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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-179987(P2020-179987A)
(43)【公開日】2020年11月5日
(54)【発明の名称】吊り荷回動システム
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/08 20060101AFI20201009BHJP
   B66C 13/06 20060101ALI20201009BHJP
【FI】
   B66C13/08 H
   B66C13/08 L
   B66C13/06 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2019-85377(P2019-85377)
(22)【出願日】2019年4月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り https://ieeexplore.ieee.org/document/8363062(公開日:平成30年5月23日) https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0967066118307019(公開日:平成30年12月13日)
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】特許業務法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】寺嶋 一彦
(72)【発明者】
【氏名】ホ ドゥク トオ
(72)【発明者】
【氏名】爪 光男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健介
(57)【要約】
【課題】クレーンから吊り下げられた吊り荷を垂直軸線周りに回動させる場合においても、吊り荷の回動方向の振れやロープの捻れを抑制できる吊り荷回動システムを開示すること。
【解決手段】吊り荷3を垂直軸線2c周りに回動させるモータ部12及びモータ部12の動力を吊り荷3へ伝達または遮断するクラッチ部13を備えた吊り荷回動システム1の制御装置20は、クラッチ部13がオン状態である場合及びオフ状態である場合の吊り荷3の回動運動を表した数理モデルを用いて、吊り荷3の回動角度が目標回動角度に到達するまでの、モータ部12の駆動パターン、及び、クラッチ部13の切替タイミングを導出する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンにおけるブームの先端部に取り付けられたロープによって吊り下げられた吊り荷を、垂直軸線周りに回動させる吊り荷回動システムであって、
前記ロープの下端部に接続され、前記吊り荷を前記垂直軸線周りに回動可能に保持する吊り具と、
前記吊り荷の回動角度を制御する制御装置と、を備え、
前記吊り具は、
前記吊り荷を前記垂直軸線周りに回動させるモータ部と、
オン状態である場合に前記モータ部の動力を前記吊り荷に伝達し、オフ状態である場合に前記モータ部の動力の前記吊り荷への伝達を遮断するクラッチ部と、を備え、
前記制御装置は、
前記クラッチ部がオン状態である場合における前記吊り荷の回動運動を、前記吊り荷の回動方向の角加速度である第1角加速度、及び、前記吊り具の回動方向の角加速度である第2角加速度にて表された第1数理モデル、並びに、
前記クラッチ部がオフ状態である場合における前記吊り荷の回動運動を、前記第1角加速度及び前記第2角加速度にて表された第2数理モデルを記憶する記憶部と、
前記第1数理モデルおよび前記第2数理モデルを用いて、前記吊り荷の回動が開始される開始時点から、目標とする前記吊り荷の回動角度である目標回動角度に前記吊り荷の回動角度が到達する到達時点までの、前記モータ部の駆動パターン、及び、前記クラッチ部のオン状態とオフ状態とを切り替えるタイミングである切替タイミングを導出する導出部と、
前記導出部によって導出された前記モータ部の駆動パターン、及び、前記クラッチ部の前記切替タイミングに基づいて、前記モータ部及び前記クラッチ部への制御信号を出力する出力部と、を備えている、吊り荷回動システム。
【請求項2】
前記導出部は、前記モータ部の消費電力に関する評価関数を最適化する最適制御をさらに用いて、前記モータ部の駆動パターン、及び、前記クラッチ部の前記切替タイミングを導出する、請求項1に記載の吊り荷回動システム。
【請求項3】
前記導出部は、
前記開始時点から前記到達時点までの間について、
前記開始時点から、前記開始時点と前記到達時点との間の第1時点まで間を、前記クラッチ部をオン状態にして、前記開始時点から前記第1時点に向けて前記吊り荷の角速度を大きくするように設定される第1区間と、
前記第1時点から、前記第1時点と前記到達時点との間の第2時点までの間を、前記クラッチ部をオフ状態に設定される第2区間と、
前記第2時点から前記到達時点までの間を、前記クラッチ部をオン状態にして、前記第2時点から前記到達時点にかけて前記吊り荷の角速度を小さくするように設定される第3区間と、に分けて、
前記モータ部の駆動パターン、及び、前記クラッチ部の前記切替タイミングを導出する、請求項1または請求項2に記載の吊り荷回動システム。
【請求項4】
前記導出部は、
前記目標回動角度が所定回動角度以上である場合、前記第1時点における前記吊り荷の角速度を、前記モータ部の最大動力に応じた角速度に設定して、前記モータ部の駆動パターンを導出する、請求項3に記載の吊り荷回動システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記吊り具と別体に設けられ、前記モータ部及び前記クラッチ部と無線を用いて通信可能に接続されている請求項1乃至請求項4のうち何れか一項に記載の吊り荷回動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り荷回動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クレーンからロープを用いて吊り下げられた吊り荷を旋回させるクレーン吊り具の一形式が開示されている。特許文献1のクレーン吊り具は、吊り荷が接続されて吊り荷を旋回させる旋回軸と、旋回軸を旋回させる駆動装置と、旋回軸と駆動装置との間に配置されたクラッチ機構と、を備えている。クラッチ機構がOFFの状態である場合、駆動装置の動力が旋回軸に伝達されない。よって、クレーンの旋回時にクラッチ機構をOFFの状態にしておけば、吊り荷の慣性モーメントを逃がすことができる。これにより、吊り荷の慣性モーメントによって発生する吊り荷の旋回方向の振れや、クレーンと吊り具とを接続するロープの捻れが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭62−133585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したクレーン吊り具においては、吊り荷を所望の位置に降ろす前に吊り荷を旋回すなわち垂直軸線周りに回動させる場合、クラッチがOFFの状態であるときには、手動にて吊り荷を回動させ、クラッチがONの状態であるときには、駆動装置にて吊り荷を回動させる。このとき、吊り荷の慣性モーメントにより、吊り荷の回動方向の振れや、吊り具の回動方向の振れ、ひいてはロープの捻れが発生することが考えられる。
