【解決手段】厚み方向に長い散乱体が周期的に配列して形成された板状試料の微細構造の解析方法であって、透過X線を用いて複数のω回転角で測定された板状試料からのX線の散乱強度のデータを準備するステップと、特定の条件の下で、板状試料によって散乱されたX線の散乱強度を算出するステップと、算出された散乱強度を測定された散乱強度にフィッティングするステップとフィッティングの結果により板状試料における散乱体の形状を決定するステップと、を含む。
前記層のうち隣り合う層が互いに連続的に結合するための拘束条件の下で前記フィッティングを行うことを特徴とする請求項3から請求項5のいずれかに記載の解析方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような深さが数μm以上の溝により形成されるパターンに対して微小角入射配置のCD−SAXSを適用しても十分な結果が得られない。すなわち、(1)X線の侵入深さが十分でなく、(2)深さ数μmに対応する干渉縞を観測するのに十分な入射X線の平行性および検出器の1ピクセルあたりの角度分解能が得られない。
【0007】
これに対して、深さ数μmに対応する干渉縞を観測するためにはQzが十分小さい領域を測定する必要がある。それを実現するためには透過型のCD−SAXSが適している。このため、我々は、その装置開発を進めてきた。
【0008】
一般的に、X線小角散乱パターンは電子数密度分布のフーリエ変換の絶対値の二乗で与えられる。しかし、X線小角散乱パターンには位相情報が欠落しており、その逆フーリエ変換で直接電子数密度分布、すなわち実空間における散乱体の形状を決定することができない。そこで、一般的なX線小角散乱の解析では、単純な球形、円筒形、直方体などで散乱体の形状を近似し、その寸法を決定する。
【0009】
一方、実際のデバイスで加工されるパターン形状はもっと複雑であり、単純なモデルで近似した寸法の決定だけでは不十分である。パターンのCDや深さのような代表的な寸法だけでなく、その他のパターンの特徴的なパラメータも高精度に計測できることが要求される。すなわち、ホールの側壁角度やラウンド形状において、絶対値の精度ならびにその計測再現性の確保が求められている。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、板状試料において厚み方向に長い散乱体の形状を決定できる微細構造の解析方法、装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の解析方法は、厚み方向に長い散乱体が周期的に配列して形成された板状試料の微細構造の解析方法であって、複数のω回転角でX線の透過により測定された板状試料からの散乱強度のデータを準備するステップと、特定の条件の下で、前記板状試料によって散乱されたX線の散乱強度を算出するステップと、前記算出された散乱強度を前記測定された散乱強度にフィッティングするステップと前記フィッティングの結果により前記板状試料における散乱体の形状を決定するステップと、を含むことを特徴としている。このように、板状試料にX線を透過させてX線の散乱強度を測定するため、厚み方向に長い散乱体の形状を決定できる。
【0012】
(2)また、本発明の解析方法は、前記算出されたX線の散乱強度が、パラメータで特定された散乱体が前記板状試料の表面に平行な方向に周期的に配列している形状モデルを仮定して算出することを特徴としている。これにより、容易に散乱体のパラメータの最適値を決定できる。
【0013】
(3)また、本発明の解析方法は、前記算出されたX線の散乱強度が、前記散乱体がそれぞれの形状を有する層の前記板状試料の厚み方向への積層により形成されているという条件の下で算出することを特徴としている。これにより、複雑な形状の散乱体の形状を高精度かつ高いロバスト性で決定できる。
【0014】
(4)また、本発明の解析方法は、前記散乱体の各層が、断面形状の中心位置および大きさで特定されることを特徴としている。これにより、断面形状、中心位置および大きさで複雑な形状を現すことができる。
【0015】
(5)また、本発明の解析方法は、前記板状試料が、多層膜で形成されていることを特徴としている。このように多層膜で形成された試料に対し、積層された散乱体を仮定することで、正確に実際の試料の特徴を捉えることができる。
【0016】
