(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-185003(P2020-185003A)
(43)【公開日】2020年11月19日
(54)【発明の名称】水素支援ジスルフィド酵素水素化分解によるメルカプタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 11/00 20060101AFI20201023BHJP
C07K 5/02 20060101ALI20201023BHJP
C07K 5/08 20060101ALI20201023BHJP
C12N 9/02 20060101ALI20201023BHJP
【FI】
C12P11/00
C07K5/02
C07K5/08
C12N9/02
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2020-121867(P2020-121867)
(22)【出願日】2020年7月16日
(62)【分割の表示】特願2018-516703(P2018-516703)の分割
【原出願日】2016年9月29日
(31)【優先権主張番号】1559264
(32)【優先日】2015年9月30日
(33)【優先権主張国】FR
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジュ・フレミ
(72)【発明者】
【氏名】アルノー・マスラン
(72)【発明者】
【氏名】ユゴー・ブラッセル
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC10
4B050KK03
4B050LL01
4B050LL02
4B050LL05
4B050LL10
4B064AE61
4B064BJ07
4B064CA21
4B064CD04
4B064CD11
4B064DA01
4B064DA10
4B064DA16
4B064DA20
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA12
4H045EA01
4H045EA15
4H045EA20
4H045EA60
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ジスルフィドおよび水素から、酵素触媒作用によりメルカプタンを製造する方法、特にジメチルジスルフィドおよび水素からメチルメルカプタンを製造する方法の提供。
【解決手段】式R−SHのメルカプタンの調製方法であって、a)混合物の調製ステップであって、1)式R−S−S−R’のジスルフィド、2)触媒量の、チオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチド、3)触媒量の、2当量の前記チオール基含有アミノ酸間または2当量の前記チオール基含有ペプチド間に形成されたジスルフィド架橋の還元を触媒する酵素、4)触媒量の、水素の還元を触媒する酵素、b)水素の付加ステップ、c)酵素反応の実施ステップ、d)前記式R−SHのメルカプタンおよび式R’−SHのメルカプタンの回収ステップ、e)前記式R−SHのメルカプタンおよび/または前記式R’−SHのメルカプタンの任意の分離および任意の精製ステップを含む方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式R−SHのメルカプタンの調製方法であって、
a)混合物の調製ステップであって、
1)式R−S−S−R’のジスルフィド、
2)触媒量の、チオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチド、
3)触媒量の、2当量の前記チオール基含有アミノ酸間または2当量の前記チオール基含有ペプチド間に形成されたジスルフィド架橋の還元を触媒する酵素、
4)触媒量の、水素の還元を触媒する酵素、
5)触媒量の、還元および脱水素を触媒する前記2種の酵素に共通な補因子、
を含む混合物の調製ステップ、
b)触媒量の水素デヒドロゲナーゼ酵素による水素の付加ステップ、
c)酵素反応の実施ステップ、
d)前記式R−SHのメルカプタンおよび式R’−SHのメルカプタンの回収ステップ、
e)前記式R−SHのメルカプタンおよび/または前記式R’−SHのメルカプタンの任意の分離および任意の精製ステップ、
を少なくとも含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
a’)混合物の調製ステップであって、
・式R−S−S−R’のジスルフィド、
・触媒量の、チオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチド、
・触媒量の、前記チオール基含有アミノ酸または前記チオール基含有ペプチドに対応するレダクターゼ酵素、
・触媒量のNADPH、
を含む混合物の調製ステップ、
b’)触媒量の水素デヒドロゲナーゼ酵素による水素の付加ステップ、
c’)酵素反応の実施ステップ、
d’)式R−SHのメルカプタンおよび式R’−SHのメルカプタンの回収ステップ、
e’)前記式R−SHのメルカプタンおよび/または前記式R’−SHのメルカプタンの分離および任意の精製ステップ、
を少なくとも含む方法。
【請求項3】
同じまたは異なるRおよびR’が、相互に独立に、1から20個の炭素原子を含む、直鎖、分岐鎖または環状鎖の炭化水素系基を表し、前記鎖が、飽和であるか、または二重もしくは三重結合の形の1つ以上の不飽和部位を有し、RおよびR’が、さらに一緒に、かつこれらを保持する硫黄原子と共に、4から22個の原子、好ましくは5から10個の原子を含む環状分子を形成できる、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
