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特開2020-185757タイヤ加硫金型及びタイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-185757(P2020-185757A)
(43)【公開日】2020年11月19日
(54)【発明の名称】タイヤ加硫金型及びタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20201023BHJP
【FI】
   B29C33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-93397(P2019-93397)
(22)【出願日】2019年5月17日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米津 功
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AA45
4F202AA46
4F202AH20
4F202CA21
4F202CU01
4F202CU20
(57)【要約】
【課題】タイヤの外観の悪化のおそれを低減したステンシルプレートを有するタイヤ加硫金型と、それを用いたタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】タイヤ加硫金型の装着溝2に装着されるステンシルプレート3の正面31には、タイヤの外表面に凸状の識別マークを形成するための第一凹部34と、貫通孔33の周囲に形成され、ステンシルプレート3を固定する平頭ねじ4の頭部底面が配置される第二凹部38と、が設けられる。ステンシルプレート3の背面32には、第一凹部34に対応する領域において溝底面21に向かって突出する第一凸部35と、第二凹部38に対応する領域において溝底面21に向かって突出し、溝底面21に面接触可能な平坦面を有する第二凸部39と、が設けられる。第一凸部35の突出量をH1(mm)とし、第二凸部39の突出量をH2(mm)とするとき、0≦H2−H1を満たす。
【選択図】図3B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティにセットされたタイヤの外表面に接するタイヤ成型面と、前記タイヤ成型面に設けられた装着溝と、前記装着溝に装着されるステンシルプレートと、前記ステンシルプレートを固定するための、頭部底面の平坦な平頭ねじと、を備え、
前記ステンシルプレートは、前記キャビティに対向する正面と、前記装着溝の溝底面に対向する背面と、前記正面から前記背面まで通じて前記平頭ねじが挿通される貫通孔とを有し、
前記正面には、前記タイヤの外表面に凸状の識別マークを形成するための第一凹部と、前記貫通孔の周囲に形成され、前記平頭ねじの頭部底面が配置される第二凹部と、が設けられ、
前記背面には、前記第一凹部に対応する領域において前記溝底面に向かって突出する第一凸部と、前記第二凹部に対応する領域において前記溝底面に向かって突出し、前記溝底面に面接触可能な平坦面を有する第二凸部と、が設けられ、
前記第一凸部の突出量をH1(mm)とし、前記第二凸部の突出量をH2(mm)とするとき、
0≦H2−H1
を満たす、タイヤ加硫金型。
【請求項2】
H2−H1≦0.3
を満たす、請求項1に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項3】
前記ステンシルプレートを前記正面から見たとき、前記第二凹部の外縁は、円弧と、当該円弧の両端部からそれぞれ前記ステンシルプレートの長辺に沿って前記ステンシルプレートの端部外縁まで延びる一対の辺と、を含むU字形状 である、請求項1又は2に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項4】
