【解決手段】充放電に伴い発熱する電池セル24を備え、電池セルは、冷却液との間で熱の授受を行うようになっている電池モジュールにおいて、電池セルは、通常の使用時に電流が流れる導電性の活電部24aと、通常の使用時に電流が流れない導電性の導電部24bの一方または両方において、少なくとも一部を覆うように設けられた被覆層25を備える。被覆層は、シリコン原子を含有する分子で構成されるシリコン含有粒子からなる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0011】
本実施形態の電池冷却システム1は、走行用電動モータ(図示略)から車両走行用の駆動力を得る電気自動車に搭載されている。電池冷却システム1は、エンジン(換言すれば内燃機関)および走行用電動モータから車両走行用の駆動力を得るハイブリッド自動車に搭載されていてもよい。本実施形態の電池冷却システム1は、車両に搭載された電池モジュール23を冷却する冷却装置として機能する。
【0012】
図1に示すように、電池冷却システム1は、冷凍サイクル装置10と、電池冷却部20とを有している。電池冷却部20では、冷却液による電池モジュール23の冷却が行われる。
【0013】
冷凍サイクル装置10は蒸気圧縮式冷凍機であり、冷媒が循環する冷媒循環流路11を有している。本実施形態の冷凍サイクル装置10では、冷媒としてフロン系冷媒を用いており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成している。冷媒循環流路11には、圧縮機12、凝縮器13、膨張弁14および蒸発器15が配置されている。
【0014】
圧縮機12は、電池モジュール23から供給される電力によって駆動される電動圧縮機であり、冷媒を吸入して圧縮して吐出する。凝縮器13は、圧縮機12から吐出された高圧側冷媒と外気とを熱交換させることによって高圧側冷媒を凝縮させる高圧側熱交換器である。
【0015】
膨張弁14は、凝縮器13から流出した液相冷媒を減圧膨張させる減圧部である。膨張弁14は、感温部を有し、ダイヤフラム等の機械的機構によって弁体を駆動する機械式の温度式膨張弁である。
【0016】
蒸発器15は、膨張弁14を流出した低圧冷媒と電池冷却部20の冷却液とを熱交換させることによって低圧冷媒を蒸発させる低圧側熱交換器である。蒸発器15で蒸発した気相冷媒は圧縮機12に吸入されて圧縮される。蒸発器15は、冷凍サイクル装置10の低圧冷媒によって電池冷却部20の冷却液を冷却するチラーである。
【0017】
電池冷却部20は、冷却液が循環する冷却液回路21を有している。冷却液は、冷却液回路21を構成する配管内に封入されている。冷却液として、エチレングリコール系の不凍液(LLC)等を用いることができる。
【0018】
冷却液回路21には、蒸発器15、冷却液ポンプ22、電池モジュール23が配置されている。
【0019】
冷却液ポンプ22は、冷却液回路21を循環する冷却液を吸入して吐出する。冷却液ポンプ22は電動式のポンプである。冷却液ポンプ22は、電池冷却部20を循環する冷却液の流量を調整する。
【0020】
電池モジュール23は、充放電可能な2次電池であり、例えばリチウムイオン電池を用いることができる。電池モジュール23は、車両停車時に外部電源(換言すれば商用電源)から供給された電力を充電可能となっている。電池モジュール23に蓄えられた電力は、走行用電動モータのみならず、電池冷却システム1を構成する電動式構成機器をはじめとする各種車載機器に供給される。
【0021】
電池モジュール23は、充放電に伴い発熱する。電池モジュール23は、冷却液回路21を流れる冷却液と熱交換して冷却される。例えば、電池モジュール23と接するように冷却用熱交換器を設け、冷却用熱交換器に冷却液が流通するようにすればよい。
【0022】
図2に示すように、本実施形態では、電池モジュール23として、複数個の電池セル24からなる組電池を用いている。電池セル24は、電極端子24aおよび電池ケース24bを備えている。なお、
図2では、被覆層25の図示を省略している。
【0023】
電極端子24aは、正極および負極である。電極端子24aは、例えばアルミニウムや銅などの金属からなる金属電極である。電極端子24aは、充放電時に電流が流れる活電部である。本明細書における活電部は、電池セル24を通常に使用した場合に電流が流れる導電性の部位である。
【0024】
電池ケース24bは、例えばアルミニウムからなる金属ケースである。電池ケース24bには、正極集電体、負極集電体、電解質、セパレータ等の構成要素が収容されている。電池ケース24bは、導電体で構成されている。電池ケース24bは、電流が流れ得る導電部であり、充放電時には電流が流れない。本明細書中における導電部は、電池セル24を通常に使用した場合に電流が流れない導電性の部位である。電池セル24を通常に使用した場合とは、充電時や放電時である。
【0025】
図3、
図4に示すように、電池セル24には、被覆層25が設けられている。被覆層25は、絶縁性を備える絶縁層である。さらに、被覆層25は撥水性も備えている。
