【解決手段】回転中心に対して外形が非均一な試料の投影像の撮影方法であって、X線源116aと検出器117との間に設定された回転中心C0の位置に試料S0を配置するステップと、試料S0を回転中心C0回りに回転させ、試料S0の外形および試料S0の回転角度に応じて光軸方向におけるX線源と回転中心との距離または回転中心と検出器との距離を相対的に変えることで、180°以上の回転角度にわたり、異なる拡大率に対して異なる回転角度で試料S0の投影像を撮影するステップと、を含む。
前記試料の回転と前記回転中心に前記X線源を近接および離間させる移動とを同時かつ連続的に行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の撮影方法。
前記回転中心に最も近接したときの前記X線源は、前記試料を前記回転中心回りに一回転させたときの前記試料の外形の軌道と交わることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の撮影方法。
前記回転中心を中心軸とする角度との対応関係で、前記試料の外形を包摂する試料範囲枠を把握し、前記対応関係を用いて前記試料に前記X線源が衝突しないように制御することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の撮影方法。
前記試料範囲枠の極に基づいて波形を表す曲線関数でフィッティングすることで、前記回転中心に対する前記X線源の軌道を決定することを特徴とする請求項6から請求項8のいずれかに記載の撮影方法。
前記試料の前記X線源側の端部の位置を検出し、前記試料の端部と前記X線源との距離が閾値以下になった場合には、前記X線源を前記回転中心から所定距離だけ離す制御を行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか記載の撮影方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記のように試料の切断を伴う手法は、そもそも内部構造を非破壊で観察するという当初の目的にそぐわない。切断しないとすれば、試料の回転または分解能が試料の幅に制限され、観察しようとする微細な構造を描出することができない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、非破壊で効率よく高い空間分解能の投影像を取得できる投影像の撮影方法、制御装置、制御プログラム、処理装置および処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の投影像の撮影方法は、回転中心に対して外形が非均一な試料の投影像の撮影方法であって、X線源と検出器との間に設定された回転中心の位置に試料を配置するステップと、前記試料を前記回転中心回りに回転させ、前記試料の外形および前記試料の回転角度に応じて前記回転中心に前記X線源を近接および離間させることで、180°以上の回転角度にわたり、異なる拡大率に対して異なる回転角度で前記試料の投影像を撮影するステップと、を含むことを特徴としている。
【0011】
このように回転中心に前記X線源または検出器を近接および離間させることで異なる拡大率に対して異なる回転角度で180°以上の回転角度にわたり撮影するため、非破壊で効率よく高い空間分解能の投影像を撮影できる。
【0012】
(2)また、本発明の投影像の撮影方法は、前記投影像の撮影で、前記回転中心に対し前記X線源を近接または離間させることを特徴としている。これにより、マイクロフォーカスX線源を用いたマイクロCTへの応用が可能になる。
【0013】
(3)また、本発明の投影像の撮影方法は、前記投影像の撮影で、前記回転中心に対し前記検出器を近接または離間させることを特徴としている。これにより、X線顕微鏡への応用が可能になる。試料の外形に応じて試料と検出器との距離を変えることでボケの影響を低減した投影像を撮影できる。そして、一定の角度範囲のボケを少なくしたCT画像を得ることができる。
【0014】
(4)また、本発明の投影像の撮影方法は、前記試料の回転と前記回転中心に前記X線源を近接および離間させる移動とを同時かつ連続的に行なうことを特徴としている。これにより、一回の連続的な移動制御で投影像を撮影できる。
【0015】
(5)また、本発明の投影像の撮影方法は、前記回転中心に最も近接したときの前記X線源は、前記試料を前記回転中心回りに一回転させたときの前記試料の外形の軌道と交わることを特徴としている。これにより、本来一回転させたときに試料と衝突する位置まで近接して投影像を撮影でき、高い空間分解能の投影像を得ることができる。