【0005】
そこで、本明細書は、クレーンから吊り下げられた吊り荷を垂直軸線周りに回動させる場合においても、吊り荷の回動方向の振れやロープの捻れを抑制できる吊り荷回動システムを開示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書によって開示された実施例に記載の吊り荷回動システムは、クレーンにおけるブームの先端部に取り付けられたロープによって吊り下げられた吊り荷を、垂直軸線周りに回動させる吊り荷回動システムであって、ロープの下端部に接続され、吊り荷を垂直軸線周りに回動可能に保持する吊り具と、吊り荷の回動角度を制御する制御装置と、を備え、吊り具は、吊り荷を垂直軸線周りに回動させるモータ部と、オン状態である場合にモータ部の動力を吊り荷に伝達し、オフ状態である場合にモータ部の動力の吊り荷への伝達を遮断するクラッチ部と、を備え、制御装置は、クラッチ部がオン状態である場合における吊り荷の回動運動を、吊り荷の回動方向の角加速度である第1角加速度、及び、吊り具の回動方向の角加速度である第2角加速度にて表された第1数理モデル、並びに、クラッチ部がオフ状態である場合における吊り荷の回動運動を、第1角加速度及び第2角加速度にて表された第2数理モデルを記憶する記憶部と、第1数理モデルおよび第2数理モデルを用いて、吊り荷の回動が開始される開始時点から、目標とする吊り荷の回動角度である目標回動角度に吊り荷の回動角度が到達する到達時点までの、モータ部の駆動パターン、及び、クラッチ部のオン状態とオフ状態とを切り替えるタイミングである切替タイミングを導出する導出部と、導出部によって導出されたモータ部の駆動パターン、及び、クラッチ部の切替タイミングに基づいて、モータ部及びクラッチ部への制御信号を出力する出力部と、を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本明細書によって開示された実施例に記載の吊り荷回動システムによれば、吊り荷の回動運動を表す数理モデルが、吊り荷の角加速度及び吊り具の角加速度にて表されているため、モータ部の駆動パターン、及び、クラッチ部の切替タイミングを、吊り荷の回動方向の振れを抑制するとともに、吊り具の回動方向の振れひいてはロープの捩じれを抑制するように導出できる。よって、吊り荷回動システムは、クレーンから吊り下げられた吊り荷を垂直軸線周りに回動させる場合においても、吊り荷の回動方向の振れやロープの捻れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本明細書の第1実施例に係る吊り荷回動システムの概要図である。
図2図1に示すA矢視の部分拡大図ある。
図3図1に示すジブから吊り荷までの間を簡易的にモデル化した簡易モデルの斜視図である。
図4図3に示す簡易モデルの上面図である。
図5図1に示す吊り荷回動システムのブロック図である。
図6図1に示す導出部によって導出されるモータ部の駆動パターン及びクラッチ部の切替タイミングを示すタイムチャートであり、上段が第1角速度、下段がクラッチ部の切替タイミングを示している。
図7図5に示す制御装置が実行するフローチャートである。
図8図7に示すフローチャートが実行された場合における、吊り具が回動したときのタイムチャートであり、上段から下段に向けて順に、第1回動角度、第2回動角度、動作角速度、第1角加速度、及び、クラッチ部の動作を示している。
図9】本明細書の第2実施例に係る吊り荷回動システムの部分拡大図である。
図10図9に示す吊り荷回動システムのブロック図である。
図11図10に示す制御装置が実行するフローチャートである。
図12図12に示すフローチャートが実行された場合における、吊り具が回動したときのタイムチャートであり、上段左側が動作角度、上段右側が第2回動角度、下段左側がスライディング関数の値、及び、下段右側が動作角加速度を示している。
図13図12に示すフローチャートが実行された場合における、吊り具が回動したときのタイムチャートであり、左側は第2実施例に係る積分項を含むスライディング関数を用いたものであり、右側は第2実施例の比較対象として積分項を含まないスライディング関数を用いたものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施例>
以下、本明細書の第1実施例に係る吊り荷回動システムについて図面を参照しながら説明する。吊り荷回動システム1は、図1及び図2に示すように、クレーン2におけるブーム2aの先端部(ジブ)2a1に取り付けられたロープ2bによって吊り下げられた吊り荷3を、垂直軸線2c周りに回動させるものである。クレーン2は、例えばデッキクレーンである。垂直軸線2cは、鉛直方向に沿って延びる軸線である。以下、ブーム2aの先端部2a1を、ジブ2a1と記載する。
【0010】
ブーム2aは、腕状に設けられ、基端部2a2を支点として回動体2dに回動可能に固定されている。基端部2a2が支点となってブーム2aが回動することにより、先端部であるジブ2a1が上下方向に移動する。回動体2dは、垂直軸線2cと平行な軸線である回動体軸線2d1周りに回動するように設けられている。
【0011】
ジブ2a1には、ロープ2bの上端部がロープ2bを巻上げ及び巻下げ可能に固定されている。ロープ2bの下端部には、後述する吊り具10を介して、吊り荷3が保持されている。ロープ2bは、ワイヤーロープであり、伸縮不能に設けられている。
【0012】
吊り荷3は、クレーン2にて運搬される荷物であり、直方体状に設けられている。吊り荷3は、回動体2d及びブーム2aの回動によって所定の位置に搬送される。このとき、回動体2dの回動に合わせて吊り荷3も垂直軸線2c周りの角度が変化する。このとき、吊り荷回動システム1は、吊り荷3を降ろす場所に合わせて、吊り荷3を所望の角度に回動させる。吊り荷回動システム1は、吊り具10、及び、制御装置20(図5)を備えている。
【0013】
吊り具10は、ロープ2bの下端部に接続され、吊り荷3を垂直軸線2c周りに回動可能に保持するものである。吊り具10は、図2に示すように、本体部11、モータ部12、クラッチ部13、及び、通信部14を備えている。
【0014】
