【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 刊行物名:高分子学会予稿集 67巻,1号,第1Pa101頁、発行者:公益社団法人 高分子学会、発行年月日:平成30年5月8日 集会名:第67回高分子学会年次大会、開催日:平成30年5月23日
【解決手段】直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーと、2つのカルボキシル基を備え、4以上の炭素原子を備えたキラルなジカルボン酸化合物と、を含んでなる酸塩基型錯体のキラル超分子結晶に加水分解性の珪素化合物を作用させる加水分解縮合反応により、キラル超分子結晶の表面にシリカ層を形成させた複合体を得るシリカ層形成工程と、上記複合体を酸処理して酸処理複合体を得る酸処理工程と、上記酸処理複合体を由来とする被処理粒子の存在下、エチレン性不飽和結合を有する化合物をモノマーとしてラジカル重合させて、当該モノマーを繰り返し単位として含むポリマーを前記被処理粒子の表面に形成させて樹脂複合体を得る重合工程と、上記樹脂複合体から上記シリカ層を形成するシリカを除去する除去工程と、を備えたキラルポリマーの製造方法。
直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーと、2つのカルボキシル基を備え、4以上の炭素原子を備えたキラルなジカルボン酸化合物と、を含んでなる酸塩基型錯体のキラル超分子結晶に加水分解性の珪素化合物を作用させる加水分解縮合反応により、前記キラル超分子結晶の表面にシリカ層を形成させた複合体を得るシリカ層形成工程と、
前記複合体を酸処理して酸処理複合体を得る酸処理工程と、
前記酸処理複合体を由来とする被処理粒子の存在下、エチレン性不飽和結合を有する化合物をモノマーとしてラジカル重合させて、当該モノマーを繰り返し単位として含むポリマーを前記被処理粒子の表面に形成させて樹脂複合体を得る重合工程と、
前記樹脂複合体から前記シリカ層を形成するシリカを除去する除去工程と、を備えたキラルポリマーの製造方法。
前記重合工程において、前記被処理粒子に前記モノマーを接触させた後、前記モノマーが非水溶性であれば水溶性溶媒中で、前記モノマーが水溶性であれば非水溶性溶媒中で、前記ラジカル重合を行うことを特徴とする、請求項1記載のキラルポリマーの製造方法。
前記酸処理複合体に、求核試薬に対して脱離基となる置換基を備えたアルキル基がベンゼン環に結合した構造を有する化合物を作用させることで、前記ポリエチレンイミンの窒素原子が三級化した三級化複合体を得る三級化工程をさらに含み、この工程で得た三級化複合体を前記被処理粒子として重合工程に付すことを特徴とする、請求項1又は2記載のキラルポリマーの製造方法。
前記酸処理複合体を焼成することでキラルなシリカ粒子を得た後、そのシリカ粒子にシランカップリング剤を作用させて表面処理シリカを得る表面処理工程をさらに含み、この工程で得た表面処理シリカを前記被処理粒子として重合工程に付すことを特徴とする、請求項1又は2記載のキラルポリマーの製造方法。
エチレン性不飽和結合を有する化合物をモノマーとした繰り返し単位を含み、円二色性スペクトル測定において正又は負のコットン効果が観察されることを特徴とするキラルポリマー。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のキラルポリマーの製造方法の第一実施態様及び第二実施態様、並びにキラルポリマーの一実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施態様及び実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0024】
<キラルポリマーの製造方法の第一実施態様>
本発明に係るキラルポリマーの製造方法は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーと、2つのカルボキシル基を備え、4以上の炭素原子を備えたキラルなジカルボン酸化合物と、を含んでなる酸塩基型錯体のキラル超分子結晶に加水分解性の珪素化合物を作用させる加水分解縮合反応により、上記キラル超分子結晶の表面にシリカ層を形成させた複合体を得るシリカ層形成工程と、上記複合体を酸処理して酸処理複合体を得る酸処理工程と、上記酸処理複合体を由来とする被処理粒子の存在下、エチレン性不飽和結合を有する化合物をモノマーとしてラジカル重合させて、当該モノマーを繰り返し単位として含むポリマーを上記被処理粒子の表面に形成させて樹脂複合体を得る重合工程と、上記樹脂複合体から上記シリカ層を形成するシリカを除去する除去工程と、を備える。本発明に係るキラルポリマーの製造方法が上記の各工程を備えることにより、まず、キラルなジカルボン酸化合物の持つキラリティーの反映された超分子結晶が鋳型となり、その鋳型をもとにして超分子結晶の表面に形成されたシリカ層に当該キラリティーが転写される。その後、酸処理により超分子結晶の粒子から上記ジカルボン酸化合物を除去した後、その粒子の表面でモノマーをラジカル重合させ、最後にシリカ層を除去することにより、シリカ層のキラリティーの転写されたキラルポリマーが生成する。このキラルポリマーは、シリカ層が持っていたキラリティーが転写されており円二色性を示すので、例えば、円二色性を利用したセキュリティー用途等の用途で用いることができる。
【0025】
なお、本発明の実施態様としては、酸処理複合体としてからラジカル重合を行うまでの間の処理に応じて、第一実施態様と第二実施態様とに分類することが可能である。まずは第一実施態様について、以下各工程を説明する。
【0026】
[シリカ層形成工程]
シリカ層形成工程では、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーと、2つのカルボキシル基を備え、4以上の炭素原子を備えたキラルなジカルボン酸化合物と、を含んでなる酸塩基型錯体のキラル超分子結晶に加水分解性の珪素化合物を作用させる。この工程により、上記キラル超分子結晶の表面にシリカ層を形成させた複合体が得られる。
【0027】
