【実施例1】
【0023】
<概要>
本実施例の発明は、ベース基板と、ベース基板上に配置される反射層と、反射層上に配置されるゲル接着層と、ゲル接着層上に配置される蓄光材を分散させたシリコーン体である蓄光シリコーン体と、少なくとも蓄光シリコーン体に被覆されるガラスコーティング層とからなる蓄光シリコーンマーカーを提供するものである。
【0024】
<構成>
(全般)
図1に、本実施例の蓄光シリコーンマーカーの構成の一例を示す。本図に示すように、本実施例の蓄光シリコーンマーカー0100は、ベース基板0110と、反射層0120と、ゲル接着層0130と、蓄光シリコーン体0140と、ガラスコーティング層0150とからなる。
【0025】
(ベース基板)
(ベース基板:全般及び平面形状)
ベース基板は、その上に蓄光シリコーン構造体(反射層、反射層上に配置されるゲル接着層、ゲル接着層上に配置される蓄光シリコーン体、及び蓄光シリコーン体に被覆されるガラスコーティング層からなる構造体をいう。以下同じ。)を配置する土台となるとともに、これを路面に固定するための部材である。形状には特に限定はなく、
図1に示したものは平面形状が円形のものであるが、このほか、例えば平面形状が多角形のものなどであってもよい。ただし、次段落で述べる断面形状の好適例に照らすと、平面形状は円形もしくはこれに近い形状であることが望ましい。その理由は同段落中で述べる。
【0026】
(ベース基板:断面形状)
また、その断面形状については、例えば、
図1に示すような、央部に蓄光シリコーン構造体を載置するための盆状の凹み0111を有し、周縁部に環状の脚部0112を有する板状のものが考えられる。本図の例では、凹み部分の底面が脚部の下端よりも高い位置にあり、当該底面と路面0100との間に空間が生じるように構成されているが、本図の例と異なり、凹み部分の底面が脚部の下端と同じ高さにあり、当該底面と路面との間に空間が生じないように構成されていてもよい。凹み部分の底面と路面との間に空間が生じる構成は、設置部分が環状の脚部の下端のみとなるため、路面に若干の凹凸があってもベース基板をガタつきが生じないように設置することができる。特に、水平な路面中の僅かな凹凸であれば、ベース基板を水平に設置することができる。このように路面に若干の凹凸がある場合において、ベース基板をできるだけ水平に設置するためには、ベース基板を水平方向に回転させながら最も水平に設置できる位置を探して設置することが考えられる。このような観点からは、ベース基板は、その脚部の形状が円形もしくはこれに近い形状であることが望ましい。これは、このような形状とすることで、ベース基板の全体位置を動かさずに脚部を回転させながら最も水平となる位置を探すという作業を容易に行うことができるためである。
【0027】
(ベース基板:央部の凹みの深さ)
ベース基板央部の凹みの深さは、反射層、ゲル接着層の厚みとの関係で適切に設計されるべき事項であるが、ゲル接着層の上面が側壁頂部より下位になるようにすること、換言すれば、反射層とゲル接着層が凹みの中に完全に埋没するような凹みの深さとすることが望ましい。このようにすることで、反射層とゲル接着層の接着界面及びゲル接着層と蓄光シリコーン体の接着界面が側壁によって保護され、塵埃の付着や劣化を防ぐことがより容易になるからである。
【0028】
(ベース基板:凹みの内壁の形状)
また、本図の例にも示すように、盆状の凹みの内壁0133が外側に傾斜する角度に形成されていることが望ましい。これは、内壁の角度をこのように形成するとともに、やはり本図に示すように蓄光シリコーン構造体の周縁部0131の形状を内側に傾斜するようにすることで、蓄光シリコーン構造体の一部を当該凹みに収納する形での取付けが容易となるためである。このような構成とした場合、当該ベース基板内壁と当該蓄光シリコーン構造体周縁部とで形成される溝に塵埃等が溜まりやすいという問題があるが、例えば、
