【課題】2つの電極を有する電子ペンの傾きを計算する際、タッチセンサの周縁部又は曲げ部において予期しない結果を得ることを抑制可能なペン状態検出回路及びペン状態検出方法を提供する。
【解決手段】タッチIC20は、検出面16の上方から視て、チップ電極30及びアッパー電極32のうちの少なくとも一方が、タッチセンサ18の周縁部42,44又は曲げ部46に干渉する位置関係下にあり得る状況を示す判定条件を満たす場合、この判定条件を満たさない場合に通常の計算規則に従って計算される値とは異なる傾斜値を出力する。
複数のセンサ電極を面状に配置してなる静電容量方式のタッチセンサに接続され、かつ前記タッチセンサからの出力信号に基づいて第1電極及び第2電極を有する電子ペンの状態を検出するペン状態検出回路であって、
前記タッチセンサの検出面上にて定義される前記センサ座標系における、前記第1電極の投影位置を示す第1座標値及び前記第2電極の投影位置を示す第2座標値を取得する取得ステップと、
取得された前記第1座標値及び前記第2座標値から前記電子ペンの傾きを示す傾斜値を計算規則に従って計算し出力する傾き出力ステップと、
を順次繰り返して実行し、
前記傾き出力ステップでは、前記検出面の上方から視て、前記第1電極及び前記第2電極のうちの少なくとも一方が、前記タッチセンサの周縁部又は曲げ部に干渉する位置関係下にあり得る状況を示す判定条件を満たす場合、前記判定条件を満たさない場合に通常の計算規則に従って計算される値とは異なる傾斜値を出力することを特徴とするペン状態検出回路。
前記判定条件は、前記第1座標値又は前記第2座標値が、前記タッチセンサが有するセンサ領域のうち、特定の電子部品に隣り合う前記周縁部に対応する特定の周縁領域内の位置を示すことに関する第3条件を含み、
前記傾き出力ステップでは、前記第3条件を満たす場合、現時点の傾斜値と、現時点よりも前の時点の傾斜値の間の重み付け和を出力することを特徴とする請求項2に記載のペン状態検出回路。
前記判定条件は、前記第1座標値又は前記第2座標値が、前記タッチセンサが有するセンサ領域のうち、上に凸状の曲げ部に対応する曲げ領域内の位置を示すことに関する第4条件を含み、
前記傾き出力ステップでは、前記第4条件を満たす場合、前記電子ペンが検出面に対して垂直な状態を示す傾斜値を出力することを特徴とする請求項2に記載のペン状態検出回路。
前記判定条件は、前記第1座標値又は前記第2座標値が、前記タッチセンサが有するセンサ領域のうち、下に凸状の曲げ部に対応する曲げ領域内の位置を示すことに関する第4条件を含み、
前記傾き出力ステップでは、前記第4条件を満たす場合、現時点の傾斜値と、現時点よりも前の時点に計算された傾斜値の間の重み付け和を出力することを特徴とする請求項2に記載のペン状態検出回路。
前記通常の計算規則は、前記検出面が平坦である前提の下に構築された幾何学モデルに基づいて前記傾斜値を計算する規則であることを特徴とする請求項1に記載のペン状態検出回路。
前記傾き出力ステップで出力された傾斜値を用いて、前記電子ペンの指示位置を示す前記第1座標値を補正する補正ステップをさらに実行することを特徴とする請求項2に記載のペン状態検出回路。
複数のセンサ電極を面状に配置してなる静電容量方式のタッチセンサに接続され、かつ前記タッチセンサからの出力信号に基づいて第1電極及び第2電極を有する電子ペンの状態を検出するペン状態検出回路を用いた方法であって、
前記ペン状態検出回路は、
前記タッチセンサの検出面上にて定義される前記センサ座標系における、前記第1電極の投影位置を示す第1座標値及び前記第2電極の投影位置を示す第2座標値を取得する取得ステップと、
取得された前記第1座標値及び前記第2座標値から前記電子ペンの傾きを示す傾斜値を計算規則に従って計算し出力する傾き出力ステップと、
を順次繰り返して実行し、
前記傾き出力ステップでは、前記検出面の上方から視て、前記第1電極及び前記第2電極のうちの少なくとも一方が、前記タッチセンサの周縁部又は曲げ部に干渉する位置関係下にあり得る状況を示す判定条件を満たす場合、前記判定条件を満たさない場合に通常の計算規則に従って計算される値とは異なる傾斜値を出力することを特徴とするペン状態検出方法。
複数のセンサ電極を面状に配置してなる静電容量方式のタッチセンサに接続され、かつ前記タッチセンサからの出力信号に基づいて第1電極及び第2電極を有する電子ペンの状態を検出するペン状態検出回路であって、
前記タッチセンサの検出面上にて定義される前記センサ座標系における、前記第1電極の投影位置を示す第1座標値及び前記第2電極の投影位置を示す第2座標値を取得する取得ステップと、
取得された前記第1座標値及び前記第2座標値から前記電子ペンの傾きを示す傾斜値を計算し出力する傾き出力ステップと、
を順次繰り返して実行し、
前記電子ペンの移動中に、前記タッチセンサの周縁部で逐次出力される時系列の傾斜値は、前記タッチセンサの中央部で逐次出力される時系列の傾斜値よりも平滑化されていることを特徴とするペン状態検出回路。
複数のセンサ電極を面状に配置してなる静電容量方式のタッチセンサに接続され、かつ前記タッチセンサからの出力信号に基づいて第1電極及び第2電極を有する電子ペンの状態を検出するペン状態検出回路であって、
前記タッチセンサの検出面上にて定義される前記センサ座標系における、前記第1電極の投影位置を示す第1座標値及び前記第2電極の投影位置を示す第2座標値を取得する取得ステップと、
取得された前記第1座標値及び前記第2座標値から前記電子ペンの傾きを示す傾斜値を計算し出力する傾き出力ステップと、
を順次繰り返して実行し、
前記電子ペンの移動中に、前記タッチセンサの曲げ部で逐次出力される時系列の傾斜値は、前記タッチセンサの平坦部で逐次出力される時系列の傾斜値よりも平滑化されていることを特徴とするペン状態検出回路。
軸方向にかかる筆圧を測定可能な筆圧センサを有する電子ペンと、前記電子ペンの状態を検出するための検出面を有する電子機器と、を備える入力システムを用いた筆圧値出力方法であって、