同じまたは異なる基RおよびR’が、1から20個の炭素原子、好ましくは1から12個の炭素原子、より好ましくは1から6個の炭素原子を含み、任意的に、アルコール、アルデヒド、ケトン、酸、アミド、ニトリルもしくはエステル官能基、または、硫黄、リン、ケイ素もしくはハロゲンを含有する官能基から選択される1種以上の官能基により官能化された、直鎖もしくは分岐鎖の、飽和もしくは不飽和のアルキル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリールまたはアリールアルキル基から相互に独立に選択される、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記式R−S−S−R’のジスルフィドがジメチルジスルフィドである、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記チオール基含有アミノ酸または前記チオール基含有ペプチドが、システイン、ホモシステイン、グルタチオンおよびチオレドキシンから選択される、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記水素がバブリングにより反応媒体中に導入される、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
反応のpHが、6から8.5、好ましくは、7.0から8.0である、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
水素/ジスルフィドのモル比が、反応全体にわたり、0.01から100、好ましくは、全体で1から20である、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ジスルフィドからメルカプタンの合成のための、チオール官能基含有アミノ酸またはチオール官能基含有ペプチドを含む酵素複合体の水溶液の使用。
【請求項11】
混合物であって、
1)式R−S−S−R’のジスルフィド、
2)触媒量、のチオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチド、
3)触媒量の、2当量の前記チオール基含有アミノ酸間または2当量の前記チオール基含有ペプチド間に形成されたジスルフィド架橋の還元を触媒する酵素、
4)任意選択の、触媒量の、水素の還元を触媒する酵素、
5)触媒量の、還元および脱水素を触媒する前記2種の酵素に共通な補因子、
6)および、任意選択の水素
を含み、
式中、RおよびR’が請求項1で定義の通りである、
混合物。
【請求項12】
請求項11に記載の混合物であって、
・式R−S−S−R’のジスルフィド、
・触媒量の、チオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチド、
・触媒量の、前記チオール基含有アミノ酸または前記チオール基含有ペプチドに対応するレダクターゼ酵素、および
・触媒量のNADPH、
を含み
式中、RおよびR’は請求項1で定義の通りである、
混合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を使った、酵素触媒作用による、ジスルフィド、特にジメチルジスルフィドからのメルカプタン、特にメチルメルカプタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メルカプタンは、多くの分野、例えば、香味剤、ガス用着臭剤、重合における連鎖移動剤、医薬品または化粧品産業用の出発材料、酸化防止剤の合成のための出発材料、潤滑のための超高圧または耐摩耗添加剤として極めて有用である。これらの例は、現時点で知られている、また、本発明の方法により調製できるメルカプタンの使用を限定するものでは全くない。
【0003】
特に、最初のメルカプタンであるメチルメルカプタン(CH
3SH)は、特に、動物の飼料に非常に広範に使用される必須アミノ酸のメチオニンの合成における出発材料として、工業的に極めて有益である。メチルメルカプタンはまた、多くのその他の分子の合成用に非常に広範に使用される出発材料でもある。
【0004】
メルカプタンは、アルコールのスルフヒドリル化、不飽和の有機化合物への触媒的または光化学的硫化水素付加、硫化水素によるハロゲン化物、エポキシドまたは有機カーボネートの置換、などの多くの方法により合成され得る。
【0005】
特に、メチルメルカプタンは、最近、反応(1)により、メタノールおよび硫化水素からトンスケールで工業的に製造されている。
【0006】
CH
3OH+H
2S→CH
3SH+H
2O(1)
これらの方法は、メタノール(CH
3OH)を必要とし、硫化水素(H
2S、例えば、水素と硫黄から合成されるが、これにはさらに水素の合成を要する。)を合成するという欠点を有し、ジメチルエーテル(CH
3OCH
3)、ジメチルスルフィド(CH
3SCH
3)タイプの副産物、クラッキング産物および水を生じ、これは、メチルメルカプタンの精製に多くの工程を要することを意味する。
【0007】
例えば、これらの反応に基づく方法の記載は、WO2013092129、WO2008118925、WO2007028708、WO2006015668およびWO2004096760などの特許出願で見つけられる。
【0008】
以下の合成スキーム(2)に従って、(メタノール合成を避けるために)一酸化炭素、水素および硫化水素からメチルメルカプタンを製造したいという願望は、経済的に利点があることが立証され得る。
【0009】
CO+2H
2+H
2S→CH
3SH+H
2O(2)