【0016】
(6)また、本発明の投影像の撮影方法は、前記回転中心を中心軸とする角度との対応関係で、前記試料の外形を包摂する試料範囲枠を把握し、前記対応関係を用いて前記試料に前記X線源が衝突しないように制御することを特徴としている。これにより、X線源の試料への衝突を回避できる。
【0017】
(7)また、本発明の投影像の撮影方法は、前記試料の前記回転中心に垂直な断面の重ね合わせにより前記試料範囲枠を把握することを特徴としている。これにより、X線源の試料への衝突を回避するための計算が容易になる。
【0018】
(8)また、本発明の投影像の撮影方法は、前記試料範囲枠を単純形状の柱状体として設定し、前記試料範囲枠内に前記X線源が入らないように制御することを特徴としている。これにより、X線源の試料への衝突を回避するための計算が単純化される。
【0019】
(9)また、本発明の投影像の撮影方法は、前記試料範囲枠の極に基づいて波形を表す曲線関数でフィッティングすることで、前記回転中心に対する前記X線源の軌道を決定することを特徴としている。これにより、X線源のハウジングの幅が大きい場合に妥当なX線源の軌道を決定できる。
【0020】
(10)また、本発明の投影像の撮影方法は、前記試料の前記X線源側の端部の位置を検出し、前記試料の端部と前記X線源との距離が閾値以下になった場合には、前記X線源を前記回転中心から所定距離だけ離す制御を行なうことを特徴としている。これにより、試料の外形を把握することなく、撮影時の制御でX線源と回転中心との距離をとることができる。
【0021】
(11)また、本発明の投影像の撮影方法は、前記試料の関心領域を設定するステップをさらに含み、前記試料の関心領域が前記回転中心に近くなるように前記試料を配置することを特徴としている。これにより、ユーザの希望箇所を高い空間分解能で観察することができる。
【0022】
(12)また、本発明の投影像の撮影方法は、前記関心領域および関心領域以外に対し、それぞれ所望の画素サイズに応じて撮影する回転角度を決定することを特徴としている。これにより、ユーザが見たい構造の角度に応じた分解能が分かる。
【0023】
(13)また、本発明の投影像の撮影方法は、前記試料は、板状に形成され、母材と前記母材中に分散した充填材を含むことを特徴としている。これにより、CTを用いて電子基板や炭素繊維強化樹脂の試験、検査に応用できる。
【0024】
(14)また、本発明の制御装置は、回転中心に対して外形が非均一な試料の投影像を撮影するための制御装置であって、X線源と検出器との間に設定された回転中心の位置に配置された試料を前記回転中心回りに回転させる回転制御部と、前記試料の外形および前記試料の回転角度に応じて前記回転中心に前記X線源または検出器を近接および離間させる進退制御部と、180°以上の回転角度にわたり、異なる回転角度に対して異なる拡大率の前記試料の投影像を撮影する撮影制御部と、を備えることを特徴としている。これにより、非破壊で効率よく高い空間分解能の投影像を撮影できる。
【0025】
(15)また、本発明の制御プログラムは、回転中心に対して外形が非均一な試料の投影像を撮影するための制御プログラムであって、X線源と検出器との間に設定された回転中心の位置に配置された試料を前記回転中心回りに回転させる制御の処理と、前記試料の外形および前記試料の回転角度に応じて前記回転中心に前記X線源または検出器を近接および離間させる制御の処理と、180°以上の回転角度にわたり、異なる回転角度に対して異なる拡大率の前記試料の投影像を撮影する制御の処理と、をコンピュータに実行させることを特徴としている。これにより、非破壊で効率よく高い空間分解能の投影像を撮影できる。
【0026】
(16)また、本発明の処理装置は、回転中心に対して外形が非均一な試料の投影像を処理する処理装置であって、異なる拡大率に対して異なる回転角度で撮影された試料の投影像データを記憶する記憶部と、前記記憶された試料の投影像データの画素サイズを一定基準に合わせる画素調整部と、前記画素サイズを調整された投影像データを用いて3次元CT画像を再構成する再構成部と、を備えることを特徴としている。これにより、ユーザが希望する領域について高い空間分解能の3次元CT画像を再構成できる。
【0027】
