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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-182964(P2020-182964A)
(43)【公開日】2020年11月12日
(54)【発明の名称】溶接用チップ
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/26 20060101AFI20201016BHJP
【FI】
   B23K9/26 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-88023(P2019-88023)
(22)【出願日】2019年5月8日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】土井 和徳
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001LH03
4E001MC01
(57)【要約】
【課題】チップ本体および硬質の先端部材を備えた溶接用チップにおいて、溶接ワイヤの送給方向への後退動作にともなって生じる不都合を抑制するのに適した溶接用チップを提供すること。
【解決手段】本発明の溶接用チップA1は、溶接ワイヤの送給方向後方X2側である基端側に溶接トーチに取り付けるための接続部11を有し、かつ軸線Oxに沿う第1ワイヤ挿通孔14を有し、金属材料からなるチップ本体1と、チップ本体1において送給方向前方X1側である先端側に装着され、第1ワイヤ挿通孔14と同心状の第2ワイヤ挿通孔24を有し、チップ本体1よりも硬質な金属材料からなる先端部材2と、を備え、先端部材2は、軸線Oxに対して直角である平面に沿う先端面22と、一端が第2ワイヤ挿通孔24の先端につながるとともに送給方向前方X1に向かうにつれて径方向寸法が大きくなり、他端が先端面22につながる、拡径孔25と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤの送給方向の後方側である基端側に溶接トーチに取り付けるための接続部を有し、かつ軸線に沿う第1ワイヤ挿通孔を有し、金属材料からなるチップ本体と、
上記チップ本体において上記送給方向の前方側である先端側に装着され、かつ上記第1ワイヤ挿通孔と同心状の第2ワイヤ挿通孔を有し、上記チップ本体よりも硬質な金属材料からなる先端部材と、を備え、
上記先端部材は、上記軸線に対して直角である平面に沿う先端面と、
一端が上記第2ワイヤ挿通孔の先端につながるとともに上記送給方向の前方に向かうにつれて径方向寸法が大きくなり、他端が上記先端面につながる、拡径孔と、を有する、溶接用チップ。
【請求項2】
上記拡径孔は、上記第2ワイヤ挿通孔につながるアール形状部を含む、請求項1に記載の溶接用チップ。
【請求項3】
上記アール形状部の曲率半径は、0.3mm以上である、請求項2に記載の溶接用チップ。
【請求項4】
上記拡径孔は、上記アール形状部よりも上記送給方向の前方側に位置し、かつ曲率半径が上記アール形状部よりも小である、追加のアール形状部を含む、請求項2または3に記載の溶接用チップ。
【請求項5】
上記アール形状部の曲率半径が10〜30mmの範囲であり、上記追加のアール形状部の曲率半径が0.3〜1mmの範囲である、請求項4に記載の溶接用チップ。
【請求項6】
上記アール形状部の上記送給方向における長さは、1〜3mmの範囲である、請求項5に記載の溶接用チップ。
【請求項7】
上記溶接ワイヤを上記送給方向の前方側への前進および後方側への後退をさせてアーク溶接を行うのに用いる、請求項1ないし6のいずれかに記載の溶接用チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチに取り付けて使用される溶接用チップに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば消耗電極アーク溶接において使用される溶接トーチは、いわゆるコンタクトチップ(溶接用チップ)からの給電を受けながら溶接ワイヤが送り出されるように構成される。溶接ワイヤは、溶接チップが有するワイヤ挿通孔に通され、溶接用チップ先端側でのワイヤ挿通孔の内面との接触により給電を受ける。この給電時には、溶接ワイヤと溶接用チップとの接触部分が高温となり、溶接ワイヤの送給によって溶接用チップにおける溶接ワイヤとの当該接触部分が摩耗する傾向にある。