【解決手段】蒸発器は、缶胴30と、缶胴30内に配置された蒸発用伝熱管群32と、缶胴30内に配置され、蒸発用伝熱管群32から離れた位置にある過熱用伝熱管群33と、蒸発用伝熱管群32の上方に配置され、蒸発用伝熱管群32に冷媒液を供給する冷媒散布手段40と、冷媒液の一部がフラッシュして生成された冷媒蒸気、及び蒸発用伝熱管群32と冷媒液との接触により発生した冷媒蒸気の上方への流れを阻止するバッフル板60を備える。バッフル板60は、蒸発用伝熱管群32の上方に配置されている。
前記過熱用伝熱管群を構成する伝熱管の単位長さ当たりの外側表面積は、前記蒸発用伝熱管群を構成する伝熱管の単位長さ当たりの外側表面積よりも大きい、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の蒸発器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蒸発器は、被冷却流体が流れる伝熱管群を有している。蒸発器に流入した冷媒液は、伝熱管群の一部に接触して蒸発し、冷媒蒸気となる。さらに、冷媒蒸気は、伝熱管群の他の部分に接触して過熱される。このようにして、蒸発器は、冷媒液から冷媒蒸気を生成し、さらに冷媒蒸気を過熱することで、液状の冷媒が圧縮機に吸い込まれることを防止している。
【0006】
しかしながら、冷凍負荷の上昇に応じて冷媒液の循環量が増加すると、冷媒液が飛散して、液状の冷媒が圧縮機に吸い込まれるおそれがある。これを回避するためには伝熱管群を増やす必要があり、蒸発器自体が大きくなってしまう。さらに、冷媒液の循環量が低下したときに、冷媒の蒸発にも過熱にも寄与できない伝熱管の面積が増え、冷媒と被冷却流体との熱交換効率が低下する。
【0007】
そこで、本発明は、伝熱管群を冷媒の蒸発および過熱に有効に使用することができる蒸発器を提供する。また、本発明は、そのような蒸発器を備えた圧縮式冷凍機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、圧縮式冷凍機に使用される液膜式の蒸発器であって、缶胴と、前記缶胴内に配置された蒸発用伝熱管群と、前記缶胴内に配置され、前記蒸発用伝熱管群から離れた位置にある過熱用伝熱管群と、前記蒸発用伝熱管群の上方に配置され、前記蒸発用伝熱管群に冷媒液を供給する冷媒散布手段と、前記冷媒液の一部がフラッシュして生成された冷媒蒸気、及び前記蒸発用伝熱管群と前記冷媒液との接触により発生した冷媒蒸気の上方への流れを阻止するバッフル板を備え、前記バッフル板は、前記蒸発用伝熱管群の上方に配置されている、蒸発器が提供される。
【0009】
本発明によれば、過熱用伝熱管群は、蒸発用伝熱管群とは別に設けられる。このような配置により、蒸発用伝熱管群自体を小さくでき、蒸発用伝熱管群の上部のみならず、蒸発用伝熱管群の側部および下部にも冷媒液を散布することができる。したがって、蒸発用伝熱管群の全体は、冷媒液の蒸発に寄与できる。また、蒸発用伝熱管群を構成する各伝熱管は、冷媒液の膜で覆われ、伝熱管のドライ状態が回避される。よって、冷媒液に含まれる潤滑油が伝熱管の表面に付着することが防止され、結果として、伝熱管内を流れる被冷却流体(例えば冷水)と冷媒液との熱交換効率を向上させることができる。
バッフル板は、冷媒液の一部がフラッシュして生成した冷媒蒸気、及び蒸発用伝熱管群と冷媒液との接触により発生した冷媒蒸気の流れを横にそらし、過熱用伝熱管群に導くことができる。冷媒蒸気は過熱用伝熱管群によって過熱され、冷媒蒸気に含まれるミスト状の冷媒が蒸発する。したがって、ミスト状の冷媒の圧縮機への吸込みを防止することができる。
【0010】
一態様では、前記バッフル板と前記冷媒散布手段は、一体的な構造体である。