前記ステンシルプレートを前記正面から見たとき、前記第二凹部の外縁は、前記ステンシルプレートの外縁と接しない、閉じた形状 である、請求項1又は2に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のタイヤ加硫金型を用いてタイヤを加硫成型する工程を含むタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ成型面にステンシルプレートが装着されたタイヤ加硫金型と、当該タイヤ加硫金型を使用してタイヤを加硫成型するタイヤの製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの外表面には、タイヤサイズやロードインデックス、メーカー名、製造年週などを表示した文字や記号からなる識別マークが形成されている。特許文献1〜4に記載されているように、識別マークを形成するために、金属製の薄板からなるステンシルプレート(「セリアルプレート」とも呼ばれる)が使用されることがある。ステンシルプレートには、識別マークに対応する凹凸がエンボス加工等により形成されている。未加硫タイヤが、タイヤ加硫金型におけるタイヤ成型面の装着溝に装着されたステンシルプレートに押し当てられ、識別マークが、加硫成型後のタイヤ表面に転写によって形成される。
【0003】
図8Aには、タイヤ加硫金型におけるタイヤ成型面に形成された装着溝20と、装着溝20に装着される前のステンシルプレート8と、ステンシルプレート8を装着溝20に固定するための皿ねじ9とが示されている。装着溝20は、ステンシルプレート8を嵌め込むことのできる大きさを有する。装着溝20の溝底面21には、皿ねじ9を嵌入するための雌ねじ孔25が設けられている。皿ねじ9は、ねじ頭部の底面91がテーパ状に形成されている。
【0004】
ステンシルプレート8は、キャビティ87に対向する正面81と、溝底面21に対向する背面82とを有する。正面81には、識別マークを形成するための凹部(83,84)が設けられている。これによれば、タイヤの外表面に凸状の識別マークが形成される。ステンシルプレート8は、金属製の薄板を用いてエンボス加工により作製される。そのため、背面82には、凹部(83,84)に対応して凸部(85,86)が設けられる。このように、タイヤの外表面に凸状の識別マークを形成するためのステンシルプレート8では、溝底面21に向かって突出した凸部(85,86)が設けられる。
【0005】
また、ステンシルプレート8の長手方向(図8A紙面における左右方向)の端部8aには、皿ねじ9が挿通される貫通孔89と、底面91に沿うようにテーパ状に形成された絞り88と、が設けられている。絞り88は、ねじ頭部の少なくとも一部を収容する凹部として機能する。装着溝20にはステンシルプレート8の絞り88の背面に当接する座繰り24が設けられている。座繰り24は、ステンシルプレート8の絞り88の一部を収容する凹部として機能する。
【0006】
作業者は、貫通孔89に挿通させた皿ねじ9を雌ねじ孔25に取り付けることで、ステンシルプレート8を装着溝20に装着する。ここで、例えば、作業者が皿ねじ9を強く締め付け過ぎると、絞り88が座繰り24に入り込み、ステンシルプレート8が溝底面21へ過剰に引き込まれる。その結果、図8Bに示すように、ステンシルプレート8の端部8aが所期の位置よりも溝底面21側に寄り、端部8aに近い凸部85を支点にして、ステンシルプレート8の長手方向の中央部が浮き上がる、ステンシルプレート8の反り返りが発生することがある。参考のため、図8Bに、適切なトルクでねじを締め付けた、反り返りの発生していない装着後のステンシルプレートを破線BLで示している。
【0007】
ステンシルプレート8が反り返ると、ステンシルプレート8と装着溝20との間に隙間が生じる。そうすると、加硫成型時に、ゴムがこの隙間を介して装着溝20に侵入し、加硫成型後のタイヤの外観が悪化するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−133402号公報
【特許文献2】特開2014−172360号公報
【特許文献3】特開2018−149744号公報
