【解決手段】間質性肺炎患者の生体試料におけるCXCL9及びCXCL10から選択される少なくとも1つのバイオマーカーを測定し、バイオマーカーの測定結果をInterstitial pneumonia with autoimmune features(IPAF)と膠原病性間質性肺炎(CTD-ILD)との鑑別の指標として用いることにより、上記の課題を解決する。
CXCL9の測定値又はCXCL10の測定値が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低いとき、前記測定値は、前記患者がIPAFであることを示唆する請求項1に記載の方法。
CXCL9の測定値又はCXCL10の測定値が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値以上であるとき、前記測定値は、前記患者がCTD-ILDであることを示唆する請求項1に記載の方法。
CXCL10の測定値が、CXCL10に対応する所定の閾値以上であるとき、前記測定値は、前記患者がIPAFであることを示唆し、前記所定の閾値が、IPAFとIPFとを鑑別するための閾値である請求項4に記載の方法。
CXCL10の測定値が、CXCL10に対応する所定の閾値より低いとき、前記測定値は、前記患者がIPFであることを示唆し、前記所定の閾値が、IPAFとIPFとを鑑別するための閾値である請求項4に記載の方法。
前記バイオマーカーが、KL-6及びMMP9から選択される少なくとも1つをさらに含み、前記バイオマーカーの測定結果がIPAFとIPFとの鑑別の指標となる請求項1に記載の方法。
前記バイオマーカーの測定結果が、CXCL9及びCXCL10から選択される少なくとも1つの測定値と、KL-6及びMMP9から選択される少なくとも1つの測定値とから取得した値である請求項7に記載の方法。
前記判定工程において、CXCL9の測定値又はCXCL10の測定値が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低いとき、前記患者がIPAFであると判定する請求項11に記載の方法。
前記判定工程において、CXCL9の測定値又はCXCL10の測定値が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値以上であるとき、前記患者がCTD-ILDであると判定する請求項11に記載の方法。
前記バイオマーカーがCXCL10を含み、前記判定工程において、CXCL10の測定結果に基づいて、前記患者がIPAFであるか又はIPFであるかを判定する請求項11に記載の方法。
前記判定工程において、CXCL10の測定値が、CXCL10に対応する所定の閾値以上であるとき、前記患者がIPAFであると判定し、前記所定の閾値が、IPAFとIPFとを鑑別するための閾値である請求項14に記載の方法。
前記判定工程において、CXCL10の測定値が、CXCL10に対応する所定の閾値より低いとき、前記患者がIPFであると判定し、前記所定の閾値が、IPAFとIPFとを鑑別するための閾値である請求項14に記載の方法。
前記バイオマーカーが、KL-6及びMMP9から選択される少なくとも1つをさらに含み、前記判定工程において、前記バイオマーカーの測定結果に基づいて、前記患者がIPAFであるか又はIPFであるかを判定する請求項11に記載の方法。
前記バイオマーカーの測定結果が、CXCL9及びCXCL10から選択される少なくとも1つの測定値と、KL-6及びMMP9から選択される少なくとも1つの測定値とから取得した値である請求項12に記載の方法。
CXCL9の測定値又はCXCL10の測定値が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値以上であるとき、前記測定値は、前記患者が抗炎症療法に応答性があることを示唆する請求項21に記載の方法。
CXCL9と特異的に結合可能な物質を含む試薬及び/又はCXCL10と特異的に結合可能な物質を含む試薬を含む、請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法に用いるための試薬キット。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1.間質性肺炎患者の病態に関する情報を取得する方法]
本実施形態の間質性肺炎患者の病態に関する情報を取得する方法(以下、「取得方法」ともいう)では、間質性肺炎患者の生体試料中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定する。
【0016】
(被検者及び生体試料)
本実施形態では、被検者は、間質性肺炎と診断された患者又は間質性肺炎に罹患している疑いのある者であれば特に限定されない。本明細書では「間質性肺炎患者」との用語は、間質性肺炎と診断された患者及び間質性肺炎に罹患している疑いのある者の両方を含む。被検者は、未治療の間質性肺炎患者であってもよい。また、被検者は、膠原病に罹患している間質性肺炎患者又は膠原病に罹患している疑いのある間質性肺炎患者であってもよい。間質性肺炎及び膠原病の種類は特に限定されない。
【0017】
生体試料は、後述のバイオマーカーを含む試料であれば特に限定されない。そのような生体試料としては、例えば血液試料、気管支肺胞洗浄液などが挙げられる。血液試料としては、例えば、被検者から採取した血液(全血)、及びその血液から調製した血漿又は血清が挙げられる。本実施形態では、血清が特に好ましい。
【0018】
生体試料に細胞などの不溶性の夾雑物が含まれる場合は、例えば、遠心分離、ろ過などの公知の手段により、生体試料から夾雑物を除去してもよい。また、生体試料は、必要に応じて適切な水性媒体で希釈してもよい。そのような水性媒体は、後述の測定を妨げないかぎり特に限定されず、例えば、水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液は、中性付近のpH(例えば6以上8以下のpH)で緩衝作用を有するかぎり、特に限定されない。そのような緩衝液は、例えば、HEPES、MES、PIPESなどのグッド緩衝液、トリス緩衝生理食塩水(TBS)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられる。
【0019】
(バイオマーカー及びその測定)
バイオマーカーとしては、CXCL9及びCXCL10から選択される少なくとも1つが挙げられる。CXCL9はMIG(Monokine induced by interferonγ)とも呼ばれ、Th1タイプケモカインの一種である。CXCL10はIP-10(Interferon-inducible Protein-10)とも呼ばれ、CXCL9と同様、Th1タイプケモカインの一種である。CXCL9及びCXCL10はいずれもTh1細胞表面に発現するCXCR3受容体のリガンドである。CXCL9及びCXCL10のアミノ酸配列自体は公知であり、例えばNCBI(National Center for Biotechnology Information)などの公知のデータベースから知ることができる。
【0020】
本明細書において「バイオマーカーを測定する」とは、バイオマーカーの量又は濃度の値を決定すること、及び、バイオマーカーの量又は濃度を反映する情報を取得することを含む。「バイオマーカーの量又は濃度を反映する情報」とは、生体試料又は該生体試料から調製した測定試料におけるバイオマーカーの量又は濃度に応じて変化する指標を意味する。そのような指標は、視認可能又は機械的に測定可能な光学的変化の指標であることが好ましい。光学的変化の指標としては、例えば、発光強度、蛍光強度、吸光度、濁度、発色の濃さなどが挙げられる。
【0021】
バイオマーカーの量又は濃度を反映する情報は、定性的に示されてもよいし、定量的に示されてもよいし、半定量的に示されてもよい。定性的に示される情報は、バイオマーカーの有無を示す情報である。定量的に示される情報は、測定機器によって得られた数値(以下、「生データ」ともいう)、該数値から算出される値などの数値情報である。生データから算出される値としては、例えば、生データから陰性対照試料の値又はバックグラウンドの値を差し引いた値などが挙げられる。定量的情報に基づいて、バイオマーカーの量又は濃度の値を決定できる。半定量的に示される情報は、バイオマーカーの量又は濃度を、語句、数字(階級を示す)、色などにより段階的に示す情報である。例えば、「検出限界以下」、「少ない」、「中程度」、「多い」などの語句を用いてもよい。
【0022】
本実施形態では、バイオマーカーの測定結果は、バイオマーカーを測定することにより得られた値、情報及びそれらの組み合わせを含む。好ましい実施形態では、バイオマーカーの測定結果は、バイオマーカーの量又は濃度を反映する定量的情報、及び/又は該定量的情報に基づいて決定されたバイオマーカーの量又は濃度の値である。以下、バイオマーカーの量又は濃度を反映する定量的情報、及び/又はバイオマーカーの量又は濃度の値を「バイオマーカーの測定値」ともいう。
【0023】
バイオマーカーの測定結果は、1つのバイオマーカーの測定値であってもよいし、2つのバイオマーカーの測定値であってもよい。バイオマーカーの測定値は、具体的にはCXCL9の測定値及びCXCL10の測定値である。また、バイオマーカーの測定結果は、2つ以上のバイオマーカーの測定値を用いて算出される値であってもよい。この算出には、必要に応じて、任意の係数及び/又は定数をさらに用いてもよい。例えば、2つのバイオマーカーの測定値を用いて算出される値としては、2つの測定値の比、積、和、差などが挙げられる。
