【課題】吸収型の無機偏光板等の光学素子に用いられる単層薄膜としての光学素子用薄膜及びその製造方法、その光学素子用薄膜を用いた無機偏光板及びその製造方法、その光学素子用薄膜を備える光学素子、並びにその無機偏光板を備える光学機器を提供する。
【解決手段】無機偏光板20は、ワイヤグリッド構造を有する無機偏光板であって、透明基板21と、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板21上に配列された格子状凸部22と、を備え、格子状凸部22が、透明基板21側から順に、反射層221と、本発明の光学素子用薄膜からなる反射抑制層222と、を有する。本発明の光学素子用薄膜は、Si単体と、Si化合物(但し、Si合金を除く)と、金属又は金属化合物と、を含有する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳しく説明する。
【0025】
[光学素子用薄膜]
本実施形態に係る光学素子用薄膜は、光学素子に用いられる単層薄膜としての光学素子用薄膜であって、Siと、Si化合物(但し、Si合金を除く)と、金属又は金属化合物と、を含有する。
【0026】
本実施形態に係る光学素子用薄膜中のSi及びSi化合物は、例えば、Si
xC(x=2.3±0.2)からなるスパッタリングターゲットを用い、酸化性ガスの存在下で反応性スパッタリングを行うことにより得られる。Si
xC(x=2.3±0.2)からなるスパッタリングターゲットを用いて得られる薄膜中のSi化合物の組成は、Si
aO
bC
cで表される。酸化性ガスの流量がゼロである所謂メタルモードでは、Si単体、又はCの組成比が多いSiC等の高屈折率成分が主となる。また、酸化性ガスの流量が比較的大きい所謂リアクティブモードでは、Oの組成比が多いSiO
y(y≦2)等の低屈折率成分が主となる。なお、酸化性ガスの流量が比較的大きい場合、ターゲット中のC成分は、成膜時に雰囲気中の酸化性ガスと反応してCO
2又はCOとなり、真空ポンプ等で排気される。
【0027】
本実施形態に係る光学素子用薄膜中の金属又は金属化合物としては、例えば、Nb、Fe、Ta、Si、Ti、Mg、W、Mo、及びAlからなる群より選択される少なくとも1種の元素の単体(但し、Si単体を除く)、酸化物(但し、Siの酸化物を除く)、合金等が挙げられる。合金としては、NbSi合金、FeSi合金、TaSi合金等が挙げられる。これらの金属材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、光学素子用薄膜の耐熱性及び消衰係数の観点から、NbO
x(x≦2.5)等のNbの酸化物が好ましい。
【0028】
後述するように、光学素子用薄膜を成膜する際のスパッタ条件を調整し、Si化合物におけるC及びOの組成比、或いはSi単体、Si化合物、及び金属又は金属化合物の混合比を調整することにより、所望の光学特性を有する光学素子用薄膜を得ることができる。
【0029】
本実施形態に係る光学素子用薄膜中に含有され得る主な成分の波長550nmにおける屈折率、及び消衰係数を下記表1に示す。
【0031】
本実施形態に係る光学素子用薄膜としては、例えば、NbO
x(x≦2.5)の含有率が1atm%〜20atm%、SiO
y(y≦2)の含有率が0atm%〜30atm%、Si単体の含有率が15atm%〜80atm%、SiCの含有率が15atm%〜80atm%であるものが挙げられ、それぞれの含有率は所望とする光学特性に応じて調整される。
【0032】
本実施形態に係る光学素子用薄膜は、Si単体、Si化合物、及び金属又は金属化合物の混合比が膜厚方向に変化するものであってもよい。例えば、光学素子用薄膜が形成される基材側では低屈折率成分(Siの酸化物等)の割合が相対的に多く、基材と反対側では高屈折率成分(SiC、NbO
x等)の割合が相対的に多くなるように成膜してもよい。或いは、低屈折率成分と高屈折成分との比率が連続的に変化し、それが繰り返されるように成膜してもよい。
【0033】
本実施形態に係る光学素子用薄膜の膜厚は、例えば、10nm〜1000nmが挙げられ、目的とする用途などによって任意に選択される。後述する反応性スパッタリングにおけるスパッタ時間を調整することにより、光学素子用薄膜の膜厚を容易に調整することができる。
