【解決手段】厚み方向に長い柱状の散乱体が周期的に配列して形成された板状試料の微細構造の解析方法であって、X線の透過により生じた板状試料からの散乱強度のデータを準備するステップと、準備された散乱強度のデータに基づいて、X線の入射方向に対して板状試料の表面が垂直になる基準の回転位置に対する板状試料における散乱体の傾斜角度を決定するステップと、を含む。このように、板状試料にX線を透過させて散乱強度に基づいた計算を行うことで厚み方向に長い柱状の散乱体の傾斜角度を容易に決定できる。
前記準備された散乱強度のパターンが対称になる特定の回転位置と、前記基準の回転位置との差分に基づいて、前記散乱体の傾斜角度を決定することを特徴とする請求項1記載の決定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような深さが数μm以上の溝により形成されるパターンに対して微小角入射配置のCD−SAXSを適用しても十分な結果が得られない。すなわち、(1)X線の侵入深さが十分でなく、(2)深さ数μmに対応する干渉縞を観測するのに十分な入射X線の平行性および検出器の1ピクセルあたりの角度分解能が得られない。
【0008】
これに対して、深さ数μmに対応する干渉縞を観測するためにはQzが十分小さい領域を測定する必要がある。それを実現するためには透過型のCD−SAXSが適している。このため、我々は、その装置開発を進めてきた。
【0009】
一般的に、X線小角散乱パターンは電子数密度分布のフーリエ変換の絶対値の二乗で与えられる。しかし、X線小角散乱パターンには位相情報が欠落しており、その逆フーリエ変換で直接電子数密度分布、すなわち実空間における散乱体の形状を決定することができない。そこで、一般的なX線小角散乱の解析では、単純な球形、円筒形、直方体などで散乱体の形状を近似し、その寸法を決定する。
【0010】
一方、実際のデバイスで加工されるパターン形状はもっと複雑であり、単純なモデルで近似した寸法の決定だけでは不十分である。パターンのCDや深さのような代表的な寸法だけでなく、その他のパターンの特徴的なパラメータも高精度に計測できることが要求される。特に、半導体に多数の柱状の穴を設ける場合には、柱状の散乱体が周期的に配列した試料モデルを仮定し、その散乱体の傾斜角度を求める近似が有効である。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、厚み方向に長い柱状の散乱体の傾斜角度を容易に決定できる微細構造の決定方法、解析装置、解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の微細構造の決定方法は、厚み方向に長い柱状の散乱体が周期的に配列して形成された板状試料の微細構造の解析方法であって、X線の透過により生じた板状試料からの散乱強度のデータを準備するステップと、前記準備された散乱強度のデータに基づいて、X線の入射方向に対して板状試料の表面が垂直になる基準の回転位置に対する前記板状試料における散乱体の傾斜角度を決定するステップと、を含むことを特徴としている。このように、板状試料にX線を透過させて散乱強度に基づいた計算を行うことで厚み方向に長い柱状の散乱体の傾斜角度を容易に決定できる。
【0013】
(2)また、本発明の微細構造の決定方法は、前記準備された散乱強度のパターンが対称になる特定の回転位置と、前記基準の回転位置との差分に基づいて、前記散乱体の傾斜角度を決定することを特徴としている。これにより、試料表面に対する散乱体の傾斜角度を容易に決定できる。
【0014】
(3)また、本発明の微細構造の決定方法は、前記特定の回転位置が、所定の反射面による強度がピークを形成する複数の回転位置に基づいて決定することを特徴としている。これにより、散乱強度パターンが対称になる特定の回転位置を客観的かつ速やかに決定できる。
【0015】
(4)また、本発明の微細構造の決定方法は、前記特定の回転位置が、対称位置の散乱強度の差が所定基準値以下である回転位置に基づいて決定することを特徴としている。これにより、散乱強度パターンが対称になる特定の回転位置を容易に特定できる。