前記電子ペン又は前記電子機器が、前記検出面の法線に対する前記電子ペンの傾きを示す傾斜値を取得する取得ステップと、
前記電子ペン又は前記電子機器が、前記傾斜値に対して補正量が単調に増加する筆圧補正特性を用いて、前記筆圧センサにより測定された前記筆圧を示す筆圧値を補正し、補正済みの筆圧値を出力する出力ステップと、
を備えることを特徴とする筆圧値出力方法。
複数のセンサ電極を面状に配置してなり複数の箇所で屈曲又は湾曲可能に構成される静電容量方式のタッチセンサに接続され、かつ前記タッチセンサからの出力信号に基づいて電子ペンの状態を検出するペン状態検出回路であって、
前記タッチセンサの曲げ部の位置を含む曲げ情報を取得する取得ステップと、
前記タッチセンサが有するセンサ領域のうち、前記曲げ情報により特定される前記曲げ部の位置と隣り合う1つ又は複数のスキャン領域を決定する決定ステップと、
決定された前記スキャン領域内のみで前記電子ペンをスキャンするように前記タッチセンサの駆動制御を行う制御ステップと、
を実行することを特徴とするペン状態検出回路。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明におけるペン状態検出回路及びペン状態検出方法について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び変形例に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。あるいは、技術的に矛盾が生じない範囲で各々の構成を任意に組み合わせてもよい。
【0013】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態におけるペン状態検出回路及びペン状態検出方法について、
図1〜
図10を参照しながら説明する。
【0014】
<入力システム10の全体構成>
図1は、本発明の第1実施形態におけるペン状態検出回路が組み込まれた入力システム10の全体構成図である。入力システム10は、タッチパネルディスプレイを有する電子機器12と、ペン型のポインティングデバイスである電子ペン14(あるいは「スタイラス」ともいう)と、から基本的に構成される。
【0015】
電子機器12は、例えば、タブレット型端末、スマートフォン、パーソナルコンピュータで構成される。ユーザは、電子ペン14を片手で把持し、電子機器12の検出面16にペン先を押し当てながら移動させることで、電子機器12に絵や文字を書き込むことができる。また、ユーザは、自身の指Fで検出面16に接触することで、表示中のユーザコントロールを介して所望の操作を行うことができる。
【0016】
電子機器12は、タッチセンサ18と、ペン状態検出回路であるタッチIC(Integrated Circuit)20と、ホストプロセッサ22と、を含んで構成される。タッチセンサ18は、図示しない表示パネル上に配置される複数の電極を組み合わせてなる。タッチセンサ18は、X軸上の位置を検出するための複数のセンサ電極18xと、Y軸上の位置を検出するための複数のセンサ電極18yと、を含む。本図に示すx方向,y方向は、タッチセンサ18がなす検出面16上において定義される直交座標系のX軸,Y軸に相当する。
【0017】
帯状のセンサ電極18xは、y方向に延びて設けられるとともに、x方向に沿って等間隔に配置されている。帯状のセンサ電極18yは、x方向に延びて設けられるとともに、y方向に沿って等間隔に配置されている。以下、センサ電極18x(又はセンサ電極18y)の配置間隔を「ピッチ」という場合がある。なお、タッチセンサ18は、上記した相互容量方式のセンサに代えて、ブロック状の電極を二次元格子状に配置した自己容量方式のセンサであってもよい。
【0018】
タッチIC20は、ファームウェア24を実行可能に構成された集積回路であり、タッチセンサ18を構成する複数のセンサ電極18x,18yにそれぞれ接続されている。このファームウェア24は、ユーザの指Fなどによるタッチを検出するタッチ検出機能26と、電子ペン14の状態を検出するペン検出機能28と、を実現可能に構成される。
【0019】
タッチ検出機能26は、例えば、タッチセンサ18のスキャン機能、タッチセンサ18上のヒートマップ(検出レベルの二次元分布)の作成機能、ヒートマップ上の領域分類機能(例えば、指F、手の平の分類)を含む。ペン検出機能28は、例えば、タッチセンサ18のスキャン機能(グローバルスキャン又はセクタスキャン)、ダウンリンク信号の受信・解析機能、電子ペン14の状態(例えば、位置、傾き、筆圧など)の推定機能、電子ペン14に対する指令を含むアップリンク信号の生成・送信機能を含む。
【0020】
ホストプロセッサ22は、CPU(Central Processing Unit)又はGPU(Graphics Processing Unit)からなるプロセッサである。ホストプロセッサ22は、図示しないメモリからプログラムを読み出し実行することで、例えば、タッチIC20からのデータを用いてデジタルインクを生成する処理、当該デジタルインクが示す描画内容を表示させるためのレンダリング処理などを行う。
【0021】
<ペン状態の推定方法>
図2は、
図1の電子ペン14を部分的に示す模式図である。この電子ペン14には、チップ電極30及びアッパー電極32を含んで構成される。円錐状のチップ電極30は、電子ペン14の軸に関して対称な形状を有し、かつ電子ペン14の先端に設けられている。テーパ状かつ環状のアッパー電極32は、電子ペン14の軸に関して対称な形状を有し、かつチップ電極30よりも基端側に設けられている。
【0022】
チップ電極30及びアッパー電極32はそれぞれ、発振回路34が生成する信号(いわゆるダウンリンク信号)を出力するための電極である。発振回路34が発振周波数を変更したり送信先を時分割で切り替えたりすることで、電子ペン14は、チップ電極30及びアッパー電極32を介して2種類のダウンリンク信号を出力することができる。
【0023】
電子機器12のタッチIC20(