しかし、これらの方法は、合成ガス(CO/H
2)を必要とし、従って、炭化水素原料の水蒸気改質の実施を必要とし、COとH
2との間の比率を適切にすることを必要とし、このため、「水性ガスシフト反応」(CO+H
2O→CO
2+H
2)と呼ばれる反応に伴うCO/H
2比率を調節できるようにすることを必要とし、また、H
2Sを合成することを必要とするという難点がある。
【0010】
これらの方法はまた、通常、大きな割合のCO
2を副産物として生じ、さらに、メタン、ジメチルスルフィド、および水も生じる。例えば、これらの反応に基づく方法の記載は、US2010286448、US2010094059、US2008293974、US2007213564などの特許出願で見つけられる。
【0011】
さらに他の方法が記載されており、また、下記のような異なる反応が組み合わされている。
【0012】
・メタンと硫黄からCS
2およびH
2Sの形成(3):
CH
4+4S→CS
2+2H
2S(3)
・CS
2の水素化(4):
CS
2+3H
2→CH
3SH+H
2S(4)
【0013】
メタノールとの反応(反応1)または合成ガスとの反応(反応2)で、反応(3)および(4)由来の過剰のH
2Sを使用して、さらにメチルメルカプタンを得ることも可能である。
【0014】
これらの方法が、反応(1)および(2)に対し記載した欠点と、反応(4)を実施させるのに過剰の水素を要するというさらなる困難とを、併せ持っていることは明らかである。これらの方法の記載は、特許出願US2011015443、または、より具体的には、反応(4)に関して、出願WO2010046607で見つけられる。
【0015】
出願WO200196290は、メタンとH
2Sからメチルメルカプタンを直接合成し、水素を同時に製造する方法を提案している。このメタンとH
2Sとの直接反応は、コロナ放電を伴うパルスプラズマにより行われる。この出願は合成例を何ら記載していないので、この技術によるメチルメルカプタンの大規模な工業的合成方法を想定するのは困難であろう。さらに、この方法は、H
2Sが入手できない場合には、これを合成する必要がある。
【0016】
一方で、特許出願EP0649837は、遷移金属硫化物を用いたジメチルジスルフィドの水素による触媒水素化分解を介したメチルメルカプタンの合成方法を提案している。この方法は効率的であるが、工業的に有利なレベルの生産性を得るためには、200℃程度の比較的高温を必要とする。
【0017】
当業者なら、ナトリウムメチルメルカプチド(CH
3SNa)の水溶液の酸性化によりメチルメルカプタンを調製することが可能であることも知っている。この方法は、塩酸が使用されるか硫酸が使用されるかに応じて、塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウムなどの大量の塩を生成するという大きな欠点がある。これらの塩類水溶液は多くの場合処理が極めて困難であり、また、微量の悪臭に満ちた生成物が残るため、この方法を工業規模ですぐに想定することはできない。
【0018】
メチルメルカプタンより高級なメルカプタンの合成方法も同様に、多くの欠点がある。このように、アルコールを硫化水素で置換することは、高温、また多くの場合、高圧を必要とし、オレフィン、エーテルおよび硫化物タイプの望ましくない副産物をもたらす。
【0019】
不飽和化合物に対する硫化水素の触媒的のまたは光化学的付加は、上記よりわずかに緩い条件下で起こることがよくあるが、この場合も、出発材料の異性化、非位置選択性の付加または硫化物を生ずる二重付加により、形成される多くの副産物をもたらす。最終的に、ハロゲン化誘導体の置換は、工業的工程と容易には両立され得ない大量の排出物および塩類廃棄物を生成する工程をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】国際公開第2013/092129号
【特許文献2】国際公開第2008/118925号
【特許文献3】国際公開第2007/028708号
【特許文献4】国際公開第2006/015668号
【特許文献5】国際公開第2004/096760号
【特許文献6】米国特許出願公開第2010/286448号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2010/094059号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2008/293974号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2007/213564号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2011/015443号明細書
【特許文献11】国際公開第2010/046607号
【特許文献12】国際公開第2001/96290号
【特許文献13】欧州特許第0649837号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の主題は、メルカプタン、特にメチルメルカプタンを調製する、上記先行技術に由来する方法に記載された欠点のない、新規な方法を提案することである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】水素により再生されるグルタチオン/グルタチオンレダクターゼ複合体による還元を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
より具体的には、本発明の第1の主題は、式R−SHのメルカプタンの調製方法である:
a)混合物の調製ステップであって:
