【解決手段】回転機械の相対回転する箇所に配置される環状の摺動部品10,20であって、摺動部品10,20の摺動面11,21には、回転方向下流側の下流側端部14Aに正圧発生部が設けられる少なくとも周方向に延びる帯状の溝14が形成されており、溝14の少なくとも一部に、周方向に沿って漏れ側に開放する開口部15が形成されている。
前記溝は、前記開口部が形成され周方向に延びる第1溝部と、前記第1溝部の下流側端部から径方向に延設されその端部が閉塞された前記正圧発生部が形成される第2溝部と、を有している請求項1ないし3のいずれかに記載の摺動部品。
前記溝は、周方向に沿って複数設けられており、一の前記溝の下流側端部と、該溝に隣接する溝の上流側端部とは、径方向において重畳して設けられている請求項1ないし5のいずれかに記載の摺動部品。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る摺動部品を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0017】
実施例1に係る摺動部品につき、
図1から
図3を参照して説明する。尚、本実施例においては、摺動部品がメカニカルシールである形態を例に挙げ説明する。また、メカニカルシールを構成する摺動部品の外径側を被密封流体側としての被密封液体側(高圧側)、内径側を漏れ側としての大気側(低圧側)として説明する。また、説明の便宜上、図面において、摺動面に形成される溝等にドットを付すこともある。
【0018】
図1に示される一般産業機械用のメカニカルシールは、摺動面の外径側から内径側に向かって漏れようとする被密封液体Fを密封するインサイド形のものであって、回転軸1にスリーブ2を介して回転軸1と一体的に回転可能な状態で設けられた円環状の摺動部品である回転密封環20と、被取付機器のハウジング4に固定されたシールカバー5に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた摺動部品としての円環状の静止密封環10と、から主に構成され、ベローズ7によって静止密封環10が軸方向に付勢されることにより、静止密封環10の摺動面11と回転密封環20の摺動面21とが互いに密接摺動するようになっている。尚、回転密封環20の摺動面21は平坦面となっており、この平坦面には凹み部が設けられていない。
【0019】
静止密封環10及び回転密封環20は、代表的にはSiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、これに限らず、摺動材料はメカニカルシール用摺動材料として使用されているものであれば適用可能である。尚、SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボン等を焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC−TiC、SiC−TiN等があり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン等が利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料等も適用可能である。
【0020】
図2に示されるように、静止密封環10に対して回転密封環20が実線矢印で示すように相対摺動するようになっており、静止密封環10の摺動面11には複数の溝14が静止密封環10の周方向に沿って等配、かつ、後述する下流側端部14Aから上流側端部14Bに亘って同心円状に配設されている。摺動面11の溝14以外の部分は平端面を成すランド12となっている。
【0021】
次に、溝14の概略について
図2及び
図3に基づいて説明する。尚、以下の説明において、特に断らない限り、
図2において実線矢印で示されるように、静止密封環10に対して回転密封環20が相対的に紙面反時計回り方向に回転しているものとして説明する。これに伴い、
図3の紙面左側を回転方向下流側とし、
図3の紙面右側を回転方向上流側として説明する。また、回転方向上流側については、単に「上流側」と記載することもあり、回転方向下流側についても同様に、単に「下流側」と記載することもある。
【0022】
溝14は、大気側に開放するとともに周方向に延設された開口部15と、開口部15に連通するとともに回転方向下流側に形成された正圧発生部としての下流側端部14Aと、開口部15に連通して回転方向上流側に形成された負圧発生部としての上流側端部14Bと、を有し、軸方向視において周方向に沿って弧状に湾曲した帯状を成し、径方向の区画壁よりも周方向の区画壁が長く形成されている。また、溝14は、径方向に延びる線S1を基準に線対称に形成されている。