【0024】
バイオマーカーを測定する方法は、生体試料又は該生体試料から調製した測定試料におけるバイオマーカーの量又は濃度を反映する情報を取得できるかぎり、特に限定されない。本実施形態では、バイオマーカーと特異的に結合可能な物質を用いて、該バイオマーカーを捕捉する方法が好ましい。このような物質により捕捉されたバイオマーカーを、当該技術において公知の方法で検出することにより、生体試料に含まれるバイオマーカーを測定できる。
【0025】
バイオマーカーと特異的に結合可能な物質としては、例えば、抗体、アプタマー、レセプタータンパクなどが挙げられる。それらの中でも抗体が特に好ましい。上記の各バイオマーカーに対する抗体自体は公知であり、一般に入手可能である。バイオマーカーに対する抗体は、バイオマーカーと特異的に結合できる抗体であれば、特に限定されない。そのような抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及びそれらのフラグメント(例えばFab、F(ab')
2、Fab'など)のいずれであってもよい。また、市販の抗体を用いてもよい。
【0026】
抗体を用いてバイオマーカーを測定する方法は特に限定されず、公知の免疫学的測定法から適宜選択できる。そのような測定法としては、例えば酵素結合免疫吸着法(ELISA法)、ウェスタンブロット法などが挙げられる。それらの中でもELISA法が好ましい。ELISA法の種類は、サンドイッチ法、競合法、直接法、間接法などのいずれであってもよいが、サンドイッチ法が特に好ましい。一例として、サンドイッチELISA法により、生体試料中のバイオマーカーを測定する場合について、以下に説明する。
【0027】
まず、バイオマーカーと、該バイオマーカーを捕捉するための抗体(以下、「捕捉用抗体」ともいう)と、該バイオマーカーを検出するための抗体(以下、「検出用抗体」ともいう)とを含む複合体を固相上に形成させる。該複合体は、バイオマーカーを含み得る生体試料と、捕捉用抗体と、検出用抗体とを混合することにより形成できる。そして、複合体を含む溶液を、捕捉用抗体を捕捉できる固相と接触させることにより、上記の複合体を固相上に形成させることができる。あるいは、捕捉用抗体をあらかじめ固定させた固相を用いてもよい。すなわち、捕捉用抗体を固定させた固相と、生体試料と、検出用抗体とを接触することにより、上記の複合体を固相上に形成させることができる。なお、捕捉用抗体及び検出用抗体がいずれもモノクローナル抗体の場合は、互いのエピトープが異なっていることが好ましい。
【0028】
固相は、捕捉用抗体を固定可能な不溶性の担体であればよい。捕捉用抗体の固相への固定の態様は、特に限定されない。例えば、捕捉用抗体と固相とを直接結合させてもよいし、捕捉用抗体と固相とを別の物質を介して間接的に結合させてもよい。直接の結合としては、例えば、物理的吸着などが挙げられる。間接的な結合としては、例えば、ビオチンと、アビジン又はストレプトアビジン(以下、「アビジン類」ともいう)との組み合わせを介した結合が挙げられる。この場合、捕捉用抗体をあらかじめビオチンで修飾し、固相にアビジン類をあらかじめ結合させておくことにより、ビオチンとアビジン類との結合を介して、捕捉用抗体と固相とを間接的に結合させることができる。
【0029】
固相の素材は特に限定されず、例えば、有機高分子化合物、無機化合物、生体高分子などから選択できる。有機高分子化合物としては、ラテックス、ポリスチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。無機化合物としては、磁性体(酸化鉄、酸化クロム及びフェライトなど)、シリカ、アルミナ、ガラスなどが挙げられる。生体高分子としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、ゼラチン、セルロースなどが挙げられる。これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。固相の形状は特に限定されず、例えば、粒子、膜、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管などが挙げられる。それらの中でも粒子が好ましく、磁性粒子が特に好ましい。
【0030】
本実施形態においては、複合体の形成工程と複合体の検出工程との間に、複合体を形成していない未反応の遊離成分を除去するB/F(Bound/Free)分離を行ってもよい。未反応の遊離成分とは、複合体を構成しない成分をいう。例えば、バイオマーカーと結合しなかった捕捉用抗体及び検出用抗体などが挙げられる。B/F分離の手段は特に限定されないが、固相が粒子であれば、遠心分離により、複合体を捕捉した固相だけを回収することによりB/F分離ができる。固相がマイクロプレートやマイクロチューブなどの容器であれば、未反応の遊離成分を含む液を除去することによりB/F分離ができる。また、固相が磁性粒子の場合は、磁石で磁性粒子を磁気的に拘束した状態でノズルによって未反応の遊離成分を含む液を吸引除去することによりB/F分離ができ、自動化の観点で好ましい。未反応の遊離成分を除去した後、複合体を捕捉した固相をPBSなどの適切な水性媒体で洗浄してもよい。
【0031】
そして、固相上に形成された複合体を、当該技術において公知の方法で検出することにより、生体試料に含まれるバイオマーカーを測定できる。例えば、検出用抗体として、標識物質で標識した抗体を用いた場合は、その標識物質により生じるシグナルを検出することにより、生体試料におけるバイオマーカーを測定できる。あるいは、検出用抗体に対する標識二次抗体を用いた場合も、同様にして生体試料におけるバイオマーカーを測定できる。
【0032】
また、抗体を用いてバイオマーカーを測定する方法の例として、特開平1-254868号公報に記載の免疫複合体転移法を用いることもできる。
【0033】
本明細書において「シグナルを検出する」とは、シグナルの有無を定性的に検出すること、シグナル強度を定量すること、及び、シグナルの強度を半定量的に検出することを含む。半定量的な検出とは、シグナルの強度を、「シグナル発生せず」、「弱」、「中」、「強」などのように段階的に示すことをいう。本実施形態では、シグナルの強度を定量的又は半定量的に検出することが好ましい。
【0034】
標識物質は、検出可能なシグナルが生じるかぎり、特に限定されない。例えば、それ自体がシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)であってもよいし、他の物質の反応を触媒してシグナルを発生させる物質であってもよい。シグナル発生物質としては、例えば、蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば、酵素が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)などの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、
125I、
14C、
32Pなどが挙げられる。それらの中でも、標識物質として、酵素が好ましく、アルカリホスファターゼ及びペルオキシダーゼが特に好ましい。
【0035】
シグナルを検出する方法自体は、当該技術において公知である。本実施形態では、上記の標識物質に由来するシグナルの種類に応じた測定方法を適宜選択すればよい。例えば、標識物質が酵素である場合、該酵素に対する基質を反応させることによって発生する光、色などのシグナルを、分光光度計などの公知の装置を用いて測定することにより行うことができる。
【0036】
酵素の基質は、該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択できる。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質として、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2'-(5'-クロロ)トリクシロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2-(5'-クロロ)トリシクロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ−インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸などの発色基質が挙げられる。また、酵素としてペルオキシダーゼを用いる場合、基質としては、ルミノール及びその誘導体などの化学発光基質、2, 2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)(ABTS)、1, 2-フェニレンジアミン(OPD)、3, 3',5, 5'-テトラメチルベンジジン(TMB)などの発色基質が挙げられる。
【0037】
標識物質が放射性同位体である場合は、シグナルとしての放射線を、シンチレーションカウンターなどの公知の装置を用いて測定できる。また、標識物質が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダーなどの公知の装置を用いて測定できる。なお、励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。
【0038】