【0034】
なお、光学素子用薄膜の膜厚を調整することにより、反射率が最小となる中心波長を所望の波長にシフトさせることができる。しかも、本実施形態に係る光学素子用薄膜は、膜厚を変更することにより反射率の中心波長をシフトさせても、全体的な反射率のドリフトが生じ難い傾向にある。
【0035】
[光学素子用薄膜の製造方法]
上述した本実施形態に係る光学素子用薄膜は、例えば、Siの炭化物と金属又は金属化合物とをスパッタリングターゲットとし、酸化性ガスの存在下で反応性スパッタリングを行う工程を含む製造方法により製造することができる。
【0036】
スパッタリングターゲットであるSiの炭化物としては、Si
xC(x=2.3±0.2)からなるものが好ましい。このようなスパッタリングターゲットを用いることで、Siの炭化物及び酸化物を含有する光学素子用薄膜を容易に得ることができる。なお、Si
xC(x=2.3±0.2)からなるスパッタリングターゲットは、例えば、1質量部のSiC粉末と1.1質量部〜1.5質量部のSi粉末とを混合して焼結することにより製造することができる。
【0037】
スパッタリングターゲットであるSiの炭化物をスパッタする場合、スパッタ電源の出力は、LFパワーを5kW〜10kWとし、RFパワーを0kW〜5kWとすることが好ましい。
【0038】
スパッタリングターゲットである金属又は金属化合物は、光学素子用薄膜に含有される金属又は金属化合物の種類に応じて適宜選択される。例えば、光学素子用薄膜がNbO
x(x≦2.5)を含有する場合、Nb単体又はNbO
x(1.0≦x≦2.5)からなるスパッタリングターゲットを用いることができる。これらの中でも、成膜速度の観点から、NbO
x(1.0≦x≦2.5)からなるスパッタリングターゲットを用いることが好ましい。
【0039】
スパッタリングターゲットである金属又は金属化合物をスパッタする場合、スパッタ電源の出力は、LFパワーを0.4kW〜10kWとし、RFパワーを0kW〜5kWとすることが好ましい。
【0040】
反応性スパッタリングに用いられるプロセスガスとしては、酸化性ガスが含まれていれば特に制限されず、例えば、酸化性ガスと不活性ガスとの混合ガスが用いられる。酸化性ガスとしては、酸素、オゾン等のガスが挙げられる。また、不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン等のガスが挙げられる。
【0041】
本実施形態に係る製造方法では、酸化性ガスのガス量を調整して酸化性ガスの濃度を制御することにより、薄膜中のSi化合物の組成比を任意に制御することができる。例えば、単一のスパッタリングターゲットであるSi
xC(x=2.3±0.2)を用い、低濃度の酸化性ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行うことにより、SiCを主成分とする高屈折率成分を増加させることができ、高濃度の酸化性ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行うことにより、SiO
2を主成分とする低屈折率成分を増加させることができる。低濃度の酸化性ガス雰囲気としては、例えば、Arガス流量が100sccm〜1000sccm、O
2ガス流量が0sccm〜100sccmの混合ガス雰囲気を挙げることができる。また、高濃度の酸化性ガス雰囲気としては、例えば、Arガス流量が100sccm〜1000sccm、O
2ガス流量が120sccm〜200sccmの混合ガス雰囲気を挙げることができる。
【0042】
光学素子用薄膜の製造に用いられる反応性スパッタリング装置としては、二元同時反応性スパッタが可能な装置であれば特に制限されない。反応性スパッタの方法としては、ラジカルアシストスパッタ法、メタモード法等が挙げられる。
【0043】
反応性スパッタリング装置の一例を
図1の模式図に示す。
図1に示す反応性スパッタリング装置10は、スパッタ電源11a、11bと、スパッタリングターゲット12a、12bと、排気ポンプ13a、13bと、円筒型基板ホルダー14と、不活性ガス供給源15と、酸化性ガス供給源16と、ロードロック室17とを備える。反応性スパッタリング装置10は、ラジカル酸化源、酸化源用電源等(いずれも不図示)をさらに備えていてもよい。