このような事情を鑑み、チップ先端部の摩耗を抑制可能な溶接用チップが提案されている(たとえば特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1に示された溶接用チップは、チップ本体の先端部に、先端部材が装着された構成とされている。先端部材は、チップ本体とは異なる別部材であり、チップ本体よりも硬質な金属材料からなる。先端部材は、略円柱形状をなす。チップ本体および先端部材には、中央の軸線に沿ってワイヤ挿通孔が一連に形成されている。このような構成の溶接用チップを用いてアーク溶接を行う際、給電時に溶接ワイヤと接触して高温となる先端部材が硬質であるため耐摩耗性に優れ、チップ先端部の摩耗を抑制することが可能である。
【0004】
アーク溶接時の溶接ワイヤの動きについては、溶接用チップのワイヤ挿通孔の軸線に沿う送給方向へ溶接ワイヤを前進させる(インチング)だけでなく、溶接ワイヤを後退させる(リトラクト)場合がある。アーク溶接時に溶接ワイヤを後退させる動作は、溶接品質の向上の観点から必要に応じて行われる。たとえば、アークスタート時に溶接ワイヤを前進させた後一度後退させる場合や、アークスタート後の定常溶接時に溶接ワイヤの前進動作と後退動作を周期的に繰り返す場合がある。
【0005】
上記特許文献1に記載された溶接用チップにおいて、先端部材のワイヤ挿通孔は、当該先端部材の先端面に通じて開口しており、当該開口部は、上記先端面と上記ワイヤ挿通孔とが交差して角が尖った形状となっている。上記した溶接ワイヤの後退動作の際には、先端部材の先端開口の角において溶接ワイヤの表面が削られ、その削れ屑がワイヤ挿通孔内にて送給方向の後方に引き戻される。溶接ワイヤの後退動作を繰り返すと、溶接ワイヤとワイヤ挿通孔の内面との隙間に上記した削れ屑が詰まり、溶接ワイヤの送給に支障を来す。そうすると、溶接用チップの交換等のメンテンナスが必要となり、長期使用の阻害要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−33983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、チップ本体および硬質の先端部材を備えた溶接用チップにおいて、溶接ワイヤの送給方向への後退動作にともなって生じる不都合を抑制するのに適した溶接用チップを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0009】
本発明によって提供される溶接用チップは、溶接ワイヤの送給方向の後方側である基端側に溶接トーチに取り付けるための接続部を有し、かつ軸線に沿う第1ワイヤ挿通孔を有し、金属材料からなるチップ本体と、上記チップ本体において上記送給方向の前方側である先端側に装着され、かつ上記第1ワイヤ挿通孔と同心状の第2ワイヤ挿通孔を有し、上記チップ本体よりも硬質な金属材料からなる先端部材と、を備え、上記先端部材は、上記軸線に対して直角である平面に沿う先端面と、一端が上記第2ワイヤ挿通孔の先端につながるとともに上記送給方向の前方に向かうにつれて径方向寸法が大きくなり、他端が上記先端面につながる、拡径孔と、を有する。
【0010】
好ましい実施の形態においては、上記拡径孔は、上記第2ワイヤ挿通孔につながるアール形状部を含む。
【0011】
好ましい実施の形態においては、上記アール形状部の曲率半径は、0.3mm以上である。
【0012】
好ましい実施の形態においては、上記拡径孔は、上記アール形状部よりも上記送給方向の前方側に位置し、かつ曲率半径が上記アール形状部よりも小である、追加のアール形状部を含む。
【0013】
好ましい実施の形態においては、上記アール形状部の曲率半径が10〜30mmの範囲であり、上記追加のアール形状部の曲率半径が0.3〜1mmの範囲である。
【0014】
好ましい実施の形態においては、上記アール形状部の上記送給方向における長さは、1〜3mmの範囲である。
【0015】
好ましい実施の形態においては、上記溶接ワイヤを上記送給方向の前方側への前進および後方側への後退をさせてアーク溶接を行うのに用いる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る溶接用チップによれば、硬質の先端部材において、第2ワイヤ挿通孔と先端面との間に拡径孔が設けられており、先端部材の先端開口は尖った形状とされていない。これにより、アーク溶接時に溶接ワイヤが送給方向の後方側に後退させられる際、先端部材の先端開口部分において溶接ワイヤの表面が削られることは、軽減される。したがって、溶接ワイヤの送給方向後方への後退動作にともなって生じる削れ屑の詰まり等を抑制することができ、長期使用が可能で耐久性に優れる。