本発明によれば、バッフル板と冷媒散布手段を別々に缶胴内に配置する作業が不要であるので、蒸発器の組み立てを簡単に行うことができる。
【0011】
一態様では、前記過熱用伝熱管群は、被冷却流体が流れる1パス目の伝熱管群の一部である。
1パス目の伝熱管群を流れる被冷却流体は比較的高い温度を有している。したがって、過熱用伝熱管群は、冷媒蒸気を高効率で過熱することができ、冷媒蒸気に含まれるミスト状の冷媒を蒸発させることができる。
【0012】
一態様では、前記蒸発器は、前記缶胴の管板を覆う水室カバーと、前記水室カバーに接続された被冷却流体入口ポートと、前記管板と前記水室カバーとの間に形成された流体室を第1流体室と第2流体室に仕切る仕切り板をさらに備え、前記被冷却流体入口ポートおよび前記過熱用伝熱管群は、前記第1流体室に連通している。
【0013】
一態様では、前記過熱用伝熱管群を構成する伝熱管の単位長さ当たりの外側表面積は、前記蒸発用伝熱管群を構成する伝熱管の単位長さ当たりの外側表面積よりも大きい。
本発明によれば、過熱用伝熱管群を構成する伝熱管には、背の高いフィンを有する伝熱管などの外側表面積の大きい伝熱管が使用される。このような伝熱管は、管外の冷媒蒸気の伝熱を促進でき、管外の冷媒蒸気と管内の被冷却流体との熱交換を促進することができるので、過熱用伝熱管群を構成する伝熱管の数を少なくすることができる。
【0014】
一態様では、前記過熱用伝熱管群は、前記蒸発用伝熱管群の横に配置されている。
一態様では、前記蒸発器は、前記蒸発用伝熱管群と前記過熱用伝熱管群との間に配置された冷媒蒸気案内板をさらに備えており、前記冷媒蒸気案内板は、前記バッフル板から下方に延びている。
【0015】
蒸発器は圧縮機の吸込口に連結されるので、缶胴内は低圧となっている。冷媒液は凝縮器から蒸発器に送られ、冷媒散布手段から散布される。このとき、冷媒液の一部が瞬間的に蒸発し(フラッシュし)、冷媒の噴流を形成する。冷媒蒸気案内板は、冷媒の噴流の飛散を防止することができる。さらに、冷媒蒸気案内板は、冷媒の蒸気流を下方に案内し、蒸発用伝熱管群に導く。この下方に向かう冷媒の蒸気流は、蒸発用伝熱管群の上部を構成する伝熱管の表面から冷媒液の一部を除去し、上部の伝熱管上の冷媒液の膜厚を小さくする。結果として、蒸発用伝熱管群の全体に冷媒液が供給され、冷媒液の蒸発が促進される。
また、蒸発用伝熱管群内の隙間に存在する冷媒蒸気は、冷媒蒸気案内板によって下方に案内され、その後、蒸発用伝熱管群から側方に流れる。冷媒蒸気は、過熱用伝熱管群に接触する前に、蒸発用伝熱管群と過熱用伝熱管群との間に存在する空間を流れる。このとき、冷媒蒸気の流速は低下するので、冷媒蒸気に含まれる冷媒の液滴が自重により落下する。したがって、冷媒蒸気中に存在する冷媒の液滴は大幅に低減され、ほぼ飽和状態の冷媒蒸気が過熱用伝熱管群に接触する。結果として、過熱用伝熱管群での過熱効果が向上する。
【0016】
一態様では、前記冷媒蒸気案内板の下端は、前記過熱用伝熱管群の内側の下端よりも低い位置にある。
本発明によれば、蒸発用伝熱管群を通過した冷媒蒸気のほとんどすべてを過熱用伝熱管群に導くことができる。
【0017】
一態様では、前記蒸発器は、前記冷媒散布手段の両側に配置されたブロック壁をさらに備えており、前記ブロック壁は、前記蒸発用伝熱管群の両縁の上方に配置されている。
ブロック壁は、冷媒散布手段から吐出された冷媒液の飛散を防止することができる。ブロック壁に接触した冷媒液は、ブロック壁から滴下し、蒸発用伝熱管群の両縁を構成する伝熱管に接触する。したがって、蒸発用伝熱管群の全幅に亘って冷媒液が供給され、蒸発用伝熱管群を流れる被冷却流体と冷媒液との熱交換効率を向上させることができる。
【0018】
