとも1種の酸または塩基を含み、塩化物イオンを含まず、緩衝剤を含まず、前記第1の電解液(E1)は、特にギ酸塩の形態である有機錯化剤を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記金属ストリップ(M)は、所定のストリップ移動速度(v)で前記電解槽(1a、1b、1c;1a〜1h)を連続的に通過し、前記ストリップ移動速度(v)は、少なくとも100m/分、好ましくは200m/分〜750m/分の範囲であり、前記金属ストリップ上にコーティング(B)を析出させるために、前記金属ストリップ(M)を、第1の電解時間(t1)の間、前記第1の電解液(E1)と接触させ、且つ第2の電解時間(t2)の間、前記第2の電解液(E2)と接触させ、総電解時間(tG=t1+t2)は0.5〜6.0秒の範囲であり、前記金属ストリップ(M)が電解的に効果的に前記第1の電解液(E1)と接触する前記第1の電解時間(t1)は、2.0秒よりも短く、前記金属ストリップ(M)が電解的に効果的に前記第2の電解液(E2)と接触する前記第2の電解時間(t2)は、2.0秒より短い、請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1および第2の電解液(E1、E2)の、前記電解槽(1a、1b、1c、1a〜1h)の体積にわたる平均の温度は、20℃〜65℃、特に30℃〜55℃、好ましくは35℃〜45℃の範囲であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の電解液(E1)および前記第2の電解液(E2)はそれぞれ、塩基性硫酸Cr(III)(Cr(SO)、硝酸Cr(III)(Cr(NO)、シュウ酸Cr(III)(CrC)、酢酸Cr(III)(C1236ClCr22)、ギ酸Cr(III)(Cr(OOCH))またはそれらの混合物を含む群から選択される三価クロム化合物を含み、前記第1の電解液(E1)および前記第2の電解液(E2)はそれぞれ、導電性を高めるための少なくとも1種の塩を含み、前記塩は、好ましくは少なくとも1種のアルカリ金属硫酸塩、特に硫酸カリウムまたは硫酸ナトリウムを含み、前記第1の電解液(E1)および前記第2の電解液(E2)はハロゲン化物を含まず、特に塩化物イオンおよび臭化物イオンを含まないことを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の電解液(E1)および/または前記第2の電解液(E2)は、2.3〜5.0、好ましくは2.5〜2.9の範囲のpH値(20℃の温度で測定)を有し、前記pH値は、少なくとも1種の酸を第1または第2の電解液に添加することにより設定され、少なくとも1種の酸は好ましくは硫酸を含むか、または好ましくは硫酸からなることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の電解液(E1)および/または前記第2の電解液(E2)中の前記三価クロム化合物の濃度は、少なくとも10g/Lであることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の電解液(E2)から析出した酸化クロム/水酸化クロムの層の酸化クロムおよび/または水酸化クロムの総コーティング重量は、少なくとも3mg/m、特に7mg/m〜10mg/mの範囲であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記コーティング(B)が電析した後、有機材料のカバーコート、特に塗料または熱可塑性材料、特にPET、PE、PPまたはそれらの混合物のポリマーフィルムのカバーコートが、前記コーティング(B)、特に前記コーティング(B)の最上層(B3)に設けられることを特徴とする、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記コーティング(B)の電析中の適切なアノードの使用により、前記電解液(E)の三価クロム化合物のクロム(III)の、クロム(VI)への酸化が防止されることを特徴とする、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記アノードが、ステンレス鋼および白金を含まない、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記アノードが、金属酸化物、特に酸化イリジウム、または混合金属酸化物、特にイリジウム−タンタル酸化物の、外側表面若しくはコーティングを有するか、またはそれらからなることを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の電解液(E2)を調製するために、不可避的不純物および残留成分以外の有機残留物が放出された前記三価クロム化合物、前記少なくとも1種の塩および所望のpH値に設定するための前記少なくとも1種の酸または塩基を水に溶解し、こうして得られた溶液を錯化のために少なくとも5日間、好ましくは7日間静置し、その後、酸または塩基を添加することによってpH値を微調整する、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
クロムおよび酸化クロムおよび/または水酸化クロムを含むコーティング(B)を金属ストリップ(B)の表面に電析させるための電解システムであって、当該電解システムは、
−第1の電解液(E1)で満たされた少なくとも1つの第1電解槽(1a)またはそれぞれが第1電解液(E1)で満たされた複数の前方電解槽のグループ(1a、1b、1c)、
−第2の電解液(E2)で満たされた最後の電解槽(1c)またはそれぞれが第2の電解液(E2)で満たされた複数の後方電解槽のグループ(1g、1h)であって、前記第1の電解液(E1)が、三価クロム化合物、導電性を高めるための少なくとも1種の塩、所望のpH値に設定するための少なくとも1種の酸または塩基、および有機錯化剤を含み、前記第2の電解液(E2)が、三価クロム化合物、導電性を高めるための少なくとも1種の塩、および所望のpH値に設定するための少なくとも1種の酸または塩基以外に他の成分を含まず、有機成分を含まず、緩衝剤を含まない点で、前記第1の電解液(E1)の組成が前記第2の電解液(E2)の組成とは異なる、最後の電解槽(1c)または複数の後方電解槽のグループ(1g、1h)、