【0023】
溝14の構成について詳しくは、開口部15の下流側端およびランド12に略直交して径方向に延設された下流側壁部14aと、下流側壁部14aの外径側端およびランド12に略直交して周方向に延設された周壁部14bと、周壁部14bの上流側端に略直交して径方向に延設されて開口部15の上流側端およびランド12に略直交する上流側壁部14cと、下流側壁部14a、周壁部14b及び上流側壁部14cに直交する底面と、を有しており、下流側端部14Aに下流側壁部14aと周壁部14bの下流側端部とが配設され、上流側端部14Bに上流側壁部14cと周壁部14bの上流側端部が配設されている。
【0024】
また、溝14は、開口部15と周壁部14bとが略平行に形成されており、開口部15と周壁部14bとの間の径方向における幅寸法D2は略一定となっている。また、幅寸法D2は、開口部15の開口寸法D1よりも短寸であり(D1>D2)、開口寸法D1は、幅寸法D2の約5倍となっている。尚、開口部15は、周方向に延びる内径側の全長に亘って開口していたが、軸方向から見て溝14の周方向に沿って略同心状に延びる壁(本実施例では周壁部14b)の周方向長さの少なくとも1/3以上、好ましくは1/2以上が開口していればよい。また、開口寸法及び幅寸法については、開口寸法が幅寸法よりも大きくなっていれば適宜変更してもよい。また、溝14の幅寸法D2が周方向に亘って一定であることを妨げない。
【0025】
また、溝14は、ランド12の表面から溝14の底面までの深さ寸法は5μmに形成されている。尚、溝14の深さ寸法は、適宜変更してもよい。また、溝14の底面は平坦面をなしランド12に平行に形成されているが、平坦面に微細凹部を設けることやランド12に対して傾斜するように形成することを妨げない。
【0026】
次いで、静止密封環10と回転密封環20との相対回転時の動作について説明する。まず、回転密封環20が回転していない一般産業機械の非稼動時には、摺動面11,21間には摺動面11,21よりも外径側の被密封液体Fが毛細管現象によって僅かに進入しているとともに、溝14には一般産業機械の停止時に残っていた被密封液体Fと摺動面11,21よりも内径側から進入した気体とが混在した状態となっている。尚、被密封液体Fは気体と比べ粘度が高いため、一般産業機械の停止時に溝14から低圧側に漏れ出す量は少ない。
【0027】
一般産業機械の停止時に溝14に被密封液体Fがほぼ残っていない場合には、回転密封環20が静止密封環10に対して相対回転(実線矢印参照)すると、
図3に示されるように、溝14内の低圧側流体Aが回転密封環20の回転方向に矢印L1に示すように追随移動するため、下流側端部14A内に動圧が発生するようになる。
【0028】
下流側端部14Aには、回転密封環20の回転に伴って低圧側流体Aが流入し続けることにより、下流側端部14A内の圧力が高められて正圧が発生し、低圧側流体Aは矢印L2に示すように下流側壁部14a近傍からその周辺に流出する。詳しくは、周壁部14bに沿って案内されて移動する低圧側流体Aが下流側端部14Aにおける下流側壁部14aから摺動面11,21間に流出、特に下流側壁部14aと周壁部14bとが略直交する角部に向かって収束され、この角部から摺動面11,21間に流出することとなる。そのため、下流側壁部14aと周壁部14bとの角部から流出する低圧側流体Aの圧力が最も高く、この角部から下流側壁部14aの内径側または周壁部14bの上流側に向かうにつれて漸次圧力が低くなる。なお、低圧側流体Aには遠心力が作用するため、周壁部14bに沿って流れやすくなっている。
【0029】
また、回転密封環20の回転に伴って低圧側流体Aが下流側端部14A側に追従移動し下流側端部14Aに正圧が発生することにより、上流側端部14Bに負圧が発生し、大気側の低圧側流体Aが矢印L3に示すように開口部15の周方向中央部や、矢印L4に示すように開口部15の上流側端部14Bから導入される。また、溝14において下流側端部14A近傍が最も圧力が高くなっているので、下流側端部14A近傍の低圧側流体Aの大部分は摺動面11,21間に流出し、低圧側流体Aの一部は開口部15における下流側端部14A近傍から大気側に漏れる。
【0030】
また、上流側端部14Bでは、発生する負圧によって、隣接する上流側の溝14の下流側端部14Aから流出した低圧側流体Aが矢印L5に示すように上流側壁部14c側から導入される。
