【解決手段】薄膜形成装置を用いて多層薄膜を含む光学膜を製造する光学膜の製造方法であって、薄膜形成装置は、基材フィルムを巻き出す巻出部と、成膜室ユニットと、基材フィルムを巻き取る巻取部と、基材フィルム上に形成された薄膜の幅方向の反射特性のスペクトルを測定する測定部と、ターゲット近傍に反応性ガスを供給する供給部と、反射特性に基づいて、反応性ガスの流量を制御する制御部と、を備え、測定部には、薄膜に対して光を照射する投光部と、薄膜からの反射光の受光部を有する光学ヘッドが設けられ、光学膜は、基材フィルムと薄膜との間に偏光膜が形成されており、薄膜のみの反射光を測定し、制御部では、測定したスペクトルと所望のスペクトルとの間に差があった場合、該差に対応する波長の乖離が所望の範囲内となるように前記反応性ガスの流量を調整する。
前記測定部には、更に、前記基材フィルムと前記偏光膜と前記薄膜とを透過する前記投光部からの光を吸収する光吸収面を有する測定ロールが設けられている請求項1に記載の光学膜の製造方法。
前記ガスノズルは、複数の開口と、内部に反応性ガス用のガス管とキャリアガス用のガス管と混合室とを備え、混合室で前記反応性ガスと前記キャリアガスとを混合し、前記複数の開口から混合ガスを噴出する請求項7に記載の光学膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。
1. 薄膜形成装置
1.1 薄膜形成装置の全体概要
1.2 光学特性の測定部
1.3 スパッタ室
1.4 反応性ガスの供給部
1.5 スパッタ室の制御
2.薄膜形成方法
3.光学膜の製造方法
4.実施例
【0010】
<1.薄膜形成装置>
本発明の実施の形態に係る薄膜形成装置は、基材フィルムが長手方向に連続的に供給され、基材フィルム上に形成された薄膜の幅方向の光学特性を測定する測定部と、基材フィルムの幅方向に複数のガスノズルが設けられ、ターゲット近傍に反応性ガスを供給する供給部と、測定部における幅方向の光学特性に基づいて、各ガスノズルから噴出する反応性ガスの流量を制御する制御部とを備え、長手方向及び幅方向に均一な厚みの薄膜を形成可能としたものである。
【0011】
また、具体的な構成として、供給部と、ターゲットに電圧を印加するスパッタ電極と、成膜中における基材フィルムの幅方向のプラズマの発光スペクトルを測定するプラズマ測定部とを有する成膜部を備えることが好ましい。これにより、制御部は、測定部における幅方向の光学特性及びプラズマ測定部における発光スペクトルに基づいて、各ガスノズルから噴出する反応性ガスの流量及びターゲットに印加する電圧を制御することができ、幅方向により均一な厚みの薄膜を形成することが可能となる。
【0012】
また、具体的な構成として、基材フィルムを長手方向に巻き出す巻出部と、成膜部が基材フィルムの長手方向に複数配置された成膜ユニットと、成膜ユニットにて薄膜が形成された基材フィルムを巻き取る巻取部とを備えることが好ましい。これにより、基材フィルムの巻き出しから巻き取りまでに、多層の薄膜を形成することができる。また、測定部は、成膜部の後にそれぞれ設置されることが好ましいが、少なくとも最後の成膜部の後、すなわち成膜ユニットと巻取部との間に設置されることが好ましい。これにより、単層の薄膜又は多層の薄膜の両者の光学特性を測定することができる。
【0013】
以下、薄膜形成装置の具体的な構成について詳細に説明する。具体例として示す薄膜形成装置は、基材フィルムであるベースフィルムをキャンロールに巻付けながら走行させ、スパッタリングによってベースフィルム表面に薄膜を形成するものである。
【0014】
<1.1 薄膜形成装置の全体概要>
図1は、本発明の一実施の形態に係る薄膜形成装置の概略を示す斜視図である。この薄膜形成装置は、巻出部である巻出ロール11からベースフィルム1を供給し、薄膜が形成されたベースフィルム1を巻取部である巻取ロール12によって巻き取る。また、真空チャンバー内に成膜ユニットである第1の成膜室ユニット及び第2の成膜室ユニットを備える。真空チャンバーは、空気の排出を行う真空ポンプと接続され、所定の真空度に調整可能である。
【0015】
第1の成膜室ユニット及び第2の成膜室ユニットは、それぞれ第1のキャンロール21及び第2のキャンロール22を備え、キャンロール21、22の外周面に対向するように成膜部であるスパッタ室SP1〜10を複数固定する。各スパッタ室SP1〜10には、後述するように、電極上に所定のターゲットが取り付けられるとともに、ベースフィルム1の幅方向に複数のガスノズルを有する供給部が設けられる。