図1)は、チップ電極30の接近に伴う静電容量(より詳しくは、相互容量又は自己容量)の変化を示す信号分布(以下、「第1信号分布」という)を、タッチセンサ18から取得する。第1信号分布は、典型的には、位置Q1に1つのピークをもつ形状を有する。ここで、位置Q1は、チップ電極30の頂部(位置P1)を検出面16上に投影した位置に相当する。
【0024】
同様に、電子機器12のタッチIC20(
図1)は、アッパー電極32の接近に伴う静電容量の変化を示す信号分布(以下、「第2信号分布」という)を、タッチセンサ18から取得する。第2信号分布は、典型的には、位置Q2に1つ又は2つのピークをもつ形状を有する。ここで、位置Q2は、アッパー電極32の肩部(位置P2)を検出面16上に投影した位置に相当する。なお、後述する位置P3は、アッパー電極32の上底面の中心に相当する。
【0025】
図3は、電子ペン14のコンタクト状態時に得られる信号分布の一例を示す図である。より詳しくは、
図3(a)は第1信号分布を示すとともに、
図3(b)は第2信号分布を示している。グラフの横軸は電子ペン14の指示位置を基準とする相対位置(単位:mm)を示すとともに、グラフの縦軸は[0,1]に正規化された信号値(単位:なし)を示している。この信号値は、電子ペン14が接近した時に「正」になるように正負の符号が定義されている。第1信号分布及び第2信号分布はそれぞれ、電子ペン14の傾き(以下、「ペン傾き」ともいう)に応じて形状が変化する。本図では、ペン傾きをそれぞれ変化させて得られた3本の曲線を重ねて表記している。
【0026】
図3(a)に示すように、第1信号分布は、ペン傾きにかかわらず、概ね類似した形状を有する。なぜならば、電子ペン14を使用する間、通常、チップ電極30の頂部が検出面16に最も近い位置にあり、位置Q1が位置P1に概ね一致するからである。一方、
図3(b)に示すように、第2信号分布は、ペン傾きの変化に応じてピークの位置又は個数が大きく変化する。なぜならば、電子ペン14を使用する間、通常、アッパー電極32の肩部のいずれかの箇所が検出面16に最も近い位置にあり、位置Q1,Q2の間の距離がペン傾きに応じて変化するからである。
【0027】
この位置Q1,Q2の座標を用いて、電子ペン14の位置・姿勢を推定することができる。例えば、指示位置は、
図2に示す位置Q1に相当する。また、ペン傾きは、検出面16の法線と電子ペン14の軸とのなす角(以下、傾き角θ)に相当する。つまり、検出面16に対して垂直な状態ではθ=0°となり、検出面16に対して平行な状態ではθ=90°となる。なお、電子ペン14の傾きを示す物理量は、傾きの「大きさ」を示す角度の他に、傾きの「方向」を示す方位を用いてもよい。
【0028】
図4は、
図1に示す電子機器12の模式的な側断面図である。線状に配置された各々の矩形は、面状に配列されたセンサ電極18x,18y(
図1)を模式的に示している。本図の例では、平板状の電子機器12が、検出面16が外側を、非検出面40が内側をそれぞれ向くように半分に折り畳まれている。これにより、ユーザは、電子機器12が折り畳まれた状態であっても、電子ペン14や指Fを用いて入力操作を行うことができる。
【0029】
ところで、電子ペン14のチップ電極30及びアッパー電極32は物理的に分離して設けられているので、電子ペン14とタッチセンサ18の間の相対的位置関係によって、位置Q1,Q2が正しく検出されない状況が起こり得る。この状況の一例として、[1]周縁部42において位置Q2のみが検出されない場合、[2]周縁部44においてカメラユニットを含む電子部品45との電磁波干渉により位置Q1,Q2の検出精度が低下する場合、[3]曲げ部46において位置Q2の検出飛びが発生する場合、などが挙げられる。
【0030】
つまり、位置Q1,Q2が検出できなかったり、実際とは乖離した位置Q1,Q2が検出されたりすることで、電子ペン14の状態に関する予期しない計算結果が出力されるという問題が生じる。そこで、チップ電極30及びアッパー電極32を有する電子ペン14の傾きを計算する際、タッチセンサ18の周縁部42,44又は曲げ部46において予期しない結果が得られることを抑制可能なペン状態検出方法を提案する。
【0031】
<タッチIC20の動作>
図5は、タッチセンサ18が有するセンサ領域50の定義の一例を示す図である。センサ座標系は、Oを原点とし、X軸,Y軸からなる2次元直交座標系である。原点Oは、検出面16上の特徴点(例えば、左上の頂点)である。X−Y平面は、検出面16の平面方向に一致する。センサ領域50には、周縁部42(
図4)に対応する周縁領域52、周縁部44(
図4)に対応する周縁領域54、及び曲げ領域56(
図4)に対応する曲げ領域56のうち少なくとも1つが含まれる。一般領域58は、センサ領域50の残りの領域であり、
図4に示す平坦な一般部48に対応する。なお、各領域の形状(例えば、幅・位置・サイズなど)は、電子機器12又は電子ペン14に応じて様々に設定され得る。
【0032】
図6は、
図1のタッチIC20が有するペン検出機能28を示すブロック図である。このペン検出機能28は、信号取得部60と、ピーク推定部62と、傾斜値計算部64と、座標値計算部66と、を含んで構成される。このペン検出機能28の実行時におけるタッチIC20の動作について、
図7のフローチャートを参照しながら説明する。
【0033】
図7のステップS1において、信号取得部60は、センサ電極18x,18y毎のスキャン動作を通じて、タッチセンサ18から第1信号分布及び第2信号分布をそれぞれ取得する。この信号分布は、X軸又はY軸に沿った一次元信号分布であってもよいし、X−Y軸平面上における二次元信号分布であってもよい。
【0034】