本発明で用いられる直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーは、下記化学式で表される構造を分子内に備える。下記化学式で表される構造には二級のアミノ基が含まれ、このアミノ基の窒素原子が後述するキラルなジカルボン酸化合物に含まれるカルボキシル基と相互作用して酸塩基型の錯体を形成する。上記キラルなジカルボン酸化合物は、二個のカルボキシル基を備えた二塩基酸であり、二分子のポリマーに含まれるアミノ基のそれぞれと錯体を形成することができるので、ポリマーは、キラルなジカルボン酸化合物によって架橋される。その結果、複数のポリマーと複数のキラルなジカルボン酸化合物とが自己組織化した構造を備えた酸塩基型錯体型の超分子結晶が形成される。この超分子結晶は、上記キラルなジカルボン酸化合物に誘起された、構造的なキラリティーを備える。
【0028】
【化3】
(上記化学式中、nは1以上の整数である。)
【0029】
直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーは、分子内に上記化学式で示す直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えていれば足り、その他の部分の構造は特に問わないので、線状構造はもちろん、星状、櫛状の構造であってもよく、上記化学式からなるホモポリマーであってもよいし、他の繰り返し単位も備えた共重合体であってもよい。直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーが共重合体である場合、当該ポリマー中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格部分のモル比が20%以上であれば安定な結晶を形成できるとの観点から好ましく、直鎖状ポリエチレンイミン骨格の繰り返し単位数が10以上となるブロック共重合体であることがより好ましい。直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーは、上記化学式からなるホモポリマーであることが最も好ましい。
【0030】
また、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーとしては、後述するキラルなジカルボン酸化合物との間で結晶性の会合体を形成させる能力が高いほど好ましい。したがって、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーは、ホモポリマーであっても共重合体であっても、上記化学式で示される直鎖状ポリエチレンイミン骨格部分に相当する部分の分子量が500〜1,000,000程度の範囲であることが好ましい。これら直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーは、市販品を用いてもよいし、本発明者らが特開2009−30017号公報等に開示した合成法によって得ることもできる。
【0031】
本発明で用いられるキラルなジカルボン酸化合物は、4以上の炭素原子を備える。既に述べたように、このジカルボン酸化合物の備える2個のカルボキシル基が上記のポリマーを架橋して超分子結晶を形成させるとともに、このジカルボン酸に由来する構造的なキラリティーが、形成される超分子結晶に誘起される。ジカルボン酸化合物はD−体であってもL−体であってもよい。なお、ジカルボン酸化合物の光学純度は、必ずしも100%eeである必要はなく、90%ee以上であることが好ましく、95%ee以上であることがより好ましく、98%ee以上であることがさらに好ましい。
【0032】
ジカルボン酸化合物としては、4以上の炭素原子と2個のカルボキシル基と不斉炭素とを備えるものであればよく、直鎖状であるか分枝状であるかを問わない。このようなジカルボン酸化合物としては、酒石酸、アルトラル酸、グルカル酸、マンナル酸、グルロン酸、イダル酸、ガラクタル酸、タルロン酸等が例示され、酒石酸が好ましく例示される。
【0033】
本発明で用いられる加水分解性の珪素化合物は、水と反応することにより加水分解され縮合反応を生じさせるものであればよい。このような化合物としては、テトラメトキシシラン、トリメトキシシラン、ジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリエトキシシラン、ジエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、トリプロポキシシラン、ジプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、トリイソプロポキシシラン、ジイソプロポキシシラン等のアルコキシシラン、ジクロロシラン、テトラクロロシラン等のハロゲン化シラン、オルトケイ酸テトラエチル等を挙げることができる。これらの中でも、アルコキシシランが好ましく挙げられ、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が特に好ましく挙げられる。これらの珪素化合物は、一種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
本工程では、まず、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーとキラルなジカルボン酸とを水中で作用させて、これらと水分子とからなる超分子結晶を形成させる。次に、このような超分子結晶を形成させるための一態様について説明する。この態様では、ポリマー水溶液調製小工程と、ジカルボン酸水溶液調製小工程と、混合小工程と、析出小工程と、を順次行う。以下、これらの工程について説明する。
【0035】
ポリマー水溶液調製小工程では、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーの水溶液が調製される。このとき、水溶液を調製するのに用いる水は、加温されることにより、80℃以上の熱水となっていることが好ましい。また、このとき用いられる直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーについては、既に述べた通りである。