【特許文献4】特開2007−038528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、タイヤの外観の悪化のおそれを低減したステンシルプレートを有するタイヤ加硫金型と、それを用いたタイヤの製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。すなわち、本発明に係るタイヤ加硫金型は、キャビティにセットされたタイヤの外表面に接するタイヤ成型面と、前記タイヤ成型面に設けられた装着溝と、前記装着溝に装着されるステンシルプレートと、前記ステンシルプレートを固定するための、頭部底面の平坦な平頭ねじと、を備え、
前記ステンシルプレートは、前記キャビティに対向する正面と、前記装着溝の溝底面に対向する背面と、前記正面から前記背面まで通じて前記平頭ねじが挿通される貫通孔とを有し、
前記正面には、前記タイヤの外表面に凸状の識別マークを形成するための第一凹部と、前記貫通孔の周囲に形成され、前記平頭ねじの頭部底面が配置される第二凹部と、が設けられ、
前記背面には、前記第一凹部に対応する領域において前記溝底面に向かって突出する第一凸部と、前記第二凹部に対応する領域において前記溝底面に向かって突出し、前記溝底面に面接触可能な平坦面を有する第二凸部と、が設けられ,
前記第一凸部の突出量をH1(mm)とし、前記第二凸部の突出量をH2(mm)とするとき、
0≦H2−H1
を満たす。
【0011】
本発明によれば、第二凸部の突出量は、第一凸部の突出量と同じ又はそれ以上なので、第二凸部を確実に溝底面に接触できる。また、ステンシルプレートの固定に平頭ねじを使用し、かつ、第二凸部は溝底面に面接触可能な平坦面を有するので、ねじを締め付けても、ステンシルプレートのねじ頭部の底面と溝底面とに挟まれる力が大きくなるのみで、ステンシルプレートを溝底面へ引き込むことがない。つまり、作業者が平頭ねじを強く締め付け過ぎた場合でも、ステンシルプレートは所期の位置よりも溝底面側に寄ることを抑止できる。
【0012】
よって、ステンシルプレートの長手方向の中央部が浮き上がる、ステンシルプレートの反り返りを低減して、ステンシルプレートと装着溝との間の隙間を小さくできる。したがって、加硫成型時にゴムがこの隙間より装着溝へ侵入しにくくなり、斯くして、タイヤの外観の悪化のおそれを低減できる。
【0013】
さらに、H2−H1≦0.3を満たすとよい。加硫成型時、ゴムの押圧力がステンシルプレートを撓ませることがあり、ステンシルプレートが撓むと、タイヤの外表面に不要な段差が生じてタイヤの外観を悪化させる方向に作用する。しかしながら、第二凸部の突出量H2から第一凸部の突出量H1を減じた残りが0.3mm以下であるとき、ステンシルプレートが僅かに撓むだけで第一凸部が溝底面に接し、更なるステンシルプレートの撓みを抑止する。そして、タイヤの外表面の不要な段差の発生を抑止してタイヤの外観の悪化のおそれを低減できる。
【0014】
さらに、前記ステンシルプレートを前記正面から見たとき、前記第二凹部の外縁は、円弧と、当該円弧の両端部からそれぞれ前記ステンシルプレートの長辺に沿って前記ステンシルプレートの端部外縁まで延びる一対の辺と、を含むU字形状でもよい。これにより、第二凹部内の平頭ねじの頭部に占有されていない空間を小さくして、第二凹部に流れ込むゴムの量を少なくして、タイヤの外観の悪化のおそれを低減できる。
【0015】
また、前記ステンシルプレートを前記正面から見たとき、前記第二凹部の外縁は、前記ステンシルプレートの外縁と接しない、閉じた形状でもよい。これにより、ステンシルプレートと装着溝との間に、第二凹部に起因した余分な隙間が形成されないため、ゴムの侵入が抑えられ、タイヤの外観の悪化のおそれを低減できる。
【0016】
本発明に係るタイヤの製造方法は、上記に記載のタイヤ加硫金型を用いてタイヤを加硫成型する工程を含む。これによれば、タイヤの外観の悪化のおそれを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】タイヤ子午線断面に沿ったタイヤ加硫金型の断面図である。
図2図1のX矢視平面図である。
