特開2020-183561(P2020-183561A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人神奈川大学の特許一覧

特開2020-183561銀塩ナノワイヤ形成用組成物、並びにそれを用いた配線パターンの製造方法及び銀粒子集合体の形成方法
<>
  • 特開2020183561-銀塩ナノワイヤ形成用組成物、並びにそれを用いた配線パターンの製造方法及び銀粒子集合体の形成方法 図000015
  • 特開2020183561-銀塩ナノワイヤ形成用組成物、並びにそれを用いた配線パターンの製造方法及び銀粒子集合体の形成方法 図000016
  • 特開2020183561-銀塩ナノワイヤ形成用組成物、並びにそれを用いた配線パターンの製造方法及び銀粒子集合体の形成方法 図000017
  • 特開2020183561-銀塩ナノワイヤ形成用組成物、並びにそれを用いた配線パターンの製造方法及び銀粒子集合体の形成方法 図000018
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-183561(P2020-183561A)
(43)【公開日】2020年11月12日
(54)【発明の名称】銀塩ナノワイヤ形成用組成物、並びにそれを用いた配線パターンの製造方法及び銀粒子集合体の形成方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20201016BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20201016BHJP
   B22F 7/04 20060101ALI20201016BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20201016BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20201016BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20201016BHJP
【FI】
   B22F9/24 E
   B22F1/00 K
   B22F7/04 D
   H01B13/00 503D
   B82Y30/00
   B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-87918(P2019-87918)
(22)【出願日】2019年5月7日
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】金 仁華
(72)【発明者】
【氏名】王 文立
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5G323
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017BA02
4K017CA08
4K017DA01
4K017DA07
4K017EJ01
4K017EJ02
4K017FB03
4K018AA02
4K018BA01
4K018BB05
4K018BD04
4K018JA22
4K018KA33
5G323CA05
(57)【要約】
【課題】銀を含む微細な電気配線パターンを形成させるのに適し、保存安定性の良好な新たな材料を提供すること。
【解決手段】直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えた第一ブロックと上記第一ブロックよりも極性の低い第二ブロックとを備えたブロック共重合体、銀塩、並びに水及び/又は親水性溶媒を含んでなる銀塩ナノワイヤ形成用組成物を基材へ塗布し、それを乾燥させることにより、銀塩ナノワイヤが形成される。この銀塩ナノワイヤは、還元を受けることにより、導電性を有する銀へ転換される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えた第一ブロックと前記第一ブロックよりも極性の低い第二ブロックとを備えたブロック共重合体、銀塩、並びに水及び/又は親水性溶媒を含んでなる銀塩ナノワイヤ形成用組成物。