1)式R−S−S−R’のジスルフィド、
2)触媒量のチオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチド、
3)触媒量の、2当量の前記チオール基含有アミノ酸間または2当量の前記チオール基含有ペプチド間に形成されたジスルフィド架橋の還元を触媒する酵素、
4)触媒量の、水素の還元を触媒する酵素、
5)触媒量の、還元および脱水素を触媒する2種の酵素に共通な補因子、
を含む混合物の調製ステップ、
b)水素の付加ステップ、
c)酵素反応の実施ステップ、
d)式R−SHのメルカプタンおよび式R’−SHのメルカプタンの回収ステップ、
e)式R−SHのメルカプタンおよび/または式R’−SHのメルカプタンの分離および任意の精製ステップ、
を少なくとも含む方法。
【0024】
水素の還元を触媒する酵素は、当業者に既知の任意の種類、例えば、水素デヒドロゲナーゼ酵素であってよい。
【0025】
一般的に言って、2当量の前記チオール基含有アミノ酸間または前記チオール基含有ペプチド間に形成されたジスルフィド架橋の還元を触媒する酵素は、レダクターゼ酵素である。用語の「レダクターゼ」は、本発明の説明の記載の残りの部分で使用される。
【0026】
還元および脱水素を触媒する2種の酵素(レダクターゼおよびデヒドロゲナーゼ)に共通の補因子の中で、フラビン補因子およびニコチン補因子が非制限的例として言及される。ニコチン補因子の使用が好ましく、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)がより好ましく、またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADPH)がさらに好ましい。上記補因子は、これらの還元型(例えば、NADPH、H
+)および/またはこれらの酸化型(NADP
+)で使用するのが好都合であり、即ち、これらは、前述の還元型および/または酸化型で反応媒体中に添加してよい。
【0027】
本発明の一実施形態では、チオール基含有アミノ酸および/またはチオール基含有ペプチドは、前記アミノ酸および/または前記ペプチドのそれぞれのジスルフィドの形であってよい(例えば、グルタチオンジスルフィドの形のグルタチオン)。
【0028】
上記で定義の方法のステップa)およびb)の異なる成分の添加の仕方および順番は、様々に実施してよい。いずれの場合でも、ステップc)の酵素反応は、触媒の系の成分の1種:酵素もしくは化学量論量で添加される化合物の1種(ジスルフィドまたは水素)、または触媒量で添加される化合物の1種(チオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチドまたは前記分子もしくは補因子に対応するジスルフィド)の添加により開始される。
【0029】
またさらに具体的には、本発明の主題は、式R−SHのメルカプタンの調製方法である:
a’)混合物の調製ステップであって:
・式R−S−S−R’のジスルフィド、
・触媒量の、チオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチド、
・触媒量の、前記チオール基含有アミノ酸または前記チオール基含有ペプチドに対応するレダクターゼ酵素、
・触媒量のNADPH、
を含む混合物の調製ステップ、
b’)触媒量の水素デヒドロゲナーゼ酵素による水素の付加ステップ、
c’)酵素反応の実施ステップ、
d’)式R−SHのメルカプタンおよび式R’−SHのメルカプタンの回収ステップ、
e’)式R−SHのメルカプタンおよび式R’−SHのメルカプタンの分離および任意の精製ステップ
を少なくとも含む方法。
【0030】
本発明においては、一般式R−S−S−R’に相当する任意のジスルフィドがメルカプタン製造方法に関与することができる。一般式R−S−S−R’では、同じまたは異なるRおよびR’は、相互に独立に、1から20個の炭素原子を含む、直鎖、分岐鎖、または環状の炭化水素系基を表し、前記鎖は、飽和であるかまたは二重もしくは三重結合の形の1つ以上の不飽和部位を有する。RおよびR’は、一緒に、これらを保持する硫黄原子と共に、4から22個の原子、好ましくは5から10個の原子を含む環状分子を形成してもよい。
【0031】
好ましい態様では、同じかまたは異なる基RおよびR’は、1から20個の炭素原子、好ましくは1から12個の炭素原子、より好ましくは1から6個の炭素原子を含み、任意選択の、非制限的な例示としてのアルコール、アルデヒド、ケトン、酸、アミド、ニトリルもしくはエステルの官能基、または、硫黄、リン、ケイ素もしくはハロゲンを含有する官能基から選択される1種以上の官能基により官能化された、直鎖もしくは分岐鎖の、飽和もしくは不飽和のアルキル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリールまたはアリールアルキル基から相互に独立に選択される。
【0032】
式R−S−S−R’のジスルフィドは、本発明の方法に従って、式R−SHのメルカプタンおよび式R’−SHのメルカプタンに還元できる。RがR’と異なる場合、非対称ジスルフィドに関し記載され、RがR’と同じの場合には、対称ジスルフィドに関して記載されている。対称ジスルフィドR−S−S−Rの場合、本発明の方法は、式R−SHのメルカプタンをもたらす。本発明の特に好ましい態様では、ジメチルジスルフィド(DMDS)は、メチルメルカプタンCH
3SHを製造する目的で使用される。
【0033】
非対称ジスルフィドR−S−S−R’の場合、本発明の方法は、式R−SHおよびR’−SHのメルカプタンの混合物をもたらし、これは、そのまま使用され得るか、または、当業者に周知の1種以上の分離操作、例えば、蒸留に供することができる。