図3A図2におけるA−A線分での断面図である。
図3B】ステンシルプレートを装着する前の平頭ねじ、ステンシルプレート及び装着溝が分離した状態を示す図である。
図4】第一実施形態に係るステンシルプレートの斜視図である。
図5】第二実施形態に係るステンシルプレートの斜視図である。
図6】第三実施形態に係るステンシルプレートの斜視図である。
図7】第四実施形態に係るステンシルプレートの斜視図である。
図8A】従来のタイヤ加硫金型における、ステンシルプレートを装着する前の皿ねじ、ステンシルプレート及び装着溝が分離した状態を示す図である。
図8B】従来のタイヤ加硫金型の問題点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第一実施形態>
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、各図において、図面の寸法比と実際の寸法比とは、必ずしも一致しておらず、また、各図面の間での寸法比も、必ずしも一致していない。
【0019】
図1は、タイヤ子午線断面に沿ったタイヤ加硫金型10(以下、単に「金型10」と呼ぶ場合がある)の断面を示す。この金型10は型閉め状態にある。タイヤTは、タイヤ幅方向を上下に向けてセットされる。図1において、左方向はタイヤ径方向外側、右方向はタイヤ径方向内側である。
【0020】
金型10は、タイヤTのトレッド部を成型するトレッド型部11と、タイヤTのサイドウォール部を成型する一対のサイド型部(12,13)と、タイヤTのビード部が嵌合される一対のビードリング(14,15)とを備える。金型10は、キャビティ16にセットされたタイヤTの外表面に接するタイヤ成型面1を備える。タイヤ成型面1は、トレッド型部11の内面、サイド型部(12,13)の内面、及び、ビードリング(14,15)の内面を含む。図示を省略しているが、トレッド型部11の内面には、タイヤTのトレッド面にトレッドパターンを形成するための凹凸部が設けられている。
【0021】
トレッド型部11の内面の材料としては、アルミニウム材が例示される。このアルミニウム材は、純アルミ系の材料のみならずアルミニウム合金を含む概念であり、例えばAl−Cu系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系、Al−Mn系、Al−Si系が挙げられる。サイド型部(12,13)の内面及びビードリング(14,15)の内面の材料としては、一般構造用圧延鋼材(例えばSS400)などの鋼材が例示される。
【0022】
図2は、図1のX矢視平面図であり、下側に位置するサイド型部12の内面の一部を示す。図2では、左右方向がタイヤ周方向に相当し、上方向がタイヤ径方向外側、下方向がタイヤ径方向内側に相当する。図3Aは、図2におけるA−A線分での断面図であり、図3Bは、ステンシルプレート3を装着する前の平頭ねじ、ステンシルプレート及び装着溝が分離した状態を、図3Aと同様の断面図で示している。
【0023】
金型10は、キャビティ16にセットされたタイヤTの外表面に接するタイヤ成型面1と、そのタイヤ成型面1に設けられた装着溝2と、その装着溝2に装着されるステンシルプレート3と、ステンシルプレート3を固定するための固定具である、頭部底面の平坦な平頭ねじ4と、を備える。装着溝2は、タイヤ成型面1の一部を局所的に窪ませることにより設けられている。本実施形態において、装着溝2は、タイヤ成型面1であるサイド型部12の内面に設けられている。
【0024】
装着溝2は、溝底面21と、溝底面21から立ち上がった壁面22とを有する。装着溝2の溝深さD2は、1.5mm以下でもよく、1.3mm以下でもよい。溝深さD2は、1.0mm以上でもよく、1.1mm以上でもよい。溝底面21には、平頭ねじ4を取り付けるための雌ねじ孔23が設けられている。ステンシルプレート3は、平頭ねじ4を用いてタイヤ成型面1に着脱自在に取り付けられる。製造年週を更新するなど識別マークを変更する場合は、タイヤ成型面1からステンシルプレート3を取り外し、異なる識別マークを形成するための凹部が設けられた別のステンシルプレートを取り付ける。平頭ねじ4の詳細については後述する。
【0025】
ステンシルプレート3は、ステンレスやアルミニウムなどの金属製の板材で形成されている。ステンシルプレート3の厚みT3は0.8mm以下でもよく、0.4mm以下でもよい。厚みT3は、ステンシルプレート3に適度な強度を付与する観点から、0.2mm以上でもよく、0.3mm以上でもよい。ステンシルプレート3は、タイヤ周方向の長さL3がタイヤ径方向の幅W3よりも大きい横長形状を有する。ステンシルプレート3は、タイヤ周方向に沿って円弧状に湾曲しているが、これに限られず、長手方向LDに直線的に延びた形状でもよい。
【0026】
ステンシルプレート3は、キャビティ16に対向する正面31と、装着溝2の溝底面21に対向する背面32と、正面31から背面32まで通じて平頭ねじ4が挿通される貫通孔33とを有する。正面31には、タイヤTの外表面に凸状の識別マークを形成するための第一凹部34が設けられている。加硫成型時には、ステンシルプレート3の正面31に未加硫タイヤの外表面が押し当てられ、転写によって識別マークが凸状に形成される。本実施形態では、識別マークが「T T T」という文字列からなる例を示す。識別マークは、文字に限られず、記号や模様などでも構わない。
【0027】
第一凹部34は、正面31側からのエンボス加工(浮き出し工法)により陥没形成されている。第一凹部34の深さD34は、例えば0.3〜1.2mmに設定される。深さD34は、正面31を基準として求められる。背面32には、第一凹部34に対応した第一凸部35が設けられている。第一凸部35は、第一凹部34を陥没形成したことにより、それに対応して形成されたものである。したがって、第一凸部35は、ステンシルプレート3の背面32側から第一凹部34を見たものとなる。第一凸部35の突出量H1は、深さD34と実質的に同じになる。突出量H1は、背面32を基準として求められる。
【0028】
ステンシルプレート3の正面31において、貫通孔33を含む周囲には、第二凹部38が設けられている。第二凹部38には平頭ねじ4の頭部の底面41が配置されるため、第二凹部38の面積は、平頭ねじ4の頭部の底面41よりも大きい。ステンシルプレート3の背面32において、第二凹部38に対応する領域には、装着溝2の溝底面21に向かって突出する第二凸部39が設けられている。第二凸部39は、溝底面21に面接触可能な平坦面39aを有する。第二凸部39の突出量H2は、背面32を基準として求められる。突出量H2は、第一凸部35の突出量H1と同じ大きさであるか、第一凸部35の突出量H1以上の大きさである。言い換えると、第一凸部35の突出量H1と第二凸部39の突出量H2とは、
0≦H2−H1
を満たす。これにより、貫通孔33に挿通させた平頭ねじ4を締めると、第二凸部39は、溝底面21に確実に接触できる。
【0029】
頭部底面の平坦な平頭ねじ4について説明する。平頭ねじ4は、ねじ頭部の底面41がテーパ状を呈さず、ねじ軸方向に対して垂直の平坦面をなす。ここで、平坦面は、底面が全体的に平坦であることを指す。例えば、底面に緩み止め用の凹凸が局所的に設けられていても、底面が全体的に平坦であれば、頭部底面の平坦なねじに含まれる。そして、第二凸部39は溝底面21に面接触可能な平坦面を有するから、平頭ねじ4を締め付けると、ステンシルプレート3のねじ頭部の底面41と溝底面21とに挟まれる力が大きくなっていく。このとき、ねじ頭部の底面41がテーパ状を呈さず、ステンシルプレート3が絞りを有していないため、ステンシルプレート3を溝底面21へ引き込むことがない。つまり、作業者が平頭ねじ4を強く締め付け過ぎた場合でも、ステンシルプレート3は所期の位置よりも溝底面側に寄ることを抑止できる。また、ねじを締め付ける際のトルク管理が不要又は管理値が緩和され、作業性が向上する。
【0030】