(17)また、本発明の処理プログラムは、回転中心に対して外形が非均一な試料の投影像を処理する処理プログラムであって、異なる拡大率に対して異なる回転角度で撮影された試料の投影像データを記憶する処理と、前記記憶された試料の投影像データの画素サイズを一定基準に合わせる処理と、前記画素サイズを調整された投影像データを用いての3次元CT画像を再構成する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴としている。これにより、ユーザが希望する領域について高い空間分解能の3次元CT画像を再構成できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、非破壊で効率よく高い空間分解能の3次元CT用画像を取得できる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0031】
[原理]
動作例を用いて本発明の原理を説明する。
図1(a)〜(c)は、それぞれ板状試料の回転角度に対してX線源116aと試料S0との配置を示す側面図である。
図1(a)〜(c)に示すように、本発明に係る撮影方法では、試料S0とX線発生部116が接触しないように、回転ステージの動作により試料S0を光軸方向に動かしながら、試料S0を回転中心C0回りに回転させて、検出器117により投影像データを取得する。なお、X線源116aは、X線発生部116内に存在し、X線発生部116のハウジングに対し相対的に点状のサイズと考えてよい。
【0032】
図1(a)では、試料S0が板形状の主面をX線源116aに向け、試料S0が最もX線源116aに近接している。拡大率はB/Aで表され、近接時に大きくなり、離間時に小さくなる。
図1(b)では、試料S0が回転するにつれ、X線源116aから試料S0が離間している。そして、
図1(c)では、さらに試料S0が回転し、板形状の端面がX線源116aに向いており、試料S0がX線源116aからさらに離間している。
【0033】
このように、試料S0の外形に応じて拡大率を離散的に変化させた投影像データが得られる。そして、3次元CT画像の再構成時に、逆投影の拡大率を方向により変化させることで、方向により空間分解能が変化する3次元CT画像を再構成できる。
【0034】
上記のように、本発明では方向により断層画像の空間分解能が変化するが、最も空間分解能が向上する方向では試料断面形状のアスペクト比の逆数に比例し、微細な構造の観察が可能となる。実際の工業材料では板状試料を法線方向から観察した断層画像は10倍強の空間分解能改善が期待される。
【0035】
特に、スマートフォン、電子基板、炭素繊維強化樹脂、積層フィルタなどの法線方向から見た空間分解能をX線マイクロCTの理論分解能程度まで引き上げることができ、非破壊で大きな試料内部の微細構造を観察できるようになる。以下に、本発明を実施するための具体的な構成および方法を説明する。
【0036】
[第1の実施形態]
(X線CT測定システムの構成)
図2は、X線CT測定システム100を示す概略図である。
図2に示すように、X線CT測定システム100は、撮影装置110、コンピュータ120(制御装置および処理装置)、入力部210、出力部220を備えている。これらの各装置および各部は、有線または無線で接続され、制御情報や撮影データ等を送受信可能になっている。
【0037】
(撮影装置の構成)
撮影装置110は、制御ユニット111、ステージ駆動機構113、試料ステージ114、X線発生部116、および検出器117を備え、保持した試料のX線CT撮影を行なう。X線発生部116は、内部にX線源116aを有している。撮影装置110は、X線CT用であり、撮影した投影像データ(投影像データ)は、コンピュータ120に送信される。
【0038】
制御ユニット111は、コンピュータ120からの指示を受けて、指示された速度で試料ステージ114の回転を制御するとともに、回転中心に対するX線発生部116および検出器117の近接離間を制御する。また、制御ユニット111は、コンピュータ120からの指示を受けて、X線発生部116および検出器117による投影像の撮影を制御する。
【0039】
ステージ駆動機構113は、X線源116aおよび検出器117に対する試料ステージ114の回転中心の位置を調整できる。また、ステージ駆動機構113は、回転中心回りに試料ステージ114を回転させる。ステージ駆動機構113は、CT撮影時に設定された速度で試料ステージ114を回転させることが可能である。また、撮影終了後には、元の位置まで試料ステージ114を逆に回転させることができる。
【0040】
