【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、液体中もしくは気体中に浮遊して移動する移動体である。本発明の一態様は、液体中にあっては水密もしくは気体中であっては気密の円筒形または球形の回転殻と、該回転殻内に格納される回動制御装置と、を備え、該回動制御装置が、前記円筒の軸方向もしくは前記球の中心を通る軸方向に延在する前記回転殻の回転軸と、該回転軸を回転させる駆動部と、を有し、前記回転殻と前記回動制御装置とが前記回転軸によって軸架されている構成としている。
【0010】
前記構成は、回りにくさの指標となる慣性モーメントに注目して創出された。例えば、一つのスクリューを備えたモーターボートを考えると、スクリューと比べて船体の慣性モーメントは極めて大きい。そして、船体を回転させるためには水の抵抗も負荷されることから、船体の回りにくさはさらに増加する。そのため、スクリューを回転させても、船体は回転せず、スクリューの翼が水をかくことで推進力を得ている。
【0011】
本構成は、この考え方を応用し、水密・気密容器となる回転殻とこの回転殻と回転軸のみで連結された回動制御装置とし、両者の慣性モーメント(回りにくさ)、角運動エネルギの差によって、回転殻(外殻)が回動制御装置(中身)よりも絶対座標において高回転となるようにしている。
【0012】
このような構成とすることで、浮遊移動体は外環境に対して露出する部分が回転殻(外殻)のみとなり、外殻の材料選択だけで容易に耐環境性を備えることができる。そして、回転殻の回転によって、外環境となる液体もしくは気体との摩擦を生じ、推進力や撹拌力を発生させることができる。
【0013】
さらに、この構成では、可動部分と接触する軸受やシール等の静止部分との間に摩擦・摩耗が生じることがないため、摩擦・摩耗によるシーリングの劣化や、摩耗粉の発生のおそれを排除することができる。すなわち、シーリングの劣化による移動体への外的環境からの悪影響、摩耗粉の発生による外的環境への悪影響を排除することができる。
【0014】
前記態様の移動体において、前記回転軸の回転数および回転したときの前記回転殻と液体もしくは気体との間の抵抗力に応じて、前記回転殻と前記回動制御装置の重量および前記回転軸回りの形状を調整して前記回転軸回りの慣性モーメントを設定する構成とすることができる。
【0015】
前記したように、相互に回転する回動制御装置(中身の駆動部)と回転殻とは、絶対座標系において、異なる回転数となり、回転方向も異なる場合がある。ここで、「回転数」「回転方向」を決定するのは、1)回転する回転殻と周囲の流体間の抵抗、2)モータの駆動力、3)回転殻と回動制御装置の回転軸回りの慣性モーメント、となる。本構成によれば、浮遊移動体を使用する環境および要求される回転数に応じて、回転殻もしくは回動制御装置のいずれかにウェイト(錘)を装着して質量を増加させることや、軽量化を図ることや、回転軸回りの搭載機器の配置の変更や、外形状を変えることで対応することができる。
【0016】
前記態様の移動体において、前記回転殻の外殻には前記回転軸に対して対称位置となるように複数の羽根が配設されているように構成することができる。
【0017】
回転殻と周囲流体との摩擦だけでは移動の推進力を多く得られない。この構成によれば、回転殻に羽根を付加することで、移動もしくは撹拌の性能を向上させている。羽根を装着する箇所は、回転殻の外側でも、上側・下側でも良い。例えば、ラジアルタービン状の羽根を回転殻の上もしくは下に取り付けることでも、外側に羽根を付加することができる。また羽根の装着を対称位置とすることで回転体のバランスをとることができる。
【0018】
前記態様の移動体において、前記回転殻内には、前記移動体が浮遊する液体もしくは気体に応じて、前記移動体が浮力を有するように作動気体が封入されているように構成することができる。
【0019】
この構成は、浮遊移動体の質量と外環境となる気体もしくは液体の密度から、適宜回転殻内へ封入する作動気体の種類と注入量を設定した上で、封入することで、回転による推進力が無い状態においても所望の浮遊状態を実現することができる。この構成によれば、気体もしくは液体内において浮遊移動体を滞留させることができるため、動力推進のためのエネルギ消費をセーブすることができる。また、気体もしくは液体に流れがある場合は、その流れに乗せた浮遊移動をさせることもできる。
【0020】
なお、この構成に係る浮遊移動体を液体中において使用する場合には、漏れ出しても液体と反応しない不活性ガスや溶解しないガスを適用することができる。さらに封入する作動気体にはシール効果を向上させるように分子量の大きな気体を適用しても良い。
