(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-183885(P2020-183885A)
(43)【公開日】2020年11月12日
(54)【発明の名称】電気化学測定システム、及び電気化学測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20201016BHJP
G01N 35/10 20060101ALI20201016BHJP
【FI】
G01N27/416 300Z
G01N35/10 A
G01N35/10 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-87648(P2019-87648)
(22)【出願日】2019年5月7日
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 翔一
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058CA01
2G058CB16
2G058CC02
2G058CC17
2G058CD23
2G058EA02
2G058ED19
2G058FB05
2G058FB12
2G058GA11
(57)【要約】
【課題】長期運転が可能なハイスループットな電気化学測定システムを提供する。
【解決手段】複数の母液を収容するための複数の第1ウェルを有し、評価プレートは、深さ方向において一対の電極及び当該一対の電極間に配設されたセパレータを含み、複数の被験液を収容するための複数の第2ウェルを有し、評価プレートの複数の第2ウェル内に、第2ウェル内に既に注液されている母液に対して非接触、かつ一対の電極の上部電極の上面に対して非接触で注液するとともに、注液量が第2ウェルの深さ方向において上部電極の上面未満となるように注液して、複数の被験液を調製する分注器と、分注器を洗浄するための洗浄器と、上部電極と電気的に接続された第1プローブ群、及び下部電極と電気的に接続された第2プローブ群と、これらプローブ群と電気的に接続された電気化学測定装置と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の母液を混合してなる被験液の電気化学特性を一斉に測定する自動電気化学測定システムであって、
複数の母液を収容する母液プレートから母液を抽液し、前記抽液した母液を評価プレートに注液することによって複数の被験液を調製するための分注器であって、前記母液プレートは、前記複数の母液を収容するための複数の第1ウェルを有し、前記評価プレートは、深さ方向において一対の電極及び当該一対の電極間に配設されたセパレータを含み、前記複数の被験液を収容するための複数の第2ウェルを有し、前記評価プレートの前記複数の第2ウェル内に、当該第2ウェル内に既に注液されている母液に対して非接触、かつ前記一対の電極の上部電極の上面に対して非接触で注液するとともに、注液量が前記第2ウェルの深さ方向において前記上部電極の上面未満となるように注液して、前記複数の被験液を調製する分注器と、
前記分注器を洗浄するための洗浄液が内部に循環している洗浄器と、
前記一対の電極の前記上部電極と電気的に接続された第1プローブ群、及び前記一対の電極の下部電極と電気的に接続された第2プローブ群と、
前記第1プローブ群及び第2プローブ群と電気的に接続され、前記複数の被験液のそれぞれの電気化学特性を一斉に測定する電気化学測定装置と、
を備えることを特徴とする、電気化学測定システム。
【請求項2】
前記分注器は、先端部と本体とが一体となっていることを特徴とする、請求項1に記載の電気化学測定システム。
【請求項3】
少なくとも前記母液及び前記被験液は非水系であって、前記母液プレート、前記評価プレート、前記分注器及び前記洗浄器は、グローブボックス内に収容されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電気化学測定システム。
【請求項4】
前記グローブボックス内は非活性雰囲気に保持されていることを特徴とする、請求項3に記載の電気化学測定システム。
【請求項5】
搬送器及び制御装置を備え、
前記制御装置によって前記搬送器を駆動し、前記分注器による前記複数の被験液の調整、及び前記洗浄器による前記分注器の洗浄を自動化したことを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載の電気化学測定システム。
【請求項6】
前記制御装置によって、前記第1プローブ群及び前記第2プローブ群の、前記上部電極及び前記下部電極との接続、並びに電気化学特性の測定を自動化したことを特徴とする、請求項5に記載の電気化学測定システム。
【請求項7】
前記電気化学特性は、リチウムイオン二次電池の電気化学特性であることを特徴とする、請求項1〜6の何れかに記載の電気化学測定システム。
【請求項8】
複数の母液を収容した複数の第1ウェルを有する母液プレートを準備するステップと、
