【解決手段】本開示に係る化学洗浄方法は、金属母材が構成部材に用いられた設備を洗浄対象とし、金属酸化物を含むスケールを溶解する主剤と硫黄元素を含む中性洗浄液により洗浄対象内を洗浄する中性洗浄工程(S2)と、中性洗浄工程(S2)の後、洗浄対象内に酸化剤を供給する酸化処理工程(S4)と、酸化処理工程(S4)の後、洗浄対象内に塩基性を示すpH調整剤を用いてpHを2.5以上7.0以下に調整した酸化物溶解液を供給する溶解処理工程(S6)と、を含み、酸化物溶解液は、キレート剤、キレート作用を有する有機酸、キレート作用を有する有機酸塩から選択される溶解剤を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
中性の洗浄液を用いた化学洗浄について本願発明者らが検討しているなかで、特許文献1に記載の溶解除去組成物を用いて洗浄対象材(以下、金属母材、もしくは単に母材と記載する)化学洗浄を実施した後の系統内の金属母材表面に、残渣物の存在が確認された。
【0009】
分析の結果、残渣物は、金属硫化物で(主としてFeS
2,MoS
2)であることが分かった。この金属硫化物は、金属母材の腐食過程で、溶解除去組成物に含まれる硫黄と反応し析出していると考えられる。このことから、溶解除去組成物の使用量(溶解除去組成物濃度および絶対量、洗浄時間等)に応じて、残渣物の発生状況が変化することが予想される。例えば、洗浄対象として、スケール付着量が多いボイラの蒸発管の洗浄では、スケール溶解性を高めるために硫黄系還元剤が使用されることから、洗浄後の金属母材表面に残渣物が生成される可能性がある。
【0010】
洗浄後の金属母材表面に残渣物が残留したままボイラを起動した場合、残渣物から硫化物イオンが発生し、金属母材腐食の不具合をきたす可能性が考えられる。また、残渣物の存在は、目視によるスケールの洗浄(除去)終了判定を阻害する可能性がある。
【0011】
よって、残渣物は、ボイラ起動前に除去しておくことが望ましい。
【0012】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、硫黄を含む中性洗浄液を用いた化学洗浄において発生する可能性がある残渣物を除去できる化学洗浄方法および化学洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本開示の化学洗浄方法および化学洗浄装置は以下の手段を採用する。
【0014】
本開示は、金属母材が構成部材に用いられた設備を洗浄対象とする化学洗浄方法であって、金属酸化物を含むスケールを溶解する主剤と硫黄元素とを含む中性洗浄液により前記洗浄対象内を洗浄する中性洗浄工程と、前記中性洗浄工程の後、前記洗浄対象内に酸化剤を供給する酸化処理工程と、前記酸化処理工程の後、前記洗浄対象内に塩基性を示すpH調整剤を用いてpHを2.5以上7以下に調整した酸化物溶解液を供給する溶解処理工程を含み、前記酸化物溶解液は、キレート剤、キレート作用を有する有機酸、キレート作用を有する有機酸塩から選択される溶解剤を含む化学洗浄方法を提供する。
【0015】
上記中性洗浄液は金属酸化物を含むスケールを溶解除去できる。酸化処理工程で供給した酸化剤は、洗浄対象の金属母材表面に生じた金属硫化物を酸化させ、金属処理物とする。キレート作用を有する溶解剤を含み、塩基性を示すpH調整剤によりpHを2.5以上、7以下、好ましくは3.0以上5.0以下、さらに好ましくは3.5以上4.3以下に調整した酸化物溶解液を洗浄対象内に供給することで、金属母材表面の金属処理物を溶解し、除去できる。なお、金属母材は、例えば合金鋼などであり、低合金鋼であってもよい。なお、塩基性を示すpH調整剤は、例えばアンモニア水などである。
【0016】
本開示の一態様では、前記塩基性を示すpH調整剤としてアンモニア水を選択することが好ましい。
【0017】
アンモニア水は、入手がしやすく、また、他の塩基性を示すpH調整剤(例えば、水酸化カリウムなど)と比較して残渣物の除去率を向上できる。
【0018】
本開示の一態様では、前記溶解剤としてクエン酸、若しくは酒石酸を選択することが好ましい。
【0019】
クエン酸や酒石酸は、入手がしやすく、塩基性を示すpH調整剤を用いてpHを調整することにより金属母材を傷める恐れを低減できる。
【0020】
本開示の一態様では、前記酸化剤として、過酸化水素を選択することが好ましい。
【0021】
過酸化水素は、入手がしやすく、金属母材を傷める恐れもない。過酸化水素は、金属元素などの異種元素種を含まず、最終的に無害な水と酸素に分解するため、環境親和性が高く、排水処理の利便性も高い。
【0022】
本開示の一態様では、前記中性洗浄工程と前記酸化処理工程との間に、前記洗浄対象内に水を供給し、循環し、ブローする第1水洗工程をさらに含み、前記第1水洗工程において、第1循環水の前記中性洗浄液由来の成分濃度を測定し、測定した前記中性洗浄液由来の成分濃度が基準値以下になったことをもって前記第1水洗工程の終了を判定し、該判定に従い、前記水のブローを実施することが望ましい。前記第1循環水の前記中性洗浄液由来の成分濃度が基準値を超える場合は、前記第1水洗工程と同様の水洗工程を追加で実施することが望ましい。
【0023】
第1水洗工程において水を供給し、循環し、ブローすることで、洗浄対象内から中性洗浄液を洗いだすことができる。第1循環水の中性洗浄液由来の成分濃度を測定し、その測定値に基づいて第1水洗工程の終了を判定することで、洗浄対象内に残存する中性洗浄液由来成分量をコントロールできる。残存する中性洗浄液由来成分が少ないほど、残渣物の除去率は高くなる。
【0024】
本開示の一態様において、前記中性洗浄液由来の成分濃度の残留許容濃度は、0.2質量%、好ましくは0.1質量%、更に好ましくは0.05質量%である。
【0025】