【0016】
(5)また、本発明の微細構造の決定方法は、前記散乱体の傾斜角度を決定するステップが、前記散乱体の厚み方向長さを既知として、前記板状試料の表面に平行な方向に前記散乱体が周期的に配列している試料モデルを仮定し、前記試料モデルによるX線の散乱強度を算出し、前記算出された散乱強度を前記生じた散乱強度にフィッティングするステップと、前記フィッティングの結果、前記散乱体の傾斜角度の最適値を決定するステップと、を更に有することを特徴としている。このように、試料モデルを用いたフィッティングにより散乱体の傾斜角度を容易に決定できる。
【0017】
(6)また、本発明の微細構造の決定方法は、前記板状試料が、シリコンで形成され、前記散乱体の長さは、200nm以上20μm以下であることを特徴としている。このようなシリコンの板状試料であっても、X線の透過に伴う散乱強度を利用することで厚み方向に長い散乱体の形状を特定できる。
【0018】
(7)また、本発明の解析装置は、厚み方向に長い柱状の散乱体が周期的に配列して形成された板状試料の微細構造の解析装置であって、X線の透過により生じた板状試料からの散乱強度のデータを記憶する測定データ記憶部と、前記記憶された散乱強度のデータに基づいて、X線の入射方向に対して板状試料の表面が垂直になる基準の回転位置に対する前記板状試料における散乱体の傾斜角度を決定するパラメータ決定部と、を備えることを特徴としている。これにより、X線の透過による散乱強度に基づいた計算を行うことで厚み方向に長い柱状の散乱体の傾斜角度を容易に決定できる。
【0019】
(8)また、本発明の解析プログラムは、厚み方向に長い柱状の散乱体が周期的に配列して形成された板状試料の微細構造の解析装置であって、X線の透過により生じた板状試料からの散乱強度のデータを記憶する処理と、前記記憶された散乱強度のデータに基づいて、X線の入射方向に対して板状試料の表面が垂直になる基準の回転位置に対する前記板状試料における散乱体の傾斜角度を決定する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴としている。これにより、X線の透過による散乱強度に基づいた計算を行うことで厚み方向に長い柱状の散乱体の傾斜角度を容易に決定できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、厚み方向に長い散乱体が周期的に配列して形成された板状試料について、微細構造を構成する厚み方向に長い柱状の散乱体の傾斜角度を容易に決定できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0023】
[基本的手法]
本発明では、実験室レベルで実行可能な透過型のCD−SAXSによって試料の散乱体の形状等を分析する。特に三次元NANDやDRAMなど、深溝微細加工パターンを持つ半導体デバイスの形状を分析するのに適している。例えば、高アスペクト比のホールのような散乱体の配置や径は、仕様通りの加工が可能であるが、傾斜角度については仕様通りの制御が難しい。したがって、パターンの断面形状だけでなく、傾斜角度の計測ニーズも非常に高い。一定の傾斜角度を有する散乱体が配列された単純な試料モデルを仮定すれば、傾斜角度を求めるための効率的な解析が可能となる。
【0024】
具体的には、高アスペクト比のホールのような厚み方向に長い柱状の散乱体が周期的に配列して形成された板状試料に対し、X線の透過により生じた板状試料からの散乱強度を測定する。まずは、測定された散乱強度のデータに基づいて、X線の入射方向に対して表面が垂直になる板状試料の回転位置を決定する。そして、一つの方法では、散乱強度のパターンから散乱体のパターンの法線を特定することで、散乱体の傾斜角度を決定する(以下、これを「対称パターン測定」と呼ぶ)。もう一つの方法では、散乱体の厚み方向長さを既知として、モデル解析により散乱体の傾斜角度を決定する(以下、これを「傾斜モデル解析」と呼ぶ)。
【0025】