ステップS2において、ピーク推定部62は、ステップS1で取得された第1信号分布のピークを推定する。具体的には、ピーク推定部62は、離散的な第1信号分布に対して補間又は近似による曲線を作成し、得られた曲線のピークに相当する第1座標値を計算する。同様に、ピーク推定部62は、離散的な第2信号分布に対して補間又は近似による曲線を作成し、得られた曲線のピークに相当する第2座標値を計算する。この「第1座標値」はチップ電極30の投影位置(以下、第1位置)を、この「第2座標値」はアッパー電極32の投影位置(以下、第2位置)をそれぞれ示している。
【0035】
ステップS3において、傾斜値計算部64は、後述する判定に必要な判定用パラメータを取得する。この判定用パラメータは、例えば、周縁領域52,54又は曲げ領域56(
図5)の位置・形状を特定するパラメータであってもよいし、電子ペン14の状態を特定するパラメータであってもよい。
【0036】
ステップS4において、傾斜値計算部64は、ステップS2で取得された第1座標値又は第2座標値と、ステップS3で取得された判定用パラメータを用いて、所定の判定条件を満たすか否かを確認する。この「判定条件」は、検出面16の上方から視て、チップ電極30及びアッパー電極32のうちの少なくとも一方が、周縁部42,44又は曲げ部46に干渉する位置関係下にあり得る状況を示す条件である。
【0037】
図8は、判定条件と計算方法の組み合わせの一例を示す図である。「第1条件A」は、(1)第1位置が一般部48にあり、かつ(2)第2位置が周縁部42にあることに相当する。つまり、(1)第1座標値が一般領域58内の位置を示し、かつ第2座標値が周縁領域52内の位置を示す場合に、第1条件Aを満たすものと判定される。
【0038】
また、「第1条件B」は、(1)第1位置がタッチセンサ18の内側から外側に向かって移動し、かつ(2)第2位置が周縁部42にあることに相当する。つまり、(1)第1座標値がセンサ領域50の内側から外側に向かって移動し、かつ(2)第2座標値が周縁領域52内の位置を示す場合に、第1条件Bを満たすものと判定される。
【0039】
また、「第2条件」は、(1)第1位置を検出できたこと、かつ(2)第2位置を検出できなかったことに相当する。つまり、(1)第1座標値を取得可能であり、かつ(2)第2座標値を取得不可であった場合に、第2条件を満たすものと判定される。
【0040】
また、「第3条件」は、第1位置又は第2位置が特定の周縁部44にあることに相当する。つまり、第1座標値及び第2座標値のうち少なくとも一方が周縁領域54内の位置を示す場合に、第3条件を満たすものと判定される。
【0041】
また、「第4条件A」は、(1)第1位置又は第2位置が曲げ部46にあり、かつ(2)曲げ部46が凸状の検出面16を形成することに相当する。つまり、(1)第1座標値及び第2座標値のうち少なくとも一方が曲げ領域56内の位置を示し、かつ(2)曲げ領域56の曲げ方向に関するフラグ値が「上に凸状」を示す場合に、第4条件Aを満たすものと判定される。
【0042】
また、「第4条件B」は、(1)第1位置又は第2位置が曲げ部46にあり、かつ(2)曲げ部46が凹状の検出面16を形成することに相当する。つまり、(1)第1座標値及び第2座標値のうち少なくとも一方が曲げ領域56内の位置を示し、かつ(2)曲げ領域56の曲げ方向に関するフラグ値が「下に凸状」を示す場合に、第4条件Bを満たすものと判定される。
【0043】
なお、傾斜値計算部64は、上記した複数の判定条件の他に、「電子ペン14がコンタクト状態であること」に関する追加条件を設けて判定を行ってもよい。ここで、「コンタクト状態」とは、電子ペン14のチップ電極30が電子機器12の検出面16に接触している状態を意味する。反対に、「ホバー状態」とは、電子ペン14のチップ電極30が電子機器12の検出面16に接触していない状態を意味する。例えば、電子ペン14が筆圧センサ38(
図14)を備える場合、タッチIC20は、電子ペン14から送信されるダウンリンク信号を解析することで上記した2つの状態を識別可能である。
【0044】
予め定められた複数の判定条件のいずれも満たさない場合(ステップS4:NO)、ステップS5に進む。一方、複数の判定条件のうちのいずれかを満たす場合(ステップS4:YES)、ステップS6に進む。
【0045】
ステップS5に進む場合、傾斜値計算部64は、ステップS2にて現時点で取得された第1座標値及び第2座標値を用いる通常の計算規則に従って、現時点でのペン傾きを示す傾斜値(以下、「通常計算値」という)を計算する。この「通常の計算規則」は、検出面16が平坦である前提の下に構築された幾何学モデルに基づいて傾斜値を計算する規則である。具体的には、位置P1,P3の間の距離がH、位置Q1,Q2の間の距離がDである場合、傾斜値計算部64は、次の式(1)に従って傾き角θを計算する。ここで、D0は、θ=0[度]における位置Q1,Q2の間の距離である。
θ=sin
−1(D/H)−sin
−1(D0/H) ・・・(1)
【0046】
一方、ステップS6に進む場合、傾斜値計算部64は、ステップS5における通常の計算規則とは異なる計算規則(以下、「特別の計算規則」という)に従って傾斜値を計算する。つまり、傾斜値計算部64は、現時点で取得された第1座標値及び第2座標値から通常の計算規則に従って計算される「通常計算値」とは異なる値を計算する。
【0047】
図8の第1条件A、第1条件B、第3条件又は第4条件Bを満たす場合、傾斜値計算部64は、ステップS5と同様に通常計算値を求めた後、この通常計算値を補正する。具体的には、傾斜値計算部64は、現時点の傾斜値と、現時点よりも前の時点(例えば、n回前;nは自然数)に計算された1つ又は複数の傾斜値の間の重み付け和を出力する。
【0048】
例えば、1回前に出力された傾斜値(以下、前回傾斜値)が示す傾き角がθprv、通常計算値が示す傾き角がθcalである場合、傾斜値計算部64は、次の式(2)に従って傾き角θを計算する。
θ=(1−α)・θcal+α・θprv ・・・(2)
【0049】
ここで、係数αは、0<α<1を満たす正値であり、平滑化の度合いを示すパラメータに相当する。つまり、係数αの値が大きいほど平滑化の度合いが大きくなる一方、係数αの値が小さいほど平滑化の度合いが小さくなる。