【請求項2】
前記第一ブロックが、下記化学式(1)で表す繰り返し単位を備えることを特徴とする請求項1記載の銀塩ナノワイヤ形成用組成物。
【化1】
【請求項3】
前記第二ブロックが、下記一般式(2)で表す繰り返し単位を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の銀塩ナノワイヤ形成用組成物。
【化2】
(上記一般式(2)中、Rは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のアリール基、炭素数6〜20のアラルキル基、炭素数2〜20のアルキルケト基、又は炭素数6〜20のアリールケト基である。)
【請求項4】
前記ブロック共重合体が、下記一般式(3)で表されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の銀塩ナノワイヤ形成用組成物。
【化3】
(上記一般式(3)中、bはブロック共重合体であることを表す符号であり、*はそれぞれ独立にポリマーの末端基であり、m及びnはそれぞれ独立に整数である。)
【請求項5】
前記銀塩が酢酸銀である請求項1〜4のいずれか1項記載の銀塩ナノワイヤ形成用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の銀塩ナノワイヤ形成用組成物を基材に塗布して塗布膜を形成する塗布工程、前記塗布膜に含まれる溶媒を蒸発させる乾燥工程、及び前記乾燥工程を経た前記塗布膜に含まれる銀塩を銀に還元する還元工程を含んでなる配線パターンの形成方法。
【請求項7】
前記還元工程における還元操作が、150〜250℃の加熱であることを特徴とする請求項6記載の配線パターンの形成方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項記載の銀塩ナノワイヤ形成用組成物を基材に塗布して塗布膜を形成する塗布工程、前記塗布膜に含まれる溶媒を蒸発させる乾燥工程、及び前記乾燥工程を経た前記塗布膜に含まれる銀塩を銀に還元する還元工程を含んでなる銀粒子集合体の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀塩ナノワイヤ形成用組成物、並びにそれを用いた配線パターンの製造方法及び銀粒子集合体の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置、太陽電池、タッチパネル等の普及に伴って、透明導電膜の需要が高まっている。このような透明導電膜としては、ITO(スズドープ酸化インジウム)のような酸化物系半導体を用いたものがよく知られているが、最近では銀ナノワイヤを用いたものも提案されている。銀ナノワイヤは、導電性を有する銀がナノサイズのワイヤとなったものであり、例えばポリビニルピロリドンのような保護剤と、還元剤として作用するポリオール化合物の存在下で、銀イオンを100℃以上に加熱しこれを還元することで銀を異方成長させるポリオール法にて調製されるのが一般的である。ここで用いられる保護剤は銀を異方成長させるためのいわば成長制御剤として機能するものであり、より優れた成長制御剤が、例えば特許文献1や2等で提案されている。
【0003】
また、各種の電子デバイスの小型化に伴って、より緻密な電気配線を形成させることも求められている。このような要望に応えるために、銀ナノワイヤや銀ナノ粒子を含む導電性ペーストや導電性インキを用い、印刷により基材上へ電気配線を形成させることが行われている。
【0004】
上記のように電気配線形成用途へ用いられるようになってきた銀ナノワイヤや銀ナノ粒子だが、これらはナノサイズの微細なものであるために凝集を生じやすい面もある。このような凝集を抑制するために上記のような導電性ペーストや導電性インキ等では、安定剤を用いる等の手段により分散安定性を高める手法がとられる。しかしながら、それでも凝集を防ぐために10℃以下の温度を保つなどといった温度管理が必要となるので、例えば輸送を行う場合等では保冷車を用いる等の配慮が必要になるし、こうした温度管理を行っていたとしても、半年もすれば凝集によりその製品は使用に適さなくなるといった現状がある。これら取り扱い上の問題は、ナノサイズの物質を含む製品の宿命であるとも言うことができ、不便ではあるが受け入れざるを得ないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−140701号公報
