特開2020-182903(P2020-182903A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2020-182903カルボキシメチル化セルロースナノファイバー及び水溶性高分子を含む乳化剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-182903(P2020-182903A)
(43)【公開日】2020年11月12日
(54)【発明の名称】カルボキシメチル化セルロースナノファイバー及び水溶性高分子を含む乳化剤
(51)【国際特許分類】
   B01F 17/56 20060101AFI20201016BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20201016BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20201016BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20201016BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20201016BHJP
   A61Q 3/00 20060101ALI20201016BHJP
   A23L 29/10 20160101ALI20201016BHJP
   C09D 101/02 20060101ALI20201016BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20201016BHJP
   B01J 13/00 20060101ALI20201016BHJP
   C08L 101/14 20060101ALI20201016BHJP
   C08J 3/05 20060101ALI20201016BHJP
   C08B 11/12 20060101ALN20201016BHJP
【FI】
   B01F17/56
   A61K8/06
   A61K8/73
   A61Q19/00
   A61Q5/00
   A61Q3/00
   A23L29/10
   C09D101/02
   C09D201/00
   B01J13/00 A
   C08L101/14
   C08J3/05CEP
   C08B11/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-88028(P2019-88028)
(22)【出願日】2019年5月8日
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】井上 一彦
(72)【発明者】
【氏名】多田 裕亮
【テーマコード(参考)】
4B035
4C083
4C090
4D077
4F070
4G065
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4B035LE01
4B035LG26
4B035LK13
4B035LP21
4B035LP24
4C083AA122
4C083AD271
4C083AD272
4C083BB11
4C083BB36
4C083CC01
4C083DD31
4C083EE01
4C083FF01
4C083FF05
4C090AA08
4C090BA29
4C090BB04
4C090BB12
4C090BB33
4C090BB36
4C090BB52
4C090BB65
4C090BB84
4C090BB92
4C090BC10
4C090BD02
4C090BD19
4C090BD24
4C090BD36
4C090CA19
4C090CA32
4C090CA36
4C090DA04
4C090DA08
4C090DA26
4C090DA27
4C090DA40
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4D077AA04
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4D077DE10Y
4F070AA02
4F070AB03
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4F070AE28
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4F070CB02
4F070CB12
4G065AA01
4G065AB06Y
4G065AB09Y
4G065AB11Y
4G065AB32X
4G065AB33X
4G065BA07
4G065BA15
4G065BB01
4G065BB02
4G065CA02
4G065DA01
4G065DA02
4G065DA06
4G065EA01
4G065EA10
4G065FA01
4J002AA031
4J002AB032
4J002FA042
4J002GB00
4J002GH01
4J002HA07
4J038BA021
(57)【要約】
【課題】カルボキシメチルセルロースナノファイバーを含む乳化剤の提供。