本発明は、非常に高いアスペクト比を持つ深溝微細パターンを非破壊かつ簡便に計測するのに有効である。特に、基板に埋もれた構造を解析する場合には好適である。深溝パターンの形状計測は近年の三次元半導体デバイスでも計測要求が高く、本手法を用いれば、三次元半導体デバイスのインライン計測に大きく寄与できる。以下に具体的な態様を説明する。
【0026】
[透過型と反射型]
図1は、透過型のCD−SAXSの測定系を示す斜視図である。透過型のCD−SAXSでは、試料表面に対して垂直にX線を入射する方位を基準として試料回転(ω回転)を行い、各回折線の積分強度の試料回転角度依存性を測定する。試料回転を行うのは、散乱ベクトルQ
Zを変化させて深さ方向の情報を取得するためである(式(1)のQ
Z参照)。
【0027】
格子定数がaとbで格子角度がγの単位格子があった場合、回折指数(h,k)の回折条件は、散乱ベクトルQ
X、Q
Y、Q
Zを用いて次のように与えられる。
【数1】
【0028】
式(1)をもとに、h=1の場合についてΔQ
Zを求めると式(2)が得られる。
【数2】
【0029】
例えば、半導体デバイスでは、aはパターンピッチに該当し、10〜100nm程度である。また、深さHはQ
Z方向の干渉パターンの周期ΔQ
Zと次のような関係がある。
【数3】
したがって、深いパターンを計測するためにはΔQ
Zが小さい必要がある。
【0030】
一方、反射型のCD−SAXSでは、板状試料の表面すれすれの入射角αでX線を入射させ、板状試料の表面に垂直な回転軸φ回りの回転角度βで板状試料による散乱強度の測定を行う測定系が想定される。その場合、回折条件は以下のように計算される。
【数4】
【0031】
そして、式(4)をもとにΔQ
Zを求めると式(5)が得られる。
【数5】
【0032】
Δβは、ピクセルサイズpおよびカメラ長Lを用いて以下のように表される。
【数6】
【0033】
カメラ長Lは、通常、500mm〜700mmであり、典型的なピクセルサイズは、0.1mm程度である。ピクセルサイズの小さい検出器を用いることでΔβを小さくすることができる。
【0034】
式(2)においてaが10〜100nm程度であり、式(5)においてX線の波長λが0.1nm程度であることを考慮すると、透過型のΔQ
Zは、反射型のΔQ
Zより100倍〜1000倍大きい。したがって、透過型は深穴または深溝に有効であり、反射型は表面の浅穴または浅溝に有効である。
【0035】
透過型および反射型のCD−SAXSのそれぞれの特徴は、以下の表に示すとおりである。
【表1】
【0036】
なお、そもそも反射型の微小角入射では、吸収により、数ミクロン以上の深穴または深溝の界面までX線が到達しない。一方、透過型の手法では、基板に対してX線を透過させる。
【0037】
[対称パターン測定の原理]
ホールのような散乱体の傾斜角度を簡便に決定する方法として、板状試料にX線を透過させ、これに伴って生じる散乱強度のパターンの対称性に基づいて行うものがある。例えば、散乱強度のパターンが対称になる特定の回転位置と、基準の回転位置との差分に基づいて、散乱体の傾斜角度を決定することができる。このようにして、X線回折像の対称性より表面に対するパターンの傾斜角度を算出する。
【0038】
例えば、シリコンウェハには、ホールピッチ100nm程度に対して、深さ数ミクロンのアスペクト比の大きな深穴が加工される。そして、穴径100nm以下に対して、深さ数μmのパターンの形成する場合、わずかな傾斜角度の違いでボトムにおけるパターンの位置ズレが発生してしまう。
【0039】
図3(a)、(b)は、それぞれ試料表面に対して垂直および斜めにホールが加工された試料S01、S02を示す断面図である。
図3(a)に示す試料S01では、表面法線Na1とパターン法線Nb1とが一致しているが、
図3(b)に示す試料S02では、表面法線Na2とパターン法線Nb2とが相違しており、ホールの傾斜角度が各法線のなす角として現れる。
【0040】
