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特開2020-178596果肉の製造方法、果肉入り飲食品の製造方法、及び果肉の耐熱性を向上する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-178596(P2020-178596A)
(43)【公開日】2020年11月5日
(54)【発明の名称】果肉の製造方法、果肉入り飲食品の製造方法、及び果肉の耐熱性を向上する方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20201009BHJP
【FI】
   A23L19/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-82894(P2019-82894)
(22)【出願日】2019年4月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000002196
【氏名又は名称】サッポロホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】高柳 純司
(72)【発明者】
【氏名】坂口 昌洋
【テーマコード(参考)】
4B016
【Fターム(参考)】
4B016LG01
4B016LK04
4B016LP13
(57)【要約】
【課題】従来よりも迅速に果肉の耐熱性を向上させることができる、果肉の製造方法を提供すること。
【解決手段】果肉原料をグルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物を含む水溶液に浸漬する工程を含み、混合物中のグルコン酸カルシウムの含有量が、グルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの合計含有量を100質量%としたときに、10質量%以上90質量%以下である、果肉の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
果肉原料をグルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物を含む水溶液に浸漬する工程を含み、
前記混合物中の前記グルコン酸カルシウムの含有量が、前記グルコン酸カルシウム及び前記乳酸カルシウムの合計含有量を100質量%としたときに、10質量%以上90質量%以下である、果肉の製造方法。
【請求項2】
前記水溶液中の前記混合物の濃度が、カルシウム換算濃度で0.02w/v%以上0.90w/v%以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記果肉原料が、バナナ、イチゴ、キウイ、マンゴー及びメロンからなる群より選ばれる果実由来の果肉原料である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法により得られる果肉を飲食品原料に配合する工程を含む、果肉入り飲食品の製造方法。
【請求項5】
果肉原料をグルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物を含む水溶液に浸漬する工程を含み、
前記混合物中の前記グルコン酸カルシウムの含有量が、前記グルコン酸カルシウム及び前記乳酸カルシウムの合計含有量を100質量%としたときに、10質量%以上90質量%以下である、果肉の耐熱性を向上する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果肉の製造方法、果肉入り飲食品の製造方法、及び果肉の耐熱性を向上する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果実類の果肉は、食感付与等を目的として、飲食品に添加することがある。しかし、果実類の果肉は、加熱によりそこに含まれるペクチン等の成分が溶解し、飲食品への加工工程(加熱工程、殺菌工程等の加熱を伴う工程)の途中で果肉が軟化し果肉本来の食感が損なわれやすい。そのため、果肉の軟化を防止することを目的として、カルシウム製剤が用いられる場合がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−188419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、果肉に耐熱性を付与するためのカルシウム製剤として乳酸カルシウムが主に使用されていた(例えば、特許文献1)。