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特開2020-172701ブラックプレート又はブリキの表面を不動態化するための方法及びその方法を実施するための電解システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-172701(P2020-172701A)
(43)【公開日】2020年10月22日
(54)【発明の名称】ブラックプレート又はブリキの表面を不動態化するための方法及びその方法を実施するための電解システム
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/38 20060101AFI20200925BHJP
   C25D 9/08 20060101ALI20200925BHJP
   C25D 17/10 20060101ALI20200925BHJP
【FI】
   C25D11/38 301Z
   C25D11/38 C
   C25D9/08
   C25D17/10 101Z
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2020-55306(P2020-55306)
(22)【出願日】2020年3月26日
(31)【優先権主張番号】10 2019 109 354.6
(32)【優先日】2019年4月9日
(33)【優先権主張国】DE
(71)【出願人】
【識別番号】513213841
【氏名又は名称】ティッセンクルップ ラッセルシュタイン ゲー エム ベー ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア マルマン
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ モルス
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン アルトゥング
(57)【要約】      (修正有)
【課題】三価のクロム化合物を用いた電解液に基づき、酸化クロム/水酸化クロムを含む不動態化層を用いて、ブラックプレート又はブリキの表面を不動態化することに関し、環境的に安全かつ健康にとって全く有害ではなく、最も効果的かつ費用対効果を高くすることが可能である電解法を提供する。
【解決手段】クロム含有不動態化層の電析は、三価のクロム化合物、導電性を増加させる少なくとも1種の塩、及び所望のpH値に調整するための少なくとも1種の酸又は塩基を含む電解液(E)から生じ、電解液(E)は三価のクロム化合物、少なくとも1種の塩、及び少なくとも1種の酸又は塩基以外の追加成分を含まず、有機錯化剤を特に含まず、かつ緩衝剤を特に含まない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上に酸化クロム含有不動態化層を電析させることによってブラックプレート又はブリキの表面を不動態化するための方法であって、前記クロム含有不動態化層の電析が、三価のクロム化合物、導電性を向上させる少なくとも1種の塩、及び所望のpH値に調整するための少なくとも1種の酸又は塩基を含む電解液(E)から生じる方法において、前記電解液(E)は、前記三価のクロム化合物、前記少なくとも1種の塩、及び前記少なくとも1種の酸又は塩基以外の追加成分を含まず、有機錯化剤を含まず、かつ緩衝剤を含まないことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記不動態化層は、少なくとも本質的に酸化クロム及び/又は水酸化クロムから成ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記不動態化層は、90%超の酸化クロム及び/又は水酸化クロムの重量割合を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記不動態化層の電析のための前記ブラックプレート又はブリキを、カソードとして接続し、電解時間の間、前記電解液(E)と接触させ、前記電解時間は0.1〜2.0秒の範囲、好ましくは1.0〜1.5秒の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記不動態化層の電析のための前記ブラックプレート又はブリキを、所定のシート速度(v)で、少なくとも1つの電解槽(1)又はシート移動方向に前後に配置されている複数の電解槽(1a、1b、1c)を通過させ、前記シート速度(v)は少なくとも100m/分であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記電解液(E)の温度は、対応する電解槽(1;1a、1b、1c)の体積全体にわたる平均温度で、20℃〜65℃の範囲、好ましくは30℃〜55℃の範囲、特に35℃〜45℃であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ブラックプレート又はブリキが前記電解液(E)と効果的に電解的に接触する前記電解時間(t)は、各電解槽(1、1a〜1c)において1.0秒未満であり、前記ブラックプレート又はブリキが全電解槽(1;1a〜1c)において前記電解液(E)と効果的に電解的に接触する全電解時間(t)は、0.5秒〜2.0秒の間であり、特に1.0秒〜1.8秒の間であることを特徴とする、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記三価のクロム化合物は、塩基性硫酸Cr(III)(Cr(SO)、硝酸Cr(III)(Cr(NO)、シュウ酸Cr(III)(CrC)、酢酸Cr(III)(C1236ClCr22)、ギ酸Cr(III)(Cr(OOCH))又はそれらの混合物の群から選択され、前記電解液の前記塩は少なくとも1種のアルカリ金属硫酸塩、特に硫酸カリウム又は硫酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記電解液は、2.3〜5.0の範囲、好ましくは2.5〜2.9の範囲のpH値(20℃の温度で測定される)を有し、前記pH値は、少なくとも1種の酸を前記電解液に添加することにより調整されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記電解液における三価のクロム化合物の濃度は、少なくとも10g/Lであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記電解液から形成される前記不動態化層は、少なくとも3mg/mの酸化クロム及び/又は水酸化クロムの総コーティング重量を有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記不動態化層の電析中に適切なアノードを使用することにより、前記電解液の前記三価のクロム化合物のクロム(III)の、クロム(VI)への酸化が防止されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記アノードは、ステンレス鋼及び白金を含まないことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記アノードは、金属酸化物の、特に酸化イリジウムの、もしくは混合酸化金属の、外側表面もしくはコーティングを含むか、又は前記アノードはこれらの材料のうち1つから成ることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記電解液を製造するために、不可避的不純物を除いて有機残留物が除去された前記三価のクロム化合物、前記少なくとも1種の塩、及び前記所望のpH値に調整するための少なくとも1種の酸又は塩基を水に溶解し、こうして得られた前記溶液を少なくとも5日間、好ましくは7日間、錯化のために静置し、その後、前記pH値の微調整が、酸又は塩基の添加によって実施される、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
表面上に、酸化クロム含有不動態化層を析出させることによって、ブラックプレート又はブリキの表面を電解的に不動態化するための電解システムであって、前記電解システムは、
−電解液(E)で満たされた少なくとも1つの電解槽(1)又はそれぞれが同じ電解液で満たされ、前後に配置されている複数の電解槽(1a、1b、1c)を含み、
−前記電解液(E)が、三価のクロム化合物、導電性を向上させる少なくとも1種の塩、及び所望のpH値に調整するための少なくとも1種の酸又は塩基以外の他の成分を含まず、有機成分を特に含まず、かつ錯化剤を特に含まず、
−前記不動態化層の電析のために、前記ブラックプレート又はブリキを、所定のシート速度(v)で、シード移動方向に、前記少なくとも1つの電解槽(1)又は前記複数の電解槽(1a、1b、1c)を連続的に通過させ、それにより、前記表面は、前記電解液(E)と電解的に効果的に接触し、少なくとも本質的に酸化クロム及び/又は水酸化クロムのみから成る不動態化層が前記表面上に析出する、電解システム。
【請求項17】
金属酸化物、特に酸化イリジウム、又は、混合金属酸化物、特にイリジウム−タンタル酸化物、の外側表面又はコーティングを有するアノード(2)が、前記電解槽(1;1a、1b、1c)内に配置されていることを特徴とする、請求項15に記載の電解システム。
【請求項18】
酸化クロムを含有する不働態化層の電析によって不働態化された表面を有するブラックプレート又はブリキであって、前記不動態化層は、少なくとも本質的に酸化クロム及び/又は水酸化クロムのみから成り、90%超の酸化クロム及び/又は水酸化クロムの重量割合を有することを特徴とする、ブラックプレート又はブリキ。
【請求項19】
前記不動態化層は、少なくとも、前記ブラックプレート又はブリキの表面に面する第1の層と、前記不動態化されたブラックプレート又はブリキの表面を形成する第2の層とから成り、前記第1の層は金属クロムを含み、第2の層は純粋な酸化クロム及び/又は水酸化クロムから成る、請求項18に記載のブラックプレート又はブリキ。