【0034】
本発明の方法で1種以上の対称および/または非対称ジスルフィドの混合物を使用することも可能である。可能なジスルフィド混合物は、DSO(ジスルフィド油)を含んでよく、前記DSOは、従って、極めて有利に利用できる可能性があり得る。
【0035】
本発明の方法では、製造されたメルカプタンは通常、固体、液体および/または気体の形で回収される。
【0036】
本発明による製造方法は、メチルメルカプタンが得られるジメチルジスルフィドで例示される次の反応に従う水素によるジスルフィド、特にジメチルジスルフィドの酵素還元をベースにしている:
CH
3SSCH
3+H
2→2CH
3SH
今般、この反応は、添付
図1で記載のように、水素により再生される(アミノ酸またはペプチド)/対応するレダクターゼ酵素複合体の形の、チオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチド、例えば、グルタチオンを用いた酵素系により容易に触媒されることが見出された。
【0037】
従って、
図1の説明により、ペプチド(「グルタチオン」で例示)は、ジスルフィド架橋を有するペプチド(「グルタチオンジスルフィド」で示す。)に変換することにより、ジスルフィド(「DMDS」で示す。)をメルカプタン(「メチルメルカプタン」で示す。)に還元する。レダクターゼ酵素(「グルタチオンレダクターゼ」で示す、EC1.8.1.7またはEC1.6.4.2)は、ペプチド(グルタチオン)を再生し、この同じ酵素は、当業者に周知の酸化還元酵素複合体、例えば、NADPH/NADP+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(還元型および酸化型))複合体により再生される。NADP+は、次に、「水素デヒドロゲナーゼ」酵素(EC1.12.1.5)により、水素によってNADPHに再生される。水素により放出されるプロトンは、NADPHと反応後HS−R−S
−を生ずるグルタチオンレダクターゼと反応し、メルカプチド官能基がメルカプタン官能基になるので、蓄積されない。
【0038】
換言すれば、ペプチド(「グルタチオン」で示す。)は、ジスルフィド架橋を有するペプチド(「グルタチオンジスルフィド」で示す。)に変換することにより、ジスルフィド(「DMDS」で示す。)をメルカプタン(「メチルメルカプタン」で示す。)に還元する。還元を触媒する酵素(「グルタチオンレダクターゼ」で示す、酵素分類番号例EC1.8.1.7または1.6.4.2)は、ペプチド(「グルタチオン」)を再生し、同時に、補因子を酸化する(「NADPH、H
+」で示す。)。酸化型(「NADP
+」で示す。)はその後、当業者に周知の、関与するデヒドロゲナーゼ酵素(「水素デヒドロゲナーゼ」、酵素分類番号例EC1.1.1.47で示される。)を含む「リサイクル」酸化還元酵素複合体および水素により還元される。水素により放出されるプロトンは、使用するレダクターゼ酵素により触媒される反応中に形成されるメルカプチド官能基と直接反応するので、蓄積されない。
【0039】
特に最も好適する実施形態では、グルタチオンレダクターゼ酵素と組み合わされたグルタチオン/グルタチオンジスルフィド系は、本発明により、DMDSをメチルメルカプタンに還元することを可能にする。
【0040】
グルタチオンは生物学に広く使用されるトリペプチドである。還元型(グルタチオン)または酸化型(グルタチオンジスルフィド)では、この種は、細胞中で重要なレドックス対を形成する。従って、グルタチオンは生物から重金属を取り除くのに不可欠である。例えば、出願WO05107723はまた、グルタチオンがキレート化製剤を形成するために使用される配合物を記載しており、また、特許US4657856は、グルタチオンにより、H
2O
2などのペルオキシドをグルタチオンペルオキシダーゼを介してH
2Oに分解できることを教示している。最終的に、グルタチオンによりまた、タンパク質中のジスルフィド架橋の還元が可能とする(Rona Chandrawati,”Triggered Cargo Release by Encapsulated Enzymatic Catalysis in Capsosomes”,Nano Lett.,(2011),vol.11,4958−4963)。
【0041】
本発明の方法では、触媒量のチオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチドを用いて、ジスルフィドからメルカプタンが製造される。
【0042】
本発明の方法で使用し得るチオール基含有アミノ酸の中で、非制限的例としてのシステインおよびホモシステインに言及する。これらの事例では、同様の方式での触媒サイクルを再生するために使用される酸化還元酵素系は、システイン/シスチンレダクターゼ系EC1.8.1.6およびホモシステイン/ホモシステインレダクターゼ系である。
【0043】
本発明の方法で使用し得るチオール基含有ペプチドの中で、非制限的例としてのグルタチオンおよびチオレドキシンに言及する。従って、上記のグルタチオン/グルタチオンレダクターゼ系は、チオレドキシン(CAS番号52500−60−4)/チオレドキシンレダクターゼ(EC1.8.1.9またはEC1.6.4.5)系により置換することができる。
【0044】
グルタチオンおよびグルタチオン/グルタチオンレダクターゼ系は、これら化合物のコストおよび製造が容易であるために、本発明にとって特に好ましいものである。
【0045】
本発明による方法では、当業者に既知の任意の手段により、例えば、反応媒体中へのバブリングを介して水素を反応媒体に添加でき、これには、水性−有機反応媒体が好都合である。反応器中の水素圧力は、下記で定義される反応媒体自体の圧力に相当する。