しかし、果肉に耐熱性を付与する反応に時間がかかり、製造工程の時間的な制約からも、果肉本来の食感を感じられるレベルまで耐熱性を向上させることが困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、従来よりも迅速に果肉の耐熱性を向上させることができる、果肉の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、果肉原料をグルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物を含む水溶液に浸漬する工程を含み、上記混合物中の上記グルコン酸カルシウムの含有量が、上記グルコン酸カルシウム及び上記乳酸カルシウムの合計含有量を100質量%としたときに、10質量%以上90質量%以下である、果肉の製造方法に関する。
【0007】
上記の果肉の製造方法は、カルシウム源として、グルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物を使用しているため、従来よりも迅速に果肉の耐熱性を向上させることができる。また、グルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物を使用しているため、果肉が本来有する風味に大きな影響を与えることがない。
【0008】
上記水溶液中の上記混合物の濃度は、カルシウム換算濃度で0.02w/v%以上0.90w/v%以下であってよい。「カルシウム換算濃度」とは、グルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムに含まれるカルシウムの重量で計算した濃度(w/v%)である。
【0009】
上記果肉原料は、バナナ、イチゴ、キウイ、マンゴー及びメロンからなる群より選ばれる果実由来の果肉原料であってもよい。上記の果肉の製造方法では、果肉のペクチンにカルシウムが作用してペクチンが架橋されることで、果肉の耐熱性が向上し、加熱されても果肉の軟化が抑制され、果肉の形状が維持されると考えられる。したがって、上記の果肉の製造方法は、ペクチンが含まれる果肉であれば、任意の果肉原料に対して耐熱性向上の効果が得られるものであるが、上記の果実由来の果肉原料は、特に耐熱性が低いものであるため、本発明による効果がより一層顕著に奏される。
【0010】
本発明はまた、上述した果肉の製造方法により得られる果肉を飲食品原料に配合する工程を含む、果肉入り飲食品の製造方法にも関する。当該製造方法により得られる果肉入り飲食品は、果肉の耐熱性が向上しているため、飲食品の加工工程において加熱されても果肉の軟化が抑制され、果肉の形状が維持されるので、果肉本来の食感を感じることができる。
【0011】
本発明は更に、果肉原料をグルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物を含む水溶液に浸漬する工程を含み、上記混合物中の上記グルコン酸カルシウムの含有量が、上記グルコン酸カルシウム及び上記乳酸カルシウムの合計含有量を100質量%としたときに、10質量%以上90質量%以下である、果肉の耐熱性を向上する方法と捉えることもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来よりも迅速に果肉の耐熱性を向上させることができる、果肉の製造方法の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
〔果肉の製造方法〕
本実施形態に係る果肉の製造方法は、果肉原料をグルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物を含む水溶液に浸漬する工程(浸漬工程)を含む。
【0015】
果肉原料は、果実の果肉を含むものであればよい。果肉は、果実から果皮と種子を除いた部分である。果肉原料は、通常、カルシウム水溶液等に浸漬する等の処理を経ていないものである。
【0016】
果肉原料としては、ペクチンを含む果肉であれば、任意の果実由来の果肉を使用してもよい。浸漬工程で果肉のペクチンにカルシウムが作用してペクチンが架橋されることで、果肉の耐熱性が向上し、加熱されても果肉の軟化が抑制され、果肉の形状が維持される。果肉原料としては、例えば、アボカド、かりん、いちじく、りんご、かき、パパイア、マルメロ、洋ナシ、さくらんぼ、プラム、あんず、もも、うめ、びわ、ぶどう、バナナ、イチゴ、キウイ、マンゴー又はメロンの果実由来の果肉を含むものであってよい。中でも、特に耐熱性が低く、耐熱性向上の効果がより一層顕著に奏されることから、バナナ、イチゴ、キウイ、マンゴー又はメロンの果実由来の果肉原料が好ましい。
【0017】