【0050】
また、第2条件を満たす場合、傾斜値計算部64は、現時点よりも前の時点の傾斜値を出力する。具体的には、傾斜値計算部64は、θprvが直近の有効値である場合、θ=θprvとなるように傾き角θを計算する。この計算式は、α=1とした式(2)に一致する。
【0051】
また、第4条件Bを満たす場合、傾斜値計算部64は、電子ペン14が検出面16に対して垂直な状態を示す傾斜値を出力する。具体的には、傾斜値計算部64は、θ=0となるように傾き角θを計算する。なお、タッチセンサ18が複数の箇所で屈曲又は湾曲可能に構成される場合、傾斜値計算部64は、曲げ部46の位置を特定可能な場合、曲げ部46の位置を含む曲げ領域56のみ第4条件A,Bの判定を行ってもよい。
【0052】
ステップS7において、座標値計算部66は、ステップS5又はステップS6で計算された傾斜値を用いて、電子ペン14の指示位置(つまり、第1座標値)を補正する。これにより、傾き角θに応じた指示位置のずれが抑制される。なお、ペン検出機能28は、この傾斜値を用いて、指示位置とは別の状態値(例えば、筆圧値)を補正してもよい。
【0053】
ステップS8において、ペン検出機能28は、電子ペン14の状態を示す状態値(具体的には、座標値、傾斜値、筆圧値など)を含むデータをホストプロセッサ22に供給する。このようにして、
図7のフローチャートを終了する。タッチIC20は、所定の時間間隔でこのフローチャートを逐次実行することで、電子ペン14の状態の時間変化を検出することができる。以下、傾き角θの計算結果の一例について、
図9及び
図10を参照しながら説明する。
【0054】
図9(a)は、電子ペン14の第1の挙動を示す図である。例えば、ユーザが、電子ペン14のペン先を検出面16上に固定した状態で、その固定点を中心として電子ペン14を左右方向に揺動させる場合を想定する。なお、固定点の位置にかかわらず、揺動の振れ幅及び周期は一定である。
【0055】
図9(b)は、第1の挙動に伴って逐次計算される傾き角θの時間変化を示す図である。グラフの横軸は時間(単位:s)を示すとともに、グラフの縦軸は傾き角θ(単位:度)を示している。実線のグラフG1は、固定点が一般部48にある場合、つまり、通常の計算規則に従って計算された傾き角θに相当する。一方、破線のグラフG2は、固定点が周縁部42にある場合、つまり、特別の計算規則(
図8の「第1条件A」)に従って計算された傾き角θに相当する。なお、グラフG3は、傾き角θの実際値に相当する。
【0056】
本図から理解されるように、グラフG1〜G3はいずれも、θ=0[度]を中心として略同じ周期で変化する挙動を示している。グラフG1の形状は、グラフG3の形状に概ね一致している。ところが、グラフG2の形状は、グラフG1と比べて傾き角θの振れ幅が小さくなっている。つまり、特別の計算規則を用いることで、傾き角θの時系列が平滑化されている。
【0057】
図10(a)は、電子ペン14の第2の挙動を示す図である。例えば、ユーザが、L字状に湾曲する曲げ部46を通過するように電子ペン14を移動させる場合を想定する。ここで、電子機器12の検出面16は、曲げ部46の位置で下に凸状となるようにL字状に湾曲している。
【0058】
図10(b)は、第2の挙動に伴って逐次計算される傾き角θの時間変化を示す図である。グラフの横軸は時間(単位:s)を示すとともに、グラフの縦軸は傾き角θ(単位:度)を示している。実線のグラフG1は比較例、破線のグラフG2は実施例、太い実線のグラフG3は実際値をそれぞれ示している。ここで、「比較例」は通常の計算規則のみを用いた場合に相当し、「実施例」は通常の計算規則及び特別の計算規則(
図8の「第4条件B」)を用いた場合に相当する。
【0059】
グラフG3に示すように、ユーザは、凹状の曲面を有する曲げ部46において、電子ペン14のペン先が滑らないように、電子ペン14を検出面16に対して垂直に立てながら筆記操作を行う傾向がある。この場合、グラフG1(比較例)に示すように、曲げ部46において位置Q2の検出飛びが発生することで、電子ペン14を急に傾けるような疑似的な状態が検出される場合がある。そこで、グラフG2(実施例)に示すように、曲げ部46に適した計算規則を用いることで、傾き角θの時系列が部分的に平滑化されるので、電子ペン14の実際の挙動に近い計算結果が得られる。
【0060】
<第1実施形態のまとめ>
以上のように、このタッチIC20は、複数のセンサ電極18x,18yを面状に配置してなる静電容量方式のタッチセンサ18に接続され、かつタッチセンサ18からの出力信号に基づいてチップ電極30(第1電極)及びアッパー電極32(第2電極)を有する電子ペン14の状態を検出するペン状態検出回路である。タッチIC20は、タッチセンサ18の検出面16上にて定義されるセンサ座標系における、チップ電極30の投影位置を示す第1座標値及びアッパー電極32の投影位置を示す第2座標値を取得し(S2)、取得された第1座標値及び第2座標値から電子ペン14の傾きを示す傾斜値を計算規則に従って計算し出力する傾き出力ステップ(S5,S6,S8)と、を順次繰り返して実行する。
【0061】
そして、タッチIC20は、傾き出力ステップ(S6,S8)において、検出面16の上方から視て、チップ電極30及びアッパー電極32のうちの少なくとも一方が、タッチセンサ18の周縁部42,44又は曲げ部46に干渉する位置関係下にあり得る状況を示す判定条件を満たす場合、この判定条件を満たさない場合に通常の計算規則に従って計算される値とは異なる傾斜値を出力する。これにより、2つの電極を有する電子ペン14の傾きを計算する際、タッチセンサ18の周縁部42,44又は曲げ部46において予期しない結果を得ることが抑制される。
【0062】
また、電子ペン14の移動中に、タッチセンサ18の周縁部42,44で逐次出力される時系列の傾斜値が、タッチセンサ18の一般部48(中央部)で逐次出力される時系列の傾斜値よりも平滑化されるように、タッチIC20が動作を行ってもよい。あるいは、電子ペン14の移動中に、タッチセンサ18の曲げ部46で逐次出力される時系列の傾斜値が、タッチセンサ18の一般部48(平坦部)で逐次出力される時系列の傾斜値よりも平滑化されるように、タッチIC20が動作を行ってもよい。