本体部11は箱状に形成され、モータ部12およびクラッチ部13を収容するものである。本体部11は、2本のロープ2bによって、ジブ2a1から吊り下げられている。2本のロープ2bの下端部が、本体部11の長手方向の両端部にそれぞれ固定されている。本体部11ひいては吊り具10の長手方向及び吊り荷3の長手方向は、図2の左右方向である。これにより、本体部11は、ジブ2a1に対して、回動可能に固定されている。
【0015】
モータ部12は、吊り荷3を垂直軸線2c周りに回動させるものである。モータ部12は、例えばサーボモータである。モータ部12は、出力軸12aの回転軸線が垂直軸線2cと一致するように、かつ、出力軸12aの下端部が本体部11の外部に位置するように配置されている。出力軸12aの下端部には、金属製のアーム4を介してスプレッダ5が接続されている。スプレッダ5は、吊り荷3を着脱可能に保持するものである。出力軸12aが垂直軸線2c周りに回動することにより、吊り荷3が垂直軸線2c周りに回動する。すなわち、吊り荷3は、吊り具10及びジブ2a1に対して、回動可能に保持されている。
【0016】
クラッチ部13は、オン状態である場合にモータ部12の動力を吊り荷3に伝達し、オフ状態である場合にモータ部12の動力の吊り荷3への伝達を遮断するものである。クラッチ部13は、電磁クラッチである。クラッチ部13は、モータ部12の出力軸12aに配置されている。
【0017】
通信部14は、制御装置20と無線にて通信可能に接続されている(図5)。通信部14は、モータ部12及びクラッチ部13と有線または無線にて電気的に接続されている。通信部14は、制御装置20によって出力されるモータ部12及びクラッチ部13への制御信号を受信してモータ部12及びクラッチ部13へ送信する。
【0018】
制御装置20は、吊り具10と別体に設けられ、モータ部12及びクラッチ部13と無線を用いて通信可能に接続されている(図5)。また、制御装置20は、吊り荷3の回動角度を制御するものである。回動角度は、回動方向の角度である。回動方向は、吊り荷3が回動する垂直軸線2c周りの方向である。制御装置20は、ジブ2a1に対する吊り荷3の回動角度の目標値である目標回動角度だけ、吊り荷3を回動させるようにモータ部12及びクラッチ部13を制御する。図3及び図4に示す簡易モデルにおいて、ジブ2a1、吊り具10および吊り荷3それぞれの長手方向が一致するときの回動角度をゼロとする。長手方向は、垂直軸線2c(Z軸)上のジブ2a1の中心点Oを通り、かつ、垂直軸線2cと直交する軸線X1の方向とする。なお、軸線X2は、垂直軸線2c上の吊り具10の中心点Pを通り、かつ、軸線X1と平行な軸線である。軸線Yは、中心点Oを通り、かつ、垂直軸線2c及び軸線X1と直交する軸線である。
【0019】
また、ジブ2a1はブーム2aに対して回動しないため、吊り荷3の回動角度及び吊り具10の回動角度は、ジブ2a1に対する回動方向の角度である。以下、吊り荷3の回動角度を第1回動角度、吊り具10の回動角度を第2回動角度と記載する。また、第1回動角度は、図4において時計回り方向を正の方向とし、反時計回り方向を負の方向とする。一方、第2回動角度は、図4において時計回り方向を負の方向とし、反時計回り方向を正の方向とする。また、吊り具10に対する吊り荷3の回動角度は、第1回動角度と第2回動角度との和で表される。以下、吊り具10に対する吊り荷3の回動角度を動作角度と記載し、動作角度の速度を動作角速度と記載し、動作角度の加速度を動作角加速度と記載する。また、図3及び図4において、γは第1回動角度、θは第2回動角度、φは動作角度である。
【0020】
クレーン2の運転者は、吊り荷3が回動して第1回動角度が目標回動角度となること、かつ、第1回動角度が目標回動角度となった時に、吊り荷3及び吊り具10の回動方向の振れや振動が抑制されていることを所望する。すなわち、運転者が所望する吊り荷3の回動角度にするためには、第1回動角度が目標回動角度となり、さらに、第1回動角度が目標回動角度となった時に、第2回動角度がゼロであり、かつ、動作角度が目標回動角度であることが必要である。また、吊り荷3及び吊り具10の回動方向の振れや振動を抑制するために、第1回動角度が目標回動角度となった時に、吊り荷3の回動方向の角速度である第1角速度、及び、吊り具10の回動方向の角速度である第2角速度がゼロであることが必要である。なお、第1角速度は、第1回動角度を1回微分したものに相当し、第2角速度は、第2回動角度を1回微分したものに相当する。
【0021】
制御装置20は、吊り荷3の回動が開始される開始時点tk0から、動作角度が目標回動角度に到達した時点である到達時点tk3までのモータ部12の駆動パターン、及び、クラッチ部13のオン状態とオフ状態とを切り替える切替タイミングを、吊り荷3の回動動作を行う前に導出する。制御装置20は、この駆動パターンおよび切替タイミングに基づいて、モータ部12及びクラッチ部13を制御する。制御装置20は、図5に示すように、記憶部21、取得部22、導出部23、及び、出力部24を備えている。
【0022】
記憶部21は、第1数理モデル、第2数理モデル、及び、評価関数が記憶されている。第1数理モデルは、クラッチ部13がオン状態である場合における吊り荷3の回動運動を、吊り荷3の回動方向の角加速度である第1角加速度、及び、吊り具10の回動方向の角加速度である第2角加速度にて表されたものである。回動運動は、回動方向の運動である。なお、第1角加速度は、第1回動角度を2回微分したものに相当する。第2角加速度は、第2回動角度を2回微分したものに相当する。
【0023】
第1数理モデルは、式(1)によって表される。また、第2数理モデルは、クラッチ部13がオフ状態である場合における吊り荷3の回動運動を、第1角加速度及び第2角加速度にて表されたものである。第2数理モデルは、式(2)によって表される。
【0024】
【数1】
【0025】
【数2】
【0026】
数式(1),(2)において、γは第1回動角度、θは第2回動角度、ILは吊り荷3の慣性、IHは吊り具10の慣性、mは吊り荷3及び吊り具10の総重量、Rは吊り具10の半径、gは重力加速度、τはモータ部12の動力によって吊り荷3に作用するトルクであるモータトルク、aは中心点Oと中心点Pとの間の長さに相当する中心長さ(図3参照)、である。
【0027】
ここで、第1数理モデルおよび第2数理モデルの導出方法について、図3及び図4の簡易モデルを用いて説明する。図3から、式(3)が成立する。lはロープ2bの長さである。
【0028】
【数3】
【0029】
また、簡易モデルの全運動エネルギTは、式(4)にて表される。また、簡易モデルの位置エネルギVは、式(5)によって表される。さらに、ラグランジュ関数Lは、式(6)によって表される。
【0030】
【数4】
【0031】
【数5】
【0032】
【数6】
【0033】
また、簡易モデルの一般化座標qを式(7)とする。座標θ(t)にオイラーラグランジュ方程式を適用すると式(8)のようになる。但し、式(9)であることに注意する。φは、動作角度である。
【0034】
【数7】
【0035】
【数8】
【0036】