深さ方向において一対の電極及び当該一対の電極間に配設されたセパレータを含み、複数の被験液を収容するための複数の第2ウェルを有する評価プレートを準備するステップと、
分注器によって、前記母液プレートの前記複数の第1ウェルから母液を抽液し、前記評価プレートの前記複数の第2ウェル内に、当該第2ウェル内に既に注液されている母液に対して非接触、かつ前記一対の電極の上部電極の上面に対して非接触で注液するとともに、注液量が前記第2ウェルの深さ方向において前記上部電極の上面未満となるように注液して、前記複数の被験液を調製するステップと、
洗浄液が内部に循環している洗浄器の、当該洗浄液によって、前記分注器を洗浄するステップと、
前記一対の電極の前記上部電極と第1プローブ群を電気的に接続するとともに、前記一対の電極の下部電極と第2プローブ群を電気的に接続するステップと、
前記第1プローブ群及び第2プローブ群と電気的に接続された電気化学測定装置によって、前記複数の被験液のそれぞれの電気化学特性を一斉に測定するステップと、
を備えることを特徴とする、電気化学測定方法。
【請求項9】
前記分注器は、先端部と本体部とが一体となっていることを特徴とする、請求項8に記載の電気化学測定方法。
【請求項10】
少なくとも前記母液及び前記被験液は非水系であって、前記母液プレート、前記評価プレート、前記分注器及び前記洗浄器は、グローブボックス内に収容するステップを備えることを特徴とする、請求項8又は9に記載の電気化学測定方法。
【請求項11】
前記グローブボックス内を非活性雰囲気に保持することを特徴とする、請求項10に記載の電気化学測定方法。
【請求項12】
制御装置によって搬送器を駆動し、前記分注器による前記複数の被験液の調整、及び前記洗浄器による前記分注器の洗浄を自動化することを特徴とする、請求項8〜11の何れかに記載の電気化学測定方法。
【請求項13】
前記制御装置によって、前記第1プローブ群及び前記第2プローブ群の、前記上部電極及び前記下部電極との接続、並びに電気化学特性の測定を自動化することを特徴とする、請求項12に記載の電気化学測定方法。
【請求項14】
前記電気化学特性は、リチウムイオン二次電池の電気化学特性であることを特徴とする、請求項8〜13の何れかに記載の電気化学測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学測定システム、及び電気化学測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の母液が異なる割合で混合された複数種類の試料が収容された複数のウェルを有するマイクロプレートを用いたオートメーションシステムがバイオテクノロジーの分野で知られている(例えば、特許文献1〜4を参照)。このシステムは、複数種類の試料を光学的に測定する光学測定系が検出系として採用されていることが前提で確立されてきたスクリーニングシステムである。
【0003】
新しい用途の電解液(組成、添加剤)を探索する際には数多くのトライ&エラーが必要となる。しかしながら、従来の電解液探索は経験に頼っていて、その経験に基づく暗黙知のアルゴリズム化が要望されている。
【0004】
このアルゴリズム化へ向けては、アルゴリズム化のベースとなる大きなデータ群が必要となる。しかしながら、そのような大きなデータ群を取得するためのハイスループットな電気化学測定システムは従来存在しなかった。
【0005】
前述した特許文献1〜4に記載のシステムは、複数種類の試料を光学的に測定する光学測定系が検出系として採用されていることが前提であるため、電解液の電気特性を測定することはできないという問題を抱えている。そこで、長期運転が可能なハイスループットな電気化学測定システムの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5930961号公報
【特許文献2】米国特許第8222048号明細書
【特許文献3】米国特許第7169362号明細書
【特許文献4】国際公開第2007/038521号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上より、本発明の課題は、長期運転が可能なハイスループットな電気化学測定システム及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、2以上の母液を混合してなる被験液の電気化学特性を一斉に測定する自動電気化学測定システムであって、複数の母液を収容する母液プレートから母液を抽液し、前記抽液した母液を評価プレートに注液することによって複数の被験液を調製するための分注器であって、前記母液プレートは、前記複数の母液を収容するための複数の第1ウェルを有し、前記評価プレートは、深さ方向において一対の電極及び当該一対の電極間に配設されたセパレータを含み、前記複数の被験液を収容するための複数の第2ウェルを有し、前記評価プレートの前記複数の第2ウェル内に、当該第2ウェル内に既に注液されている母液に対して非接触、かつ前記一対の電極の上部電極の上面に対して非接触で注液するとともに、注液量が前記第2ウェルの深さ方向において前記上部電極の上面未満となるように注液して、前記複数の被験液を調製する分注器と、前記分注器を洗浄するための洗浄液が内部に循環している洗浄器と、前記一対の電極の前記上部電極と電気的に接続された第1プローブ群、及び前記一対の電極の下部電極と電気的に接続された第2プローブ群と、前記第1プローブ群及び第2プローブ群と電気的に接続され、前記複数の被験液のそれぞれの電気化学特性を一斉に測定する電気化学測定装置と、を備えることを特徴とする、電気化学測定システムに関する。