一態様では、冷媒液を蒸発させて冷媒蒸気を生成する上記蒸発器と、前記冷媒蒸気を圧縮する圧縮機と、前記圧縮された冷媒蒸気を凝縮させて前記冷媒液を生成する凝縮器と、前記凝縮器と前記蒸発器との間に配置された膨張弁を備えた、圧縮式冷凍機が提供される。
【0019】
一態様では、前記圧縮式冷凍機は、前記過熱用伝熱管群に流入する被冷却流体の入口温度を測定する入口温度測定器と、前記過熱用伝熱管群から流出した前記被冷却流体の出口温度を測定する出口温度測定器と、前記入口温度と前記出口温度との差に基づいて前記膨張弁の開度を制御する弁制御部をさらに備えている。
【0020】
冷媒蒸気中の液状の冷媒が過熱用伝熱管群との接触により蒸発すると、被冷却流体の入口温度と出口温度との差が速やかに変化する。すなわち、被冷却流体の入口温度と出口温度との差の変化は、過熱用伝熱管群に接触している冷媒蒸気中の液状の冷媒の量を反映している。したがって、弁制御部は、被冷却流体の入口温度と出口温度との差に基づいて膨張弁の開度、すなわち過熱度を精密に制御することができる。また、本発明によれば、蒸発器内の液面センサを設ける必要がないので、低価格で膨張弁の制御が可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、蒸発用伝熱管群自体を小さくでき、蒸発用伝熱管群の上部のみならず、蒸発用伝熱管群の側部および下部にも冷媒液を散布することができる。したがって、蒸発用伝熱管群の全体は、冷媒液の蒸発に寄与できる。また、蒸発用伝熱管群を構成する各伝熱管は、冷媒液の膜で覆われ、伝熱管のドライ状態が回避される。よって、冷媒液に含まれる潤滑油(圧縮機で使用される潤滑油)が伝熱管の表面に付着することが防止され、結果として、伝熱管内を流れる被冷却流体(例えば冷水)と冷媒液との熱交換効率を向上させることができる。バッフル板は、蒸発用伝熱管群と冷媒液との接触により発生した冷媒蒸気の流れを横にそらし、過熱用伝熱管群に導くことができる。冷媒蒸気は過熱用伝熱管群によって過熱され、冷媒蒸気に含まれるミスト状の冷媒が蒸発する。したがって、ミスト状の冷媒の圧縮機への吸込みを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、遠心式冷凍機の一実施形態を示す模式図である。遠心式冷凍機は、圧縮式冷凍機の一例である。
図1に示すように、遠心式冷凍機は、冷媒液を蒸発させて冷媒蒸気を生成する蒸発器2と、冷媒蒸気を圧縮する圧縮機1と、圧縮された冷媒蒸気を凝縮させて冷媒液を生成する凝縮器3を備えている。蒸発器2は、冷媒液入口5および冷媒蒸気出口6を有している。圧縮機1の吸込口は、冷媒配管4Aによって蒸発器2の冷媒蒸気出口6に連結されている。圧縮機1の排出口は、冷媒配管4Bによって凝縮器3に連結されている。
【0024】
遠心式冷凍機は、凝縮器3と蒸発器2との間に配置されたエコノマイザ9をさらに備えている。凝縮器3は冷媒配管4Cによってエコノマイザ9に連結され、エコノマイザ9は冷媒配管4Dによって蒸発器2に連結されている。さらに、エコノマイザ9は、冷媒配管4Eによって圧縮機1に連結されている。エコノマイザ9は、凝縮器3と蒸発器2との間に配置された中間冷却器である。凝縮器3からエコノマイザ9に延びる冷媒配管4Cには膨張弁21が取り付けられ、エコノマイザ9から蒸発器2に延びる冷媒配管4Dには膨張弁22が取り付けられている。膨張弁21,22は、その開度が調整可能に構成されており、例えば開度可変な電動弁から構成されている。膨張弁21,22のそれぞれは、並列に配置された膨張弁とオリフィスで構成してもよい。また、膨張弁21,22の内、一つが流量調整可能で、一つが固定オリフィスでもよい。
【0025】
本実施形態では、圧縮機1は、多段遠心式圧縮機から構成されている。より具体的には、圧縮機1は二段遠心式圧縮機からなり、一段目羽根車11と、二段目羽根車12と、これらの羽根車11,12を回転させる電動機13とを備えている。