【数9】
【0037】
さらに、式(8)、に式(3)及び式(6)を適用すると式(10)が得られる。
【0038】
【数10】
【0039】
また、座標γ(t)にオイラーラグランジュ方程式を適用すると式(11)のようになる。さらに式(11)に式(6)を適用すると式(12)が得られる。
【0040】
【数11】
【0041】
【数12】
【0042】
続けて、式(12)を式(11)に代入すると、式(13)が得られる。
【0043】
【数13】
【0044】
クラッチ部13がオン状態である場合、モータ部12からの動力が伝達されるため、式(10)が成立する。一方、クラッチ部13がオフ状態である場合、モータ部12からのトルクがゼロ(τ=0)であるため、式(13)を用いて式(14)が得られる。
【0045】
【数14】
【0046】
また、クラッチ部13がオフ状態である場合、モータ部12からの動力が伝達されないため、式(10)において式(14)を代入する。以上を要約することにより、クラッチ部13がオン状態である場合の式(1)、及び、クラッチ部13がオフ状態である場合の式(2)が得られる。
【0047】
評価関数は、モータ部12の消費電力に関するものであり、後述する最適制御が実行される場合に用いられる。また、評価関数は、目標回動角度が後述する所定角度以上である場合、式(15)によって表される。また、評価関数は、目標回動角度が所定角度より小さい場合、式(16)によって表される。式(15)において、t1は第1時点tk1、uは第1区間K1におけるu(=τ/I:式(1)参照)、及び、umaxはτの最大値に対応するuである。また、式(16)において、tfは、到達時点tk3、及び、uは第3区間K3におけるuに相当する。式(15)及び式(16)において、vmaxは、最大角速度である。第1時点tk1、第1区間K1、到達時点tk3、第3区間K3、及び、最大角速度については後述する。
【0048】
【数15】
【0049】
【数16】
【0050】
取得部22は、目標とする吊り荷3の回動角度である目標回動角度を取得するものである。目標回動角度は、入力部6から入力される。入力部6は、キーボードなどのインターフェースである。入力部6は、制御装置20と有線または無線にて通信可能に接続されている。また、取得部22は、各パラメータを取得する。各パラメータは、吊り荷3の慣性、吊り具10の慣性、吊り荷3及び吊り具10の総重量、吊り具10の半径、ロープ2bの長さ、重力加速度、モータトルク、及び、中心長さである。取得部22によって取得された目標回動角度及び各パラメータは、導出部23に出力される。
【0051】
導出部23は、第1数理モデルおよび第2数理モデルを用いて、吊り荷3の回動が開始される開始時点tk0から、吊り荷3の回動角度が取得部22によって取得された目標回動角度に到達する到達時点tk3までの、モータ部12の駆動パターン、及び、クラッチ部13のオン状態とオフ状態とを切り替えるタイミングである切替タイミングを導出するものである。
【0052】
導出部23は、第1数理モデル及び第2数理モデルを、上述した評価関数を最適化する最適制御にて、モータ部12の駆動パターン、及び、クラッチ部13の切替タイミングを導出する。具体的には、最適制御によって、開始時点tk0から到達時点tk3までの時間をより短く、かつ、モータ部12の消費電力を最小とするように、評価関数が最適化される。モータ部12の駆動パターンは、モータ部12における出力軸12aの角加速度にて導出される。出力軸12aの角加速度は、動作角加速度に相当する。なお、本実施例における最適制御は、主として共役勾配法が用いられ、さらに局所最適を防ぐために初期値の変更にスワーム法が用いられる。
【0053】
また、導出部23は、図6に示すタイムチャートのように、開始時点tk0から到達時点tk3までの間について、第1区間K1乃至第3区間K3の3つの区間に分けて、モータ部12の駆動パターン及び切替タイミングを導出する。第1区間K1は、開始時点tk0から、開始時点tk0と到達時点tk3との間の第1時点tk1まで間を、クラッチ部13をオン状態にして、開始時点tk0から第1時点tk1に向けて第1角速度を大きくするように設定される区間である。すなわち、第1区間K1は、動作角加速度を正の値にして、吊り荷3の回動を加速させる区間である。
【0054】
第2区間K2は、第1時点tk1から、第1時点tk1と到達時点tk3との間の第2時点tk2までの間を、クラッチ部13をオフ状態に設定される区間である。クラッチ部13がオフ状態になっているため、モータ部12の動力が吊り荷3に作用しない。よって、吊り荷3は、第2区間K2において、第1時点tk1における第1角速度にて、等速で回動する。すなわち、第2区間K2は、動作角加速度をゼロとすることができる区間である。
【0055】
第3区間K3は、第2時点tk2から到達時点tk3までの間を、クラッチ部13をオン状態にして、第2時点tk2から到達時点tk3にかけて第1角速度を小さくするように設定される区間である。すなわち、第3区間K3は、動作角加速度を負の値にして、吊り荷3の回動を減速させる区間である。
【0056】
また、導出部23は、到達時点tk3において、次の制約条件を設定する。すなわち到達時点tk3において、第1回動角度が目標回動角度、及び、第1角速度がゼロとなるように設定する。さらに、第2回動角度がゼロ、及び、第2角速度がゼロとなるように設定する。これにより、到達時点tk3において、上述したように、吊り荷3のジブ2a1に対する回動方向の角度が目標回動角度となり、吊り具10のジブ2a1に対する回動方向の角度がゼロとなり、かつ、吊り荷3及び吊り具10の回動方向の振れ及び振動が抑制される。
【0057】
なお、開始時点tk0の制約条件においては、第1回動角度、第1角速度、第2回動角度及び第2角速度がゼロであるため、第1角速度、第2回動角度及び第2角速度においては、上述した到達時点tk3の制約条件と同じとなる。また、第2区間K2は、吊り荷3が等速運動をするため、第2時点tk2の第1角速度は、第1時点tk1の第1角速度と同じである。これらにより、第3区間K3におけるモータ部12の駆動パターンを、第1区間K1におけるモータ部12の駆動パターンと対称となるように設定することができる。この場合、第1区間K1と第3区間K3とでは、モータ部12への制御指令値の符号が反対となる。これにより、第1区間K1と第3区間K3とで、モータ部12の消費電力が同じとなる。また、第2区間K2ではクラッチ部13がオフ状態であるため、モータ部12の消費電力をゼロにできる。よって、目標回動角度が所定角度以上である場合、モータ部12の消費電力は、第1区間K1だけ考慮すればよい。したがって、目標回動角度が所定角度以上である場合、上述した評価関数の式(15)は、第1区間K1のみが考慮されている。
【0058】