【0009】
また、本発明の一態様は、複数の母液を収容した複数の第1ウェルを有する母液プレートを準備するステップと、深さ方向において一対の電極及び当該一対の電極間に配設されたセパレータを含み、複数の被験液を収容する複数の第2ウェルを有する評価プレートを準備するステップと、分注器によって、前記母液プレートの前記複数の第1ウェルから母液を抽液し、前記評価プレートの前記複数の第2ウェル内に、当該第2ウェル内に既に注液されている母液に対して非接触、かつ前記一対の電極の上部電極の上面に対して非接触で注液するとともに、注液量が前記第2ウェルの深さ方向において前記上部電極の上面未満となるように注液して、前記複数の被験液を調製するステップと、洗浄液が内部に循環している洗浄器の、当該洗浄液によって、前記分注器を洗浄するステップと、前記一対の電極の前記上部電極と第1プローブ群を電気的に接続するとともに、前記一対の電極の下部電極と第2プローブ群を電気的に接続するステップと、前記第1プローブ群及び第2プローブ群と電気的に接続された電気化学測定装置によって、前記複数の被験液のそれぞれの電気化学特性を一斉に測定するステップと、を備えることを特徴とする、電気化学測定方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長期運転が可能なハイスループットな電気化学測定システム及び方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態における電気化学測定システムを示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態における母液プレートを示す模式図である。
【
図3】本発明の実施形態における評価プレートを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の特徴及びその他の利点について、発明を実施するための形態に基づいて説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態の電気化学測定システムを示す模式図である。
【0014】
本発明の電気化学測定システムは、2以上の母液を混合してなる被験液の電気化学特性を一斉に測定する。詳細には
図1に示すように、電気化学測定システム100は、複数の母液を収容する母液プレート110から母液を抽液し、それを評価プレート120に注液することによって複数の被験液を調製するための分注器150と、分注器150を洗浄するための洗浄液が内部に循環している洗浄器180と、第1プローブ群171及び第2プローブ群172と、第1プローブ群171及び第2プローブ群172と電気的に接続され、複数の被験液のそれぞれの電気化学特性を一斉に測定する電気化学測定装置210とを備える。
【0015】
母液プレート110は、複数の母液を収容した複数の第1ウェルを有し、評価プレート120は、深さ方向において一対の電極及び当該一対の電極間に配設されたセパレータを含み、複数の被験液を収容する複数の第2ウェルを有する。
図1では、これら母液プレート110及び評価プレート120を固定設置するプレートスタッカ130を示すが、プレートスタッカ130は、特に必須の構成要素ではなく、母液プレート110及び評価プレート120を固定設置することができれば省略することもできるし、他の部材、装置で代用することができる。
【0016】
また、母液プレート110及び評価プレート120は、洗浄して繰り返し使用することもできるが、以下に示す1回の電気化学測定毎に、あるいは複数回の電気化学測定毎に廃棄して新しいものと交換することができる。母液プレート110および評価プレート120は、後述する特徴を有する任意のプレートを電気化学測定システム100に使用でき、電気化学測定システム100の必須の構成要素ではないことに留意されたい。
【0017】
また、本実施形態では、複数の母液プレート110及び複数の評価プレート120がプレートスタッカ130に固定設置されているが、必ずしも複数の母液プレート110及び評価プレート120が設置されている必要はなく、いずれか一方、特に母液プレート110を単独で設置することもできる。しかしながら、
図1に示すように、複数の母液プレート110等を配設することにより、多種の被験液を調整することができ、以下に説明するように、電気化学測定をハイスループットで行うことができる。