このようなシリコンウェハに対し、まず、X線ビームパス上にレーザを配置し、試料表面で反射したレーザがX線ビームパスと一致するように、ω軸およびχ軸を調整する。そして、試料表面で反射したレーザがX線ビームパスと一致した基準の回転位置を(ω,χ)=(ω0,χ0)とする。そして、X線小角散乱パターンが対称に観測されるように、ω軸およびχ軸を調整し、その特定の回転位置を(ω,χ)=(ω1,χ1)とする。
【0041】
このようにして、レーザ光の鏡面反射でウェハ表面法線を決定するとともにX線小角散乱パターンの対称な位置を特定することで深穴パターンの法線を決定し、法線ベクトルの差分(Δω,Δχ)=(ω1−ω0,χ1−χ0)より傾斜角度を決定する。上記の方法を領域ごとに適用することで、この深穴が垂直に加工できている程度、またはその直径300mmのウェハ面内(ウェハ)での穴の傾斜角度の分布を特定できる。
【0042】
特定の回転位置(ω,χ)=(ω1,χ1)は、所定の反射面による強度がピークを形成する複数の回転位置に基づいて決定することが好ましい。例えば、反射面(10)について、強度がピークを形成する板状試料の回転位置として、(ωa,χa)および(ωb,χb)が得られた場合、(ω1,χ1)=((ωa+ωb)/2,(χa+χb)/2)が得られる。このようにして、散乱強度パターンが対称になる特定の回転位置を客観的かつ速やかに決定できる。
【0043】
また、特定の回転位置(ω,χ)=(ω1,χ1)は、対称位置の散乱強度の差が所定基準値以下である回転位置に基づいて決定してもよい。例えば、散乱強度パターンの中心を(0,0)とし、(100,100)のピクセル位置に現れるスポットの強度Iaと、(−100,−100)のピクセル位置に現れるスポットの強度Ibについて、|Ia−Ib|/Ia<0.01となる板状試料の回転位置を特定の回転位置とすることができる。これにより、散乱強度パターンが対称になる特定の回転位置を容易に特定できる。
【0044】
[傾斜モデル解析の原理]
(X線小角散乱強度)
上記のように屈折や多重反射の影響の小さい透過型のCD−SAXSでは、式(7)に示すように、X線小角散乱強度I(Q)がボルン近似(系全体での電子数密度分布ρ(r)のフーリエ変換の絶対値の二乗)で計算できる。
【数7】
【0045】
図2(a)、(b)は、それぞれ板状試料を電子数密度分布で表したXY断面図およびXZ断面図である。
図2(a)、(b)に示すように散乱体が周期パターンの構造を持つ場合、散乱X線の振幅は、式(8)に示すように単位格子に関する積分とラウエ関数Lの積で記述できる。
【数8】
【0046】
そして、ラウエ関数から回折条件を満たすQ
X、Q
Yは以下の通り導かれる。
【数9】
【0047】
(単位格子の取り方)
単位格子は、
図2(a)に示すように、単位格子の面積が最小になるような単純格子U1で取っても、設定しやすい格子U2で取ってもよい。
図2(a)では、各単位格子の独立なサイトをハッチングの円で示している。サイトによらず共通の電子密度分布および形状を持つ場合、単位格子内の散乱振幅を表す単位格子内の積分は、一つの散乱体の積分である散乱体形状因子Fと構造因子Sとの積で記述できる。
【数10】
【0048】
構造因子Sは、ミラー指数(hk)と単位格子内の相対座標(x’
j,y’
j)を用いて次のように記述することもできる。
【数11】
【0049】
単純格子U1の場合、独立なサイトは(0,0)のみで、構造因子は(hk)によらず1である。面心格子の場合、独立なサイトは(0,0)と(1/2,1/2)で、構造因子はh+kが偶数のときに2で奇数のときに0となる。ラウエ関数Lや構造因子Sは、散乱体の配置に関わるものであり、散乱体の形状には依存しない。そして、半導体デバイスのように散乱体のパターン構造はマスクのパターンで決まっている場合には、CD−SAXSであえてパターン構造を決定する必要はない。あくまで、散乱体の形状(電子数密度分布r(r))を決定することが重要である。
【0050】
散乱体の形状に関わる因子は、散乱体の形状積分である形状因子Fに他ならない。
【数12】
【0051】
もし、散乱体の電子数密度分布が一様な電子数密度ρ
0であれば、形状因子Fは、次のような形状積分に置き換えることもできる。
【数13】
【0052】