中性洗浄液由来の成分濃度を0.2質量%以下とすると、残渣物の除去率を80%以上にできる。中性洗浄液由来の成分濃度を0.1質量%以下とすると、残渣物の除去率を90%以上にできる。中性洗浄液由来の成分濃度を0.05質量%以下とすると、残渣物の除去率を100%にできる。
【0026】
本開示の一態様では、前記酸化処理工程と前記溶解処理工程との間に、前記洗浄対象内に水を供給し、循環し、ブローする第2水洗工程をさらに含み、前記第2水洗工程において、第2循環水の酸化剤濃度を測定し、測定した前記酸化剤濃度が基準値以下になったことをもって前記第2水洗工程の終了を判定し、該判定に従い、前記水のブローを実施することが望ましい。前記第2循環水の前記酸化剤濃度が基準値を超える場合は、前記第2水洗工程と同様の水洗工程を追加で実施することが望ましい。
【0027】
第2水洗工程において水を供給し、循環し、ブローすることで、洗浄対象内から酸化剤を洗いだすことができる。第2循環水の酸化剤濃度を測定し、その測定値に基づいて第2水洗工程の終了を判定することで、洗浄対象内に残存する酸化剤量をコントロールできる。残存する酸化剤が少ないほど、残渣物の除去率は高くなる。
【0028】
本開示の一態様において、前記酸化剤濃度の基準値は、0.4質量%、好ましくは0.2質量%、更に好ましくは0.1質量%である。
【0029】
酸化剤濃度を0.4質量%以下とすると、残渣物の除去率を80%以上にできる。酸化剤濃度を0.2質量%以下とすると、残渣物の除去率を90%以上にできる。酸化剤濃度を0.1質量%以下とすると、残渣物の除去率を100%にできる。
【0030】
本開示は、金属母材が構成部材に用いられた設備の洗浄対象部位を洗浄するための化学洗浄装置であって、前記洗浄対象部位に硫黄元素を含む中性洗浄液を供給する中性洗浄液供給部と、前記洗浄対象部位に、酸化剤を供給する酸化剤供給部と、前記洗浄対象部位に、塩基性を示すpH調整剤およびキレート作用を有する溶解剤を含む2.5以上7.0以下の酸化物溶解液を供給する酸化物溶解液供給部と、前記洗浄対象部位に、水を供給する水供給部と、前記洗浄対象部位に供給された流体を循環する循環流路と、前記洗浄対象部位に供給された流体を排出するブロー流路と、前記循環流路に接続され、前記流体中の前記中性洗浄液に由来する成分濃度および/または前記酸化剤の濃度を測定する濃度測定部と、前記洗浄対象部位および/または前記循環流路に接続され、前記洗浄対象部位に供給された流体の排出を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記濃度測定部の測定により得られた前記中性洗浄液に由来する成分濃度および/または前記酸化剤濃度が基準値以下になったことをもって前記洗浄対象部位に供給された流体の排出と判定する判定部と、前記判定に従い、前記洗浄対象部位に供給された流体を排出するよう排出信号を送信する送信部とを備える化学洗浄装置を提供する。
【発明の効果】
【0031】
本開示によれば、硫黄を含む中性洗浄液を用いた化学洗浄において発生する可能性がある残渣物を酸化剤で酸化させた後、キレート作用を有する溶解剤で処理することで残渣物を除去できる化学洗浄方法を提示することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本開示に係る化学洗浄方法および化学洗浄装置は、洗浄対象材の金属母材としては、例えば、合金鋼などであり、低合金鋼であってもよい。合金鋼が構成部材として用いられた設備、例えば発電プラントのボイラ等を洗浄対象とする。
【0034】
〔第1実施形態〕
図1に、本実施形態に係る化学洗浄方法の工程図を示す。
図2に、各工程における温度推移の一例を示す。
図2において、横軸は時間、縦軸は洗浄対象の系統内温度(℃)である。本実施形態に係る化学洗浄方法は、ステップ1《S1》〜ステップ9《S9》を順に含む。
【0035】
《S1》仮設系統(洗浄保管装置)接続
まず、洗浄対象内に流体を供給するための仮設系統を接続する。以降、洗浄液等の流体は仮設系統から洗浄対象内に注入される。
【0036】
《S2》中性洗浄
洗浄対象内に水を張り、該水を常温(15〜55℃、好ましくは30〜50℃、さらに好ましくは35〜45℃程度)で洗浄対象内に循環させる。該水を循環させながら、仮設系統から中性洗浄液を注入して洗浄対象内を中性洗浄液で満たし、循環を継続する。中性洗浄は、中性洗浄液を循環させることに限定されず、静置洗浄(スウィングブロー)としてもよい。中性洗浄終了の際は、洗浄対象内の中性洗浄液をブローする。
【0037】
中性洗浄液のpHは、5.0〜8.0である。中性洗浄液は、(A)主剤、(B)硫黄系化合物を含む。中性洗浄液は、さらに(C)還元性有機酸、(D)両性界面活性剤および非イオン界面活性剤の少なくとも一方を含んでもよい。
【0038】
(A)主剤
主剤は、錆などの金属酸化物を含むスケールに対する溶解能を有する。主剤は、キレート剤および有機酸から選択される少なくとも1種を含みうる。
【0039】
キレート剤は、スケールの溶解反応で生じる鉄錯体、鉄塩が還元性を示す成分として選定するとよい。キレート剤は、アミノカルボン酸類およびそれらの塩あるいはホスホン酸類およびそれらの塩である。
【0040】
例えば、アミノカルボン酸類は、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸、およびトリエチレンテトラミン六酢酸等である。
【0041】
例えば、ホスホン酸類は、ホスホン酸、アミノトリス(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレンテトラミンペンタキス(メチレンホスホン酸)、および2-ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸等である。これらのキレート剤としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