(6)また、本発明の解析方法は、前記層のうち隣り合う層が互いに連続的に結合するための拘束条件の下で前記フィッティングを行うことを特徴としている。これにより、シミュレーションの結果が収束しやすくなり、算出負担を抑えつつ、実際の形状に近い結果が得られる。
【0017】
(7)また、本発明の解析方法は、前記板状試料が、シリコンで形成され、前記散乱体の長さは、200nm以上20μm以下であることを特徴としている。このようなシリコンの板状試料であっても、X線の透過に伴う散乱を利用することで厚み方向に長い散乱体の形状を特定できる。
【0018】
(8)また、本発明の解析装置は、厚み方向に長い散乱体が周期的に配列して形成された板状試料の微細構造の解析装置であって、複数のω回転角でX線の透過により測定された板状試料からの散乱強度のデータを記憶する測定データ記憶部と、特定の条件の下で、前記板状試料によって散乱されたX線の散乱強度を算出する強度算出部と、前記算出された散乱強度を前記測定された散乱強度にフィッティングするフィッティング部と、前記フィッティングの結果を用いて前記板状試料における散乱体の形状を決定するパラメータ決定部と、を備えることを特徴としている。これにより、厚み方向に長い散乱体の形状を決定できる。
【0019】
(9)また、本発明の解析プログラムは、厚み方向に長い散乱体が周期的に配列して形成された板状試料の微細構造の解析プログラムであって、複数のω回転角でX線の透過により測定された板状試料からの散乱強度のデータを準備する処理と、特定の条件の下で、前記板状試料によって散乱されたX線の散乱強度を算出する処理と、前記算出された散乱強度を前記測定された散乱強度にフィッティングする処理と、前記フィッティングの結果により前記板状試料における散乱体の形状を決定する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴としている。これにより、厚み方向に長い散乱体の形状を決定できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、板状試料において厚み方向に長い散乱体の形状を決定できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0023】
[基本的手法]
本発明では、実験室レベルで実行可能な透過型のCD−SAXSによって試料の散乱体の形状等を分析する。特に三次元NANDやDRAMなど、深溝微細加工パターンを持つ半導体デバイスの形状を分析するのに適している。
【0024】
形状解析については、適当な形状パラメータ(ホールやピラーの平均サイズ(直径)、深さ/高さ、側壁角度、ラウンド形状など)で微細パターンの形状を記述し、実験結果と計算結果のフィッティングにより形状パラメータを決定する。その結果、断面形状ならびに定義パラメータを決定できる。この手法により、実際のパターン形状を選択したモデルで十分記述できれば、測定再現性の高い解析を実現できる。
【0025】
上記のように微細パターンの形状を単純な形状モデルで表現できない場合は、深さ方向に細かくスライスし、個々の深さに直径や位置揺らぎのみをパラメータとして与えることでも解析できる。このような手法は、形状モデルを用いないため便宜上「モデルフリー」解析と呼べる。解の任意性は、モデル解析より劣ると予想されるが、よりロバストな形状解析を実現できる。
【0026】
本発明は、非常に大きなアスペクト比を持つ深溝微細パターンを非破壊かつ簡便に計測するのに有効である。特に、基板に埋もれた構造を解析する場合には好適である。深溝パターンの形状計測は近年の三次元半導体デバイスでも計測要求が高く、本手法を用いれば、三次元半導体デバイスのインライン計測に大きく寄与できる。以下に具体的な態様を説明する。
【0027】
[透過型と反射型]
図1は、透過型のCD−SAXSの測定系を示す斜視図である。透過型のCD−SAXSでは、試料表面に対して垂直にX線を入射する方位を基準として試料回転(ω回転)を行い、各回折線の積分強度の試料回転角度依存性を測定する。試料回転を行うのは、散乱ベクトルQ
Zを変化させて深さ方向の情報を取得するためである(式(1)のQ
Z参照)。
【0028】
格子定数がaとbで格子角度がγの単位格子があった場合、回折指数(h,k)の回折条件は、散乱ベクトルQ
X、Q
Y、Q
Zを用いて次のように与えられる。
【数1】
【0029】
式(1)をもとに、h=1の場合についてΔQ
Zを求めると式(2)が得られる。