さらに、導出部23は、第1時点tk1において、次の制約条件を設定する。具体的には、目標回動角度が所定角度以上である場合、第1時点tk1における第1角速度を、モータ部12の最大動力に応じた最大となる角速度である最大角速度に設定する。最大角速度は、モータ部12の仕様に応じて変化する。所定角度は、第2区間K2を、吊り荷3が最大角速度にて回動可能な目標回動角度である。さらに、第1時点tk1における第2回動角度及び第2角速度をそれぞれゼロに設定する。一方、目標回動角度が所定角度より小さい場合、第1時点tk1における制約条件は設定されない。
【0059】
出力部24は、導出部23によって導出されたモータ部12の駆動パターン、及び、クラッチ部13の切替タイミングに基づいて、モータ部12の駆動量及びクラッチ部13への制御信号を出力するものである。すなわち、出力部24は、導出部23によって導出されたモータ部12の駆動パターンにて、モータ部12が駆動するように、モータ部12の駆動量を制御指令値としてモータ部12に出力する。また、出力部24は、導出部23によって導出されたクラッチ部13の切替タイミングとなるように、オン状態とオフ状態とを切り替える信号を制御指令値としてクラッチ部13に出力する。出力部24は、制御信号を無線によって通信部14に送信する。すなわち、出力部24は、通信部14を介して制御信号をモータ部12及びクラッチ部13に送信する。
【0060】
次に、制御装置20が実行するフローチャートについて図7を用いて説明する。制御装置20は、S10にて、目標回動角度及び各パラメータが入力されたか否かを判定する(取得部22)。各パラメータが入力されていない場合、制御装置20は、S10にてNOと判定し、S10を繰返し実行する。一方、各パラメータが入力された場合、制御装置20は、S10にてYESと判定し、S20に進む。
【0061】
制御装置20は、S20にて、目標回動角度が所定角度以上であるか否かを判定する。目標回動角度が所定角度以上である場合、制御装置20は、S20にてYESと判定し、S30にて、上述したように、開始時点tk0、到達時点tk3及び第1時点tk1の制約条件を設定する。一方、目標回動角度が所定角度より小さい場合、制御装置20は、S20にてNOと判定し、S40にて、上述したように、開始時点tk0及び到達時点tk3の制約条件を設定する。
【0062】
続けて、制御装置20は、S50にてモータ部12の駆動パターン及びクラッチ部13の切替タイミングを導出し(導出部23)、S60にてモータ部12への制御指令値及びクラッチ部13への制御指令値を出力する(出力部24)。
【0063】
次に上述したフローチャートが実行された場合における吊り荷回動システム1の動作について、図8のタイムチャートを用いて説明する。はじめに、目標回動角度が所定角度以上である場合について説明する。
【0064】
目標回動角度が所定角度以上である場合、開始時点tk0、到達時点tk3および第1時点tk1の制約条件が設定され(S30)、モータ部12の駆動パターン及びクラッチ部13の切替タイミングが導出される(S50)。
【0065】
具体的には、クラッチ部13は、開始時点tk0から第1時点tk1までの第1区間K1、及び、第2時点tk2から到達時点tk3までの第3区間K3がオン状態であり、第1時点tk1から第2時点tk2までの第2区間K2がオフ状態である。また、モータ部12の駆動パターンは、第1区間K1が正の動作角加速度にて、第3区間K3が負の動作角加速度にて導出され、第1区間K1の駆動パターンと第3区間K3の駆動パターンとが対称であるとともに、第2区間K2の動作角加速度がゼロである。
【0066】
制御装置20によって導出されたモータ部12の駆動パターン及びクラッチ部13の切替タイミングに基づいて、モータ部12及びクラッチ部13の制御指令値が出力され(S60)、モータ部12およびクラッチ部13の駆動が開始される。
【0067】
吊り荷3の回動が開始された時点から(時刻tm0;開始時点tk0)、吊り荷3の回動が加速される(第1角加速度を参照)。このとき、吊り具10の回動方向において、吊り荷3の荷重の分力よりも、ロープ2bの張力の分力が小さいため、モータ部12の動力の反力によって、吊り具10が、吊り荷3よりも先に、吊り荷3の回動方向と反対方向に回動を開始する(第2回動角度を参照)。
【0068】
モータ部12の動力によってロープ2bの張力の分力が、吊り荷3の荷重の分力と、おおよそ釣り合った時点(時刻tm1)から、吊り荷3の回動方向に吊り具10が回動するとともに(第2回動角度を参照)、吊り荷3の第1回動角度の変化が大きくなる。
【0069】
第2回動角度がゼロに戻った時点において(時刻tm2;第1時点tk1)、第1角速度が最大角速度に到達する(図6参照)。なお、このとき、第2回動角度がゼロであるため、動作角度は、第1回動角度と同一である。すなわち、このときの動作角速度は、第1角速度と同一の最大角速度である。
【0070】
さらに、この時点(時刻tm2)からクラッチ部13がオフ状態に切り替わる。クラッチ部13がオフ状態であることにより、モータ部12の動力が吊り荷3に作用しないため、吊り荷3が、第1角速度すなわち最大角速度にて等速で回動する。一方、吊り具10は、第2回動角度がゼロの状態で停止している。
【0071】
続けて、クラッチ部13がオン状態に切り替わった時点から(時刻tm3;第2時点tk2)、吊り荷3の回動が減速される。このとき、吊り具10の回動方向において、吊り荷3の慣性力の分力より、ロープ2bの張力の分力及びモータ部12の動力の合力が小さいため、吊り荷3の回動方向に吊り具10が回動し始める(第2回動角度を参照)。
【0072】
第1回動角度がおおよそ目標回動角度に到達すると、吊り荷3の慣性力の分力とロープ2bの張力の分力及びモータ部12の動力の合力とが、おおよそ釣り合った時点(時刻tm4)から、吊り荷3の回動方向の反対方向に吊り具10が回動して(第2回動角度を参照)、第1回動角度が目標回動角度となり、第2回動角度がゼロの状態にて、吊り荷3の回動が終了する(時刻tm5;到達時点tk3)。このとき、式(9)から動作角度が目標回動角度であることが示される。
【0073】
また、この時点(時刻tm5)において、動作角速度がゼロである。さらに、第1角速度がゼロである(図6)。したがって、第2角速度もゼロである。すなわち、第1回動角度が目標回動角度となった時に、吊り荷3および吊り具10の回動方向の振れや振動が抑制されている。
【0074】
一方、目標回動角度が所定角度より小さい場合、第1時点tk1において、第1角速度が最大角速度に到達しない。この場合、第2区間K2においては、吊り荷3は、その第1時点tk1の第1角速度にて等速で回動する。
【0075】