【0036】
ポリマーの水溶液を調製する手順の一例としては、ポリマーの粉末を蒸留水に加え、それを80℃以上まで加熱することによってポリマーを溶解させることを挙げることができる。このとき、水溶液におけるポリマーの濃度は、0.5〜8質量%の範囲であることが好ましい。
【0037】
調製されたポリマーの水溶液は、加温された状態のままで、後述の混合小工程に付される。
【0038】
ジカルボン酸水溶液調製小工程は、特に限定されないが、上記のポリマー水溶液調製小工程と並行して行われることが好ましい。この小工程では、上述のジカルボン酸化合物の水溶液を調製する。ここで用いられるジカルボン酸化合物はキラル(光学活性体)である。なお、水溶液を調製するのに用いる水は、加温されることにより、80℃以上の熱水となっていることが好ましい。
【0039】
ジカルボン酸化合物の水溶液を調製する手順の一例としては、当該ジカルボン酸化合物の粉末を蒸留水に加え、それを80℃以上まで加熱することによってジカルボン酸化合物を溶解させることを挙げることができる。このとき、水溶液におけるジカルボン酸化合物の濃度は、0.5〜15質量%の範囲であることが好ましい。
【0040】
調製されたジカルボン酸化合物の水溶液は、加温された状態のままで、後述の混合小工程に付される。
【0041】
混合小工程では、上記のポリマーの水溶液とジカルボン酸化合物の水溶液とを混合させて混合水溶液を得る。このとき、混合される2つの水溶液は、いずれも80℃以上程度の温度に加温されていることが好ましい。
【0042】
ポリマーの水溶液とジカルボン酸化合物の水溶液とを混合させる際、ポリマーの直鎖状ポリエチレンイミン骨格に含まれる二級アミノ基1当量に対して、ジカルボン酸化合物に含まれるカルボキシル基が、0.5〜1.5当量であることが好ましく、0.9〜1.1当量であることがより好ましく、1当量であることがさらに好ましい
【0043】
この小工程で調製された混合水溶液は、析出小工程に付される。
【0044】
析出小工程では、混合小工程で得られた混合水溶液中にポリマーとジカルボン酸化合物との酸塩基型錯体を析出させる。この酸塩基型錯体は、既に述べたように、キラルな超分子結晶(キラル超分子結晶)である。なお、以下の記載では、キラル超分子結晶のことを単に超分子結晶とも呼ぶ。
【0045】
この小工程を行うにあたり、加温された状態である混合水溶液を冷却する。このときの冷却方法については、特に限定されるものでないが、一例として空気雰囲気下で自然冷却して室温まで水温を下げる方法を挙げることができる。この過程で水溶液中に白い固体が析出するが、この粉末は、ナノサイズである酸塩基型錯体の結晶(超分子結晶)が凝集してできた多孔質の複合体である。なお、上記のように自然冷却を行うに際して、混合された水溶液を静置したまま放置してもよいし、当該水溶液に撹拌や振動を与えることによって固体の析出を促進してもよい。得られた白色の析出物は、濾別等の手段により単離される。単離された後の析出物を蒸留水やエタノール、アセトン等の有機溶媒で適宜洗浄し、乾燥させてもよい。
【0046】
上記のようにして得られた超分子結晶は、上述の加水分解性の珪素化合物との反応に付される。この反応は、水中に分散させたキラル超分子結晶に、加水分解性の珪素化合物、又は加水分解性の珪素化合物と水との混合物を加えて撹拌することにより行われる。この過程で加水分解性の珪素化合物は、加水分解縮合反応を生じ、キラル超分子結晶の表面にシリカ層を形成させる。この層には、珪素原子(Si)と酸素原子(O)とからなるポリマー[(−Si−O−)
n]や、珪素の水酸化物等が含まれるが、本発明ではこれらもシリカとして扱う。
【0047】
キラル超分子結晶と加水分解性の珪素化合物との混合比は、特に限定されず、キラル超分子結晶のほぼ全体にシリカ層が形成されるように適宜調節すればよい。このような混合比の一例として、加水分解性の珪素化合物としてテトラメトキシシランを用いた場合には、1.2g程度のキラル超分子結晶に対して、80mLの水と12mLのテトラメトキシシランとを加えることを挙げられるが、特に限定されない。また、この反応を行うにあたり、室温で2時間程度撹拌することを反応条件として挙げることができるが、特に限定されない。
【0048】
シリカ層形成工程を経て、キラル超分子結晶の表面にシリカ層が形成された複合体は、酸処理工程に付される。
【0049】
[酸処理工程]
酸処理工程では、シリカ層形成工程で得られた複合体を酸処理する。これにより、複合体に含まれる超分子結晶からジカルボン酸化合物が除去され、上記複合体は酸処理複合体となる。その結果、複合体には、超分子結晶を構成していた直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーと、シリカ層とが残される。キラル源となるジカルボン酸化合物が複合体から除去されるが、ジカルボン酸化合物のキラリティーはシリカ層へ転写されており、この工程を経た複合体は、依然として構造的なキラリティーを有している。また、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーとジカルボン酸化合物の超分子結晶からジカルボン酸化合物が除去されることにより、塩基触媒を必要とする後述の重合工程にて、ポリエチレンイミン骨格に含まれる二級アミノ基が塩基触媒として機能することになる。
【0050】
酸処理のために用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等の酸を例示できる。酸として例えば塩酸を用いる場合、2.5mol/L程度の塩酸水溶液に上記複合体を加え、室温で1時間程度撹拌すればよい。塩酸水溶液の量としては、複合体1gに対して50mL程度を例示できるが、特に限定されず、複合体の分散の程度を観察しながら適宜増減すればよい。
【0051】
上記酸処理の後、複合体の分散された酸水溶液から遠心分離等の手段により複合体を分取し、希アンモニア水、次いで蒸留水で洗浄する。洗浄後に複合体を分離し、これを乾燥させることにより酸処理複合体が得られる。
【0052】
酸処理工程で調製された酸処理複合体は、三級化工程に付される。
【0053】
[三級化工程]