【0021】
前記態様の移動体において、前記回動制御装置が、前記駆動部の駆動を制御する制御部と、該制御部への信号を受信する受信部と、前記制御部と該受信部への電力を供給する電源部と、を備え、前記回転殻外から送信される前記信号に基づいて、前記駆動部を駆動させるように構成することができる。
【0022】
この構成によれば、外部からの無線通信によって浮遊移動体の回転を制御することができる。そして、回転駆動を制御することで浮遊移動体の移動や位置の保持等の運動を実現することができる。なお、電源部については通常の二次電池等を搭載することもできるし、回転殻表面、もしくは透明の回転殻としたときに回動制御装置の外面に太陽電池を配設することで電力を供給する形態としても良い。
【0023】
前記態様の移動体において、前記電源部には前記回転殻外から非接触で電力が供給されるように構成することができる。
【0024】
本構成は、いわゆるワイヤレス電力伝送であり、消費に応じて交換が必要な電池等の交換部品の交換時期を長期化して、メンテナンスフリーに近づけることができる。なお、ワイヤレス電力伝送の方式については特に限定はされず、磁気結合・電界結合・エバネセント波式などの非放射型であっても、レーザー・マイクロ波・超音波式などの放射型であっても、どちらでも良く、浮遊移動体が使用される環境等に応じて選択することができる。また、回転殻の外表面に太陽電池を配設して、外側から光を照射することで、電力を発生させるような構成とすることもできる。
【0025】
前記態様の移動体において、前記回動制御装置が、前記移動体の加速度、地磁気、前記回転殻内の温度、湿度、気圧を計測する計測装置と、該計測装置が取得したデータを前記回転殻外へ送信する送信部と、を備えるように構成することができる。
【0026】
この構成によれば、浮遊移動体の次の状態を確認することができる。すなわち、移動体の加速度では、解析結果で回転数を算出できるとともに、初期の位置座標と加速度の積分によって、液体中、気体中の位置を演算結果として算出することができる。地磁気では自己位置の推定ができる。回転殻内の温度では、多少のタイムラグはあるが、周囲温度の変化を取得できる。回転殻内の湿度、気圧では、浮遊移動体の水密・気密状態を取得できる。これらの物理量は、制御のフィードバック量、アラート情報の発信、外環境の状況等に利用することができる。なお、データの受送信については、電波によるものでも可視光通信でも良く、特に限定はされない。
【0027】
前記態様の移動体を前記液体が充填された容器内に配置された非接触撹拌装置とすることができる。
【0028】
本構成は、浮遊移動体を、撹拌装置として適用するものである。医薬・バイオ・ファインケミカルなどの製造における撹拌は、複数種の気体・流体・固体が、一様に分散・混合することが要求される。また、撹拌の際の異物混入を極力防止することも求められている。本構成にかかる浮遊移動体は、従来技術の撹拌装置と異なり、撹拌槽内を自由に浮遊移動しながら撹拌できるため、槽内の撹拌対象を一様に分散・混合させることが容易になる。
【0029】
そして、この構成では、可動部分と接触する軸受やシール等の静止部分との間に摩擦・摩耗が生じることがないため、摩擦・摩耗による、シーリングの劣化や、摩耗粉の発生のおそれを排除することができる。したがって、シーリングの劣化による移動体への外的環境からの悪影響、摩耗粉の発生による外的環境への悪影響を排除することができる。また、浮遊移動体は自立して浮遊移動をすることもできるため、どのような容器(撹拌槽)であっても、移動体自体を容器内に挿入することで容器内の液体を撹拌することができる。
【0030】
前記態様の非接触撹拌装置において、前記回動制御装置が第1磁石を備え、
該第1磁石に対応するように前記容器外に第2磁石が配設され、該第1磁石と該第2磁石との反発力もしくは吸引力によって前記浮力を調整するように構成することができる。
【0031】
この構成によれば、撹拌槽となる容器外と、回動制御装置とに磁石を備えることで、気体中もしくは液体中において浮遊移動体の位置を保持したり、撹拌槽の上面・底面・側壁への接触を防止したり、外部から所定の位置に移動させたり、することができる。なお、それぞれ装着される相対的な磁極の関係、すなわち、同極同士(反発)か異極同士(吸引)かは、前記した目的及び移動体自体の諸元に応じて適宜設定することができる。それぞれの磁石の配設箇所についても底面・上面・側面等、浮遊移動の要求に応じて適宜設定することができる。また、磁石については永久磁石であっても電磁石であってもいずれでも適用することができる。