試料ステージ114は、試料を載置し固定できる。試料ステージ114は、回転撮影により投影像データを得るために、X線源116aおよび検出器117に対し回転できるように設けられている。なお、上記では撮影装置110をステージ駆動タイプの装置として説明しているが、回転アームごとX線源116aおよび検出器117を回転させるアームタイプの装置であってもよい。すなわち、試料とX線源116aおよび検出器117との相対的な位置関係により撮影が行なわれるため、試料に対してX線源116aおよび検出器117を移動または回転させる方式を採用してもよい。また、本発明において、回転中心とX線源との配置、試料とX線源および検出器との回転位置は、相対的な関係であり、一方の他方に対する回転または近接離間は、他方の一方に対する回転または近接離間と等価である。
【0041】
X線発生部116および検出器117は、基本的に固定されているが、両者の距離は調整可能であってもよい。試料ステージ114は、X線源116aと検出器117とを結ぶ光軸上に、光軸に対して垂直に設けられた軸を回転中心として回転可能に設けられている。また、試料ステージ114は、回転中心ごと移動可能に設けられている。
【0042】
X線発生部116は、X線源116aによりX線を発生させ検出器117に向けて照射する。検出器117は、パネル状に形成され、X線を受光する受光面を有している。検出器117は、X線発生部116から照射され試料を透過したX線を検出する。撮影装置110は、算出されたCT撮影開始のタイミングでCT撮影を行ない、試料の投影像データを撮影する。
【0043】
(試料)
試料ステージ114の回転中心に対して外形が非均一な試料が好ましい。特に、試料が板状である場合のように固有の非均一な外形を有する場合には好ましい。例えば、板状に形成され、母材と母材中に分散した充填材を含む試料に対して好適である。このような長所を活かして、CTを用いて電子基板や炭素繊維強化樹脂の試験、検査に応用できる。微細な構造の検査に用いられることを考慮すると、特に、X線焦点サイズをミクロンオーダにして測定するX線マイクロCTを用いるのが適している。
【0044】
(コンピュータの構成)
図3は、X線CT測定システム100を示すブロック図である。
図3では、主にコンピュータ(制御装置および処理装置)の機能的構成を示している。コンピュータ120は、例えばPCであり、処理を実行するプロセッサおよびプログラムやデータを記憶するメモリまたはハードディスク等により構成される。コンピュータ120は、ROI設定部121、回転制御部122、進退制御部123、撮影制御部124、データ取得部125、記憶部126、画素調整部127および再構成部128を備えている。各部は、制御バスLにより情報を送受できる。
【0045】
コンピュータ120は、制御装置として機能するとともに処理装置としても機能する。それぞれの機能は、コンピュータ120にプログラムを実行させることにより果たされる。
図3に示すように、コンピュータ120は、キーボード、マウス等の入力部210からユーザの入力を受ける。一方で、コンピュータ120は、ディスプレイ等の出力部220には試料外形像、再構成画像および入力画面等を表示する。
【0046】
(制御装置)
コンピュータ120は、撮影装置110に撮影条件等を送信し、撮影装置110の動作を制御する。ROI設定部121は、試料の設定後、ユーザの入力に基づいてROI(Region of Interest;関心領域)を記憶させる。試料は、ROIが回転中心に近づくようにその位置が調整されることが好ましく、自動で適した試料の位置が計算され位置調整されることが好ましい。
【0047】
回転制御部122は、X線源116aと検出器117との間に設定された回転中心C0の位置に配置された試料を回転中心C0回りに回転させる。進退制御部123は、試料S0の外形および試料S0の回転角度θに応じて回転中心C0にX線源116aまたは検出器117を近接および離間させる。
【0048】
試料S0の回転と回転中心C0にX線源116aを近接および離間させる移動とを同時かつ連続的に行なうのが好ましい。同時かつ連続的とは、試料S0が回転する時間と、回転中心C0にX線源116aを近接および離間させる時間とが重複することをいう。これにより、一回の連続的な移動制御で投影像を撮影できる。
【0049】
撮影制御部124は、X線発生部116および検出器117による撮影の動作を制御して撮影された投影像データを取得する。その際には、試料S0を回転させながら効率的に撮影する。その結果、180°以上の回転角度にわたり、異なる回転角度に対して異なる拡大率の試料の投影像が撮影される。
【0050】
(処理装置)
コンピュータ120は、撮影された投影像データを処理する。データ取得部125は、撮影された試料の投影像データを撮影装置110から取得する。記憶部126は、取得された試料の投影像データを記憶する。例えば、異なる拡大率に対して異なる回転角度で撮影された試料の投影像データを記憶する。また、記憶部126は、画素調整部127が算出した各画素の値を記憶する。