【解決手段】カルボキシメチル化セルロースナノファイバーと水溶性高分子との混合物の乾燥固形物を含む乳化剤であって、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを100質量部とした際の水溶性高分子の量が5〜300質量部である、上記乳化剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーと水溶性高分子との混合物の乾燥固形物を含む乳化剤であって、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを100質量部とした際の水溶性高分子の量が5〜300質量部である、上記乳化剤。
【請求項2】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01〜0.50である、請求項1に記載の乳化剤。
【請求項3】
前記水溶性高分子が、カルボキシメチルセルロースまたはその塩である、請求項1または2に記載の乳化剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の乳化剤を含有する飲食品。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の乳化剤を含有する化粧品。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の乳化剤を含有する塗料。
【請求項7】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバー、水溶性高分子、及び溶媒を含む混合物を形成する工程、及び
前記混合物をドラム型乾燥装置を用いて乾燥する工程
を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の乳化剤の製造方法。
【請求項8】
前記乾燥する工程の前に、前記混合物のpHを9〜11に調整する工程をさらに含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の乳化剤を、水系媒体及び油系媒体の混合物に添加して、前記乳化剤、水系媒体、及び油系媒体の混合物を準備する工程、及び
前記乳化剤、水系媒体、及び油系媒体の混合物を撹拌して、水系媒体及び油系媒体が乳化した乳化物を調製する工程、
を含む乳化物の製造方法であって、
前記乳化剤、水系媒体、及び油系媒体の混合物を準備する工程において、前記乳化剤の固形分が0.05〜1.00質量%となるように前記乳化剤を添加し、
前記乳化物を調製する工程において、撹拌を、回転数1000〜8000rpmで行うことを含む、上記乳化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーと水溶性高分子とを特定の混合比で含む混合物の乾燥固形物である乳化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボキシメチル化セルロースは、セルロースのグルコース残基中の水酸基の一部に、カルボキシメチル基をエーテル結合させたものである。カルボキシメチル化したセルロースは、化粧品、医薬品、食品、各種工業製品等において、増粘剤、粘結剤、バインダー、吸水材、保水材、乳化安定剤などの各種添加剤として使用されている。カルボキシメチル化したセルロースは、天然セルロース由来であることから緩やかな生分解性を有するとともに焼却廃棄が可能である環境にやさしい素材であり、用途は今後拡大すると予測される。
【0003】
カルボキシメチル化セルロースにおいて、カルボキシメチル基の量が増えると(すなわち、カルボキシメチル置換度が増加すると)、カルボキシメチル化セルロースは水に溶解するようになる。一方、カルボキシメチル置換度を適度な範囲に調整することにより、水中でもカルボキシメチル化セルロースの繊維状の形状を維持させることができるようになる。繊維状の形状を有するカルボキシメチル化したセルロースは、機械的に解繊することにより、ナノスケールの繊維径を有するナノファイバーへと変換することができる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/088072号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カルボキシメチル化セルロースは、その増粘性、吸水性、保水性等の性質から、飲食品、化粧品、水系塗料など、様々な分野において添加剤として使用されている。また、カルボキシメチル化セルロースをナノファイバー化したカルボキシメチル化セルロースナノファイバーについても、様々な分野の添加剤として使用されることが期待されている。本発明は、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの新しい用途の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討した結果、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーに対し、特定の割合で水溶性高分子を混合してから乾燥させて乾燥固形物としたものは、水系媒体と油系媒体との混合物に添加して家庭用ミキサー程度の撹拌力(回転数1000〜8000rpm)で撹拌、混合した際に、水系媒体と油系媒体との乳化を促進し、長期間安定な(すなわち、水系媒体と油系媒体とが長期にわたって分離しにくい)乳化物を形成できることを見出した。
【0007】
本発明としては、以下に限定されないが、次のものが挙げられる。
[1]カルボキシメチル化セルロースナノファイバーと水溶性高分子との混合物の乾燥固形物を含む乳化剤であって、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを100質量部とした際の水溶性高分子の量が5〜300質量部である、上記乳化剤。