を含み、
−不動態化層を電析するために、前記金属ストリップ(M)を、所定のストリップ移動速度(v)で前記電解槽(1a、1b、1c、1a〜1h)をストリップ移動方向に通過させ、表面を前記第1および第2の電解液(E1、E2)と電解的に効果的に接触させ、
−その結果、クロム金属および酸化クロムの層、および該当する場合は追加のクロム化合物が、前記第1の電解槽(1a)または電解槽の前グループ(1a、1b、1c)で析出し、
−少なくとも大部分が酸化クロムのみからなる層が、前記最後の電解槽(1c)または電解槽の後グループ(1g、1h)で析出する、
電解システム。
【請求項17】
電析により金属ストリップの表面に生成されたコーティング(B)を備えた金属ストリップ、特に鋼ストリップであって、前記コーティングがクロムおよび酸化クロム/水酸化クロムを含む金属ストリップにおいて、前記コーティング(B)が、前記金属ストリップの表面に面する第1層と、上部に存在する第2層とから構成されており、前記第1層は金属クロムを含み、前記第2層は少なくとも大部分が酸化クロムおよび/または水酸化クロムのみからなる、
金属ストリップ。
【請求項18】
前記第2の層における酸化クロムおよび/または水酸化クロムの重量割合は90%より高いことを特徴とする、請求項16に記載の金属ストリップ。
【請求項19】
前記第2の層における酸化クロムおよび/または水酸化クロムの重量割合は95%より高いことを特徴とする、請求項16に記載の金属ストリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプレアンブルに従うコーティングで被覆された金属ストリップの製造方法、および金属ストリップの表面上にクロムおよび酸化クロムコーティングを電析するための電解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
包装材料の製造において、クロムおよび酸化クロムのコーティングで被覆され電解被覆(エレクトロコーティング)された鋼板を使用できることが従来技術から知られており、この鋼板はブラックプレート(「ティンフリー鋼」、TFS)または「電解クロムコーティング鋼」(ECCS)」として知られ、ブリキの代替品である。このティンフリー鋼は、塗料または有機保護コーティング(例えば、PPまたはPETのポリマーコーティング)に特に良好な接着性が特徴である。概して20nm未満のクロムおよび酸化クロムのコーティングの薄い厚さにもかかわらず、このクロムコーティング鋼板は、良好な耐食性および包装材料の製造に使用される変形加工、例えば、深絞り加工およびしごき加工での良好な作業性が特徴である。
【0003】
金属クロムおよび酸化クロムを含むコーティングで鋼基材を被覆するために、従来技術から電解被覆法を使用することが知られており、それにより、コーティングは、クロム(VI)含有電解液を使用して、ストリップ状の鋼板上にストリップコーティングシステムで析出する。ただし、これらのコーティング方法は、電解プロセスで使用されるクロム(VI)含有電解液の環境に有害で健康を脅かす特性のため、重大な欠点があり、クロム(VI)含有材料の使用は間もなく禁止されるので、それほど遠くない将来に代替のコーティング方法に置き換えられる必要がある。
【0004】
このため、クロム(VI)含有電解液の使用を不要にする電解被覆法が、最先端技術ですでに開発されている。例えば、特許文献1は、ストリップコーティングシステムにおいて、クロム金属/酸化クロム(Cr/CrOx)層でストリップ状鋼板を電解被覆する方法を開示しており、カソードとして接続された鋼板は、三価クロム化合物(Cr(III))、錯化剤、導電性を高め、塩化物を含まない塩、および例えばホウ酸などの緩衝剤を含む単一の電解液中を、100m/分を超える高速のストリップ移動速度で通過する。この場合、有機物質、特にギ酸塩、好ましくはギ酸ナトリウムまたはギ酸カリウムが錯化剤として使用される。電解液は、硫酸を含み、2.5〜3.5の範囲で好ましいpH値に調整することができる。クロム金属および酸化クロムのコーティングは、それぞれが同じ電解液で満たされた、連続した電解槽または順次配置されたストリップコーティングシステムで層ごとに析出させることができる。
【0005】
その後、電析コーティングはまた、クロム金属および酸化クロムの成分に加えて、硫酸クロムおよび炭化クロムを含むことができ、不動態化層の総コーティング重量におけるこれらの成分の割合は、電解槽で使用される電流密度に大きく依存することが観察された。電流密度の関数として3つの領域(レジームI、レジームII、レジームIII)が形成されることが確立されたが、ここでは鋼基材上のクロム含有析出が第1の電流密度の閾値までの低電流密度である第1の領域では起こらず(レジームI)、中電流密度である第2の領域において線形の関係が電流密度と析出したコーティング層のコーティング重量との間に存在し(レジームII)、形成されたコーティング層の部分的な分解が第2の電流閾値を超える電流密度(レジームIII)で起こるため、このレジームでのコーティング層のクロムのコーティング重量は、電流密度が増大するにつれ、最初に低下し、その後より高い電流密度では平衡値になる。中電流密度の領域(レジームII)では、(不動態化層の総重量に対して)80%までの重量割合で鋼基材上に本質的に金属クロムが析出し、第2の電流密度閾値を超えると(レジームIII)、コーティング層には、酸化クロムがより高い割合で含まれ、これは、電流密度が高い領域でコーティング層の総コーティング重量の1/4〜1/3を占める。この場合、領域(レジームIからレジームIII)を相互に区切る電流密度閾値は、鋼板が電解液を通過する際のストリップ移動速度に依存する。
【0006】