【0016】
また、薄膜形成装置は、第1の成膜室ユニットと第2の成膜室ユニットとの間、すなわちスパッタ室SP5による成膜後に、光学特性を測定する測定部である光学モニター31を備える。これにより、第1の成膜室ユニット後の中間品の成膜を制御することができるとともに、後述する単層による調整時の調整時間を削減することができる。また、第2の成膜室ユニットの後、すなわちスパッタ室SP10による成膜後に光学特性を測定する測定部である光学モニター32を備える。これにより、第2の成膜室ユニット後の最終品の成膜の品質を確認することができる。
【0017】
光学モニター31、32は、後述するように、幅方向にスキャン可能な光学ヘッドにより、ベースフィルム1上に形成された薄膜の幅方向の光学特性を測定する。この光学モニター31、32により、例えば、光学特性として反射率のピーク波長を測定し、光学厚みに換算することにより、幅方向の光学厚み分布を得ることができる。
【0018】
このような構成からなる薄膜形成装置は、巻出ロール11からベースフィルム1を繰出し、第1のキャンロール21及び第2のキャンロール22の搬送時にベースフィルム1上に薄膜を形成し、巻取ロール12によって巻取ることにより、多層の薄膜を得ることができる。ここで、光学モニター31、32によって、ベースフィルム1上に形成された薄膜の幅方向の光学特性を測定し、光学特性に基づいて、幅方向に設けられた各ガスノズルからの反応性ガスの流量を制御することにより、長手方向及び幅方向に均一な厚みの薄膜を形成することができる。
【0019】
<1.2 光学特性の測定部>
次に、光学モニター31、32にて光学特性を測定する光学測定システムについて説明する。
図2は、光学測定システムを示す図である。光学測定システムは、光学ヘッド331を有する光学測定部33と、光学ヘッド331をベースフィルムの幅方向に移動させる駆動部34と、光学ヘッド331に光を供給する光源35と、光学ヘッド331で受光した光のスペクトルを測定する分光器36と、所望のスペクトルの測定結果を出力する測定制御部37とを備える。
【0020】
光学測定部33は、ベースフィルム上の薄膜に対して光を照射する投光部と、基材フィルム上の薄膜からの反射光を受光する受光部とを有する光学ヘッド331と、ベースフィルムを透過した光を吸収する光吸収面を有する測定ロール335とを備える。光学ヘッド331をベースフィルムの幅方向に移動させることにより、ベースフィルム上に形成された薄膜の幅方向について、反射率、反射色相、反射スペクトルのピーク波長・ボトム波長等の反射特性を測定することができる。
【0021】
具体的な構成として、光学ヘッド331には、カム従動子332がトラバースカム333のカム溝に噛合走行するように取り付けられる。トラバースカム333は、駆動部34に連接され、螺旋状又は反転螺旋状のカム溝が長手方向の表面に刻設される。また、カム従動子332の安定走行を図るためにガイドレール334が設けられる。そして、トラバースカム333が一定間隔で反転する回転運動又は一方向の回転運動によって、トラバースカム333上をカム従動子332が往復運動し、カム従動子332に取り付けた光学ヘッド331がガイドレール334に沿って往復走行する。また、測定ロール335は、表面反射の低いいわゆるブラックロールであり、ベースフィルムを透過した光を吸収する。
【0022】
駆動部34は、測定制御部37に接続され、測定制御部37からの命令により、光学ヘッド331をベースフィルムの幅方向の所定の位置に移動させる。光源35は、光ファイバを介して光学ヘッド331へ光を導く。また、分光器36は、光ファイバを介して光学ヘッド331から光を受光し、スペクトル等を測定する。測定制御部37は、分光器36におけるスペクトル等を演算処理し、反射率、反射色相、反射スペクトルのピーク波長・ボトム波長等の反射特性を出力する。また、光学ヘッド331をベースフィルムの幅方向の所定の位置に移動させ、所定位置の反射特性を得る。例えば、幅方向に50mm間隔で25点測定することにより、1300mm幅のベースフィルムの反射特性を幅方向に測定することができる。
【0023】