【請求項20】
前記不動態化層は、少なくとも3mg/mの酸化クロム及び/又は水酸化クロムの総コーティング重量を有する、請求項18又は19に記載のブラックプレート又はブリキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化クロム含有不動態化層の電析によって、ブラックプレート(原板)又はブリキの表面を不動態化するための方法、ならびにブラックプレート又はブリキの表面にクロム及び酸化クロム含有不動態化層を電析するための電解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
クロム及び酸化クロム/水酸化クロムの不動態化層で電解被覆(エレクトロコーティング)された鋼板は、包装材料の製造に関する先行技術から知られている。この鋼板は、ティンフリー鋼(TFS)又は電解クロムコーティング鋼(ECCS)と呼ばれており、ブリキの代替品である。こうしたティンフリー鋼板は、塗料又は有機コーティング(例えば、PP又はPETのポリマーコーティング)に対して特に良好な接着性が特徴である。概して20nm未満のクロム及び酸化クロム/水酸化クロムの限られた不動態化層の厚さであるにも関わらず、こうしたクロムコーティング鋼板は、良好な耐食性、及び包装材料の製造で使用される変形加工、例えば、深絞り加工及びしごき加工での良好な加工性を示す。
【0003】
ブリキには、酸素雰囲気中でスズ表面の酸化を抑制するため、電解スズめっき後不動態化層が一般的に設けられる。クロム含有層は不動態化層として適することが証明されており、この不動態化層は、ブリキのスズ表面上でクロム(VI)含有電解液から電析され得る。こうしたクロム含有不動態化層は、金属クロム及び酸化クロムから成る。酸化クロムは、水酸化クロムを含む、クロムと酸素の全ての化合物を意味すると理解される。
【0004】
クロムめっき鋼板(ECCS)を製造するため及びブリキ表面を不動態化するための電解被覆法は先行技術から知られている。この方法を用いて、金属クロム及び酸化クロム/水酸化クロムを含む不動態化層は、ストリップコーティングラインにて、クロム(VI)含有電解液を用いて、板状基材(被覆されていない鋼板又はブリキ)に設けられる。ただし、これらのコーティング法は、電解プロセスで使用されるクロム(VI)含有電解液の環境に有害で健康を脅かす特性のために、深刻な欠点を有し、クロム(VI)含有物質の使用は近いうち禁止されることになるため、それほど遠くない将来に代替的なコーティング法に置き換えられる必要がある。
【0005】
こうした理由のため、先行技術では、クロム(VI)含有電解液の使用を不要とする電解被覆法が既に開発されている。例えば、特許文献1及び特許文献2は、ストリップ状鋼板、特にブラックプレート又はブリキを、金属クロム/酸化クロム(Cr−CrOx)層を用いて電解不動態化するための方法を開示する。この方法では、ストリップコーティングラインの鋼板は、カソードとして接続され、三価のクロム化合物(Cr(III))、錯化剤及び導電性を向上させる塩を含み、塩化物、及びホウ酸などの緩衝剤を含まない単一電解液を、100m/分超の高速シート速度で通過する。
【0006】
有機物質、特にギ酸塩、好ましくはギ酸ナトリウム又はギ酸カリウムが、錯化剤として使用される。電解液は、2.5〜3.5の範囲の好ましいpH値に調整するための硫酸を含むことができる。金属クロム又は酸化クロムの不動態化層は、順々に配置された連続電解槽又はストリップコーティングシステムで層内に析出することができ、各電解槽は同じ電解液で満たされている。
【0007】
電析した不動態化層は、金属クロム及び酸化クロム/水酸化クロム成分に加え、硫酸クロム及び炭化クロムもまた含み得ることが観察され、また、不動態化層の総コーティング重量におけるこれらの成分の割合は、電解槽で使用される電流密度に大きく依存することが観察された。3つの領域(レジームI、レジームII及びレジームIII)は電流密度関数として形成されることが確立され、第1の電流密度の閾値(レジームI)までの低電流密度である第1の領域では、鋼基材上にクロム含有析出が起こらず、中電流密度(レジームII)である第2の領域では、電流密度と析出した不動態化層のコーティング重量との間に直線関係が存在し、形成された不動態化層の部分的な分解が、第2の電流閾値を超える電流密度(レジームIII)で起こるため、このレジームでの不動態化層のクロムのコーティング重量は、電流密度が増加するにつれ、最初に低下し、その後、より高い電流密度では平衡値になる。中電流密度の領域(レジームII)では、(不動態化層の総重量に対して)最大80%の重量割合で、本質的に金属クロムが鋼基材上に析出され、第2の電流密度閾値を超えると(レジームIII)、酸化クロムがより高い割合で含まれ、これは、より高い電流密度の領域において、不動態化層の総コーティング重量の1/4〜1/3を占める。領域(レジームI〜レジームIII)を互いに区切る電流密度閾値は、鋼板が電解液を通過するシート速度に依存する。
【0008】