有機酸は、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、デカン−1,10−ジカルボン酸などのジカルボン酸、及び、ジカルボン酸の塩、ジグリコール酸、チオジグリコール酸、オキサル酢酸、オキシジコハク酸、カルボキシメチルオキシコハク酸、カルボキシメチルタルトロン酸、及びこれらの塩、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、イタコン酸、メチルコハク酸、3−メチルグルタル酸、2,2−ジメチルマロン酸、マレイン酸、フマール酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸、アコニット酸、3−ブテン−1,2,3−トリカルボン酸、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、エタンテトラカルボン酸、エテンテトラカルボン酸、n−アルケニルアコニット酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、フタル酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、テトラヒドロフラン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、テトラヒドロフラン−2,2,5,5−テトラカルボン酸、およびこれらの塩等である。これらの有機酸としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
主剤の配合量は、金属酸化物を含むスケール除去及び金属母材の腐食抑制の観点から、中性洗浄液の全質量に対して、0.1質量%以上40質量%以下、好ましくは0.5質量%以上20質量%以下、より好ましくは1質量%以上10質量%以下である。0.1質量%未満ではスケール溶解性が不十分となる。40質量%を超えると防食性が不十分となる。
【0044】
なお、主剤は、水酸化カリウム等の各種アルカリ金属の水酸化物を含んでもよい。主剤は、塩酸、硫酸およびそれらの塩等の無機酸、無機酸塩を含んでもよい。
【0045】
(B)硫黄系化合物
硫黄系化合物は、(B−1)硫黄元素を含む還元剤(硫黄系還元剤)および(B−2)硫黄元素を含む腐食抑制剤(硫黄系腐食抑制剤)の少なくとも1種を含む。
【0046】
(B−1)硫黄系還元剤
硫黄系還元剤は、スケール成分還元性を有する。硫黄系還元剤としては、チオ尿素系化合物、二酸化チオ尿素系化合物、チオグリコール酸塩、亜ジチオン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、チオ硫酸塩、チオン酸塩およびポリチオン酸塩が挙げられる。これらの還元剤は、1種を単独で用いてよく、2種以上を併用してもよい。硫黄系還元剤は、その還元作用によってスケール成分の溶解を促す。また、該還元剤に含まれる硫黄元素が金属に吸着し保護皮膜を強化する。
【0047】
チオ尿素系化合物は、チオ尿素、グアニルチオ尿素等である。二酸化チオ尿素系化合物は、二酸化チオ尿素等である。チオグリコール酸塩は、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリコール酸カリウム、チオグリコール酸アンモニウム等である。亜ジチオン酸塩は、亜ジチオン酸ナトリウム等である。亜硫酸塩は、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸亜鉛、亜硫酸アンモニウム等である。亜硫酸水素塩は、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素アンモニウム等である。ピロ亜硫酸塩は、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸アンモニウム等である。チオ硫酸塩は、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム等である。チオン酸塩は、チオン酸ナトリウム、チオン酸カリウム、チオン酸アンモニウム等である。ポリチオン酸塩は、三チオン酸ナトリウム、四チオン酸ナトリウム等である。
【0048】
硫黄系還元剤の配合量は、主剤100質量部に対して、0.0025質量部以上1000質量部以下、好ましくは0.05質量部以上20質量部以下、より好ましくは0.2質量部以上8質量部以下である。
【0049】
硫黄系還元剤の配合量は、中性洗浄液の全質量に対して、0.01質量%以上1質量%以下、好ましくは0.01質量%以上0.1質量%以下、より好ましくは0.02質量%以上0.08質量%以下である。0.01質量%未満ではスケール溶解性が不十分となる。1質量%を超えると、防食性が不十分となる。
【0050】
(B−2)硫黄系腐食抑制剤
硫黄系腐食抑制剤としては、メルカプタン基(HS−)、チオシアン酸基(−SCN)またはメルカプタン基のアルカリ金属塩(NaS−,KS−,LiS−)を有する硫黄有機化合物が挙げられる。硫黄系腐食抑制剤としては、ガルバニック腐食対策として、鉄への吸着性の強い硫黄有機化合物を選定するとよい。そのような硫黄有機化合物としては、2,5−ジチオ酢酸−1,3,4−チアジアゾール、2−チオ酢酸−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、メルカプトベンゾイミダゾール、2,4,6−トリメルカプト−S−トリアジン、2−ジブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−S−トリアジン、2−アニリノ−4,6−ジメルカプト−S−トリアジン、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸、1−チオグリセロール、2−アミノチオフェノール、4−アミノチオフェノール、チオ安息香酸、グリセロール−モノチオグリコレート、β−メルカプトプロピオン酸、β−メルカプト酢酸、β−メルカプトマレイン酸、β−メルカプトリンゴ酸、P−ヒドロキシチオフェノール、チオサリチル酸、チオテレフタル酸、2−メルカプトエタノール、メルカプトフェノール、チオ酢酸、α−メルカプトトルエン、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸リチウム、チオシアン酸アンモニウム、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム等が挙げられる。上記硫黄有機化合物は、金属面への吸着力が高い。