果肉原料は、任意の形状及び大きさであってよい。浸漬工程では、主に水溶液と接触する果肉原料の表面部分でカルシウムがペクチンに作用するため、任意の形状及び大きさであっても、充分に耐熱性向上の効果が得られる。また、例えば、果肉原料は、そのまま次の用途(例えば、飲食品への配合)に使用できる形状及び大きさにカットしておいてもよい。具体的には、例えば、縦1〜3cm、横1〜3cm、高さ1〜3cm程度の直方体にカットしたものであってもよい。上述のとおり、果肉原料の表面部分でカルシウムがペクチンに作用するため、そのまま次の用途に使用できる形状及び大きさにカットした果肉原料に対して浸漬工程を実施することで、耐熱性向上の効果がより顕著に得られる。
【0018】
浸漬工程では、果肉原料をグルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物を含む水溶液に浸漬する。
【0019】
水溶液中のグルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物の濃度は、水溶液全量に対して、カルシウム換算濃度で、0.02w/v%以上であってよく、0.05w/v%以上であってよく、0.1w/v%以上であってよく、0.15w/v%以上であってよく、0.2w/v%以上であってよく、0.25w/v%以上であってよく、0.3w/v%以上であってよい。水溶液中のグルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物の濃度は、水溶液全量に対して、カルシウム換算濃度で、2w/v%以下であってよく、1.5w/v%以下であってよく、1w/v%以下であってよく、0.9w/v%以下であってよく、0.8w/v%以下であってよく、0.7w/v%以下であってよく、0.6w/v%以下であってよく、0.55w/v%以下であってよい。グルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムは、水溶液中で電離した状態で存在していてもよい。上記カルシウム換算濃度は、0.02w/v%以上0.90w/v%以下の範囲内であれば、充分に耐熱性向上の効果が得られる。耐熱性向上の効果をより迅速に得るという観点からは、カルシウム換算濃度は、0.10w/v%以上0.90w/v%以下の範囲内であることが好ましく、0.10w/v%超0.53w/v%未満の範囲内であることがより好ましく、0.15w/v%以上0.50w/v%以下の範囲内であることが更に好ましく、0.20w/v%以上0.50w/v%以下の範囲内であることが更により好ましい。
【0020】
混合物中のグルコン酸カルシウムの含有量は、グルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの合計含有量を100質量%としたときに、10質量%以上90質量%以下であってよい。これにより、迅速に果肉の耐熱性を向上させることができる。混合物中のグルコン酸カルシウムの含有量は、グルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの合計含有量を100質量%としたときに、10質量%以上80質量%以下であってもよく、20質量%以上80質量%以下であってもよい。
【0021】
グルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物は、グルコン酸カルシウムと、乳酸カルシウムとを上記の重量比となるように混合等を行い、入手することができる。グルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物は、水溶液に対する溶解性の観点から、公知の方法により造粒して得た造粒物(グルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの造粒物)であってもよい。当該造粒物は、例えば、流動層造粒、撹拌造粒、スプレードライ等の方法により得ることができる。
【0022】
グルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物は、これらを上記の重量比で含む市販品を用いることもできる。市販品のグルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物としては、例えば、グルコン酸乳酸カルシウム製剤(コービオンジャパン社製)が挙げられる。
【0023】
水溶液は、グルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウム以外の成分(他の成分)を含んでいてもよい。他の成分としては、食品衛生法上食品添加物として使用されているものであればよく、例えば、酵素、賦形剤、でんぷん、乳糖等が挙げられる。
【0024】
果肉原料を浸漬させる際の水溶液の温度(浸漬温度)は、果肉原料の種類等に応じて、適宜設定することができる。浸漬温度は、例えば、10〜50℃であってよく、30〜50℃であってもよい。