シグナルの検出結果は、バイオマーカーの測定結果として用いることができる。例えば、シグナルの強度を定量する場合は、シグナル強度の測定値自体又は該測定値から取得される値を、バイオマーカーの測定結果として用いることができる。シグナル強度の測定値から取得される値としては、例えば、該測定値から陰性対照試料の測定値又はバックグラウンドの値を差し引いた値などが挙げられる。また、シグナル強度の測定値を検量線に当てはめて、バイオマーカーの量又は濃度の値を決定してもよい。陰性対照試料は、適宜選択できるが、例えば、健常人から得た生体試料などが挙げられる。
【0039】
本実施形態では、磁性粒子に固定された捕捉用抗体と、標識物質で標識された検出用抗体とを用いるサンドイッチELISA法により、生体試料に含まれる遊離タンパク質マーカーを測定することが好ましい。この場合、測定は、HISCLシリーズ(シスメックス株式会社製)などの市販の全自動免疫測定装置を用いて行ってもよい。
【0040】
(間質性肺炎患者の病態に関する情報)
本実施形態では、バイオマーカーの測定結果はIPAFとCTD-ILDとの鑑別の指標となる。例えば実施例に示されるように、IPAFと診断された患者群では、CTD-ILDと診断された患者群に比べて、生体試料中のCXCL9及びCXCL10の濃度が有意に低い。よって、本実施形態では、バイオマーカーの測定結果を、間質性肺炎患者の病態に関する情報として取得できる。間質性肺炎患者の病態に関する情報としては、例えば、間質性肺炎患者がIPAFであることを示唆する情報、又は間質性肺炎患者がCTD-ILDであることを示唆する情報が挙げられる。例えば、CXCL9の測定値又はCXCL10の測定値が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低いとき、該測定値は、患者がIPAFであることを示唆し得る。あるいは、CXCL9の測定値又はCXCL10の測定値が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値以上であるとき、該測定値は、患者がCTD-ILDであることを示唆し得る。より具体的な実施形態は、下記のとおりである。
【0041】
一実施形態では、バイオマーカーの測定結果はCXCL9の測定値である。この実施形態では、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値より低いとき、該測定値は、患者がIPAFであることを示唆し得る。CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値以上であるとき、該測定値は、患者がCTD-ILDであることを示唆し得る。ここで、CXCL9に対応する所定の閾値は、IPAFとCTD-ILDとを鑑別するための閾値である。
【0042】
別の実施形態では、バイオマーカーの測定結果はCXCL10の測定値である。この実施形態では、CXCL10の測定値が、CXCL10に対応する所定の閾値より低いとき、該測定値は、患者がIPAFであることを示唆し得る。CXCL10の測定値が、CXCL10に対応する所定の閾値以上であるとき、該測定値は、患者がCTD-ILDであることを示唆し得る。ここで、CXCL10に対応する所定の閾値は、IPAFとCTD-ILDとを鑑別するための閾値である。
【0043】
さらなる実施形態では、バイオマーカーの測定結果は、CXCL9の測定値及びCXCL10の測定値である。この実施形態では、CXCL9の測定値が第1の閾値より低いか、又はCXCL10の測定値が第2の閾値より低いとき、これらの測定値は、患者がIPAFであることを示唆し得る。CXCL9の測定値が第1の閾値以上であり、且つCXCL10の測定値が第2の閾値以上であるとき、これらの測定値は、患者がCTD-ILDであることを示唆し得る。あるいは、CXCL9の測定値が第1の閾値より低く、且つCXCL10の測定値が第2の閾値より低いとき、これらの測定値は、患者がIPAFであることを示唆し得る。また、CXCL9の測定値が第1の閾値以上であるか、又はCXCL10の測定値が第2の閾値以上であるとき、これらの測定値は、患者がCTD-ILDであることを示唆し得る。ここで、第1の閾値は、CXCL9に対応する所定の閾値であり、第2の閾値は、CXCL10に対応する所定の閾値である。第1及び第2の閾値は、IPAFとCTD-ILDとを鑑別するための閾値である。
【0044】
さらなる実施形態では、バイオマーカーの測定結果はIPAFとIPFとの鑑別の指標にもなる。実施例に示されるように、IPFと診断された患者群では、IPAFと診断された患者群に比べて、生体試料中のCXCL10の濃度が有意に低い。よって、間質性肺炎患者の病態に関する情報は、間質性肺炎患者がIPFであることを示唆する情報であってもよい。この実施形態では、バイオマーカーの測定結果はCXCL10の測定値である。CXCL10の測定値が、CXCL10に対応する所定の閾値より低いとき、該測定値は、患者がIPFであることを示唆し得る。CXCL10の測定値が、CXCL10に対応する所定の閾値以上であるとき、該測定値は、患者がIPAFであることを示唆し得る。ここで、CXCL10に対応する所定の閾値は、IPAFとIPFとを鑑別するための閾値である。
【0045】
所定の閾値は特に限定されず、適宜設定できる。例えば、間質性肺炎患者のバイオマーカーの測定値のデータを蓄積することにより、所定の閾値を経験的に設定してもよい。例えば、CTD-ILDとIPAFとを鑑別するための閾値を、次のようにして設定してもよい。まず、CTD-ILDと診断された複数の患者(CTD-ILD群)及びIPAFと診断された複数の患者(IPAF群)から生体試料を採取し、バイオマーカーを測定して、バイオマーカーの測定値を得る。そして、CTD-ILD群とIPAF群とを最も精度よく区別可能な値を求め、その値を所定の閾値として設定する。IPAFとIPFとを鑑別するための閾値も、IPAF群及びIPFと診断された複数の患者(IPF群)から採取した生体試料中のバイオマーカーの測定値を用いて、同様にして設定できる。閾値の設定においては、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などを考慮することが好ましい。
【0046】
本実施形態の取得方法により得られたバイオマーカーの測定結果は、間質性肺炎患者の病態を判定するために用いることができる。医師等の医療従事者は、当該測定結果を用いて病態を鑑別してもよいし、当該測定結果と他の情報を組み合わせて病態を鑑別してもよい。ここで、「他の情報」とは、身体所見、組織又は画像の所見、血液検査の結果、その他の医学的所見を含む。
【0047】
(さらなるバイオマーカーを用いる実施形態)
本発明者らは、さらなるバイオマーカーとしてKL-6(Krebs von der Lungen Nr.6)及びMMP9(Matrix metalloproteinase 9)を測定し、これらの測定結果を、CXCL9及びCXCL10の測定結果に組み合わせることにより、IPAFとIPFとの鑑別が可能であることを見出している。よって、本実施形態では、バイオマーカーは、KL-6及びMMP9から選択される少なくとも1つをさらに含んでもよい。KL-6は、シアル化糖鎖抗原の一種であり、間質性肺炎のマーカーとして知られている。MMP9は、IV型コラーゲンなどを分解する活性を有する酵素であり、肺の線維化に関連するマーカーとして知られている。KL-6及びMMP9のアミノ酸配列自体は公知であり、例えばNCBIなどの公知のデータベースから知ることができる。バイオマーカーの測定については上記のとおりである。
【0048】
バイオマーカーの測定結果としては、CXCL9及びCXCL10から選択される少なくとも1つの測定値、及び、KL-6及びMMP9から選択される少なくとも1つの測定値が挙げられる。好ましくは、バイオマーカーの測定結果は、CXCL9及びCXCL10から選択される少なくとも1つの測定値と、KL-6及びMMP9から選択される少なくとも1つの測定値とに基づいて取得した値である。そのような値としては、例えば、各バイオマーカーの測定値を用いて多変量分析により得られる値が挙げられる。多変量分析により得られる値としては、多重ロジスティック回帰分析により得られる予測値が特に好ましい。そのような予測値は、下記の回帰式により算出できる。
【0049】
P=1/[1+exp{−(a
1x
1+a
2x
2+ ・・・ +a
nx
n+b)}]
【0050】
上記の回帰式において、x
1〜x
nは各バイオマーカーの測定値であり、a
1〜a
nは各バイオマーカーの回帰係数であり、bは定数である。回帰係数及び定数は、使用するバイオマーカーの種類によって適宜設定できる。例えば、IPAFと診断された複数の患者及びIPFと診断された複数の患者から採取した生体試料中のバイオマーカーの測定値のデータから、IPAFとIPFとを判別する多重ロジスティックモデルを作成することにより、回帰係数及び定数を設定できる。多重ロジスティックモデルは、SPSS Statistics(IBM社)などの統計分析ソフトウェアを用いて作成できる。本実施形態では、IPAF患者及びIPF患者のバイオマーカーの測定値のデータから、あらかじめ多重ロジスティックモデルを作成しておくことが好ましい。
【0051】
本実施形態では、CXCL9及びCXCL10から選択される少なくとも1つの測定値と、KL-6及びMMP9から選択される少なくとも1つの測定値とに基づいて取得した値としては、CXCL9の測定値及びKL-6の測定値、CXCL9の測定値及びMMP9の測定値、CXCL10の測定値及びKL-6の測定値、又は、CXCL10の測定値及びMMP9の測定値を用いて多重ロジスティック回帰分析により得られた予測値が好ましい。