【0051】
硫黄系腐食抑制剤の配合量は、主剤100質量部に対して、0.0025質量部以上1000質量部以下、好ましくは0.05質量部以上20質量部以下、より好ましくは0.025質量部以上5質量部以下である。
【0052】
硫黄系腐食抑制剤の配合量は、中性洗浄液の全質量に対して、0.001質量%以上1質量%以下、好ましくは0.01質量%以上0.1質量%以下、より好ましくは0.005質量%以上0.05質量%以下である。0.001質量%未満だと防食性が不十分となる。
【0053】
(C)還元性有機酸
還元性有機酸は、酸素除去性および持続性に優れる成分を選定するとよい。そのような有機酸としては、アスコルビン酸およびエルソルビン酸等が挙げられる。
【0054】
還元性有機酸の配合量は、金属酸化物を含むスケール除去及び金属母材の腐食抑制の観点から、主剤100質量部に対して、0.025質量部以上8000質量部以下、好ましくは0.5質量部以上1000質量部以下、より好ましくは5質量部以上300質量部以下である。
【0055】
還元性有機酸の配合量は、中性洗浄液の全質量に対して、0.01質量%以上8質量%以下、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上3質量%以下である。0.01%質量%未満ではスケール溶解性が不十分となる。8質量%を超えると、防食性が不十分となる。
【0056】
(D)両性界面活性剤および非イオン界面活性剤
(D−1)両性界面活性剤
両性界面活性剤としては、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、2−アルキル−N−カルボキシエチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、およびβ−アルキルアミノカルボン酸のアルカリ金属塩(例えば、β−アルキルアミノプロピオン酸ナトリウム)が挙げられる。両性界面活性剤としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記両性界面活性剤はカルボン酸基および窒素原子を有するので、これらの置換基により両性界面活性剤が金属母材の表面に吸着する一方、錆およびスケールの表面には、吸着しにくくなる。それにより、錆およびスケール溶解除去性能がより向上すると共に、金属母材の防食性をより一層高めることが可能になる。
【0057】
両性界面活性剤の配合量は、主剤100質量部に対して、0.01質量部以上1000質量部以下、好ましくは0.05質量部以上750質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上500質量部以下である。
【0058】
両性界面活性剤の配合量は、中性洗浄液の全質量に対して、0.001質量%以上10質量%以下、好ましくは0.005質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上2質量%以下である。
【0059】
(D−2)非イオン界面活性剤
非イオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル類、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル類およびポリオキシアルキレンアルキルエーテル類が挙げられる。非イオン界面活性剤としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、金属酸化物を含むスケールの除去及び金属母材の腐食抑制の観点から、非イオン界面活性剤は、ポリエチレングリコールモノオレイン酸エステル、ポリエチレングリコールモノラウリン酸エステル及びポリエチレングリコールモノステアリン酸エステルであることが望ましい。
【0060】
非イオン界面活性剤の配合量は、主剤100質量部に対して、0.01質量部以上500質量部以下、好ましくは0.05質量部以上400質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上300質量部以下である。
【0061】
非イオン界面活性剤の配合量は、中性洗浄液の全質量に対して、0.001質量%以上10質量%以下、好ましくは0.005質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上2質量%以下である。
【0062】
中性の洗浄液は、所望の洗浄能力および洗浄時間が得られるように、キレート剤、還元剤および腐食抑制剤の濃度が適切に調整されている。
【0063】
《S3》水洗(第1水洗)
中性洗浄が終了したら、中性洗浄液をブローする。その後、洗浄対象内に水を張り、洗浄対象内に残る中性洗浄液を該水に置換し、循環するとともに、第1水洗が終了したら該水をブローする。
【0064】
《S4》酸化処理
洗浄対象内に水を張り、該水を加熱により50℃程度まで昇温させ、循環させる。該水を循環させながら、仮設系統から酸化剤液を注入し、洗浄対象内を酸化剤液で満たし、循環を継続する。前記溶解処理工程において、金属母材表面の金属処理物の除去時間を、例えば1時間以内程度にするためには、50℃程度までの温度の上昇が好ましい。酸化処理終了の際は、洗浄対象内から酸化剤液をブローする。