【0026】
図3に示す例では、被覆層25が電池セル24における電極端子24aが設けられた面を覆うように設けられている。
図4に示す例では、被覆層25が電池ケース24bを含む電池セル24の全体を覆うように設けられている。
【0027】
被覆層25は、シリコン含有粒子によって構成されている。シリコン含有粒子は、シリコン原子を含有する分子で構成される粒子である。シリコン原子を含有する分子としては、例えばシロキサンを好適に用いることができる。シロキサンは、シリコン原子と酸素原子が交互に結合したシロキサン結合(Si−O)を骨格とする化合物である。
【0028】
シリコン含有粒子は、ナノサイズからマイクロサイズの粒子であり、10nm程度〜10μm程度の粒子径を有している。本実施形態では、粒径が1μm未満のナノサイズのシリコン含有粒子を用いており、シリコン含有粒子をシリコンナノ粒子ともいう。
【0029】
被覆層25のシリコン含有粒子は、電極端子24aや電池ケース24bを構成する金属の表面に対して、化学結合ではなく、分子間力によって結合している。分子間力は静電相互作用に基づく引力である。このため、分子間力による結合は、共有結合やイオン結合といった原子同士が結合する化学結合(分子内結合)に比べて弱い結合となっている。
【0030】
電池セル24では、表面に被覆層25が形成されていることで、絶縁機能および撥水機能が付与される。これにより、電池セル24に冷却液が漏出したとしても、電池セル24と冷却液との間に絶縁層である被覆層25が存在しているので、冷却水を介した液絡の発生を抑制することができる。
【0031】
次に、被覆層25を備える電池セル24の製造方法について説明する。
【0032】
〔第1工程:加熱処理〕
まず、電池セル24を加熱する加熱処理を行う。加熱処理では、電池セル24の電池性能に影響を与えない温度(例えば60℃以下)で加熱する。加熱処理によって、電池セル24の表面から水分が除去され、シリコン含有粒子が付着しやすくなる。
【0033】
〔第2工程:シリコン付着処理〕
次に、電池セル24にシリコン含有粒子を付着させるシリコン付着処理を行う。シリコン付着処理では、浸漬、ポッティング、スプレー等によって、電池セル24の表面にシリコン含有粒子を付着させることができる。本実施形態では、シリコン含有粒子を液体に分散させたシリコン分散液体に電池セル24を浸漬する浸漬処理を行う。
【0034】
浸漬処理では、電池セル24における被覆層25を形成する部位をシリコン分散液体に浸漬すればよい。例えば
図3に示す例では、電池セル24における電極端子24aが設けられた部位をシリコン分散液体に浸漬すればよい。
図4に示す例では、電池ケース24bを含む電池セル24の全体をシリコン分散液体に浸漬すればよい。
【0035】
シリコン含有粒子として、シロキサンナノ粒子を用いている。シリコン含有粒子を分散させる液体としては、オイルを用いている。オイルの種類は特に限定されず、原油や鉱物油等を用いることができる。オイルとして、原油や鉱物油よりも精製度の高い油を用いてもよい。
【0036】
浸漬処理において、シリコン分散液体におけるシリコン含有粒子の含有量を調整することで、シリコン分散液体の粘度を調整することができる。シリコン含有粒子の含有量を多くすることで、シリコン分散液体の粘度を高くすることができ、シリコン含有粒子の含有量を少なくすることで、シリコン分散液体の粘度を低くすることができる。シリコン分散液体の粘度を高くした場合には、電池セル24に形成する被覆層25を厚くすることができ、シリコン分散液体の粘度を低くした場合には、電池セル24に形成する被覆層25を薄くすることができる。
【0037】
本実施形態では、電池セル24をシリコン分散液体に浸漬する時間を30分間としている。浸漬処理後、空気流で電池セル24から余剰なシリコン分散液体を吹き飛ばす。
【0038】
〔第3工程:液体除去処理〕
次に、電池セル24の表面に付着したシリコン分散液体からオイルを除去する液体除去処理を行う。本実施形態では、電池セル24を加熱することで、オイルを気化させてシリコン分散液体からオイルを除去している。
【0039】
本実施形態の液体除去処理では、電池セル24の電池性能に影響を与えない温度(例えば60℃以下)で加熱する。液体除去処理の加熱温度は、オイルの種類によって変更すればよい。精製度が低いオイルであれば加熱温度を高くし、精製度が高いオイルであれば加熱温度を低くすればよい。
【0040】
液体除去処理によって、電池セル24の表面からオイルが除去され、電池セル24の表面にシリコン含有粒子からなる被覆層25を形成できる。
【0041】
液体除去処理では、電池セル24の表面からオイルを完全に除去する必要はなく、シリコン含有粒子が電池セル24の表面で保持できれば、電池セル24の表面にオイルが少量残留していてもよい。オイルは疎水性を有しているので、電池セル24の表面に残留したオイルは、電池セル24への水分の付着抑制に寄与する。
【0042】
以上の第1工程から第3工程を行うことで、表面に被覆層25が形成された電池セル24を得ることができる。