【0044】
本実施形態に係る光学素子用薄膜を製造する場合、スパッタリングターゲット12aとしては、例えば、Si
xC(x=2.3±0.2)が用いられる。また、スパッタリングターゲット12bとしては、例えば、NbO
x(1.0≦x≦2.5)が用いられる。そして、円筒型基板ホルダー14に基材をセットし、10rpm〜50rpm程度の速度で円筒型基板ホルダー14を回転させながら反応性スパッタリングを行うことにより、基材上に本実施形態に係る光学素子用薄膜を成膜することができる。
【0045】
なお、光学素子用薄膜中におけるSi単体、Si化合物、及び金属又は金属化合物の混合比を膜厚方向に変化させる場合には、成膜中に、スパッタ電源11a、11bの出力、不活性ガスと酸化性ガスとの比率等を変化させればよい。
【0046】
[光学素子]
本実施形態に係る光学素子は、上述した本実施形態に係る光学素子用薄膜を備える。本実施形態に係る光学素子としては、無機偏光板、反射防止フィルム、カラーフィルター等が挙げられる。これらの中でも、無機偏光板であることが好ましい。
【0047】
[無機偏光板]
本実施形態に係る無機偏光板は、ワイヤグリッド構造を有する無機偏光板であって、透明基板と、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板上に配列された格子状凸部と、を備え、格子状凸部が、透明基板側から順に、反射層と、上述した本実施形態に係る光学素子用薄膜からなる反射抑制層と、を有する。
【0048】
図2は、本実施形態に係る無機偏光板の一例を示す断面模式図である。
図2に示すように、無機偏光板20は、透明基板21と、透明基板21の一方の面上に使用帯域の光の波長よりも短いピッチで配列され、所定方向に延在する格子状凸部22と、を備える。格子状凸部22は、透明基板21側から順に、反射層221と、反射抑制層222と、を有する。すなわち、無機偏光板20は、反射層221及び反射抑制層222が透明基板21側からこの順に積層されて形成された格子状凸部22が、透明基板21上に一次元格子状に配列されたワイヤグリッド構造を有する。
【0049】
本明細書では、
図2に示すように、格子状凸部22の延在する方向をY軸方向と称する。また、Y軸方向に直交し、透明基板21の主面に沿って格子状凸部22が配列する方向をX軸方向と称する。この場合、無機偏光板20に入射する光は、好適には、透明基板21の格子状凸部22が形成されている側において、X軸方向及びY軸方向に直交する方向から入射する。
【0050】
無機偏光板20は、吸収、干渉、反射等の作用を利用することで、Y軸方向に平行な電界成分をもつ偏光(TE波(S波))を減衰させ、X軸方向に平行な電界成分をもつ偏光(TM波(P波))を透過させる。したがって、Y軸方向が無機偏光板20の吸収軸の方向であり、X軸方向が無機偏光板20の透過軸の方向である。
【0051】
透明基板21としては、使用帯域の光に対して透光性を示す基板が用いられる。「使用帯域の光に対して透光性を示す」とは、使用帯域の光の透過率が100%であることを意味するものではなく、無機偏光板としての機能を保持可能な透光性を示せばよい。使用帯域の光としては、例えば、波長380nm〜810nm程度の可視光が挙げられる。
【0052】
透明基板21の構成材料としては、屈折率が1.1〜2.2の材料が好ましく、ガラス、水晶、サファイア等が挙げられる。透明基板21の構成材料としては、コスト及び透光性の観点から、ガラスがより好ましい。
【0053】
透明基板21の主面形状は特に制限されず、目的に応じた形状(例えば、矩形形状)が適宜選択される。透明基板21の平均厚みは、例えば、0.3mm〜1mmが好ましい。
【0054】
格子状凸部22は、使用帯域の光の波長よりも短いピッチPで透明基板21上に配列される。格子状凸部22のピッチPは、使用帯域の光の波長よりも短ければ特に制限されない。作製の容易性及び安定性の観点から、格子状凸部22のピッチPは、例えば、100nm〜200nmが好ましい。格子状凸部22のピッチPは、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて、任意の4箇所についてピッチを測定し、その算術平均値を格子状凸部22のピッチとすることができる。以下、この測定方法を電子顕微鏡法と称する。