特許文献2に記述されているように、クロム/酸化クロムコーティングで被覆されたブラックプレート(被覆されていない鋼板)が包装用途で使用するのに十分に高い耐食性を有することを確実にするために、少なくとも20mg/mの最小コーティング重量が従来のECCSに匹敵する耐食性を達成するために必要とされる。さらに、包装用途で使用する目的で十分に高い耐食性を達成するために、コーティングは少なくとも5mg/mの酸化クロムの最小コーティング重量を有していなければならないことが分かった。コーティングが酸化クロムのこうした最小コーティング重量を有するのを確実にするために、電解プロセス中に高電流密度を適用して、比較的高い酸化クロムの重量割合を有するコーティングが鋼基材上に析出する領域(レジームIII)で動作できるようにすることが推奨されるようである。その結果、高重量部の酸化クロムを有するコーティングを得るには、高い電流密度を使用する必要があるであろう。ただし、電解槽で高電流密度を達成するには、アノードに高電流を印加するためにかなりのエネルギーを消費する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2015/177314A1
【特許文献2】WO2014/079909A1
【発明の概要】
【0008】
したがって、本発明によって解決される問題は、三価クロム化合物を含む電解液を使用して、酸化クロム含有コーティングで被覆された金属ストリップを製造するために可能な最も効率的で費用効果が高く、省エネルギーの方法を利用可能にすることである。同時に、電解プロセス中に形成される中間生成物の形態を含む、クロム(VI)含有物質の使用は、クロム(VI)含有物質の禁止に関する法規条項を完全に順守可能にするために回避することが必須である。加えて、本発明の方法による被覆された金属ストリップは、可能な限り高い耐食性を有し、有機カバーコート、例えば、有機塗料およびポリマーコーティング、特に、例えばPET、PEまたはPPで作製されたポリマーフィルムのための良好な接着ベース表面を形成するべきである。
【0009】
この問題は、請求項1の特徴を備えた方法と、請求項16の特徴を備えた電解システムと、請求項17のような金属ストリップとによって解決される。方法および電解システムの好ましい実施形態は、従属請求項から得られる。
【0010】
本発明により開示される方法によれば、クロム金属および酸化クロム/水酸化クロムを含むコーティングは、三価クロム化合物、導電性を高めるための少なくとも1種の塩、および所望のpH値に設定するための少なくとも1種の酸または塩基を含む電解液から金属ストリップ、特に鋼ストリップ上に、金属ストリップを電解液と電解的に効果的に接触させることによって電析され、この金属ストリップを、ストリップ移動方向に所定のストリップ移動速度で、ストリップ移動方向に互いに連続的に接続される複数の電解槽を連続的に通過させ、ストリップ移動方向で見たとき、少なくとも第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループは、第1の電解液で満たされ、ストリップ移動方向で見たとき、最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループは、第2の電解液で満たされ、第2の電解液は、三価クロム化合物、少なくとも1種の塩および少なくとも1種の酸または塩基以外の成分を含まず、特に有機錯化剤および緩衝剤を含まない。この目的のために、中間生成物の形態の物質を含むクロム(VI)含有物質は使用されないため、この方法がクロム(VI)含有物質を完全に含まずに実行されることを確実にするので、実施中の環境および健康に対するリスクがない。
【0011】
驚くべきことに、電解液の成分としてギ酸塩などの有機錯化剤を使用することなく、金属ストリップの表面にクロム含有層を電析することが可能であることを見出し、有機錯化剤を含まない電解液を用いて析出された層は、少なくとも大部分が酸化クロムおよび/または水酸化クロムのみからなる。純粋な酸化クロム/水酸化クロムからなり、コーティングの表面を形成する層が、耐食性および塗料またはポリマー層などの有機コーティングに対する接着強度に関して有益であることも示されている。したがって、本発明により開示される方法は、ストリップ移動方向で見たとき、最後の電解槽、または複数の電解槽のうちの後グループが、有機錯化剤を含まない第2の電解液を含むことを提案する。このようにして、コーティングの表面上に、少なくとも大部分が純粋な酸化クロムおよび/または水酸化クロムからなる層を製造することが可能である。対照的に、そのようなコーティングの下に存在する、ストリップの移動方向で見たときに、上流の電解槽において析出した層は、酸化クロム/水酸化クロム部分に加えて、金属クロムの部分も含む、なぜなら、上流の電解槽が、(有機)錯化剤、特に、例えばギ酸ナトリウムまたはギ酸カリウムなどのギ酸塩を含有する第1の電解液を含むからである。したがって、金属ストリップの表面に電析したコーティングは、順に重なる複数の層で構成され、下層はクロム金属および酸化クロムおよび/または水酸化クロムの混合物、並びに該当する場合、炭化クロムなどの追加のクロム化合物を含み、コーティングの表面を形成する最上層は、少なくとも大部分が純粋な酸化クロムおよび/または水酸化クロムからなる。個々の層のコーティング重量は、特に個々の電解槽での電解時間の長さによって制御できるため、所望の値に設定できる。
【0012】
本明細書において、酸化クロムへの言及は、水酸化クロム、特に水酸化クロム(III)および酸化クロム(III)水和物、およびそれらの混合物を含む、クロムのすべての形態の酸化物(CrOx)を含むものとする。クロムが三価の形態で存在するクロムおよび酸素の化合物、特に三酸化二クロム(Cr)が特に好ましい。したがって、金属クロムに加えて、コーティングは、好ましくは三価クロム化合物のみを含み、最も好ましくは三価の酸化クロムおよび/または水酸化クロムのみを含む。
【0013】