【0065】
酸化剤液は、過酸化物、過マンガン酸塩、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸または過塩素酸等の酸化剤を含む水溶液である。酸化剤液は、過酸化水素水であることが好ましい。過酸化水素水の使用は、母材を傷めない、排水処理の利便性、入手容易性、金属元素などの異種元素種を含まない、最終的に無害な水と酸素に分解されるため環境親和性が高いとの利点を有する。酸化剤液における過酸化水素の濃度は、0.3質量%以上2質量%以下、好ましくは0.5質量%以上2質量%以下にするとよい。
【0066】
《S5》水洗(第2水洗)
酸化剤液をブローした後は、洗浄対象内に水を張り、洗浄対象内に残る酸化剤液を該水に置換し、循環するとともに、該水をブローする。第2水洗は、酸化処理と同程度の温度(40℃〜50℃)で実施しても良い。同程度の温度とすることで、母材の温度を維持して、次工程での円滑な処理を行う。
【0067】
《S6》溶解処理
洗浄対象内に水を張り、該水を40℃〜50℃で洗浄対象内に循環させる。該水を循環させながら、仮設系統から酸化物溶解液を注入して洗浄対象内を酸化物溶解液で満たして、酸化処理物の溶解処理を行う。
【0068】
酸化物溶解液は、金属酸化物を溶解可能な溶解剤を含む水溶液である。溶解剤はキレート剤、キレート作用を有する有機酸、キレート作用を有する有機酸塩から選択される。より具体的には、溶解剤として、クエン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、酒石酸等が挙げられる。溶解剤には、入手が容易であり、母材を傷めないクエン酸や酒石酸を用いるのが好ましい。酸化物溶解液におけるクエン酸の濃度は、0.5質量%以上3.0質量%以下、好ましくは 1.5質量%以上2.5質量%以下にするとよい。
【0069】
酸化物溶解液のpHは、pH2.5以上pH7.0以下、好ましくはpH3.0以上pH5.0以下、さらに好ましくはpH3.5以上4.3以下である。酸化物溶解液のpHは、塩基性を示すpH調整剤(以下、アンモニア水と記載する)によって調整する。
【0070】
《S7》防錆前処理
酸化処理物の溶解処理が終了したら、該酸化物溶解液を循環させながら、洗浄対象内に更にアンモニア水を供給して、中和処理を行う。供給したアンモニア水を循環させるとともに、90℃±5℃まで昇温させる。
【0071】
中和処理で循環するアンモニア水は、pHが9.0以上11.0以下、好ましくはpH9.5以上10.5以下とする。アンモニア水は、アンモニア系化合物を含む溶液に替えてもよい。アンモニア系化合物は、例えば、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、3−メトキシプロピルアミン、及びアンモニアから選ばれる揮発性アミン化合物である。
【0072】
《S8》防錆処理
該アンモニア水を循環させながら、洗浄対象内に、ヒドラジンを注入して防錆皮膜を形成させる。防錆処理が終了したら、ヒドラジン水をブローする。
【0073】
《S9》仮設系統解体
上記S8の後、仮設系統を解体する。
【0074】
上記S2からS6の洗浄は、1回のみ実施しても良いし、複数回実施しても良い。
【0075】
洗浄対象となる機器が常設の洗浄系統を備えている場合、上記S1およびS9は省略される。
【0076】
〔第2実施形態〕
本実施形態は、《S3》水洗(第1水洗工程)において、ブローされた水中の中性洗浄液由来成分濃度に基づき、水洗終了を判定する点が第1実施形態と異なる。本実施形態では、第1実施形態と共通の工程は説明を省略する。
【0077】
本実施形態では、《S3》の水洗にて洗浄対象内を循環中の水洗水(第1循環水)の中性洗浄液由来成分の濃度を測定し、該成分濃度が基準値以下になったことをもって水洗終了と判定する。基準値は、次工程の酸化処理剤への許容残留薬液濃度から、0.2質量%、好ましくは0.1質量%、更に好ましくは0.05質量%である。
【0078】
中性洗浄液由来の成分とは、アミノカルボン酸類は、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸、およびトリエチレンテトラミン六酢酸等であり、ホスホン酸類は、ホスホン酸、アミノトリス(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレンテトラミンペンタキス(メチレンホスホン酸)、および2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸等である。中性洗浄液由来の成分濃度は、ペルオキソ2硫酸カリウム法での加熱分解後モリブデンブルー吸光光度法により(P)濃度を測定することや、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES)によりリン(P)濃度を測定することや、イオンクロマト法やキャピラリー電気泳動法により成分を検出すること等で測定できる。該成分濃度の測定は、連続的または間欠的に実施すればよい。
【0079】
〔第3実施形態〕
本実施形態は、《S5》水洗(第2水洗工程)において、ブローされた水中の酸化剤濃度に基づき、水洗終了を判定する点が第1実施形態と異なる。本実施形態では、第1実施形態と共通の工程は説明を省略する。
【0080】
本実施形態では、《S5》の水洗にて洗浄対象内を循環中の水洗水(第2循環水)の酸化剤濃度を測定し、該酸化剤濃度が基準値以下になったことをもって水洗終了と判定する。基準値は、次工程の溶解処理への許容残留薬液濃度から、0.4質量%、好ましくは0.1質量%である。
【0081】