【0026】
圧縮機1の吸込口には、冷媒蒸気の羽根車11,12への吸込流量を調整するガイドベーン16が配置されている。ガイドベーン16は一段目羽根車11の吸込側に位置している。ガイドベーン16は放射状に配置されており、各ガイドベーン16が自身の軸心を中心として互いに同期して所定の角度だけ回転することにより、ガイドベーン16の開度が変更される。蒸発器2から送られた冷媒蒸気は、ガイドベーン16を通過し、その後、回転する羽根車11,12によって順次昇圧される。昇圧された冷媒蒸気は、冷媒配管4Bを通って凝縮器3に送られる。
【0027】
遠心式冷凍機は、冷媒蒸気を凝縮器3から蒸発器2に導くバイパスライン20と、このバイパスライン20を開閉するための膨張弁(ホットガス兼用バイパス弁)25とを備えている。バイパスライン20は、エコノマイザ9をバイパスして延びている。バイパスライン20の一端は冷媒配管4Cに接続され、バイパスライン20の他端は冷媒配管4Dに接続されている。膨張弁25は、その開度が調整可能に構成されており、例えば開度可変な電動弁から構成されている。
【0028】
膨張弁21,22,25は、弁制御部10に電気的に接続されており、膨張弁21,22,25の動作は弁制御部10によって制御される。定常運転では、膨張弁25は閉じられている。弁制御部10が膨張弁25を開くと、圧縮機1によって圧縮された冷媒蒸気或いは凝縮器3の冷媒液は、エコノマイザ9をバイパスしてバイパスライン20を通って凝縮器3から蒸発器2に送られる。
【0029】
蒸発器2は、被冷却流体(例えば冷水)から熱を奪って冷媒液が蒸発して冷凍効果を発揮する。圧縮機1は、蒸発器2で蒸発した冷媒蒸気を圧縮して高圧の冷媒蒸気を生成し、凝縮器3は、高圧の冷媒蒸気を冷却流体(例えば冷却水)で冷却して凝縮させることで、冷媒液を生成する。冷媒液は、膨張弁21を通過することによって減圧される。減圧された冷媒液中に存在する冷媒蒸気はエコノマイザ9によって分離され、圧縮機1の一段目羽根車11と二段目羽根車12との間に設けた中間吸込口17に送られる。エコノマイザ9を通過した冷媒液は、膨張弁22を通過することによって減圧され、さらに冷媒配管4Dを通って蒸発器2に送られる。このように、遠心式冷凍機は、冷媒を封入したクローズドシステムとして構成される。エコノマイザ9は省略される場合もある。
【0030】
遠心式冷凍機は、蒸発器2の過熱用伝熱管群(後述する)に流入する被冷却流体の入口温度を測定する入口温度測定器としての温度センサS1と、上記過熱用伝熱管群から流出する被冷却流体の出口温度を測定する出口温度測定器としての温度センサS2をさらに備えている。温度センサS1,S2は弁制御部10に電気的に接続されており、温度センサS1,S2の出力値(すなわち、被冷却流体の入口温度および出口温度の測定値)は弁制御部10に送られるようになっている。
【0031】
図2は、蒸発器2の一実施形態の側面図である。
図2に示すように、蒸発器2は、缶胴30と、缶胴30内に配置された伝熱管群31および冷媒散布手段40を備えている。冷媒散布手段40は冷媒液入口5を備えており、この冷媒液入口5は、冷媒配管4C,4Dを介して凝縮器3およびエコノマイザ9に連結されている。缶胴30の頂部には、冷媒蒸気出口6が設けられている。本実施形態では、缶胴30内に配置された伝熱管群31は、1パス目の伝熱管群31−1と、2パス目の伝熱管群31−2を含む。
図2では、これら伝熱管群31−1,31−2は、模式的に描かれている。1パス目の伝熱管群31−1は、冷媒液を蒸発させて冷媒蒸気を生成するための第1蒸発用伝熱管群32Aと、冷媒蒸気を過熱するための過熱用伝熱管群33を含む。