酸素含有環境での酸化に対し、ブラックプレート及びブリキ表面の良好な不動態化のために、および、塗料又は熱可塑性プラスチックなどの有機コーティングに対する、特にPET、PP、PEプラスチックフィルム又はこれらの混合物のラミネートに対する良好な接着ベースを形成するために、できる限り高い割合の酸化クロムがクロム含有不動態化層に含まれるべきであることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2015/177314A1
【特許文献2】WO2015/177315A1
【発明の概要】
【0010】
したがって、本発明の課題は、三価のクロム化合物を用いた電解液に基づき、酸化クロム/水酸化クロムを含む不動態化層を用いて、ブラックプレート又はブリキの表面を不動態化することに関し、環境的に安全かつ健康にとって全く有害ではなく、最も効果的かつ費用対効果を高くすることが可能である電解法を提供することから成る。いずれの場合も、クロム(VI)含有物質の禁止に関する法規条項を完全に満たすために、電解プロセスの中間体としてであってもクロム(VI)含有物質の使用は避けられるべきである。更に、本方法により被覆されたブラックプレート又はブリキは、酸素含有環境における、特に酸素雰囲気における酸化に対し可能な限り最も高い耐性を有し、また、有機塗料及び特にPET、PE又はPPポリマーフィルムといったポリマー層などの有機コーティングに対して、良好な接着ベースを形成すべきである。
【0011】
この課題は、請求項1の特徴を有する方法、請求項16の特徴を有する電解システム、及び請求項18によるブラックプレート又はブリキによって解決される。本方法及び電解システムの好ましい実施形態は、従属請求項から明らかである。
【0012】
本発明による方法において、酸化クロム含有不動態化層は、三価のクロム化合物、導電性を向上させる少なくとも1種の塩、及び所望のpH値に調整するための少なくとも1種の酸又は塩基を含む電解液から、被覆されていない鋼板又はスズめっきされた鋼板(ブラックプレート又はブリキのシート)に電析によって設けられ、電解液は、三価のクロム化合物及び少なくとも1種の塩又は少なくとも1種の酸もしくは塩基以外の追加成分を一切含まず、特に有機錯化剤を含まず、特に緩衝剤を含まない。そして、中間体としてさえも、クロム(VI)含有物質を一切使用せず、このため、本方法はクロム(VI)含有物質を完全に含まず、したがって本方法の実施中は、本方法は環境的に安全かつ健康にとって全く有害ではない。
【0013】
驚くべきことには、電解液の成分として、ギ酸塩といった有機錯化剤を使用することなく、ブラックプレート又はブリキの表面上に酸化クロム含有層を電析させることが可能であることが示され、この場合、有機錯化剤を含まない電解液の使用中、析出層は少なくとも本質的に酸化クロムのみから成る。
【0014】
不動態化層の表面を形成する純粋な酸化クロム/水酸化クロムの層が、耐酸化性、及び塗料又はポリマー層といった有機コーティングの接着効果に関して有利であることも示されている。したがって、本発明による方法では、(有機)錯化剤、特にギ酸ナトリウム又はギ酸カリウムといったギ酸塩を、電解液から除外することが規定される。そのような電解液を用いて、ブラックプレート又はブリキの表面に電析される不動態化層は、少なくとも本質的には純粋な酸化クロム及び/又は水酸化クロムから成る。
【0015】
酸化クロムとは、水酸化クロム、特に水酸化クロム(III)及び酸化クロム(III)水和物、ならびにそれらの混合物を含む、全てのクロムの酸化物形態(CrOx)を意味する。クロムが三価形態、特に三酸化二クロム(Cr)として存在するクロムと酸素との化合物が好ましい。したがって、コーティングは、(金属クロムに加えて)好ましくは三価のクロム化合物のみ、特に三価の酸化クロム及び/又は水酸化クロムのみを含む。
【0016】
電析された不動態化層は、水酸化クロムを含む、酸化クロムの可能な限り最も高い重量割合を有することが好ましい。酸化クロム及び/又は水酸化クロムの重量割合は、好ましくは90%超であり、特に好ましくは95%超である。これにより、一方では、ブラックプレート又はブリキの表面の酸化に対する良好な不動態化が確実なものとなり、他方では、塗料又はPET又はPPといった熱可塑性プラスチックのポリマー層などの有機コーティングに対し、良好な接着能力を有する良好な接着ベースを提供できる。
【0017】
不動態化層の電析のため、ブラックプレート又はブリキをカソードとして接続し、少なくとも1つの電解槽で、所定の電解時間、電解液と接触するようにする。電解時間は、好ましくは0.3〜5.0秒の範囲であり、特に好ましくは0.6〜1.5秒の範囲である。この目的のため、ブラックプレート又はブリキシートは、所定のシート速度にて、少なくとも1つの電解槽又はシート移動方向に前後に配置されている複数の電解槽に連続して通され、この場合、シート速度は、好ましくは少なくとも100m/分であり、特に200m/分〜750m/分である。高シート速度により、このプロセスの高い効率性を確保することができる。