酸化剤が過酸化水素である場合、過酸化水素濃度は、4‐アミノアンチピリン比色法(共立理化学研究所 過酸化水素用パックテスト)等で測定できる。酸化剤濃度の測定は、連続的または間欠的に実施すればよい。
【0082】
本実施形態は、第2実施形態と組み合わせて実施されてもよい。
【0083】
以下に、上記第1〜第3実施形態の作用効果について説明する。
第1〜第3実施形態に係る化学洗浄方法では、主剤と硫黄系化合物(硫黄系還元剤および/または硫黄系腐食抑制剤)を含む中性洗浄液を用いることで、水素の発生しにくい条件(pH5.0〜8.0)にて錆などのスケールを溶解除去できる。
【0084】
硫黄元素を含む中性洗浄液での洗浄後、母材表面に残渣物(金属硫化物)が生成されたとしても、酸化処理工程で酸化剤を供給した後、スケール作用を有する酸化物溶解液(pH2.5〜7.0)で処理することで、該残渣物を除去できる。
【0085】
(酸化剤)
表1に、第1実施形態の《S1》から《S9》に従い実機のボイラチューブを洗浄し、洗浄終了後、母材表面をSEM観察し,残渣物成分(Mo)の減少量を確認した結果を示す。中性洗浄液は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)3質量%、硫黄系還元剤 0.03質量%、両性界面活性剤0.5質量%水溶液、非イオン界面活性剤0.5質量%水溶液(pH6.0)を用いた。酸化剤液としては、過酸化水素水(2.0質量%)または過マンガン酸カリウム水(0.05質量%)を用いた。酸化物溶解液としては、アンモニア水で好ましい範囲のpH3.0〜5.0のうちのpH4.0に調整したクエン酸2.0質量%を用いた。
【0087】
過酸化水素および過マンガン酸カリウムのどちらを酸化剤として使用した場合でも、残渣物を80%以上除去できた。これにより残渣物を酸化剤で除去可能であることが確認された。
【0088】
残渣物は、金属硫化物(FeS
2,MoS
2等)である。酸化剤は、金属硫化物を酸化させて金属酸化物にするとともに、硫黄をイオン化させる。イオン化した硫黄(硫黄化合物)は、防錆処理後のブロー水とともに除去されると考えられる。金属酸化物は酸化物溶解液により溶解除去できる。
【0089】
酸化剤として過酸化水素を用いた場合に想定される反応式を式(1)、式(2)に示す。
3FeS
2+28H
2O
2→Fe
3O
4+6SO
42−+28H
2O・・・(1)
2MoS
2+22H
2O
2→2MoO
3+4SO
42−+22H
2O・・・(2)
【0090】
(溶解剤)
表2に、本実施形態において例えば、溶解剤を替えて第1実施形態の《S1》から《S9》に従い実機のボイラチューブを洗浄した結果を示す。洗浄後の母材表面をSEM観察し,残渣物成分(Mo)減少量を確認した。中性洗浄液は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)3質量%、硫黄系還元剤0.03質量%、両性界面活性剤0.5質量%水溶液、非イオン界面活性剤0.5質量%水溶液(pH6.0)を用いた。酸化剤液には過酸化水素水(2.0質量%)を用いた。溶解剤には、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、酢酸および酒石酸を用いた。酸化物溶解液の溶解剤濃度はすべて2.0質量%とした。すべての酸化物溶解液は、アンモニア水にてpH4.0に調整した。
【0092】
表2によれば、酢酸以外の溶解剤を用いることで、残渣物を80%以上除去できることが確認された。
【0093】
(酸化物溶解液のpH)
表3および
図3に、本実施形態において例えば、酸化物溶解液のpHをふって第1実施形態の《S1》から《S9》に従い実機のボイラチューブを洗浄した結果を示す。洗浄後の母材表面をSEM観察し,残渣物成分(Mo)減少量を確認した。
図3において、横軸は酸化物溶解液のpH、縦軸は残渣物の除去率(%)である。
【0094】
中性洗浄液は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)3質量%、硫黄系還元剤 0.03質量%、両性界面活性剤0.5質量%水溶液、非イオン界面活性剤0.5質量%水溶液(pH6.0)を用いた。酸化剤液には2.0質量%過酸化水素水を用いた。溶解剤には、2.0質量%クエン酸を用いた。酸化物溶解液のpHはアンモニア水により2.5〜8.0に調整した。
【0096】
表3および
図3によれば、本実施形態において例えば、pH2.5以上7.0以下で80%以上、pH3.0以上5.0以下で90%以上、pH3.5以上4.3以下で100%の残渣物を除去できた。
【0097】
pHが3を下回ると水素が発生する懸念があるため、水素が発生しにくい条件で処理を行うには、酸化物溶解液のpHが3以上であることが好ましい。pHが7.0を超えると残渣物の除去率が80%を下回る。よって、酸化物溶解液のpHは、2.5以上、7.0以下、好ましくは3.0以上5.0以下、さらに好ましくは3.5以上4.3以下するとよい。
【0098】
(pH調整液)
表4に、酸化物溶解液のpHを調整するpH調整液を替えて第1実施形態の《S1》から《S9》に従い実機のボイラチューブを洗浄した結果を示す。洗浄後の母材表面をSEM観察し,残渣物成分(Mo)減少量を確認した。中性洗浄液は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)3質量%、硫黄系還元剤 0.03質量%、両性界面活性剤0.5質量%水溶液、非イオン界面活性剤0.5質量%水溶液(pH6.0)を用いた。酸化剤液には2.0質量%過酸化水素水を用いた。溶解剤には、クエン酸を用いた。pH調整液には、アンモニア水、トリエタノールアミン、水酸化カリウムおよび2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールを用いた。酸化物溶解液の溶解剤濃度は2.0質量%、pHは4.0とした。
【0100】