最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループにて析出するコーティングの最上層は、好ましくは、水酸化クロムを含む酸化クロムの重量割合が90%超過、最も好ましくは95%超過である。これにより、有機コーティング、例えば塗料または例えばPETもしくはPPなどの熱可塑性材料のポリマー層に対する良好な接着強度を備えた良好な接着ベースが確保される。
【0014】
金属ストリップ上に層を電析するために、例えば、被覆されていない鋼ストリップ(ブラックプレートストリップ)またはスズメッキされた鋼ストリップ(ブリキストリップ)であってもよい金属ストリップを、第1の電解時間t1の間、第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループにおいて第1の電解液とまず接触させ、その後、第2の電解時間t2の間、第2の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループにおいて第2の電解液と接触させる。全体の電解時間tG=t1+t2は、好ましくは0.5〜5.0秒の範囲であり、最も好ましくは1.0〜1.5秒である。この目的のために、金属ストリップを、所定のストリップ移動速度で、ストリップ移動方向に互いに連続的に接続された電解槽を連続的に通過させ、このストリップ移動速度は少なくとも100m/分であり、好ましくは200m/分〜750m/分の範囲である。ストリップ移動速度が速いため、この方法は非常に効率的であることを確実にできる。
【0015】
好ましいストリップ移動速度では、金属ストリップが第1電解液と電解的に効果的に接触している第1の電解時間は2.0秒より短く、金属ストリップが第2の電解液と電解的に効果的に接触している第2電解時間は好ましくは同様に2.0秒よりも短い。
【0016】
最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループの電解時間は、第2の電解液から析出した酸化クロムの層が少なくとも3mg/m、好ましくは7mg/m〜10mg/mの酸化クロムの総コーティング重量を有するように、ストリップ移動速度によって設定されることが好ましい。酸化クロムのコーティング重量は、十分に高い耐食性を確実にし、塗料または熱可塑性フィルムなどの有機トップコートに対する良好な接着ベースを提供する。包装用途で使用するために十分に高い耐食性を確実にするために、最上層は、好ましくは少なくとも5mg/m、最も好ましくは7mg/mを超える酸化クロムのコーティング重量を有する。
【0017】
したがって、耐食性を改善し、硫黄含有材料、特に包装材料に使用される硫化物または亜硫酸塩含有包装内容物に対するバリアを創出するために、コーティングの電析後、問題なく有機材料、特に塗料または熱可塑性材料のコーティング、より詳細にはPET、PE、PP若しくはこれらの混合物のポリマーフィルムを堆積させることが可能であり、これは、コーティングの表面(すなわち酸化クロム/水酸化クロムの最上層)において、コーティングの酸化クロム上部層に十分に接着する。
【0018】
クロム(VI)含有物質を完全に含まない方法を確実にするためには、コーティングの電析に適切なアノードを使用し、それを電解槽内に配置し、電解液の三価クロム化合物のクロム(III)の、クロム(VI)への酸化を防止することが推奨される。金属酸化物、特に酸化イリジウム、または混合金属酸化物、特にイリジウム−タンタル酸化物の外側表面またはコーティングを備えたアノードが特にこの目的に適していることを見出した。アノードは、ステンレス鋼または白金を含まないことが好ましい。このようなアノードを使用すると、三価の酸化クロムおよび/または水酸化クロムのみ、特にCrおよび/またはCr(OH)のみを含むコーティングをブラックプレートまたはブリキ鋼に析出させることができる。
【0019】
任意のガルバニックプロセスと同様に、クロム(III)電解液からのガルバニッククロムメッキの間、カソード還元に加えて、少なくとも1つのアノード酸化が行われる。クロム(III)電解液からのガルバニッククロムメッキ中、アノード酸化には、一方でCr(III)からCr(VI)への酸化と、他方で水から酸素への酸化とが含まれる。電気化学列では、両方の電位は互いに近接している。
(1)クロム(Cr) Cr6++3e⇔Cr3++1.33V
(2)酸素(O) O+4H+4e⇔2HO+1.23V
【0020】
電位は、関連するダニエル電池で測定される。酸化還元式の電位は、使用されるアノード材料に依存することに留意すべきである。したがって、使用されるアノード材料は、反応(1)が抑制され、反応(2)のみが起こるかどうかの重要な決定要因である。本発明による方法を実施する際にCr6+の形成を防止するために、反応1を抑制する目的で、例えば、金属酸化物、特に酸化イリジウム、または混合金属酸化物、例えば主に酸化タンタルおよび酸化イリジウムの多層コーティングからなる混合金属酸化物をベースとしたアノードを使用できる。アノードは、混合金属酸化物の外側表面または外側コーティングを有することができる。チタンのコアと酸化タンタル−酸化イリジウムの外側コーティングとを備えたアノードは、この目的に特に適していることが示されている。このようなアノードを使用すると、ポーラログラフ測定(滴下水銀電極)によってCr(VI)が形成されないことを実証することができた。
【0021】
ステンレス鋼製のアノードを使用すると、Cr(III)からCr(VI)への酸化(反応1)は(十分に)抑制されない。ステンレス鋼アノードを使用した比較測定では、わずか数秒の総コーティング時間の後、明確に検出可能なCr(VI)濃度が示される。これは、アノード材料としてステンレス鋼を使用すると、Cr(III)からCr(VI)への酸化が少なくとも完全には抑制されないことを示す。これにより、Cr(III)電解液にCr(VI)が蓄積し、異なる析出メカニズムが生じる。したがって、本発明による方法では、ステンレス鋼を含まないアノードが使用されることが好ましい。これにより、電解中にCr(VI)が形成されず、析出したコーティングがCr(III)化合物および金属クロムのみを含むことを確実にできる。さらに、これにより、例えばチオ硫酸塩による後処理の必要性が不要になり、そうでなければ、ステンレス鋼のアノードが使用された場合に、析出したCr(VI)からCr(III)への還元のために後処理が必要になる。