【0031】
また、摺動面11,21間の内径側に流出する被密封液体Fが溝14の下流側端部14Aに到達すると、その被密封液体Fを溝14の下流側端部14Aから摺動面11,21間に流出する低圧側流体Aにより外径側に押し返すことができる。また、摺動面11,21間の被密封液体Fが溝14の上流側端部14Bに到達すると、溝14の上流側端部14Bで発生する負圧によりその被密封液体Fを回収することができる。加えて、被密封液体Fは気体と比べ粘度が高く、比重も大きいことから回転の影響を受け易いため、溝14内に回収されると、回転力や遠心力によって下流側壁部14aまたは周壁部14bに沿って移動することとなる。よって、摺動面11,21間の大気側に流出した被密封液体Fを回収して下流側端部14Aから低圧側流体Aと共に摺動面11,21間に確実に戻すことができる。
【0032】
以上のことから、静止密封環10と回転密封環20との相対回転時において、摺動面11,21間の内径側には、低圧側流体Aによる流体膜が形成されることとなる。これによれば、摺動面11,21同士を離間させ、流体膜により潤滑性を向上させることができる。
【0033】
このように、溝14には、周方向に沿って大気側に大きく開口する開口部15が形成されており、溝14の開口部15側の体積が正圧を発生させる下流側端部14A側の体積よりも大きいので、回転軸1の回転数を上げたときに溝14における下流側端部14A側の圧力が高まっても、開口部15から大気側の低圧側流体Aを溝14内に多く取り込み、溝14内に動圧を発生させることができ、下流側端部14Aにより摺動面11,21間に高い正圧を発生させることができる。また、溝14の上流側端部14Bで発生する負圧により溝14内に積極的に低圧側流体Aを取り込むことができる。
【0034】
また、溝14は、内径側に亘って開口部15が形成されているので、開口部15から低圧側流体Aを十分に取り込むことができ、下流側端部14Aにより摺動面11,21間に高い正圧を確実に発生させることができる。
【0035】
また、溝14は、線S1を基準に線対称に形成されていることから、
図2において点線矢印で示されるように、静止密封環10に対して回転密封環20が相対的に紙面時計回り方向に回転する場合には、下流側端部14Aから上流側端部14Bに向かって低圧側流体Aが移動して、上流側端部14B側で正圧が発生し、下流側端部14A側で負圧が発生することとなる。すなわち、静止密封環10に対して回転密封環20が相対的に紙面反時計回り方向に回転した場合とは逆に機能することとなる。よって、静止密封環10と回転密封環20との相対回転方向に限られず使用できる。
【0036】
また、溝14は、周方向に沿って複数設けられているので、周方向における摺動面11,21間の圧力バランスが取りやすい。尚、本実施例では、溝14が周方向に等配される形態を例示したが、不等配に配設されていてもよい。また、溝14の数量も自由に変更することができる。
【0037】
[変形例]
次いで、溝の変形例について説明する。
図4に示されるように、静止密封環101に設けられる変形例1の溝141は、軸方向から見て略350度の円弧状、すなわちC字状に形成されており、径方向に延びる線S2を基準に線対称に形成されている。また、溝141の開口部151は、溝141と同様に、軸方向から見て略350度の円弧状に形成されており、溝141内に低圧側流体Aを多く導入することができる。このように、溝は、一つ以上形成されていればよい。また、複数形成する際にも、等配に限らず不等配に配設されていてもよい。
【実施例2】
【0038】
次に、実施例2に係る摺動部品につき、
図5及び
図6を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0039】
図5及び
図6に示されるように、静止密封環102に設けられる溝142は、開口部15と、開口部15の下流側端から回転方向下流側に傾斜して径方向に延設された下流側壁部142aと、周壁部14bと、上流側壁部14cと、を有している。下流側端部142Aは、下流側壁部142aと周壁部14bとが交差する角部が、回転方向下流側かつ被密封液体F側に突出するように先端に向かって鋭角に形成されている。
【0040】
このように、下流側壁部142aが径方向に対し回転方向下流側に傾斜していることで、下流側壁部142aに低圧側流体Aが案内されるにあたって、下流側端部142A近傍の低圧側流体Aが矢印L1’,L3’に示すように下流側端部142Aの先端の狭い箇所に向かって収束されることから、下流側端部142Aにおける正圧発生の効率を向上させることができる。