【0063】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態における筆圧値出力方法について、
図11〜
図16を参照しながら説明する。なお、第1実施形態と同様の構成又は機能については、同一の参照符号を付するとともに、その説明を省略する場合がある。
【0064】
<入力システム10の全体構成>
図11は、本発明の第2実施形態における筆圧値出力方法を行うための入力システム80の全体構成図である。入力システム80は、電子ペン14と、電子機器82と、から基本的に構成される。この電子機器82は、第1実施形態の場合と同様に、タッチセンサ18と、タッチIC20と、ホストプロセッサ22と、を含んで構成される。ただし、タッチIC20のファームウェア24は、第1実施形態とは異なるペン検出機能84を実現可能に構成される。
【0065】
<タッチIC20の動作>
図12は、
図11のタッチIC20が有するペン検出機能84を示すブロック図である。このペン検出機能84は、信号取得部60及びピーク推定部62の他、傾斜値計算部86と、筆圧補正部88と、を含んで構成される。このペン検出機能84の実行時におけるタッチIC20の動作について、
図13のフローチャートを参照しながら説明する。
【0066】
図13のステップS11において、信号取得部60は、センサ電極18x,18y毎のスキャン動作を通じて、タッチセンサ18から第1信号分布及び第2信号分布をそれぞれ取得する。この取得は、
図7のステップS1の場合と同様の動作であるため、具体的な説明を省略する。
【0067】
ステップS12において、信号取得部60は、電子ペン14からのダウンリンク信号を解析し、電子ペン14の筆圧を示す筆圧値を取得する。この筆圧値は、電子ペン14の軸方向にかかる筆圧に相関する値であり、例えば、筆圧が増加するにつれて値が大きくなるように定義される。
【0068】
図14は、
図11の電子ペン14を部分的に示す模式図である。この電子ペン14は、チップ電極30、アッパー電極32及び発振回路34の他に、芯体36と、筆圧センサ38と、を含んで構成される。芯体36の一端にはチップ電極30が接続されるとともに、芯体36の他端には筆圧センサ38が接続されている。筆圧センサ38は、電子ペン14の軸方向にかかる圧力を測定可能な圧力センサである。圧力センサの検出方式は、具体的には、静電容量方式、拡散抵抗方式、抵抗線方式、成膜方式、機械方式のいずれであってもよい。
【0069】
電子ペン14が検出面16に対して垂直である場合(θ=0)、ユーザが電子ペン14を介して押し込む圧力はすべて、検出面16からの垂直抗力として筆圧センサ38に伝わる。ところが、電子ペン14が検出面16の法線に対して傾いている場合(θ≠0)、ユーザからの圧力は、概ねcosθ倍に減少した状態で筆圧センサ38に伝わる。このように、電子ペン14の軸方向にかかる筆圧はペン傾きに応じて変化する点に留意する。
【0070】
ステップS13において、ピーク推定部62は、ステップS11で取得された第1信号分布及び第2信号分布のピークをそれぞれ推定することで、第1座標値及び第2座標値を取得する。この推定は、
図7のステップS2の場合と同様の動作であるため、具体的な説明を省略する。
【0071】
ステップS14において、傾斜値計算部86は、ステップS12にて取得された第1座標値及び第2座標値を用いて、ペン傾きを示す傾斜値を計算する。傾斜値計算部86は、上記の式(1)に従って傾斜値を計算してもよいし、上記の式(2)に従って傾斜値を計算してもよい。
【0072】
ステップS15において、筆圧補正部88は、ステップS14で計算された傾斜値を用いて、ステップS12で取得された筆圧値を補正する。具体的には、筆圧補正部88は、元の筆圧値に対して補正乗数Mを乗算することで筆圧値の補正を行う。
【0073】
図15は、筆圧値の補正に用いられる筆圧補正特性90の一例を示す図である。グラフの横軸は傾き角θ(単位:度)を示すとともに、グラフの縦軸は補正乗数M(単位:なし)を示している。この筆圧補正特性90は、傾き角θの絶対値|θ|が大きくなるにつれて、補正乗数Mが単調に増加する関数である。例えば、M(θ)=secθ=1/cosθである場合、M(0)=1、M(45)=√2、M(60)=√3となる。
【0074】
なお、筆圧補正特性90は、
図15に例示する関数形状に限られず、電子ペン14の機械的構造又は筆圧センサ38の検出性能に応じた関数形状であってもよい。また、筆圧値の補正は、上記した補正乗数Mの乗算の他に、補正量ΔCの加算により行われてもよい。
【0075】
ステップS16において、ペン検出機能84は、電子ペン14の状態を示す状態値(例えば、座標値、傾斜値、補正済みの筆圧値など)を含むデータをホストプロセッサ22に供給する。このようにして、
図13のフローチャートを終了する。タッチIC20は、所定の時間間隔でこのフローチャートを逐次実行することで、電子ペン14の状態の時間変化を検出することができる。
【0076】
<第2実施形態のまとめ>
以上のように、この筆圧値出力方法は、軸方向にかかる筆圧を測定可能な筆圧センサ38を有する電子ペン14と、電子ペン14の状態を検出するための検出面16を有する電子機器82と、を備える入力システム80を用いた方法であって、電子機器82が、検出面16の法線に対する電子ペン14の傾きを示す傾斜値を取得し(S14)、傾斜値に対して補正量が単調に増加する筆圧補正特性90を用いて、筆圧センサ38により測定された筆圧を示す筆圧値を補正し(S15)、補正済みの筆圧値を出力する(S16)。これにより、検出面16の法線に対する電子ペン14の傾きが大きくなるにつれて筆圧センサ38の検出値が相対的に小さくなる傾向を抑制可能となり、ユーザによる電子ペン14の操作感に合致した筆圧が出力される。