三級化工程は、後述する重合工程にて用いられる被処理粒子を調製する工程である。本工程では、酸処理工程を経た酸処理複合体に、求核試薬に対して脱離基となる置換基を備えたアルキル基がベンゼン環に結合した構造を有する化合物を作用させることで、上記ポリエチレンイミンの窒素原子が三級化した三級化複合体を得る。酸処理複合体には、上記キラル超分子結晶に由来するポリエチレンイミンが含まれており、本工程では、このポリエチレンイミンのイミノ基(二級アミノ基)の求核性を備えた窒素原子と、求核試薬に対して脱離基となる置換基を備えたアルキル基がベンゼン環に結合した構造を有する化合物とを反応させる。これにより、酸処理複合体のポリエチレンイミンの窒素原子が三級化し、アルキルベンゼン骨格が酸処理複合体に導入される。この処理を受けた酸処理複合体を三級化複合体と呼ぶ。
【0054】
後述する重合工程に備えてこのような三級化複合体を形成しておくと、次のような2つの利点がある。1つ目は、三級化複合体表面にモノマーを導入しやすくするための表面改質が行われる点である。後述する重合工程にてシリカ層のキラリティーの転写されたポリマーを得るためには三級化複合体の表面でモノマーの重合を行うことが必要になるが、このような表面改質がなされることにより、より多くのモノマーが物理吸着により三級化複合体の表面に集合する。2つ目は、得られるポリマーのキラリティーをより高める点である。三級化複合体に含まれるポリエチレンイミンは、キラルなシリカ層に固定されることで構造的なキラリティーを有しているが、このポリエチレンイミンの主鎖に沿って嵩高いベンゼン環が導入されることで、そのベンゼン環が例えば螺旋構造等といったキラリティーを有する状態で配列する。その結果、三級化複合体の表面に集合したモノマーが上記のベンゼン環の配列に応じて配置されることになり、これらを重合することでシリカ層のキラリティーがより強く転写されたポリマーとなることが期待される。すなわち、本工程は、酸処理複合体に含まれるシリカ層のキラリティーをポリマーへより強く転写させるための下準備となるものである。
【0055】
求核試薬に対して脱離基となる置換基を備えたアルキル基がベンゼン環に結合した構造を有する化合物としては、下記一般式(1)で表すものを好ましく挙げることができる。
【0057】
上記一般式(1)中、Eは、求核試薬に対して脱離基となる置換基である。そのような置換基としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トシル基、メシル基等が挙げられる。これらの中でも、塩素原子が好ましく例示される。
【0058】
上記一般式(1)中、Rは、一価の有機基である。このような有機基としては、置換基を有してもよいアリール基、炭素数1〜8のアルキル基、ビニル基等が例示される。これらの中でも、置換基を有してもよいアリール基、及びビニル基が好ましく例示され、さらには置換基を有してもよいアリール基がより好ましく例示され、さらには求核試薬に対して脱離基となる置換基を備えたアルキル基を有するアリール基が特に好ましく例示される。Rが置換基を有してもよいアリール基や、求核試薬に対して脱離基となる置換基を備えたアルキル基を有するアリール基であることにより、ポリエチレンイミンの主鎖に沿って側鎖として導入される置換基がより嵩高となり、シリカ層のキラリティーがさらに強くポリマーへ転写される。これらの中でも、上記化合物として下記一般式(2)で表すものが好ましく挙げられる。
【0060】
上記一般式(2)中、Eは、求核試薬に対して脱離基となる置換基である。そのような置換基としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トシル基、メシル基等が挙げられる。これらの中でも、塩素原子が好ましく例示される。
【0061】
上記化合物が一般式(2)で表すものであることにより、ポリエチレンイミンに含まれる複数のイミノ基のうちの2つの窒素原子同士がビフェニル構造を有する化合物により架橋されることになるので、シリカ層のキラリティーがさらに強くポリマーへ転写されることが期待される。
【0062】
酸処理複合体を上記化合物により処理する方法としては、酸処理複合体を適切な溶媒に分散させ、上記化合物とアルカリ塩とを混合して50〜100℃程度で1日程度撹拌することを挙げられる。溶媒としては、アルコール類、特にはメタノールやエタノールを好ましく挙げることができる。また、酸処理複合体と上記化合物の混合比としては、酸処理複合体中のイミノ基に対して上記化合物を1当量以上とすることを挙げられる。このような一例として、酸処理複合体1gに対して上記化合物を0.3g程度であることを挙げられるが、特に限定されない。反応後、酸処理複合体を濾別して適当な溶媒で洗浄することにより、三級化複合体が得られる。
【0063】
三級化工程を経た三級化複合体は、重合工程に付される。
【0064】
[重合工程]
重合工程は、酸処理複合体を由来とする被処理粒子の存在下、エチレン性不飽和結合を有する化合物をモノマーとしてラジカル重合させて、当該モノマーを繰り返し単位として含むポリマーを上記被処理粒子の表面に形成させて樹脂複合体を得る工程である。なお、本実施態様において、酸処理複合体を由来とする被処理粒子とは上記三級化複合体を意味する。
【0065】
重合工程に際しては、重合により形成されるポリマーに三級化複合体のキラリティーを転写させるため、モノマーを三級化複合体の表面付近に存在させるための工夫を施すことが望ましい。このような工夫の一例として、三級化複合体(すなわち被処理粒子)にモノマーを接触させた後、モノマーが非水溶性であれば水溶性溶媒中で、モノマーが水溶性であれば非水溶性溶媒中で、ラジカル重合を行うことを挙げることができる。このようにすると、例えばモノマーがジビニルベンゼンのように非水溶性である場合、液体であるジビニルベンゼン中に三級化複合体を浸漬させて三級化複合体の表面にジビニルベンゼンを吸着させた後、三級化複合体の固体を濾別し、これを水中に投入する。すると、非水溶性のジビニルベンゼンは水中へ拡散することなく三級化複合体の表面に留まるので、この水中でラジカル重合開始剤を用いてラジカル重合を行えば、三級化複合体の表面で重合反応を行うことができる。このようにして得られたポリマーには、三級化複合体に含まれるシリカ層のキラリティーが転写されることになる。上記とは逆に、例えばN,N’−メチレンビスアクリルアミドのような水溶性のモノマーを用いる場合には、非水溶性溶媒中でラジカル重合を行えばよい。