【0018】
酸化クロムの不動態化層の厚さ及びコーティング重量は、電解時間、したがってシート速度によって調整できる。電解時間は、析出した酸化クロムが少なくとも3mg/m、好ましくは7mg/m〜10mg/mのコーティング重量を有するように好ましくは選択される。包装用途にとって十分な酸化耐性及び耐食性を得るため、少なくとも5mg/m、好ましくは7mg/m超である、不動態化層中の酸化クロムのコーティング重量が好ましい。酸化クロムのこうしたコーティング重量により、ブラックプレート又はブリキの表面の酸化及び腐食に対し十分な耐性が確保され、また、塗料又は熱可塑性プラスチックフィルムといった有機コーティングにとって良好な接着ベースも提供される。
【0019】
耐食性を向上し、かつ硫黄含有物質、特に包装の硫酸又は亜硫酸含有内容物に対するバリヤを形成するために、不動態化層の電析後、不動態化層の酸化クロム層に良好に接着する、有機材料の、特に塗料又は熱可塑性プラスチックの、特にPET、PE,PPポリマーフィルムもしくはそれらの混合物のコーティングを、不働態化層の表面に、有機塗料を被覆することによって、又は、PET、PE及び/又はPPといった熱可塑性プラスチックのプラスチック層を設けることにより、問題なく容易に形成することが可能である。
【0020】
クロム(VI)含有物質を完全に含まないプロセスを確実なものとするため、不動態化層の電析中、適切なアノードを便宜上選択して電解槽に配置し、電解液の三価のクロム化合物のクロム(III)の、クロム(VI)への酸化を防ぐ。この目的のため、金属酸化物製の、特に酸化イリジウム製の、又は混合金属酸化物製の、特にイリジウム−タンタル酸化物製の、外側表面又は不働態化層を有するアノードが、特に適していることが証明されている。アノードはステンレス鋼も白金も含まないことが好ましい。こうしたアノードを使用することにより、三価の酸化クロム及び/又は水酸化クロムのみ、特にCr及び/又はCr(OH)のみを含むコーティングを、ブラックプレート又はブリキ上に析出することができる。
【0021】
任意のガルバニックプロセスと同様に、クロム(III)電解液からのガルバニッククロムメッキの間、カソード還元に加えて、少なくとも1つのアノード酸化が同時に存在する。クロム(III)電解液からのガルバニッククロムメッキの間、アノード酸化は、一方で、クロム(III)からクロム(VI)への酸化と、他方で、水から酸素への酸化と、から成る。両方の電位は、電気化学列において非常に近い。
(1)クロム(Cr) Cr6++3e⇔Cr3++1.33V
(2)酸素(O) O+4H+4e⇔2HO+1.23V
【0022】
電位は、関連するダニエル電池で測定される。酸化還元式の電位は、使用されるアノード材料に依存する。したがってアノード材料の選択は、反応(1)が抑制され、反応(2)のみが発生するかどうかによって、明確に決定される。本発明による方法でCr6+の形成を妨げるため、金属酸化物をベースとした、特に酸化イリジウムをベースとした、又は混合金属酸化物をベースとした、例えば主に酸化タンタルおよび酸化イリジウムの多層から成る混合金属酸化物をベースとしたアノードを、反応(1)を抑制させるために使用することができる。アノードは、混合金属酸化物の外側表面又は外側不動態化層を有することができる。チタンのコアと酸化タンタル−酸化イリジウムの外側不動態化層とを有するアノードが、特に適することが明らかになっている。このようなアノードを使用すると、ポーラログラフ測定(滴下水銀電極)によってCr(VI)が形成されないことを実証することができた。
【0023】
ステンレス鋼から作製されたアノードを使用すると、Cr(III)からCr(VI)への(反応1)は(十分には)抑制されない。ステンレス鋼のアノードを使用した比較測定では、わずか数秒の電解時間の後、明確に検出可能であるCr(VI)濃度が示される。したがって、アノード材料としてステンレス鋼を使用すると、Cr(III)からCr(VI)への酸化が少なくとも完全には抑制されない。このことは、Cr(III)電解液でのCr(VI)の濃縮へとつながり、したがって、異なる析出メカニズムが生じる。それゆえ、ステンレス鋼を含まないアノードが本発明による方法で使用されることが好ましい。これにより、電解中にCr(VI)が中間体として形成されず、析出した不動態化層はCr(III)化合物及び金属クロムのみを含むことを確実にできる。更に、これにより、例えばチオ硫酸塩を用いた最終処理を省略することができ、そうでなければ、ステンレス鋼のアノードが使用された場合に、析出したCr(VI)をCr(III)へと還元するために最終処理が必要になり得る。
【0024】
電解液は好ましくは20℃〜65℃の範囲、より好ましくは30℃〜55℃の範囲、特に35℃〜45℃の範囲の温度を有する。酸化クロム含有不動態化層の電析は、こうした温度で非常に効果的である。電解液の温度又は電解槽内の温度に言及する際、平均温度は、電解槽の全体積にわたる平均値であることを意味する。一般的に電解槽には、上部から下部へ温度が上昇する温度勾配が存在する。