図13に示すように、チューブ1301等に収容した液状シリコーンゴムを当該溝1302に注入して硬化させて被膜を形成することでこの問題を解決することができる。かかる液状シリコーンゴムの具体例としては、信越化学工業の紫外線硬化型液状シリコーンゴム(商品番号:X−34−4184−A/B)が挙げられる。
【0029】
さらに、上記の充填剤をゲル材料のものとし、充填後のゲル材料の上層にさらにガラス被覆層を設けてもよい。
【0030】
(ベース基板:その他の形状例)
なお、
図1に示したベース基板の断面形状はあくまで一例であって、このほかの形状であってもよい。例えば、ベース基板が凹みのない平板状のものであってもよい。また、ベース基板の央部に凹みがあるが、その形状は
図1に示したものと異なり、盆状の凹みの内壁が垂直に形成されているものであってもよい。この場合には、内壁が外側に傾斜する角度に形成されている場合に比べ、取付けの容易さでは劣るものの、例えば、凹み内に収納される反射層及びゲル接着層の垂直な端面に当該内壁がほぼぴったりと接する形となるため、充填剤を注入しなくても好適に塵埃の付着等を防ぐことができるという利点がある。
図12に、このように盆状の凹みの内壁1213が垂直に形成され、凹み内に反射層1220及びゲル接着層1230がぴったりと収納されている例を示す。
【0031】
その他の場合の図示は省略するが、結局のところ、ベース基板の央部に凹みがある場合については、ベース基板の側壁の形状が(1)外側に傾斜する角度に形成されている例と、(2)垂直に形成されている例の2通りが考えられ、凹み内に収納される蓄光シリコーン構造体の端面が(1)内側に傾斜する角度に形成されている例と、(2)垂直に形成されている例の2通りが考えられ、さらに、ガラス被覆層が(1)蓄光シリコーン体のみ被覆する場合と、(2)蓄光シリコーン体に加えゲル接着層及び反射層も被覆する場合が考えられる。したがって、これらの組合せだけで8通りの断面形状のパターンがあることになる。そして、現場の作業環境や防汚性に対するニーズなどを考慮して、これらを含む組み合わせの中から最適のものを選択することができる。
【0032】
(ベース基板:素材)
ベース基板の素材としては、ステンレス、アルミニウム、チタン、真鍮等の金属が好適であるが、セラミック(ファインセラミックス、陶器、ガラスなど)や硬性樹脂(アクリル樹脂、ポリカーボネイト樹脂など)であってもよい。
【0033】
(ベース基板:路面に設置するための構成)
本実施例の蓄光シリコーンマーカーを路面等に設置する際には、例えば、路面等に当該蓄光シリコーンマーカーの形状、寸法に合わせた窪みを設け、そこにベース基板の全部又は一部を埋め込んで接着剤やビスなどを用いて設置すればよい。
図1に示したものも、このようにしてベース基板の一部を路面0101の窪みに埋め込んだ例を示している。
【0034】
あるいは、蓄光シリコーンマーカーを路面等に設置するための構成として、
図1の例と異なり、ベース基板の下面に突起を設けて、これを路面等に挿し込んで固定するようにしてもよい。
【0035】
図2に、このような構成の一例を示す。本図の例では、ベース基板0210の下面側にネジ穴0211を設け(上面側まで貫通していてもよい)、そこに雄ネジ部0261を有する突起0260をねじ込んで取り付けたうえで、当該突起を路面に挿し込んで固定するようにしている。本図の例では、雄ネジ部の最頂部がベース基板の表面より上側には露出しないように構成されているが、本図の例と異なり、雄ネジ部の最頂部がベース基板の表面より上側に露出するように構成されているものであってもよい。
【0036】