[2]カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01〜0.50である、[1]に記載の乳化剤。
[3]前記水溶性高分子が、カルボキシメチルセルロースまたはその塩である、[1]または[2]に記載の乳化剤。
[4][1]〜[3]のいずれか1項に記載の乳化剤を含有する飲食品。
[5][1]〜[3]のいずれか1項に記載の乳化剤を含有する化粧品。
[6][1]〜[3]のいずれか1項に記載の乳化剤を含有する塗料。
[7]カルボキシメチル化セルロースナノファイバー、水溶性高分子、及び溶媒を含む混合物を形成する工程、及び
前記混合物をドラム型乾燥装置を用いて乾燥する工程
を含む、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の乳化剤の製造方法。
[8]前記乾燥する工程の前に、前記混合物のpHを9〜11に調整する工程をさらに含む、[7]に記載の製造方法。
[9][1]〜[3]のいずれか1項に記載の乳化剤を、水系媒体及び油系媒体の混合物に添加して、前記乳化剤、水系媒体、及び油系媒体の混合物を準備する工程、及び
前記乳化剤、水系媒体、及び油系媒体の混合物を撹拌して、水系媒体及び油系媒体が乳化した乳化物を調製する工程、
を含む乳化物の製造方法であって、
前記乳化剤、水系媒体、及び油系媒体の混合物を準備する工程において、前記乳化剤の固形分が0.05〜1.00質量%となるように前記乳化剤を添加し、
前記乳化物を調製する工程において、撹拌を、回転数1000〜8000rpmで行うことを含む、上記乳化物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の乳化剤は、水系媒体及び油系媒体の混合物に添加して撹拌、混合した場合に、媒体と良好に混ざり合い、安定な乳化物の形成を促進することができる。乳化物の形成を必要とする様々な分野、例えば、これらに限定されないが、食品、化粧品、塗料などの分野における乳化剤として使用するのに適しているといえる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<カルボキシメチル化セルロースナノファイバー>
本発明において、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー(以下、「カルボキシメチル化」を「CM化」、セルロースナノファイバーを「CNF」と略すことがある。)は、カルボキシメチル化したセルロースを、ナノメートルレベルの繊維幅まで微細化することにより得られるものであり、通常は、繊維幅が約3〜数百nm程度、例えば、4〜500nm程度の微細繊維である。アスペクト比は、限定されないが、例えば、100以上である。CM化CNFのおよび平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維を観察した結果から得られる繊維径および繊維長の平均値を算出することによって得ることができる。また、平均繊維長を平均繊維径で除すことによりアスペクト比を算出することができる。CM化CNFは、CM化セルロースに機械的な力を加えて微細化(解繊)することによって得ることができる。
【0010】
CM化セルロースは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基の一部がカルボキシメチル基とエーテル結合した構造を有するものである。CM化セルロースは、塩の形態をとる場合もあり、本明細書でCM化セルロースという場合には、CM化セルロースの塩も含まれるものとする。CM化セルロースの塩としては、例えばCM化セルロースのナトリウム塩などの金属塩等が挙げられる。
【0011】
<セルロース原料>
CM化CNFの原料となるCM化セルロースを製造するためのセルロース原料としては、例えば、植物性材料(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物性材料(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするものを挙げることができ、それらのいずれも使用できる。好ましくは植物又は微生物由来のセルロース繊維であり、より好ましくは植物由来のセルロース繊維である。
【0012】
<セルロース原料のCM化>
CM化CNFの原料となるCM化セルロースは、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシメチル化することにより得てもよいし、市販品を用いてもよい。いずれの場合も、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.01〜0.50となるものが好ましい。そのようなCM化セルロースを製造する方法の一例として次のような方法を挙げることができる。
【0013】
セルロースを発底原料にし、溶媒として3〜20質量倍の水及び/又は低級アルコール、具体的には水、メタノール、エタノール、N−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合媒体を使用する。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5〜20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0〜70℃、好ましくは10〜60℃、かつ反応時間15分〜8時間、好ましくは30分〜7時間、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05〜10.0倍モル添加し、反応温度30〜90℃、好ましくは40〜80℃、かつ反応時間30分〜10時間、好ましくは1時間〜4時間、エーテル化反応を行う。