【0025】
三価のクロム化合物に加えて、電解液は、導電性を向上させる少なくとも1種の塩、及び適切なpH値に調整するための少なくとも1種の酸又は塩基を含み、電解液は好ましくは塩化物イオンを含まず、緩衝剤を含まず、特にホウ酸緩衝剤を含まない。
【0026】
電解液の三価のクロム化合物は好ましくは、塩基性硫酸Cr(III)(Cr(SO)、硝酸Cr(III)(Cr(NO)、シュウ酸Cr(III)(CrC)、酢酸Cr(III)(C1236ClCr22)、ギ酸Cr(III)(Cr(OOCH))又はこれらの混合物を含む群から選択される。電解液中の三価のクロム化合物の濃度は、好ましくは少なくとも10g/L、特に15g/L超、特には20g/L以上である。
【0027】
導電性を向上させるために、電解液は、好ましくはアルカリ金属硫酸塩である少なくとも1種の塩、特に硫酸カリウム又は硫酸ナトリウムを含む。
【0028】
電解液のpH値(20℃の温度で測定される)が2.3〜5.0の範囲、好ましくは2.5〜2.9の間に存在する場合、非常に効果的な酸化クロム含有不動態化層の析出が達成される。電解液へ酸又は塩基を添加することにより、所望のpH値とすることができる。塩基性硫酸Cr(III)が三価のクロム化合物として使用される場合、硫酸又は硫酸を含む酸混合物が、所望のpH値の調整に特に適している。
【0029】
特に好ましい電解液の組成は、三価のクロム化合物として塩基性の硫酸Cr(III)(Cr(SO)、導電性を向上させる塩として硫酸ナトリウム、及び2.3〜5.0の範囲の好ましいpH値に調整する硫酸を含む。
【0030】
電解液は、三価のクロム含有物質、導電性を向上させるための少なくとも1種の塩、及びpH値を調整するための少なくとも1種の酸又は塩基以外に、追加成分を含まない。こうして単純かつ費用対効果の高い電解液の製造が確実となる。
【0031】
電解液を製造するために、大半の有機残留物が最初に除かれた三価のクロム化合物、少なくとも1種の塩、及び所望のpH値に調整するための少なくとも1種の酸又は塩基を水に溶解する。電解液は錯化剤を含まないため、したがって得られた溶液を、少なくとも5日間、好ましくは少なくとも7日間(酸素雰囲気にて)錯化のために便宜上静置すべきである。次いで、酸又は塩基を添加することにより、所望のpH値に微調整できる。
【0032】
酸化クロム含有不動態化層を有するブラックプレート又はブリキは本発明による方法を用いて製造することができ、不動態化層は少なくとも本質的に酸化クロム及び/又は水酸化クロムのみ、好ましくは三価の酸化クロム及び/又は水酸化クロムのみから成り、好ましくは90%超、特に好ましくは95%超の酸化クロム及び/又は水酸化クロムの重量割合を有する。本発明によるこうしたブラックプレート又はブリキは、高い耐食性、及び塗料又はポリマー層といった有機コーティングに対する良好な接着能力によって特徴づけられる。不動態化層は、好ましくは少なくとも本質的にクロム及び酸素の化合物のみを含み、クロムは三価の形態、特にCr及び/又はCr(OH)として存在する。
【0033】
酸化クロム及び/又は水酸化クロムに加えて、(電析プロセスの初期クロム化合物として)硫酸クロムの残留成分を、不可避的不純物に加えて不動態化層中に含むことができる。
【0034】
不動態化層は好ましくは、ブラックプレート又はブリキの表面に面する第1の層と、不動態化されたブラックプレート又はブリキの表面を形成する第2の層とから成り、第1の層は金属クロムを含み、第2の層は、前記の硫酸クロムの残留成分及び不可避的不純物以外に純粋な酸化クロム及び/又は水酸化クロムから成る。
【0035】
不動態化層が、少なくとも3mg/m、好ましくは5mg/m〜15mg/mの酸化クロム及び/又は水酸化クロムの総コーティング重量を有する場合、本発明によるブラックプレート又はブリキの特に良好な耐食性を実現することが可能である。
【0036】
本発明は、添付の図面を参照し、以下の実施例に基づいてより詳細に説明されるが、前述の実施例は、添付の特許請求の範囲によって定義される保護範囲を決して限定することなく、単に例として本発明を説明することを意図している。図面は以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明による方法を実施するためのストリップコーティングラインの概略図である。
図2】本発明による方法における図1のストリップコーティングラインで被覆されたブラックプレート又はブリキの概略断面図である。
図3】鋼板上に三価のクロム物質(塩基性硫酸Cr(III))及び有機錯化剤(ギ酸ナトリウム)の電解液を用いて電析された層のグロー放電発光分析法(GDOES)スペクトルであり、その層は金属クロム、酸化クロム及び炭化クロムを含む。