【0046】
使用酵素は、水素デヒドロゲナーゼ酵素であり、これも当業者によく知られている。
【0047】
本発明による方法では、ジスルフィドおよび水素のみが化学量論量で使用され、その他の全ての成分(アミノ酸またはペプチド、補因子(例えば、NADPH)および2種の酵素)は、触媒量で使われる。
【0048】
本発明の方法によりもたらされる利点は多い。これらの利点の中で、極めて穏やかな温度条件下および圧力条件下および中性に近いpH条件下での水性または水性−有機溶液中での作業の可能性について言及する。全てのこれらの条件は、「環境に優しい」または「持続可能な」生物触媒工程に特有のものである。
【0049】
方法がジメチルジスルフィドを使用する場合の別の利点は、反応条件下で気体状態である生成したメチルメルカプタンが、未反応の水素が付随することもあるが、形成された時点で反応媒体から出ていくことである。メチルメルカプタンは、従って、未反応の水素が後工程に悪影響を与えない場合には、反応器を出て、さらに下流の用途で直接に使用し得る。未反応の水素が下流の用途に悪影響を与える場合には、当業者ならメチルメルカプタンから未変換水素を容易に分離できるであろう。メルカプタンを分離したい場合、例えば、極低温で容易に液化することもできる。
【0050】
ジメチルジスルフィド(DMDS)を、メチルメルカプタンと、例えば、酸素、硫黄もしくは過酸化水素水溶液などの酸化剤とから、または、硫酸ジメチルおよび二硫化ナトリウムから、別の場所で製造してもよい。DMDSはまた、上述のようにジスルフィド油(DSO)由来であってもよく、その後、出願WO2014033399に記載のように、例えば、反応蒸留により精製してもよい。DSOはまた、構成する異なるジスルフィド間で精製する必要もなく、そのままも使用してもよいことに留意されたい。メルカプタンの混合物はその後、本発明の方法を適用することにより得られる。
【0051】
DMDSがジスルフィドとして使用される場合、本発明による方法は、従って、製造と使用の場所が異なる場合に、メチルメルカプタンを製造場所からの既存の工業的経路による使用場所への輸送の回避を可能とする方法と見なすことができる。実際に、メチルメルカプタンは、室温で有毒で極めて悪臭に満ちた気体であり、このため、輸送が極めて複雑化し、DMDSと異なり、輸送が従来から強く規制されている。本発明で記載の方法は、従って、メチルメルカプタンを後工程の使用現場で直接製造するために使用できる。
【0052】
DMDSが反応で消費され、メチルメルカプタンが、水素なしで、または未変換水素と共に、形成された時点で反応媒体から出ていくので、水素およびDMDSが連続的に供給されると想定される場合に、反応媒体中に生成物が蓄積されない。従って、反応器に入り、出ていく生成物を考慮すると、触媒系をリサイクルする必要がない。
【0053】
その他のジスルフィドの場合では、形成されるメルカプタンの沸点および反応媒体中での溶解度に応じて、メルカプタンを、容易に分離するために、任意で、当業者に周知の技術により反応媒体から分離して沈殿させ得る。上記で分離できない場合には、同様に当業者に既知のいずれかの手段により反応媒体から分離できる。
【0054】
一般に、反応温度は、10℃から50℃、好ましくは、15℃から45℃、より好ましくは、20℃から40℃の範囲内である。
【0055】
反応のpHは、6から8.5、好ましくは、7.0から8.0であってよい。反応媒体のpHは、緩衝液により調整してもよい。緩衝媒体のpHが、7.5から8.0のpH値で選択されるのが極めて好ましい。
【0056】
反応に使われる圧力は、試薬および使用装置に応じて、大気圧より減圧から数バール(数百kPa)までの範囲であってよい。好ましくは、使用は、大気圧から20バール(2MPa)の範囲の圧力で実施され、またはさらに好ましくは、方法は、大気圧から3バール(300kPa)の範囲の圧力下で実施される。
【0057】
本発明による方法は、選択操作条件および使用試薬に応じて、ガラスまたは金属反応器中でバッチ式でまたは連続式で実施できる。反応で水素が消費されるに伴い添加される半連続工程が選択されるのが好ましい。
【0058】
理想的な水素/ジスルフィドモル比は、化学量論(モル比=1)であるが、当業者が何らかの利益があると考える場合、例えば、水素を連続添加とする一方で、ジスルフィドを開始時から反応器に導入するなどの場合、0.01から100まで変わってもよい。好ましくは、このモル比は、全反応にわたり、全体で1から20の間で選択される。
【0059】
任意の未変換水素を、完全に消費されるまで、反応器の出口から反応器の入口へリサイクルできる。水素が完全にジスルフィドを変換するまで、水素および形成されたメルカプタンによるループを考慮してもよい。この結果、全てのジメチルジスルフィドが変換されると、反応の終わりには、出口気体は、実質上メチルメルカプタンのみを含む。
【0060】
上記ステップa)で調製された混合物中に触媒量で存在する要素(チオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチド、レダクターゼ酵素、補因子(例えば、NADPH))は、市販品として容易に入手できるかまたは当業者に周知の技術により調製できる。これらの異なる要素は、固体または液体形態であってよく、極めて好都合にも、水に溶解して、本発明の方法で使用され得る。使われる酵素は、支持物上にグラフト化されてもよい(担持酵素の場合)。
【0061】
アミノ酸またはペプチドを含む酵素複合体の水溶液はまた、当業者に既知の方法により、例えば、これらの要素を含む細胞の透過化により再構成され得る。次の実施例1で与えられる組成物である、この水溶液は、反応媒体の合計重量を基準にして、0.01重量%から20重量%の間の含量で使用し得る。0.5%から10%の含量で使用されるのが好ましい。