【0014】
CM化CNFの原料となるCM化セルロースは、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものであり、後述する水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースとは区別される。「カルボキシメチル化セルロース」の水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。一方、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースの水分散液を観察しても、繊維状の物質は観察されない。また、「カルボキシメチル化セルロース」はX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるが、水溶性高分子のカルボキシメチルセルロースではセルロースI型結晶はみられない。
【0015】
<CM化セルロースの解繊>
CM化セルロースを解繊することにより、CM化CNFを製造することができる。解繊に用いる装置は特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置を用いることができる。解繊の際にはCM化セルロースの分散体に強力なせん断力を印加することが好ましい。特に、効率よく解繊するには、前記分散体に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊及び分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて、前記分散体に予備処理を施してもよい。
【0016】
<カルボキシメチル置換度>
CM化CNFは、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01〜0.50であることが好ましい。カルボキシメチル置換度が0.01未満であると、水系媒体及び油系媒体の混合物に乳化剤を添加した際に沈殿したり、また凝集を生じるなどして均一な乳化物を形成させることが困難となる場合がある。また、カルボキシメチル置換度が0.50を超えると水系媒体への溶解が起こりやすくなり、繊維形態を維持できなくなり、乳化促進効果と乳化物の安定化効果が低減する可能性がある。カルボキシメチル置換度の下限値は、より好ましくは0.10以上であり、さらに好ましくは0.20以上である。カルボキシメチル置換度の上限値は、より好ましくは0.40以下である。CM化CNFのカルボキシメチル置換度は、原料となるCM化セルロースの製造時に反応させるカルボキシメチル化剤の添加量、マーセル化剤の量、水と有機溶媒の組成比率をコントロールすること等によって調整することができる。CM化セルロースのカルボキシメチル置換度と、それを解繊して得たCM化CNFのカルボキシメチル置換度とは、通常、同じである。
【0017】
本明細書において無水グルコース単位とは、セルロースを構成する個々の無水グルコース(グルコース残基)を意味する。また、カルボキシメチル置換度(エーテル化度ともいう。)とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基のうちカルボキシメチルエーテル基に置換されているものの割合(1つのグルコース残基当たりのカルボキシメチルエーテル基の数)を示す。なお、カルボキシメチル置換度はDSと略すことがある。
【0018】
カルボキシメチル置換度の測定方法は以下の通りである:
試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール(メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液)100mLを加え、3時間振盪して、カルボキシメチル化セルロースの塩(CMC)をH−CMC(水素型カルボキシメチル化セルロース)に変換する。その絶乾H−CMCを1.5〜2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。80%メタノール15mLでH−CMCを湿潤し、0.1N−NaOHを100mL加え、室温で3時間振盪する。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1N−HSOで過剰のNaOHを逆滴定し、次式によってカルボキシメチル置換度(DS値)を算出する。
A=[(100×F’−0.1N−HSO(mL)×F)×0.1]/(H−CMCの絶乾質量(g))
カルボキシメチル置換度=0.162×A/(1−0.058×A)
F’:0.1N−HSOのファクター
F:0.1N−NaOHのファクター。
【0019】
<セルロースI型の結晶化度>
CM化CNFにおけるセルロースI型の結晶化度は、乳化促進及び乳化物の安定化の観点から、好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは60%以上である。CM化CNFにおけるセルロースI型の結晶化度は、原料となるCM化セルロースの製造時のマーセル化剤の濃度と処理時の温度、並びにカルボキシメチル化の度合によって制御することができる。マーセル化及びカルボキシメチル化においては高濃度のアルカリが使用されるために、セルロースのI型結晶がII型に変換されやすいが、例えば、アルカリ(マーセル化剤)の使用量を調整して変性の度合いを調整することによって、所望の結晶性を維持させることができる。セルロースI型の結晶化度の上限は特に限定されない。現実的には90%程度が上限となると考えられる。CM化セルロースのセルロースI型の結晶化度と、それを解繊して得たCM化CNFのセルロースI型の結晶化度とは、通常、同じである。