【0018】
また、電気化学測定システム100は、分注ステージ160をさらに有してもよく、当該分注ステージ160上で分注器150により、母液プレート110内の複数の第1ウェルから母液を抽液し、評価プレート120の複数の第2ウェル内に複数の被験液を調整できるようになっている。なお、分注ステージ160は、本実施形態では、必須の構成要素ではなく、適宜省略することができるし、他の部材、装置で代用することができる。
【0019】
さらに、電気化学測定システム100は、好ましくは、搬送器140、測定ステージ170及び制御装置220を備えている。制御装置220は、以下に説明するように、搬送器140や電気化学測定装置210等を駆動し、電気化学測定システム100の自動化に寄与している。
【0020】
なお、本実施形態では、電気化学測定に寄与する母液及び被験液は非水系であるため、プレートスタッカ130を含む母液プレート110及び評価プレート120、分注器150、分注ステージ160、測定ステージ170、洗浄器180は、グローブボックス190内に収容され、大気中に存在する水分から隔離されている。
【0021】
また、グローブボックス190内は、非活性ガス雰囲気に保持され、当該グローブボックス190内の水分を極力低減するようにしている。非活性ガスとしては、乾燥窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスを挙げることができる。
【0022】
次に、本実施形態の各構成要素について説明する。
【0023】
図2は、本実施形態の母液プレート110を示す模式図である。
【0024】
母液プレート110は、複数のウェル110Wを備えており、複数のウェル110Wのそれぞれに母液110Lが収容されている。
図2では、母液プレート110は、8行×12列のマトリクス状に96個のウェル110Wが示されるが、ウェル110Wの数や配列はこれに限らない。
【0025】
母液は、電池の電解液を構成し得る溶液を意図しており、電解質、溶媒などに相当する。すべてのウェル110Wに母液110Lが収容されてもよいし、一部のウェル110Wに母液が収容されていてもよいが、複数のウェル110Wには互いに異なる母液が収容される。また、母液プレート110は、母液との反応性が低い材料(例えば、ポリプロピレン)により構成することが好ましい。
【0026】
図3は、本実施形態の評価プレート120を示す模式図である。
【0027】
評価プレート120は、複数のウェル120Wを備えており、複数のウェル120Wのそれぞれに被験液120L(すなわち、電解液)が調製され、収容される。
図3(A)では、評価プレート120は、8行×12列のマトリクス状に96個のウェル120Wが示されるが、ウェル120Wの数や配列はこれに限らない。
【0028】
図3(B)に示されるように、ウェル120Wのそれぞれには、上部電極330及び下部電極340からなる一対の電極、及びこれら電極間に位置するセパレータ350が予め配置されている。下部電極340は、ウェル120Wの底部に位置している。
図3(B)には、ウェル120Wに調製された被験液120Lが収容されている様子も併せて示す。
【0029】
例えば、電極330が正極であり、電極340が負極として機能する。リチウムイオン二次電池に使用する電解液の評価の場合、電極330には、ニッケル箔、ステンレス鋼、銅、これらの合金等が使用でき、電極340には、金属リチウム、あるいは、マグネシウム、チタン、スズ、鉛、アルミニウム、インジウム、ケイ素、亜鉛、アンチモン、ビスマス、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム等とリチウムとのリチウム合金を使用できる。
【0030】
なお、本発明の電気化学測定システム100を用いてナトリウム電池に使用する電解液を評価する場合には、電極340には、金属ナトリウム、あるいは、マグネシウム、チタン、スズ、鉛、アルミニウム、インジウム、ケイ素、亜鉛、アンチモン、ビスマス、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム等とナトリウムとのナトリウム合金を使用できる。このように、電極340は、電池の種類に応じて適宜変更され得る。
【0031】
また、
図3では、電極330が正極であり、電極340が負極であるものとして示したが、逆であってもよい。
【0032】
セパレータ350は、アルカリ金属イオン、及び/または、アルカリ土類金属イオンが通過可能であり、多孔質構造を有する絶縁性材料で形成されたものであれば特に制限はなく、既存の金属電池に使用されるセパレータを適用できる。例示的には、セパレータ350は、ポリエチレンやポリプロピレンをはじめとするポリオレフィン製の多孔質膜、ガラス繊維製の不織布等が挙げられる。
【0033】