【0032】
蒸発器2は、缶胴30の管板42を覆う水室カバー44と、水室カバー44に接続された被冷却流体入口ポート45および被冷却流体出口ポート46を備えている。蒸発器2のターン側には、缶胴30の管板50を覆う水室カバー51が設けられている。この水室カバー51の内部には、流体室52が形成されている。管板42,50は、缶胴30の側壁を構成している。入口温度測定器としての温度センサS1は、被冷却流体入口ポート45に取り付けられ、出口温度測定器としての温度センサS2は、過熱用伝熱管群33の被冷却流体出口に取り付けられている。
【0033】
図3は、
図2のA−A線断面図であり、
図4は、
図2のB−B線断面図である。1パス目の伝熱管群31−1は、冷媒液を蒸発させて冷媒蒸気を生成するための第1蒸発用伝熱管群32Aと、冷媒蒸気を過熱するための過熱用伝熱管群33を構成する。2パス目の伝熱管群31−2は、第2蒸発用伝熱管群32Bを構成する。1パス目の伝熱管群31−1の一部を構成する第1蒸発用伝熱管群32Aは、2パス目の伝熱管群31−2を構成する第2蒸発用伝熱管群32Bの下方に配置されている。
【0034】
以下の説明では、第1蒸発用伝熱管群32Aおよび第2蒸発用伝熱管群32Bを、総称して蒸発用伝熱管群32という。蒸発用伝熱管群32および過熱用伝熱管群33は、缶胴30内に配置されている。冷媒散布手段40は、蒸発用伝熱管群32の上方に配置され、蒸発用伝熱管群32にその上から冷媒液を供給するように配置されている。冷媒散布手段40は、冷媒液入口5と、冷媒液入口5に連結された複数のノズル管48を備えている。冷媒液は、冷媒液入口5に流入し、ノズル管48から蒸発用伝熱管群32に散布される。
【0035】
過熱用伝熱管群33は、蒸発用伝熱管群32から離れた位置にある。より具体的には、過熱用伝熱管群33は、蒸発用伝熱管群32の横に位置している。本実施形態では、2つの過熱用伝熱管群33が設けられており、これら2つの過熱用伝熱管群33は蒸発用伝熱管群32の両側に配置されている。過熱用伝熱管群33の上端は、蒸発用伝熱管群32の上端よりも高い位置にあり、過熱用伝熱管群33の下端は、蒸発用伝熱管群32の上端よりも低い位置にある。
【0036】
図4に示すように、蒸発器2は、管板42と水室カバー44(
図2参照)との間に形成された流体室を第1流体室53と第2流体室54に仕切る仕切り板57をさらに備えている。仕切り板57は、管板42或いは水室カバー44に固定されている。管板42は、缶胴30の側壁を構成しており、水室カバー44は管板42に接続されている。被冷却流体入口ポート45は第1流体室53に連通し、被冷却流体出口ポート46は第2流体室54に連通している。過熱用伝熱管群33および第1蒸発用伝熱管群32Aの一端は、第1流体室53に連通し、過熱用伝熱管群33および第1蒸発用伝熱管群32Aの他端はターン側の流体室52(
図2参照)に連通している。第2蒸発用伝熱管群32Bの一端は、第2流体室54に連通し、第2蒸発用伝熱管群32Bの他端はターン側の流体室52(
図2参照)に連通している。
【0037】
被冷却流体(例えば、冷水)は、被冷却流体入口ポート45を通って第1流体室53に流入し、第1流体室53を満たす。被冷却流体は、第1流体室53に連通する第1蒸発用伝熱管群32Aおよび過熱用伝熱管群33を流れて流体室52(
図2参照)に流入する。流体室52を満たした被冷却流体は、第2蒸発用伝熱管群32Bを流れ、第2流体室54に流入する。被冷却流体は、第2流体室54から被冷却流体出口ポート46を通って流出する。
【0038】
冷媒液は、冷媒散布手段40から蒸発用伝熱管群32(第1蒸発用伝熱管群32Aおよび第2蒸発用伝熱管群32B)に散布される。冷媒液は、蒸発用伝熱管群32の表面に接触し、蒸発用伝熱管群32内を流れる被冷却流体との熱交換により蒸発し、冷媒蒸気となる。冷媒蒸気は、