図3は、光学ヘッドの一例を示す図である。この光学ヘッドは、投光部と受光部とが同軸上に配置された同軸光学系38である。この同軸光学系38は、PET(polyethylene terephthalate)、TAC(Tri Acetyl Cellulose)等の透明基材上にAR(Anti−Reflection)膜が形成された単層基材に有効である。
【0024】
また、
図4は、光学ヘッドの他例を示す図である。この光学ヘッドは、ベースフィルム上の薄膜に対して斜め方向から光を照射する投光部39と、斜め方向から照射された光の反射光を受光する受光部40とを有する2軸光学系である。また、2軸光学系の光学ヘッドは、投光部39から照射される光を偏光する偏光板39aを配置する。これにより、透明基材上に偏光膜、AR膜がこの順に形成された多層基材に対して偏光膜上のAR膜特性のみを測定することができる。
【0025】
<1.3 スパッタ室>
次に、キャンロール21、22の外周面に対向するように固定されたスパッタ室について説明する。スパッタ室で用いられるスパッタ法としては、マグネトロンスパッタ法、直流グロー放電や高周波によって発生させたプラズマを利用するだけの2極スパッタ方式、熱陰極を付加する3極スパッタ方式などを用いることができる。
【0026】
本実施の形態では、成膜速度の高速化の観点から、マグネトロンスパッタ法を用いることが好ましい。マグネトロンスパッタ法では、磁界がプラズマを閉じ込め、電界の影響下で移動する電子の経路長を増加させることによって、ガス原子−電子衝突の確率を増大させ、ターゲット付近に高密度プラズマを生成させ、成膜速度の高速化を可能にすることができる。
【0027】
図5は、スパッタ室の概略を示す断面図である。このスパッタ室は、一対のターゲット41a、41bが設置可能であり、ターゲット表面に磁場を形成する磁場発生源42a、42bと、ターゲットに印加するためのスパッタ電極43a、43bと、ターゲット近傍にガスを供給する供給部44a、44bと、不要部分への膜の堆積を防止する防着板45とを備える。
【0028】
ターゲット41a、41bとしては、Si、Nb、Al、Ti、Mo、ITOなど、薄膜の組成に応じて適宜選択される。
【0029】
磁場発生源42a、42bは、永久磁石又は電磁石からなり、電場と磁場の直交するマグネトロン放電を利用可能とする。例えば、ターゲットのスパッタ面に平行に設けられた略長円形状の平板上に、長手方向にのびる中心線上に配置した中央磁石と、この中央磁石の周囲を囲うように環状(無端状)に配置した周辺磁石とが極性を変えて設置される。
【0030】
スパッタ電極43a、43bは、それぞれ1対のカソード/アノードをベースフィルムの幅と略同程度の長さで配置される。そして、公知の構造により、ターゲットに負の直流電圧又は高周波電圧が印加可能となっている。
【0031】
供給部44a、44bは、ターゲットの長手方向、すなわちベースフィルムの幅方向に複数のガスノズルが設けられ、反応性ガスを所定の流量で導入する。反応性ガスとしては、薄膜の組成に応じて適宜選択され、酸素、窒素、炭素、水素、またはこれらの混合ガスなどが用いられる。
【0032】
防着板45は、キャンロール上のベースフィルムとターゲットとの間に配置され、例えば一対のターゲット41a、41bの幅方向の長さと、ベースフィルムの幅方向の長さとからなる長方形と略同一のサイズの窓を有する。防着板45は、電気的にアノード/カソードからフロートしており、その材質は耐熱性を有していれば特に限定されるものではない。
【0033】
図6は、
図5に示す防着板の斜視図である。
図6に示すように、防着板45は、幅方向の側面及び長手方向の側面に開口45a、45bを有し、さらに窓の外側上面にも開口45cを有する。防着板45に開口部を設けることにより、ガスの排気面積が増加し、ガス流量の制御性を向上させることができる。
【0034】
このような構成のスパッタ室によれば、1つの成膜室内に一対のターゲット41a、41bが設置可能であるため、成膜速度を向上させるとともに、緻密で、応力の強い膜を成膜することができる。
【0035】