【特許文献2】特開2019−33006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、銀を含む微細な電気配線パターンを形成させるのに適し、保存安定性の良好な新たな材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、以上の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えた第一ブロックとこの第一ブロックよりも極性の低い第二ブロックとを備えたブロック共重合体と、銀塩とを含む溶液を基材に塗布すると、溶媒の蒸発に伴ってナノサイズの径をもつ柔軟な銀塩のワイヤが緻密に形成されることを見出した。銀塩は例えば光照射や加熱により容易に銀へ還元されるため、この銀塩のナノワイヤは微細な電気配線パターンの形成へ応用することが可能である。銀塩の中にも、酢酸銀のように単独で長尺な結晶を形成させるものもあるが、それらの結晶は太く、電気配線パターンの形成には不向きである。本発明は、上記のポリマーと銀塩とを溶液中に共存させると、その溶液自体はナノサイズの物質を含まないので安定であるが、その溶液を基材上へ塗布するとナノサイズの銀塩が形成されるという知見に基づいて完成されたものである。つまり本発明は、不安定なナノサイズの構造体を必要な時に必要な箇所へ形成することのできるオンデマンド型のナノワイヤ形成用組成物ということができる。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0008】
(1)本発明は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えた第一ブロックと上記第一ブロックよりも極性の低い第二ブロックとを備えたブロック共重合体、銀塩、並びに水及び/又は親水性溶媒を含んでなる銀塩ナノワイヤ形成用組成物である。
【0009】
(2)また本発明は、上記第一ブロックが、下記化学式(1)で表す繰り返し単位を備えることを特徴とする(1)項記載の銀塩ナノワイヤ形成用組成物である。
【化1】
【0010】
(3)また本発明は、上記第二ブロックが、下記一般式(2)で表す繰り返し単位を備えることを特徴とする(1)項又は(2)項記載の銀塩ナノワイヤ形成用組成物である。
【化2】
(上記一般式(2)中、Rは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のアリール基、炭素数6〜20のアラルキル基、炭素数2〜20のアルキルケト基、又は炭素数6〜20のアリールケト基である。)
【0011】
(4)また本発明は、上記ブロック共重合体が、下記一般式(3)で表されることを特徴とする(1)項〜(3)項のいずれか1項記載の銀塩ナノワイヤ形成用組成物である。
【化3】
(上記一般式(3)中、bはブロック共重合体であることを表す符号であり、*はそれぞれ独立にポリマーの末端基であり、m及びnはそれぞれ独立に整数である。)
【0012】
(5)また本発明は、上記銀塩が酢酸銀である(1)項〜(4)項のいずれか1項記載の銀塩ナノワイヤ形成用組成物である。
【0013】
(6)本発明は、(1)項〜(5)項のいずれか1項記載の銀塩ナノワイヤ形成用組成物を基材に塗布して塗布膜を形成する塗布工程、上記塗布膜に含まれる溶媒を蒸発させる乾燥工程、及び上記乾燥工程を経た上記塗布膜に含まれる銀塩を銀に還元する還元工程を含んでなる配線パターンの形成方法でもある。
【0014】
(7)また本発明は、上記還元工程における還元操作が、150〜250℃の加熱であることを特徴とする(6)項記載の配線パターンの形成方法でもある。
【0015】