図3の矢印で示すように、蒸発用伝熱管群32の両側から流出し、缶胴30内を上昇する。さらに、冷媒蒸気は、過熱用伝熱管群33の表面に接触し、過熱用伝熱管群33内を流れる被冷却流体により過熱される。上述したように、過熱用伝熱管群33は、1パス目の伝熱管群31−1(
図2参照)の一部から構成されている。1パス目の伝熱管群31−1を流れる被冷却流体は比較的高い温度を有している。したがって、過熱用伝熱管群33は、冷媒蒸気を高効率で過熱することができ、冷媒蒸気に含まれるミスト状の冷媒を蒸発させることができる。
【0039】
過熱された冷媒蒸気は、缶胴30の頂部に設けられた冷媒蒸気出口6を通って流出する。冷媒蒸気出口6は、
図1に示す圧縮機1の吸込口に冷媒配管4Aによって接続されている。したがって、冷媒蒸気は、冷媒配管4Aを流れて圧縮機1に導入される。
【0040】
過熱用伝熱管群33は、蒸発用伝熱管群32とは別に設けられる。このような配置により、蒸発用伝熱管群32自体を小さくでき、蒸発用伝熱管群32の上部のみならず、蒸発用伝熱管群32の側部および下部にも冷媒液を散布することができる。したがって、蒸発用伝熱管群32の全体は、冷媒液の蒸発に寄与できる。また、蒸発用伝熱管群32を構成する各伝熱管は、冷媒液の膜で覆われ、伝熱管のドライ状態が回避される。よって、冷媒液に含まれる潤滑油(圧縮機1で使用される潤滑油)が伝熱管の表面に付着することが防止され、結果として、伝熱管内を流れる被冷却流体(例えば冷水)と冷媒液との熱交換効率を向上させることができる。
【0041】
図3に示すように、蒸発器2は、蒸発用伝熱管群32と冷媒液との接触により発生した冷媒蒸気の上方への流れを阻止するバッフル板60をさらに備えている。バッフル板60は、蒸発用伝熱管群32の上方に配置されている。本実施形態では、バッフル板60の下面は、過熱用伝熱管群33の上端よりも低い位置にあり、過熱用伝熱管群33は、バッフル板60の両側に配置されている。バッフル板60は、蒸発用伝熱管群32の幅より大きな幅を有している。
【0042】
バッフル板60は、冷媒散布手段40から散布された冷媒の一部がフラッシュして生成された冷媒蒸気、及び蒸発用伝熱管群32と冷媒液との接触により発生した冷媒蒸気の流れを横にそらし、過熱用伝熱管群33に導くことができる。冷媒蒸気は過熱用伝熱管群33によって過熱され、冷媒蒸気に含まれるミスト状の冷媒が蒸発する。したがって、ミスト状の冷媒の圧縮機1への吸込みを防止することができる。
【0043】
蒸発器2は、蒸発用伝熱管群32と過熱用伝熱管群33との間に配置された冷媒蒸気案内板63をさらに備えている。冷媒蒸気案内板63は、バッフル板60の両側端に固定されている。冷媒蒸気案内板63は、バッフル板60から下方に延びている。
【0044】
冷媒蒸気案内板63の効果は次の通りである。蒸発器2は圧縮機1の吸込口に連結されるので、缶胴30内は低圧となっている。冷媒液は凝縮器3から蒸発器2に送られ、冷媒散布手段40から散布される。このとき、冷媒液の一部が瞬間的に蒸発し(フラッシュし)、冷媒の噴流を形成する。冷媒蒸気案内板63は、冷媒の噴流の飛散を防止することができる。さらに、冷媒蒸気案内板63は、冷媒の蒸気流を下方に案内し、蒸発用伝熱管群32に導く。この下方に向かう冷媒の蒸気流は、蒸発用伝熱管群32の上部を構成する伝熱管の表面から冷媒液の一部を除去し、上部の伝熱管上の冷媒液の膜厚を小さくする。結果として、蒸発用伝熱管群32の全体に冷媒液が供給され、冷媒液の蒸発が促進される。
【0045】
