特開2020-184587(P2020-184587A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-184587(P2020-184587A)
(43)【公開日】2020年11月12日
(54)【発明の名称】セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20201016BHJP
【FI】
   H01G4/30 515
   H01G4/30 201L
   H01G4/30 201K
   H01G4/30 512
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-88626(P2019-88626)
(22)【出願日】2019年5月8日
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】森田 浩一郎
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AE02
5E001AE03
5E001AF06
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC35
5E082EE04
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082GG10
5E082GG28
5E082MM32
5E082PP01
5E082PP06
5E082PP08
5E082PP09
5E082PP10
(57)【要約】
【課題】 信頼性を向上させることができるセラミック電子部品を提供する。
【解決手段】 セラミック電子部品は、セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が交互に積層された積層構造を備え、前記誘電体層に対する130℃、5V/μm、30minの分極による昇温速度10℃/minのTSDCにおいて、130℃から190℃の低温側ピーク電流値をIとし、190℃〜280℃の高温側ピーク電流値をIとした場合に、I/I>1.40の関係が成立することを特徴とする。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が交互に積層された積層構造を備え、
前記誘電体層に対する130℃、5V/μm、30minの分極による昇温速度10℃/minのTSDCにおいて、130℃から190℃の低温側ピーク電流値をIとし、190℃〜280℃の高温側ピーク電流値をIとした場合に、I/I>1.40の関係が成立することを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記誘電体層の平均厚みは、3μm以下であることを特徴とする請求項1記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記誘電体層の平均厚みは、0.45μm以下であることを特徴とする請求項1記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記誘電体層の厚み方向において、結晶粒の平均数は、3から8であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記誘電体層の主成分は、BaTiOであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品において、絶縁劣化機構は、誘電体層中の酸素欠陥が電界によってカソードへ堆積し、カソードと誘電体層との界面における電気抵抗を引き下げることで起こり、この堆積までの時間が寿命を決定する趣旨の報告がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
このモデルに従って、酸素欠陥量を低減することで寿命や耐電圧といった信頼性を改善できることが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、酸素欠陥濃度の定量に、熱刺激脱分極電流(TSDC)を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−356305号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「dc-Electrical Degradation of the BT-Based Material for Multilayer Ceramic Capacitor with Ni internal Electrode: Impedance Analysis and Microstructure」、Jpn J Appl Phys, 40(2001) pp.5624-5629
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、TSDCデータの電流の積分値から酸素欠陥量を見積もっている。しかしながら、TSDCデータのうち、セラミック電子部品の寿命に大きい影響を及ぼすのは、誘電体層の結晶粒界を跨いでカソードまで移動する酸素欠陥に相当する部分である。特許文献1では、このことについて開示がない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、信頼性を向上させることができるセラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るセラミック電子部品は、セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が交互に積層された積層構造を備え、前記誘電体層に対する130℃、5V/μm、30minの分極による昇温速度10℃/minのTSDCにおいて、130℃から190℃の低温側ピーク電流値をIとし、190℃〜280℃の高温側ピーク電流値をIとした場合に、I/I>1.40の関係が成立することを特徴とする。