【0041】
また、溝142は、矢印L2’に示すように下流側端部142Aの先端から流出される低圧側流体Aの圧力を前記実施例1よりも高めやすいことから、より被密封液体Fの移動を抑制しやすい。
【実施例3】
【0042】
次に、実施例3に係る摺動部品につき、
図7を参照して説明する。尚、前記実施例2と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0043】
図7に示されるように、静止密封環103に設けられる溝143は、径方向に延びる線S3を基準に線対称に形成されており、開口部15と、下流側壁部143aと、周壁部14bと、周壁部14bの上流側端から回転方向下流側に傾斜して径方向に延設された上流側壁部143cと、を有している。すなわち、上流側壁部143cと周壁部14bとにより形成される上流側端部143Bは、上流側壁部143cと周壁部14bとが交差する角部が回転方向上流側に突出するように先端に向かって鋭角に形成されている。
【0044】
これにより、溝143は、
図7において実線矢印で示されるように、静止密封環103に対して回転密封環20が相対的に紙面反時計回り方向に回転する場合にも、
図7において点線矢印で示されるように、静止密封環103に対して回転密封環20が相対的に紙面時計回り方向に回転する場合にも、下流側端部143Aまたは上流側端部143Bに低圧側流体Aを収束させて、正圧発生の効率を向上させることができる。よって、静止密封環103と回転密封環20との相対回転方向に限られず使用できる。
【実施例4】
【0045】
次に、実施例4に係る摺動部品につき、
図8及び
図9を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0046】
図8及び
図9に示されるように、静止密封環104に設けられる溝144は、開口部15を有し周方向に延びる第1溝部144Cと、第1溝部144Cの下流側端部に直交して径方向に延設される第2溝部144Dと、から構成され、軸方向から見て逆L字状に形成されている。
【0047】
図9に示されるように、溝144の構成について詳しくは、開口部15の下流側端に略直交して径方向に延設された下流側壁部144aと、下流側壁部144aの外径側端に略直交して延設された外径側周壁部144dと、外径側周壁部144dの上流側端に略直交して径方向に延設された中間壁部144eと、中間壁部144eの内径側端に略直交して周方向に延設された内径側周壁部144bと、上流側壁部144cと、溝144の底部と、を有している。内径側周壁部144b、上流側壁部144c、溝144の底部は、第1溝部144Cを構成しており、下流側壁部144a、外径側周壁部144d、中間壁部144e、溝144の底部は、第1溝部144Cに連通する第2溝部144Dを構成している。
【0048】
図8に戻って、溝144は、開口部15と外径側周壁部144dとが略平行に形成されており、開口部15と外径側周壁部144dとの間の径方向における幅寸法D20は略一定となっている。また、幅寸法D20は、幅寸法D2の約2倍となっており、開口部15の開口寸法D1よりも短寸であり(D1>D20)、開口寸法D1は、幅寸法D20の約3倍となっている。
【0049】
また、溝144は、内径側周壁部144bと中間壁部144eとが略直交していることから、内径側周壁部144bと中間壁部144eとの間の角度θ1は略90度となっている(θ1<180度)。
【0050】
また、第2溝部144Dは、下流側壁部144aの内径側端と中間壁部144e内径側端との間の開口寸法D40(
図9参照)、すなわち第2溝部144Dの開口寸法D40が開口部15の開口寸法D1よりも短寸であり(D1>D40)、開口寸法D1は、開口寸法D40の約4倍となっている。
【0051】
図8および
図9において実線矢印で示されるように、静止密封環104に対して回転密封環20が相対的に紙面反時計回り方向に回転すると、矢印L1で示すように溝144内を移動してきた低圧側流体Aが、矢印L10で示すように下流側壁部144aと外径側周壁部144dとの角部側へと流入し、該角部から矢印L20で示すように低圧側流体Aが摺動面11,21間に流出される。
【0052】