【0022】
すでに第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループ、および該当する場合は複数の中間電解槽のうちの1つまたは複数の電解槽のうちの中間グループにおいて、水酸化クロムを含む酸化クロムは、析出したコーティングの総コーティング重量の特定重量割合(通常9〜25%)を占めるため、酸化クロム結晶が、金属ストリップの表面において、第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループ、および中間電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループで、すでに形成されている。最後の電解槽および/または複数の電解槽のうちの後グループでは、これらの酸化クロム結晶は追加の酸化物結晶の成長のための核セルとして機能し、これは、酸化クロムの析出効率、またはより具体的には、コーティングの総コーティング重量に対する酸化クロム割合が、最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループでなぜ改善されるのかを説明している。したがって、好ましくはコーティングの表面上に5mg/mを超える、水酸化クロムを含む酸化クロムの十分に高いコーティング重量を効率的に生成することが可能である。
【0023】
金属ストリップのストリップ移動速度は、各電解槽において、金属ストリップが電解液と電解的に効果的に接触している間の電解時間(t)が2.0秒より短く、特に0.5秒〜1.9秒の範囲、好ましくは1.0秒より短く、最も好ましくは0.6秒〜0.9秒の範囲であるように設定されるのが好ましい。これは、一方ではプロセスのより高い効率を確実にし、他方では、コーティング中の好ましくは少なくとも40mg/m、特に70mg/m〜180mg/mのクロムの十分に高い総コーティング重量でのコーティングの析出を確実にする。コーティングの総コーティング重量に対するコーティングに含まれる酸化クロムの重量割合は、好ましくは10%より大きく、より好ましくは20%より大きく、最も好ましくは25〜50%の範囲である。
【0024】
すべての電解槽で合計すると、金属ストリップが電解液(E)と電解的に効果的に接触する総電解時間(t)は、好ましくは16秒より短く、特に3〜16秒の範囲である。総電解時間は、最も好ましくは8秒より短く、特に4秒〜7秒の範囲である。
【0025】
金属ストリップがストリップ移動方向に通過する電解槽の構成の結果として、コーティングは層ごとに析出し、これは、各電解槽に設定された電流密度および電解液組成に依存し、各電解槽で異なる組成、特に各電解槽で生成される各層に異なる酸化クロム割合を含む層を生成する。したがって、例えば、第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループにおいては、水酸化クロムを含む、15%未満、特に6〜10%の重量割合の酸化クロムを有するクロム金属および酸化クロム/水酸化クロムを含む層を、金属ストリップの表面上に析出させることができ、最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループにおいては、少なくとも大部分が純粋な酸化クロムおよび/または水酸化クロムからなる層を析出させることができる。
【0026】
第1および第2の電解液は、好ましくはそれぞれ20℃〜65℃の範囲、より好ましくは30℃〜55℃の範囲、最も好ましくは35℃〜45℃の範囲の温度を有する。これらの温度では、層の電析は非常に効率的である。本明細書において、電解液の温度または電解槽内の温度への言及は、電解槽の全体積の平均として生じる平均温度を意味することを意図している。概して、電解槽の上部から底部へ温度が上昇する温度勾配がある。
【0027】
三価クロム化合物に加えて、第1電解液および第2電解液の両方はそれぞれ、少なくとも1種の導電性向上塩および適切なpH値に設定するための少なくとも1種の酸または塩基を含むことが好ましい。第1の電解液および第2の電解液の両方は、好ましくは塩化物イオンを含まず、緩衝剤を含まず、特にホウ酸緩衝剤を含まない。
【0028】
第1電解液および/または第2電解液の三価クロム化合物は、好ましくは、塩基性硫酸Cr(III)(Cr(SO)、硝酸Cr(III)(Cr(NO)、シュウ酸Cr(III)(CrC)、酢酸Cr(III)(C1236ClCr22)、ギ酸Cr(III)(Cr(OOCH))、またはそれらの混合物を含む群から選択される。第1電解液および/または第2電解液中の三価クロム化合物の濃度は、好ましくは少なくとも10g/L、より好ましくは15g/Lよりも大きく、最も好ましくは20g/L以上である。
【0029】
導電性を高めるために、第1の電解液と第2の電解液との両方は、好ましくはアルカリ金属硫酸塩、特に硫酸カリウムまたは硫酸ナトリウムである少なくとも1種の塩をそれぞれ含む。
【0030】
第1電解液および/または第2電解液のpH値(20℃の温度で測定)が2.3〜5.0の範囲、好ましくは2.5〜2.9にある場合、クロムおよび/または酸化クロム含有層の非常に効率的な析出が達成される。所望のpH値は、酸または塩基を第1および/または第2の電解液に添加することにより設定できる。使用される三価クロム化合物が塩基性硫酸Cr(III)である場合、所望のpH値に設定するために、特に硫酸または硫酸を含む酸混合物を、適切に使用することができる。
【0031】
第1の電解液の組成は、第1の電解液が、有機錯化剤、特にギ酸塩の形態、好ましくはギ酸カリウムまたはギ酸ナトリウムの形態の有機錯化剤を含む一方で、第2の電解液が、好ましくは錯化剤を含まず、特にギ酸塩などの有機錯化剤は含まないという点で、第2電解液とは異なる。
【0032】