(8)本発明は、(1)項〜(5)項のいずれか1項記載の銀塩ナノワイヤ形成用組成物を基材に塗布して塗布膜を形成する塗布工程、上記塗布膜に含まれる溶媒を蒸発させる乾燥工程、及び上記乾燥工程を経た前記塗布膜に含まれる銀塩を銀に還元する還元工程を含んでなる銀粒子集合体の形成方法でもある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、銀を含む微細な電気配線パターンを形成させるのに適し、保存安定性の良好な新たな材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(a)は、酢酸銀のみから形成された結晶の電子顕微鏡画像であり、図1(b)は、銀塩として酢酸銀を用いた場合の本発明の銀塩ナノワイヤ形成用組成物から形成されたナノワイヤの電子顕微鏡画像である。
図2図2は、調製された酢酸銀ナノワイヤ2次元膜の電子顕微鏡画像であり、(a)がA液の溶媒を脱イオン水としたものであり、(b)がA液の溶媒を脱イオン水/メタノール(6/4)としたものであり、(c)がA液の溶媒をメタノールとしたものである。
図3図3は、溝中で酢酸銀ナノワイヤを形成させたときの電子顕微鏡画像である。
図4図4は、酢酸銀ナノワイヤ2次元膜を熱処理した後の電子顕微鏡画像であり、(a)が150℃で熱処理したときの電子顕微鏡画像であり、(b)が200℃で熱処理したときの電子顕微鏡画像であり、(c)が250℃で熱処理したときの電子顕微鏡画像であり、(d)が300℃で熱処理したときの電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る銀塩ナノワイヤ形成用組成物の一実施形態、配線パターンの形成方法の一実施態様、及び銀粒子集合体の形成方法の一実施態様について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態及び実施態様に限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
<銀塩ナノワイヤ形成用組成物>
まずは、本発明の銀塩ナノワイヤ形成用組成物の一実施形態について説明する。本発明の銀塩ナノワイヤ形成用組成物は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えた第一ブロックと上記第一ブロックよりも極性の低い第二ブロックとを備えたブロック共重合体と、銀塩と、水及び/又は親水性溶媒とを含んでなる溶液であり、基材に塗布されると、溶媒が蒸発するのに伴って銀塩のナノワイヤを形成させる。この銀塩のナノワイヤは、柔軟かつ径がナノサイズであり、複数のナノワイヤが緻密に密集した状態で形成される。そして、形成された銀塩のナノワイヤは、光照射や加熱を受けることで還元されて導電性を備えた銀に転換される。すなわち、従来の銀ナノワイヤの分散体では、銀ナノワイヤの分散状態を維持するために取り扱いに注意を要するものだったが、本発明の組成物によれば、使用前はナノ構造体を含まない溶液で取り扱いが容易であり、必要に応じて基材の表面に銀塩のナノワイヤを形成してそれを導電性の銀に転換させることが可能になる。
【0020】
なお、既に述べたように、銀塩の中には酢酸銀のように長尺の結晶を形成させるものもあるが、それらの結晶は太く、本発明の組成物で形成させたナノワイヤのように細く緻密なものではない。その対比として図1を参照しながら説明する。図1(a)は、酢酸銀のみから形成された結晶の電子顕微鏡画像であり、図1(b)は、銀塩として酢酸銀を用いた場合の本発明の銀塩ナノワイヤ形成用組成物から形成されたナノワイヤの電子顕微鏡画像である。酢酸銀のみから形成された結晶は、図1(a)に示すように、径が500nm程度と太く剛直であり、それを銀へ還元したとしても配線パターン形成用途としては不適である。一方、銀塩として同じ酢酸銀を用いた本発明の組成物から形成されたナノワイヤは、図1(b)に示すように、径が50nm程度で細く柔軟性を持ち、かつ複数のナノワイヤが緻密に密集した状態で形成されることがわかる。このため、これを銀に還元すれば良好な配線パターンになる。このようなナノワイヤが形成されるのは、銀塩と、本発明で用いられる所定ブロック共重合体とを組み合わせた結果であり、極めて意外性を有するものである。