また、カソード、アノード間にスパッタを行うための電圧を印加する方法は、特に限定されるものではなく、2つのターゲット間に交流電圧を印加する方法、1つのターゲットに対してDCパルス電源で電圧を印加する方法、2つのターゲットに対し交互にDCパルス電源で電圧印加を行う所謂バイポーラ方式のDMS法などを利用することができる。例えば、一対のターゲット41a、41bに交流電圧が印加した場合、各ターゲット41a、41bがアノード電極、カソード電極に交互に切替わり、アノード電極及びカソード電極間にグロー放電を生じさせてプラズマ雰囲気が形成される。ここで、磁場発生源42a、42bで発生させた磁界がプラズマを閉じ込め、電界の影響下で移動する電子の経路長を増加させることによって、ガス原子−電子衝突の確率を増大させ、ターゲット付近に高密度プラズマが生成される。そして、プラズマ雰囲気中のイオンがカソード電極となった一方のターゲット41a、41bに向けて加速されて衝撃し、ターゲット原子が飛散されることにより、ベースフィルム表面に薄膜が形成される。
【0036】
<1.4 反応性ガスの供給部>
次に、スパッタ室において、ターゲットの長手方向、すなわちベースフィルムの幅方向に複数のガスノズルを備える供給部44a、44bについて説明する。
【0037】
図7は、ガスノズルの分解斜視図である。ガスノズル50は、反応性ガスとキャリアガスとを混合して噴出する。具体的には、複数の開口50aと、内部に反応性ガス用のガス管51とキャリアガス用のガス管52とを備え、混合室53で反応性ガスとキャリアガスとを混合し、複数の開口50aから混合ガスを噴出する。混合室53は、ターゲットの長手方向、すなわちベースフィルムの幅方向に複数設置され、混合室53毎、すなわちガスノズル毎に混合ガスの流量を制御可能となっている。
【0038】
反応性ガスのガス管51は、ガスを導入する連結部と、連結部から管の開口51aが等間隔となるようにトーナメント状に分岐された配管とを備え、マスフローコントローラ55を介してガスを連結部から導入し、トーナメント状に分岐された配管を経由して複数の開口51aから均一にガスを放出する。また、キャリアガスのガス管52の構造は、特に限定されないが、反応ガス同様であることが好ましい。混合室53では、複数の開口51aから放出された反応性ガスと、別配管の複数の開口52aから放出されたキャリアガスとが混合され、複数の開口50aから混合ガスが均一に噴出される。
【0039】
このような構成からなるガスノズル50によれば、ガス管51、52の複数の開口51a、52aから均等な流量でガスを噴出させることができるとともに、混合室53で反応性ガス及びキャリアガスを均一に混合することができ、各開口50aから均等な流量で混合ガスを噴出させることができる。また、ガス管51の連結部にマスフローコントローラを介してガスが導入されるため、ターゲットの長手方向、すなわちベースフィルムの幅方向に設置された各ガスノズルからのガスの流量を制御することができる。
【0040】
<1.5 スパッタ室の制御>
図8は、スパッタ室のガスの流量を制御する制御システムを示す図である。この制御システムは、複数のガスノズルを有する供給部44a、44bと、各ガスノズルに導入するガスの質量流量を制御するマスフローコントローラ55と、プラズマの発光スペクトルを測定するプラズマ測定部であるプラズマ発光モニター56と、マスフローコントローラ55におけるガスの流量やスパッタ電極に印加する電圧を制御するコントローラ57とを備える。
【0041】
供給部44a、44bは、前述のようにノズル幅全域で均等な流量でガスを噴出させるための所謂トーナメント構造を有するガスノズルを、ターゲットの長手方向、すなわちベースフィルムの幅方向にガスノズルの開口が等間隔となるように配置している。ガスノズルをベースフィルムの幅方向に配置する数は、後述するプラズマの発光スペクトルを測定する測定窓の数以上であることが好ましい。また、ターゲットを挟んで対称の位置にあるガスノズルは、同一のマスフローコントローラ55から出力されたガスを導入することが好ましい。
【0042】
マスフローコントローラ55は、各ガスノズルに導入するガスの質量流量を計測し、流量を制御する。マスフローコントローラ55から出力された反応性ガスは、ガス管51の連結部に導入され、ガスノズルのノズル幅全域で均等な流量で噴出される。
【0043】
プラズマ発光モニター56は、成膜中におけるベースフィルムの幅方向のプラズマの発光スペクトルを測定する。スパッタ室には、スパッタの長手方向、すなわちベースフィルムの幅方向に透明な測定窓が複数設けられており、この測定窓からターゲットと対向するベースフィルムとの中間位置に光を導入し、成膜中に発生するプラズマの発光スペクトルの分光強度を測定する。
【0044】