【数2】
【0030】
例えば、半導体デバイスでは、aはパターンピッチに該当し、10〜100nm程度である。また、深さHはQ
Z方向の干渉パターンの周期ΔQ
Zと次のような関係がある。
【数3】
したがって、深いパターンを計測するためにはΔQ
Zが小さい必要がある。
【0031】
一方、反射型のCD−SAXSでは、板状試料の表面すれすれの入射角αでX線を入射させ、板状試料の表面に垂直な回転軸φ回りの回転角度βで板状試料による散乱強度の測定を行う測定系が想定される。その場合、回折条件は以下のように計算される。
【数4】
【0032】
そして、式(4)をもとにΔQ
Zを求めると式(5)が得られる。
【数5】
【0033】
Δβは、ピクセルサイズpおよびカメラ長Lを用いて以下のように表される。
【数6】
【0034】
カメラ長Lは、通常、500mm〜700mmであり、典型的なピクセルサイズは、0.1mm程度である。ピクセルサイズの小さい検出器を用いることでΔβを小さくすることができる。
【0035】
式(2)においてaが10〜100nm程度であり、式(5)においてX線の波長λが0.1nm程度であることを考慮すると、透過型のΔQ
Zは、反射型のΔQ
Zより100倍〜1000倍大きい。したがって、透過型は深穴または深溝に有効であり、反射型は表面の浅穴または浅溝に有効である。
【0036】
透過型および反射型のCD−SAXSのそれぞれの特徴は、以下の表に示すとおりである。
【表1】
【0037】
なお、そもそも反射型の微小角入射では、吸収により、数ミクロン以上の深穴または深溝の界面までX線が到達しない。一方、透過型の手法では、基板に対してX線を透過させる。
【0038】
[原理および数式の導出]
(X線小角散乱強度)
上記のように屈折や多重反射の影響の小さい透過型のCD−SAXSでは、式(7)に示すように、X線小角散乱強度I(Q)がボルン近似(系全体での電子数密度分布ρ(r)のフーリエ変換の絶対値の二乗)で計算できる。
【数7】
【0039】
図2(a)、(b)は、それぞれ板状試料を電子数密度分布で表したXY断面図およびXZ断面図である。
図2(a)、(b)に示すように散乱体が周期パターンの構造を持つ場合、散乱X線の振幅は、式(8)に示すように単位格子に関する積分とラウエ関数Lの積で記述できる。
【数8】
【0040】
そして、ラウエ関数から回折条件を満たすQ
X、Q
Yは以下の通り導かれる。
【数9】
【0041】
(単位格子の取り方)
単位格子は、
図2(a)に示すように、単位格子の面積が最小になるような単純格子U1で取っても、設定しやすい格子U2で取ってもよい。
図2(a)では、各単位格子の独立なサイトをハッチングの円で示している。サイトによらず共通の電子密度分布および形状を持つ場合、単位格子内の散乱振幅を表す単位格子内の積分は、一つの散乱体の積分である散乱体形状因子Fと構造因子Sとの積で記述できる。
【数10】
【0042】
構造因子Sは、ミラー指数(hk)と単位格子内の相対座標(x’
j,y’
j)を用いて次のように記述することもできる。
【数11】
【0043】
単純格子U1の場合、独立なサイトは(0,0)のみで、構造因子は(hk)によらず1である。面心格子の場合、独立なサイトは(0,0)と(1/2,1/2)で、構造因子はh+kが偶数のときに2で奇数のときに0となる。ラウエ関数Lや構造因子Sは、散乱体の配置に関わるものであり、散乱体の形状には依存しない。そして、半導体デバイスのように散乱体のパターン構造はマスクのパターンで決まっている場合には、CD−SAXSであえてパターン構造を決定する必要はない。あくまで、散乱体の形状(電子数密度分布r(r))を決定することが重要である。
【0044】
散乱体の形状に関わる因子は、散乱体の形状積分である形状因子Fに他ならない。
【数12】
【0045】
もし、散乱体の電子数密度分布が一様な電子数密度ρ
0であれば、形状因子Fは、次のような形状積分に置き換えることもできる。
【数13】
【0046】
例えば、半径がRで長さがHの円筒がZ方向に立っている場合、形状因子は次のように与えられる。
【数14】
【0047】
実際の散乱体形状は、円筒などの単純な形状で近似できないことが多い。例えば、側壁角度やラウンドパラメータなどを形状モデルに取り入れて、それらのパラメータを含む形状因子を表すことが可能である。もしくは、深さ方向にスライスしてスライス層ごとに直径やその中心位置だけをパラメータに取り入れた形状因子を用いて解析するモデルフリー解析が有効と考えられる。