【0062】
別の態様では、本発明は、ジスルフィドからメルカプタンの合成のための、上記で定義のチオール官能基含有アミノ酸または上記で定義のチオール官能基含有ペプチドを含む酵素複合体の水溶液の使用に関する。
【0063】
上記の方法のステップa)で使用可能である混合物は、下記:
1)式R−S−S−R’のジスルフィド、
2)触媒量の、チオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチド、
3)触媒量の、2当量の前記チオール基含有アミノ酸間または2当量の前記チオール基含有ペプチド間に形成されたジスルフィド架橋の還元を触媒する酵素、
4)任意選択の、触媒量の水素の還元を触媒する酵素、
5)触媒量の、還元および脱水素を触媒する2種の酵素に共通な補因子、
6)および、任意選択の水素を含み、
式中、RおよびR’は上記で定義の通りであって、新規であり、従って、本発明の一部を形成する。
【0064】
本発明の一実施形態では、チオール基含有アミノ酸および/またはチオール基含有ペプチドは、前記アミノ酸および/または前記ペプチドジスルフィドの形であってよい。さらに別の実施形態では、補因子は、酸化型(NADP
+)または還元型(NADPH、H
+)のNADPHである。
【0065】
より具体的には、前記混合物は、
・式R−S−S−R’のジスルフィド、
・触媒量の、チオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチド、
・触媒量の、前記チオール基含有アミノ酸または前記チオール基含有ペプチドに対応するレダクターゼ酵素、および
・触媒量のNADPHを含み、
式中、RおよびR’は上記で定義の通りである。
【実施例】
【0066】
本発明の範囲に対し非限定的である、以下の実施例によって、本発明はよりよく理解されるであろう。下記に提示される全ての試験は、嫌気性条件下で実施された。
【0067】
[実施例1]
10mlのグルタチオン酵素複合体を、pH7.8の150mlの緩衝化水溶液を含む反応器中に導入する。酵素複合体の溶液は、下記を含む:
185mg(0.6mmol)のグルタチオン、200Uのグルタチオンレダクターゼ、50mg(0.06mmol)のNADPHおよび200Uの水素デヒドロゲナーゼ酵素。
【0068】
反応媒体を機械的に攪拌をしながら35℃にする。第1の試料をt=0で採取する。その後、ジメチルジスルフィド(9.4g、0.1mol)をビュレットに入れ、反応器に滴加する。同時に、4L/時間の水素流(標準温度および圧力条件下で測定)をバブリングにより反応器に導入する。大気圧で反応を実施する。反応器を出る気体のガスクロマトグラフィー分析では、水素およびメチルメルカプタン(微量の水)が存在することを実質的に示す。これらの出口気体は、20%の水酸化ナトリウム水溶液でトラップする。DMDSおよび水素(反応全体に対し、水素/DMDSのモル比=10.7)を6時間導入し、反応を、反応器の出口のトラップ中のメチルメルカプタンナトリウム塩の電位差銀滴定によりモニターする。さらに、反応媒体の最終的ガスクロマトグラフィー分析により、DMDSが存在しないこと、および過剰水素により反応器から追い出されたメチルメルカプタンが存在しないことを確認する。
【0069】
[実施例2]
実施例1の反応媒体に対し、9.4g(0.1mol)のDMDSを6時間滴下して再導入するが、今回は、1l/時間のみの水素流を、同様に6時間にわたり導入する(反応全体に対し、水素/DMDSのモル比=2.7)。反応器の出口の20%の水酸化ナトリウム溶液を交換後、反応を実施例1と同様にモニターする。反応の終了時点での分析により、DMDSの完全な消失を確認し、完全にメチルメルカプタンに変換され、水酸化ナトリウム溶液中のナトリウム塩型として認められる。反応の終わりでは、グルコノラクトンのみが反応媒体中で分析され、認められる。本実施例は、触媒系の堅牢さについて再現性があり、また同様に、化学量論に近い水素/DMDSのモル比で取り扱うことが可能であることも示す。
【0070】
[実施例3]
10mlのグルタチオン酵素複合体を、pH6.8の緩衝化水溶液(70ml)を含む反応器中に導入する。酵素複合体の溶液は、下記を含む:
200mg(0.65mmol)のグルタチオン、500Uのグルタチオンレダクターゼ、100mg(0.12mmol)のNADPHおよび50Uの水素デヒドロゲナーゼ。
【0071】
水素デヒドロゲナーゼは、当業者に周知の技術を用いて、微生物の培養により得た(Biller et al.,“Fermentation Hyperthermophiler Mikroorganismen am Beispiel von Pyrococcus Furiosus”,Shaker Verlag,Maastricht/Herzogenrath,2002、に従って)。
【0072】
反応媒体を機械的に攪拌し、窒素をフラッシングしながら35℃にする。第1の試料をt=0で採取する。その後、20g(0.22mol)のジメチルジスルフィドを注射器を用いて添加する。
【0073】
同時に、4l/時間の量の水素(標準温度および圧力条件下で測定)をバブリングにより反応媒体中に導入する。大気圧で反応を実施する。
【0074】
反応器を出る気体のガスクロマトグラフィー分析は、水素、窒素およびメチルメルカプタン(微量の水)の存在を実質的に示す。これらの出口気体は、20重量%の水酸化ナトリウム水溶液でトラップする。DMDSおよび水素(反応全体に対し、水素/DMDSのモル比=4.9)を6時間導入し、反応器の出口のトラップ中のメチルメルカプタンナトリウム塩の電位差銀滴定により反応をモニターする。