【0020】
セルロースI型の結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD−6000、島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10゜〜30゜の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6゜の002面の回折強度と2θ=18.5゜のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
【0021】
Xc=(I002c―Ia)/I002c×100
Xc=セルロースのI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6゜、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5゜、アモルファス部分の回折強度。
【0022】
<水溶性高分子>
本発明において、水溶性高分子としては、例えば、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース)、キサンタンガム、キシログルカン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、プルラン、澱粉、かたくり粉、クズ粉、加工澱粉(カチオン化澱粉、燐酸化澱粉、燐酸架橋澱粉、燐酸モノエステル化燐酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化燐酸架橋澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化燐酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉)、コーンスターチ、アラビアガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ポリデキストロース、ペクチン、キチン、水溶性キチン、キトサン、カゼイン、アルブミン、大豆蛋白溶解物、ペプトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリセリン、ラテックス、ロジン系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド・ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミン、植物ガム、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー、ポリアクリル酸塩、でんぷんポリアクリル酸共重合体、タマリンドガム、グァーガム及びコロイダルシリカ並びにそれら1つ以上の混合物が挙げられる。この中でも、セルロース誘導体は、CM化CNFとの親和性が良好である点から好ましく、カルボキシメチルセルロース及びその塩は特に好ましい。カルボキシメチルセルロース及びその塩のような水溶性高分子は、アニオン変性セルロースナノファイバー同士の間に入りこみ、CNF間の距離を広げることで、再分散性を向上させると考えられる。また、デキストリンも上述の水溶性高分子として好ましく用いることができる。デキストリンは、増粘性が低く、透明度が高いため、CNFの粘度及び透明性に影響を与えにくく、CNFと任意の割合で混合して用いることができるという利点がある。
【0023】
水溶性高分子として、カルボキシメチルセルロース又はその塩を用いる場合には、無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.55〜1.60のカルボキシメチルセルロースを用いることが好ましく、0.55〜1.10のものがより好ましく、0.65〜1.10のものがさらに好ましい。また、分子が長い(粘度が高い)ものの方が、CNF間の距離を広げる効果が高いので好ましく、カルボキシメチルセルロースの1質量%水溶液における25℃、30rpmでのB型粘度は、3〜14000mPa・sが好ましく、7〜14000mPa・sがより好ましく、1000〜8000mPa・sがさらに好ましい。
【0024】
水溶性高分子とCM化CNFとの混合割合は、CM化CNF(絶乾固形分)を100質量部とした際に水溶性高分子が5〜300質量部となるような割合であり、好ましくは20〜300%質量部である。5質量部未満であると乳化剤が水系媒体及び油系媒体中に十分に混ざり合わなくなり、300質量部を超えると乳化性の低下などの問題が生じる。水溶性高分子の割合の下限値はさらに好ましくは25質量部以上である。水溶性高分子の割合の上限値はさらに好ましくは200質量部以下であり、より好ましくは60質量部以下である。
【0025】
<乾燥固形物>
CM化CNF、水溶性高分子、及び溶媒を含む混合物を乾燥させ、乾燥固形物を製造する。なお、本発明において、乾燥固形物とは、絶乾(溶媒量0質量%)状態のものまたは溶媒量が15質量%以下である湿潤状態のものをいう。輸送にかかる費用を低減させるという観点から、溶媒量は0〜15質量%が好ましく、0〜10質量%であることがより好ましい。
【0026】