【0009】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層の平均厚みは、3μm以下としてもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層の平均厚みは、0.45μm以下としてもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層の厚み方向における結晶粒の平均数は、3から8としてもよい。
【0012】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層の主成分は、BaTiOとしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、信頼性を向上させることができるセラミック電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2】(a)〜(e)はTSDCを利用して酸素欠陥移動量を見積もる手順を例示する図である。
図3】(a)は酸素欠陥の移動を例示する図であり、(b)は温度と熱刺激電流値との関係を例示する図である。
図4】結果を示す図である。
図5】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0016】
(実施形態)
まず、積層セラミックコンデンサの概要について説明する。図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図1で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0017】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0018】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0019】
内部電極層12は、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。
【0020】
誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を主相とするセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3−αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO(チタン酸バリウム)、CaZrO(ジルコン酸カルシウム)、CaTiO(チタン酸カルシウム)、SrTiO(チタン酸ストロンチウム)、ペロブスカイト構造を形成するBa1-x−yCaSrTi1−zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。誘電体層11は、例えば、ペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とするセラミック原材料粉末を焼成することによって得られる。
【0021】
このような積層セラミックコンデンサ100においては、絶縁劣化機構は、誘電体層11中の酸素欠陥が、カソードとして働く内部電極層12へ電界によって当該内部電極層12と誘電体層11との界面に堆積し、当該界面における電気抵抗を引き下げることで起こり、この堆積までの時間が寿命を決定する趣旨の報告があり、広く受け入れられている。このモデルに従い、酸素欠陥量を低減することで寿命や耐電圧といった信頼性を改善できることが知られている。例えば、熱刺激脱分極電流(TSDC)によって酸素欠陥移動量を見積もることができる。
【0022】
例えば、図2(a)〜図2(e)は、TSDCを利用して酸素欠陥移動量を見積もる手順を例示する図である。図2(a)は、一方の外部電極に接続された内部電極層12と他方の外部電極に接続された内部電極層12とによって挟まれた誘電体層11を例示する断面図である。図2(a)で例示するように、誘電体層11内には、酸素欠陥14が存在し、例えば誘電体層11中においてほぼ均等に分布している。
【0023】
図2(b)は、積層セラミックコンデンサ100を、加温した所定温度下に置き、隣り合う2つの内部電極層12間に直流電圧を印加した状態を部分的に示したものである。無負荷状態の積層セラミックコンデンサ100を加熱し、隣り合う2つの内部電極層12間に直流電圧を印加すると、誘電体層11中に分布していた酸素欠陥14が一方の電極側(ここでは−極側)に偏在してくる。この場合、温度は、例えば、200℃である。誘電体層11に印加される電界強度は、例えば、10V/μmである。
【0024】
図2(c)は、高温負荷状態にした積層セラミックコンデンサ100を、室温(25℃)下、無負荷の状態に戻したときの状態を示したものである。温度を室温(25℃)に戻した後、電圧を解除しても、酸素欠陥14は一方の内部電極層12(−極側)の方に偏在したままである。
【0025】
この状態から図2(d)で例示するように、積層セラミックコンデンサ100に電流計を取り付けて、積層セラミックコンデンサ100を再び加熱すると、誘電体層11中で一方の内部電極層12側(ここでは−極側)に偏在していた酸素欠陥14が、徐々に、対向する内部電極層12側へ移動する。この酸素欠陥14がキャリアとなり電流が流れる。この電流のことを、熱刺激電流と称する。加熱する温度は300℃程度とする。熱刺激電流は、酸素欠陥14による分極が解除されるまで発生するため、分極が解除されるまでの電流の時間積分が誘電体層11内のキャリアの電荷の総量Qとなる。
【0026】
上記測定によって求めた電荷Qを酸素欠陥14の1個当たりの電荷(2×1.6×10−19クーロン:負の固定電荷としてV+2で表されるため、絶対値は電気素量の2倍となる。)と誘電体層11の体積で除して積層セラミックコンデンサ100中に存在する酸素欠陥濃度を求める。このように、電流値の積分値から、酸素欠陥量を見積もることができる。