【0051】
画素調整部127は、記憶された試料の投影像データの画素サイズを一定基準に合わせて変更する。もともと取得された投影像データの拡大率に応じて設定されたもののうち最も小さい画素サイズに変更することが好ましい。
【0052】
再構成部128は、画素サイズを調整された投影像データを用いて3次元CT画像を再構成する。これにより、ユーザが希望する領域について高い空間分解能の3次元CT画像を再構成できる。得られた3次元CT画像は、ディスプレイ等の出力部220により表示される。また、CT撮影中に投影像データが表示されてもよい。
【0053】
(撮影方法)
上記のように構成されたX線CT測定システム100を用いた試料の撮影方法を説明する。
図4は、撮影方法を示すフローチャートである。
【0054】
まず、ユーザは、X線源116aと検出器117との間に設定された回転中心の位置に試料を設置する(ステップS101)。試料は回転中心に重なるように設置するのが好ましいが、必ずしも重なる必要はない。次に、試料の外形を把握する(ステップS102)。例えば、試料の外形を確認するためには、低分解能で3次元CT画像を撮影してもよいし、3Dスキャナで測定してもよいし、対応するCAD図面で確認してもよい。確認された試料の外形は出力部220で表示することが好ましい。
【0055】
ユーザは、表示された試料の外形に基づいて試料の関心領域を設定する(ステップS103)。設定された関心領域に基づいて、試料の位置を調整する(ステップS104)。その際には、試料の関心領域が回転中心に近くなるように試料を配置することが好ましい。例えば、X線源が回転中心に最も接近したときにX線源と回転中心との間に関心領域があることが好ましい。これにより、ユーザの希望箇所を高い空間分解能で観察することができる。
【0056】
次に、X線源116aおよび検出器117に対する試料ステージ114の軌道を決定する(ステップS105)。具体的には、X線発生部116および検出器117に対する回転中心の近接離間および試料ステージ114の回転の動作を決定する。決定方法の詳細は後述する。回転中心とX線源116aとが最も近接したときに、X線源116aが、試料を回転中心回りに一回転させたときの試料の外形の軌道と交わることが好ましい。これにより、本来一回転させたときに試料と衝突する位置まで近接して投影像を撮影でき、高い空間分解能の投影像を得ることができる。
【0057】
そして、撮影ポイントとして投影像を撮影する回転角度を決定する(ステップS106)。試料を回転中心回りに回転させ、試料の外形および試料の回転角度に応じて回転中心をX線源に近接および離間させるため、基本的に回転角度ごとに拡大率が異なる。関心領域および関心領域以外に対し、それぞれ所望の画素サイズに応じて撮影する回転角度を決定することが好ましい。これにより、ユーザが見たい構造の角度に応じた分解能が決まる。
【0058】
撮影開始の際には、コンピュータ120は、ユーザから入力された情報を契機として制御情報を撮影装置110に送信する。このとき、まず決定された試料ステージ114の軌道と撮影ポイントに基づいて、X線発生部116および検出器117に対する回転中心の近接離間および試料ステージ114の回転の動作を同期させて行なう(ステップS107)。
【0059】
そして、一連の動作が終了したか否かを判定する(ステップS108)。動作が終了していないと判定されたときには、撮影ポイントか否かを判定する(ステップS109)。撮影ポイントでないと判定された場合には、ステップS107に戻る。撮影ポイントであると判定された場合には、投影像を撮影して(ステップS110)、ステップS107に戻る。一方、ステップS108で一連の動作が終了したと判定された場合には、動作を終了する。
【0060】
(回転中心に対するX線源の軌道の決定)
試料S0にX線発生部116が衝突することなく、効率よく高い空間分解能の投影像を取得するために、回転中心C0に対するX線源116aの軌道を決定する方法を説明する。
図5(a)〜(c)は、それぞれ試料の外形を示す側断面図、円座標で試料断面の外形および最外形を示すグラフである。試料の外形は、広視野、低分解能CT、CAD図面、3次元測定機器等により事前に把握しておく。ユーザが関心領域ROIを指定することで、回転中心に対する試料の位置が決まる。試料ステージの回転中心を直交座標系の座標(0,0)として、試料の外形画像を極座標変換し、θ−r座標系で表示する。
【0061】