表4によれば、酸化物溶解液のpH調整液にはアンモニア水が好適であることが確認された。
【0101】
(中性洗浄液由来成分残留による影響)
表5および
図4に、第2実施形態の《S1》から《S9》に従い実機のボイラチューブを洗浄した結果を示す。残渣物の除去率は、洗浄後の母材表面をSEM観察し,残渣物成分(Mo)減少量を確認した。
図4において、横軸は第1循環水中の中性洗浄液由来の成分濃度(質量%)、縦軸は残渣物の除去率(%)である。
【0102】
中性洗浄液は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)3質量%、硫黄系還元剤 0.03質量%、両性界面活性剤0.5質量%水溶液、非イオン界面活性剤0.5質量%水溶液(pH6.0)を用いた。酸化剤液には2.0質量%過酸化水素水を用いた。酸化物溶解液にはアンモニア水でpH4.0に調整した2.0質量%クエン酸を用いた。
【0104】
表5および
図4によれば、本実施形態において例えば、第1循環水中の中性洗浄液由来の成分濃度が0.2質量%以下で80%以上、0.10質量%以下で90%以上、0.05質量%以下で100%の残渣物を除去できた。
【0105】
第1循環水に中性洗浄液由来の成分が多く含まれる、すなわち、洗浄対象内に中性洗浄液由来の成分が多く残留すると、後に供給される酸化剤の作用阻害、または母材の腐食が懸念される。よって、第1循環水の中性洗浄液由来の成分濃度は低い方が望ましい。表5および
図4によれば、本実施形態において例えば、第1循環水中の中性洗浄液由来の成分濃度を0.2質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下にするまで水洗することで、より確実に残渣物を除去できる。
【0106】
(酸化剤残留による影響)
表6および
図5に、第3実施形態の《S1》から《S9》に従い実機のボイラチューブを洗浄した結果を示す。残渣物の除去率は、洗浄後の母材表面をSEM観察し,残渣物成分(Mo)減少量を確認した。
図5において、横軸は第2循環水中の酸化剤濃度(質量%)、縦軸は残渣物の除去率(%)である。
【0107】
中性洗浄液は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)3質量%、硫黄系還元剤 0.03質量%、両性界面活性剤0.5質量%水溶液、非イオン界面活性剤0.5質量%水溶液(pH6.0)を用いた。酸化剤液には2.0質量%過酸化水素水を用いた。酸化物溶解液にはアンモニア水でpH4.0に調整した2.0質量%クエン酸を用いた。
【0109】
表6および
図5によれば、第2循環水中の酸化剤濃度が0.4質量%以下で80%以上、0.2質量%以下で90%以上、0.1質量%以下で100%の残渣物を除去できた。
【0110】
第2循環水に酸化剤が多く含まれる、すなわち、洗浄対象内に酸化剤が多く残留すると、後に供給される酸化物溶解液の作用阻害または母材の腐食等が懸念される。よって、第2循環水の酸化剤濃度は低い方が望ましい。表6および
図5によれば、本実施形態において例えば、第2循環水中の酸化剤濃度を0.4質量%以下、好ましくは0.2質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下にするまで水洗することで、より確実に残渣物を除去できる。
【0111】
(処理条件)
表7に、第1実施形態の《S1》から《S9》に従い実機のボイラチューブを洗浄した結果を示す。判定は、洗浄後の母材表面をSEM観察し,残渣物成分(Mo)減少量を確認し、残渣物の除去率80%以上を良判定とした。
【0112】
中性洗浄液は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)3質量%、硫黄系還元剤 0.03質量%、両性界面活性剤0.5質量%水溶液、非イオン界面活性剤0.5質量%水溶液(pH6.0)を用いた。本実施形態において例えば、中性洗浄は、40℃で実施した。酸化剤液には2.0質量%または1.0質量%の過酸化水素水を用いた。酸化物溶解液には、0.5質量%、1質量%または2.0質量%のクエン酸を用いた。pH調整液としてアンモニア水を用い、酸化物溶解液をpH4.0に調整した。
【0114】
表7のNo.10によれば、40℃で中性洗浄を実施した後、2.0質量%過酸化水素(H
2O
2)水および2.0質量%クエン酸溶液を用い、それぞれ50℃で酸化処理および溶解処理を実施することで、各工程1時間以内で残渣物を除去できた。
【0115】
表7のNo.2,3,5,9によれば、過酸化水素(H
2O
2)濃度およびクエン酸濃度を低くした場合、または、処理温度を50℃より低くした場合であっても、各工程の処理時間を延ばすことで残渣物を除去可能であることが確認された。
【0116】
過酸化水素濃度を高くしすぎると、薬液コストの増加が懸念される。クエン酸濃度が高ければ短時間での処理が可能であるが、薬液コストの増加が懸念される。よって、過酸化水素濃度およびクエン酸溶液濃度は高くしすぎないことが好ましい。
【0117】
上記第1〜第3実施形態に係る化学洗浄方法は、節炭器1、火炉壁管2(蒸発管)および気水分離器3を備えた貫流ボイラ、特に、
図6に示すように、スケールが付着しやすい部位(例えば、温度、圧力条件からスケールが付着しやすい火炉壁管)の洗浄に好適である。
図6では、火炉壁管に洗浄液が供給されるように仮設系統(化学洗浄装置)4が接続されている。
例えば、化学洗浄装置4は、節炭器1の入口および気水分離器のドレン排出部に接続されている。
【0118】
次に、上記実施形態に係る化学洗浄方法を実施できる仮設系統(化学洗浄装置)の構成について説明する。
本実施形態に係る化学洗浄装置は、中性洗浄液供給部、酸化剤供給部、酸化物溶解液供給部、水供給部、ブロー流路、濃度測定部および制御部を備えている。
【0119】