【0021】
本発明の銀塩ナノワイヤ形成用組成物は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えた第一ブロックと上記第一ブロックよりも極性の低い第二ブロックとを備えたブロック共重合体、銀塩、並びに水及び/又は親水性溶媒を含む。以下、各成分について説明する。
【0022】
[ブロック共重合体]
ブロック共重合体は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えた第一ブロックと、この第一ブロックよりも極性の低い第二ブロックとを備えたものである。具体的には、このブロック共重合体は、第一ブロックと第二ブロックとが互いの端部で結合してなるものであり、[第一ブロック]−[第二ブロック]という構造を備えたものである。
【0023】
第一ブロックを構成するポリエチレンイミン骨格は、典型的には下記化学式(1)で表す繰り返し単位を有するものである。なお、第一ブロックを構成するポリエチレンイミン骨格を構成する繰り返し単位は、下記化学式(1)で表すものに限定されることはなく、例えばエチレン基部分に置換基を有するものであってもよい。この場合であっても、イミノ基(−NH−)部分は置換されるべきでない。
【0024】
【化4】
【0025】
ポリエチレンイミン骨格は、極性の高いイミノ基を持ち親水性である。これに対して、第二ブロックは、ポリエチレンイミン骨格を有する第一ブロックよりも上記のように極性が低い。その結果、本発明で用いるブロック共重合体は、両親媒性であると言える。第一ブロックを構成するポリエチレンイミン骨格の重合度(すなわち繰り返し単位の繰り返し数)としては、10〜500程度を挙げることができるが特に限定されない。
【0026】
第二ブロックは、上記第一ブロックよりも極性が低いものから選択される。特に限定されるものではないが、このような第二ブロックとして、ポリエチレンイミン骨格のイミノ基の水素原子が極性の低い有機基で置換された下記一般式(2)で表すものを好ましく挙げることができる。
【0027】
【化5】
【0028】
上記一般式(2)中、Rは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜20のアリール基、炭素数6〜20のアラルキル基、炭素数2〜20のアルキルケト基、又は炭素数6〜20のアリールケト基である。第二ブロックが上記一般式(2)で表すものである場合、第二ブロックを構成する置換ポリエチレンイミン骨格の重合度としては、10〜500程度を挙げることができるが特に限定されない。
【0029】
ブロック共重合体のさらに好ましい例として、下記一般式(3)で表すものを挙げることができる。
【0030】
【化6】
【0031】
上記一般式(3)中、bはブロック共重合体であることを表す符号であり、*はそれぞれ独立にポリマーの末端基であり、m及びnはそれぞれ独立に整数である。m、nとしては、それぞれ10〜500程度を好ましく挙げることができる。
【0032】
上記一般式(3)で表す共重合体は、例えば次のような手順で合成できる。まず、2−メチル−2−オキサゾリンをリビング重合により重合させる。この反応は、2−メチル−2−オキサゾリンに対して、求核置換反応により脱離基として働く置換基を有する化合物を添加することで生じる。2−メチル−2−オキサゾリンが全て反応した後に今度は2−フェニル−2−オキサゾリンを添加すると、リビング重合の末端は、添加された2−フェニル−2−オキサゾリンとリビング重合を開始する。最後にリビング重合の末端を求核剤と反応させると下記化学反応式の左側の一般式で表すブロック共重合体が得られる。このブロック共重合体を酸で加水分解すれば、上記一般式(3)で表すブロック共重合体が得られる。なお、本発明で用いるブロック共重合体は、この一般式(3)で表すもの限定されない。
【0033】
【化7】
【0034】
組成物中におけるブロック共重合体の濃度としては、0.01〜0.5質量%程度を好ましく挙げることができ、0.05〜0.3質量%程度をより好ましく挙げることができる。