さらに、第2溝部144Dでは、遠心力に加えて、下流側壁部144aと外径側周壁部144dとの角部から摺動面11,21間に低圧側流体Aが流出することに伴って動圧が発生するため、第1溝部144Cの下流側端部に最も近い開口部15、すなわち開口部15の下流側端部において矢印L30で示すように低圧側流体Aが導入される。
【0053】
これらにより、下流側壁部144aと外径側周壁部144dとの角部に対して低圧側流体Aを多く導入することができるとともに、大気側から離間した被密封流体側に正圧を発生させることができるため、摺動面11,21間の被密封液体Fを外径側の被密封液体側に戻すことができ、被密封液体Fの大気側への移動を抑制して、被密封液体Fが大気側に漏れることを効果的に抑制することができる。
【実施例5】
【0054】
次に、実施例5に係る摺動部品につき、
図10及び
図11を参照して説明する。尚、前記実施例4と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0055】
図10及び
図11に示されるように、静止密封環105に設けられる溝145は、第1溝部145Cと、第1溝部145Cの下流側端部から回転方向下流側に傾斜して径方向に延設された第2溝部145Dと、から構成されており、軸方向から見てV字状に形成されている。
【0056】
図11に示されるように、溝145の構成について詳しくは、開口部15の下流側端から回転方向下流側に傾斜して外径方向に延設された下流側壁部145aと、下流側壁部145aの外径側端から周方向に延設された外径側周壁部145dと、外径側周壁部145dの上流側端と内径側周壁部145bとを繋ぐ中間壁部145eと、内径側周壁部145bと、上流側壁部145cと、溝145の底部と、を有している。内径側周壁部145b、上流側壁部145c、溝145の底部は、第1溝部145Cを構成しており、下流側壁部145a、外径側周壁部145d、中間壁部145e、溝144の底部は、第1溝部145Cに連通する第2溝部145Dを構成している。また、第2溝部145Dの下流側端部は、下流側壁部145aと外径側周壁部145dとが交差する角部が回転方向下流側に向かって鋭角に形成されている。
【0057】
図10に戻って、溝145は、開口部15と外径側周壁部145dとが略平行に形成されており、開口部15と外径側周壁部145dとの間の径方向における幅寸法D21は略一定となっている。また、幅寸法D21は、幅寸法D2の約2倍となっており、開口部15の開口寸法D1よりも短寸であり(D1>D21)、開口寸法D1は、幅寸法D20の約2倍となっている。
【0058】
また、溝145は、内径側周壁部145bと中間壁部145eとの間の角度θ2が約160度となっている(θ2<180度)。
【0059】
また、第2溝部145Dは、下流側壁部145aの内径側端と中間壁部145eの内径側端との間の開口寸法D41、すなわち第2溝部145Dの開口寸法D41が開口寸法D1よりも短寸であり(D1>D41)、開口寸法D1は、開口寸法D41の約2倍となっている。
【0060】
このように、第2溝部145Dが回転方向下流側に傾斜して径方向に延びているので、第1溝部145Cと第2溝部145Dとの連通部分近傍で乱流を発生することが抑制され、低圧側流体Aを矢印L11,L31のように円滑に第2溝部145D内に導入することができる。また、第2溝部145Dにおける外径側周壁部145dと中間壁部145eとで構成される角部は約160度の鈍角に形成されているので、外径側周壁部145dと中間壁部145eとの角部で低圧側流体Aが滞留することが回避され、低圧側流体Aを矢印L12のように円滑に下流側壁部145aと外径側周壁部145dとが交差する角部内に移動させることができる。また、下流側壁部145aと外径側周壁部145dとが交差する角部に低圧側流体Aが収束されるので、効率よく正圧を発生させることができる。
【0061】
また、溝145は、矢印L21に示すように下流側壁部145aと外径側周壁部145dとの角部の先端から流出される低圧側流体Aの圧力を前記実施例4よりも高めやすいことから、より被密封液体Fの大気側への移動を抑制しやすい。尚、内径側周壁部145bと中間壁部145eとは、連続する円弧状を成すように形成されていてもよい。
【実施例6】
【0062】
次に、実施例6に係る摺動部品につき、
図12及び
図13を参照して説明する。尚、前記実施例5と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0063】
図12及び