【0052】
バイオマーカーとして、CXCL9及びCXCL10から選択される少なくとも1つと、KL-6及びMMP9から選択される少なくとも1つとを測定した場合、バイオマーカーの測定結果は、IPAFとIPFとの鑑別の指標になる。具体的には、間質性肺炎患者の病態に関する情報として、間質性肺炎患者がIPAFであることを示唆する情報、又は間質性肺炎患者がIPFであることを示唆する情報を取得できる。例えば、バイオマーカーの測定結果が、CXCL9及びCXCL10から選択される少なくとも1つの測定値と、KL-6及びMMP9から選択される少なくとも1つの測定値とを用いて多重ロジスティック回帰分析により得られた予測値である場合、閾値との比較により、該予測値は次のように間質性肺炎患者の病態に関する情報を示唆する。予測値が所定の閾値以上であるとき、該予測値は、患者がIPAFであることを示唆し得る。あるいは、予測値が所定の閾値より低いとき、該予測値は、患者がIPFであることを示唆し得る。ここで、所定の閾値は、IPAFとIPFとを鑑別するための閾値である。所定の閾値の設定については上記のとおりである。
【0053】
[2.間質性肺炎患者の病態の判定方法]
本実施形態では、上記の方法で得られたバイオマーカーの測定結果を、間質性肺炎患者の病態の判定に利用できる。本実施形態の間質性肺炎患者の病態を判定する方法(以下、「判定方法」ともいう)では、まず、間質性肺炎患者の生体試料中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定する。この測定の詳細は、本実施形態の取得方法について述べたことと同じである。
【0054】
本実施形態の判定方法では、バイオマーカーの測定結果に基づいて、間質性肺炎患者の病態を判定する。具体的には、間質性肺炎患者がCTD-ILDであるか又はIPAFであるかを判定する。バイオマーカーの測定結果の詳細は、本実施形態の取得方法について述べたことと同じである。例えば、バイオマーカーの測定結果が、CXCL9の測定値又はCXCL10の測定値であるとき、CXCL9の測定値又はCXCL10の測定値が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値より低いとき、患者がIPAFであると判定する。あるいは、CXCL9の測定値又はCXCL10の測定値が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値以上のとき、患者がCTD-ILDであると判定する。各バイオマーカーに対応する所定の閾値の詳細は、本実施形態の取得方法について述べたことと同様である。より具体的な実施形態は、下記のとおりである。
【0055】
一実施形態では、バイオマーカーの測定結果はCXCL9の測定値である。この実施形態では、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値より低いとき、患者がIPAFであると判定する。CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値以上であるとき、患者がCTD-ILDであると判定する。ここで、CXCL9に対応する所定の閾値は、IPAFとCTD-ILDとを鑑別するための閾値である。
【0056】
別の実施形態では、バイオマーカーの測定結果はCXCL10の測定値である。この実施形態では、CXCL10の測定値が、CXCL10に対応する所定の閾値より低いとき、患者がIPAFであると判定する。CXCL10の測定値が、CXCL10に対応する所定の閾値以上であるとき、患者がCTD-ILDであると判定する。ここで、CXCL10に対応する所定の閾値は、IPAFとCTD-ILDとを鑑別するための閾値である。
【0057】
さらなる実施形態では、バイオマーカーの測定結果は、CXCL9の測定値及びCXCL10の測定値である。この実施形態では、CXCL9の測定値が第1の閾値より低いか、又はCXCL10の測定値が第2の閾値より低いとき、患者がIPAFであると判定する。CXCL9の測定値が第1の閾値以上であり、且つCXCL10の測定値が第2の閾値以上であるとき、患者がCTD-ILDであると判定する。あるいは、CXCL9の測定値が第1の閾値より低く、且つCXCL10の測定値が第2の閾値より低いとき、患者がIPAFであると判定する。また、CXCL9の測定値が第1の閾値以上であるか、又はCXCL10の測定値が第2の閾値以上であるとき、患者がCTD-ILDであると判定する。ここで、第1の閾値は、CXCL9に対応する所定の閾値であり、第2の閾値は、CXCL10に対応する所定の閾値である。第1及び第2の閾値は、IPAFとCTD-ILDとを鑑別するための閾値である。
【0058】
さらなる実施形態では、バイオマーカーの測定結果に基づいて、間質性肺炎患者がIPAFであるか又はIPFであるかを判定する。この実施形態では、バイオマーカーの測定結果はCXCL10の測定値である。CXCL10の測定値が、CXCL10に対応する所定の閾値より低いとき、患者がIPFであると判定する。CXCL10の測定値が、CXCL10に対応する所定の閾値以上であるとき、患者がIPAFであると判定する。ここで、CXCL10に対応する所定の閾値は、IPAFとIPFとを鑑別するための閾値である。
【0059】
本実施形態では、バイオマーカーは、KL-6及びMMP9から選択される少なくとも1つをさらに含んでもよい。CXCL9及びCXCL10から選択される少なくとも1つと、KL-6及びMMP9から選択される少なくとも1つとを測定した場合のバイオマーカーの測定結果の詳細は、本実施形態の取得方法について述べたことと同様である。好ましくは、バイオマーカーの測定結果は、CXCL9及びCXCL10から選択される少なくとも1つの測定値と、KL-6及びMMP9から選択される少なくとも1つの測定値とに基づいて取得した値である。そのような値は、各バイオマーカーの測定値を用いて多変量分析により得られる値であり、好ましくは、多重ロジスティック回帰分析により得られる予測値である。
【0060】
バイオマーカーの測定結果が、例えば、CXCL9及びCXCL10から選択される少なくとも1つの測定値と、KL-6及びMMP9から選択される少なくとも1つの測定値とを用いて多重ロジスティック回帰分析により得られた予測値である場合、該予測値と閾値との比較により、間質性肺炎患者の病態を次のように判定する。予測値が所定の閾値以上であるとき、患者がIPAFであると判定する。あるいは、予測値が所定の閾値より低いとき、患者がIPFであると判定する。ここで、所定の閾値は、IPAFとIPFとを鑑別するための閾値である。所定の閾値の設定については上記のとおりである。
【0061】
このように、本実施形態の判定方法は、医師等の医療従事者に対して、間質性肺炎患者の病態の判定を補助する情報の提供を可能にする。これにより、間質性肺炎患者に対して、判定された病態に応じた適切な治療を行うことが可能となる。例えば、IPFの治療では抗線維化薬が用いられるが、本実施形態の判定方法により患者がIPAFであると判定された場合は、ステロイドなどの免疫抑制薬を投与することを検討してもよい。
【0062】
[3.間質性肺炎の治療方法]
本発明には、本実施形態の判定方法により鑑別された病態に応じて、間質性肺炎患者を治療する方法も含まれる。よって、本発明の一実施形態は、間質性肺炎の治療方法に関する。本実施形態の間質性肺炎の治療方法は、間質性肺炎患者の生体試料中のCXCL10を測定する工程と、CXCL10の測定結果に基づいて、前記患者がIPAFであるか又はIPFであるかを判定する工程と、判定された病態に応じて前記患者に間質性肺炎の治療薬を投与する工程とを含み、前記患者がIPAFであると診断された場合、前記患者には免疫抑制薬を投与し、前記患者がIPFであると診断された場合、前記患者に抗線維化薬を投与する。判定工程において、CXCL10の測定値が、CXCL10に対応する所定の閾値以上であるとき、患者がIPAFであると判定する。あるいは、CXCL10の測定値が、CXCL10に対応する所定の閾値より低いとき、患者がIPFであると判定する。ここで、所定の閾値は、IPAFとIPFとを鑑別するための閾値である。
【0063】
さらなる実施形態の間質性肺炎の治療方法は、間質性肺炎患者の生体試料中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定する工程と、前記バイオマーカーの測定結果に基づいて、前記患者がIPAFであるか又はIPFであるかを判定する工程と、判定された病態に応じて前記患者に間質性肺炎の治療薬を投与する工程とを含み、前記バイオマーカーが、CXCL9及びCXCL10から選択される少なくとも1つと、KL-6及びMMP9から選択される少なくとも1つとを含み、前記患者がIPAFであると診断された場合、前記患者には免疫抑制薬を投与し、前記患者がIPFであると診断された場合、前記患者に抗線維化薬を投与する。この実施形態において、バイオマーカーの測定結果は、CXCL9及びCXCL10から選択される少なくとも1つの測定値と、KL-6及びMMP9から選択される少なくとも1つの測定値とを用いて多変量分析により得られる値が好ましい。より好ましくバイオマーカーの測定結果は、多重ロジスティック回帰分析により得られる予測値である。判定工程において、予測値が所定の閾値以上であるとき、前記患者がIPAFであると判定する。あるいは、予測値が所定の閾値が所定の閾値より低いとき、前記患者がIPFであると判定する。ここで、所定の閾値は、IPAFとIPFとを鑑別するための閾値である。