【0077】
<別のフローチャート>
上記した例では、電子機器82のタッチIC20が筆圧値の補正(S14)、筆圧値の補正(S15)及び筆圧値の出力(S16)をそれぞれ行っているが、これらの動作の主体が電子ペン14であってもよい。この場合、入力システム80は、
図16に示すフローチャートに従って動作を行う。
【0078】
電子機器82は、第1信号分布及び第2信号分布を取得し(S21)、第1座標値及び第2座標値を計算した後(S22)、傾斜値を計算する(S23)。そして、電子機器82は、ステップS23で計算された傾斜値を含むアップリンク信号を電子ペン14に向けて送信する。電子ペン14は、電子機器82から受信したアップリンク信号に含まれる傾斜値を取得し(S24)、筆圧センサ38から筆圧値を取得した後(S25)、傾斜値を用いて筆圧値を補正する(S26)。そして、電子ペン14は、電子機器82に向けたダウンリンク信号として、ステップS26で補正された傾斜値を向けて出力する。このように構成しても、第2実施形態と同様の作用効果、すなわち、操作感に合致した筆圧の出力が得られる。
【0079】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態におけるペン状態検出回路及びペン状態検出方法について、
図17〜
図25を参照しながら説明する。なお、第1実施形態と同様の構成又は機能については、同一の参照符号を付するとともに、その説明を省略する場合がある。
【0080】
<入力システム100の全体構成>
図17は、本発明の第3実施形態におけるペン状態検出回路が組み込まれた入力システム100の全体構成図である。入力システム100は、電子ペン14と、電子機器102と、から基本的に構成される。この電子機器102は、タッチセンサ18と、1つ又は複数の歪みセンサ104と、ペン状態検出回路であるタッチIC106と、ホストプロセッサ108と、を含んで構成される。
【0081】
歪みセンサ104は、電子機器102の変形機能に伴う、タッチセンサ18の形状の変化を検出するためのセンサである。例えば、可撓性を有さない電子機器102の場合、歪みセンサ104は、タッチセンサ18が屈曲する位置の周辺に設けられる。あるいは、可撓性を有する電子機器102の場合、歪みセンサ104は、タッチセンサ18の全面を網羅する位置に設けられる。
【0082】
タッチIC106は、ファームウェア110を実行可能に構成された集積回路であり、複数のセンサ電極18x,18yにそれぞれ接続されている。このファームウェア110は、タッチ検出機能26(
図1)と同一の又は異なるタッチ検出機能112と、後述するペン検出機能114と、を実現可能に構成される。
【0083】
ホストプロセッサ108は、CPU又はGPUからなるプロセッサであり、ホストプロセッサ22と同様の処理を行う。なお、ホストプロセッサ108には、上記した1つ又は複数の歪みセンサ104がそれぞれ接続されている。
【0084】
<タッチIC106の動作>
図18は、
図17のタッチIC106が有するペン検出機能114を示すブロック図である。このペン検出機能114は、曲げ情報取得部120と、領域分割部122と、領域決定部124と、スキャン制御部126と、指示位置検出部128と、を含んで構成される。以下、このペン検出機能114の実行時におけるタッチIC106の動作について、
図19のフローチャートを参照しながら説明する。
【0085】
図19のステップS31において、曲げ情報取得部120は、ホストプロセッサ106から定期的に又は不定期に、タッチセンサ18の曲げ形状を示す情報(以下、「曲げ情報」という)を取得する。この取得に先立ち、ホストプロセッサ106は、1つ又は複数の歪みセンサ104から出力されたセンサ信号を用いて、タッチセンサ18の曲げ情報を生成する。
【0086】
図20は、
図17に示す電子機器102の模式的な側断面図である。線状に配置された各々の矩形は、面状に配列されたセンサ電極18x,18y(
図1)を模式的に示している。本図の例では、平板状の電子機器102が、検出面16の一部が外側を向くように概略Z字状に折り畳まれている。
【0087】
本図の例では、上記した曲げ情報には、2箇所の曲げ部136,138を特定するための様々な情報が含まれる。具体的には、曲げ部136,138の個数を示す「2」、曲げ部136,138の位置を示す「折曲線L1,L2の座標値」、曲げ部136,138の向きを示す「山折り/谷折り」、曲げ部136,138の曲げの程度を示す「曲げ量」が含まれる。
【0088】
ステップS32において、曲げ情報取得部120は、ステップS31で取得された曲げ情報を解析することで、タッチセンサ18が変形したか否かを確認する。タッチセンサ18の変形がなかった場合(ステップS32:NO)、ステップS31に戻って、この変形があるまでステップS31,S32を順次繰り返す。一方、タッチセンサ18の変形があった場合(ステップS32:YES)、次のステップS33に進む。
【0089】
ステップS33において、領域分割部122は、ステップS31で取得された曲げ情報を用いて、タッチセンサ18が有するセンサ領域140を分割する。具体的には、領域分割部122は、曲げ情報が示す1本以上の曲げ線によって区画される複数のサブ領域141〜144を設定する。
【0090】
図21は、センサ領域140の分割方法の一例を示す図である。
図21(a)に示すように、タッチセンサ18が2箇所の折曲線L1,L2に沿って折り畳まれている場合、領域分割部122は、矩形状のセンサ領域140を、2本の折曲線L1,L2により画定される3つのサブ領域141,142,143に分割する。一方、
図21(b)に示すように、タッチセンサ18が1箇所の折曲線L1に沿って折り畳まれている場合、領域分割部122は、矩形状のセンサ領域140を、1本の折曲線L1により画定される2つのサブ領域141,144に分割する。
【0091】