すべてのウェル120Wに被験液120Lが収容されてもよいし、一部のウェル120Wに被験液120Lが収容されていてもよいが、ハイスループットな電気化学測定の観点からは、ウェル120Wのすべてに被験液120Lが調製され、収容されることが望ましい。ここでも、評価プレート120は、電解液との反応性が低い材料(例えば、ポリプロピレン)により構成することが好ましい。
【0034】
なお、すべてのウェル120Wに予め共通電解液を収容しておいてもよい。これにより、被験液120Lがその中に調製されると、容易に混合し、一対の電極330、340及びセパレータ350と被験液120Lとが良好になじみ、測定精度を向上させることができる。このような共通電解液には、リチウムイオン電池の場合にはリチウム塩を含有する任意の電解液を使用でき、代表的には、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)及びジメチルカーボネート(DMC)からなる群から少なくとも1種選択される溶媒中にLiPF
6、LiBF
4等のリチウム塩を溶解させたもの(濃度は、例えば、1M)がある。その他の電池の場合にも同様に共通電解液を採用できる。
【0035】
共通電解液は、好ましくは、調製される被験液120Lと共通電解液との体積比が、被験液:共通電解液=2:1〜1:1となるように収容される。これにより、測定精度を向上させることができる。
【0036】
図3(C)に示すように、ウェル120Wは、後述する、一対の電極330、340の上部電極330とプローブ370とが電気的に接続し、下部電極340とプローブ380とが電気的に接続し、電気化学測定装置210と接続し、測定を可能にする。
【0037】
図4は、第1のプローブ群を模式的に示す図であり、
図5は、第2のプローブ群を模式的に示す図である。
【0038】
図4(A)は、第1のプローブ群171の平面図であり、
図4(B)は、第1のプローブ群171の側面図である。第1のプローブ群171は、穴420を有する板410と、穴420に圧入される複数のプローブ370とからなる。板410に形成される穴420は、評価プレート120の複数のウェル120Wの数に一致する。第1のプローブ群171の複数のプローブ370のそれぞれは、複数のウェル120Wのそれぞれの上部電極330と電気的に接続するよう構成されている。
【0039】
図5(A)は、第2のプローブ群172の平面図であり、
図5(B)は、第2のプローブ群172の側面図である。第2のプローブ群172は、穴520を有する板510と、穴520に圧入される複数のプローブ380からなる。ここでも、板510に形成される穴520は、評価プレート120の複数のウェル120Wの数に一致する。
図4と同様であるが、第2のプローブ群172の複数のプローブ380のそれぞれは、複数のウェル120Wのそれぞれの下部電極340と電気的に接続するよう構成されている。
【0040】
洗浄器180は、内部に洗浄液が循環しており、洗浄器本体に多数の開口部が形成されて、分注器150の先端部が当該洗浄液に浸漬され、分注器150の先端に付着した母液が洗浄液によって洗浄される。
【0041】
洗浄液としては、非水系であって、グローブボックス190内で結露しないように揮発性がさほど高くなく、電解液などの被験液と反応しない有機溶媒が好ましく、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスフォアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチルウレア、トリエチルホスフェイト、トリメチルホスフェイト、アセトン、2−ブタノン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトン、2−ブタノンが好ましい。特にこれらの有機溶媒は脱水処理した後に用いることが好ましい。
【0042】
分注器150は、先端部と本体部とが分離可能な分離型の他、先端部と本体部とが一体となった一体型を用いることができるが、本実施形態では、以下に説明するように、一体型の分注器を繰り返し用いることができる。
【0043】
図1に戻ると、電気化学測定装置210は、第1のプローブ群171及び第2のプローブ群172と電気的に接続され、評価プレート120”の複数のウェル120Wに収容された複数の被験液のそれぞれの電気化学特性を一斉に測定する。このような電気化学測定装置210は、充放電試験機やインピーダンス測定機を備えているとよい。
【0044】
制御装置220は、搬送器140、分注器150、測定ステージ170、洗浄器180及び電気化学測定装置210の動作をそれぞれ制御し、電気化学測定システム100の自動化に寄与する。このような制御装置220は、例えば、中央演算処理装置(CPU)、データを格納するメモリや、必要に応じて通信手段を備えていることが好ましい。このような制御手段220は、パーソナルコンピュータ等であり得る。
【0045】
次に、本実施形態の電気化学測定システム100による電気化学測定の方法について説明する。
【0046】