【0064】
間質性肺炎患者、生体試料、バイオマーカーの測定及び所定の閾値の詳細は、本実施形態の取得方法について述べたことと同じである。投与工程では、治療上の有効量の免疫抑制薬又は抗線維化薬を患者に投与することが好ましい。免疫抑制薬としては、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンなどのステロイド薬や、シクロホスファミド、アザチオプリン、シクロスポリン、タクロリムスなどが挙げられる。抗線維化薬としては、ピルフェニドン、ニンテダニブなどが挙げられる。治療上の有効量は、間質性肺炎の治療ガイドラインなどに応じて適宜決定される。
【0065】
[4.IPAFと診断された患者の治療応答性に関する情報を取得する方法]
ERS及びATSにより提唱されたIPAFの診断基準で間質性肺炎を評価した報告はまだ少ない。そのため、この診断基準によりIPAFと診断された患者に対して、どのような治療をすべきかについては未だ明確ではない。しかし、基本的には、IPAFと診断された患者(以下、「IPAF患者」ともいう)には、免疫抑制薬などを用いる抗炎症療法を行うことになると考えられている。一方で、形態的ドメイン(画像又は組織)において通常型間質性肺炎(UIP)のパターンを示したIPAFの場合は、IPFの治療と同様に、抗炎症療法を行わず、抗線維化薬を用いることを検討する必要があるとも考えられている。ここで、実施例に示されるように、IPAF患者において、抗炎症療法による治療前の血清中のCXCL9濃度と、1年間の努力肺活量回復量との間に有意な負の相関が認められた。この結果は、血清中のCXCL9濃度が高いIPAF患者は、抗炎症療法による治療応答性が高いことを示唆する。CXCL10についても同様の傾向が認められた。
【0066】
よって、本実施形態では、CXCL9及びCXCL10から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの測定結果は、IPAF患者の抗炎症療法への治療応答性を鑑別する指標になり得る。本実施形態のIPAF患者の治療応答性に関する情報を取得する方法では、まず、IPAF患者の生体試料中のCXCL9及びCXCL10から選択される少なくとも1つのバイオマーカーを測定する。IPAF患者は、ERS及びATSにより提唱されたIPAFの診断基準により診断された患者であってもよい。あるいは、IPAF患者は、本実施形態の判定方法の判定結果に基づいて診断された患者であってもよい。生体試料及びバイオマーカーの測定の詳細は、本実施形態の取得方法について述べたことと同じである。
【0067】
本実施形態では、CXCL9の測定値又はCXCL10の測定値が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値以上であるとき、該測定値は、IPAF患者が抗炎症療法に応答性があることを示唆し得る。あるいは、本実施形態では、CXCL9の測定値又はCXCL10の測定値が、各バイオマーカーに対応する所定の閾値以上であるとき、IPAF患者は抗炎症療法に応答性があると判定してもよい。IPAF患者が抗炎症療法に応答性があると示唆又は判定された場合、該患者には抗炎症療法が奏効することが予期される。ここで、所定の閾値は、IPAF患者の抗炎症療法への治療応答性を鑑別するための閾値である。そのような閾値は、例えば、IPAFとIPFとを鑑別するための閾値と同じであってもよい。閾値の設定の詳細は、本実施形態の取得方法について述べたことと同じである。より具体的な実施形態は、下記のとおりである。
【0068】
一実施形態では、バイオマーカーの測定結果はCXCL9の測定値である。この実施形態では、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値以上であるとき、該測定値は、IPAF患者が抗炎症療法に応答性があることを示唆し得る。あるいは、本実施形態では、CXCL9の測定値が、CXCL9に対応する所定の閾値以上であるとき、IPAF患者は抗炎症療法に応答性があると判定してもよい。ここで、CXCL9に対応する所定の閾値は、IPAF患者の抗炎症療法への治療応答性を鑑別するための閾値である。
【0069】
別の実施形態では、バイオマーカーの測定結果はCXCL10の測定値である。この実施形態では、CXCL10の測定値が、CXCL10に対応する所定の閾値以上であるとき、該測定値は、IPAF患者が抗炎症療法に応答性があることを示唆し得る。あるいは、本実施形態では、CXCL10の測定値が、CXCL10に対応する所定の閾値以上であるとき、IPAF患者は抗炎症療法に応答性があると判定してもよい。ここで、CXCL10に対応する所定の閾値は、IPAF患者の抗炎症療法への治療応答性を鑑別するための閾値である。
【0070】
さらなる実施形態では、バイオマーカーの測定結果は、CXCL9の測定値及びCXCL10の測定値である。この実施形態では、CXCL9の測定値が第1の閾値以上であり、且つCXCL10の測定値が第2の閾値以上であるとき、これらの測定値は、IPAF患者が抗炎症療法に応答性があることを示唆し得る。あるいは、本実施形態では、CXCL9の測定値が第1の閾値以上であり、且つCXCL10の測定値が第2の閾値以上であるとき、IPAF患者は抗炎症療法に応答性があると判定してもよい。また、CXCL9の測定値が第1の閾値以上であるか、又はCXCL10の測定値が第2の閾値以上であるとき、これらの測定値は、IPAF患者が抗炎症療法に応答性があることを示唆し得る。あるいは、本実施形態では、CXCL9の測定値が第1の閾値以上であるか、又はCXCL10の測定値が第2の閾値以上であるとき、IPAF患者は抗炎症療法に応答性があると判定してもよい。ここで、第1の閾値は、CXCL9に対応する所定の閾値であり、第2の閾値は、CXCL10に対応する所定の閾値である。第1及び第2の閾値は、IPAF患者の抗炎症療法への治療応答性を鑑別するための閾値である。
【0071】
[5.試薬キット]
本発明の範囲には、本実施形態の方法及び判定方法に用いられる試薬キットも含まれる。すなわち、CXCL9と特異的に結合可能な物質を含む試薬及び/又はCXCL10と特異的に結合可能な物質を含む試薬を含む試薬キット(以下、「試薬キット」ともいう)が提供される。CXCL9及びCXCL10のそれぞれと特異的に結合可能な物質の詳細は、本実施形態の方法で用いるバイオマーカーと特異的に結合可能な物質について述べたことと同じである。
【0072】
本実施形態では、CXCL9と特異的に結合可能な物質を含む試薬は、CXCL9に対する捕捉用抗体を含む試薬及びCXCL9に対する検出用抗体を含む試薬の組み合わせであることが好ましい。また、CXCL10と特異的に結合可能な物質を含む試薬は、CXCL10に対する捕捉用抗体を含む試薬及びCXCL10に対する検出用抗体を含む試薬の組み合わせであることが好ましい。検出用抗体は、標識物質で標識されてもよい。標識物質が酵素である場合、試薬キットは、該酵素の基質を含んでもよい。捕捉用抗体、検出用抗体、標識物質及び基質の詳細は、上記の本実施形態の方法において述べたことと同じである。捕捉用抗体、検出用抗体、標識物質及び基質の形態は特に限定されず、固体(例えば粉末、結晶、凍結乾燥品など)であってもよいし、液体(例えば溶液、懸濁液、乳濁液など)であってもよい。
【0073】
本実施形態では、各試薬を収容した容器を箱に梱包して、ユーザに提供してもよい。箱には、添付文書を同梱していてもよい。添付文書には、試薬キットの構成、使用方法、当該試薬キットにより得られた測定結果と間質性肺炎患者の病態との関係等について記載されていてもよい。そのような試薬キットの例を図に示す。
図1Aに示される試薬キットは、CXCL9と特異的に結合可能な物質を含む試薬として、CXCL9に対する捕捉用抗体を含む試薬及びCXCL9に対する検出用抗体を含む試薬を含むが、本発明はこの例に限定されない。
図1Aを参照して、11は、試薬キットを示し、12は、CXCL9に対する捕捉用抗体を含む試薬を収容した第1容器を示し、13は、CXCL9に対する検出用抗体を含む試薬を収容した第2容器を示し、14は、梱包箱を示し、15は、添付文書を示す。この例において、第1容器は、CXCL9に対する捕捉用抗体を含む試薬に代えて、CXCL10に対する捕捉用抗体を含む試薬を収容してもよい。第2容器は、CXCL9に対する検出用抗体を含む試薬に代えて、CXCL10に対する検出用抗体を含む試薬を収容してもよい。この例において、試薬キットは、CXCL9に対する捕捉用抗体を固定化するための固相をさらに含んでもよい。固相の詳細は、本実施形態の取得方法で述べたことと同様である。
【0074】
図1Bに示される試薬キットは、CXCL10と特異的に結合可能な物質を含む試薬として、CXCL10に対する捕捉用抗体を含む試薬及びCXCL10に対する検出用抗体を含む試薬をさらに含むが、本発明はこの例に限定されない。
図1Bを参照して、21は、試薬キットを示し、22は、CXCL9に対する捕捉用抗体を含む試薬を収容した第1容器を示し、23は、CXCL9に対する検出用抗体を含む試薬を収容した第2容器を示し、24は、CXCL10に対する捕捉用抗体を含む試薬を収容した第3容器を示し、25は、CXCL10に対する検出用抗体を含む試薬を収容した第4容器を示し、26は、梱包箱を示し、27は、添付文書を示す。この例において、試薬キットは、CXCL9に対する捕捉用抗体及びCXCL10に対する捕捉用抗体のそれぞれを固定化するための固相をさらに含んでもよい。固相の詳細は、本実施形態の取得方法で述べたことと同様である。