【0017】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る溶接用チップの第1実施形態を示す側面図であり、一部を縦断断面図として表す。
図2図1に示す溶接用チップの先端部拡大断面図である。
図3】本発明に係る溶接用チップの第2実施形態を示し、図2と同様の断面図である。
図4】本発明に係る溶接用チップの第3実施形態を示し、図2と同様の断面図である。
図5】本発明に係る溶接用チップの第4実施形態を示し、図2と同様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0020】
図1および図2は、本発明に係る溶接用チップの第1実施形態を示す。本実施形態の溶接用チップA1は、溶接トーチ(図示略)に組み付けて使用するものである。アーク溶接時には上記溶接トーチに溶接ワイヤ(図示略)が送給され、当該溶接ワイヤは、溶接用チップA1を通過して母材側に送り出される。なお、図1および図2において、図中左方が溶接ワイヤの送給方向Xの後方(以下、適宜「送給方向後方X2」という)側であって、溶接用チップA1の基端側になる。図中右方が溶接ワイヤの送給方向Xの前方(以下、適宜「送給方向前方X1」という)側であって、溶接用チップA1の先端側になる。
【0021】
溶接用チップA1は、チップ本体1および先端部材2を備える。チップ本体1および先端部材2は、各々、金属材料からなる。
【0022】
チップ本体1は、接続部11、胴部12、先端部13、およびこれらに跨って形成された第1ワイヤ挿通孔14を有し、全体として軸線Oxに沿って延びている。接続部11は、溶接トーチのチップボディ(図示略)の先端に接続される部分である。接続部11の外周には雄ねじ部111が形成されており、当該雄ねじ部111を上記チップボディの雌ねじ部(図示略)に螺合することで溶接用チップA1が上記溶接トーチに組み付けられる。接続部11には、溶接ワイヤを通すための中心孔15が形成されている。中心孔15はテーパ状であり、上記溶接トーチに送給される溶接ワイヤ(図示略)が、中心孔15において芯出し案内されながら胴部12側に送られる。
【0023】
胴部12は、接続部11の先端につながっている。胴部12の外周面は、断面多角形状とされている。先端部13は、胴部12の先端につながっている。先端部13は、外周が先細りのテーパ状となっており、取付け凹部131および係止部132を有する。取付け凹部131は、先端部材2を装着するための概略円柱状の凹みであり、先端が開口している。係止部132は、先端部13において取付け凹部131が形成された筒状部分において径方向内側に突出する部位であり、後述の先端部材2の係止凹部23に嵌まっている。
【0024】
第1ワイヤ挿通孔14は、溶接ワイヤが通過可能な横断面円形状の貫通孔であり、軸線Oxに沿って形成されている。第1ワイヤ挿通孔14は、接続部11において中心孔15につながり、先端部13において取付け凹部131の形成箇所である先端縁まで延びている。第1ワイヤ挿通孔14を通過する溶接ワイヤの直径はたとえば0.8〜1.6mm程度であり、第1ワイヤ挿通孔14の内径は、たとえば1.0〜1.8mm程度である。チップ本体1の材質は、たとえば銅およびクロムを含む合金(クロム銅)である。ただし、チップ本体1の材質は限定されるものではない。チップ本体1は、溶接ワイヤよりも導電性に優れる。
【0025】
先端部材2は、チップ本体1の先端部13に装着されている。先端部材2は、軸線Oxに沿って延びる筒状とされており、大半がチップ本体1の取付け凹部131に収容されている。先端部材2は、基端面21、先端面22、係止凹部23、第2ワイヤ挿通孔24および拡径孔25を有する。基端面21および先端面22は、各々が軸線Oxに対して直角である平面に沿っている。基端面21は、送給方向後方X2を向いており、チップ本体1の取付け凹部131の奥側(送給方向後方X2側)端面に当接している。先端面22は、送給方向前方X1を向いており、溶接用チップA1において送給方向前方X1側端に位置する。係止凹部23は、先端部材2の先端側において外周が凹む部位である。係止凹部23には、チップ本体1の係止部132が嵌合している。これにより、先端部材2のチップ本体1からの脱落は防止される。