図15は、雄ネジ部の最頂部がベース基板の表面より上側に露出する構成の一例を示す。特に、本図の例では、雄ネジ部1561の頂部にネジ穴1511の内径より大きい直径を有するネジ頭1562が設けられているので、ベース基板の縦方向の揺動に対して雄ネジ部がベース基板から脱落しにくい構造となっている。これは、例えば、地震における縦方向の揺れや近くを車両が通行することに伴う振動に対して破壊されにくい蓄光シリコーンマーカーを提供することができるというメリットがある。
【0037】
また、突起を路面に固定するための構造としては、
図2及び
図15では図示を省略したが、突起の外周に逆止用のストッパを設けることが考えらえる。
図16は、このような構造の一例を示すための当該部分の拡大図であり、本図に示すように、路面にかかる突起の形状に対応した形状を有する突起受部1680(薄墨で示す)を埋め込んで配置し、そこに突起1660を挿入して固定したものである。
図16(a)は、挿入・固定前の突起、突起受部それぞれの構成を示したもの、
図16(b)は、挿入・固定後の状態を示したものである。突起の外周に断面形状が楔形のストッパ1663を設けるとともに、突起受部のこれに対応する位置にも対応する形状のストッパ1681を設けているので、突起を突起受部の穴に押し込むと、突起受部のストッパが突起のストッパによって外周側に押し付けられるように退避し、突起のストッパが通過後に突起受部のストッパが元の位置に戻ることで突起が突起受部から抜けないよう固定される。この挿入・固定作業を容易に行い、かつ固定後の強度を維持するため、突起受部は樹脂製のものであることが望ましい。あるいは、本図の例と異なり、突起に設けた雄ネジ部と突起受部に設けた雌ネジ部とで螺合する構造などとしてもよい。
【0038】
(反射層)
反射層は、ベース基板上に配置される反射材を含む層状の部材であって、蓄光シリコーン体からの光を蓄光シリコーン体側に反射させて蓄光シリコーン体の発光輝度を向上させるためのものである。反射材の材料としては、酸化チタン、シリカなど白色顔料が好適である。反射材として、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリル樹脂(PMMA)、PETなどの反射フィルムや反射シートなどを用いることができ、例えば、3M社製の反射フィルム(商品名:ライトエンハンスメントフィルム 3635−100ホワイト)が用いられる。
【0039】
また、ベース基板の中心付近には反射層を設けないようにしてもよい。例えば、上述したベース基板の下面に突起を設けて、これを路面等に挿し込んで固定するようにした場合において、ネジ穴がベース基板の上面側まで貫通している場合には、当該ネジ穴部分には、反射層が形成されないこととなる。あるいは、
図11に示すように、ベース基板にネジ穴等が形成されていない場合であっても中心付近に反射層を設けないようにしてもよい。この場合、例えば、蓄光シリコーン体の中心付近の厚み(図中hで示す)が1センチメートル以上となる部分の底面に当たる部分にゲル接着層及び反射層を配置しない領域1170を設けることが考えられる。これは、かかる構成は、蓄光シリコーン体の中心付近の厚みが大きい(約1センチメートル以上)と、このベース基板の中央付近で接する部分に近い蓄光材はほとんど発光しないため、反射材を設ける意義が乏しいことに鑑みたものである。また、
図11の例では当該部分にゲル接着層も設けられていないが、これは反射層と蓄光シリコーン体を密着させる必要性が乏しいためである。ただし、基板と蓄光シリコーン体を密着させるためにこの部分にゲル接着層を設けるという構成であってもよい。
【0040】
ベース基板の構成の中で述べた、ベース基板の下面側に突起を設けて路面に取り付ける構造のうち、雄ネジ部を有する突起の最頂部(
図15の例ではネジ頭)がベース基板の表面より上側に露出する場合には、通例、