【0055】
格子状凸部22の幅Wは特に制限されないが、エッチングにより格子状凸部22を形成する際の再デポジションを抑える観点から、格子状凸部22間の凹部の幅よりも小さいことが好ましい。具体的に、格子状凸部22の幅Wは、例えば、35nm〜45nmが好ましい。格子状凸部22の幅Wは、格子状凸部22の高さの中心位置において、上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0056】
格子状凸部22を構成する反射層221は、透明基板21上に形成され、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びた金属膜が配列されてなるものである。この反射層221は、ワイヤグリッド型偏光子としての機能を有し、反射層221の長手方向に平行な方向に電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、反射層221の長手方向に直交する方向に電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。
【0057】
反射層221の構成材料としては、使用帯域の光に対して反射性を有する材料であれば特に制限されず、例えば、Al、Ag、Cu、Mo、Cr、Ti、Ni、W、Fe、Si、Ge、Te等の元素単体又はこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。中でも、反射層221は、Al、Al合金、又はAgで構成されることが好ましい。
【0058】
反射層221の膜厚は、例えば、100nm〜300nmが好ましい。反射層221の膜厚は、例えば、上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0059】
格子状凸部22を構成する反射抑制層222は、本実施形態に係る光学素子用薄膜からなり、反射層221上に積層される。光学素子用薄膜については上述したため、詳細な説明を省略する。
【0060】
反射抑制層222の膜厚は、反射層221の膜厚よりも薄ければ特に制限されず、例えば、10nm〜100nmが好ましい。反射抑制層222の膜厚は、例えば、上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0061】
なお、
図2では、反射層221の幅と反射抑制層222の幅とを略同寸法としたが、この構成に限定されるものではなく、反射抑制層222の幅を反射層221の幅よりも小さくてしてもよい。このような構成とすることにより、無機偏光板20の透過性がより向上する傾向にある。
【0062】
無機偏光板20は、必要に応じて、格子状凸部22の表面を覆う保護膜(不図示)をさらに備えていてもよい。無機偏光板20が保護膜を備えることにより、耐湿性等の信頼性がより向上する傾向にある。
【0063】
保護膜としては、例えば、無機酸化物膜及びフッ素系撥水膜の少なくとも一方を含むものが挙げられる。無機酸化物膜としては、Si酸化物膜、Hf酸化物膜等が挙げられる。フッ素系撥水膜としては、パーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)等のフッ素系シラン化合物をコートして形成される膜が挙げられる。保護膜は、CVD法(化学蒸着法)、ALD法(原子層堆積法)等を利用することにより形成可能である。
【0064】
[無機偏光板の製造方法]
上述した本実施形態に係る無機偏光板は、透明基板上に、反射層と、上述した本実施形態に係る光学素子用薄膜からなる反射抑制層と、を透明基板側からこの順で有する積層体を形成する工程と、積層体を選択的にエッチングすることにより、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板上に配列される格子状凸部を形成する工程と、を有する製造方法により製造することができる。
【0065】
以下では一例として、
図2のような構造を有する無機偏光板の製造方法について説明する。