乾燥前の混合物に含まれ得る溶媒は、特に限定されないが、水、親水性有機溶媒、疎水性有機溶媒またはこれらの混合溶媒であることが好ましい。CM化CNFの分散性を考慮すると、溶媒としては水、または水と親水性有機溶媒との混合溶媒が好ましい。溶媒とCM化CNFの混合物として、CM化セルロースを解繊して得たCM化CNFの分散液をそのまま用いてもよいし、当該分散液に乾燥またはろ過処理等の前処理を行い濃縮された分散液としてから用いてもよい。また、CM化セルロースの分散液またはCM化CNFの分散液に親水性有機溶媒を添加する、あるいは分散液の一部を親水性有機溶媒に置換して、CM化CNFと親水性有機溶媒を含む溶媒との混合物としてもよい。溶媒を水と親水性有機溶媒との混合溶媒とする場合は、親水性有機溶媒の量は、混合溶媒の質量に対し10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましい。当該量の上限は限定されないが95質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。
【0027】
親水性有機溶媒とは、水に溶解する有機溶媒をいう。その例としては、これらに限定されないが、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、グリセリン、アセトン、メチルエチルケトン、1,4−ジオキサン、N−メチル−2−ピロリドン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、およびこれらの組合せが挙げられる。中でもメタノール、エタノール、2−プロパノール等の炭素数が1〜4の低級アルコールが好ましく、安全性および入手容易性の観点から、メタノール、エタノールがより好ましく、エタノールがさらに好ましい。
【0028】
乾燥前のCM化CNFと溶媒との混合物は、さらに水溶性高分子を含む。水溶性高分子は、カルボキシメチル化する前のセルロース原料の分散液に添加してもよいし、解繊前のCM化セルロースの分散液に添加してもよいし、解繊後のCM化CNFの分散液に添加してもよいし、CM化CNFの分散液の溶媒の一部を親水性有機溶媒に置換した後に添加してもよい。
【0029】
CM化CNFと水溶性高分子と溶媒とを含む混合物は、乾燥前に、pHを9〜11に調整することが好ましい。pHを9〜11に調整した後に乾燥させると、水系媒体や油系媒体への分散性が良好となる。pHを調整する際には、水酸化ナトリウムなどを用いればよい。
【0030】
乾燥方法としては、公知のものを用いることができ、例えば、スプレイドライ、圧搾、風乾、熱風乾燥、及び真空乾燥を挙げることができる。乾燥装置は、特に限定されないが、連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、スプレードライヤ乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、ベルト乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置、回分式の箱型乾燥装置、通気乾燥装置、真空箱型乾燥装置、及び撹拌乾燥装置等を単独で又は2つ以上組み合わせて用いることができる。
【0031】
これらの中でも、薄膜を形成させて乾燥を行う装置を用いることが、均一に被乾燥物に熱エネルギーを直接供給でき、乾燥処理をより効率的に、短時間で行うことができるためエネルギー効率の点から好ましい。また、薄膜を形成させて乾燥を行う装置は、薄膜を掻き取る等の簡便な手段で直ちに乾燥物を回収できる点からも好ましい。さらに、薄膜を形成させてから乾燥させた場合には、再分散性がさらに向上することも見出された。薄膜を形成させて乾燥を行う装置としては、例えば、ドラムやベルト上に薄膜を形成させて乾燥させるドラム型乾燥装置やベルト型乾燥装置が挙げられる。中でも連続乾燥と乾燥物の回収が容易なドラム型乾燥装置が好ましい。
【0032】
ドラム型乾燥装置とは、加熱されたドラムを回転させつつドラム表面にCM化CNFと水溶性高分子と溶媒との混合物を連続的に供給し、溶媒の蒸発及び濃縮を行うと同時にドラム表面にCNFと水溶性高分子とを薄膜状に付着させて乾燥し、ドラム表面に形成された乾燥物をナイフで掻き取ることにより乾燥固形物を製造する装置である。ドラム型乾燥装置には、2本のドラムを用いるダブルドラム型またはツインドラム型の装置、あるいは1本のドラムを用いるシングルドラム型の装置があるが、いずれを用いてもよい。これらの中では、ドラム間のクリアランスを調整することで薄膜の膜厚の調整ができるダブルドラム型の装置は好ましい。
【0033】
乾燥させる薄膜の膜厚としては、50〜1000μmが好ましく、100〜300μmがさらに好ましい。50μm以上であると、乾燥後の掻き取りが容易であり、また、1000μm以下であると乳化時の水系媒体及び油系媒体への分散性の向上効果がみられる。
【0034】
乾燥温度は特に限定されない。例えば200℃以下程度の温度を用いて乾燥することができる。なお、薄膜を形成させて乾燥させるドラム型乾燥装置やベルト型乾燥装置を用いて乾燥を行う場合には、乾燥温度は、ドラムまたはベルト表面の温度をいうこととする。
【0035】
乾燥は常圧下で行ってもよいし、真空または減圧下で行ってもよい。このうち、真空または減圧下で乾燥を行うことは、水分の沸点を低下させ、蒸発速度を加速させ、対象物の乾燥を速めることができ、サンプルへの熱影響が軽減されるという利点が得られるので好ましい。
【0036】