図15の例にも現れているように、反射層1520及びゲル接着層1530は中心付近に穴を有するドーナッツ形状となる。反射層を反射材料の塗布によって形成する場合には、この部分の反射材料を節約することが可能となる。一方、蓄光シリコーン体の中央部分は厚みが大きいため、この部分が発光に寄与しない場合も考えられる(通例蓄光体の厚みが1センチメートル程度以上になると底部付近はほとんど受光が届かないため発光しないと考えられる)ので、この部分に反射層を設けても意味がない。したがって、反射層をドーナッツ形状とすることは、単に雄ネジ部がベース基板の上側に露出する場合に対応するという意味にとどまらず、発光に寄与しない蓄光シリコーン体の中央部分の下側に反射層を配置する無駄を省くという積極的な意義も有する。次項に述べるゲル接着層についても同様である。
【0041】
(ゲル接着層)
ゲル接着層は、反射層上に配置される透明ゲル材料からなる部材である。その目的は、ゲルの粘着性及び柔軟性という特性を利用して、接着剤を用いることなく、反射層と蓄光シリコーン体を圧着することにある。また、反射材と蓄光シリコーン体をすき間なく圧着することで、反射層と蓄光シリコーン体との間に空気が入らないようにすることができ、これらの間での光の減殺を防ぐことができる。また、接着剤という異なる素材の部材を介在させずに済むため、この点からも反射層・蓄光シリコーン体間における光の減殺を防ぐことができる。
【0042】
透明ゲル材料の素材としては、透明シリコーン系ゲル、透明アクリル系ゲルが好適である。ゲル接着層の形状は、反射層と蓄光シリコーン体とをすき間に空気が入らない状態で密着させるという目的に照らし、反射層の平面形状及び蓄光シリコーン体の底面形状と略合同の形状をなし、また、その柔軟な特性に照らし、あまり厚みのないものであることが望ましい。使用前の厚みの一例としては0.1〜0.3ミリメートル程度のものが考えられる。ゲル接着層は両面テープでもよい。かかる具体例については、別の実施例にて後述する。ゲル接着層を反射層上に配置したのち、蓄光シリコーン体を配置する場合には蓄光シリコーン体によってゲル接着層を押圧し、両者の間に気泡等が残らないように作業する。押圧力は、ゲル接着層の単位面積当たり平均して400グラム/平方センチメートルから1キログラム/平方センチメートル程度である。蓄光シリコーン体にあまり大きな力を加えると、破損する可能性があるので、蓄光シリコーン体を布などの比較的柔らかい部材で上方をくるんで押圧すると破損の危険性を減らすことができる。
【0043】
なお、ゲル接着層の素材は、蓄光シリコーン体と化学反応を起こしにくいものであることが望ましい。これは、蓄光シリコーン体のゲル接着層との接着部分の組成が蓄光シリコーン体のその他の部分の組成と同一でなくなることで発光性能を劣化させることを防止するためである。
【0044】
(蓄光シリコーン体)
蓄光シリコーン体は、蓄光材を分散させたシリコーン体である。蓄光材としては、例えば、アルミン酸ストロンチウム系蓄光粉末が用いられる。なお、アルミン酸ストロンチウム系蓄光粉末とは、アルミン酸ストロンチウム塩を母結晶として、少量のユーロピウム(Eu)、ディスプロシウム(Dy)、ホウ素(B)などを添加したものをいう。蓄光粉末を混入する液状シリコーンには、なるべく透明度の高いものを用いることが望ましい。蓄光シリコーン体を形成する方法としては、例えば、お椀状、蒲鉾の型状、フライパン状、鍋状などの型に流し込んだシリコーン液に粉末状の蓄光材を混合し、一定時間静置して蓄光粉末を沈殿させた後、例えばホットプレートに載置し摂氏120度で約10分加熱し、その後ホットオーブン(乾燥機能付)を用いて摂氏120度で約2時間程度加熱処理を行って硬化させ、硬化した蓄光シリコーン体を型から外すといった方法が用いられる。なお蓄光材に加えて顔料も同時に混合するように処理することも可能である。この顔料の色合い(複数の顔料を混ぜてもよい)によって昼間の時間帯の色彩を決定する。静置時間を変化させることでシリコーン体中における蓄光材の分布状態を様々に調整することができる。例えば、蓄光粉末が完全に沈殿する前に硬化させることで、シリコーン体に蓄光粉末や同時に混合する場合の顔料(場合により複数の顔料が独立に模様を描くようにすることも可能)がグラジュエーションをなして分布した状態のものを得ることができる。また、硬化前に型を回転させたり揺動させたりしてもよい。かかる具体例については別の実施例にて後述する。