図13に示されるように、静止密封環106に設けられる溝146は、第1溝部146Cと第2溝部146Dとから構成されている。第2溝部146Dは、第1溝部146Cの下流側端部から回転方向下流側に傾斜して径方向に延設された傾斜部14Dと、傾斜部14Dの外径側端部から回転方向下流側に周方向に延設された延設部14Eと、を有しており、第2溝部146Dは、軸方向から見て逆V字状に形成されている。
【0064】
延設部14Eは、回転方向下流側に向かって鋭角に形成された角部である下流側端部146Aを有し、その内径側には、ランド12を挟んで、隣接する溝146の第1溝部146Cにおける上流側端部146Bを含む上流側が配置されており、径方向において重畳している。
【0065】
これにより、第2溝部146Dによって被密封液体Fの大気側への移動が抑制されるので、第1溝部146Cの上流側端部146Bに被密封液体Fが導入されることが抑制される。
【実施例7】
【0066】
次に、実施例7に係る摺動部品につき、
図14を参照して説明する。尚、前記実施例4と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0067】
図14に示されるように、静止密封環107に設けられる溝147は、開口部15を有し周方向に延びる第1溝部147Cと、第1溝部147Cの下流側端部から径方向に傾斜して直線状に延設される第2溝部147Dと、第1溝部147Cの上流側端部から径方向に傾斜して直線状に延設される第2溝部147D’と、から構成され、軸方向から見てΩ状に形成されている。
【0068】
第2溝部147Dは、その内径側の角部147Aが回転方向下流側に向かって鋭角に形成されており、第2溝部147D’は、その内径側の角部147Bが回転方向上流側に向かって鋭角に形成されている。すなわち、溝147は、線S4を基準に線対称に形成されている。
【0069】
図14において実線矢印で示されるように、静止密封環107に対して回転密封環20が相対的に紙面反時計回り方向に回転すると、第2溝部147D,147D’および第1溝部147C内の低圧側流体Aが角部147Aにて収束されて摺動面11,21間に流出するようになっている。
【0070】
一方、
図14において点線矢印で示されるように、静止密封環107に対して回転密封環20が相対的に紙面時計回り方向に回転すると、第2溝部147D,147D’および第1溝部147C内の低圧側流体Aが角部147Bにて収束されて摺動面11,21間に流出するようになっている。
【0071】
このように、溝147は、線S4を基準に線対称に形成されているので、静止密封環10と回転密封環20との相対回転方向に限られず使用できる
【実施例8】
【0072】
次に、実施例8に係る摺動部品につき、
図15を参照して説明する。尚、前記実施例8と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0073】
図15に示されるように、静止密封環108に設けられる溝148は、第1溝部148Cと、第2溝部148Dと、第2溝部148D’と、から構成され、軸方向から見てΩ状に形成されている。
【0074】
第2溝部148Dは、その内径側の角部148Aが回転方向下流側に向かって鋭角に形成されており、第2溝部148D’は、その外径側の角部148Bが回転方向上流側に向かって鋭角に形成されている。すなわち、溝148の対角線に角部148A,148Bが形成されている。また、第2溝部148Dの最長部分の長さ寸法D3は、第2溝部148D’の最長部分の長さ寸法D3’よりも長く形成されている(D3>D3’)。
【0075】
図15において実線矢印で示されるように、静止密封環108に対して回転密封環20が相対的に紙面反時計回り方向に回転すると、第2溝部148D,148D’および第1溝部148C内の低圧側流体Aが角部148Aにて収束されて摺動面11,21間に流出するようになっている。第2溝部148D’の最長部分の長さ寸法D3’よりも長く形成されており、角部148Aが角部148Bよりも外径側に配置されるので、角部148Aから被密封液体F側に低圧側流体Aを排出させやすく、角部148Bから被密封液体Fを吸い込みにくくすることができる。
【実施例9】
【0076】
次に、実施例9に係る摺動部品につき、
図16を参照して説明する。尚、前記実施例6と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0077】