また、蒸発用伝熱管群32内の隙間に存在する冷媒蒸気は、冷媒蒸気案内板63によって下方に案内され、その後、蒸発用伝熱管群32から側方に流れる。冷媒蒸気は、過熱用伝熱管群33に接触する前に、蒸発用伝熱管群32と過熱用伝熱管群33との間に存在する空間を流れる。このとき、冷媒蒸気の流速は低下するので、冷媒蒸気に含まれる冷媒の液滴が自重により落下する。したがって、冷媒蒸気中に存在する冷媒の液滴は大幅に低減され、ほぼ飽和状態の冷媒蒸気が過熱用伝熱管群33に接触する。結果として、過熱用伝熱管群33での過熱効果が向上する。
【0046】
冷媒蒸気案内板63の下端は、過熱用伝熱管群33の全体よりも低い位置にある。このように配置された冷媒蒸気案内板63は、蒸発用伝熱管群32を通過した冷媒蒸気のほとんどすべてを過熱用伝熱管群33に導くことができる。
【0047】
図3に示すように、蒸発器2は、冷媒散布手段40の両側に配置されたブロック壁65をさらに備えている。ブロック壁65は、蒸発用伝熱管群32の両縁の上方に配置されており、冷媒蒸気案内板63よりも内側に位置している。
図5は、冷媒散布手段40、冷媒蒸気案内板63、ブロック壁65を示す拡大図である。ブロック壁65は、冷媒散布手段40から吐出された冷媒液の飛散を防止することができる。ブロック壁65に接触した冷媒液は、ブロック壁65から滴下し、蒸発用伝熱管群32の両縁を構成する伝熱管に接触する。したがって、蒸発用伝熱管群32の全幅に亘って冷媒液が供給され、蒸発用伝熱管群32を流れる被冷却流体と冷媒液との熱交換効率を向上させることができる。
【0048】
本実施形態では、過熱用伝熱管群33を構成する伝熱管には、背の高いフィンを有する伝熱管などの外側表面積の大きい伝熱管が使用される。すなわち、過熱用伝熱管群33を構成する伝熱管の単位長さ当たりの外側表面積は、蒸発用伝熱管群32を構成する伝熱管の単位長さ当たりの外側表面積よりも大きい。このような過熱用伝熱管群33を構成する伝熱管は、管外の冷媒蒸気の伝熱を促進でき、管外の冷媒蒸気と管内の被冷却流体との熱交換を促進することができるので、過熱用伝熱管群33を構成する伝熱管の数を少なくすることができる。
【0049】
冷媒蒸気中の液状の冷媒が過熱用伝熱管群33との接触により蒸発すると、被冷却流体の入口温度と出口温度との差が速やかに変化する。すなわち、被冷却流体の入口温度と出口温度との差の変化は、過熱用伝熱管群33に接触している冷媒蒸気中の液状の冷媒の量を反映している。したがって、弁制御部10は、被冷却流体の入口温度と出口温度との差に基づいて膨張弁22または膨張弁25の開度、すなわち過熱度を精密に制御することができる。また、本発明によれば、蒸発器2内の液面センサを設ける必要がないので、低価格で膨張弁22,25の制御が可能である。
【0050】
図6は、冷媒散布手段40、バッフル板60、およびブロック壁65の配置の一実施形態を示す拡大図であり、
図7は、
図6の矢印Cで示す方向から見た図である。冷媒散布手段40は、冷媒液入口5と、冷媒液入口5に接続されたヘッダー管49と、ヘッダー管49に接続された複数のノズル管48を備えている。ノズル管48は、ヘッダー管49に固定されている。各ノズル管48の下部には、複数の開口48aが設けられている。冷媒液は、冷媒液入口5、ヘッダー管49、およびノズル管48の順に流れ、開口48aから散布される。
【0051】
冷媒液入口5はバッフル板60を貫通して延びている。バッフル板60は、冷媒液入口5およびヘッダー管49に固定されている。したがって、バッフル板60と冷媒散布手段40は一体的な構造体である。本実施形態によれば、バッフル板60と冷媒散布手段40を別々に缶胴30内に配置する作業が不要であるので、蒸発器2の組み立てを簡単に行うことができる。
【0052】
図8は、冷媒散布手段40、バッフル板60、およびブロック壁65の配置の他の実施形態を示す拡大図であり、
図9は、