図7に、化学洗浄装置10の模式図を例示する。化学洗浄装置10は、洗浄対象部位11に接続されている。
【0120】
中性洗浄液供給部は、中性洗浄液タンク12を備え、洗浄対象部位11に硫黄元素を含む中性洗浄液を供給する装置である。酸化剤供給部は、酸化剤タンク13を備え、洗浄対象部位11に酸化剤を供給する装置である。酸化物溶解液供給部は、酸化物溶解液タンク14を備え、洗浄対象部位11に塩基性を示すpH調整剤およびキレート作用を有する溶解剤を含むpH2.5以上7以下の酸化物溶解液を供給する装置である。
【0121】
図7において、中性洗浄液タンク12、酸化剤タンク13および酸化物溶解液タンク14は、接続配管16および循環流路17を介して洗浄対象部位11に並列に接続されている。
【0122】
接続配管16の途中には、各タンクに貯留された溶液を循環流路17へと送り出すポンプ18と、バルブV
1〜バルブV
4とが設けられている。バルブV
1は、中性洗浄液タンク12とポンプ18との間に配置されている。バルブV
2は、酸化剤タンク13とポンプ18との間に配置されている。バルブV
3は、酸化物溶解液タンク14とポンプ18との間に配置されている。バルブV
4、ポンプ18と循環流路17との間に配置されている。
【0123】
循環流路17は、該洗浄対象部位11内に流体を循環可能に、循環流路17の一端が洗浄対象部位11の流体入口に接続され、循環流路17の他端が洗浄対象部位11の流体出口に接続されている。循環流路17の途中には流体を循環させるポンプ19と、ポンプ19を挟むよう配置されたバルブV
5およびバルブV
6が設けられている。
【0124】
水供給部は、水を貯留する水タンク15を備え、洗浄対象部位に水を供給する装置である。水タンク15は、接続配管20を介して循環流路17の途中に接続されている。接続配管20の途中にはバルブV
7が設けられている。
図7において、接続配管20は接続配管16の接続部分よりも上流側で循環流路17に接続されているが、水タンク15の接続位置はこれに限定されるものではない。
【0125】
ブロー流路21は、洗浄対象部位11に供給された流体を排水タンク22に排出できる。
図7においてブロー流路21は、洗浄対象部位の流体入口に接続される連絡管(図示せず)に接続された第1流路21aと、循環流路17の両端側に接続された第2流路21bおよび第3流路21cが途中で合流する構成である。第1流路21aの途中にはバルブV
8が配置されている。第2流路の途中にはバルブV
9が配置されている。第3流路の途中にはバルブV
10が配置されている。
【0126】
濃度測定部23は、洗浄対象部位11および循環流路17中の流体中の中性洗浄液に由来する成分濃度および/または酸化剤の濃度を測定可能に、循環流路17に接続されている。中性洗浄液に由来する成分濃度および/または酸化剤の濃度は、例えば、ペルオキソ2硫酸カリウム法での加熱分解後モリブデンブルー吸光光度法によりリン(P)濃度を測定することや、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES)によりリン(P)濃度を測定することや、イオンクロマト法やキャピラリー電気泳動法により成分を検出すること等で測定できる。酸化剤が過酸化水素であれば4−アミノアンチピリン比色法(例えば、共立理化学研究所 過酸化水素用パックテストなど)を用いて濃度を測定できる。
図7において、濃度測定部23は循環流路17の循環させるポンプ19よりも上流側で循環流路17に接続されているが、濃度測定部23の接続位置はこれに限定されるものではない。
【0127】
制御部24は、濃度測定部23を介して循環流路17に接続され、少なくとも、バルブV
8〜バルブV
10の開閉を制御して、洗浄対象部位11を含む循環流路17の水または中性洗浄液または酸化剤を排出できる。なお、制御部24の機能はこれに限定されるものではなく、例えばバルブV
1〜バルブV
7の開閉を制御できてもよい。すなわち、制御部24は、洗浄対象部位11を含む循環流路17の水または中性洗浄液または酸化剤の排出の他に、水供給部による水の供給と、中性洗浄液供給部による中性洗浄液の供給と、酸化剤供給部による酸化剤の供給と、酸化物溶解液供給部による酸化物溶解液の供給を制御できてもよい。
【0128】
制御部24は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等である。
【0129】
図8に制御部24の構成図を例示する。制御部24は、判定部25および送信部26を備えている。判定部25は、濃度測定部23の測定結果を受信する。判定部25は、受信した濃度測定部23の測定結果を、予め格納されていた基準値と照らし合わせ、測定結果が基準値以下になっている場合に洗浄対象部位11を含む循環流路17の水または中性洗浄液または酸化剤を排出と判定する。送信部26は、判定部25の判定結果を受信し、バルブV
8〜V
10を開けるよう排出部(バルブV
8〜V
10の図示しない駆動部)に開信号(排出信号)を送る。開信号を受けた該駆動部は、バルブV
8〜V
10を開ける。
【0130】
濃度測定部23で中性洗浄液に由来する成分の濃度を測定し、測定値が基準値以下となった場合、送信部26はさらに、バルブV
2,バルブV
4を開けるよう酸化剤供給部(バルブV
2,バルブV
4の図示しない駆動部)に開信号を送る。開信号を受けた該駆動部は、バルブV
2およびバルブV
4を開ける。
【0131】
濃度測定部23で酸化剤の濃度を測定し、測定値が基準値以下となった場合、送信部26はさらにバルブV
3,バルブV
4を開けるよう酸化物溶解液供給部(バルブV
3,バルブV
4の図示しない駆動部)に開信号を送る。開信号を受けた該駆動部は、バルブV
3およびバルブV
4を開ける。
【0132】
本開示は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々変形実施が可能である。