【0066】
まず、透明基板上に反射層を形成する。反射層の形成方法としては、スパッタ法、蒸着法等が挙げられる。
【0067】
次いで、反射層上に反射抑制層を形成する。反射抑制層の形成方法は、上述した本実施形態に係る光学素子用薄膜の製造方法と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0068】
次いで、フォトリソグラフィ法、ナノインプリント法等により、反射抑制層上に一次元格子状のマスクパターンを形成する。そして、反射層及び反射抑制層からなる積層体を選択的にエッチングすることにより、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板上に配列される格子状凸部を形成する。エッチング方法としては、例えば、エッチング対象に対応したエッチングガスを用いたドライエッチング法が挙げられる。
【0069】
以上の製造方法により、
図2のような構造を有する無機偏光板を製造することができる。なお、本実施形態に係る無機偏光板の製造方法は、格子状凸部の表面を保護膜で被覆する工程をさらに有していてもよい。
【0070】
[光学機器]
本実施形態に係る光学機器は、上述した本実施形態に係る無機偏光板を備える。本実施形態に係る光学機器としては、液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ、デジタルカメラ等が挙げられる。本実施形態に係る無機偏光板は、有機偏光板に比べて耐熱性に優れるため、耐熱性が要求される液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ等の用途に好適である。
【0071】
本実施形態に係る光学機器が複数の無機偏光板を備える場合、複数の無機偏光板の少なくとも1つが本実施形態に係る無機偏光板であればよい。例えば、本実施形態に係る光学機器が液晶プロジェクタである場合、液晶パネルの入射側及び出射側に配置される無機偏光板の少なくとも一方が本実施形態に係る無機偏光板であればよい。
【0072】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形及び改良は本発明に含まれる。
【実施例】
【0073】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0074】
<実施例1>
まず、ガラス基板上に、スパッタ法により膜厚250nmの反射層(Al膜)を成膜した。次いで、
図1に示す構成の反応性スパッタリング装置10を用いて、反射層上に膜厚50nmの反射抑制層を成膜することにより、実施例1の試験板を得た。
【0075】
反応性スパッタリングの詳細は以下のとおりである。スパッタリングターゲット12aとしては、Si
xC(x=2.3±0.2)を用い、スパッタ電源11aの出力を6000W、Arガスの流量を150sccm、O
2ガスの流量を10sccmに設定した。また、スパッタリングターゲット12bとしては、NbO
x(1.0≦x≦2.5)を用い、スパッタ電源11bの出力を1000W、Arガスの流量を200sccm、O
2ガスの流量を10sccmに設定した。そして、Al膜が成膜されたガラス基板を円筒型基板ホルダー14にセットし、30rpmの速度で円筒型基板ホルダー14を回転させながら反応性スパッタリングを行った。得られた反射抑制層は、SiCを20atm%〜30atm%、Siを20atm%〜30atm%、SiO
2を主成分とするSiの酸化物を30atm%〜50atm%、NbO
x(x≦2.5)を約10atm%含有するものであった。
【0076】
<比較例1>
まず、ガラス基板上に、スパッタ法により膜厚250nmの反射層(Al膜)を成膜した。次いで、スパッタ法により、反射層上に膜厚25nmの誘電体層(SiO
2膜)を成膜した。次いで、スパッタ法により、誘電体層上に膜厚25nmの吸収層(FeSi膜(Fe=5atm%))を成膜することにより、比較例1の試験板を得た。
【0077】
<評価>
実施例1及び比較例1の試験板について、成膜面側から光を照射したときの反射率を
図3に示す。