例えば、半径がRで厚み方向長さがHの円筒がZ方向に立っている場合、形状因子は次のように与えられる。
【数14】
【0053】
実際の散乱体形状は、円筒などの単純な形状で近似できないことが多い。例えば、側壁角度やラウンドパラメータなどを形状モデルに取り入れて、それらのパラメータを含む形状因子を表すことが可能である。もしくは、深さ方向にスライスしてスライス層ごとに直径やその中心位置だけをパラメータに取り入れた形状因子を用いて解析するモデルフリー解析が有効と考えられる。
【0054】
いずれにしても、実験データから直接形状を出すのではなく、モデルパラメータを変数とした計算データが実験データと一致するようにモデルパラメータを精密化して形状を決定する。
【数15】
【数16】
【数17】
【0055】
式(17)において、ユニットセル内の和記号で表される因子は、構造因子S(Q)に相当する((15)式参照)。一方、結晶学では熱振動による温度因子に対応するのは式(17)中のX方向およびY方向の積分項に相当し、式(18)に示す部分に相当する。
【数18】
【0056】
パターン形状を表す場合、この因子は静的な位置乱れを表している。以上のように求められた透過型のCD−SAXSでのX線散乱強度を表す数式を用いることで、散乱体の形状や位置乱れ等のパラメータを特定するためのモデル解析が可能になる。
【0057】
モデル解析においては、フィッティングにより散乱体の形状や配置を簡易に決定できる。その際には、散乱体の傾斜角度を含めたパラメータを決定できる。具体的には、まず、X線ビームパス上にレーザを配置し、試料表面で反射したレーザ光がX線ビームパスと一致するようにω軸およびχ軸を調整し、薄膜表面の基準を出す。
【0058】
散乱体の厚み方向長さを既知として、板状試料の表面に平行な方向に散乱体が周期的に配列している試料モデルを仮定し、試料モデルによるX線の散乱強度を算出し、算出された散乱強度を生じた散乱強度にフィッティングする。その際に、具体的には散乱体の傾斜角度ΔωとΔχを解析パラメータに含める。このようにして、傾斜角度(Δω,Δχ)および形状パラメータとして、X方向およびY方向の平均の直径D
X、D
Y、乱れのパラメータσ
Pを算出できる。
【0059】
散乱ベクトルと傾斜角度との関係は以下の通りである。
【数19】
【0060】
また、円筒モデルの散乱強度式は以下の通りである。
【数20】
【0061】
なお、高さ(深さ)Hは解析できないので設計値(固定値)を入力する。フィッティングの結果、散乱体の傾斜角度の最適値を決定できる。このように、試料モデルを用いたフィッティングにより容易に散乱体の傾斜角度を決定できる。なお、散乱体が円柱である場合、その境界は円筒であるため、円筒モデルを適用できる。
【0062】
[システム全体の構成]
図4は、測定システム100の構成を示すブロック図である。測定システム100は、測定装置110および解析装置120を備え、X線を板状試料に照射して、散乱強度の測定により透過型のCD−SAXSの測定を可能にする。解析装置は、測定装置110を制御するとともに、制御データとともに測定データを管理し、データの解析を可能にする。具体的な構成を以下に説明する。
【0063】
[測定装置の構成]
図5は、測定装置110の構成を示す平面図である。測定装置110は、X線源111、ミラー112、スリットS1、S2、GS、試料台115、真空経路116、ビームストッパ118、切り換え機構119、検出器119a、レーザ光源119b、を備えている。X線源111から試料S0までの距離L0、カメラ長Lについては、例えばそれぞれを1000mm、3000mmに設定できる。
【0064】
X線源111には、MoKαを用いることができる。ミラー112は、X線源111から放射されたX線を分光し、分光されたX線を試料S0方向へ照射する。スリットS1、S2は、X線を遮蔽可能な部材よりなり、分光されたX線を絞るスリット部を構成している。このような構成により、板状試料S0の表面に対し垂直方向に近い複数の回転角ωでX線の照射が可能になっている。複数の回転角ωには、−10°から10°の範囲の特定の角度を選ぶことが好ましい。スリットGSは、試料表面上でのX線のスポットサイズを数十μm以下に制限することができる。基本的には、スリットS1、S2でビームサイズを決定し、GSを用いてスリットS1、S2で発生した寄生散乱を除去する。ただし、ごく微小なスポットを作る場合には、GSでビームを小さくすることもできる。
