【0013】
(DDDモデルマウスの実施形態)
先ず、DDDモデルマウスについて説明する。DDDモデルマウスは、Pofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスと、ヘアレスマウスを交配することで得られる。Pofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスは公知の方法で作製すればよく、例えば、以下の手順で作製すればよい。
(a)ノックアウトする遺伝子(Pofut1)をマウスのゲノムから分離する。そして、その遺伝子と周辺部分を含む塩基配列を創り出すが、全く同じではなく、不活性化するように一部変更する。一般的には、観察可能な差異(色や蛍光など)をもたらすマーカー遺伝子を組み込むことで、一部変更を行う。
(b)マウスの胚盤胞(初期のマウスの胚であり、球状の未分化細胞が胚体外細胞に囲まれている)由来の胚性幹細胞を分離する。胚性幹細胞は、例えば、白色マウスの胚性幹細胞を用い、in vitroで細胞培養ができる。
(c)上記(b)で得られた胚性幹細胞に、上記(a)で作製した塩基配列を、電気穿孔法等の手段を用いて遺伝子導入する。次に、上記(a)で組み入れたマーカー遺伝子を利用し、実際に新しい塩基配列へ組換えを起こした胚性幹細胞(ヘテロ接合型)を分離する。
(d)上記(c)で分離した相同組換えを起こした胚性幹細胞を、例えば、グレー色のマウスの胚盤胞に注入し、当該胚盤胞は雌マウスの子宮に注入され、子マウスが出産される。この子マウスは、体の一部がオリジナルの胚盤胞に由来し、他の部分は遺伝子操作された細胞に由来する2つの細胞を含んだキメラになる。そのため、毛色は白とグレーのまだらになる。
(e)新たに生まれたマウスのうち、生殖細胞(卵子もしくは精子)が、遺伝子操作された細胞由来のものだけが利用される。これらのマウスを白色マウスと掛け合わせると、全身が白色の、機能的な遺伝子を1個以上持っている(ヘテロ接合型)のDDDモデルマウスが得られる。
【実施例】
【0023】
<実施例1>
[DDDモデルマウスの作製]
Pofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスは、国立遺伝学研究所から入手した。なお、本実施例では、全身でPofut1遺伝子がノックアウトされた“Pofut1 null mouse”を用いた。また、ヘアレスマウスは、星野試験動物飼育所から入手した“Hos:HRM−2”を用いた。入手したPofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウス、および、ヘアレスマウスを常法により交配、飼育することで、DDDモデルマウスを作製した。
図1Aは、約8カ月飼育後のDDDモデルマウスの写真である。また、
図1Bは交配に用いたヘアレスマウスの写真である。
【0024】
ヒトでは、Pofut1遺伝子がヘテロ接合型でノックアウトされると、DDDが発症すると言われている。しかしながら、Pofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスは、Pofut1遺伝子をノックアウトしているにもかかわらず、毛を剃っても色素斑は確認できなかった。一方、実施例1で作製したDDDモデルマウスは、
図1Aの矢印に示すように色素斑の形成が確認された。以上の結果から、Pofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスとヘアレスマウスを交配することで、Pofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスを単にヘアレス化したという表現型を示すのみでなく、色素斑が形成できるという予期し得ない表現型を示す新規のマウスを作製することができた。
【0025】
[皮膚の色素細胞の確認]
次に、実施例1で作製したDDDモデルマウスと、ヘアレスマウスの皮膚の色素細胞を調べた。皮膚サンプルは、以下の手順で準備した。
(a)DDDモデルマウスの背部の色素斑と、コントロールであるヘアレスマウスの同じ位置(正常皮膚)からパンチ生検にて皮膚を採取した。
(b)採取した皮膚は5%パラホルムアルデヒドにて固定し、パラフィン包埋、4μmの厚さでスライドガラスに載せた未染標本を作製した。
(c)未染標本をヘマトキシリン・エオジン染色して観察した。
【0026】
図2Aは実施例1で作製したDDDモデルマウスの色素斑の病理組織写真で、写真中の矢印で示す周囲に隙間がある(核の周囲が透明な)細胞が色素細胞である。
図2Bはヘアレスマウス(コントロール)の皮膚の病理組織写真で、矢印(黒色)は色素細胞を示している。
図2Aおよび