【0075】
本実施形態の試薬キットは、KL-6と特異的に結合可能な物質を含む試薬、及びMMP9と特異的に結合可能な物質を含む試薬から選択される少なくとも1つの試薬をさらに含んでもよい。KL-6と特異的に結合可能な物質を含む試薬は、KL-6に対する捕捉用抗体を含む試薬及びKL-6に対する検出用抗体を含む試薬の組み合わせであることが好ましい。また、MMP9と特異的に結合可能な物質を含む試薬は、MMP9に対する捕捉用抗体を含む試薬及びMMP9に対する検出用抗体を含む試薬の組み合わせであることが好ましい。
【0076】
本実施形態の試薬キットは、各バイオマーカーのキャリブレータを含んでもよい。キャリブレータの一例としては、CXCL9定量用キャリブレータ及びCXCL10定量用キャリブレータが挙げられる。CXCL9定量用キャリブレータは、例えば、CXCL9を含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、CXCL9を既知濃度で含む緩衝液とを備えていてもよい。CXCL10定量用キャリブレータは、例えば、CXCL10を含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、CXCL10を既知濃度で含む緩衝液とを備えていてもよい。別のキャリブレータの例は、CXCL9及びCXCL10のいずれも含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、CXCL9を既知濃度で含む緩衝液と、CXCL10を既知濃度で含む緩衝液とを備える。別のキャリブレータの例は、CXCL9及びCXCL10のいずれも含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、CXCL9及びCXCL10をそれぞれ既知濃度で含む緩衝液とを備える。
【0077】
試薬キットが、KL-6と特異的に結合可能な物質を含む試薬、及びMMP9と特異的に結合可能な物質を含む試薬から選択される少なくとも1つの試薬を含む場合、該試薬キットは、これらのバイオマーカーのキャリブレータを含んでもよい。キャリブレータの一例としては、KL-6定量用キャリブレータ及びMMP9定量用キャリブレータが挙げられる。KL-6定量用キャリブレータは、例えば、KL-6を含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、KL-6を既知濃度で含む緩衝液とを備えていてもよい。MMP9定量用キャリブレータは、例えば、MMP9を含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、MMP9を既知濃度で含む緩衝液とを備えていてもよい。別のキャリブレータの例は、KL-6及びMMP9のいずれも含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、KL-6を既知濃度で含む緩衝液と、MMP9を既知濃度で含む緩衝液とを備える。別のキャリブレータの例は、KL-6及びMMP9のいずれも含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、KL-6及びMMP9をそれぞれ既知濃度で含む緩衝液とを備える。
【0078】
[6.装置及びコンピュータプログラム]
本発明の範囲には、本実施形態の間質性肺炎患者の病態の判定方法を実施するための装置及びコンピュータプログラムも含まれる。本実施形態の間質性肺炎患者の病態の判定装置の一例を、図面を参照して説明する。しかし、本実施形態は、この例に示される形態のみに限定されない。
図2に示された判定装置10は、測定装置20と、コンピュータシステム30と、プリンタ40とを含む。コンピュータシステム30には、測定装置20及びプリンタ40が接続されている。
【0079】
測定装置の種類は特に限定されず、バイオマーカーの測定方法に応じて適宜選択できる。
図2に示す例では、測定装置20は、捕捉用抗体を固定した磁性粒子及び酵素標識された検出用抗体を用いるサンドイッチELISA法により生じる化学発光シグナルを検出可能な市販の自動免疫測定装置である。しかし、本発明はこの例に限定されない。バイオマーカーをELISA法により測定する場合、測定装置は、用いた標識物質に基づくシグナルの検出が可能であれば、特に限定されない。
【0080】
捕捉用抗体を固定した磁性粒子を含む試薬、酵素標識された検出用抗体を含む試薬及び間質性肺炎患者から採取した生体試料を測定装置20にセットすると、該測定装置20は、各試薬を用いて抗原抗体反応を実行し、バイオマーカーと特異的に結合した酵素標識抗体に基づく光学的情報として化学発光シグナルを取得し、得られた光学的情報をコンピュータシステム30に送信する。
【0081】
コンピュータシステム30は、コンピュータ本体300と、入力部301と、表示部302とを含む。表示部302は、検体情報、判定結果などを表示する。コンピュータシステム30は、測定装置20から光学的情報を受信する。そして、コンピュータシステム30のプロセッサは、光学的情報に基づいて、ハードディスク313にインストールされた、間質性肺炎患者の病態の判定のためのコンピュータプログラムを実行する。なお、コンピュータシステム30は、
図2に示されるように、測定装置20とは別個の機器であってもよい。あるいは、コンピュータシステム30は、測定装置20を内包する機器であってもよい。後者の場合、コンピュータシステム30は、それ自体で判定装置10となってもよい。市販の自動免疫測定装置に、間質性肺炎患者の病態の判定のためのコンピュータプログラムを搭載してもよい。
【0082】
図3を参照して、コンピュータ本体300は、CPU(Central Processing Unit)310と、ROM(Read Only Memory)311と、RAM(Random Access Memory)312と、ハードディスク313と、入出力インターフェイス314と、読取装置315と、通信インターフェイス316と、画像出力インターフェイス317とを備えている。CPU310、ROM311、RAM312、ハードディスク313、入出力インターフェイス314、読取装置315、通信インターフェイス316及び画像出力インターフェイス317は、バス318によってデータ通信可能に接続されている。また、測定装置20及びプリンタ40は、通信インターフェイス316により、コンピュータシステム30と通信可能に接続されている。
【0083】
CPU310は、ROM311又はハードディスク313に記憶されているプログラム及びRAM312にロードされたプログラムを実行することが可能である。CPU310は、測定装置20から取得した光学的情報に基づいて、バイオマーカーの測定値を取得する。CXCL9及びCXCL10から選択される少なくとも1つと、KL-6及びMMP9から選択される少なくとも1つとを測定した場合、CPU310は、これらのバイオマーカーの測定値から得られる値、例えば多重ロジスティック回帰分析により得られる予測値を取得してもよい。これらの値の詳細は、本実施形態の取得方法について述べたことと同じである。CPU310は、取得した値と、ROM311又はハードディスク313に記憶されている所定の閾値とに基づいて、間質性肺炎の病態を判定する。CPU310は、判定結果を出力して表示部302に表示させる。なお、各バイオマーカーに対応する閾値は、コンピュータシステム製造時にあらかじめ製造者がROM311又はハードディスク313に記憶させていてもよい。あるいは、ユーザが入力部301を用いて各バイオマーカーに対応する閾値を入力して、ROM311又はハードディスク313に記憶させてもよい。
【0084】
ROM311は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成されている。ROM311には、CPU310によって実行されるコンピュータプログラム及び該コンピュータプログラムの実行に用いるデータが記録されている。ROM411には、各バイオマーカーに対応する所定の閾値や上記の回帰式など、後述の判定フローに用いられるデータが記録されていてもよい。
【0085】
RAM312は、SRAM、DRAMなどによって構成されている。RAM312は、ROM311及びハードディスク313に記録されているプログラムの読み出しに用いられる。また、RAM312は、これらのプログラムを実行するときに、CPU310の作業領域として利用される。
【0086】
ハードディスク313は、CPU310に実行させるためのオペレーティングシステム、アプリケーションプログラム(間質性肺炎患者の病態の判定用プログラム)などのコンピュータプログラム及び該コンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。ハードディスク313には、各バイオマーカーに対応する所定の閾値や上記の回帰式など、後述の判定フローに用いられるデータが記録されていてもよい。
【0087】
読取装置315は、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、DVD−ROMドライブ、USBポート、SDカードリーダ、CFカードリーダ、メモリースティックリーダ、ソリッドステートドライブなどによって構成されている。読取装置315は、可搬型記録媒体50に記録されたプログラム又はデータを読み取ることができる。