【0066】
水系溶媒としては水と混合可能な極性溶媒が挙げられ、このような極性溶媒としては、水、メタノール、エタノール等が挙げられ、これらの中でも水が好ましく挙げられる。また、非水溶性溶媒としては、トルエン、キシレン等の炭化水素類が挙げられ、これらの中でもトルエンが好ましく挙げられる。
【0067】
モノマーとしては、エチレン性不飽和結合を有する化合物を特に限定されずに挙げることができるが、常温又は加熱により液体となるものであれば、上記のように三級化複合体の表面にモノマーを吸着させることができるので好ましい。このようなモノマーとしては、スチレン、ジビニルベンゼン、メチル(メタ)アクリレート,t−ブチル(メタ)アクリレート,フェニル(メタ)アクリレート,ベンジル(メタ)アクリレート,トリフェニルメチル(メタ)アクリレート,N,N’−ジメチルアミノ(メタ)アクリレート,ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート,グリシジル(メタ)アクリレート,エチレンビス(メタ)アクリレート,3−(トリメトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類、アクリル酸、メタクリル酸、N,N’−メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。これらのモノマーの中でも、エチレン性不飽和結合を2つ以上有するものが好ましく、そのような観点からはジビニルベンゼン、エチレンビス(メタ)アクリレート、N,N’−メチレンビスアクリルアミド等が好ましく挙げられる。これらのモノマーは、単独で、又は複数を組み合わせて用いることができる。なお、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレート及び/又はアクリレートを意味する。
【0068】
ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ化合物等の公知のものが挙げられる。このようなラジカル重合開始剤としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、過酸化ベンゾイル等が挙げられる。
【0069】
ラジカル重合は、例えば室温〜100℃程度の温度で1〜24時間程度行えばよい。ラジカル重合完了後、遠心分離やろ過等の手段で固体を回収し、適切な溶媒で洗浄してから乾燥させることにより、三級化複合体(すなわち被処理粒子)の表面にポリマーが形成された樹脂複合体が得られる。
【0070】
得られた樹脂複合体は、除去工程に付される。
【0071】
[除去工程]
除去工程は、上記樹脂複合体からシリカ層を形成するシリカを除去する工程である。
【0072】
樹脂複合体からシリカ層を除去するには、シリカを溶解することのできるアルカリ溶液やフッ化水素酸溶液に樹脂複合体を浸漬すればよい。浸漬してから数時間程度撹拌した後、遠心分離やろ過等の手段で固体を回収し、水や適切な溶媒で洗浄してから乾燥させることにより、キラルポリマーが得られる。アルカリ溶液としては、5質量%程度の水酸化ナトリウム水溶液が好ましく例示される。
【0073】
<キラルポリマーの製造方法の第二実施態様>
次に、本発明に係るキラルポリマーの製造方法の第二実施態様について説明する。第二実施態様では、上記第一実施態様で説明したシリカ層形成工程及び酸処理工程を経ることで得た酸処理複合体を焼成する焼成工程、焼成工程で得たキラルなシリカ粒子にシランカップリング剤を作用させて表面処理シリカを得る表面処理工程を備え、この表面処理シリカを被処理粒子として重合工程及び除去工程に付すことを特徴とする。シリカ層形成工程及び酸処理工程、並びに重合工程及び除去工程については、既に説明した第一実施態様におけるものと同様であるので、ここでの説明を省略する。
【0074】
[焼成工程]
焼成工程は、酸処理工程で得た酸処理複合体を焼成することでキラルなシリカ粒子を得る工程である。酸処理複合体には、キラル超分子結晶からキラリティーの転写されたシリカ層とキラル超分子結晶に由来するポリエチレンイミンとが含まれ、これらのうち有機物であるポリエチレンイミンを焼成により取り除き、酸処理複合体に含まれていたキラルなシリカ層をシリカ粒子として得るのが本工程である。
【0075】
焼成の条件としては300〜800℃程度にて空気雰囲気で加熱することを挙げることができるが、特に限定されない。焼成後のシリカ粒子は、円二色性スペクトル測定によりコットン効果が観察され、キラル超分子結晶から転写されたキラリティーを維持していることが確認できる。
【0076】
焼成工程を経たキラルなシリカ粒子は、表面処理工程に付される。
【0077】
[表面処理工程]
表面処理工程は、焼成工程にて得たシリカ粒子にシランカップリング剤を作用させて表面処理シリカを得る工程である。この工程で得た表面処理シリカは、被処理粒子として重合工程に付されることになる。
【0078】
重合工程の前に、シリカ粒子にシランカップリング剤による処理を行っておくことにより、上記三級化工程と同様の効果が期待できる。すなわち、表面処理シリカ(被処理粒子)の表面にモノマーを導入しやすくなることと、キラリティーを備えたシリカ粒子の表面に嵩高い置換基を導入することによりシリカ粒子のキラリティーをポリマーへより強く転写させることの2つの効果である。
【0079】
以上の観点からは、嵩高い置換基を備えたシランカップリング剤を用いて表面処理を行うことが好ましい。このようなシランカップリング剤としては、トリメトキシフェニルシラン、(p−クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート等が好ましく挙げられる。シランカップリング剤は、ラジカル重合性残基(すわなちエチレン性不飽和結合)を有することが好ましく、このような観点からは、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート等がより好ましく挙げられる。