【0026】
第2ワイヤ挿通孔24は、溶接ワイヤが通過可能な横断面円形状の貫通孔である。第2ワイヤ挿通孔24は、軸線Oxに沿って形成されており、チップ本体1の第1ワイヤ挿通孔14と同心状である。第2ワイヤ挿通孔24は、内径寸法が第1ワイヤ挿通孔14と同一であり、第1ワイヤ挿通孔14の先端から連続してつながっている。第2ワイヤ挿通孔24は、先端部材2の先端寄りの領域を除いた部位に形成されている。
【0027】
拡径孔25は、軸線Oxに沿って形成された貫通孔であり、送給方向前方X1に向かうにつれて径方向寸法が大きくなっている。拡径孔25の基端(一端)は、第2ワイヤ挿通孔24の先端につながっている。拡径孔25の先端(他端)は、先端面22につながっている。
【0028】
図2に示すように、本実施形態において、拡径孔25は、アール形状部251およびアール形状部252を含む。アール形状部251,252は、各々、軸線Oxを含む縦断面形状が円弧形状とされた部位である。なお、図2においては、アール形状部251およびアール形状部252に互いに異なるハッチングを付している。
【0029】
アール形状部251は、第2ワイヤ挿通孔24の先端に滑らかにつながる。より具体的には、アール形状部251の縦断面における第2ワイヤ挿通孔24との接続部の接線は、第2ワイヤ挿通孔24に沿う。本実施形態において、アール形状部251の曲率半径は、たとえば10〜30mmの範囲であり、好ましくは15〜25mmである。ここで、アール形状部251の曲率半径とは、当該アール形状部251において軸線Oxを含む縦断面の円弧形状(図示された断面の円弧形状)の半径を意味し、後述のアール形状部252についても同様である。また、アール形状部251の送給方向Xにおける長さL1は、たとえば1〜3mmの範囲である。
【0030】
アール形状部252は、アール形状部251よりも送給方向前方X1側に位置する。アール形状部252は、送給方向後方X2側端がアール形状部251に滑らかにつながるとともに、送給方向前方X1側端が先端面22に滑らかにつながっている。本実施形態において、アール形状部252の曲率半径は、アール形状部251の曲率半径よりも小であり、たとえば0.3〜1mmの範囲である。このような構成のアール形状部252は、本発明で言う追加のアール形状部に相当する。
【0031】
先端部材2は、チップ本体1よりも硬質な金属材料よりなる。そのような先端部材2の材質としては、たとえば銅およびタングステンを含む合金(銅タングステン)を挙げることができる。ただし、先端部材2の材質は限定されるものではない。先端部材2は、溶接ワイヤよりも導電性に優れる。
【0032】
上記構成の溶接用チップA1は、たとえば次のような手順で作製される。まず、互いに別部材であるチップ本体1および先端部材2を準備する。ここで、チップ本体1において第1ワイヤ挿通孔14が形成されておらず、先端部材2において第2ワイヤ挿通孔24および拡径孔25が形成されていない。また、チップ本体1の先端部13において係止部132が形成されておらず、先端部13において取付け凹部131が形成された部位は、一定内径寸法の筒状である。次に、チップ本体1に先端部材2を装着する。ここで、先端部材2をチップ本体1の先端部13の取付け凹部131に嵌め、先端部13をかしめる。具体的には、先端部材2の基端面21を取付け凹部131の奥側端面に押し付けながら、先端部13の筒状先端部分を先端部材2の係止凹部23にかしめる。これにより、係止凹部23に係止部132が嵌合し、先端部材2がチップ本体1に一体的に固定される。上記のかしめ作業を複数回行ってもよい。先端部材2がチップ本体1に固定された状態において、チップ本体1と先端部材2とは、互いに隙間なく密着している。
【0033】
次に、チップ本体1および先端部材2に第1ワイヤ挿通孔14および第2ワイヤ挿通孔24を形成する。第1ワイヤ挿通孔14および第2ワイヤ挿通孔24の形成は、第1ワイヤ挿通孔14および第2ワイヤ挿通孔24の内径寸法に対応する外径寸法を有するドリルを用いて切削することにより行う。次に、先端部材2の先端部に拡径孔25を形成する。拡径孔25の形成は、たとえば拡径孔25の縦断面形状に対応する刃先部をもった切削バイトを用いて切削することにより行う。
【0034】
次に、本実施形態の溶接用チップA1の作用について説明する。
【0035】