【0027】
ここで、熱刺激電流が発生する際の酸素欠陥の移動について説明する。図3(a)は、酸素欠陥の移動を例示する図である。図3(a)で例示するように、誘電体層11は、複数の結晶粒15を含んでいる。2つの結晶粒15の間には、結晶粒界16が形成されている。図3(a)の上段で例示するように、酸素欠陥14は、結晶粒15内を移動する。また、図3(a)の中段で例示するように、酸素欠陥14は、結晶粒界16を跨いで移動する。積層セラミックコンデンサ100の寿命に大きい影響を及ぼすのは、誘電体層11内の結晶粒界16を跨いで移動する酸素欠陥14である。
【0028】
そこで、温度と熱刺激電流値との関係を図3(b)に例示する。図3(b)で例示するように、TSDCデータには、複数の電流ピークが現れる。大きく分けると、130℃以上で典型的な二つの主たるピークが現れる。これらのピークは、130℃から190℃の低温側ピーク(ピークA)と、190℃から280℃の高温側ピーク(ピークB)である。図2(a)〜図2(e)の手順では、これらの電流ピークの積分値から酸素欠陥量を見積もっていることになる。
【0029】
積層セラミックコンデンサ100の実際の信頼性と、TSDCデータとの関係を結び付けるには、この積分値のみでは十分ではない。上述したように、積層セラミックコンデンサ100の信頼性に大きい影響を及ぼすのは、誘電体層11内の結晶粒界16を跨いで移動する酸素欠陥14であるからである。この酸素欠陥14の移動は、ピークBが表す電流である。これに対して、ピークAが表す電流は、結晶粒界16を跨がずに結晶粒15内の酸素欠陥移動である。ピークAが積層セラミックコンデンサの寿命に及ぼす影響は、ピークBが及ぼす影響と比較すると小さい。したがって、信頼性を向上させるためには、ピークBを小さくすることが求められる。
【0030】
そこで、本発明者は、鋭意研究により、ピークAの電流値とピークBの電流値との比(I/I)が信頼性の制御に重要であることを見出した。具体的には、本発明者は、130℃、5V/μm、30minの分極による昇温速度10℃/minのTSDCにおいて、I/Iが互いに異なる複数の誘電体層を作製し、190℃、20V/μmという高温高電界の加速寿命試験(HALT)を行った。その結果を図4に示す。図4に示すように、本発明者は、I/I>1.40とすることで、190℃、20V/μmという高温高電界の加速寿命試験(HALT)において100min以上と高い寿命が得られることを見出した。
【0031】
そこで、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100においては、複数の誘電体層11のうち、少なくともいずれか一層の誘電体層11は、I/Iが1.40を上回る構成を有している。積層セラミックコンデンサ100に含まれる全ての誘電体層11が、I/Iが1.40を上回ることが好ましい。
【0032】
例えば、誘電体層11の組成、結晶粒径、焼成条件などのパラメータを調整することによって、I/Iが1.40を上回るようになる。信頼性向上の観点から、I/Iは、2.0を上回ることが好ましく、4.0を上回ることがより好ましい。
【0033】
例えば、電界を横切る結晶粒界数を増やしたり、結晶粒界を厚くすることで、I/Iを大きくすることができる。しかしながら、I/Iを大きくし過ぎると、誘電率が落ちるおそれがある。したがって、容量確保および高信頼性の観点からは、I/Iに上限を設けることが好ましい。例えば、I/Iは、8.0以下であることが好ましく、6.0以下であることがより好ましい。
【0034】
なお、誘電体層11において、厚み方向に複数の結晶粒が含まれる場合に、ピークAおよびピークBが顕著に表れる。したがって、誘電体層11において、厚み方向に複数の結晶粒が含まれることが好ましい。例えば、誘電体層11の1層あたりの結晶粒の平均数は、3から8であることが好ましい。このような誘電体層11の1層あたりの結晶粒の平均値は、積層方向に平行な切断面を電子顕微鏡で観察して、積層方向に平行に引いた任意の直線が横切る結晶粒の数を1層の誘電体層で求め、これを任意に選択した20箇所の誘電体層でおこない、その平均値として求めることができる。
【0035】
誘電体層11の平均厚みは、例えば、3μm以下である。誘電体層11の平均厚みが小さいほど、厚み方向における結晶粒数が少なくなる。したがって、誘電体層11の平均厚みが小さいほど、I/Iを規定する意義が大きくなる。この観点から、誘電体層11の平均厚みは、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.45μm以下であることがさらに好ましく、0.35μm以下であることがさらに好ましい。誘電体層の11の平均厚みは、積層方向に平行な切断面を電子顕微鏡で観察して、たとえば任意に選択した20箇所の厚みの平均値として求めることができる。
【0036】
なお、I、I、(I+I)の各値自体は、積層セラミックコンデンサ100のサイズ、電極構成、誘電体層厚、分極条件、その他の条件に応じて変動するので、これらの値自体で寿命を制御することは困難である。この観点に基づき、本実施形態においては、IとIとの比に着目している。
【0037】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。図5は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0038】
(原料粉末作製工程)