【0080】
シリカ粒子に表面処理を行うに際しては、炭化水素系の溶媒にシランカップリング剤を溶解させ、この溶液中にシリカ粒子を投入して30〜50℃程度で24時間程度撹拌することを挙げることができる。炭化水素系の溶媒としては、トルエンが好ましく挙げられる。シランカップリング剤と炭化水素系の溶媒との混合比率としては、特に限定されないが、シランカップリング剤:炭化水素系溶媒の体積比で1:4程度が例示できる。シランカップリング剤と炭化水素系溶媒の混合溶液とシリカ粒子との混合例としては、シリカ粒子0.3gに対して混合溶液10mL程度を挙げることができるが特に限定されない。表面処理を終えた後、遠心分離やろ過等の手段により固体を取り出し、その固体を適当な溶媒で洗浄して乾燥させることにより表面処理シリカが得られる。
【0081】
得られた表面処理シリカは、被処理粒子として重合工程及び除去工程に付される。これらの工程を経ることによりキラルポリマーが得られる。なお、既に説明した通り、重合工程におけるモノマーとしてジビニルベンゼンが好ましく用いられる。
【0082】
<キラルポリマー>
上記のキラルポリマーの製造方法で得られるキラルポリマーもまた本発明の一つである。このキラルポリマーは、エチレン性不飽和結合を有する化合物をモノマーとした繰り返し単位を含み、円二色性スペクトル測定において正又は負のコットン効果が観察されることを特徴とする。このキラルポリマーは、粒子状であり、キラルシリカを由来とするキラリティーを維持している。このため、円二色性スペクトル測定においてコットン効果を示す。なお、既に説明した通り、上記モノマーとしてはジビニルベンゼン又はN,N’−メチレンビスアクリルアミドが好ましく挙げられる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0084】
[直鎖状ポリエチレンイミン(LPEI)の合成]
市販のポリエチルオキサゾリン(質量平均分子量50,000、平均重合度約500、Aldrich社製)30gを5mol/Lの塩酸水溶液(150mL)に溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加温し、その温度で10時間撹拌した。反応溶液にアセトン(500mL)を加えてポリマーを完全に沈殿させ、それを濾別し、メタノールで3回洗浄して白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末を
1H−NMR(重水)にて分析したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖のエチル基に由来した1.2ppmのピーク(CH
3)と2.3ppmのピーク(CH
2)とが完全に消失していることが確認された。したがって、得られたポリマーでは、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0085】
[D−及びL−複合体(D−及びL−PEI/Tart@SiO
2)の調製]
200mLビーカーにD−酒石酸0.60g(4.0mmol)及び蒸留水200mLを加え、100℃で加熱溶解させて酒石酸溶液とした。500mLビーカーにLPEI0.63g(繰り返し単位換算で8.0mmol)及び蒸留水200mLを加えて100℃で加熱溶解させ、上記酒石酸溶液の全量を加えて100℃で3分間撹拌した。反応溶液を水浴中で室温まで急冷した後、アンモニア水を加えてpH4.0に調整した。得られた溶液を冷蔵庫内で20時間静置後、得られた懸濁液から白色固体を遠心分離で回収し、蒸留水で2回洗浄してキラル超分子結晶を得た。テトラメトキシシラン(TMOS)12mL及び蒸留水80mLの混合溶液に、上記手順で得たキラル超分子結晶を加え、室温で2時間撹拌した。遠心分離で固体を回収し、蒸留水で1回、アセトンで2回洗浄した後、室温で減圧乾燥し、白色固体のD−複合体(D−PEI/Tart@SiO
2とも呼ぶ。)を得た。D−複合体は、D−酒石酸を含むキラル超分子結晶の表面に加水分解縮合反応によりシリカ層を形成させたものである。また、D−酒石酸に代えてL−酒石酸を用いたこと以外は同様の手順にて、L−複合体(L−PEI/Tart@SiO
2とも呼ぶ。)を得た。
【0086】
得られた複合体(PEI/Tart@SiO
2)について、固体状態でKBr法によりFT−IRを測定した。その結果を
図1に示す。
図1は、得られた複合体(PEI/Tart@SiO
2)についてのFT−IRスペクトルである。
図1に示すように、3322cm
−1にN−H結合、1597cm
−1にC=O基の振動がそれぞれ観察され、LPEIと酒石酸との超分子錯体の存在が確認された。また、1071cm
−1にO−Si−O結合の伸縮振動が観察されたことから、シリカ層の析出した複合体(すなわちPEI/Tart@SiO
2)の存在が確認された。
【0087】
得られたD−/L−複合体のそれぞれについて、円二色性(CD)測定を行った。その結果を
図2に示す。
図2は、得られたD−/L−複合体(D−及びL−PEI/Tart@SiO
2)についての円二色性スペクトルである。
図2に示すように、L−PEI/Tart@SiO
2は、210nmに正のコットン効果を示し、D−PEI/Tart@SiO
2は、これとは逆に、負のコットン効果を示した。これらは、酒石酸自体のコットン効果とは逆の符号のコットン効果となるため、酒石酸のキラリティーが複合体へ転写されているものと考えられる。
【0088】
[D及びL−酸処理複合体(D及びL−PEI@SiO
2)の調製]
スクリュー管にD−複合体(D−PEI/Tart@SiO
2)を1.0g入れ、2.5M塩酸水溶液を50mL加え室温で1時間撹拌し、遠心分離で白色固体を回収した。この操作を5回繰り返した後、蒸留水で1回、アセトンで1回洗浄し、室温で乾燥させた白色粉末0.5mgと0.1wt%アンモニア水0.1mLをスクリュー管に加え、室温で30分間撹拌した。遠心分離により固体を回収し、蒸留水で1回、アセトンで2回洗浄した後、減圧乾燥させてD−酸処理複合体(D−PEI@SiO