【0045】
あるいは、蓄光シリコーン体は、発光色の異なる素材からなる複数の蓄光材を層状に重ねた構造のものとしてもよい。蓄光材の発光色としては、赤色、黄色、緑色、青緑色、青色など様々なものが知られている。例えば、特開2011−189558号公報には、硫化亜鉛の結晶に少量の銅を賦活剤として加えた蓄光材料(発光色は、その組成によって黄色〜赤色)、硫化亜鉛に少量の銅を賦活剤として加えた蓄光材料(発光色は緑色)、アルミン酸塩に賦活剤としてユーロピウムを加えたり共賦活剤として希土類元素又は遷移金属を加えたりした蓄光材料(発光色は緑色又は青色)が開示されている。そこで、例えば、蓄光シリコーン体を下から順に発光色が赤色、黄色、青色の三層構造となるように、これら各色の液状の蓄光材料を流込みと硬化を繰り返しつつ形成したものが考えられる。その際、硬化過程で揺動や回転を加えることで、各層内や全体にグラジュエ―ションをかけたようにしてもよい。こうした構成により、各色やその組合せに独自の意味を持たせて多様な表示内容を有する蓄光シリコーンマーカーを提供することができる。
【0046】
図17は、このように発光色の異なる素材の複数の蓄光材を層状に重ねた構造の蓄光シリコーン体を有する蓄光シリコーンマーカーの形状の一例を示す図である。本図の例では、下から順に赤色で発光する蓄光材1741、黄色で発光する蓄光材1742、緑色で発光する蓄光材1743を層状に重ねた構造を有する蓄光シリコーン体1740が配置されている。
【0047】
蓄光シリコーン体の形状は、斜め方向からも視認しやすいように、盛り上がった形状、例えば、ドーム形状、半球形状、円錐形状等とすることが望ましい。
図1に示したものも、蓄光シリコーン体がドーム形状を有する好適な例である。ただし、蓄光シリコーンマーカーの設置目的や配置場所などの状況に照らし、例えばごく近辺を低速で移動する者に注意喚起をすれば足りるような場合には、蓄光シリコーン体の形状が平面形状などであってもよい。
【0048】
なお、ベース基板及び反射層の説明中で述べたベース基板の上側に露出するネジ頭を有する突起を設ける構成に関連して、当該ネジ頭の寸法、形状によっては、蓄光シリコーン体1540の底面中心付近にも凹み1541が設けられることとなる。かかる構成によれば、発光に寄与しない蓄光シリコーン体の厚みが大きい部分の底部付近の材料を節約できるというメリットがある。
【0049】
(ベース基板・反射層・ゲル接着層・蓄光シリコーン体の形状の組合せ)
以上に述べたように、ベース基板の下側に路面に埋め込むための突起を設ける構成においては、ベース基板・反射層・ゲル接着層・蓄光シリコーン体の形状の組合せ、即ち、(1)当該突起がベース基板の中心に設けられたネジ穴に取り付けられ、当該突起のネジ頭がネジ穴を貫通できない大きさに設計され、(2)当該ベース基板の中心付近には反射層及びゲル接着層が設けられず、(3)蓄光シリコーン体の底面中心付近にも凹みが設けられるという構成が一体となって、材料の無駄を省きつつ、ベース基板の縦方向の揺動に対して破壊されにくい蓄光シリコーンマーカーを提供することができるというメリットを発揮することができる。
【0050】
(ガラスコーティング層)
ガラスコーティング層は、蓄光シリコーン構造体を傷、水濡れや埃から守るために、その全部又は一部の表面に被覆されるガラスからなる層状の部材である。特に、蓄光シリコーン体は、これら損傷等に弱く、また損傷等が高輝度での発光の阻害に直結することから、ガラスコーティング層は少なくとも蓄光シリコーン体を被覆することを必須とする。