【0025】
果肉原料を浸漬させる際の浸漬時間は、果肉原料の種類等、及び製造工程の設計等に応じて、適宜設定することができる。本実施形態に係る果肉の製造方法によれば、従来よりも迅速に耐熱性を向上させることができるため、浸漬時間を短くすることができる。浸漬時間は、例えば、10〜240分であってよく、10〜120分であってよく、10〜90分であってよく、10〜45分であってよく、10〜30分であってもよい。
【0026】
本実施形態に係る果肉の製造方法は、浸漬工程以外の工程を含んでいてよい。例えば、浸漬工程を経て得られた果肉を回収した後に、果肉を水等により、洗浄する工程(洗浄工程)、果肉を加熱殺菌する工程(加熱殺菌工程)、果肉を容器に充填する工程(充填工程)等を実施してよい。
【0027】
加熱殺菌工程では、果肉を加熱することにより、果肉を殺菌する。加熱殺菌工程は、例えば、水中で果肉を加熱することにより行ってよい。加熱条件は、果肉を加熱殺菌する際に使用される公知の条件であってよい。加熱温度は、例えば、60℃以上100℃以下であってよく、80℃以上90℃以下であってよい。加熱時間は、例えば、1分以上60分以下であってよく、1分以上5分以下であってよい。
【0028】
本実施形態に係る果肉の製造方法で得られた果肉は、耐熱性が向上しており、飲食品の加工工程において加熱されても果肉の軟化が抑制され、果肉の形状が維持されるので、果肉本来の食感を感じることができる。したがって、本実施形態に係る果肉の製造方法で得られた果肉は、飲食品の素材として好適に使用することができる。
【0029】
〔果肉の耐熱性を向上する方法〕
上述した本発明は、果肉の耐熱性を向上する方法と捉えることもできる。すなわち、本発明の一実施形態において、果肉原料をグルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物を含む水溶液に浸漬する工程を含み、混合物中のグルコン酸カルシウムの含有量が、グルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの合計含有量を100質量%としたときに、10質量%以上90質量%以下である、果肉の耐熱性を向上する方法が提供される。当該方法における具体的態様等は上述のとおりである。
【0030】
〔果肉の耐熱性向上剤〕
上述した本発明は、果肉の耐熱性向上剤として捉えることもできる。すなわち、本発明の一実施形態において、グルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物を有効成分とし、混合物中のグルコン酸カルシウムの含有量が、グルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの合計含有量を100質量%としたときに、10質量%以上90質量%以下である、果肉の耐熱性向上剤が提供される。当該果肉の耐熱性向上剤における具体的態様等は上述のとおりである。
【0031】
〔果肉入り飲食品の製造方法〕
本実施形態に係る果肉入り飲食品の製造方法は、上述の果肉の製造方法により得られる果肉を飲食品原料に配合する工程を含む。
【0032】
果肉入り飲食品としては、例えば、果汁飲料、清涼飲料、炭酸飲料、アルコール飲料(炭酸入りアルコール飲料も含む。)等の飲料、調味料、シロップ、ゼリー、ヨーグルト、アイスクリーム、ケーキ、クッキー、飲食品用のトッピング剤等が挙げられる。
【0033】
果肉入り飲食品中の果肉の含有量は、果肉入り飲食品の種類等に応じて、適宜設定することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
〔試験例1:グルコン酸カルシウムと乳酸カルシウムの効果〕
バナナの果肉を縦1.8cm、横1.8cm、高さ1.0cmの直方体にカットし、果肉原料とした。
【0036】
グルコン酸カルシウム(グルコン酸Ca)及び乳酸カルシウム(乳酸Ca)を表1に示す混合割合(グルコン酸Ca:乳酸Ca)で混合し、カルシウム換算濃度で0.45w/v%となるように水に溶解して、グルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物を含む水溶液、並びに乳酸カルシウムを含む水溶液を調製した。
【0037】
【表1】
【0038】
果肉原料を各水溶液又は水(対照)に浸漬して浸漬処理を行った。浸漬処理は、水溶液の温度40℃で、0分間又は15分間行った。浸漬処理の後、90℃の湯に浸漬し3分間殺菌処理(加熱処理)を行い、直ちに冷水に浸漬して冷却した。
【0039】