図5で例示するように、まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABOの粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiOは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiOは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル−ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0039】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mg(マグネシウム),Mn(マンガン),V(バナジウム),Cr(クロム),希土類元素(Y(イットリウム),Sm(サマリウム),Eu(ユウロピウム),Gd(ガドリニウム),Tb(テルビウム),Dy(ジスプロシウム),Ho(ホロミウム),Er(エルビウム),Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、並びに、Co(コバルト),Ni,Li(リチウム),B(ホウ素),Na(ナトリウム),K(カリウム)およびSi(シリコン)の酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0040】
例えば、セラミック原料粉末に添加化合物を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、誘電体材料が得られる。
【0041】
(積層工程)
次に、得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み3μm以下の帯状の誘電体グリーンシートを塗工して乾燥させる。
【0042】
次に、誘電体グリーンシートの表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、極性の異なる一対の外部電極に交互に引き出される内部電極層パターンを配置する。金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。例えば、平均粒子径が50nm以下のBaTiOを均一に分散させてもよい。
【0043】
その後、内部電極層パターンが印刷された誘電体グリーンシートを所定の大きさに打ち抜いて、打ち抜かれた誘電体グリーンシートを、基材を剥離した状態で、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、所定層数(例えば100〜500層)だけ積層する。積層した誘電体グリーンシートの上下に、カバー層13を形成するためのカバーシートを圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。
【0044】
得られたセラミック積層体をN雰囲気中で脱バインダした後に、セラミック積層体の両端面から各側面にかけて、外部電極20a,20bの主成分金属を含む金属フィラー、共材、バインダ、溶剤などを含み、外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストを塗布し、乾燥させる。
【0045】
(焼成工程)
このようにして得られた成型体を、250〜500℃のN雰囲気中で脱バインダ処理した後に、酸素分圧10−8〜10−13atmの還元雰囲気中で1100〜1300℃で10分〜2時間焼成することで、成型体の各粒子が焼結する。このようにして、セラミック積層体が得られる。
【0046】
(再酸化処理工程)
その後、Nガス雰囲気中で600℃〜1000℃で再酸化処理を行う。例えば、950℃で1h再酸化処理を行う。その後、冷却の過程で、400℃においてNガス雰囲気から雰囲気を大気に切り替え、室温まで徐冷する。このような処理を行うことにより、誘電体層11の結晶粒界16の酸素濃度を高めることができる。それにより、酸素欠陥14が結晶粒界16を超えて、あるいは結晶粒界16に沿って移動することを抑制することができる。その結果、Iに対してIを相対的に低下させることができる。
【0047】
(めっき処理工程)
その後、外部電極20a,20bの下地層上に、めっき処理により、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行う。以上の行程により、積層セラミックコンデンサ100が完成する。
【0048】
本実施形態に係る製造方法によれば、複数の誘電体層11のうち、少なくともいずれか一層の誘電体層11は、I/Iが1.40を上回る構成を有するようになる。それにより、190℃、20V/μmという高温高電界の加速寿命試験(HALT)において100min以上と高い寿命が得られる。誘電体層11の組成、結晶粒径、焼成条件などのパラメータを調整することによって、I/Iが1.40を上回るように調整してもよい。
【0049】
(変形例)
誘電体材料に添加するSiO量を調整してもよい。例えば、誘電体材料において、主成分セラミックに対して、SiOまたはSiを主成分としたガラスの濃度を、Si原子濃度で2.0atm%以上としてもよい。このような添加量とすることで、酸素欠陥の移動障壁となるSiOあるいはガラス相を増やすことで、Iに対して相対的にIを低下させることができる。
【0050】
例えば、平均粒径が200nmのBaTiOの誘電体材料において、Ti:100atm%に対して、Si:2.0atm%、Mg:1.0atm%、Ho:1.0atm%、Mn:0.5atm%、V:0.1atm%としてもよい。この場合において、誘電体グリーンシートの厚みを5μmとし、10層を積層し、得られたセラミック積層体のサイズを、3.2mm×1.6mm×0.8mmとしてもよい。
【0051】
なお、上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【0052】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 積層チップ
11 誘電体層
12 内部電極層
13 カバー層
14 酸素欠陥
15 結晶粒
16 結晶粒界
20a,20b 外部電極
100 積層セラミックコンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5