【0051】
図1に示したような、盆状の凹みの内壁が外側に傾斜する角度に形成されるとともに、蓄光シリコーン構造体の周縁部形状を内側に傾斜するように形成する場合には、蓄光シリコーン体のみを被覆する場合においても、ゲル接着層及び反射層の端面が直接外気に触れることがないようにすることが望ましい。そこで、このような場合の構成の一例について図を用いて説明する。
【0052】
図14は、かかる図であって、ガラスコーティング層の形成のしかたの一例について説明するための図である。本図に示した範囲は、
図1の破線円0102で示した部分に相当する範囲である。本図に示すように、ガラスコーティング層は盆状の凹みの内壁と蓄光シリコーン層の内側に傾斜した表面によって形成される谷部に液溜まりを形成するようにして設けられる。この前提として、本図の例では、ガラスコーティング方法として、ある程度の粘度を有する液状ガラスを塗布する方法を用いるものとする(ガラスコーティング方法の詳細については後述する)。
【0053】
図14(a)の例では、ガラスコーティング層1450(薄墨で示す)は、谷部を谷底まで完全に埋め尽くすように配されている。この結果、ガラスコーティング層は、蓄光シリコーン体1440を完全に被覆するだけでなく、ゲル接着層1430及び反射層1420の端面をも完全に被覆する。このため、ゲル接着層及び反射層の端面は傷、水濡れや埃から守られることとなる。
【0054】
一方、
図14(b)の例では、ガラスコーティング層1450(薄墨で示す)は、谷部を谷底まで完全に埋め尽くさず、谷部の底部にガラスコーティング層が配されない空間が生じる。液状ガラスの粘性が大きい場合にはこのようになることが考えられる。この場合、ガラスコーティング層1450は蓄光シリコーン体1440を完全に被覆する一方、ゲル接着層1430及び反射層1420の端面が被覆されない場合が生じる(本図の例はそのような例である)。しかし、この場合でも、ゲル接着層及び反射層の端面はいわばガラスコーティング層の下部に密封される形となり、外気に触れることがない。このため、やはりゲル接着層及び反射層の端面が傷、水濡れや埃から守られることとなる。
【0055】
このように
図14(a)、(b)いずれも場合も、ガラスコーティング層によってゲル接着層及び反射層の端面が傷、水濡れや埃から守られることとなるのであるが、これは谷部の形状と、ガラスコーティング層、ゲル接着層の端面及び反射層の端面の位置関係が以下のような関係になるように構成しているためである。
【0056】
即ち、
図14(a)に示したように、路面をG、ベース基板の側壁の最頂部をA、ゲル接着層端面の上端をB、ゲル接着層端面の下端(反射層端面の上端)をC、反射層端面の下端をDとした場合、ガラスコーティング層の谷部の最も低い位置Hは、Aよりは低い位置であって、B、C及びDよりは高い位置となるように構成される(GA>GH、GH>GB、GH>GC、GH>GD)。このように構成すると、ガラスコーティング層の形成過程で液状ガラスがベース基板の側壁から外に流出することなく谷部を充填することができ、この充填を続けて行けば、やがて谷底からBより高い位置Hまでの谷部を完全にガラスコーティング層で埋め尽くす液溜まりを形成することができる。
図14(b)の場合も、同じ要領で、Bより高い位置で谷部を密閉する液溜まりを形成することができる
【0057】
一方、ゲル接着層又はこれに加えて反射層もベース基板上に露出するような構成の場合は、ガラスコーティング層はこれら露出するゲル接着層や反射層も被覆するように構成されることが望ましい。その具体例については別の実施例にて後述する。
【0058】