2とも呼ぶ。)を得た。また、D−複合体に代えてL−複合体(L−PEI/Tart@SiO
2)を用いたこと以外は同様の手順で、L−酸処理複合体(L−PEI@SiO
2とも呼ぶ。)を得た。
【0089】
得られた酸処理複合体(PEI@SiO
2)について、固体状態でKBr法によりFT−IRを測定した。その結果を
図3に示す。
図3は、得られた酸処理複合体(PEI@SiO
2)と複合体(PEI/Tart@SiO
2)との対比を示すFT−IRスペクトルである。
図3に示すように、1071cm
−1にシリカのO−Si−O結合の伸縮振動が観察され、シリカの存在が確認された。一方で、酒石酸に由来するC=O基の伸縮振動が減少していることから、塩酸水溶液により酒石酸が除去されたことがわかる。
【0090】
得られたD−/L−酸処理複合体のそれぞれについて、円二色性測定を行った。その結果を
図4に示す。
図4は、得られたD−/L−酸処理複合体(D−及びL−PEI@SiO
2)の円二色性スペクトルである。
図4に示すように、
図2に比較して円二色性スペクトルでは210nmの酒石酸のコットン効果が減少し、吸収スペクトルにおいても200nm付近の吸収が減少していることがわかる。これらのことから、酸処理複合体では酒石酸が取り除かれていることがわかる。
【0091】
[実施例1]
上記手順で得た酸処理複合体をもとに、4,4’−ビス(クロロメチル)ビフェニル(bp)の処理による三級化工程、ジビニルベンゼン(DVB)をモノマーとした重合工程、及び水酸化ナトリウム水溶液を用いた除去工程を経て実施例1のキラルポリマーを得た。その手順は、次の通りである。
【0092】
・三級化工程
100mLの反応容器に、D−又はL−酸処理複合体(PEI@SiO
2)0.4g、メタノール80mL、炭酸カリウム0.27g及び4,4’−ビス(クロロメチル)ビフェニル(bp)0.12gを加え、70℃で24時間撹拌した。吸引濾過により固体を回収し、脱イオン水、メタノール、及びアセトンによりそれぞれ洗浄した後、減圧乾燥させ三級化複合体(bp処理物)の白色固体を得た。得られたD−/L−三級化複合体のそれぞれについて、円二色性測定を行った。その結果を
図5に示す。
図5は、得られたD−/L−三級化複合体(D−及びL−bp@SiO
2)の円二色性スペクトルである。
図5に示すように、220〜310nmに正と負のコットン効果がそれぞれ観察された。また、TGAによる質量分析を行ったところ、酸処理複合体よりも有機物が増加していることが確認され、三級化によりbpが導入されていることが示唆された。
【0093】
・重合工程
5mLのスクリュー管に、D−又はL−三級化複合体(bp処理物)0.3g及びジビニルベンゼン(DVB)3mLを加え、室温で2時間撹拌した。吸引濾過で固体を回収し、白色固体を得た。次いで、10mLの反応容器に、この白色固体0.3g、脱イオン水5mL及び2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド(AAPH、ラジカル重合開始剤)0.03gを加え、容器内部を窒素置換してから80℃で20時間撹拌した。遠心分離で固体を回収し、テトラヒドロフラン(THF)、メタノール、アセトンによりそれぞれ洗浄した後、減圧乾燥させ樹脂複合体を得た。得られたD−/L−樹脂複合体のそれぞれについて、円二色性測定を行った。その結果を
図6に示す。
図6は、得られたD−/L−樹脂複合体(D−及びL−bp@SiO
2@PDVB)の円二色性スペクトルである。
図6に示すように、300〜340nmに正と負のコットン効果がそれぞれ観察された。また、得られた樹脂複合体では、IRスペクトルにて2927cm
−1のC−H伸縮振動が観察され、TGAによる質量分析にて三級化複合体よりも有機物が増加していることが確認されたことから、DVBのラジカル重合によりポリマーの形成が確認された。
【0094】
・除去工程
5mLのスクリュー管に、樹脂複合体0.1g及び5wt%NaOH水溶液(15mL)を加え、室温で4時間撹拌した。遠心分離により固体を回収し、脱イオン水、及びアセトンによりそれぞれ洗浄した後、減圧乾燥させて実施例1のキラルポリマーを得た。得られたD−/L−キラルポリマーのそれぞれについて、円二色性測定を行った。その結果を
図7に示す。
図7は、実施例1のD−/L−キラルポリマー(D/L−PDVB)の円二色性スペクトルである。
図7に示すように、270〜320nmに正と負のコットン効果がそれぞれ確認された。また、得られたキラルポリマーでは、IRスペクトルにて1085cm
−1におけるO−Si−Oの吸収の減少が観察され、TGAによる質量分析によりシリカ含有量が2.60%となったことが確認された。これらの結果から、実施例1のキラルポリマーには、上記D−/L−複合体におけるシリカ層のキラリティーが転写され、そのキラリティーが当該シリカの除去後も維持されていることがわかる。
【0095】
[実施例2]
上記手順で得た酸処理複合体をもとに、クロロメチルスチレン(CMS)の処理による三級化工程、N,N’−メチレンビスアクリルアミドをモノマーとした重合工程、及び水酸化ナトリウム水溶液を用いた除去工程を経て実施例2のキラルポリマーを得た。その手順は、次の通りである。
【0096】
・三級化工程
50mLの反応容器に、D−又はL−酸処理複合体(PEI@SiO
2)1g及び炭酸カリウム0.3gを加え、さらに脱水メタノール40mLに分散させたクロロメチルスチレン0.3gを加えて、70℃で24時間撹拌した。遠心分離により固体を回収し、THF、脱イオン水、及びアセトンによりそれぞれ洗浄した後、減圧乾燥させ三級化複合体(CMS処理物)の白色固体を得た。得られたD−/L−三級化複合体のそれぞれについて、円二色性測定を行った。その結果を
図8に示す。
図8は、得られたD−/L−三級化複合体(D−及びL−CMS@SiO
2)の円二色性スペクトルである。
図8に示すように、250〜300nmに正と負のコットン効果がそれぞれ観察された。このCD活性は、キラルシリカによって誘起されたビニル残基の有機CDと考えられる。また、TGAによる質量分析を行ったところ、酸処理複合体よりも有機物が増加していることが確認されたことから、三級化によりCMSが導入されていることが示唆された。