図16に示されるように、静止密封環109に設けられる溝149は、第1溝部149Cと第2溝部149Dとから構成されている。第2溝部149Dは、第1溝部149Cの下流側端部から回転方向下流側に傾斜して径方向に延設された傾斜部14Dと、傾斜部14Dの外径側端部から回転方向下流側に周方向に延設された延設部14Eと、を有しており、第2溝部149Dは、軸方向から見て逆V字状に形成されている。また、本実施例の延設部14Eは、実施例6の延設部14Eよりも幅狭に形成されており、正圧を発生させやすくなっている。
【0078】
また、静止密封環109の外径側には、特定動圧発生機構30が形成されている。特定動圧発生機構30は、被密封液体側に連通する複数の液体誘導溝部31と、各液体誘導溝部31の内径側端部を連通するように延びる環状の連通溝部32と、液体誘導溝部31における連通溝部32よりも外径側の位置から下流側に向けて静止密封環109と同心状に周方向に延びるレイリーステップ33と、から構成されている。この液体誘導溝部31および連通溝部32は、溝149の深さ寸法よりも深い100μmに形成されており、レイリーステップ33は溝149と同一の深さ寸法である5μmに形成されている。
【0079】
回転密封環20が回転していない一般産業機械の非稼動時には、特定動圧発生機構30内に被密封液体Fが進入している。また、
図16において実線矢印で示されるように、静止密封環109に対して回転密封環20が相対的に紙面反時計回り方向に回転すると、被密封液体Fが液体誘導溝部31からレイリーステップ33側に移動してレイリーステップ33内に動圧が発生し、特に低速回転時には、レイリーステップ33の下流側端部33Aから摺動面11,21間に流出する被密封液体Fにより液膜を形成して潤滑性を向上させることができる。また、液体誘導溝部31および連通溝部32は深溝となっているので、被密封液体Fを多量に保持することができ、低速回転時に摺動面11,21間が貧潤滑となることを回避できる。
【実施例10】
【0080】
次に、実施例10に係る摺動部品につき、
図17を参照して説明する。尚、前記実施例9と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0081】
図17に示されるように、静止密封環110に設けられる溝150は、第1溝部150Cと下流側の第2溝部150Dと上流側の第2溝部150D’とから構成され、軸方向から見てΩ状に形成されている。
【0082】
また、静止密封環110の外径側には、特定動圧発生機構30’が形成されている。特定動圧発生機構30’は、所定の液体誘導溝部31から上流側に向けて静止密封環109と同心状に周方向に延びる逆レイリーステップ34と、から構成されている。これによれば、静止密封環110と回転密封環20との相対回転方向に関わらず、レイリーステップ33および逆レイリーステップ34により動圧を発生させることができる。
【0083】
尚、本実施例10では、レイリーステップ33および逆レイリーステップ34が同一の深さ寸法である場合を例示したが、異なる深さ寸法に形成されていてもよい。また、両者は周方向長さ、径方向幅についても同じであっても異なっていてもよい。
【0084】
また、特定動圧発生機構の数量は自由に変更してもよい。また、特定動圧発生機構は、軸方向から見て円形を成す凹形状のディンプルなどであってもよい。
【実施例11】
【0085】
次に、実施例11に係る摺動部品につき、
図18を参照して説明する。尚、前記実施例10と同一構成で重複する構成の説明を省略する。尚、
図18の拡大部は、説明の便宜上、溝152のみを図示し、特定動圧発生機構30’の図示を省略している。
【0086】
図18に示されるように、静止密封環111に設けられる溝152は、第1溝部152Cと下流側の第2溝部152Dと上流側の第2溝部152D’とから構成され、軸方向から見て略Ω状に形成されている。第2溝部152Dは、第1溝部152Cの下流側端部から回転方向下流側に傾斜して径方向に延設された傾斜部15Dと、傾斜部15Dの外径側端部から回転方向下流側に周方向に延設された延設部15Eと、を有しており、第2溝部152Dは、軸方向から見て逆V字状に形成されている。また、第2溝部152D’は、第1溝部152Cの上流側端部から回転方向上流側に傾斜して径方向に延設された傾斜部15D’と、傾斜部15D’の外径側端部から回転方向上流側に周方向に延設された延設部15E’と、を有している。傾斜部15Dと傾斜部15D’とは、軸方向から見て内径側から外径側に向かって互いに離れる方向に傾斜して延設されており、その外径側から延設部15E,15E'が周方向に延設されている。