【0088】
入出力インターフェイス314は、例えば、USB、IEEE1394、RS−232Cなどのシリアルインターフェイスと、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインターフェイスと、D/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインターフェイスとから構成されている。入出力インターフェイス314には、キーボード、マウスなどの入力部301が接続されている。ユーザは、該入力部301により、コンピュータ本体300に各種の指令を入力することが可能である。
【0089】
通信インターフェイス316は、例えば、Ethernet(登録商標)インターフェイス、IEEE802.11シリーズやBluetooth(登録商標)などの規格に準拠した無線インターフェイスなどである。コンピュータ本体300は、通信インターフェイス316により、プリンタ40などへの印刷データの送信が可能である。プリンタ40は、例えばレーザープリンタ、インクジェットプリンタなどである。通信インターフェイス316が無線インターフェイスである場合、コンピュータ本体300は、携帯電話、タブレット端末などのモバイルデバイスへのデータ送信が可能である。
【0090】
画像出力インターフェイス317は、LCD、CRTなどで構成される表示部302に接続されている。これにより、表示部302は、CPU310から与えられた画像データに応じた映像信号を出力できる。表示部302は、入力された映像信号にしたがって画像(画面)を表示する。
【0091】
図4Aを参照して、判定装置10により実行される、間質性肺炎患者の病態の判定フローについて説明する。ここでは、サンドイッチELISA法により生じた化学発光シグナルの強度からCXCL9の測定値を取得し、取得した測定値とCXCL9に対応する所定の閾値とを用いて、患者がIPAFであるか又はCTD-ILDであるかを判定する場合を例として説明する。しかし、本実施形態はこの例のみに限定されない。CXCL9の測定値に代えて、CXCL10の測定値を取得してもよい。
【0092】
ステップS101において、CPU310は、測定装置20から光学的情報(化学発光シグナル)を取得してハードディスク313に記憶する。ステップS102において、CPU310は、取得した光学的情報からCXCL9の測定値を取得し、ハードディスク313に記憶する。ステップS103において、CPU310は、取得した測定値と、ハードディスク313に記憶された所定の閾値とを比較する。測定値が所定の閾値より低いとき、処理はステップS104に進行する。ステップS104において、CPU310は、患者がIPAFであることを示す判定結果をハードディスク313に記憶する。測定値が所定の閾値以上であるとき、処理はステップS105に進行する。ステップS105において、CPU310は、患者がCTD-ILDであることを示す判定結果をハードディスク313に記憶する。ステップS106において、CPU310は判定結果を出力する。例えば、CPU310は、判定結果を表示部302に表示したり、プリンタ40で印刷したり、携帯電話やタブレット端末などのモバイルデバイスに送信したりする。これにより、間質性肺炎患者の病態の判定を補助する情報を医師などに提供することができる。
【0093】
図4Bを参照して、CXCL9の測定値及びCXCL10の測定値を取得し、これらの測定値と各バイオマーカーに対応する所定の閾値とを用いて判定を行う場合を例として説明する。この例において、第1の閾値は、CXCL9に対応する所定の閾値であり、第2の閾値は、CXCL10に対応する所定の閾値である。ステップS201及びS207は、それぞれ上記のステップS101及びS106について述べたことと同様である。ステップS202において、CPU310は、取得した光学的情報からCXCL9及びCXCL10の測定値を取得し、ハードディスク313に記憶する。ステップS203において、CPU310は、取得したCXCL9の測定値と、ハードディスク313に記憶された第1の閾値とを比較する。CXCL9の測定値が第1の閾値より低いとき、処理はステップS204に進行する。ステップS204において、CPU310は、取得したCXCL10の測定値と、ハードディスク313に記憶された第2の閾値とを比較する。CXCL10の測定値が第2の閾値より低いとき、処理はステップS205に進行する。ステップS205において、CPU310は、患者がIPAFであることを示す判定結果をハードディスク313に記憶する。
【0094】
ステップS203において、CXCL9の測定値が第1の閾値以上であるとき、処理はステップS206に進行する。ステップS204において、CXCL10の測定値が第2の閾値以上であるとき、処理はステップS206に進行する。ステップS206において、CPU310は、患者がCTD-ILDであることを示す判定結果をハードディスク313に記憶する。この例において、ステップS203及びステップS204の処理は順序を入れ替えることができる。
【0095】
図4Cを参照して、CXCL10の測定値を取得し、取得した測定値とCXCL10に対応する所定の閾値とを用いて、患者がIPAFであるか又はIPFであるかを判定する場合を例として説明する。ステップS301及びS306は、それぞれ上記のステップS101及びS106について述べたことと同様である。ステップS302において、CPU310は、取得した光学的情報からCXCL10の測定値を取得し、ハードディスク313に記憶する。ステップS303において、CPU310は、取得した測定値と、ハードディスク313に記憶された所定の閾値とを比較する。測定値が所定の閾値以上であるとき、処理はステップS304に進行する。ステップS304において、CPU310は、患者がIPAFであることを示す判定結果をハードディスク313に記憶する。測定値が所定の閾値より低いとき、処理はステップS305に進行する。ステップS305において、CPU310は、患者がIPFであることを示す判定結果をハードディスク313に記憶する。
【0096】
図4Dを参照して、CXCL9の測定値及びKL-6の測定値を取得し、これらの測定値を用いて上記の回帰式により予測値Pを算出し、予測値Pと所定の閾値とを用いて判定を行う場合を例として説明する。しかし、本実施形態はこの例のみに限定されない。CXCL9の測定値に代えて、CXCL10の測定値を取得してもよい。また、KL-6の測定値に代えて、MMP9の測定値を取得してもよい。ステップS401及びS407は、それぞれ上記のステップS101及びS106について述べたことと同様である。ステップS402において、CPU310は、取得した光学的情報からCXCL9及びKL-6の測定値を取得し、ハードディスク313に記憶する。ステップS403において、CPU310は、ハードディスク313に記憶された回帰式にしたがって、多重ロジスティックモデルに基づく予測値Pを算出し、ハードディスク313に記憶する。ステップS404において、CPU310は、算出した予測値Pと、ハードディスク313に記憶された所定の閾値とを比較する。予測値Pが所定の閾値以上であるとき、処理はステップS405に進行する。ステップS405において、CPU310は、患者がIPAFであることを示す判定結果をハードディスク313に記憶する。予測値Pが所定の閾値より低いとき、処理はステップS406に進行する。ステップS406において、CPU310は、患者がIPFであることを示す判定結果をハードディスク313に記憶する。
【0097】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、「HISCL」はシスメックス株式会社の登録商標である。
【実施例】
【0098】
[実施例1]
(1) 生体試料
生体試料として、間質性肺炎患者102名の血清を用いた。102名の患者のうち、CTD-ILDと診断された患者(CTD-ILD群)が16名であり、IPAFと診断された患者(IPAF群)が35名であり、IPFと診断された患者(IPF群)が51名であった。
【0099】
(2) バイオマーカーの測定
(2.1) CXCL9の測定
各患者の血清中のCXCL9濃度を、下記のR1〜R5試薬を用いて全自動免疫測定装置HISCL-5000又はHISCL-2000i(シスメックス株式会社)により測定した。
・R1試薬
抗MIGモノクローナル抗体(RANDOX社)を慣用の手法によりペプシン又はIdeSプロテアーゼで消化して、Fabフラグメントを得た。Fabフラグメントを慣用の手法によりビオチンで標識して、1%ウシ血清アルブミン(BSA)及び0.5%カゼイン含有バッファーに溶解して、R1試薬を得た。
【0100】
・R2試薬
表面にストレプトアビジンが固定された磁性粒子(以下、「STA結合磁性粒子」ともいう。平均粒子径2μm。磁性粒子1gあたりのストレプトアビジン量は2.9〜3.5 mg)を、10 mM HEPES緩衝液(pH 7.5)で3回洗浄した。洗浄後のSTA結合磁性粒子を、ストレプトアビジン濃度が18〜22μg/ml(STA結合磁性粒子の濃度が0.48〜0.52 mg/ml)となるように10 mM HEPES(pH 7.5)に添加して、R2試薬を得た。
【0101】
・R3試薬