【0097】
・重合工程
5mLのスクリュー管に、D−又はL−三級化複合体(CMS処理物)0.3g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBA)0.5g及びメタノール2mLを加え、室温で2時間撹拌した。吸引濾過で固体を回収し、白色固体を得た。次いで、10mLの反応容器に、この白色固体0.3g、トルエン5mL及び2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN、ラジカル重合開始剤)0.03gを加え、容器内部を窒素置換してから80℃で20時間撹拌した。遠心分離で固体を回収し、脱イオン水、メタノール、アセトンによりそれぞれ洗浄した後、減圧乾燥させ樹脂複合体を得た。得られたD−/L−樹脂複合体のそれぞれについて、円二色性測定を行った。その結果を
図9に示す。
図9は、得られたD−/L−樹脂複合体(D−及びL−CMS@SiO
2@PMBA)の円二色性スペクトルである。
図9に示すように、240〜300nmに正と負のコットン効果がそれぞれ観察された。また、得られた樹脂複合体では、IRスペクトルにて1700cm
−1にC=Cに起因する吸収の増加が観察され、TGAによる質量分析にて三級化複合体よりも有機物が増加していることが確認されたことから、MBAのラジカル重合によりポリマーの形成が確認された。
【0098】
・除去工程
5mLのスクリュー管に、樹脂複合体0.1g及び5wt%NaOH水溶液(15mL)を加え、室温で4時間撹拌した。遠心分離により固体を回収し、脱イオン水、及びアセトンによりそれぞれ洗浄した後、減圧乾燥させて実施例2のキラルポリマーを得た。得られたD−/L−キラルポリマーのそれぞれについて、円二色性測定を行った。その結果を
図10に示す。
図10は、実施例2のD−/L−キラルポリマー(D/L−PMBA)の円二色性スペクトルである。
図10に示すように、260〜310nmに正と負のコットン効果がそれぞれ確認された。また、得られたキラルポリマーでは、IRスペクトルにて1085cm
−1におけるO−Si−Oの吸収の減少が観察され、TGAによる質量分析によりシリカ含有量が2.80%となったことが確認された。これらの結果から、実施例2のキラルポリマーには、上記D−/L−複合体におけるシリカ層のキラリティーが転写され、そのキラリティーが当該シリカの除去後も維持されていることがわかる。
【0099】
[実施例3]
上記手順で得た酸処理複合体をもとに、焼成により有機物を分解してシリカ粒子とする焼成工程、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(TPM)の処理による表面処理工程、ジビニルベンゼン(DVB)をモノマーとした重合工程、及び水酸化ナトリウム水溶液を用いた除去工程を経て実施例3のキラルポリマーを得た。その手順は、次の通りである。
【0100】
・焼成工程及び表面処理工程
D−又はL−酸処理複合体を600℃で3時間焼成し、シリカ粒子とした。10mLの反応容器にこのシリカ粒子0.3gを入れた後、窒素下で脱水トルエン8mL及び3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(TPM)2mLを加え、40℃で24時間撹拌した。吸引濾過により固体を回収し、メタノールで洗浄した後、減圧乾燥させ表面処理シリカ(TPM処理物)の白色固体を得た。得られたD−/L−表面処理シリカのそれぞれについて、円二色性測定を行った。その結果を
図11に示す。
図11は、得られたD−/L−表面処理シリカ(D−及びL−SiO
2@TPM)の円二色性スペクトルである。
図11に示すように、210〜300nmに正と負のコットン効果がそれぞれ観察された。また、得られた表面処理シリカでは、IRスペクトルにて1700cm
−1にC=Cに起因する吸収が観察され、TGAによる質量分析にて有機物の存在が確認された。
【0101】
・重合工程
5mLのスクリュー管に、D−又はL−表面処理シリカ(TPM処理物)0.3g及びジビニルベンゼン(DVB)3mLを加え、室温で2時間撹拌した。吸引濾過で固体を回収し、白色固体を得た。次いで、10mLの反応容器に、この白色固体0.3g、脱イオン水5mL及び2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド(AAPH、ラジカル重合開始剤)0.03gを加え、容器内部を窒素置換してから80℃で20時間撹拌した。遠心分離で固体を回収し、THF、メタノール、アセトンによりそれぞれ洗浄した後、減圧乾燥させ樹脂複合体を得た。得られたD−/L−樹脂複合体のそれぞれについて、円二色性測定を行った。その結果を
図12に示す。
図12は、得られたD−/L−樹脂複合体(D−及びL−SiO
2@TPM@PDVB)の円二色性スペクトルである。
図12に示すように、250〜320nmに正と負のコットン効果がそれぞれ観察された。また、得られた樹脂複合体のTGAによる質量分析にて表面処理シリカよりも有機物が増加していることが確認されたことから、DVBのラジカル重合によりポリマーの形成が確認された。
【0102】
・除去工程
5mLのスクリュー管に、樹脂複合体0.1g及び5wt%NaOH水溶液(15mL)を加え、室温で4時間撹拌した。遠心分離により固体を回収し、脱イオン水、及びアセトンによりそれぞれ洗浄した後、減圧乾燥させて実施例3のキラルポリマーを得た。得られたD−/L−キラルポリマーのそれぞれについて、円二色性測定を行った。その結果を
図13に示す。
図13は、実施例3のD−/L−キラルポリマー(D/L−PDVB)の円二色性スペクトルである。
図13に示すように、250〜320nmに正と負のコットン効果がそれぞれ確認された。また、得られたキラルポリマーでは、IRスペクトルにて1085cm
−1におけるO−Si−Oの吸収の減少が観察され、TGAによる質量分析によりシリカ含有量が4.90%となったことが確認された。これらの結果から、実施例3のキラルポリマーには、上記D−/L−複合体におけるシリカ層のキラリティーが転写され、そのキラリティーが当該シリカの除去後も維持されていることがわかる。