【0065】
試料台115は、台上で試料S0を支持しており、解析装置120の制御を受けて駆動機構により板状試料S0の方位を調整できる。具体的には、
図1に示すQ
Y回りのω回転角だけでなく、χ回転角、φ回転角も調整可能である。このような調整により、分光されたX線の試料S0への入射角を変えることができ、散乱強度を回折角に応じて測定できる。
【0066】
試料S0は、板状に形成され、散乱体が試料の主面に平行な方向に周期的に配列している。散乱体としては、例えばホールが挙げられる。すなわち、代表的な試料としては、シリコンウェハの基板であり、その場合、散乱体はエッチングで形成されたホールである。集積度が高くなればなるほど、仕様に対して正確なホール形状の形成を確認できることが重要である。
【0067】
このような場合に、散乱体の長さが、200nm以上20μm以下であっても、
図5に示すように、試料表面に垂直にX線を照射し、X線の透過に伴う散乱を利用することで、厚み方向に長い散乱体の形状を特定できる。
【0068】
散乱体は、上記のようなホールに限らず、ピラーであってもよい。すなわち、表面に円柱が周期的に形成されているシリコン基板の試料にも本発明は応用できる。また、長い分子配列のようなラインパターン(スペースパターン)が形成された試料であってもよい。
【0069】
真空経路116は、カメラ長を稼ぎつつ、ビームの減衰を防止するために散乱ビームの経路を真空に維持する。ビームストッパ118は、ダイレクトビームを吸収する。検出器119aは、例えば試料位置からの円周上を移動可能な半導体の2次元検出器であり、X線の散乱強度を検出することができる。測定装置110と解析装置120とは接続されており、検出された散乱強度データは、解析装置120へ送出される。切り換え機構119は、切り換え制御の指示を受けて、レーザ光源119bを検出器119aと入れ替えて配置することが可能である。
【0070】
レーザ光源119bは、レーザ光を発生させるとともに反射光の検出も可能である。また、測定装置110は、レーザ光の反射を利用して板状試料の表面がX線の入射方向に対して垂直になるように板状試料の方位を調整することが可能である。このように調整された方位を基準とすることができ、このときω=χ=0°である。なお、測定装置110は、切り換え機構119を有するが、切り換え機構119なしで、検出器119aおよびレーザ光源119bのそれぞれを入れ換えて設置する構成でもよい。
【0071】
試料の断面形状を評価する場合に基準がなくても解析自体はできる。しかしながら、基準無しで特定された断面形状は、ゴニオメータ軸のω軸とχ軸の適当な原点を基準としたものにすぎない。断面形状を評価する多くの場合には、表面を基準に断面形状を評価することが要求される。このような場合、表面の基準を出してから測定および解析をするのが望ましい。
【0072】
[解析装置の構成]
解析装置120は、例えばメモリおよびプロセッサを有するPCで構成されており、プログラムの実行により各処理の実行が可能である。測定装置110から得られる測定データを処理することで、厚み方向に長い散乱体が周期的に配列して形成された板状試料の微細構造の決定または解析が可能になっている。解析装置120は、制御部121、数式記憶部122、測定データ記憶部123、強度算出部125、フィッティング部126、パラメータ決定部127、対称パターン判定部128および出力部129を備えている。
【0073】
制御部121は、測定装置110を制御し、制御データおよび測定データを管理する。例えば、制御部121は、駆動機構により試料台115を制御し、試料S0の方位を調整する。数式記憶部122は、特定の形状モデルまたは解析条件に対して、散乱強度を算出するための数式を記憶する。測定データ記憶部123は、板状試料の表面に対する垂直方向近傍の複数のω回転角で測定された、X線透過に伴い板状試料から散乱されるX線の強度データを記憶する。