【0043】
ここで、本実施形態の電池セル24における被覆層25の耐久性を
図5を用いて説明する。
図5は、電池セル24を5%塩化ナトリウム水溶液に浸漬した場合のセル電圧の変化を示している。
図5では、実施例1、2と比較例のセル電圧の変化を示している。
【0044】
実施例1は、粘度が1000mPa・Sのゲル状のシリコン分散液体を用い、1mm以上の厚みを有する被覆層25を形成している。実施例2は、粘度が30mPa・S以下のシリコン分散液体を用い、10μm程度の厚みを有する被覆層25を形成している。比較例は、電池セル24に被覆層25が設けられていない。
【0045】
図5に示すように、比較例では、浸漬開始前のセル電圧が4.094Vであり、塩化ナトリウム水溶液への浸漬開始から6時間経過後にセル電圧の急激な低下が見られた。これに対し、実施例2では、浸漬開始前のセル電圧が4.086Vであり、塩化ナトリウム水溶液への浸漬開始から21時間経過後にセル電圧の急激な低下が見られた。実施例1では、浸漬開始前のセル電圧が4.085Vであり、塩化ナトリウム水溶液への浸漬開始から60時間経過後にセル電圧が3.650Vになった。実施例1では、セル電圧の急激な低下が発生しなかった。
【0046】
実施例1、2では、電池セル24に被覆層25を設けることで、電池セル24を塩化ナトリウム水溶液に浸漬した場合であっても、セル電圧の急激な低下の発生を防止でき、あるいは、セル電圧の急激な低下が発生するまでの時間を長くすることができる。
【0047】
以上説明した本実施形態によれば、電池セル24の電極端子24aや電池ケース24bにおいて、表面にシリコン含有粒子からなる被覆層25を設けることで、電極端子24aや電池ケース24bの表面に絶縁層を形成することができる。これにより、冷却液が漏出して電池セル24に接触しても、電極端子24aや電池ケース24bと冷却液との間に絶縁層である被覆層25が存在しているので、冷却水を介した液絡の発生を抑制することができる。
【0048】
また、被覆層25は撥水性を備えているので、電極端子24aや電池ケース24bの表面に冷却液が付着することを抑制できる。このため、冷却水を介した液絡の発生を効果的に抑制することができる。
【0049】
また、
図3に示した例では、活電部である電極端子24aの表面に被覆層25を形成している。これにより、漏電しやすい電極端子24aと冷却液との間に絶縁層が形成されるため、冷却水を介した液絡の発生を効果的に抑制することができる。
【0050】
また、
図4に示した例では、導電部である電池ケース24bの表面に被覆層25を形成している。これにより、面積が比較的大きくなる電池ケース24bと冷却液との間に絶縁層が形成されるため、冷却水を介した液絡の発生を効果的に抑制することができる。
【0051】
また、シリコン含有粒子からなる被覆層25は、高い耐久性を備えている。このため、被覆層25による絶縁性を長期間に渡って維持することができる。
【0052】
また、本実施形態では、シリコン含有粒子をオイルに分散させたシリコン分散液体を用いて電池セル24の表面に被覆層25を形成している。これにより、簡易な方法で電池セル24の表面に被覆層25を形成することができる。
【0053】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
【0054】
例えば、上記実施形態では、本発明の電池モジュールをリチウムイオン電池に適用したが、本発明の電池モジュールをリチウムイオン電池とは異なる種類の電池に適用してもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、
図4で活電部である電池ケース24bおよび導電部である電極端子24aの両方に被覆層25を形成した例を示したが、電池ケース24bのみに被覆層25を形成してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、
図3は電極端子24aの全体に被覆層25を形成した例を示し、
図4は電極端子24aおよび電池ケース24bの全体に被覆層25を形成した例を示したが、これらの部位の全体に限らず、少なくとも一部に被覆層25を形成すればよい。
【0057】
また、上記実施形態では、第3工程である液体除去処理において、電池セル24を加熱して電池セル24の表面に付着したシリコン分散液体からオイルを除去するようにしたが、加熱以外の方法によってオイルを除去するようにしてもよい。例えば、減圧によってオイルの気化温度を低下させ、シリコン分散液体からオイルを除去するようにしてもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、電池セル24の表面に形成する被覆層25を1層とした例について説明したが、複数の被覆層25を積層して形成してもよい。複数の被覆層25を積層する場合には、上述した第1工程〜第3工程を繰り返し行えばよい。被覆層25の積層数を多くすることで、被覆層25の厚みを大きくすることができ、耐久性を向上させることができる。