ガラスコーティングの方法としては、例えば、常温ガラスコーティングが用いられる。常温ガラスコーティングは、常温(概ね室温〜200℃)でガラス被膜を形成し、従来のようなガラスの製造工程における高温での加熱処理工程を不要とする被膜方法であり、具体的には、例えば、コスモテクノロジー社の常温ガラスコーティングシステム(商品名:SL−600シリーズ)を用いることができる。常温ガラスコーティングは、耐候性、防汚性に優れているほか、耐水性、耐摩耗性にも優れており、一般に蓄光材が水濡れに弱いことや、蓄光シリコーンマーカーが路面に設置されて歩行者等に踏まれやすいことなどに照らせば、本件発明に係るガラスコーティング方法として、極めて好適な方法である。
【0059】
常温ガラスコーティングの材料としては、例えば、アルコール可溶型の有機ケイ素化合物、その他の金属化合物(有機・無機)が考えられる。より具体的には、成分中含有ケイ素成分(SiO
2)が換算で60重量%以上であって必要に応じて顔料や骨材などを配合したものが挙げられる。成分は、液状で無溶剤のオルガノポリシロキサンと、官能性側鎖アルコキシシランと、イオン化された金属化合物(有機、無機)及び触媒などからなる。スプレーなどをも用いて複数回に分けてガラスコーティング層を形成してもよいし、液状ガラスの粘度を調整して1回で塗布できる厚さを厚くし、塗布回数を減らすこともできる。粘度を高くするためには、含まれるケイ素成分を高くすることが考えられる。例えば重量%換算で70%から80%程度とするとドーム状の蓄光シリコーン体に対しても十分に厚いガラス層を形成することができる。70%程度で厚みを0.3ミリメートルから0.7ミリメートル程度とすることができる。この程度の厚みがあれば上からの大きな力が加えられる場合は別として、耐候性は十分に確保することができる。また厚すぎないので紫外線をある程度透過し、蓄光材量へのエネルギー補給には支障をきたさない。
【0060】
<処理の流れ>
図3は、本実施例の蓄光シリコーンマーカーの製造方法に係る処理の流れの一例を示す図である。
まず、ベース基板準備ステップS0301において、ベース基板を準備する。
次に、反射層配置ステップS0302において、ベース基板上に反射層を配置する。
次に、ゲル接着層配置ステップS0303において、反射層上にゲル接着層を配置する。
次に、蓄光シリコーン体準備ステップS0304において、蓄光材をシリコーンに分散させた蓄光シリコーン体を準備する。
次に、蓄光シリコーン体配置ステップS0305において、ゲル接着層上に準備した蓄光シリコーン体を配置する。
次に、ガラスコーティング層被覆ステップS0306において、少なくとも蓄光シリコーン体にガラスコーティング層を被覆する。
【0061】
上記の蓄光シリコーン体準備ステップS0304は、さらに、
図4に示すように、以下のサブステップを有していてもよい。まず、硬化前蓄光シリコーン型入サブステップS0401において、硬化前の蓄光材が分散されたシリコーンである蓄光シリコーンを型に流し込む。型の形状は蓄光シリコーン体の形状に応じて様々なものとすることができる。例えば、蓄光シリコーン体がドーム形状である場合には、型は、くりぬかれた部分がドーム形状であるものが用いられる。次に、硬化サブステップS0402において、型に流し込まれた蓄光シリコーンを硬化させる。さらに、型外(かたはずし)サブステップS0403において、硬化した蓄光シリコーンを型から外す。なお、これら蓄光シリコーン体準備ステップにおける処理は、ゲル接着層配置ステップの次ではなく、ベース基板準備ステップの前に行ってもよい。
【0062】
さらに、図示は省略したが、蓄光シリコーン体準備ステップにおいて、硬化サブステップの前に、さらに、流し込まれた硬化前蓄光シリコーンを放置して硬化前のシリコーンに分散された蓄光材の自然沈降によって蓄光材の分散密度をシリコーン内で異ならせる放置サブステップを有していてもよい。
【0063】
<効果>
本実施例の発明によれば、路面用の蓄光標示体において、耐候性及び防汚性に優れたものを提供することが可能となる。