図5(a)に示すように、試料S0の側断面図上で回転中心C0回りの角度θおよび回転中心C0からの距離rで試料S0の外形を表わすことができる。試料S0の外形は、
図5(b)に示すように、角度θに対する距離rのグラフで表すことができる。
【0062】
ある角度θにおいて、試料の外形を表すrが複数の値を持つ場合には、試料S0とX線発生部116との衝突を回避するためには大きい方のrに注目すべきである。実際にはX線源116aからX線発生部116のハウジングまで距離Cがあるため、θ−rの相関図にX線発生源までの距離Cを足したものを、距離Aとして扱うことができる。
図5(c)に示す軌道で、試料ステージを動かすことで試料S0にX線発生部116が衝突することなく、非破壊で効率よく高い空間分解能の投影像を取得できる。
【0063】
図6は、板状試料の回転角度θに対してX線の照射方向の外形位置rを示す側断面図である。
図5(c)に示すθに対する距離Aを維持するように試料ステージの動きを制御することで試料S0とX線発生部116との衝突を回避できる。
【0064】
(処理方法)
上記のようにして得られた投影像データの処理を説明する。
図7は、処理方法を示すフローチャートである。まず、処理装置は、撮影装置110から撮影に対応する回転角度、拡大率、投影像データを取得する(ステップS201)。拡大率は、X線源と回転中心との距離Aまたは実効画素サイズであってもよい。得られた各データは対応付けられて記憶される(ステップS202)。
【0065】
次に、一定基準により各投影像データの画素サイズを調整する(ステップS203)。基本的には、投影像データのうち最も小さい画素サイズに合わせて調整する。そして、画素サイズの調整された投影像データを用いて3次元CT画像データを再構成する(ステップS204)。このようにして再構成された3次元CT画像データを出力して(ステップS205)、処理を終了する。
【0066】
[第2の実施形態]
上記の実施形態では、試料S0の外形そのものに基づいて試料ステージの動作を決定するが、試料の外形が包摂される試料範囲枠を用いて試料ステージの動作を決定してもよい。なお、第1の実施形態では、試料範囲枠が試料の外形そのものである場合と考えることもできる。
【0067】
図8(a)〜(c)は、それぞれ試料範囲枠F0の側断面図、円座標によるグラフおよび回転角度θに対してX線の照射方向の位置rを示す側断面図である。例えば、
図8(a)〜(c)に示す例では、試料S0の外形すべてを含む最小の長方形形状が試料範囲枠F0となる。
【0068】
図8(b)に示すように、試料範囲枠F0をθ−r座標系に変換し、長方形から求められたグラフをもとにX線源116aと回転中心C0との距離Aを決定することができる。このように、回転中心C0を中心軸とする角度との対応関係で、試料の外形を包摂する試料範囲枠F0を把握し、対応関係を用いて試料S0にX線源116aが衝突しないように制御することが好ましい。これにより、X線源116aの試料S0への衝突を回避できる。
【0069】
試料範囲枠F0は、余裕を持たせた単純形状であることが好ましい。例えば、試料範囲枠F0を単純形状の柱状体(断面は長方形等の単純形状)として設定し、試料範囲枠F0内にX線源116aが入らないように制御することができる。これにより、X線源116aの試料S0への衝突を回避するための計算が単純化される。
【0070】
[第3の実施形態]
上記の実施形態では、試料ステージ114の軌道を決定する際に、X線発生部116の光軸方向のハウジング寸法(長さ)を考慮しているものの、その幅は考慮していない。
図9は、幅の広いX線発生部116に対し、試料範囲枠の回転角度θに対してX線の照射方向の位置rを示す側断面図である。マイクロCTで使用されるX線発生部116は光軸と直交する方向のサイズ(幅)が大きいことが多い。
図9に示すように、幅の広いX線発生部116は、試料S0の回転に対して衝突が生じやすい。
【0071】
このような場合には、試料範囲枠F0の軌道に対して曲線でフィッティングして軌道を決めることが好ましい。例えば、試料範囲枠F0の軌道から、最小値r
min1、r
min2および最大値r
max1、r
max2を把握し、それらの値に基づいてフィッティングした曲線で距離Aを制御できる。
【0072】
図10(a)〜(c)は、それぞれ試料範囲枠F0についての側断面図、円座標による外形を示すグラフおよび三角関数によるフィッティングを示すグラフである。まず、
図10(a)に示すように、回転中心C0から最も近い距離r
minおよび遠い距離r
maxを90°または180°の範囲ごとに調べる。なお、手間がかかるときには試料範囲枠F0の角までの距離を調べてもよい。