【0048】
いずれにしても、実験データから直接形状を出すのではなく、モデルパラメータを変数とした計算データが実験データと一致するようにモデルパラメータを精密化して形状を決定する。
【数15】
【数16】
【数17】
【0049】
式(17)において、ユニットセル内の和記号で表される因子は、構造因子S(Q)に相当する((15)式参照)。一方、結晶学では熱振動による温度因子に対応するのは式(17)中のX方向およびY方向の積分項に相当し、式(18)に示す部分に相当する。
【数18】
【0050】
パターン形状を表す場合、この因子は静的な位置乱れを表している。以上のように求められた透過型のCD−SAXSでのX線散乱強度を表す数式を用いることで、散乱体の形状や位置乱れ等のパラメータを特定するためのモデル解析、またはモデルフリー解析が可能になる。
【0051】
[モデル解析]
板状試料によるX線の散乱強度は、形状モデルで表される散乱体が板状試料の表面に平行な方向に周期的に配列している状態を仮定して算出することができる。
図3(a)、(b)は、それぞれ形状モデルを示すXY断面図およびXZ断面図である。
図3(a)、(b)に示すように、パラメータで表した形状モデルを用いて、フィッティングで散乱体のパラメータを決定することができる。
【0052】
パラメータには、例えば、散乱体のX方向の直径DX、Y方向の直径DY、深さに対する底側長さの比率α、深さ、上部の側壁角(TopSWA)、底部の側壁角(BotSWA)、上部角半径(RT)、上部角半径のオフセット(RToffset)、底部角半径(RB)、底部角半径のオフセット(RBoffset)、ピッチのばらつき、直径のばらつきおよび深さのばらつきが挙げられる。
【0053】
図4(a)、(b)は、それぞれ板状試料のホールのピッチおよび径のばらつきを示す平断面図である。
図4(a)、(b)に示すように、ホールのピッチおよび径に生じるばらつきもパラメータで表すことができ、これらを解析で決定することができる。
【0054】
[モデルフリー解析]
アスペクト比の高いホールによるパターンに対しては、わずかな加工条件の変動によって複雑なパターン形状が生成される。したがって、場合によっては、上記に挙げた寸法や特徴的なパラメータだけでは記述できないより複雑なパターン形状を持つこともある。このようなパターンに対しても高いロバスト性で形状計測を実現できることが好ましい。
【0055】
板状試料によるX線の散乱強度は、散乱体がそれぞれの形状を有する層の板状試料の厚み方向への積層により形成されているという条件の下で算出することもできる。このような形状モデルを用いないモデルフリー解析の一例として、ホールの深さをパラメータとし、深さ方向にN等分の層にスライスすることが考えられる。
図5(a)、(b)は、それぞれ解析条件を示すXZ面およびYZ面でのホール形状を示す図である。
【0056】
散乱体の各スライス層は、断面形状の中心位置および大きさで特定されることが好ましい。これにより、断面形状、中心位置および大きさで複雑な形状を現すことができる。例えば、
図5(a)、(b)に示すように、各層のX方向およびY方向のホール直径は、パラメータ(D
X,D
Y)として与えられる。また、各層のX方向およびY方向のホールの中心位置のズレはパラメータ(Δ
X,Δ
Y)として与えられる。
【0057】
試料が多層膜で構成されるときには特にモデルフリー解析が有効である。マトリックス層が多層膜構造を取る場合は、各スライス層の電子密度をパラメータとすることができる。このような場合は、必ずしも等分にする必要はなく、各層の膜厚をパラメータとしてもよい。このようなスライス層を用いるという条件で散乱強度を算出することで、フィッティングで複雑な形状の散乱体の形状を高精度かつ高いロバスト性で決定できる。
【0058】
スライス層のうち積層方向に隣り合う層は、実際には互いに連続的に結合する。したがって、そのような連続性の拘束条件を与えてフィッティングを行うことが好ましい。これにより、シミュレーションの結果が収束しやすくなり、算出負担を抑えつつ、実際の形状に近い結果が得られる。
【0059】
(拘束条件の例)
例えば、最小二乗法では、実験データと計算データの残差二乗和χ