【0035】
銀塩としては、酢酸銀、硝酸銀、酒石酸銀等が好ましく挙げられ、これらの中でも酢酸銀がより好ましく挙げられる。組成物中における銀塩の濃度としては、0.1〜5質量%程度が好ましく挙げられ、0.1〜1質量%程度がより好ましく挙げられる。
【0036】
本発明の組成物は、溶媒として水及び/又は親水性溶媒を含む。親水性溶媒としてはメタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、アセトン等が好ましく挙げられ、これらの中でもメタノールがより好ましく挙げられる。溶媒は、水単独であってもよいし、水と親水性溶媒とを組み合わせたものであってもよいし、親水性溶媒のみであってもよい。
【0037】
本発明の組成物を調製するには、次の手順を例として挙げることができる。まず、ブロック共重合体を水及び/又は親水性溶媒に加え、80℃程度に加温して均一な溶液を調製する。これをA液と呼ぶ。A液中のブロック共重合体の濃度としては、0.1〜1質量%程度を挙げることができる。次いで、銀塩を水及び/又は親水性溶媒に加え、均一に溶解させる。これをB液と呼ぶ。B液中の銀塩の濃度としては、0.5〜5質量%程度を挙げることができる。なお、ブロック共重合体中におけるエチレンイミン1当量に対して、銀イオンが1〜50当量であることが好ましく例示でき、1〜10当量であることがより好ましく例示でき、5当量であることがさらに好ましく例示できる。最後に、A液とB液とを混合して本発明の組成物が調製される。
【0038】
本発明の組成物を所望の基材へ塗布し乾燥させることにより、基材上に銀塩のナノワイヤが形成される。乾燥は自然乾燥でも強制乾燥でもよい。基材へ本発明の組成物を塗布するに際しては、インクジェット印刷等の手段によりパターニングしてもよいし、本発明の組成物をインクとするペンでパターンを描いてもよい。また、基材の表面に、所望のパターンに沿った溝を形成し、その溝へ本発明の組成物を流し込み乾燥させてもよい。その場合、溝の方向に沿って銀塩のナノワイヤを整列させることが可能になる。なお、本発明の組成物は、銀塩を含むので、銀塩の還元を抑制するために遮光下で保管することが必要である。
【0039】
基材上に形成した銀塩のナノワイヤは、光照射(好ましくは紫外線照射)や加熱等の手段により還元され、導電性を有する銀に転換される。なお、銀塩のナノワイヤは、還元されて銀に転換される際に体積収縮を生じるので、ナノワイヤの構造は維持されず、ナノワイヤの存在した箇所に沿った銀ナノ粒子の集合体となる。還元手段として加熱を用いる場合、加熱温度としては150〜250℃程度を好ましく挙げられる。
【0040】
上記のようにして得た銀の集合体は、導電性を有するので、電気配線パターンや電磁波シールド等に好ましく用いられる。
【0041】
<配線パターンの形成方法>
次に、本発明の配線パターンの形成方法の一実施態様について説明する。本発明の配線パターンの形成方法は、上記本発明の銀塩ナノワイヤ形成用組成物を用いたものである。本発明の配線パターンの形成方法で形成された配線パターンは、導電性を備え、電子回路における電気配線パターンや電磁波シールド等に好ましく用いられる。
【0042】
本発明の配線パターンの形成方法は、上記本発明の銀塩ナノワイヤ形成用組成物を基材に塗布して塗布膜を形成する塗布工程、上記塗布膜に含まれる溶媒を蒸発させる乾燥工程、及び上記乾燥工程を経た上記塗布膜に含まれる銀塩を銀に還元する還元工程を含む。以下、各工程について説明する。
【0043】
[塗布工程]
塗布工程は、上記本発明の銀塩ナノワイヤ形成用組成物を基材に塗布して塗布膜を形成する工程である。
【0044】
基材としては、特に限定されないが、合成樹脂フィルム、ガラス板、エポキシ基板、ベークライト基板、カラスエポキシ基板等を例示できる。基材に本発明の組成物を塗布する方法としては、インクジェット印刷等の印刷を行う、本発明の組成物をインクとするペンでパターンを描く、基材の表面に所望のパターンに沿った溝を形成し、その溝へ本発明の組成物を流し込む等の手段を挙げることができる。また、パターンを形成するのではなく、基板の全面に本発明の組成物を塗布するのでもよい。この場合、その基板は電磁波シールドとして用いることができる。