本第1実施例によれば、吊り荷回動システム1は、クレーン2におけるブーム2aの先端部に取り付けられたロープ2bによって吊り下げられた吊り荷3を、垂直軸線2c周りに回動させる。吊り荷回動システム1は、ロープ2bの下端部に接続され、吊り荷3を垂直軸線2c周りに回動可能に保持する吊り具10と、吊り荷3の回動角度を制御する制御装置20と、を備えている。吊り具10は、吊り荷3を垂直軸線2c周りに回動させるモータ部12と、オン状態である場合にモータ部12の動力を吊り荷3に伝達し、オフ状態である場合にモータ部12の動力の吊り荷3への伝達を遮断するクラッチ部13と、を備えている。制御装置20は、クラッチ部13がオン状態である場合における吊り荷3の回動運動を、吊り荷3の回動方向の角加速度である第1角加速度、及び、吊り具10の回動方向の角加速度である第2角加速度にて表された第1数理モデル、並びに、クラッチ部13がオフ状態である場合における吊り荷3の回動運動を、第1角加速度及び第2角加速度にて表された第2数理モデルを記憶する記憶部21と、第1数理モデルおよび第2数理モデルを用いて、吊り荷3の回動が開始される開始時点tk0から、目標とする吊り荷の回動角度である目標回動角度に吊り荷3の回動角度が到達する到達時点tk3までの、モータ部12の駆動パターン、及び、クラッチ部13のオン状態とオフ状態とを切り替えるタイミングである切替タイミングを導出する導出部23と、導出部23によって導出されたモータ部12の駆動パターン、及び、クラッチ部13の切替タイミングに基づいて、モータ部12及びクラッチ部13への制御信号を出力する出力部24と、を備えている。
【0076】
これによれば、吊り荷3の回動運動を表す数理モデルが、吊り荷3の角加速度及び吊り具10の角加速度にて表されているため、モータ部12の駆動パターン、及び、クラッチ部13の切替タイミングを、吊り荷3の回動方向の振れを抑制するとともに、吊り具10の回動方向の振れひいてはロープ2bの捩じれを抑制するように導出できる。よって、吊り荷回動システム1は、クレーン2から吊り下げられた吊り荷3を垂直軸線2c周りに回動させる場合においても、吊り荷3の回動方向の振れやロープ2bの捻れを抑制できる。
また、クラッチがオフ状態である状態においては、モータ部12の駆動量を抑制することができる。よって、吊り荷3を回動させる場合におけるモータ部12の消費電力を抑制することができる。
【0077】
また、導出部23は、モータ部12の消費電力に関する評価関数を最適化する最適制御をさらに用いて、モータ部12の駆動パターン、及び、クラッチ部13の切替タイミングを導出する。
【0078】
これによれば、導出部23は、モータ部12の消費電力に関する評価関数を最適化する最適制御を用いてモータ部12の駆動パターン及び、クラッチ部13の切替タイミングを導出するため、モータ部12の消費電力を適切に抑制することができる。
【0079】
また、導出部23は、開始時点tk0から到達時点tk3までの間について、開始時点tk0から、開始時点tk0と到達時点tk3との間の第1時点tk1まで間を、クラッチ部13をオン状態にして、開始時点tk0から第1時点tk1に向けて吊り荷3の角速度を大きくするように設定される第1区間K1と、第1時点tk1から、第1時点tk1と到達時点tk3との間の第2時点tk2までの間を、クラッチ部13をオフ状態に設定される第2区間K2と、第2時点tk2から到達時点tk3までの間を、クラッチ部13をオン状態にして、第2時点tk2から到達時点tk3にかけて吊り荷3の角速度を小さくするように設定される第3区間K3と、に分けて、モータ部12の駆動パターン、及び、クラッチ部13の切替タイミングを導出する。
【0080】
これによれば、吊り荷3が回動される区間が3つの区間に分けられて、導出部23によってクラッチ部13の切替タイミング等が導出される。よって、クラッチ部13の作動回数が抑制されることにより、クラッチ部13の劣化が抑制されるとともに、導出部23における数理モデルの計算時間が抑制される。
【0081】
また、導出部23は、目標回動角度が所定回動角度以上である場合、第1時点tk1における吊り荷3の第1角速度を、モータ部12の最大動力に応じた角速度に設定して、モータ部12の駆動パターンを導出する。
【0082】
これによれば、目標回動角度が所定角度以上である場合、第1区間K1の最後の時点である第1時点tk1における吊り荷3の角速度がモータ部12の最大動力に基づいて設定される。よって、第1区間K1における吊り荷3が回動する時間の短時間化を図ることができる。また、第1時点tk1の第1角速度が大きくなるにしたがって、第2区間K2の第1角速度が大きくなる。よって、第1時点tk1における第1角速度がモータ部12の最大動力に基づいて設定されることにより、第2区間K2における吊り荷3が回動する時間の短時間化を図ることができる。
【0083】
また、制御装置20は、吊り具10と別体に設けられ、モータ部12及びクラッチ部13と無線を用いて通信可能に接続されている。
これによれば、吊り荷回動システム1のレイアウトの自由度を向上させることができる。
【0084】
<第2実施例>
次に、本明細書の第2実施例に係る吊り荷回動システム1について、主として上述した第1実施例と異なる部分について、図面を参照しながら説明する。吊り荷回動システム1は、上述した第1実施例においては第1数理モデル及び第2数理モデルを用いて吊り荷3の回動を開始させる前にモータ部12の駆動パターン等を導出していたが、第2実施例においては、モータ部12の駆動をスライディングモード制御によってリアルタイムに制御する。
【0085】
本第2実施例の吊り具110は、図9に示すように、上述した第1実施例の吊り具10の構成に加えて、角度センサ115および角加速度センサ116をさらに備えている。角度センサ115および角加速度センサ116は、制御装置120と無線にて通信可能に接続されている。一方、本第2実施例の吊り具110は、上述した第1実施例のクラッチ部13を備えていない。
【0086】
角度センサ115は、モータ部112によって回動された、吊り具110に対する吊り荷3の回動角度である動作角度を検出するものである。角度センサ115は、本体部11に収納され、モータ部112の出力軸12aの回動角度を検出することにより、動作角度を検出する。角度センサ115は、例えばエンコーダである。角度センサ115によって検出された動作角度は、制御装置120に出力される。
【0087】
角加速度センサ116は、本体部111の上面に配置され、吊り具110の回動方向の角加速度である第2角加速度を検出するものである。角加速度センサ116は、例えば慣性センサである。角加速度センサ116によって検出された第2角加速度は、制御装置120に出力される。
【0088】
本第2実施例の制御装置120は、角度センサ115によって検出された動作角度を、動作角度の目標値である目標回動角度とするように、動作角度と目標回動角度の偏差に基づいてスライディングモード制御を実行して、モータ部112の操作量を出力するものである。制御装置120は、図10に示すように、記憶部121、取得部122、導出部123、及び、出力部124を備えている。記憶部121は、第3数理モデル及びスライディング関数を記憶するものである。
【0089】