【0073】
次に、θ−r座標系でr
max,r
minの位置をチェックする。両者はθ−rのグラフで極になっている。そして、三角関数で各極をフィッティングする。このとき、振幅は、(r
max−r
min)/2である。周期は、一般的に板状の試料では極大点と極小点の角度差の2倍となる。このようにして、
図10(c)に示す曲線で距離Aを制御できる。なお、三角関数に代えてスプライン関数を用いることもできる。
【0074】
例えば、試料S0の外形または試料範囲枠F0のデータから求められる(θ
min1,r
min1)座標と(θ
max2,r
max2)座標を用い、以下の式から距離Aを求めることができる。
【数1】
【0075】
図11は、フィッティング結果を示すグラフである。この場合、θ
0=θ
min1、θ
min1でAを最小にしたいのでΔθ=−90°である。フィッティングにより得られたサインカーブの極小点はθ
min1、r
min1に一致し、極大点はθ
max2、r
max2に一致している。
【0076】
このように、試料範囲枠F0の極に基づいて波形を表す曲線関数でフィッティングすることで、幅の広いX線発生部116に対しても妥当な回転中心に対するX線源116aの軌道を決定できる。なお、X線発生部116の幅の範囲内で最もX線源116aに近くなる試料範囲枠F0の位置を求め、それに基づいて回転中心C0の軌道を決めてもよい。
【0077】
[第4の実施形態]
試料S0の断面が一律の場合には、試料範囲枠F0を単純な形状の柱状体として定義できるが、断面の外枠が異なる場合には、単純な定義が難しい。すなわち、試料S0の異なる高さの断面の形状が異なると全断面に対してθ−rの関係を計算するのに負担が大きくなる。そこで、試料範囲枠F0を断面の投影を重ね合わせた形状の柱状体として定義するのが好ましい。
図12(a)〜(d)は、それぞれ試料S0を示す斜視図、各断面における試料範囲枠F0を示す断面図および各断面を重ね合わせた画像を示す図である。
【0078】
図12(a)に示す例では、断面12b、12cを回転中心C0に平行な方向P0に投影する。
図12(b)に示す断面12bでは、局所的な試料範囲枠F1は細い長方形で表される。また、
図12(c)に示す断面12cでは、局所的な試料範囲枠F2は太い長方形で表される。
図12(d)に示すように、これらを重ね合わせた形状は、全体の試料範囲枠F0として表される。
【0079】
このように、試料S0の回転中心C0に垂直な断面の重ね合わせにより試料範囲枠F0を把握することが好ましい。これにより、試料の外形からθ−rの関係を計算する際の高速化および高精度化につながり、X線源116aの試料S0への衝突を回避するための計算が容易になる。
【0080】
[第5の実施形態]
上記の実施形態では、撮影ポイントの決定は任意であるが、効率性を考慮すると数種類の拡大率を離散的に設けて撮影ポイントを決定するのが好ましい。
図13(a)〜(c)は、それぞれ円座標による撮影ポイントを距離A1〜A3、拡大率M1〜M4および画素サイズP1〜P4で示すグラフである。
【0081】
図13(a)の例では、連続的ではなく、試料S0の回転角度θに応じて、X線源116aと回転中心C0との距離Aを数か所変えながら試料S0の投影像を撮影する。撮影ポイントは、図中の黒丸を結ぶ直線上である。距離Aの変化のさせ方は試料ステージ114の移動精度等で決めてもよい。
【0082】
また、
図13(b)に示すように、距離Aの代わりに幾何拡大率M=B/Aで縦軸を表し、望みの拡大率に合わせて距離Aを変化させる点数を決めてもよい。また、
図13(c)に示すように、距離Aの代わりに実効画素サイズで縦軸を表し、望みの画素(分解能)に合わせて距離Aを変化させる点数を決めてもよい。この場合は、特にユーザが見たい構造のサイズが回転角度によってどう変わるかわかるので好ましい。
【0083】
[第6の実施形態]
上記の実施形態では、あらかじめ把握した試料S0の外形に基づいて、試料ステージ114の軌道を決定するが、その場における都度の制御で軌道を決定し、試料に衝突しないようにしながら、X線源116aを試料S0に近づけることもできる。
【0084】
図14は、撮影装置310の構成を示す概略図である。撮影装置310は、センサ315a、315bを備えている。センサ315a、315bは、レーザにより試料の光軸方向のX線源側の端部の位置を検知することができる。なお、レーザを用いたセンサに代えて光学カメラを用いてもよい。2つのセンサ315a、315bは、X線源116aに対して前後対に設けられており、X線源116a側のセンサ315aから試料S0がX線源116aに近づいた、というシグナルが来ると一定距離ΔAずつAを大きくする。一方、X線源116aから離れた側のセンサ315bからシグナルが来るとΔAずつ近づける。