図4】有機錯化剤を含まず、三価のクロム物質(塩基性硫酸Cr(III))を含む電解液を用いて鋼板上に電析された層のグロー放電発光分析法(GDOES)スペクトルであり、その層は本質的に純粋な酸化クロムから成る。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1には、本発明による方法を実施するためのストリップコーティングラインが概略的に示されている。ストリップコーティングラインは、前後に連続して配置された3つの電解槽1a、1b、1cを含み、各電解槽は電解液Eで満たされている。最初の被覆されていないブラックプレートシート又はブリキシート(以後、シートBと称する)は、電解槽1a〜1cを連続して通過する。シートBは、この目的のため、所定のシート速度で、輸送装置(図示せず)によって、電解槽1a〜1cを通るようにシート移動方向vに引っ張られる。電流ロールSは電解槽1a〜1c上方に配置され、電流ロールSにより、シートBはカソードとして接続されている。偏向ロールUはまた各電解槽内に配置されており、偏向ロールUの周りでシートBは案内され、それにより、対応する電解槽内に出し入れされる。
【0039】
少なくとも1つのアノード対APが、各電解槽1a〜1c内に、電解液Eの液面よりも下に配置されている。図示される実施例では、シート移動方向に前後に配置されている2つのアノード対APが、各電解槽1a〜1c内に設けられている。シートBは、アノード対APの対向するアノード間に案内される。図1の実施例では、したがって2つのアノード対APが各電解槽1a、1b、1c内に配置されており、その結果、シートBはこれらのアノード対APを連続して通過するように案内される。シート移動方向vで見て下流に存在する最後の電解槽1cの最後のアノード対APcは、他のアノード対APよりも短い長さを有する。したがって、同じ量の電流を印加した場合、この最後のアノード対APcに、より高い電流密度を発生させることができる。
【0040】
電解プロセスを準備するため、シートBを最初に脱脂し、洗浄し、酸洗して再度洗浄し、シートBはこの前処理された形で電解槽1a〜1cに連続して通され、電流ロールSを介して電流を供給することにより、カソードとして接続される。シートBが電解槽1a〜1cを通過するシート速度は、少なくとも100m/分であり、最大900m/分とすることができる。
【0041】
シート移動方向に前後に配置された電解槽1a〜1cは、同じ電解液Eでそれぞれ満たされている。電解液Eは、三価のクロム化合物、好ましくは塩基性硫酸Cr(III)(Cr(SO)を含む。導電性を高めるために、電解液Eは、塩、特に、例えば硫酸カリウム又は硫酸ナトリウムといったアルカリ金属硫酸塩、及び適切なpH値に調整するための酸又は塩基も含む。第1の電解液EのpH値は、酸又は塩基を添加することにより、2.0〜5.0の好ましい値に調整される。塩基性の硫酸Cr(III)を三価のクロム化合物として使用する場合、硫酸がpH値調節のための適切な酸であることが明らかになっている。電解液E中の三価のクロム化合物の濃度は、好ましくは少なくとも10g/L、特に好ましくは20g/L以上である。
【0042】
電解液Eの温度は、電解槽1a、1b、1cでは便宜上等しく、好ましくは25〜70℃の間にある。ただし、各電解槽1a、1b、1cにおいて、電解液の温度を異なる温度に設定することもできる。例えば、中央の電解槽1bにおける電解液の温度を、それよりも上流に配置されている前方の電解槽1aの電解液の温度よりも低くすることができる。中央の電解槽1bの電解液の温度は、例えば25℃〜37℃の間、特に35℃であり、前方の電解槽1aの電解液Eの温度は、40℃〜75℃の間、特に55℃である。
【0043】
電解液Eは有機成分を含まず、特に錯化剤を含まない。電解液Eはハロゲン化合物及びホウ酸といった緩衝剤も含まない。
【0044】
クロム含有(特にCr(III)含有)層を電析させるために、電解槽1a、1b、1c内に十分に高い電流密度が存在するように、電解槽1a〜1c内に配置されているアノード対APには直流電流が印加される。この目的に必要とされる最小電流密度は、シート速度に依存し、100m/分の(最小)シート速度では約15〜20A/dmである。より高い速度では、クロム含有層の電析に必要な最小電流密度は増加する。
【0045】
シート速度に依存して、カソードとして接続され、かつ電解槽1a〜1cを通過するシートBは、電解槽1a、1b、1cそれぞれにおける電解時間t1、t2及びt3の間、電解液Eと効果的に電解的に接触する。100〜700m/分のシート速度では、各電解槽1a、1b、1cにおける電解時間t1、t2、t3は、0.5〜2.0秒間である。各電解槽1a、1b、1cにおける電解時間が2秒間未満、特に0.6秒間〜1.8秒間となるように、高いシート速度が好ましくは設定される。シートBが全ての電解槽1a〜1cにわたり電解液Eと電解接触する全電解時間tG=t1+t2+t3は、したがって1.8〜5.4秒間である。個々の電解槽1a、1b、1cにおける電解時間は、一方で、シート速度によって調整することができ、他方で、電解槽1a〜1cの寸法によって調整することができる。
【0046】