2が最小になるように解析を行う。しかし、計測感度が足りないにもかかわらずスライス層の数を増やすと自由度が高すぎてパラメータが決まりきらず、実際にはあり得ない鋸歯状の断面が得られてしまう場合がある。このような場合、一例として、以下のように断面の経路積分も最小になるような重みを付加することができる。経路積分なしの残差二乗和χ
2は、式(19)の通りである。
【数19】
【0060】
Obs
jとCalc
jはそれぞれj番目の実験データで、Nはデータ点数を表す。経路積分を重みに含めた残差二乗和χ
2は式(20)の通りである。
【数20】
【0061】
式(20)は、X方向およびY方向のそれぞれ断面の経路積分を取り入れた残差二乗和χ
2を示している。D
X,kおよびD
Y,kはk番目のスライスのX方向およびY方向の直径、Δ
X,kおよびΔ
Y,kはk番目のスライス層のX方向およびY方向の位置ずれ、t
kはk番目のスライス層の膜厚、Mはスライス層の数、αは重み付けパラメータである。例えば、このような残差二乗和χ
2を最少にする重みを拘束条件として付加することができる。
【0062】
[複数の回転角度ω]
特に、モデルフリー解析では断面形状を決定するために試料を回転させた複数枚の回折像データを取得することが重要である。測定に必要な試料回転ω軸の角度範囲とサンプリング間隔について説明する。
【0063】
深さ方向の空間分解能をΔZとする場合、測定に必要なQ
Zの最大値Q
Z、Maxは次のように表される。
【数21】
【0064】
また、試料回転ωに対して取得できるQ
Zの範囲はQ
Xに比例して次のように与えられる。
【数22】
【0065】
aはX軸方向のピッチであり、解析に使用する回折指数hの最大値をh
Maxとすると、空間分解能ΔZを実現する最小試料回転角度ω
Minは次のように計算できる。
【数23】
【0066】
例えば、a=100nm、h
Max=10、ΔZ=50nmの場合、ωの回転量は11.3°である。モデルフリー解析におけるスライスでは、回転量ωよりΔZを逆算して分割数の目安を算出できる。例えば、深さ方向の空間分解能がΔZで測定対象の深さがHであれば、スライス層の数の目安はH/ΔZ程度とすることが好ましい。
【0067】
試料回転における画像枚数は、画像を撮像するω回転のサンプリング間隔に対応する。深さHの散乱体からの干渉パターンの周期ΔQ
Zは次のように計算される。
【数24】
【0068】
Q
ZとQ
Xの関係、また、ω<<1という条件より、解析に使用する最大のQ
XをQ
X,Max、もしくは最大の回折指数をh
Maxとすると干渉縞の周期Δωは次のように計算される。
【数25】
【0069】
a=100nm、h
Max=10、H=4000nmとした場合、干渉縞の周期Δωは0.14°程度となる。サンプリング間隔は干渉縞の周期より狭い必要があり、干渉縞の周期の1/4〜1/5程度あれば十分と考えられる。したがって、サンプリング間隔は0.03°〜0.04°程度が好ましい。回折像データの撮像枚数は、ωの回転角度範囲とサンプリング間隔より算出できる。例えば、上記の例では、±11.3°を0.04°間隔で撮影するので、565枚を撮影すればよい。
【0070】
[システム全体の構成]
図6は、測定システム100の構成を示すブロック図である。測定システム100は、測定装置110および解析装置120を備え、X線を板状試料に照射して、散乱強度の測定により透過型のCD−SAXSの測定を可能にする。解析装置120は、測定装置110を制御するとともに、制御データとともに測定データを管理し、データの解析を可能にする。具体的な構成を以下に説明する。
【0071】
[測定装置の構成]
図7は、測定装置110の構成を示す平面図である。測定装置110は、X線源111、ミラー112、スリットS1、S2、GS、試料台115、真空経路116、ビームストッパ118、検出器119を備えている。X線源111から試料S0までの距離L0、カメラ長Lについては、例えばそれぞれを1000mm、3000mmに設定できる。
【0072】
X線源111には、MoKαを用いることができる。ミラー112は、X線源111から放射されたX線を分光し、分光されたX線を試料S0方向へ照射する。スリットS1、S2は、X線を遮蔽可能な部材よりなり、分光されたX線を絞るスリット部を構成している。このような構成により、板状試料S0の表面に対し垂直方向に近い複数の回転角ωでX線の照射が可能になっている。複数の回転角ωには、−10°から10°の範囲の特定の角度を選ぶことが好ましい。スリットGSは、試料表面上でのX線のスポットサイズを数十μm以下に制限することができる。基本的には、スリットS1、S2でビームサイズを決定し、GSを用いてスリットS1、S2で発生した寄生散乱を除去する。ただし、ごく微小なスポットを作る場合には、GSでビームを小さくすることもできる。