ねじ頭部について、図3A及び図3Bでは、ねじ頭部の底面41からねじ頭部の頂面42まで同じ大きさの径を有するねじが示されているが、底面41側がねじ径方向に突出したフランジ付きのねじ頭部でもよい。ねじ頭部の頂面42について、図3A及び図3Bでは頂面42が平坦面を有するねじを示しているが、ねじ頭部の頂面42は必ずしも平坦でなくてもよく、例えば、ねじ頭部の頂面42の中央が膨出した形状を有する、いわゆるナベ型を呈していてもよい。ねじ頭部の頂面42は、タイヤ成型面1と面一に配置されているとタイヤの外観上好ましいが、これに限られない。例えば、ねじ頭部の頂面42がタイヤ成型面1より多少突出し、ねじ頭部に対応する部分がタイヤ表面において凹部として形成されたとしても、タイヤの外観として許容され得る。
【0031】
本明細書において、ねじとは、螺旋状の溝が設けられた棒と当該棒の一端に設けられた頭部とを有する締結要素全般を指し、ボルトやビスを含むものである。本実施形態では、ねじ頭部の頂面42には、プラスドライバの先端を挿入するための十字の窪みを有するが、マイナスドライバの先端を挿入するためのすり割り状の窪みや、六角レンチの先端を挿入するための六角形状の窪みでもよく、ねじを回すための窪みの形状は限定されない。また、係る窪みがなくてもよく、例えば、ねじ頭部側から見たときのねじ頭部を六角形状に形成し、該六角形状のねじ頭部を回すようにしてもよい。
【0032】
第二凸部39の突出量H2から第一凸部35の突出量H1を減じた値は、0.3(mm)以下、すなわち、H2−H1≦0.3であると好ましい。加硫成型時、装着溝2に装着したステンシルプレート3は、ゴムにより押圧されて沈み込む方向に撓みやすい。しかしながら、上記数値関係を満たすとき、第一凸部35は、ゴムの押圧に伴うステンシルプレート3の僅かな撓みで第一凸部35が溝底面21に接触し、それによりステンシルプレート3の更なる撓みを抑止する。その結果、タイヤの外表面の不要な段差の発生を抑止できる。
【0033】
また、H2−H1が0であると、ステンシルプレート3が撓むことなく、第一凸部35及び第二凸部39の何れもが溝底面21に接するため、ステンシルプレート3の撓みをさらに抑止し得る。ただし、0<H2−H1を満たすように構成することも可能であり、これによれば第一凸部35に優先させて第二凸部39を溝底面21に接触させやすく、所期の位置よりも溝底面側にステンシルプレート3が寄ることを効果的に抑止できる。
【0034】
図4は、第一実施形態に係るステンシルプレート3単体の斜視図を示す。ただし、識別マークの図示は省略している。ステンシルプレート3を正面31から見たとき、第二凹部38の外縁は、ステンシルプレート3の対向する長辺(3a,3b)の間を結ぶ円弧37aを含む。円弧37aの直径は、ねじ頭部の直径よりも大きい。ただし、円弧37aの直径が、ねじ頭部の直径と同じか僅かに大きい程度であると、円弧37aとねじ頭部との間に形成される、第二凹部38内の平頭ねじの頭部に占有されていない空間が小さくなって、第二凹部38に流れ込むゴムの量が低減するので、好ましい。円弧37aの中心が、貫通孔33の中心と略一致していると好ましい。
【0035】
平頭ねじ4が挿通される貫通孔33の直径は、平頭ねじ4を遊嵌できる程度に、ねじ呼び径よりも大きいと好ましい。これにより、平頭ねじ4をステンシルプレート3に支障なく嵌めることができる。また、ステンシルプレート3を固定する位置に遊びがあるので、装着溝2の雌ねじ孔23の位置精度が低い場合にも、ステンシルプレート3を撓ませることなく固定できる。ステンシルプレート3の撓みの抑止は、ステンシルプレート3と装着溝2との間の隙間からの余分なゴムの侵入を低減でき、タイヤの外表面の不要な段差の発生を抑止してタイヤの外観の悪化のおそれを低減できる。
【0036】
また、従来、装着溝に設けられた雌ねじ孔には、ステンシルプレートの絞りの一部を収容するために、座繰りが設けられていたが、本実施形態では、ステンシルプレート3の第二凹部38に絞りがなく平坦であるため、雌ねじ孔23に座繰りを設けなくてもよい。そのため、金型製造時に座繰りの加工が不要になるだけでなく、装着溝2に対してステンシルプレート3を遊嵌できるように設計でき、ステンシルプレート3を固定する際に生じるステンシルプレートの撓みを抑止できる。
【0037】