【0045】
本発明の組成物の塗布膜が形成された基材は、乾燥工程に付される。
【0046】
[乾燥工程]
乾燥工程は、基材に形成された塗布膜に含まれる溶媒を乾燥させる工程である。
【0047】
既に説明したように、本発明の組成物は、塗布されてから溶媒が蒸発して乾燥する過程で、銀塩ナノワイヤを形成させる。本工程では、本発明の組成物からなる塗布膜に含まれる溶媒を蒸発させて、銀塩ナノワイヤを形成させる。
【0048】
乾燥手段は、自然乾燥でも強制乾燥でもよい。強制乾燥の手段としては、送風、減圧乾燥等の手段が例示される。
【0049】
乾燥工程を経た基材は、還元工程に付される。
【0050】
[還元工程]
還元工程は、上記乾燥工程を経た基材上の塗布膜に含まれる銀塩を銀に還元する工程である。
【0051】
本工程を経ることにより、銀塩のナノワイヤは還元されて導電性を有する銀に転換される。このとき、銀塩のナノワイヤは、還元されて銀に転換される際に体積収縮を生じるので、ナノワイヤの構造は維持されず、ナノワイヤの存在した箇所に沿った銀ナノ粒子の集合体となる。しかしながら、既に説明したように、銀塩のナノワイヤは緻密に重なり合って形成されるので、一本一本のナノワイヤが銀ナノ粒子の集合体となっても、全体としての導電性は確保される。
【0052】
還元手段としては、光照射、加熱、還元剤に接触させる等の手段が挙げられる。還元手段として光照射を用いる場合、当該光としては紫外線が好ましい。また、還元手段として加熱を用いる場合、加熱温度としては150〜250℃程度を好ましく挙げられる。
【0053】
<銀粒子集合体の形成方法>
次に、本発明の銀粒子集合体の形成方法の一実施態様について説明する。本発明の銀粒子集合体の形成方法は、上記本発明の銀塩ナノワイヤ形成用組成物を用いたものである。本発明の銀粒子集合体の形成方法で形成された銀粒子集合体は、導電性を備え、電子回路における電気配線パターンや電磁波シールド等に好ましく用いられる。
【0054】
本発明の銀粒子集合体の形成方法は、本発明の銀塩ナノワイヤ形成用組成物を基材に塗布して塗布膜を形成する塗布工程、上記塗布膜に含まれる溶媒を蒸発させる乾燥工程、及び上記乾燥工程を経た前記塗布膜に含まれる銀塩を銀に還元する還元工程を含む。これらの各工程は、上記本発明の配線パターンの形成方法で既に説明した通りなので、ここでの説明を省略する。
【0055】
既に述べたように、銀塩のナノワイヤは、還元されて導電性を有する銀に転換される。このとき、銀塩のナノワイヤは、還元されて銀に転換される際に体積収縮を生じるので、ナノワイヤの構造は維持されず、ナノワイヤの存在した箇所に沿った銀ナノ粒子の集合体となる。本発明の銀粒子集合体の形成方法は、このような特性を利用したものである、
【0056】
銀粒子集合体は、基材の表面でパターンとして形成されてもよいし、基材の表面の全体に形成されてもよい。基材の表面の全体に銀粒子集合体が形成された場合、その集合体は電磁波シールド等として用いることが可能になる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
・ポリメチルオキサゾリン−ポリフェニルオキサゾリンブロック共重合体の合成
【化8】
【0059】
褐色の反応容器に回転子を入れ、窒素バブリング装置を取り付け窒素置換した。その後、p−トルエンスルホン酸メチル0.176mL(1.17mmol、1当量)、ジメチルアセトアミド12mL及び2−メチル−2−オキサゾリン5mL(58.5mmol、50当量)を反応容器に加え、80℃で24時間反応させた。H−NMRで2−メチル−2−オキサゾリンが完全に反応したことを確認し、2−フェニル−2−オキサゾリン7.6mL(58.5mmol、50当量)及びジメチルアセトアミド12mLを加え、100℃で48時間反応させた。反応溶液を室温まで冷却し、良溶媒としてクロロホルムを、貧溶媒としてジエチルエーテルをそれぞれ用いて沈殿精製し、得られた沈殿物を吸引濾過により濾別した。沈殿精製を2回行い、減圧乾燥を行うことで淡黄色の粉末を得た。H−NMR測定より、ポリメチルオキサゾリン−ポリフェニルオキサゾリンブロック共重合体が合成され、その重合度が、ポリメチルオキサゾリン部で50、ポリフェニルオキサゾリン部で52であることを確認した。また、GPC分析より、ポリメチルオキサゾリン−ポリフェニルオキサゾリンブロック共重合体の数平均分子量が8170、重量平均分子量が12800であることを確認した。