図2Bに示すとおり、実施例1で作製した色素斑が形成されたDDDモデルマウスの色素斑部では、比較対象であるヘアレスマウスより、表皮基底層の色素細胞の数が多いこと、および、色素細胞の密度が高い部分と低い部分のばらつきがあることを確認した。また、DDDモデルマウス表皮は、ヘアレスマウスの表皮と比較して、肥厚していた。
【0027】
<実施例2>
[DDD医薬組成物の効果確認]
(1)医薬組成物の調整
0.5gのフコース(fucose;Sigma−Aldrich社製)と、5mLのddw(二回蒸留水)を混合することで、10%フコース溶液を作製した。なお、DDDモデルマウスにフコースを塗付する際には、0.16gの親水クリーム(日興製薬社製、親水クリーム「ニッコー」)と、40μLの10%フコース溶液を混合することで、2%フコースクリームを用事調整し、実施例2のDDD医薬組成物を作製した。
(2)DDD医薬組成物の外用
DDDモデルマウスの背部にみられる色素斑部のおよそ4平方センチメートルに、用事調整したDDD医薬組成物を0.2g、1日1回、1週間に5日間外用し、8週間後に評価した。
【0028】
(3)目視による効果確認
図3AはDDD医薬組成物を外用前の写真、
図3Bは8週間外用後の写真である。なお写真中の5カ所の□は、任意に設定した対比部分である。
図3Aおよび
図3Bに示す写真から明らかなように、DDD医薬組成物を8週間外用後は、目視で色素斑の減少が確認できた。
【0029】
(4)画像解析による効果確認
図3Aおよび
図3Bに示す任意に設定した5カ所について、画像解析ソフトウエアのImageJで皮疹部分の色調を解析した。具体的には、DDD医薬組成物の外用前と外用後で、撮像したカラー写真をグレイスケールに変換し、ImageJで白を256、黒を1として明暗を定量した。1点は201x201ポイントの面積の平均値とした。
図4は、ImageJによる解析結果を示すグラフである。任意に設定した5カ所とも、DDD医薬組成物の外用後の値が大きくなったことから、DDD医薬組成物の外用により、色素斑が薄くなったことを、画像解析からも確認できた。また、設定した5カ所点の数値をpaired t−testで検定したところ、p=0.006であった。したがって、DDD医薬組成物の外用により、色素斑が有意に改善したことを確認した。
【0030】
(5)切片による効果確認
次に、DDD医薬組成物の外用前と外用後の皮膚切片を、上記[皮膚の色素細胞の確認]と同様の手順で作製した。
図5AはDDD医薬組成物の外用前のDDDモデルマウスの色素斑の病理組織写真、
図5BはDDD医薬組成物の外用後のDDDモデルマウスの色素斑の病理組織写真である。
図5Aおよび
図5Bを対比すると、DDD医薬組成物の外用前は、色素細胞(写真の矢印)の数が多く、且つ、色素細胞の分布にばらつきがあった。一方、DDD医薬組成物の外用後は、色素細胞の数が少なくなるとともに、高密度に分布する箇所がなくなった。以上の結果より、DDD医薬組成物の外用により、色素斑が有意に改善したことを、病理組織写真による色素細胞の観察からも確認した。
【0031】
以上の結果より、フコースがDDDの治療に有用であることを確認した。また、実施例で作製したDDDモデルマウスは、DDD治療用化合物のスクリーニング方法に使用できることを確認した。
【0032】
(6)ヒト角化細胞を用いたin vitroでの増殖抑制の確認
上記のとおり、実施例2に示すDDD医薬組成物は、DDDモデルマウスの色素斑を有意に改善することを確認したが、DDD医薬組成物のヒトへの影響を調べるため、以下の手順により、ヒト細胞を用いたin vitroの実験も行った。
(a)ヒト角化細胞には、HaCaT細胞(Cell Lines Service社製)を用いた。DDD患者では病変部の表皮の増殖による表皮の肥厚が著しい。つまり、表皮を構成する細胞である角化細胞の増殖抑制は、治療効果の1つとして有用であると考えられる。HaCaT細胞は、成人男性皮膚から樹立された不死化角化細胞あり、フコースによりHaCaT細胞の増殖抑制が示されたことから、ヒトへの外用により、患者の病変部の表皮肥厚が抑制され、皮膚の正常化が望める可能性がある。
(b)96 well plateに、1500cell/wellでHaCaT細胞を常法により24時間培養した。low dose fucoseは10μg/mLの濃度で、high dose fucoseは100μg/mLの濃度で、培地に加えて、cell counting kit−8(CCK−8)(同仁化学研究所製)を取扱説明書に沿って使用して、増殖能を定量化した。
(c)
図6は、増殖能の測定結果を示すグラフである。
図6に示すように、実施例2に示すDDD医薬組成物は、ヒトの表皮細胞の増殖能を抑制することを確認した。