ここで、座繰りを設けなくてもよいことは、座繰りを有する従来タイプの金型に、本実施形態のステンシルプレート3及び平頭ねじ4を取り付けることを否定するものでない。つまり、本実施形態のステンシルプレート3及び平頭ねじ4は、従来タイプの金型にも適用できる。よって、本実施形態のステンシルプレート3及び平頭ねじ4の使用に合わせて、座繰りのあるタイヤ加硫金型を座繰りのないタイヤ加硫金型に作り替えなくてもよい。ただし、ねじの締め付けにより平頭ねじ4のねじ頭部が座繰りの内部に入り込まないように、ねじ頭部の底面の径が座繰りの径よりも大きい平頭ねじを使用するとよい。
【0038】
<第二実施形態>
第二実施形態は、ステンシルプレートの形状を下記の如く構成したこと以外は、第一実施形態と同様であるため、共通した事項について記載を省略する。第三実施形態及び第四実施形態についても同様である。図5には、第二実施形態のステンシルプレート3単体が示されている。ステンシルプレート3を正面31から見たとき、第二凹部38の外縁は、ステンシルプレート3の対向する長辺(3a,3b)の間を結び、該長辺に対して略垂直に交差する直線37bを含む。直線37bは、第二凹部38の加工が容易であり、加工精度も高い。
【0039】
<第三実施形態>
図6には、第三実施形態のステンシルプレート3単体が示されている。ステンシルプレート3を正面31から見たとき、第二凹部38の外縁37cは、円弧37c1と、円弧37c1の両端部からそれぞれステンシルプレートの長辺(3a,3b)に沿ってステンシルプレートの端部外縁36まで延びる一対の辺(37c2,37c2)と、を含むU字形状である。これにより、ねじ頭部を含まない第二凹部38の面積を小さくすることができ、第二凹部38に流れ込むゴムの量を少なくして、タイヤの外観の悪化のおそれを低減できる。
【0040】
<第四実施形態>
図7には、第四実施形態のステンシルプレート3単体が示されている。ステンシルプレート3を正面31から見たとき、第二凹部38の外縁37dは、ステンシルプレートの外縁であるステンシルプレートの長辺(3a,3b)及び端部外縁36と接しない、閉じた形状である。これにより、ステンシルプレート3と装着溝2との間に、第二凹部38に起因した余分な隙間が形成されないため、当該隙間からのゴムの侵入を抑えられる。
【0041】
さらに、第二凹部38の外縁37dの閉じた形状について、図7に示されるように、円環形状であると好ましい。これにより、第二凹部38内の平頭ねじの頭部に占有されていない空間を小さくして、第二凹部38に流れ込むゴムの量を少なくする。よって、タイヤの外観の悪化のおそれを低減できる。
【0042】
前述の実施形態では、ステンシルプレートの両端部に設けられた一対の第二凹部を互いに同じ形状としているが、これに限られない。したがって、例えば、ステンシルプレートの一方の端部に図6の如き形状の第二凹部38を設け、他方の端部に図7の如き形状の第二凹部38を設けることもできる。このように、上述した複数の実施形態については、特に制約なく組み合わせて採用することが可能である。
【0043】
本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 :タイヤ成型面
2 :装着溝
3 :ステンシルプレート
4 :平頭ねじ
10 :タイヤ加硫金型
11 :トレッド型部
12 :サイド型部
16 :キャビティ
21 :溝底面
22 :壁面
23 :雌ねじ孔
31 :正面
32 :背面
33 :貫通孔
34 :第一凹部
35 :第一凸部
36 :端部外縁
37a:(第二凹部の外縁を構成する)円弧
37b :(第二凹部の外縁を構成する)直線
37c1:(第二凹部の外縁を構成する)円弧
37c2:(第二凹部の外縁を構成する)一対の辺
37d :(第二凹部の外縁を構成する)円環形状
38 :第二凹部
39 :第二凸部
41 :(平頭ねじのねじ頭部における)底面
42 :(平頭ねじのねじ頭部における)頂面
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B