冷却後、クリープメーター(株式会社山電社製)を用いて、直径16mmの円柱プランジャーで80%の圧縮試験を行い、破断荷重(N)を測定した(各条件n=3)。測定結果(平均値)を表2に示す。表2中、破断荷重の比は、乳酸Caのみを含む水溶液(グルコン酸Ca:乳酸Ca=0:10)で15分間浸漬処理したときの破断荷重(N)との比である。破断荷重の比が1.1以上あると、触感で固さの違いが分かる程度の顕著な差が確認された。
【0040】
【表2】
【0041】
表2に示すとおり、カルシウム源としてグルコン酸カルシウムと乳酸カルシウムとの混合物を使用することによって、同浸漬時間(15分間)及び同カルシウム換算濃度(0.45w/v%)で、カルシウム源として乳酸カルシウムのみを使用した場合(従来法に相当する。)と比べて、破断荷重が高くなった。破断荷重の比も1.1以上あり、触感で固さの違いが分かる程度の顕著な差が確認された。この結果から、浸漬処理の際、カルシウム源としてグルコン酸カルシウムと乳酸カルシウムとの混合物を使用することによって、従来法と比べて、迅速に果肉の耐熱性を向上させることができることが理解できる。
【0042】
〔試験例2:カルシウム濃度の影響〕
浸漬処理の水溶液として、グルコン酸カルシウム及び乳酸カルシウムの混合物(グルコン酸Ca:乳酸Ca=8:2)を含む水溶液、並びに乳酸カルシウムを含む水溶液を使用したこと、水溶液のカルシウム換算濃度を0.02w/v%、0.10w/v%、0.30w/v%、0.45w/v%、0.53w/v%、又は0.90w/v%としたこと以外は、試験例1と同様にして破断荷重(N)を測定した(各条件n=3)。測定結果(平均値)を表3に示す。表3中、破断荷重の比は、同じカルシウム換算濃度で乳酸Caのみを含む水溶液(グルコン酸Ca:乳酸Ca=0:10)で15分間浸漬処理したときの破断荷重(N)との比である。破断荷重の比が1.1以上あると、触感で固さの違いが分かる程度の顕著な差が確認された。
【0043】
【表3】
【0044】
表3に示すとおり、カルシウム源としてグルコン酸カルシウムと乳酸カルシウムとの混合物を使用することによって、同浸漬時間(15分間)及び同カルシウム換算濃度(0.02〜0.90w/v%)で、カルシウム源として乳酸カルシウムのみを使用した場合(従来法に相当する。)と比べて、破断荷重が高くなった。この結果から、浸漬処理の際、カルシウム源としてグルコン酸カルシウムと乳酸カルシウムとの混合物を使用することによって、従来法と比べて、迅速に果肉の耐熱性を向上させることができることが理解できる。
【0045】
〔試験例3:他の果肉原料〕
バナナに代えて、イチゴ、キウイ、マンゴー又はメロンを果肉原料として用い、耐熱性向上の効果を確認した。
【0046】
イチゴは、果肉を縦1.8cm、横1.8cm、高さ1.0cmの直方体にカットし、果肉原料とした。浸漬処理の水溶液のカルシウム換算濃度は、0.10w/v%とした。
【0047】
キウイは、果肉を縦2.0cm、横2.0cm、高さ1.0cmの直方体にカットし、果肉原料とした。浸漬処理の水溶液のカルシウム換算濃度は、0.45w/v%とした。
【0048】
マンゴーは、果肉を縦1.8cm、横1.8cm、高さ1.0cmの直方体にカットし、果肉原料とした。浸漬処理の水溶液のカルシウム換算濃度は、0.45w/v%とした。
【0049】
メロン(カリビアンスウィート カンタローブ種(ホンジュラス産))は、果肉を縦1.8cm、横1.8cm、高さ1.0cmの直方体にカットし、果肉原料とした。浸漬処理の水溶液のカルシウム換算濃度は、0.45w/v%とした。
【0050】
果肉原料を代えたこと、水溶液のカルシウム換算濃度を代えたこと以外は、試験例2と同様にして破断荷重(N)を測定した(各条件n=3)。測定結果(平均値)を表4〜7に示す。表4〜7中、破断荷重の比は、乳酸Caのみを含む水溶液(グルコン酸Ca:乳酸Ca=0:10)で15分間浸漬処理したときの破断荷重(N)との比である。破断荷重の比が1.1以上あると、触感で固さの違いが分かる程度の顕著な差が確認された。
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
【表6】
【0054】
【表7】
【0055】
表4〜7に示すとおり、果肉原料の種類を代えた場合であっても、カルシウム源としてグルコン酸カルシウムと乳酸カルシウムとの混合物を使用することによって、同浸漬時間(15分間)及び同カルシウム換算濃度(0.10又は0.45w/v%)で、カルシウム源として乳酸カルシウムのみを使用した場合(従来法に相当する。)と比べて、破断荷重が高くなった。これらの結果から、果肉原料の種類に依らず、浸漬処理の際、カルシウム源としてグルコン酸カルシウムと乳酸カルシウムとの混合物を使用することによって、従来法と比べて、迅速に果肉の耐熱性を向上させることができることが理解できる。