コントローラ57は、幅方向の光学特性及び幅方向のプラズマの発光スペクトルに基づいて、各ガスノズルから噴出する反応性ガスの流量及びターゲットに印加する電圧を制御する。例えばターゲットとしてSiを用い、反応性ガスとしてO
2を用い、SiO
2を成膜する場合、SiO
2の幅方向の光学特性に基づく膜厚分布、及びプラズマ発光のSiO
2の主スペクトルの強度に基づいて、O
2ガスの流量及びSiターゲットに印加する電圧を制御する。また、例えばターゲットとしてNbを用い、反応性ガスとしてO
2を用い、Nb
2O
5を成膜する場合、Nb
2O
5の幅方向の光学特性に基づく膜厚分布、及びプラズマ発光のNb
2O
5の主スペクトルの強度に基づいて、O
2ガスの流量及びNbターゲットに印加する電圧を制御する。
【0045】
このような構成からなる制御システムは、ベースフィルムの幅方向に薄膜の光学特性を測定するポイント及びプラズマの発光スペクトルを測定するポイントを複数有するとともに、膜厚を補正する手段としてベースフィルムの幅方向に反応性ガスの流量を制御可能なガスノズルを複数有しているため、幅方向に均一な厚みの薄膜を形成することができる。
【0046】
<2.薄膜形成方法>
次に、前述した薄膜形成装置を用いた薄膜形成方法について説明する。
【0047】
本発明の実施の形態に係る薄膜形成方法は、基材フィルムが長手方向に連続的に供給され、基材フィルム上に形成された薄膜の幅方向の光学特性を測定装置にて測定する測定工程と、測定装置における幅方向の光学特性に基づいて、基材フィルムの幅方向に複数設けられた各ガスノズルから噴出する反応性ガスの流量を制御し、薄膜を形成する成膜工程とを有する。これにより、幅方向に均一な厚みの薄膜を形成することができる。
【0048】
ここで、測定工程では、成膜中における基材フィルムの幅方向のプラズマの発光スペクトルを測定し、成膜工程では、幅方向の光学特性及び幅方向のプラズマの発光スペクトルに基づいて、各ガスノズルから噴出する反応性ガスの流量及びターゲットに印加する電圧を制御することが好ましい。これにより、幅方向の光学厚みが±3%以下の誤差で幅広、長尺の光学膜の形成が可能となる。
【0049】
<3.光学膜の製造方法>
次に、前述した薄膜形成装置を用いて、多層の光学膜を製造する光学膜の製造方法について説明する。
【0050】
図9は、本発明の一実施の形態に係る光学膜の製造方法を示すフローチャートである。
本発明の実施の形態に係る光学膜の製造方法は、基材フィルムを長手方向に第1の速度で連続的に供給し、各層について単層の薄膜を形成し、基材フィルムの幅方向の光学厚み分布を所定範囲に調整する調整工程S1と、基材フィルムを長手方向に第1の速度よりも速い第2の速度で連続的に供給し、多層の薄膜を形成する光学膜形成工程S2とを有する。
【0051】
目標となる各層の膜厚(光学厚み)は、事前に光学シミュレーションにより求める。例えば反射防止膜を偏光板上に成膜する場合、1層目のSiO
xを5nm、2層目のNb
2O
5を20nm、3層目のSiO
2を35nm、4層目のNb
2O
5を35nm、5層目のSiO
2を100nmと設定することにより、反射防止膜として機能させることができる。
【0052】
前述した薄膜形成装置を用いて、偏光フィルム上に多層の薄膜からなる反射防止膜を形成する具体的な方法は、以下の通りである。
(イ)所定のスパッタ室を通電して、調整用の基材フィルム上に、多層の薄膜からなる反射防止膜のうち任意の単層の薄膜を目標とする厚みより厚く形成する工程
(ロ)単層の薄膜の反射特性を測定し、反射スペクトルのピーク値(又は、ボトム値)が、所望の範囲に該当することを確認する工程
(ハ)任意の他の層について、上記(イ)(ロ)を繰り返す工程
(ニ)上記の(イ)〜(ハ)で使用される所定のスパッタ室を全て通電し、調整用の基材フィルム上に多層の薄膜からなる反射防止膜を形成する工程
(ホ)前記反射防止膜の反射特性を測定し、反射スペクトルのピーク値及び色相が所望の範囲に該当することを確認する工程
(へ)該当しない場合、該当するスパッタ室のガスの流量、スパッタ電圧を調整する工程(ト)調整用の基材フィルムを、偏光板フィルムに切り替え、本成膜を行う工程
【0053】
工程(イ)〜(ハ)において、フィルム速度を低下させて成膜厚さを大きくして幅方向の光学厚み分布を調整することにより、工程(ニ)においては工程(イ)より速いフィルム速度で多層の反射防止膜を成膜した際の幅方向の光学厚み分布を均一にすることができる。