溶接用チップA1は、図示しない溶接トーチに組み付けて使用される。溶接用チップA1を用いてアーク溶接を行う際、溶接ワイヤは、第1ワイヤ挿通孔14および第2ワイヤ挿通孔24内を通過しつつ、溶接用チップA1の先端側(送給方向前方X1側)において第2ワイヤ挿通孔24の内面との接触により給電を受ける。溶接用チップA1は、アーク溶接時に溶接ワイヤを送給方向前方X1側への前進および送給方向後方X2側への後退をさせる場合に好適に用いられる。アーク溶接時に溶接ワイヤを後退させる動作としては、アークスタート時に溶接ワイヤを前進させた後一度後退させる場合や、アークスタート後の定常溶接時に溶接ワイヤの前進動作と後退動作を周期的に繰り返す場合がある。
【0036】
本実施形態において、チップ本体1の先端部13に装着された硬質の先端部材2は、拡径孔25を有する。拡径孔25は、拡径孔25は、その基端(送給方向後方X2側端)が先端部材2の第2ワイヤ挿通孔24につながっており、送給方向前方X1に向かうにつれて径方向寸法が大きくなる。拡径孔25の先端(送給方向前方X1側端)は、軸線Oxに対して直角である先端面22につながる。
【0037】
このような構成によれば、第2ワイヤ挿通孔24と先端面22との間に拡径孔25が設けられており、先端部材2の先端開口は尖った形状とされていない。これにより、アーク溶接時に溶接ワイヤが送給方向後方X2側に後退させられる際、先端部材2の先端開口部分において溶接ワイヤの表面が削られることは、軽減される。したがって、溶接ワイヤの送給方向後方X2への後退動作にともなって生じる削れ屑の詰まり等を抑制することができ、溶接用チップA1は、長期使用が可能で耐久性に優れる。
【0038】
拡径孔25において第2ワイヤ挿通孔24につながる部分は、アール形状部251である。これにより、拡径孔25(アール形状部251)は第2ワイヤ挿通孔24の先端において滑らかにつながっている。このような構成によれば、溶接ワイヤが送給方向後方X2側に後退させられる際、当該溶接ワイヤ表面の削れがより軽減され、溶接用チップA1の耐久性がより向上する。
【0039】
拡径孔25は、アール形状部252をさらに有する。アール形状部252は、アール形状部251よりも送給方向前方X1側に位置し、曲率半径がアール形状部251よりも小である。本実施形態では、曲率半径が互いに異なるアール形状部251およびアール形状部252が設けられ、曲率半径が相対的に大きいアール形状部251は第2ワイヤ挿通孔24の先端につながっている。このよう構成は、溶接ワイヤの送給方向後方X2側への後退時において、溶接ワイヤの表面の削れを軽減するうえでより好ましい。また、曲率半径が相対的に小さいアール形状部252を先端側に設けることで、拡径孔25の送給方向Xにおける全長寸法が長くなることは、抑制される。これにより、溶接ワイヤの第2ワイヤ挿通孔24の内面との接触による給電ポイントから母材までの距離が比較的短くなり、供給電力量の増大を抑制することができる。
【0040】
拡径孔25の各部の具体的な寸法としては、たとえばアール形状部251の曲率半径が10〜30mmの範囲とされ、アール形状部252の曲率半径が0.3mmの範囲とされる。また、アール形状部251の送給方向Xにおける長さL1は、1〜3mmの範囲とされる。このような構成によれば、先端部材2自体のサイズが大きくなるのを抑制しつつ、曲率半径が互いに異なるアール形状部251,252を設けたことによる上記の作用効果が適切に得られる。
【0041】
本実施形態の効果を確認するために、溶接用チップA1および従来の構成の溶接用チップを用いて耐久性に関する実験を行った。従来の構成の溶接用チップとして、拡径孔25を設けず、先端部材に形成されたワイヤ挿通孔が先端面まで真っ直ぐ延びて先端部材の先端開口の角が尖った形状のものを用意した。このような従来構成の溶接用チップを用いて、アークスタート後の定常溶接時に溶接ワイヤの前進動作と後退動作を所定周期で繰り返した。定常溶接時の溶接ワイヤの前進・後退動作は1秒あたり100回の往復とし、1回の溶接で定常溶接を約60秒間継続した。即ち、1回の溶接作業において、溶接ワイヤの前進・後退動作は約6,000回であった。従来構成の溶接チップでは、このような溶接作業を繰り返し行ったところ、1,200回行った時点でワイヤ送給に支障を来した。そのときの溶接ワイヤの前進・後退動作の回数(総数)は、約720万回であった。
【0042】