第3数理モデルは、吊り荷3の回動運動を、吊り荷3の角加速度である第1角加速度、及び、第2角加速度にて表されたものである。第3数理モデルは、式(17)によって表される。第3数理モデルは、上述した図3及び図4の簡易モデルに基づいて導出される。式(17)において、cは、吊り荷3を置くために吊り荷3と接触するものと、吊り荷3との摩擦係数である。すなわち、吊り荷3の底面と吊り荷3を置く面との摩擦係数であるが、本実施例においては、吊り荷3は空中にて回動されるため、摩擦係数はゼロである。また、吊り具110の角速度である第2角速度は、角加速度センサ116によって検出された第2角加速度を1回積分することによって得られる。さらに、吊り具110の回動角度である第2回動角度は、角加速度センサ116によって検出された第2角加速度を2回積分することによって得られる。
【0090】
【数17】
【0091】
スライディング関数は、スライディングモード制御が実行される場合に用いられる関数であり、式(18)によって表される。スライディング関数は、第2回動角度であるθを含んで構成されている。また、スライディング関数は、積分項を含んで構成されている。積分項は、残留偏差が存在する場合、その偏差の時間積分に比例して操作量を変化させる動作をする。これにより、目標回動角度に対する定常偏差を抑制することができる。また、この積分項によって、スライディングモードに切り替え面への追従性及び速応性を高めることができる。式(18)において、β1〜β6は制御ゲインであり、動作角度と目標回動角度との偏差であるe(t)は、式(19)によって表される。式(19)において、φ(t)は動作角度、φ(t)は目標回動角度である。
【0092】
【数18】
【0093】
(数19)
e(t)=φ(t)−φ(t) ・・・(19)
【0094】
また、スライディング関数に定数項を加えることによって、到達段階を打ち消すことが期待できる。この場合、制約条件である式(20)を満たす必要がある。これにより、式(18)及び式(20)から式(21)が導出される。
【0095】
(数20)
σ(t=0)=0 ・・・(20)
【0096】
【数21】
【0097】
さらに、式(22)とすることによって、式(23)に示すスライディングモードコントロール関数が得られる。なお、式(23)の関数についても記憶部121に記憶されている。
【0098】
【数22】
【0099】
【数23】
【0100】
また、動作角度を目標回動角度に、また、吊り具110及び吊り荷3の回動方向の振れを抑制するために、式(24)に示すように収束させるためには、式(18)の制御ゲインを式(25)のように設定する。
【0101】
【数24】
【0102】
【数25】
【0103】
取得部122は、入力部6から目標回動角度及び各パラメータを取得するものである。各パラメータは、吊り荷3の慣性、吊り具110の慣性、吊り荷3及び吊り具110の総重量、吊り具110の半径、ロープ2bの長さ、重力加速度、モータトルク、中心長さ、並びに、摩擦係数である。また、取得部122は、角加速度センサ116から出力された第2角加速度、及び、角度センサ115から出力された動作角度を取得する。
【0104】
導出部123は、角度センサ115によって検出された動作角度を、動作角度の目標値である目標回動角度とするように、動作角度と目標回動角度の偏差に基づいてスライディングモード制御を実行して、モータ部112の操作量を導出する。スライディングモード制御は、第3数理モデル、及び、スライディング関数に基づいて、目標回動角度、角度センサ115によって検出された動作角度、及び、角加速度センサ116によって検出された第2角加速度を用いて実行される。スライディングモード制御において、開始時点tk0から到達時点tk3までの時間の短時間化を図るため、制御ゲインは、スワーム法を用いて最適化される。
【0105】
出力部124は、導出部123によって導出されたモータ部112の操作量を、制御指令値としてモータ部112に出力するものである。
【0106】
次に、制御装置120が実行するフローチャートについて、図11を用いて説明する。制御装置120は、S110にて目標回動角度及び各パラメータが入力されたか否かを判定する(取得部122)。目標回動角度等が入力されない場合、制御装置120は、S110にてNOと判定し、S110を繰り返し実行する。一方、目標回動角度等が入力された場合、制御装置120は、S110にてYESと判定し、S120にて吊り荷3の回動を開始する。
【0107】
続けて、制御装置120は、S130にて動作角度及び第2角加速度を取得し(取得部122)、S140にてスライディングモード制御を実行し、モータ部112の操作量を導出する。さらに、制御装置120は、S150にて操作量をモータ部112に制御指令値として出力し、S160にて動作角度が目標回動角度に収束したか否かを判定する。目標回動角度と動作角度との偏差が所定範囲(例えば目標回動角度の1%)内となった状態が継続して所定時間(例えば0.5秒)以上となった場合、動作角度が目標回動角度に収束したと判定される。所定範囲及び所定時間は、実験等によって実測されることにより導出される。動作角度が目標回動角度に収束していない場合、制御装置120は、S160にてNOと判定し、S30に戻る。一方、動作角度が目標回動角度に収束した場合、制御装置120は、S160にてYESと判定し、S170にて、吊り荷3の回動を終了する。
【0108】
次に上述したフローチャートが実行された場合における吊り荷回動システム1の動作について、図12のタイムチャートを用いて説明する。図12の上段左側の動作角度と時間との関係に示されているように、吊り荷3の回動は、動作角度が開始時点tk0から目標回動角度に向けておよそ一定比率にて増加し、到達時点tk3で目標回動角度にて収束する。また、図12の上段右側の第2回動角度と時間との関係に示されているように、吊り具110の回動は、上述した第1実施例と同様に、開始時点tk0から吊り荷3と反対方向に回動した後反転して、吊り荷3と同じ方向に回動し、さらに反転して到達時点tk3にて第2回動角度がゼロに収束する。
【0109】
スライディング関数は、開始時点tk0から到達時点tk3まで、おおよそゼロに収束している。また、動作角加速度については、吊り荷3の回動時間が短時間化するように制御されている。
【0110】
なお、スライディング関数における積分項の効果は、図13のタイムチャートに示されているように、積分項がない場合に比べて積分項がある場合の方が、動作角度が目標回動角度に早期に収束している。また、積分項がない場合はスライディング関数において到達段階を有しているが、積分項がある場合は、式(21)によって、スライディング関数において到達段階を有していない。
【0111】