ステップS34において、領域決定部124は、ステップS33で分割された複数のサブ領域141〜143の中から1つ又は複数のスキャン領域146を決定する。具体的には、領域決定部124は、曲げ情報により特定される曲げ部136の位置(つまり、折曲線L1,L2)と隣り合う1つ又は複数のスキャン領域146を決定する。また、領域決定部124は、得られた曲げ情報からタッチセンサ18の三次元形状を推定し、電子ペン14がアクセス可能な領域(センサ領域140の一部又は全部)をスキャン領域146として決定してもよい。
【0092】
ステップS35において、領域決定部124は、スキャン制御部126に対してスキャン領域134の変更を指示する。これにより、スキャン制御部126は、新たに指示されたスキャン領域146内で電子ペン14をスキャンするように、タッチセンサ18の駆動制御を行う。
【0093】
その後、ステップS31に戻って、
図19のフローチャートを繰り返し実行する。つまり、タッチIC106は、タッチセンサ18の変形が検出される度に、スキャン領域146を動的に変更しながら、電子ペン14の状態の時間変化を検出する。以下、電子機器102の様々な変形に伴うスキャン領域146の決定結果について、
図22〜
図24を参照しながら説明する。
【0094】
図22は、スキャン領域146の決定結果の第1例を示す図である。
図22(a)に示すように、電子機器102は、折曲線L1にて山折りされ、折曲線L2にて谷折りされることで、側面視にて概略Z字状に変形されている。つまり、第1の変形状態では、検出面16のうち一部(露出部131)のみが露出している。この場合、
図22(b)に示すように、露出部131に対応する1つのサブ領域141が、スキャン領域146として決定される。
【0095】
図23は、スキャン領域146の決定結果の第2例を示す図である。
図23(a)に示すように、電子機器102は、折曲線L1にて谷折りされ、折曲線L2にて山折りされることで、側面視にて概略S字状に変形されている。つまり、第2の変形状態では、検出面16のうち一部(露出部133)のみが露出している。この場合、
図23(b)に示すように、露出部133に対応する1つのサブ領域143が、スキャン領域146として決定される。
【0096】
図24は、スキャン領域146の決定結果の第3例を示す図である。
図24(a)に示すように、電子機器102は、折曲線L1にて山折りでL字状に屈曲され、折曲線L2にて山折りでL字状に屈曲されることで、側面視にて概略C字状に変形されている。つまり、第3の変形状態では、すべての検出面16(露出部131,132,133)が露出している。この場合、
図24(b)に示すように、露出部131〜133に対応する3つのサブ領域141〜143が、スキャン領域146として決定される。
【0097】
<第3実施形態のまとめ>
以上のように、このタッチIC106は、複数のセンサ電極18x,18yを面状に配置してなり複数の箇所で屈曲又は湾曲可能に構成される静電容量方式のタッチセンサ18に接続され、かつタッチセンサ18からの出力信号に基づいて電子ペン14の状態を検出するペン状態検出回路である。タッチIC106は、タッチセンサ18の曲げ部136,138の位置を含む曲げ情報を取得し(S31)、タッチセンサ18が有するセンサ領域140のうち、曲げ情報により特定される曲げ部136,138の位置(折曲線L1,L2)と隣り合う1つ又は複数のスキャン領域146を決定し(S34)、決定されたスキャン領域146内のみで電子ペン14をスキャンするようにタッチセンサ18の駆動制御を行う。
【0098】
このように構成したので、タッチセンサ18の曲げ形状に適したスキャン領域146を決定可能となり、全体のセンサ領域140を常にスキャンする場合と比べて、スキャンの実行頻度が高くなる。これにより、電子ペン14を検出する際の応答性が向上する。
【0099】
また、位置情報には、曲げ部136、138の位置に対応する曲げ方向が含まれ、タッチIC106は、曲げ情報により特定される曲げ部136,138の位置及び曲げ方向を用いて、電子ペン14がアクセス可能なタッチセンサ18の露出部131〜133を推定し、露出部131〜133に対応するサブ領域141〜143をスキャン領域146として決定してもよい。これにより、タッチセンサ18の現在の形状では使用されない可能性が高い未露出領域を、スキャン領域146から除外することができる。
【0100】
<別のスキャン動作の一例>
ところで、スキャン制御部126は、指示されたスキャン領域146のうち全部の領域内でスキャンを行ってもよいし、スキャン領域146のうち一部の領域内でスキャンを一時的に停止してもよい。後者の例として、スキャン制御部126は、指示位置検出部128による電子ペン14の検出結果に応じてスキャン制御を変更する。
【0101】
図25は、スキャン制御部126による別のスキャン動作の一例を示す図である。この電子機器102は、
図24(a)の場合と同様に、側面視にて概略C字状に変形されている。つまり、一対の露出部131,133がそれぞれ逆側を向くように、タッチセンサ18が屈曲されている。
【0102】
図25(a)に示すように、両方の露出部131,132で電子ペン14が検出されない間、スキャン制御部126は、スキャン領域146を構成するすべてのサブ領域141〜143内でのスキャンを継続する。一方、
図25(b)に示すように、一方の露出部131のみで電子ペン14が検出されている間、スキャン制御部126は、他方の露出部133に対応するサブ領域143内でのスキャンを一時的に停止する。
【0103】
このように、タッチセンサ18が、一対の露出部131,133がそれぞれ逆側を向くように屈曲又は湾曲されている場合、タッチIC106のスキャン制御部126は、一対の露出部131,133に対応する一対のサブ領域141,143のうち一方のサブ領域141内のみで電子ペン14が検出されている間、他方のサブ領域143内での電子ペン14のスキャンを一時的に停止するようにタッチセンサ18の駆動制御を行ってもよい。