【0073】
試料台115は、台上で試料S0を支持しており、解析装置120の制御を受けて駆動機構により板状試料S0の方位を調整できる。具体的には、
図1に示すQ
Y回りのω回転角だけでなく、χ回転角、φ回転角も調整可能である。このような調整により、分光されたX線の試料S0への入射角を変えることができ、散乱強度を回折角に応じて測定できる。
【0074】
試料S0は、板状に形成され、散乱体が試料の主面に平行な方向に周期的に配列している。散乱体としては、例えばホールが挙げられる。すなわち、代表的な試料としては、シリコンウエハの基板であり、その場合、散乱体はエッチングで形成されたホールである。集積度が高くなればなるほど、仕様に対して正確なホール形状の形成を確認できることが重要である。
【0075】
このような場合に、散乱体の長さが、200nm以上20μm以下であっても、
図7に示すように、試料表面に垂直にX線を照射し、X線の透過に伴う散乱を利用することで、厚み方向に長い散乱体の形状を特定できる。
【0076】
散乱体は、上記のようなホールに限らず、ピラーであってもよい。すなわち、表面に円柱が周期的に形成されているシリコン基板の試料にも本発明は応用できる。また、長い分子配列のようなラインパターン(スペースパターン)が形成された試料であってもよい。
【0077】
真空経路116は、カメラ長を稼ぎつつ、ビームの減衰を防止するために散乱ビームの経路を真空に維持する。ビームストッパ118は、ダイレクトビームを吸収する。検出器119は、例えば試料位置からの円周上を移動可能な半導体の2次元検出器であり、X線の散乱強度を検出することができる。測定装置110と解析装置120とは接続されており、検出された散乱強度データは、解析装置120へ送出される。
【0078】
なお、測定装置110は、レーザ光源および反射光の検出器を有していることが好ましい。レーザ光の反射を利用して板状試料の表面がX線の入射方向に対して垂直になるように板状試料の方位を調整することが可能である。このように調整された方位を基準とすることができ、このときω=χ=0°である。
【0079】
試料の断面形状を評価する場合に基準がなくても解析自体はできる。しかしながら、このようにして特定された断面形状は、ゴニオメータ軸のω軸とχ軸の適当な原点を基準としたものにすぎない。断面形状を評価する多くの場合には、表面を基準に断面形状を評価することが要求される。このような場合、表面の基準を出してから測定および解析をするのが望ましい。
【0080】
[解析装置の構成]
解析装置120は、例えばメモリおよびプロセッサを有するPCで構成されており、プログラムの実行により各処理の実行が可能である。測定装置110から得られる測定データを処理することで、厚み方向に長い散乱体が周期的に配列して形成された板状試料の微細構造の解析が可能になっている。解析装置120は、制御部121、数式記憶部122、測定データ記憶部123、強度算出部125、フィッティング部126およびパラメータ決定部127を備えている。
【0081】
制御部121は、測定装置110を制御し、制御データおよび測定データを管理する。例えば、制御部121は、駆動機構により試料台115を制御し、試料S0の方位を調整する。数式記憶部122は、特定の形状モデルまたは解析条件に対して、散乱強度を算出するための数式を記憶する。測定データ記憶部123は、板状試料の表面に対する垂直方向近傍の複数のω回転角で測定された、X線透過に伴い板状試料から散乱されるX線の強度データを記憶する。
【0082】
強度算出部125は、一方で、数式記憶部122から所望の形状モデルまたは解析条件に対する散乱を算出するための数式を取得し、他方で既知パラメータから取得された各種パラメータの値を選択し、X線の散乱強度を算出する。取得した数式を用いることで特定の条件の下での板状試料によって散乱されたX線の散乱強度を算出できる。
【0083】