抗MIGモノクローナル抗体(RANDOX社)を慣用の手法によりペプシン又はIdeSプロテアーゼで消化して、Fabフラグメントを得た。Fabフラグメントを慣用の手法によりアルカリホスファターゼ(ALP)で標識して、1%BSA及び0.5%カゼイン含有バッファーに溶解して、R3試薬を得た。
【0102】
・R4試薬及びR5試薬
R4試薬として、測定用緩衝液であるHISCL R4試薬(シスメックス株式会社)を用いた。R5試薬として、ALPの化学発光基質であるCDP-Star(登録商標)(アプライドバイオシステムズ社)を含むHISCL R5試薬(シスメックス株式会社)を用いた。
【0103】
HISCL-5000又はHISCL-2000iによる測定手順は、次のとおりであった。血清(20μL)とR1試薬(50μL)とを混合した後、R2試薬(30μL)を添加した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した。上清を除き、磁性粒子にR3試薬(100μL)を添加して混合した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した。上清を除き、磁性粒子にR4試薬(50μL)及びR5試薬(100μL)を添加して、化学発光強度を測定した。得られた化学発光強度を検量線に当てはめて、CXCL9の濃度を決定した。
【0104】
(2.2) CXCL10の測定
各患者の血清中のCXCL10濃度を、enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)により測定した。CXCL10の測定手順は、次のとおりであった。96ウェルプレートに2μg/mLで感作した抗CXCL10マウスモノクローナル抗体に、検体希釈液にて5倍希釈した血清(100μL)と2時間反応させた。HISCL洗浄液(300μL)にて6回洗浄後、100μLのビオチン化ヤギ 抗ヒトCXCL10抗体(0.0125μg/mL,1%BSA 0.5%カゼイン PBS pH7.4)を添加し、2時間反応させた。HISCL洗浄液(300μL)にて6回洗浄後、100μLのストレプトアビジンALPを添加し20分間反応させた。HISCL洗浄液(300μL)にて6回洗浄後、1:2で混合したR4及びR5試薬を100μL添加しプレートリーダーで発光シグナルをカウントした。抗CXCL10抗体は、R&Dシステムズ社Duoset DY266を用いた。
【0105】
(3) 測定結果
CTD-ILD、IPAF及びIPFの各患者群における血清中のCXCL9及びCXCL10の濃度を、それぞれ
図5及び6に示す。CXCL9及びCXCL10の濃度は、CTD-ILD群に比べ、IPAF群及びIPF群において有意に低いことが分かった。よって、血清中のCXCL9及びCXCL10は、CTD-ILDとIPAFとの鑑別を可能にするバイオマーカーとして用い得ることが示唆された。また、CXCL10の濃度は、IPAF群に比べ、IPF群において有意に低いことが分かった。このことから、血清中のCXCL10は、IPAFとIPFとの鑑別も可能なバイオマーカーとして用い得ることが示唆された。
【0106】
[実施例2]
(1) CTD-ILDとIPAFとの鑑別
ROC解析により、血清中のCXCL9及びCXCL10の各濃度について、実施例1のCTD-ILD群(16名)とIPAF群(35名)とを区別する最適なカットオフ値を求めた。設定したカットオフ値を用いた判定の感度、特異度及び曲線下面積(AUC)を算出した。この判定では、CXCL9又はCXCL10の濃度がカットオフ値以上であるとき、患者はCTD-ILDであると判定した。また、CXCL9又はCXCL10の濃度がカットオフ値より低いとき、患者はCTD-ILDではないと判定した。得られたROC曲線を
図7及び8に示す。各バイオマーカーのカットオフ値(pg/mL)、判定の感度(%)、特異度(%)及びAUCを表1に示す。
【表1】
【0107】
表1より、血清中のCXCL9濃度及びCXCL10濃度の各値に基づく判定では、AUCの値が0.7以上であり、血清中のCXCL9及びCXCL10が、CTD-ILDとIPAFとの鑑別に有用なバイオマーカーであることが裏付けられた。従来、CTD-ILDの診断は、膠原病の診断基準に基づいて行われ、IPAFの診断は、ERS及びATSにより提唱された診断基準に基づいて行われていた。これらの診断基準には、医師の所見や画像診断などの主観的要素が含まれていた。しかし、上記の結果より、客観的指標である生体試料中のCXCL9及びCXCL10の濃度が、CTD-ILDとIPAFとを鑑別するための指標となり得ることが示された。
【0108】
(2) IPAFとIPFとの鑑別
ROC解析により、血清中のCXCL10濃度について、実施例1のIPAF群(35名)とIPF群(51名)とを区別する最適なカットオフ値を求めた。設定したカットオフ値を用いた判定の感度、特異度及びAUCを算出した。この判定では、CXCL10の濃度がカットオフ値以上であるとき、患者はIPAFであると判定した。また、CXCL10の濃度がカットオフ値より低いとき、患者はIPAFではないと判定した。得られたROC曲線を
図9に示す。CXCL10のカットオフ値(pg/mL)、判定の感度(%)、特異度(%)及びAUCを表2に示す。
【0109】
【表2】
【0110】
表2より、血清中のCXCL10濃度に基づく判定では、AUCの値が約0.7であり、血清中のCXCL10濃度の値により、IPAFとIPFとの鑑別もできることがわかった。この判定では特異度が特に高いことから、血清中のCXCL10は、IPAFとIPFとの鑑別においてIPFが疑われる患者を除外するのに有用であることが示唆された。
【0111】
図10Aに示されるように、IPAF患者について、抗炎症療法の治療前の血清中のCXCL9濃度を横軸に、1年間の努力肺活量回復量(ΔFVC)を縦軸にプロットしたところ、血清中のCXCL9濃度とΔFVCとの間に有意な負の相関が認められた。このことから、血清中のCXCL9濃度が高い患者は、抗炎症療法による治療応答性が高いことが示唆された。また、
図10Bに示されるように、血清中のCXCL10濃度に関しても、統計学的な相関は得られなかったものの、低値であった患者では努力肺活量回復が認められなかったことから、同様の傾向が認められる。
【0112】
[実施例3]
(1) 生体試料
生体試料として、実施例1の間質性肺炎患者の血清を用いた。
【0113】
(2) バイオマーカーの測定
(2.1) CXCL9及びCXCL10の測定
各患者の血清中のCXCL9及びCXCL10の濃度値として、実施例1で取得した測定値を用いた。
【0114】
(2.2) KL-6の測定
各患者の血清中のKL-6濃度を、HISCL KL-6試薬(積水メディカル株式会社)を用いてHISCL-5000又はHISCL-2000i(シスメックス株式会社)により測定した。KL-6の測定手順は、実施例1のCXCL9の測定と同様であった。HISCL KL-6試薬には、ビオチン標識マウス抗KL-6モノクローナル抗体を含むR1試薬、STA結合磁性粒子を含むR2試薬、ALP標識マウス抗KL-6モノクローナル抗体を含むR3試薬、測定用緩衝液であるHISCL R4試薬、CDP-Star(登録商標)を含むHISCL R5試薬、HISCL洗浄液、及びKL-6キャリブレータが含まれていた。
【0115】
(2.3) MMP9の測定
実施例1の各患者の血清中のMMP9濃度を、enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)により測定した。MMP9の測定手順は、次のとおりであった。96ウェルプレートに0.5μg/mLで感作した抗MMP9マウスモノクローナル抗体に、検体希釈液にて5倍希釈した血清(100μL)と2時間反応させた。HISCL洗浄液(300μL)にて6回洗浄後、100μLのビオチン化ヤギ 抗ヒトMMP9抗体(0.1μg/mL,1%BSA 0.5%カゼインTEA pH7.4)を添加し2時間反応させた。HISCL洗浄液(300μL)にて6回洗浄後、100μLのストレプトアビジンALPを添加し20分間反応させた。HISCL洗浄液(300μL)にて6回洗浄後、1:2で混合したR4及びR5試薬を100μL添加しプレートリーダーで発光シグナルをカウントした。抗MMP9抗体は、R&Dシステムズ社Duoset DY911を用いた。
【0116】
(3) IPAFとIPFとの鑑別
血清中のCXCL9、CXCL10、KL-6及びMMP9の濃度を説明変数として用いて多重ロジスティック回帰分析を行った。この分析には、SPSS Statistics version 22.0(IBM社)を用いた。CXCL9とKL-6との組み合わせ、CXCL9とMMP9との組み合わせ、CXCL10とKL-6との組み合わせ、及びCXCL10とMMP9との組み合わせについて、実施例1のIPAF群(35名)とIPF群(51名)とを区別する最適なカットオフ値を求めた。設定したカットオフ値を用いた判定の感度、特異度及びAUCを算出した。この判定では、多重ロジスティック回帰分析により得られた予測値Pがカットオフ値以上であるとき、患者はIPAFであると判定した。また、予測値Pがカットオフ値より低いとき、患者はIPAFではないと判定した。得られたROC曲線を
図11〜14に示す。カットオフ値、判定の感度(%)、特異度(%)及びAUCを表3に示す。
【0117】
【表3】
【0118】
表3より、いずれのバイオマーカーの組み合わせに基づく判定でも、AUCの値が約0.7であった。当該組み合わせが、IPAFとIPFとの鑑別の指標となり得ることが示された。