【0074】
強度算出部125は、一方で、数式記憶部122から所望の形状モデルまたは解析条件に対する散乱を算出するための数式を取得し、他方で既知パラメータから取得された各種パラメータの値を選択し、X線の散乱強度を算出する。取得した数式を用いることで特定の条件の下での板状試料によって散乱されたX線の散乱強度を算出できる。
【0075】
フィッティング部126は、強度算出部125により算出された散乱強度を測定装置110により実測されたX線の散乱強度にフィッティングする。フィッティング部126は、行ったフィッティングが最適か否かを確認し、最適でない場合には、パラメータを変更して再度シミュレーションにより散乱強度を算出させる。
【0076】
パラメータ決定部127は、フィッティングの結果を用いて板状試料における散乱体のパラメータを決定する。このようにして、厚み方向に長い散乱体の形状を決定できる。特に、X線の入射方向に対して板状試料の表面が垂直になる基準の回転位置に対する板状試料における散乱体の傾斜角度を決定できる。
【0077】
対称パターン判定部128は、散乱強度パターンが対称か否かを判定し、対称であると判定された場合には、そのときの試料の回転位置を特定の回転位置として出力する。特定の回転位置は、所定の反射面による強度がピークを形成する複数の回転位置に基づいて決定できる。また、特定の回転位置は、対称位置の散乱強度の差が所定基準値以下である回転位置に基づいて決定してもよい。
【0078】
出力部129は、測定された散乱強度パターンを表示する。また、出力部129は、決定された散乱体の形状を表示する。その際には、試料の平面図上に傾斜角度の分布を表した表示を行ってもよい。なお、パターンの対称性について、本実施形態では、装置による自動的な判定を前提としているが、出力部129に表示された散乱強度パターンを目視してユーザが判定することも可能である。
【0079】
[対称パターン測定の方法]
上記のシステムの構成を用いた対称パターン測定の方法について説明する。
図6は、対称パターン測定の方法を示すフローチャートである。
図6に示すように、まず、板状試料を測定装置110の試料台に設置する(ステップS101)。次に、レーザ光源をX線のビームパス上に設置し、レーザ光の鏡面反射を検出することで、板状試料の表面法線を決定し(ステップS102)、レーザ光源の設置位置に検出器が設置されるように切り換える。次に、測定装置110を制御し、板状試料を新たな回転位置に設置する(ステップS103)。この制御は、自動が好ましいが手動であってもよい。その回転位置で散乱強度パターンを測定する(ステップS104)。
【0080】
測定された散乱強度のデータは、解析装置120に送信され、処理される。解析装置120は、散乱強度パターンが対称か否かを判定し(ステップS105)、散乱強度パターンが対称でない場合にはステップS103に戻る。散乱強度パターンが対称である場合には、その回転位置と基準となる回転位置との差分から散乱体の傾斜角度を決定し(ステップS106)、結果を出力して一連の手順を終了する。
【0081】
[傾斜モデル解析の方法]
次に、上記のシステムの構成を用いた傾斜モデル解析の方法について説明する。
図7は、傾斜モデル解析の方法を示すフローチャートである。
図7に示すように、まず、板状試料を測定装置110の試料台に設置する(ステップS201)。そして、次に、レーザ光源をX線のビームパス上に設置し、レーザ光の鏡面反射を検出することで、板状試料の表面法線を決定し(ステップS202)、レーザ光源の設置位置に検出器が設置されるように切り換える。そして、一つの試料の回転位置での散乱強度を測定する(ステップS203)。
【0082】