第1および第2の電解液の特に好ましい組成物は、三価クロム化合物としてそれぞれ塩基性硫酸Cr(III)(Cr(SO)を含む。第1および第2の電解液中の三価クロム化合物の濃度は、好ましくは少なくとも10g/L、より好ましくは15g/Lよりも大きく、最も好ましくは20g/L以上である。
【0033】
第1の電解液の他の成分には、導電性を高めるための塩および有機錯化剤、特にギ酸カリウムまたはギ酸ナトリウムなどのギ酸の塩が含まれる。三価クロム化合物の重量割合と、錯化剤、特にギ酸塩の重量割合との比は、好ましくは1:1.1〜1:1.4、より好ましくは1:1.2〜1:1.3であり、最も好ましくは1:1.25である。
【0034】
他の成分、すなわち、三価クロム含有物質、導電性を高めるための少なくとも1種の塩、およびpH値を設定するための少なくとも1種の酸または塩基以外の成分を、第2の電解液は、好ましくは含まない。これにより、第2の電解液の簡単で費用対効果の高い方法での調製を確実にする。
【0035】
第2電解液を製造するために、大半の有機残留物が最初に除かれた三価クロム化合物、少なくとも1種の塩、および所望のpH値に調整するための少なくとも1種の酸または塩基を水に溶解する。電解液は錯化剤を含まないので、こうして得られた溶液を、好ましくは少なくとも5日間、好ましくは少なくとも7日間、(大気中の酸素で)錯化のために静置すべきである。次に、酸または塩基を添加することにより、所望のpH値に微調整できる。
【0036】
本発明による方法を用いて、クロムおよび酸化クロム/水酸化クロムを含む電析コーティングを有する金属ストリップ、特に鋼ストリップを製造することが可能であり、そのコーティングは、金属ストリップの表面に面する第1の層と、第1の層の上に存在する第2の層とから構成され、第1の層は金属クロムを含有し、第2の層は、少なくとも大部分が酸化クロムおよび/または水酸化クロムのみ、好ましくは三価の酸化クロムおよび/または水酸化クロムのみからなり、好ましくは90%よりも大きく、最も好ましくは95%よりも大きい酸化クロムおよび/または水酸化クロムの重量割合を有する。
【0037】
このタイプの本発明の金属ストリップは、高い耐食性と、塗料またはポリマーフィルムなどの有機コーティングに対する良好な接着力とによって特徴付けられる。コーティングの少なくとも大部分(つまり、不可避不純物を除く)は、クロムおよび酸素の化合物のみを含み、クロムは三価の形態、特にCrおよび/またはCr(OH)の形態で存在する。
【0038】
本発明は、添付の図面を参照し、以下の実施例に基づいてより詳細に説明されるが、これらの実施例は、添付の特許請求の範囲によって定義される保護範囲を決して限定することなく、単に例として本発明を説明することを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明による方法の実施のためのストリップコーティングラインの第1の実施例の概略図であり、ストリップ移動方向vに互いに連続して接続された3つの電解槽を含む。
図2】本発明による方法の実施のためのストリップコーティングラインの第2の実施例の概略図であり、ストリップ移動方向vに互いに連続して接続された8個の電解槽を含む。
図3】第1の実施例で記載した本発明による方法により被覆された金属ストリップの断面図である。
図4】三価クロム物質(塩基性硫酸Cr(III))および有機錯化剤(ギ酸ナトリウム)を含む電解液を使用して、鋼ストリップに電析した層のGDOESスペクトルであり、その層は、クロム金属、酸化クロムおよび炭化クロムを含み、主に層の表面に酸化クロムが存在している。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明による方法を実施するためのストリップコーティングラインが図1に概略的に示されている。ストリップコーティングラインは、前後に並んで配置された3つの電解槽1a、1b、1cを含み、それぞれの電解槽は、電解液Eで満たされている。最初に被覆されていない金属ストリップM、例えばブラックプレートストリップまたはブリキストリップが、電解槽1a〜1cを連続的に通過する。この目的のために、コンベヤ装置(図示せず)を使用して、金属ストリップMは、ストリップ移動方向vに、所定のストリップ移動速度で、電解槽1a〜1cを通るように引っ張られる。電解槽1a〜1cの上方には導体ローラSが配置されており、導体ローラSにより、金属ストリップMはカソードとして接続されている。また、各電解槽にはガイドローラUが配置されており、ガイドローラUの周りで金属ストリップMが案内され、それによって金属ストリップMは電解槽に出入りする。
【0041】
各電解槽1a〜1c内には、少なくとも1つのアノード対APが電解液Eの液面より下に配置されている。図示された実施例では、ストリップ移動方向に互いに連続して接続された2つのアノード対APが、各電解槽1a〜1cに配置されている。金属ストリップMは、アノード対APの対向配置されたアノード間を通過する。したがって、図1の実施例では、各電解槽1a、1b、1cに2つのアノード対APが配置され、金属ストリップMはこれらのアノード対APを連続して通過するようになっている。ストリップ移動方向vで見て、最後の電解槽1cの下流の最後のアノード対APcは、他のアノード対APの長さよりも短い長さを有する。結果として、この最後のアノード対APcでは、同じ量の電流を印加しながら、より高い電流密度を生成することが可能である。
【0042】
金属ストリップMは、最初は被覆されていない鋼ストリップ(ブラックプレートストリップ)またはスズメッキされた鋼ストリップ(ブリキストリップ)であり得る。電解プロセスの準備では、金属ストリップMは最初に脱脂され、すすがれ、酸洗いされ、再びすすがれ、金属ストリップMはこの前処理された形で引き続いて電解槽1a〜1cに連続的に通され、金属ストリップMは、導体ローラSを介して電流を供給することによってカソードとして接続される。金属ストリップMが電解槽1a〜1cを通過するストリップ移動速度は少なくとも100m/分であり、最大900m/分まで測定され得る。