最初に、制御装置220によって、搬送手段140が、プレートスタッカ130から1つの母液プレート110’と1つの評価プレート120’とをそれぞれ取り出し、分注ステージ160の分注器150の分注位置に移動する。次いで、制御装置220によって、分注器150が、母液プレート110’の1つのウェルから母液を抽液して評価プレート120’へ注液する。このとき、
図6に示すように、評価プレート120’に母液を注入する際には、評価プレート120’のウェル内に既に存在している母液に対して分注器150の先端が接触することなく、かつ上部電極330の上面330Aに接触しないようにして行う。また、ウェル内への抽液量が、その深さ方向において上部電極330の上面未満となるように行う。これによって、上部電極330の上面330A上に母液が残存しなくなる。
【0047】
なお、評価プレート120’のウェル内に初めて母液を注入する場合は、当該ウェル内には母液が存在していないので、この場合は、分注器150の先端が母液と接触することはない。
【0048】
次いで、制御装置220によって、分注器150は洗浄器180に搬送される。洗浄器180は、内部に洗浄液が循環しており、洗浄器本体に多数の開口部が形成されて、分注器150の先端部が開口部を介して当該洗浄液に浸漬され、分注器150の先端に付着した母液が洗浄液によって洗浄される。すなわち、分注器150は、母液プレート110’の1つのウェルから母液を抽液して評価プレート120’へ注液する毎に、その先端部が洗浄されるようになる。したがって、従来のように、複数の母液によるコンタミを防止すべく、1つのウェルから母液を抽液して評価プレート120’へ注液する毎に、分注器150の先端部を交換することがない。このため、分注器150としては、先端部が本体部と分離した分離型を用いることなく、先端部と本体部とが一体となった一体型を用いることができる。したがって、分注器150の先端部交換によるコスト増を防止することができるとともに、タクトタイムの増大を防止することができ、よりハイスループットの電気化学測定が可能となる。
【0049】
なお、洗浄器180内部に洗浄液を循環させることにより、洗浄液を洗浄器180内部に滞留させておく場合、あるいは洗浄液を垂れ流す場合に比較して、効率良く分注器150の洗浄を行うことができる。したがって、より少ない量の洗浄液で分注器150の洗浄を行うことができるので、洗浄コストを低減することができる。但し、この場合においても、洗浄液が所定の程度まで混濁してきた場合は、当該洗浄液を交換する。
【0050】
次いで、制御装置220によって、分注器150が、母液プレート110’の他のウェルから母液を抽液して評価プレート120’へ注液する。このときも、
図6に示すように、評価プレート120’に母液を注入する際には、評価プレート120’のウェル内に既に存在している母液に対して分注器150の先端が接触することなく、かつ上部電極330の上面330Aに接触しないようにして行う。また、ウェル内への抽液量が、その深さ方向において上部電極330の上面未満となるように行う。これによって、上部電極330の上面330A上に母液が残存しなくなる。
【0051】
複数の母液を抽液して、評価プレート120’に複数の被験液を調整するには、上述した操作を複数回行う必要があるが、上記のように評価プレート120’のウェル内に母液を抽液する際には、その上部電極330の上面330Aにそれらの母液が残存しないようにしている。したがって、上部電極330の上面330Aでの複数の母液のコンタミを抑制することができ、制御装置220によって、上部電極330にプローブ370(第1プローブ群171)を電気的に接続し、下部電極340にプローブ380(第2プローブ群172)を電気的に接続して電気化学測定を行う際に、上部電極330の上面330Aのコンタミ抑制に基づいて、当該電気化学測定を正確に行うことができる。
【0052】
なお、電気化学測定は、上述のようにして、複数の母液が抽液されて得た複数の被験液を備えた評価プレート120”を、搬送器140によって測定ステージ170に搬送し、一対の電極330、340と第1のプローブ群171及び第2のプローブ群172とを電気的に接続する。そして、第1のプローブ群171(プローブ370)及び第2のプローブ群172(プローブ380)と電気化学測定装置210とが電気的に接続すると、電気化学測定装置210が、評価プレート120”の複数の被験液のそれぞれの電気化学特性を一斉に測定する。このようにして、複数の被験液の電気化学特性をハイスループットで測定できる。
【0053】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
100 電気化学測定システム
110,110’ 母液プレート
120,120’,120” 評価プレート
130 プレートスタッカ
140 搬送器
150 分注器
160 分注ステージ
170 測定ステージ
171 第1のプローブ群
172 第2のプローブ群
180 洗浄器
190 グローブボックス
210 電気化学測定装置
220 制御装置