【0087】
図18において実線矢印で示されるように、静止密封環111に対して回転密封環20が相対的に紙面反時計回り方向に回転する場合には、傾斜部15Dが傾斜しているので、傾斜部15Dを構成する2つの側壁部152aに沿って低圧側流体Aが移動し、第2溝部152Dに対して円滑に低圧側流体Aを導入することができる。また、第2溝部152Dにおける延設部15Eは第1溝部152Cよりも流路断面が小さいので延設部15Eに高い正圧を発生させることができる。
【0088】
また、
図18において点線矢印で示されるように、静止密封環111に対して回転密封環20が相対的に紙面時計回り方向に回転する場合には、傾斜部15D’が傾斜しているので、傾斜部15D’を構成する2つの側壁部152cに沿って低圧側流体Aが移動し、第2溝部152D’に対して円滑に低圧側流体Aを導入することができる。また、第2溝部152D’における延設部15E’は第1溝部152Cよりも流路断面が小さいので延設部15E’に高い正圧を発生させることができる。
【実施例12】
【0089】
次に、実施例12に係る摺動部品につき、
図19を参照して説明する。尚、前記実施例10と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0090】
図19に示されるように、本実施例12のメカニカルシールは、摺動面の内径側から外径側に向かって漏れようとする被密封液体Fを密封するアウトサイド形のものであって、静止密封環112に設けられる溝153は、外径側に開口する開口部15を有する第1溝部153Cと下流側の第2溝部153Dと上流側の第2溝部153D’とから構成され、軸方向から見てΩ状に形成されている。
【0091】
また、静止密封環112の内径側には、特定動圧発生機構40が形成されている。特定動圧発生機構40は、被密封液体側に連通する複数の液体誘導溝部41と、各液体誘導溝部41の外径側端部を連通するように延びる環状の連通溝部42と、液体誘導溝部41における連通溝部42よりも内径側の位置から下流側に向けて静止密封環112と同心状に周方向に延びるレイリーステップ43と、液体誘導溝部41における連通溝部42よりも内径側の位置から上流側に向けて静止密封環112と同心状に周方向に延びる逆レイリーステップ44と、から構成されている。これによれば、静止密封環112と回転密封環20との相対回転方向に関わらず、レイリーステップ43および逆レイリーステップ44により動圧を発生させることができる。
【0092】
このように、本発明の摺動部品は、摺動面の内径側から外径側に向かって漏れようとする被密封液体Fを密封するアウトサイド形の摺動部品であってもよく、この場合であっても、溝153により摺動面11,21間に高い正圧を発生させることができ、潤滑性能を維持することができる。また、溝153は周方向両側に第2溝部153D,153D’が形成されているので、静止密封環112と回転密封環20との相対回転方向に限られず使用できる。
【0093】
尚、実施例12では、前記実施例10,11におけるインサイド形の摺動部品をアウトサイド形の摺動部品とする形態を例示したが、前記実施例1〜9におけるインサイド形の摺動部品をアウトサイド形の摺動部品としてもよい。
【0094】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0095】
例えば、前記実施例では、摺動部品として、一般産業機械用のメカニカルシールを例に説明したが、自動車やウォータポンプ用等の他のメカニカルシールであってもよい。また、メカニカルシールに限られず、すべり軸受などメカニカルシール以外の摺動部品であってもよい。
【0096】
また、前記実施例では、溝を静止密封環にのみ設ける例について説明したが、溝を回転密封環20にのみ設けてもよく、静止密封環と回転密封環の両方に設けてもよい。
【0097】
また、前記実施例では、摺動部品に同一形状の溝が複数設けられる形態を例示したが、形状の異なる溝が複数設けられていてもよい。また、溝の間隔や数量などは適宜変更できる。
【0098】
また、被密封流体側を高圧側、漏れ側を低圧側として説明してきたが、被密封流体側が低圧側、漏れ側が高圧側となっていてもよいし、被密封流体側と漏れ側とは略同じ圧力であってもよい。
【0099】
また、前記実施例4〜実施例11では、第1溝部の周方向の長さ寸法が第2溝部の径方向の長さ寸法よりも長い形態を例示したが、第1溝部は第2溝部と同じ寸法、または第2溝部よりも短く形成されていてもよい。