【0075】
最終的な分析では、DMDSが定量的にメチルメルカプタンに変換されたことを示す。さらに、反応媒体の最終的なガスクロマトグラフィー分析により、DMDSが存在しないこと、および水素により反応器から追い出されたメチルメルカプタンが存在しないことを確認する。
【手続補正書】
【提出日】2020年8月14日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式R−SHのメルカプタンの調製方法であって、
a)混合物の調製ステップであって、
1)式R−S−S−R’のジスルフィド、
2)触媒量の、チオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチド、
3)触媒量の、2当量の前記チオール基含有アミノ酸間または2当量の前記チオール基含有ペプチド間に形成されたジスルフィド架橋の還元を触媒する酵素、
4)触媒量の、水素の還元を触媒する酵素、
5)触媒量の、還元および脱水素を触媒する前記2種の酵素に共通な補因子、
を含む混合物の調製ステップ、
b)水素の付加ステップ、
c)酵素反応の実施ステップ、
d)前記式R−SHのメルカプタンおよび式R’−SHのメルカプタンの回収ステップ、
e)前記式R−SHのメルカプタンおよび/または前記式R’−SHのメルカプタンの任意の分離および任意の精製ステップ、
を少なくとも含み、
同じまたは異なるRおよびR’が、相互に独立に、1から20個の炭素原子を含む、直鎖、分岐鎖または環状鎖の炭化水素系基を表し、前記鎖が、飽和であるか、または二重もしくは三重結合の形の1つ以上の不飽和部位を有し、RおよびR’が、さらに一緒に、かつこれらを保持する硫黄原子と共に、4から22個の原子を含む環状分子を形成できる、
方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
a’)混合物の調製ステップであって、
・式R−S−S−R’のジスルフィド、
・触媒量の、チオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチド、
・触媒量の、前記チオール基含有アミノ酸または前記チオール基含有ペプチドに対応するレダクターゼ酵素、
・触媒量のNADPH、
を含む混合物の調製ステップ、
b’)触媒量の水素デヒドロゲナーゼ酵素による水素の付加ステップ、
c’)酵素反応の実施ステップ、
d’)式R−SHのメルカプタンおよび式R’−SHのメルカプタンの回収ステップ、
e’)前記式R−SHのメルカプタンおよび/または前記式R’−SHのメルカプタンの分離および任意の精製ステップ、
を少なくとも含む方法。
【請求項3】
同じまたは異なる基RおよびR’が、1から20個の炭素原子を含み、任意的に、アルコール、アルデヒド、ケトン、酸、アミド、ニトリルもしくはエステル官能基、または、硫黄、リン、ケイ素もしくはハロゲンを含有する官能基から選択される1種以上の官能基により官能化された、直鎖もしくは分岐鎖の、飽和もしくは不飽和のアルキル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリールまたはアリールアルキル基から相互に独立に選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記式R−S−S−R’のジスルフィドがジメチルジスルフィドである、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記チオール基含有アミノ酸または前記チオール基含有ペプチドが、システイン、ホモシステイン、グルタチオンおよびチオレドキシンから選択される、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記水素がバブリングにより反応媒体中に導入される、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
反応のpHが、6から8.5である、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
水素/ジスルフィドのモル比が、反応全体にわたり、0.01から100である、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
混合物であって、
1)式R−S−S−R’のジスルフィド、
2)触媒量、のチオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチド、
3)触媒量の、2当量の前記チオール基含有アミノ酸間または2当量の前記チオール基含有ペプチド間に形成されたジスルフィド架橋の還元を触媒する酵素、
4)触媒量の、水素の還元を触媒する酵素、
5)触媒量の、還元および脱水素を触媒する前記2種の酵素に共通な補因子、
6)および、任意選択の水素
を含み、
同じまたは異なるRおよびR’が、相互に独立に、1から20個の炭素原子を含む、直鎖、分岐鎖または環状鎖の炭化水素系基を表し、前記鎖が、飽和であるか、または二重もしくは三重結合の形の1つ以上の不飽和部位を有し、RおよびR’が、さらに一緒に、かつこれらを保持する硫黄原子と共に、4から22個の原子を含む環状分子を形成できる、
混合物。
【請求項10】
請求項9に記載の混合物であって、
・式R−S−S−R’のジスルフィド、
・触媒量の、チオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチド、
・触媒量の、前記チオール基含有アミノ酸または前記チオール基含有ペプチドに対応するレダクターゼ酵素、および
・触媒量のNADPH、
を含む、
混合物。
【外国語明細書】