真空または減圧下で乾燥(以下、「真空乾燥」とも呼ぶ)を行う場合は、0〜50kPaの範囲で乾燥を行うことが好ましい。低圧である方が水分をより低温で蒸発させることが出来るという利点が得られるため、50kPa以下であることが好ましく、30kPa以下であることがより好ましく、10kPa以下であることが更に好ましい。
【0037】
乾燥の際に、前記混合物を40〜100℃のような比較的低い温度において真空乾燥させて乾燥固形物を得ることは好ましい。乾燥温度が低いと生産効率が低下するため、乾燥温度は40℃以上であることが好ましく、45℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることが更に好ましい。また、乾燥温度が高いとセルロースの着色や損傷が生じるため100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、85℃以下であることがより好ましく、80℃以下であることが更に好ましく、80℃未満であってもよい。
【0038】
真空乾燥装置としては、特に限定されないが、真空式箱型乾燥装置、真空式ドラムドライヤ、真空式噴霧乾燥機、真空式ベルト乾燥機等を単独で又は2つ以上組み合わせて用いることができる。真空式ドラムドライヤとは、加熱されたドラムを真空または減圧下に配置しておき、ドラムを回転させつつドラム表面にCM化CNFと水溶性高分子と溶媒との混合物を連続的に供給し、溶媒の蒸発及び濃縮を行うと同時にドラム表面にCNFと水溶性高分子とを薄膜状に付着させて乾燥し、ドラム表面に形成された乾燥物をナイフで掻き取ることにより乾燥固形物を製造する装置である。
【0039】
得られた乾燥固形物は、適宜粉砕、分級などして、粉体状としてもよいが、それ以外の形態でもよい。粉体とする場合には、メディアン径が10.0〜150.0μm程度であることが好ましく、25.0〜100.0μmがより好ましく、35.0〜70.0μmがさらに好ましい。メディアン径が10.0μm以上であると、粉が舞うなどの問題が生じにくく、150.0μm以下であれば適度な嵩となるので粉体の詰め作業がしやすくなり好ましい。粉体のメディアン径は、粉砕、分級の条件の調整により調整することができる。
【0040】
なおメディアン径は、以下の手順により測定することができる:
分散媒としてメタノールを用い、散乱強度0.1〜20%となるようにサンプルを調製し、レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製、マスターサイザー3000)にて測定する。
【0041】
<乳化剤>
上記で得られた乾燥固形物は、水系媒体と油系媒体の混合物に添加して撹拌すると、水系媒体と油系媒体の乳化を促進することができ、乳化剤として好適に使用できる。本発明の乳化剤は、上述のCM化CNFと水溶性高分子の混合物の乾燥固形物を含む。乳化剤とは、水系媒体と油系媒体との混合物に添加して撹拌、混合した際に、水系媒体と油系媒体との乳化を促進し、また、乳化を安定化させる作用を有する剤をいう。剤が「乳化を促進する」とは、その剤がある場合に、その剤が無い場合と比べて、より少ないエネルギー(ミキサーの少ない回転数、少ない処理時間など)で乳化を形成できることをいう。また、剤が「乳化を安定化させる」とは、その剤がある場合に、その剤が無い場合と比べて、乳化物がより長期にわたり水系媒体と油系媒体とに分離せずに保持されることをいう。
【0042】
乳化剤は、上記の乾燥固形物の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、色素、賦形剤などを含んでいてもよい。
本発明の乳化剤は、CM化CNFと水溶性高分子の混合物の乾燥固形物を含んでおり、水系媒体と油系媒体の混合物に添加した際に、これらの媒体と良好に混ざり合い、高い乳化促進効果と、乳化物の安定化効果を発揮する。本発明の乳化剤は、飲食品、化粧品、塗料、医薬品、飼料、製紙等の様々な分野において好適に使用することができる。
【0043】
本発明の乳化剤は、飲食品に添加して使用することができる。飲食品としては、これらに限定されないが、ドレッシング、マヨネーズ、ホイップクリームなどが挙げられる。
本発明の乳化剤は、化粧品に添加して使用することができる。化粧品としては、これらに限定されないが、洗顔料、洗髪料、整髪料、ローション、クリーム、ネイルなどが挙げられる。
【0044】
本発明の乳化剤は、塗料に添加して用いることができる。その他、乳化が行なわれるもの、例えば、医薬品における軟膏、飼料(例えば、牛用代用乳等)などに添加して用いることができる。
【0045】
<乳化物の製造方法>
本発明の乳化剤を、水系媒体と油系媒体の混合物に添加して、撹拌、混合することにより、水系媒体と油系媒体との乳化を行わせ、乳化物を製造することができる。水系媒体とは、水及び水と任意の割合で混合可能な水溶性有機溶媒をいい、その例は、「乳化剤」の欄で上述した通りである。油系媒体とは、水に加えた際に混ざり合わない(分離する)常温で液状(粘性が高いが流動性があるものを含む)の物質をいう。水系媒体と油系媒体とは、それぞれ独立して、1種または複数の物質の混合物であってもよい。乳化対象である水系媒体と油系媒体との混合比率は特に限定されず、例えば、水系媒体:油系媒体(質量比)で1:99〜99:1の範囲であってもよい。
【0046】