【0060】
・ポリエチレンイミン−ポリフェニルオキサゾリンブロック共重合体の合成
【化9】
【0061】
100mLの反応容器に回転子を入れ、ポリメチルオキサゾリン−ポリフェニルオキサゾリンブロック共重合体4g及び水24mLを加えた。撹拌した後、5N塩酸水溶液36mLを加え、100℃で2時間加熱還流させた。反応溶液を室温まで冷却し、28質量%のアンモニア水をpHが10を超えるまで加え、蓋をして24時間撹拌した。反応溶液を透析膜に入れ、1Lの脱イオン水中で透析した。透析は2日間継続して行い、その間脱イオン水を8回交換した。最後に、透析膜中の溶液を凍結乾燥させることで、両親媒性ポリマーであるポリエチレンイミン−ポリフェニルオキサゾリンブロック共重合体を得た。
【0062】
・酢酸銀ナノワイヤ2次元膜の調製
5mLスクリュー管にポリエチレンイミン−ポリフェニルオキサゾリンブロック共重合体2mg及び脱イオン水1mLを入れ、これらを80℃で10分間加熱することで、均一なポリマー分散液を調製した。このポリマー分散液をA液と呼ぶ。次に、5mLスクリュー管に酢酸銀8.6mg及び脱イオン水1mLを入れ、超音波によりこれらを均一な溶液とした。この酢酸銀水溶液をB液と呼ぶ。
【0063】
A液とB液とを同体積混合し、10分間撹拌した。その混合溶液を0.1mLとり、基板(シリコンウェーハ)に塗布した。約4時間自然乾燥を行うことにより、2次元の酢酸銀ナノワイヤ膜が自発的に形成された。A液の脱イオン水を脱イオン水/メタノール(6/4)、メタノールに変えて同様の操作を行った。これらの2次元膜の電子顕微鏡画像を図2に示す。図2は、調製された酢酸銀ナノワイヤ2次元膜の電子顕微鏡画像であり、(a)がA液の溶媒を脱イオン水としたものであり、(b)がA液の溶媒を脱イオン水/メタノール(6/4)としたものであり、(c)がA液の溶媒をメタノールとしたものである。図2に示すように、いずれの溶媒についても酢酸銀のナノワイヤが細くかつ緻密に形成されていることがわかる。
【0064】
また、合成樹脂基板上に溝を形成し、その溝へA液(溶媒:脱イオン水)とB液との混合液を流し、これを乾燥させることで酢酸銀ナノワイヤの2次元膜を形成させた。形成された酢酸銀2次元ナノワイヤの電子顕微鏡画像を図3に示す。図3は、溝中で酢酸銀ナノワイヤを形成させたときの電子顕微鏡画像である。図3に示すように、溝中で本発明の組成物を乾燥させると、その溝の方向に沿って銀塩ナノワイヤが成長することがわかる。
【0065】
・酢酸銀ナノワイヤの加熱による還元
調製した酢酸銀ナノワイヤ2次元膜を焼成炉に入れ200℃で熱処理を行うことにより、酢酸銀を銀に還元させた。なお、熱処理過程は、室温から200℃まで1時間かけて昇温し、200℃で2時間保持し、200℃から室温まで1時間かけて放冷した。得られた還元膜の距離1cmとなる2点間の抵抗は6〜15Ωだった。同様の手順で150℃、250℃、300℃でも熱処理を行い、得られた還元膜を電子顕微鏡で観察した。その結果を図4に示す。図4は、酢酸銀ナノワイヤ2次元膜を熱処理した後の電子顕微鏡画像であり、(a)が150℃で熱処理したときの電子顕微鏡画像であり、(b)が200℃で熱処理したときの電子顕微鏡画像であり、(c)が250℃で熱処理したときの電子顕微鏡画像であり、(d)が300℃で熱処理したときの電子顕微鏡画像である。いずれの還元膜についても、低倍率では銀がワイヤ状に観察されたが、高倍率では銀の粒子がワイヤの方向に沿って集合している様子が確認された。なお、距離1cmとなる2点間の抵抗は、150℃で熱処理したもので180〜250Ω、250℃で熱処理したもので導電性乏しく、300℃で熱処理したもので導電性がない結果だった。
図1
図2
図3
図4