フィッティング部126は、強度算出部125により算出された散乱強度を測定装置110により実測されたX線の散乱強度にフィッティングする。フィッティング部126は、行ったフィッティングが最適か否かを確認し、最適でない場合には、パラメータを変更して再度シミュレーションにより散乱強度を算出させる。パラメータ決定部127は、フィッティングの結果を用いて板状試料における散乱体のパラメータを決定する。このようにして、厚み方向に長い散乱体の形状を決定できる。
【0084】
[測定および解析の方法]
次に、上記のシステムの構成を用いた測定および解析の方法について説明する。
図8は、測定および解析の方法を示すフローチャートである。
図8に示すように、まず、板状試料を設置する(ステップS101)。そして、複数のω回転角での散乱強度を測定する(ステップS102)。
【0085】
一方、特定の形状モデルまたはスライス層の条件のような特定条件下で、物理パラメータを仮定してX線の散乱強度を算出する(ステップS103)。そして、算出された散乱強度を測定された散乱強度にフィッティングする(ステップS104)。行ったフィッティングが最適か否かを確認し(ステップS105)、最適でない場合には、パラメータを変更し(ステップS106)、ステップS103に戻る。フィッティングが最適であった場合には、そのときの値でパラメータを決定し(ステップS107)、一連の手順を終了する。
【0086】
[実施例]
深さ方向に長いホールが表面に平行な方向に周期的に配列された半導体基板の試料について透過型のCD−SAXSによるX線の散乱強度を測定し、モデル解析およびモデルフリー解析により、パターンの特定を行った。
【0087】
(モデル解析)
モデル解析により、特定の試料についてパラメータを決定した。
図9(a)、(b)は、それぞれ用いた板状試料の仕様を示す平断面図および側断面図である。
図9(a)、(b)に示すように、シリコン基板上に格子定数a=b=120nm、格子角度γ=60°で直径80nm、深さ3μmのホールを周期的に形成したシリコン基板を用いた。
【0088】
図10(a)、(b)は、それぞれ測定された散乱強度データおよび形状モデルを用いた散乱ベクトルQ
R方向のフィッティング結果を示す図である。
図10(b)に示すように、Q
R方向について実測のデータに対して十分なフィッティング結果が得られた。
【0089】
図11(a)、(b)は、それぞれ測定された散乱強度データおよび形状モデルを用いた散乱ベクトルQ
Z方向のフィッティング結果を示す図である。
図11(b)に示すように、Q
Z方向についても実測のデータに対して十分なフィッティング結果が得られた。
【0090】
図12は、形状モデルを用いて得られたホールの形状を示す図である。また、
図13は、形状モデルを用いて決定されたパターンのパラメータを示す表である。
図12、
図13に示すように、概ね仕様通りの直線的なホールが形成されていることを確認できた。また、ホール開口の縁部およびホール底の隅部に曲面が形成されていることも特定できた。
【0091】
(モデルフリー解析)
モデルフリー解析により、特定の試料についてホール形状を特定した。
図14(a)、(b)は、それぞれ用いた板状試料の仕様を示す平断面図および側断面図である。
図14(a)、(b)に示すように、シリコン基板上に格子定数a=b=120nm、格子角度γ=60°で直径80nm、深さ3μmのホールを周期的に形成したシリコン基板を用いた。ただし、ホールは、深さ1.5μm付近で段差を有している。
【0092】
図15(a)、(b)は、それぞれ測定された散乱強度データおよびモデルフリー解析での散乱ベクトルQ
R方向のフィッティング結果を示す図である。
図15(b)に示すように、Q
R方向について実測のデータに対して十分なフィッティング結果が得られた。
【0093】
図16(a)、(b)は、それぞれ測定された散乱強度データおよびモデルフリー解析での散乱ベクトルQ
Z方向のフィッティング結果を示す図である。
図16(b)に示すように、Q
Z方向についても実測のデータに対して十分なフィッティング結果が得られた。
【0094】
図17(a)、(b)は、それぞれ得られたホールの形状を示すXZ断面図およびYZ断面図である。また、
図18(a)、(b)は、それぞれ深さに対して得られたX方向およびY方向のホールの径を示す図である。
図17、
図18に示すように、概ね仕様通りの段差を有する直線的なホールが形成されていることを確認できた。また、ホールは、底に向かって徐々に径が小さくなっており、緩やかな曲面が形成されていることも特定できた。