一方、本実施形態の溶接用チップA1を用いて、アークスタート後の定常溶接時に溶接ワイヤの前進動作と後退動作を、上記従来構成の溶接用チップの場合と同じ周期で繰り返した。1回の溶接作業の継続時間も上記従来構成の場合と同様に約60秒とした。即ち、1回の溶接作業において、溶接ワイヤの前進・後退動作は約6,000回であった。溶接用チップA1では、溶接作業を4,800回行った時点(溶接ワイヤの前進・後退動作の回数にして約2,880万回)においてワイヤ送給に問題はなかった。これにより、本実施形態の溶接用チップA1は、溶接ワイヤのリトラクトを繰り返した場合、従来構成の溶接用チップの4倍以上の耐久性があることを確認できた。
【0043】
図3は、本発明に係る溶接用チップの第2実施形態を示す。本実施形態の溶接用チップA2においては、先端部材2における拡径孔25の構成が上記実施形態の溶接用チップA1と異なる。なお、図3以降において、上記した実施形態と同一または類似の要素については上記と同一の符号を付し、説明を適宜省略する。
【0044】
溶接用チップA2において、拡径孔25はアール形状部251のみを有する。アール形状部251は、第2ワイヤ挿通孔24の先端に滑らかにつながる。アール形状部251の曲率半径は10〜30mm程度であり、拡径孔25(アール形状部251)の送給方向Xにおける全長寸法は、1〜3mm程度である。
【0045】
溶接用チップA2の先端部材2においては、第2ワイヤ挿通孔24と先端面22との間に拡径孔25が設けられており、先端部材2の先端開口は尖った形状とされていない。これにより、アーク溶接時に溶接ワイヤが送給方向後方X2側に後退させられる際、先端部材2の先端開口部分において溶接ワイヤの表面が削られることは、軽減される。したがって、溶接ワイヤの送給方向後方X2への後退動作にともなって生じる削れ屑の詰まり等を抑制することができ、溶接用チップA2は、長期使用が可能で耐久性に優れる。
【0046】
図4は、本発明に係る溶接用チップの第3実施形態を示す。本実施形態の溶接用チップA3においては、先端部材2における拡径孔25の構成が上記実施形態の溶接用チップA1と異なる。
【0047】
溶接用チップA3において、拡径孔25はアール形状部251およびテーパ形状部253を含む。テーパ形状部253は、アール形状部251よりも送給方向前方X1側に位置する。テーパ形状部253は、軸線Oxを含む縦断面形状が直線状とされた部位である。
【0048】
溶接用チップA3の先端部材2においては、第2ワイヤ挿通孔24と先端面22との間に拡径孔25が設けられており、先端部材2の先端開口は尖った形状とされていない。これにより、アーク溶接時に溶接ワイヤが送給方向後方X2側に後退させられる際、先端部材2の先端開口部分において溶接ワイヤの表面が削られることは、軽減される。したがって、溶接ワイヤの送給方向後方X2への後退動作にともなって生じる削れ屑の詰まり等を抑制することができ、溶接用チップA3は、長期使用が可能で耐久性に優れる。
【0049】
図5は、本発明に係る溶接用チップの第4実施形態を示す。本実施形態の溶接用チップA4においては、先端部材2における拡径孔25の構成が上記実施形態の溶接用チップA1と異なる。
【0050】
溶接用チップA4において、拡径孔25はアール形状部251のみを有する。アール形状部251は、送給方向後方X2側端が第2ワイヤ挿通孔24の先端に滑らかにつながるとともに、送給方向前方X1側端が先端面22に滑らかにつながっている。アール形状部251の曲率半径は0.3mm以上であり、好ましくは0.3〜1mmの範囲である。
【0051】
溶接用チップA4の先端部材2においては、第2ワイヤ挿通孔24と先端面22との間に拡径孔25が設けられており、先端部材2の先端開口は尖った形状とされていない。これにより、アーク溶接時に溶接ワイヤが送給方向後方X2側に後退させられる際、先端部材2の先端開口部分において溶接ワイヤの表面が削られることは、軽減される。したがって、溶接ワイヤの送給方向後方X2への後退動作にともなって生じる削れ屑の詰まり等を抑制することができ、溶接用チップA4は、長期使用が可能で耐久性に優れる。
【0052】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
【符号の説明】
【0053】
A1,A2,A3,A4:溶接用チップ、1:チップ本体、11:接続部、13:先端部、14:第1ワイヤ挿通孔、2:先端部材、22:先端面、24:第2ワイヤ挿通孔、25:拡径孔、251:アール形状部、252:アール形状部(追加のアール形状部)、L1:長さ(アール形状部の送給方向における長さ)、Ox:軸線、X:送給方向、X1:送給方向前方、X2:送給方向後方
図1
図2
図3
図4
図5