本第2実施例によれば、吊り荷回動システム1は、クレーン2のブーム2aの先端部に取り付けられたロープ2bによって吊り下げられた吊り荷3を、垂直軸線2c周りに回動させる。吊り荷回動システム1は、ロープ2bの下端部に接続され、吊り荷3を垂直軸線2c周りに回動可能に保持する吊り具110と、吊り荷3を垂直軸線2c周りに回動させるモータ部112と、モータ部112によって回動された、吊り具110に対する吊り荷3の回動角度である動作角度を検出する角度センサ115と、吊り具110の回動方向の角加速度である第2角加速度を検出する角加速度センサ116と、角度センサ115によって検出された動作角度を、動作角度の目標値である目標回動角度とするように、動作角度と目標回動角度の偏差に基づいてスライディングモード制御を実行して、モータ部112の操作量を出力する制御装置120と、を備えている。スライディングモード制御は、吊り荷3の回動運動を、動作角度の角加速度である動作角加速度、及び、第2角加速度にて表された第3数理モデル、並びに、スライディングモード制御におけるスライディング関数に基づいて、目標回動角度、角度センサ115によって検出された動作角度、及び、角加速度センサ116によって検出された第2角加速度を用いて実行される。スライディング関数は、積分項を含んで構成されている。
【0112】
これによれば、スライディング関数が積分項を有しているため、動作角度と目標回動角度との残留偏差が存在する場合、積分項は、その残留偏差の時間積分に比例して、操作量を変化させる動作をする。よって、スライディング関数に積分項が無い場合に比べて、動作角度を目標回動角度に早期に収束させることができる。さらに、積分項によってスライディングモード切り換え面への追従性及び速応性が高まるため、ロバスト性を向上されたスライディングモード制御が実行される。また、スライディング関数は、第2回動角度を含んで構成されているため、吊り具110の回動運動が考慮されることにより、ロバスト性をさらに向上されたスライディングモード制御が実行される。
【0113】
なお、上述した各実施例において、吊り荷回動システムの一例を示したが、本明細書の実施例はこれに限定されず、他の構成を採用することもできる。例えば、上述した各実施例において、クレーン2は、デッキクレーンであるが、これに代えて、ガントリークレーンや天井クレーンなどの吊り荷3を回動可能なクレーンでも良い。
【0114】
また、上述した各実施例において、モータ部12,112の出力軸12a,112aが、減速機構を含んで構成されても良い。この場合、第1実施例のクラッチ部13が減速機構に設けられるようにしても良い。
【0115】
また、上述した第1実施例において、目標回動角度が所定角度以上である場合、第1時点tk1における第1角速度が最大角速度に設定されているが、これに代えて、第1時点tk1における第1角速度を最大角加速度より小さい角速度に設定しても良い。また、目標回動角度が所定角度より小さい場合のように、第1時点tk1における第1角速度の制約条件を設定しなくても良い。
【0116】
また、上述した第1実施例において、モータ部12の駆動パターン及びクラッチ部13の切替タイミングは、開始時点tk0から到達時点tk3の間を3つの区間に分けられて導出されているが、これに代えて、開始時点tk0から到達時点tk3の間を区間に分けずに、または、開始時点tk0から到達時点tk3の間を3つより多くの区間に分けて、駆動パターン等を導出してもよい。
【0117】
また、上述した第1実施例において、最適制御は、開始時点tk0から到達時点tk3までの時間をより短く、かつ、モータ部12の消費電力を最小とするように評価関数を最適化するが、これに代えて、開始時点tk0から到達時点tk3までの時間を最短とし、かつ、モータ部12の消費電力をより小さくするように評価関数を最適化しても良い。
【0118】
また、上述した第1実施例において、モータ部12の消費電力に関する評価関数を最適化する最適制御を用いて、駆動パターン等が導出されているが、これに代えて、吊り荷3の回動時間の短時間化のみを考慮して駆動パターン等が導出されるようにしても良い。
【0119】
また、上述した各実施例において、制御装置20,120は、吊り具10,110と別体に設けられているが、これに代えて、吊り具10,110と一体に設けるようにしても良い。この場合、通信部14,114と出力部24,124とが有線にて接続されても良い。また、吊り具10,110が通信部14,114を備えずに、出力部24,124とモータ部12,112及びクラッチ部13とが有線にて直接接続されても良い。さらに、角度センサ115及び角加速度センサ116が有線にて直接接続されても良い。
【0120】
また、上述した各実施例において、制御装置20,120は、記憶部21,121、取得部22,122、導出部23,123、及び、出力部24,124を備えているが、これに代えて、記憶部21,121及び導出部23,123が吊り具10,110に設けられても良い。この場合、取得部22,122によって取得された目標回動角度等が出力部24,124から通信部14,114に出力される。さらに、目標回動角度等が通信部14,114から導出部23,123に出力され、導出部23,123によって導出されたモータ部12,112の駆動パターン、及び、クラッチ部13の切替タイミングの制御指令値は、それぞれモータ部12,112及びクラッチ部13に出力される。また、導出部23,123のみが吊り具10,110に設けられるようにしても良い。この場合、記憶部21,121に記憶された数理モデル等が出力部24,124及び通信部14,114を介して導出部23,123に出力される。
【0121】
また、上述した第2実施例において、制御装置120の取得部122は、角加速度センサ116から出力された第2角加速度、及び、角度センサ115から出力された動作角度を取得するが、これに代えて、取得部122が、角度センサ115及び角加速度センサ116の検出信号を、通信部114を介して取得しても良い。また、上述した第1実施例において、吊り具10の情報を、通信部14を介して制御装置20に送信しても良い。吊り具10の情報は、例えばクラッチ部13の状態や、モータ部12がモータ部12の回転数を検出する回転数センサ(図示省略)を有する場合における、この回転数センサの検出値である。
【0122】
また、本明細書の要旨を逸脱しない範囲において、吊り具10,110の本体部11,111の形状、モータ部12,112及びクラッチ部13の種類、簡易モデルの構成、各数理モデルの構成、最適制御の手法、並びに、評価関数の構成を変更するようにしても良い。
【符号の説明】
【0123】
1…吊り荷回動システム、2…クレーン、2a…ブーム、2a1…ジブ、2b…ロープ、2c…垂直軸線、3…吊り荷、10…吊り具、12…モータ部、13…クラッチ部、20…制御装置、21…記憶部、22…取得部、23…導出部、24…出力部、K1…第1区間、K2…第2区間、K3…第3区間、tk0…開始時点、tk1…第1時点、tk2…第2時点、tk3…到達時点。
図1
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