水系媒体と油系媒体の混合物に添加する乳化剤の割合は、用いる水系媒体や油系媒体の種類、水系媒体と油系媒体との混合比率などによって異なり、特に限定されないが、例えば、水系媒体と油系媒体と乳化剤の混合物(またはそれから得られる乳化物)の質量に対して、乳化剤由来の固形分量(CM化CNFと水溶性高分子とを含む)が0.01〜5.00質量%となるような量で乳化剤を添加することは好ましく、0.02〜3.00質量%となるような量で乳化剤を添加することはさらに好ましく、0.05〜1.00質量%となるような量で乳化剤を添加することはさらに好ましく、0.10〜0.50質量%となるような量で乳化剤を添加することはさらに好ましい。水系媒体と油系媒体の混合物の種類に応じて、乳化剤をこのような量となるように添加することにより、長期間安定な(水系媒体と油系媒体とが分離しにくい)乳化物を形成できると考えられる。乳化剤由来の固形分量が0.50質量%以下であると、撹拌により生じ得る気泡が乳化物中に残ることを抑えることができるという利点がある。
【0047】
水系媒体と油系媒体の混合物に乳化剤を添加した後に、公知の混合、攪拌、乳化、または分散装置を用いて、水系媒体と油系媒体との乳化を行わせることができる。本発明の乳化剤は、水系媒体や油系媒体への混合性が良好であるため、高圧ホモジナイザーのような特殊な装置を用いることなく、家庭用のジューサーミキサー程度の撹拌力で乳化物を形成することができる。そのようなミキサーとしては、例えば、回転数が1000〜15000rpm、好ましくは1000〜12000ppm、さらに好ましくは1000〜8000rpm程度のミキサーが挙げられる。このようなミキサーを用いて、1分間以上、好ましくは2〜15分間程度、より好ましくは3〜10分間程度撹拌をすればよい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例及び比較例をあげてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、部および%は質量部および質量%を示す。
【0049】
(実施例1)
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、イソプロパノール(IPA)620部と、水酸化ナトリウム10部を水30部に溶解したものとを加え、広葉樹パルプ(日本製紙(株)製、LBKP)を100℃60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつIPA15部と、モノクロロ酢酸12部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。
【0050】
反応終了後、pH7になるまで酢酸で中和し、含水メタノールで洗浄、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.18のカルボキシメチル化セルロースを得た。
上記の工程で得られたカルボキシメチル化セルロースを水で1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で3回処理して、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー分散液を得た。得られた繊維は、平均繊維径が5nm、アスペクト比が150であった。
【0051】
得られたCM化CNF(カルボキシメチル置換度0.18、平均繊維径が5nm、アスペクト比が150)を用いて固形分濃度0.7質量%の水性懸濁液を調製し、ここにカルボキシメチルセルロース(商品名:F350HC−4、粘度(1質量%、25℃、30rpm)約3000mPa・s、カルボキシメチル置換度約0.90)を、CM化CNFに対して40質量%(すなわち、CM化CNFを100質量部としたときにカルボキシメチルセルロースが40質量部となるように)添加し、TKホモミキサー(6,000rpm)で5分間攪拌することにより、CM化CNFと水溶性高分子(カルボキシメチルセルロース)と溶媒(水)の混合物を調製した。この混合物のpHは7程度であった。この混合物に、水酸化ナトリウム水溶液を加え、pHを9に調整した。このときの混合物の固形分(CM化CNFとカルボキシメチルセルロースを含む)は、1.4質量%であった。
【0052】
次に、前記混合物(固形分1.4質量%)をドラム乾燥機(カツラギ工業社製)のドラム表面に塗布し、厚さ100〜200μm程度の薄膜を形成させ、ドラムドライヤのドラム表面温度を140℃、ドラム回転数2rpmで乾燥し、水分量5質量%の乾燥固形物(乳化剤)を得た。
【0053】
得られた乾燥固形物(乳化剤)を、水:食用油(キャノーラ油)=50:50(質量比)の混合物に、水と食用油と乳化剤との合計に対して乳化剤由来の固形分(CM化CNFとカルボキシメチルセルロースを含む)の割合が0.5質量%となるように、添加した。ホモミキサー(6000rpm)を用いて5分間撹拌して乳化物を調製し、室温で1週間静置して乳化状態を目視で確認したところ、水系媒体と油系媒体との分離は見られず、乳化を維持していた。乳化物内に若干気泡が見られた。
【0054】
(実施例2)
乳化剤を、乳化剤由来の固形分の割合が0.2質量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして行った。室温で1週間静置した後にも水系媒体と油系媒体との分離は見られず、乳化を維持していた。また、乳化物内に気泡が見られず、乳化物内の気泡の残留を抑制できた。
【0055】
(比較例1)
CM化CNFとカルボキシメチルセルロースとを含む乾燥固形物の代わりに、粉末状セルロース KCフロックW-50GK(日本製紙社製、メディアン径45μm、カルボキシメチル置換度0)を用いた以外は、実施例1と同様にした。ホモミキサーで撹拌したが、水系媒体と油系媒体が相分離したままであり、安定な乳化物は得られなかった。
【0056】
【表1】