対応する電解槽1a〜1cに最小電流密度よりも大きい電流密度が調整される場合、少なくとも本質的に酸化クロム及び/又は水酸化クロムから成り、硫酸塩含有電解液Eが使用される場合には、オプションで硫酸クロムを含む層が、各電解槽1a、1b、1cにおいて、シートBの少なくとも片面に析出する。同じ電解液Eが電解槽1a〜1c内に含まれ、同じ電解パラメータ、特に同じ電流密度及び温度が使用される場合、それぞれが少なくとも本質的に同じ組成である層B1、B2,B3が、電解槽1a、1b、1cのそれぞれで生成する。
【0047】
層B1、B2及びB3のコーティング重量及びこれらの層B1、B2及びB3から成るコーティングの総コーティング重量における酸化クロム/水酸化クロムの重量割合は、便宜上少なくとも90%、好ましくは95%超である。
【0048】
本発明による方法を用いて電解被覆されたシートBの断面図が、概略的に図2に示されている。個々の層B1、B2、B3から成る不動態化層Pは、シートBの片面に形成されている。各個別の層B1、B2、B3は、各電解槽1a、1b、1cにおいて、表面に形成される。
【0049】
シート上に析出した層B1、B2、B3の層構造は、GDOESスペクトル(グロー放電発光分析法)によって示される。
【0050】
比較実験は、本発明に従い、ギ酸塩といった有機錯化剤を含む既知の先行技術の電解液を使用しない際に、10〜15nmの厚さの金属クロム層が、電解槽1a、1b、1cにおいて、電解時間の関数として、シートB上に析出することが可能であることを示している。これらの層の表面は析出後、酸化し、大部分はCr形態の酸化クロムとして、又はCr(OH)形態の混合酸化物−水酸化物として存在する。この酸化物層は数ナノメートルの厚さである。更に、有機錯化剤及び電解液の硫酸塩を還元することで形成される炭化クロム及び硫酸クロム化合物が形成され、完成層全体に均一に組み込まれている。各電解槽において析出する層B1、B2、B3の典型的なGDOESスペクトルは、層の最初の数ナノメートルにおいて酸素シグナルの強い増加を示し、このことから、酸化物層が対応する層(図3)の表面に集中していると結論づけることができる。
【0051】
ギ酸塩などの有機錯化剤を含まない電解液Eを使用して、本発明による方法で不動態化されたシートBのGDOESスペクトルが図4に示されている。少なくとも本質的に酸化クロム/水酸化クロムのみから成り、場合により限られた割合の硫酸クロムを含む層(不動態化層)が、シートB上に析出することが示されている。
【0052】
不動態化層の組成は、EURO規格DIN EN 10202によって決定できる(Cr酸化物測光:(欧州規格)ステップ1:40mLのNaOH(330g/L)、90℃で10分間反応、10mLの6%のHによる酸化、370nmでの測光)。
【0053】
不動態化層の電析後、不動態化層が設けられたシートBを洗浄し、乾燥させて油(例えばDOSを用いる)を塗布することができる。不動態化層によって電解被覆されているシートBには、有機コーティングを設けることができる。有機コーティングは、既知の方法、例えば不動態化層表面上すなわち酸化クロムの上方層B3上に塗装するか、プラスチックフィルムをラミネートすることによって設けられる。層B3の酸化クロム表面は、コーティングによって有機材料に対し良好な接着ベースを提供する。有機コーティングは例えば、有機塗料又はPET、PE、PPもしくはそれらの混合物といった熱可塑性ポリマーのポリマーフィルムであり得る。有機コーティングは、例えばストリップコーティングプロセス又はプレートプロセスによって設けることができ、プレートプロセスでは、被覆されたシートを、最初にプレートに分割し、次いで有機塗料で塗装するか又はポリマーフィルムで被覆する。
【0054】
包装用途にとって十分な耐酸化性及び耐食性を得るために、本発明による方法によって設けられた不動態化層は、少なくとも3mg/m、好ましくは少なくとも5mg/mの酸化クロム/水酸化クロムの総コーティング重量を有することが好ましい。最大15mg/mの酸化クロム/水酸化クロムのコーティング重量によって、不動態化層Pの表面への有機塗料又は熱可塑性ポリマー材料の良好な接着性が得られる。したがって、不動態化層における酸化クロム/水酸化クロムのコーティング重量の好ましい範囲は、3〜15mg/m、特に好ましくは5〜15mg/mである。
【0055】
各層B1、B2、B3の厚さ及びコーティング重量は、本発明による方法で示された実施例にて、電解槽における電解時間t1、t2、t3及び電流密度により調整することができる。電解槽に十分に高い電流密度が選択されるとすぐに、析出層B1、B2、B3の厚さ及びコーティング重量は、シートBが電解液Eと電解的に効果的に接触する電解槽における電流密度及び(電解液の相当温度での)電解時間t1、t2、t3の線形関数となる。
【0056】
したがって、不動態化層のコーティング重量は電解時間及び/又は電流密度により調整可能であり、その電解時間の間、シートBは電解液Eと電解的に効果的に接触する。電解時間tは、電解槽の寸法及びシート速度に依存する。
図1
図2
図3
図4
【外国語明細書】
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