【0085】
得られた試料S0の端部の位置情報は、コンピュータ120(制御装置)に送信される。コンピュータ120は、試料S0の端部とX線源との距離が閾値以下になったか否かを判定する。試料の端部とX線源との距離が閾値以下になったと判定された場合には、試料S0を一定距離だけX線源116aから離すように制御ユニット111を介して制御する。これにより、あらかじめ試料S0の外形を把握することなく、撮影時の制御でX線源116aと回転中心C0との距離をとることができる。
【0086】
[第7の実施形態]
上記の実施形態では、X線CT用の撮影装置の例を記載しているが、X線顕微鏡へ適用してもよい。X線CT用の撮影装置は、固定されたX線源に試料を設置した回転中心を近接および離間させ、その近接および離間により拡大率を変えられる。一方、X線顕微鏡は、固定された試料に対し検出器を近接および離間させるものであり、X線源と回転中心に設置された試料との距離は一定であるため拡大率は変化しない。
【0087】
X線顕微鏡を用いる場合でも、試料が大きいと、検出器に試料を近づけられず分解能が低下する。
図15(a)、(b)は、それぞれX線顕微鏡410の半影およびフレネル回折によるボケが生じる機構を示す概略図である。
図15(a)に示すように、X線発生部416内のX線源416aのサイズSが有限なことによる半影ボケの影響は、半影ボケ=(D/A)Sで表せる。また、
図15(b)に示すように、試料S0と検出器417との距離に応じたフレネル回折によるボケは、回折によるフリンジの幅=√(D×波長)で表せる。このように、いずれのボケも試料S0と検出器417との距離Dに依存し、試料S0に対し検出器417を離間させると半影およびフレネル回折によるボケの影響で分解能が低下する。
【0088】
そこで、固定された試料S0に対し検出器417を近接および離間させる移動と試料S0に対する検出器417の回転とを同時かつ連続的に行ないつつ投影像を撮影する。これにより半影およびフレネル回折によるボケを低減した高分解能の投影像を得ることができる。
【0089】
[実施例]
上記のような撮影方法で実際に電子部品、ボンディング、ワイヤが設けられた基板の試料を撮影した。幅150mm、厚さ数mmの板状の試料を用いた。X線源にはX線マイクロCTのものを用いた。
【0090】
比較例として、X線源と回転中心との距離Aを一定にして撮影を行なった。X線源と回転中心との距離A=148mm、X線源と検出器との距離B=244mmで撮影を行なった。拡大率は、1.5倍、試料の位置の実効画素サイズは、38μmであった。試料がX線源またはX線検出器のカバーに当たらないよう距離を開けて試料を360°回転させた。
【0091】
次に、実施例の撮影を行なった。試料を回転させる際に、X線源−回転軸距離Aを変えながら投影像データを取得した。
【0092】
実施例の撮影により、X線源と回転中心との距離Aが異なる5種類のCT断層画像が得られた。
図16は、実施例での各投影像の撮影ポイントおよび実効画素サイズを示す表である。
図17(a)〜(e)は、実施例での各撮影ポイントの投影像を示す図である。
図17(a)〜(e)は、
図16の撮影番号1〜5に対応する。
【0093】
比較例で得られた投影像データは、従来通りの方法で再構成を行なった。また、実施例として得られた投影像データは、最も画素サイズの小さい5μmにすべての画素サイズを合わせて、再構成を行なった。
図18(a)、(b)は、それぞれ比較例および実施例のCT断層画像を示す図である。
【0094】
図18(a)、(b)に示すように、試料の領域R1〜R3について比較例では、境界が映らないのに対し、実施例では映っているのが分かる。また、領域R4について比較例では、電子部品の形状が不明瞭なのに対し、実施例では、形状が明瞭に表れていることから、板状試料の厚み方向の分解能が向上していることが分かる。比較例に対し実施例の分解能が向上し画像が明瞭化したのは、図中の矢印bに平行な方向の境界である。一方、aに平行な方向については、比較例と実施例との間で画像の明瞭さは変わらず、分解能も変化はない。
【0095】
図19(a)、(b)は、それぞれ
図18(a)、(b)における直線x1、x2上のCT値を示すグラフである。
図19(a)、(b)に示すように、実施例のグラフには境界でのCT値の変化が明確に表れているのが分かる。以上より、数十μmの微細構造を有する試料に対しては本発明により高い空間分解能で構造を観察できることが実証された。