【0043】
ストリップ移動方向vで見て、前方電解槽1aおよび1bは、それぞれ同じ電解液E1で満たされている。この第1の電解液E1は、三価クロム化合物、好ましくは塩基性硫酸Cr(III)、Cr(SOを含む。三価クロム化合物に加えて、第1の電解液E1は、少なくとも1種の有機錯化剤、例えばギ酸の塩、特にギ酸カリウムまたはギ酸ナトリウムを含む。三価クロム化合物の重量割合と、錯化剤、特にギ酸塩の重量割合との比は、好ましくは1:1.1〜1:1.4、最も好ましくは1:1.25である。導電性を高めるために、第1の電解液E1は、塩、特にアルカリ金属硫酸塩、例えば硫酸カリウムまたは硫酸ナトリウムを含む。第1の電解液E1中の三価クロム化合物の濃度は、少なくとも10g/L、最も好ましくは20g/L以上である。第1の電解液E1のpH値は、酸、例えば硫酸を添加することにより、2.0〜3.0の好ましい値、特にpH=2.7に設定される。
【0044】
第1の電解液E1の温度は、2つの前方電解槽1a、1bで便宜上等しく高く、好ましくは25℃〜70℃の範囲である。しかしながら、2つの前方電解槽1a〜1b内の電解液は、異なる温度に設定することもできる。したがって、例えば、中間電解槽1bの電解液の温度を、それよりも上流に配置された前方電解槽1aの温度よりも低くすることができる。中間電解槽1bの電解液の温度は、25℃〜37℃の範囲が好ましく、特に35℃であり、前方電解槽1aの第1の電解液E1の温度は、40℃〜75℃の範囲が好ましく、特に55℃である。電解液E1の温度がより低いため、中間電解槽1bにおいて酸化クロムの割合がより高いクロム/酸化クロム層の析出が促進される。
【0045】
ストリップ移動方向vで見て、後方の、またはより詳細には最後の電解槽1cは、第2の電解液E2で充填され、第2の電解液E2の組成は、少なくとも、第2の電解液E2が有機成分、特に錯化剤を含まない点で、第1の電解液E1とは異なる。他のすべての点において、第2の電解液E2の成分は、第1の電解液E1の成分と同じであってもよい。より詳細には、第2の電解液E2も、三価クロム化合物、好ましくは塩基性硫酸Cr(III)、Cr(SO、少なくとも1種の塩、および適切なpH値に設定するための少なくとも1種の酸または塩基を含む。第1の電解液E1のように、アルカリ金属硫酸塩、例えば、硫酸カリウムまたは硫酸ナトリウムであり得る塩は、導電性を高めるように機能する。第2の電解液E2中の三価クロム化合物の濃度は、少なくとも10g/L、最も好ましくは20g/L以上である。第2の電解液E2のpH値は、酸または塩基、例えば硫酸を添加することにより、2.0〜5.0の好ましい値、特にpH=4.0に設定される。
【0046】
後方電解槽1c内の第2の電解液E2の温度は、便宜的には25℃〜70℃の範囲であり、より好ましくは25℃〜40℃であり、最も好ましくは35℃である。
【0047】
クロム含有(特にCr(III)含有)層の電析を生じさせるために、電解槽1a、1b、1cに十分に高い電流密度が存在するように、電解槽1a〜1cに配置されたアノード対APにDC電流が印加される。この目的に必要な最小電流密度は、ストリップ移動速度に依存し、100m/分の(最小)ストリップ移動速度で約15〜20A/dmになる。より速いストリップ移動速度では、クロム含有層の電析に必要な最小電流密度は増加する。
【0048】
カソードとして接続され、電解槽1a〜1cを通過する金属ストリップMは、ストリップ移動速度に応じて、電解時間t1の間、2つの前方電解槽1a、1b内の第1の電解液E1と電解的に効果的に接触し、その後、電解時間t2の間、後方電解槽1c内の第2の電解液E2と電解的に効果的に接触する。100〜700m/分のストリップ移動速度では、電解槽1a、1b、1cのそれぞれにおける電解時間は0.5〜2.0秒の範囲にある。ストリップ移動速度は、各電解槽1a、1b、1cにおける電解時間が2秒より短く、特に0.6秒〜1.8秒の範囲であるような高い設定値に設定されることが好ましい。したがって、シートBがすべての電解槽1a〜1cにわたって、第1および第2の電解液E1、E2と電解的に効果的に接触する総電解時間tG=t1+t2+t3は、1.8〜5.4秒である。個々の電解槽1a、1b、1cにおける電解時間は、一方ではストリップ移動速度により、他方では電解槽1a〜1cの寸法設計により調整することができる。
【0049】
各電解槽1a〜1cの電流密度が最小電流密度よりも高く設定されている場合、クロムおよび酸化クロム/水酸化クロムおよび炭化クロム、ならびに硫酸塩を含む第1の電解液E1が使用されている場合は、場合により硫酸クロムも含む層が、前方電解槽1aおよび中間電解槽1b内の金属ストリップMの少なくとも片面に析出する。2つの電解槽1a、1bのそれぞれにおいて、これにより層B1およびB2それぞれが形成され、層B1、B2の組成は、特に酸化クロム/水酸化クロムの重量割合に関して、使用される電解パラメータ、特に前方電解槽1aの電流密度および温度が中間電解槽1bの電流密度および温度と異なる場合に、異なり得る。
【0050】
後方電解槽1cでは、上方層B3が金属ストリップMの少なくとも片面に析出し、この層は、少なくとも大部分が純粋な酸化クロムおよび/または水酸化クロムからなる。上方層B3の総コーティング重量に対する酸化クロム/水酸化クロムの重量割合は、好ましくは90%、好ましくは95%超を占める。
【0051】
図3は、本発明による方法を使用して電解被覆された金属ストリップMの概略断面図を示す。金属ストリップMの片面は、個々の層B1、B2、B3から構成されるコーティングBで被覆されている。個々の層B1、B2、B3はそれぞれ、電解槽1a、1b、1cのうちの1つにおいて表面に形成される。
【0052】