図8の矢印Dで示す方向から見た図である。本実施形態では、冷媒散布手段40は、冷媒液入口5に接続された中空箱68を備えており、中空箱68の下面には複数の開口68aが形成されている。中空箱68は、バッフル板60としても機能する。すなわち、中空箱68は、冷媒散布手段40を構成しつつ、バッフル板60を構成する。冷媒蒸気案内板63は、中空箱68(バッフル板60)の両側端に固定され、ブロック壁65は、中空箱68(バッフル板60)の下面に固定されている。冷媒液は、冷媒液入口5、中空箱68の順に流れ、開口68aから散布される。本実施形態によれば、よりシンプルな構造を持つ冷媒散布手段40およびバッフル板60が達成できる。
【0053】
図10は、蒸発器2の他の実施形態の断面図であり、
図11は、
図10に示す実施形態に係る蒸発器2の水室カバー44の断面図である。特に説明しない本実施形態の詳細は、
図2乃至
図4を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。本実施形態では、過熱用伝熱管群33の断面形状は、外側に向かって下方に傾斜している。過熱用伝熱管群33の全体は、蒸発用伝熱管群32の上端よりも低い位置にあり、かつ蒸発用伝熱管群32の下端よりも高い位置にある。
【0054】
冷媒蒸気案内板63の下端は、過熱用伝熱管群33の内側の下端よりも低い位置にある。したがって、
図2乃至
図4を参照して説明した実施形態と同様に、蒸発用伝熱管群32内の隙間に存在する冷媒蒸気は、冷媒蒸気案内板63によって下方に案内され、その後、蒸発用伝熱管群32から側方に流れる。冷媒蒸気は、蒸発用伝熱管群32と過熱用伝熱管群33との間に存在する空間を流れる間に、冷媒蒸気に含まれる冷媒の液滴が自重により落下する。したがって、冷媒蒸気中に存在する冷媒の液滴は大幅に低減され、ほぼ飽和状態の冷媒蒸気が過熱用伝熱管群33に接触する。結果として、過熱用伝熱管群33での過熱効果が向上する。
【0055】
図12は、蒸発器2のさらに他の実施形態の断面図であり、
図13は、
図12に示す実施形態に係る蒸発器2の水室カバー44の断面図である。特に説明しない本実施形態の詳細は、
図2乃至
図4を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。本実施形態では、過熱用伝熱管群33の全体は、冷媒散布手段40、バッフル板60、および蒸発用伝熱管群32よりも高い位置にある。
【0056】
図2乃至
図4を参照して説明した実施形態と同様に、蒸発用伝熱管群32内の隙間に存在する冷媒蒸気は、冷媒蒸気案内板63によって下方に案内され、その後、蒸発用伝熱管群32から側方に流れる。冷媒蒸気は、蒸発用伝熱管群32と過熱用伝熱管群33との間に存在する空間を流れる間に、冷媒蒸気に含まれる冷媒の液滴が自重により落下する。したがって、冷媒蒸気中に存在する冷媒の液滴は大幅に低減され、ほぼ飽和状態の冷媒蒸気が過熱用伝熱管群33に接触する。結果として、過熱用伝熱管群33での過熱効果が向上する。
【0057】
上述した蒸発器2のそれぞれの実施形態は、1パス目の伝熱管群31−1および2パス目の伝熱管群31−2を備えているが、本発明はこれら実施形態に限定されない。一実施形態では、
図14および
図15に示すように、蒸発器2は1パス目の伝熱管群31−1のみからなる蒸発用伝熱管群32および過熱用伝熱管群33を備えてもよい。あるいは、蒸発器2は3パス目以上の伝熱管群をさらに備えてもよい。
【0058】
上述した遠心式冷凍機は、圧縮式冷凍機の一例である。本発明は、圧縮式冷凍機の他の例であるスクリュー冷凍機にも同様に適用することができる。
【0059】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。