測定された散乱強度のデータは、解析装置120に送信され、処理される。解析装置120は、特定の形状モデルの条件下で、散乱体の形状や傾斜角度のようなパラメータを仮定してX線の散乱強度を算出する(ステップS204)。そして、算出された散乱強度を測定された散乱強度にフィッティングする(ステップS205)。行ったフィッティングが最適か否かを確認し(ステップS206)、最適でない場合には、パラメータを変更し(ステップS207)、ステップS204に戻る。フィッティングが最適であった場合には、そのときの値で散乱体の傾斜を含めたパラメータを決定し(ステップS208)、一連の手順を終了する。
【0083】
[実施例]
深さ方向に長いホールが表面に平行な方向に周期的に配列された半導体基板の試料について透過型のCD−SAXSによるX線の散乱強度を測定し、対称パターン測定および傾斜モデル解析により、パターンの特定を行った。
【0084】
(対称パターン測定の実施例)
まず、板状試料の表面法線をレーザ光の鏡面反射で決定した。具体的には、X線ビームパス上にレーザを配置し、試料表面で反射したレーザ光がX線ビームパスと一致するようにω軸およびχ軸を調整し、薄膜表面の基準を出した。その試料の回転位置ω=χ=0°において散乱強度パターンを測定した。
図8(a)は、試料表面法線に沿ってX線を入射させて測定された散乱強度データを示す図である。
図8(a)に示すように、ω=χ=0°での散乱強度パターンは、非対称であった。
【0085】
次に、板状試料の回転位置を変えて散乱強度データを測定し、散乱強度パターンが対称となる回転位置(Δω,Δχ)=(0.3°,0.6°)を特定した。
図8(b)は、穴パターン法線に沿ってX線を入射させて測定された散乱強度データを示す図である。
図8(b)に示すように、(Δω,Δχ)=(0.3°,0.6°)での散乱強度パターンは、対称であった。この回転位置と基準となる回転位置との差分(Δω,Δχ)=(0.3°,0.6°)が、散乱体の傾斜角度として得られた。
【0086】
(傾斜モデル解析の実施例)
まず、板状試料の表面法線をレーザ光の鏡面反射で決定した。そして、一つの回転角での散乱強度を測定した。
図9(a)は、測定された散乱強度データを示す図である。一方、形状や傾斜角度のようなパラメータを仮定した円柱状の散乱体が周期的に配列した試料モデルでX線の散乱強度を算出した。
【0087】
算出された散乱強度を測定された散乱強度にフィッティングし、最適であった場合の値で散乱体の傾斜を含めたパラメータを決定した。
図9(b)は、形状モデルを用いた散乱ベクトルQ
R方向のフィッティング結果を示す図である。また、
図9(c)は、得られたパラメータを示す図である。
【0088】
各パラメータの意味は以下の通りである。
(1) D
X : X方向の平均穴径(Average hole diameter in the X-direction)
(2) D
Y : ホールのY方向の平均穴径(Average hole diameter in the Y-direction)
(3) σ
P :ピッチのばらつき(Hole pitch variation)
(4) Δω : X方向の傾斜角度(Tilt angle in the X-direction)
(5) Δχ : Y方向の傾斜角度(Tilt angle in the Y-direction)
【0089】
試料を円周上で709分割した領域に対して、上記のような解析を行った。その結果、試料面内のホールの平均径および傾斜角度のそれぞれのマッピングができた。
図10(a)、(b)は、それぞれX方向およびY方向の試料面内のホールの平均径のマッピングを示す図である。
図10(a)、(b)に示すように、いずれの方向についてもホールの平均径は、試料の中央付近で小さく、試料の外周側で大きいことが分かった。
【0090】
図11(a)、(b)は、それぞれω方向およびχ方向の試料面内のホールの傾斜角のマッピングを示す図である。
図11(a)に示すように、中央付近でX方向の傾斜角度Δωは0°であり、X方向のプラスまたはマイナス側でそれぞれ0.20°まで大きくなっている。また、
図11(b)に示すように、中央付近でY方向の傾斜角度Δχは0°であり、Y方向のプラスまたはマイナス側でそれぞれ0.50°まで大きくなっている。