金属ストリップMの表面に面する2つの下層B1、B2は、金属クロム(クロム金属)および酸化クロム(CrOx)/水酸化クロムおよび炭化クロム、並びに該当する場合は主成分として硫酸クロムを含み、個々の層B1、B2の組成は、特にそれぞれに含まれるクロム金属および酸化クロム/水酸化クロムの重量割合に関して、2つの前方電解槽1a、1bにおいて同じまたは異なる電解パラメータが使用されたかどうかに応じて、同じであるかまたは異なる。金属ストリップMの表面から離れている上層B2は、大部分が酸化クロム(CrOx)および/または水酸化クロムのみを含み、特に炭化クロムを含まず、金属クロムおよび硫酸クロムをほとんど含まない。
【0053】
金属基材上に析出した層B1、B2、B3の層構造は、GDOESスペクトル(グロー放電発光分光法)によって実証できる。2つの前方電解槽1a、1bにおいて、最初に、金属ストリップM上に、厚さ10〜15nmの金属クロム層が析出する。この層の表面は酸化しており、主にCrの形態の酸化クロムから成るか、またはCr(OH)の形態の混合酸化物/水酸化物から成る。この酸化物層の厚さはわずか数ナノメートルである。さらに、炭化クロムおよび硫酸クロム化合物がそれぞれ、有機錯化剤および電解液の硫酸塩の還元の結果として形成され、これらの化合物は層全体に均一に分布する。個々の電解槽で析出した層B1、B2の典型的なGDOESスペクトルは、層の最初の数ナノメートルで、酸素信号の急激な増加を示し、このことから酸化物層が特定の層の表面に集中していると結論付けることができる(図4)。
【0054】
層の組成は、EURO規格DIN EN 10202に従って決定できる(Cr酸化物、測光、(欧州規格)、ステップ1:40mLのNaOH(330g/L)、90℃で10分間の反応、10mLの6%Hによる酸化、370nmでの測光)。
【0055】
コーティングの電析に続いて、コーティングBで被覆された金属ストリップMをすすぎ、乾燥させ、(例えばDOSオイルで)油を塗る。続いて、コーティングBで電解被覆された金属ストリップMに有機カバーコートを設けることができる。有機カバーコートは、従来の手段、例えばコーティングBの表面に、すなわち酸化クロム/水酸化クロムの最上層B3上に、塗装またはプラスチックフィルムをラミネートすることにより設けられる。酸化クロム/水酸化クロムの最上層B3は、カバーコートの有機材料に対して優れた接着ベースを提供する。カバーコートは、例えば、有機塗料、またはPET、PE、PP若しくはそれらの混合物などの熱可塑性ポリマーのポリマーフィルムであってもよい。有機トップコートは、例えば、「コイルコーティング」プロセスまたはプレートプロセスによって設けることができ、プレートコーティングプロセスでは、被覆された金属ストリップを最初にプレートに分割し、次いで有機塗料で塗装するか、ポリマーフィルムで被覆する。
【0056】
図2は、ストリップ移動方向vに8つの電解槽1a〜1hが次々に連続して配置されたストリップコーティングラインの第2の実施例を示している。電解槽1a〜1hは、3つのグループに配置され、すなわち、第1の2つの電解槽1a、1bを含む前グループ、ストリップ移動方向の下流に続く電解槽1c〜1fを含む中間グループ、および最後の2つの電解槽1gおよび1hを含む後グループに配置される。
【0057】
前グループの電解槽1a、1bおよび中間グループの電解槽1c、1d、1e、1fはそれぞれ、有機錯化剤、特にギ酸塩を含む第1の電解液E1で満たされている。後グループの電解槽1g、1hは、有機物質を含まず、特に錯化剤を含まない第2の電解液E2で満たされている。
【0058】
図2に示すように構成されたストリップコーティングラインでは、図1に示すストリップコーティングラインを使用した場合と同じように、層B1、B2、およびB3を有する同じ層構造を作製できる。ただし、電解槽1a〜1hを配置することにより、全体の電解時間を長くすることができる。これにより、より速いストリップ移動で稼働したり、同じストリップ移動速度を維持しながら、層B1、B2、B3のコーティング重量を増やしたりすることができる。
【0059】
包装用途のために十分に高い耐食性を確実にするために、コーティングBは、好ましくは少なくとも40mg/m、最も好ましくは70mg/m〜180mg/mのクロムの総コーティング重量を有する。析出したコーティングBの総重量にわたって合計すると、クロムの総コーティング重量に対する酸化クロム/水酸化クロムの重量割合は少なくとも15%を占め、好ましくは20%〜40%の範囲にある。コーティングBは、好ましくは、酸化クロムおよび/または水酸化クロムの形態で結合したクロムのコーティング重量が1m当たり少なくとも3mgのクロム、特に3〜15mg/mの範囲である、総酸化クロム割合を有する。析出したコーティングBの総重量にわたって合計すると、酸化クロムおよび/または水酸化クロムの形態で結合したクロムのコーティング重量は、1m当たり少なくとも5mgのクロム、好ましくは7mgを超えるクロムを占める。コーティングBの表面に対する、有機塗料または熱可塑性ポリマー材料の良好な接着強度は、最大約15mg/mまでの酸化クロム/水酸化クロムのコーティング重量で実現できる。結果として、コーティングBにおける酸化クロム/水酸化クロムの好ましいコーティング重量は、5〜15mg/mの範囲にある。
【0060】
個々の層B1、B2、B3の厚さおよびそれぞれのコーティング重量は、本発明による方法の示された実施例において、電解時間t1、t2、t3および電解槽内の電流密度によって調整することができる。電解槽に十分に高い電流密度が設定されるとすぐに、析出層B1、B2、B3の厚さおよびそれぞれのコーティング重量は、電流密度にもはや依存せずに(電解液は同じ温度に維持される)、電解時間t1、t2のみに依存して、電解時間の間、金属ストリップMは、第1および第2の電解液E1、E2と電解的に効果的に接触する。
【0061】
したがって、コーティングBの総コーティング重量に対する酸化クロム/水酸化クロムの重量割合は、後方電解槽1cまたは後グループの電解槽1g、1hにおいて金属ストリップMが第2の電解液E2と電解的に効果的に接触している電解時間t2を設定することによって決定できる。この電解時間t2は、後方電解槽1cおよび1g、1hの寸法設計およびストリップ移動速度に依存する。
図1
図2
図3
図4
【外国語明細書】
2020172700000001.pdf