【0054】
また、工程(ロ)において、反射スペクトルのピーク波長又はボトム波長が450nm以上650nm以下の範囲になるようにフィルム速度を設定することが好ましい。また、各層について単層の幅方向の反射スペクトルのピーク波長又はボトム波長が±15nm以内となるようにガスの流量、スパッタ電圧等を調整することが好ましい。このような範囲に反射特性を調整することにより、所望のスペクトルがベースフィルムの幅方向に均一に得られる反射防止膜を形成することができる。
【実施例】
【0055】
<4.実施例>
以下、本発明の実施例について説明する。本実施例では、光学膜として反射防止膜を偏光板上に成膜した。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
反射防止膜の各層の膜厚(光学厚み)は、光学シミュレーションにより求め、1層目のSiO
xを5nm、2層目のNb
2O
5を20nm、3層目のSiO
2を35nm、4層目のNb
2O
5を35nm、5層目のSiO
2を100nmと設定した。
【0057】
図10は、実施例における反射防止膜の構成を示す断面図である。この反射防止膜は、
図1に示す薄膜形成装置において、1層目のSiO
xをスパッタ室SP1、2層目のNb
2O
5をスパッタ室SP2、3層目のSiO
2をスパッタ室SP3、SP4、4層目のNb
2O
5をスパッタ室SP5、SP6、5層目のSiO
2をスパッタ室SP7〜SP10で成膜した。また、ベースフィルムは1300mmの幅のものを用いた。
【0058】
先ず、表1に示すように、各層のフィルム速度を設定し、単層の薄膜を目標とする厚みより厚く形成した。そして、光学モニター31、32を用いて、単層の薄膜の反射特性を測定し、幅方向の反射スペクトルのピーク値(又は、ボトム値)が、特定波長の範囲になるまで反応性ガスの流量やスパッタに印加する電圧を調整した。
【0059】
【表1】
【0060】
図11は、5層目のSiO
2単層の幅方向のピーク波長を示すグラフである。このグラフは、1300mm幅のベースフィルムについてピーク波長を等間隔に25点測定したものである。
【0061】
次に、スパッタ室SP1〜SP10を全て通電し、フィルム速度を1.8m/minとし、調整用のベースフィルム上に複数層からなる反射防止層を形成した。そして、光学モニター31、32を用いて複数層からなる反射防止膜の反射特性を測定し、反射スペクトルのピーク値及び色相が所望の範囲に該当するように調整した。
【0062】
図12〜
図23は、シミュレーションによる反射防止膜の各層の膜厚変動と色相変動との相関を示すグラフである。ここで、
図12〜
図14は、それぞれ2層目の膜厚と反射スペクトルとの関係、膜厚と色相との関係及び膜厚とY値との関係を示すグラフである。また、
図15〜
図17は、それぞれ3層目の膜厚と反射スペクトルとの関係、膜厚と色相との関係及び膜厚とY値との関係を示すグラフである。
図18〜
図20は、それぞれ4層目の膜厚と反射スペクトルとの関係、膜厚と色相との関係及び膜厚とY値との関係を示すグラフである。また、
図21〜
図23は、それぞれ5層目の膜厚と反射スペクトルとの関係、膜厚と色相との関係及び膜厚とY値との関係を示すグラフである。
【0063】
図12〜
図23に示すシミュレーション結果に基づいて、スパッタ室SP1〜SP10を調整した後、調整用の基材フィルムを、偏光板フィルムに切り替り変え、本成膜を行った。例えば、幅方向の所定位置において、本成膜のスペクトルと所望(best)のスペクトルとの差があった場合、
図12〜
図23のシミュレーション結果を活用して、放電条件を微調整した。具体的には、bestのスペクトルとの乖離がある波長に対応したカソードの所定位置の反応ガス流量を調整した。反応ガス流量の調整はシミュレーションを参考にして増減量を推定し、変更した結果のスペクトルを光学モニター32で確認し、Bestのスペクトルに近似するまで、この調整を繰り返した。その結果、所望の反射防止膜のスペクトルが1100mm幅で得ることができた。
【0064】
以上より、各層の反射スペクトルのピーク波長を幅方向で±15nmの範囲に調整することにより、幅方向に均一な厚みの光学膜を形成することができることが分かった。また、前述した単層膜の調整及び多層膜の調整により、2時間以内で所望のスペクトルでの本成膜の開始が可能となった。