図3に示すように、単層薄膜である反射抑制層を成膜した実施例1の試験板は、誘電体層及び吸収層を成膜した比較例1の試験板に比べて、反射率を低く抑えることができた。
【0078】
<実施例2>
反応性スパッタリングのスパッタ時間を150秒間としたほかは実施例1と同様にして、実施例2の試験板を得た。得られた反射抑制層の膜厚は30nmであった。
【0079】
<実施例3>
反応性スパッタリングのスパッタ時間を250秒間としたほかは実施例1と同様にして、実施例3の試験板を得た。得られた反射抑制層の膜厚は60nmであった。
【0080】
<評価>
実施例2、3の試験板について、成膜面側から光を照射したときの反射率を
図4に示す。
図4に示すように、スパッタ時間を変更して膜厚を変更することにより、反射率が最小となる中心波長をシフトさせることができた。しかも、膜厚を変更することにより反射率の中心波長をシフトさせても、全体的な反射率のドリフトは生じなかった。
【0081】
<比較例2>
まず、ガラス基板上に、スパッタ法により膜厚25nmの誘電体層(SiO
2膜)を成膜した。次いで、スパッタ法により、誘電体層上に膜厚25nmの吸収層(FeSi膜(Fe=5atm%))を成膜することにより、比較例2の試験板を得た。
【0082】
<評価>
実施例1及び比較例2の試験板について、成膜面側から光を照射したときの反射率を測定した。また、実施例1及び比較例2の試験板を300℃で15分間加熱した後、同様に反射率を測定した。実施例1の試験板の加熱試験前後における反射率を
図5Aに示し、比較例2の試験板の加熱試験前後における反射率を
図5Bに示す。
図5A、
図5Bに示すように、単層薄膜である反射抑制層を成膜した実施例1の試験板は、誘電体層及び吸収層を成膜した比較例2の試験板に比べて、加熱による反射率の変動が小さく、耐熱性に優れていた。
【0083】
<実施例4>
まず、ガラス基板上に、スパッタ法により膜厚250nmの反射層(Al膜)を成膜した。次いで、
図1に示す構成の反応性スパッタリング装置10を用いて、反射層上に膜厚64nmの反射抑制層を成膜することにより、実施例4の試験板を得た。
【0084】
反応性スパッタリングの詳細は以下のとおりである。スパッタリングターゲット12aとしては、Si
xC(x=2.3±0.2)を用い、下記表2に示す範囲でガス流量を調整した。ターゲット出力は、下記表2に示す下限値から上昇させ、上限値である最大出力に達した後に下限値まで下降させる設定とした。また、スパッタリングターゲット12bとしては、NbO
x(1.0≦x≦2.5)を用い、下記表2に示す範囲でガス流量を調整した。ターゲット出力は、下記表2に示す下限値から上昇させ、上限値である最大出力に達した後に下限値まで下降させる設定とした。Al膜が成膜されたガラス基板を円筒型基板ホルダー14にセットし、30rpmの速度で円筒型基板ホルダー14を回転させながら反応性スパッタリングを行った。得られた反射抑制層は、基板側及び基板と反対側の両端において、SiO
2を主成分とするSiの酸化物が全量となる一方、ガラス基板からの高さが約40nmの位置において、SiCを約20atm%〜30atm%、NbOx(x≦2.5)を約20atm%含有するものとなった。
【0085】
【表2】
【0086】
<実施例5>
スパッタ電源11bの最大出力を500Wにするほかは実施例4と同様にして、実施例5の試験板を得た。得られた反射抑制層の組成は、基板側及び基板と反対側の両端において、SiO
2を主成分とするSiの酸化物が全量となる一方、ガラス基板からの高さが約40nmの位置において、SiCを約20atm%〜30atm%、NbOx(x≦2.5)を約4atm%含有するものとなった。
【0087】
<評価>
実施例4、5の試験板について、成膜面側から光を照射したときの反射率を測定した。また、実施例4、5の試験板を300℃で15分間加熱した後、同様に反射率を測定した。実施例4の試験板の加熱試験前後における反射率を
図6Aに示し、実施例5の試験板の加熱試験前後における反射率を
図6Bに示す。
図6A、
図6Bに示すように、反射抑制層中のNbO
xの含有率が相対的に高い実施例4の試験板は、反射抑制層中のNbO
xの含有率が相対的に低い実施例5の試験板に比べて、加熱による反射率の変動が小さく、耐熱性に優れていた。