(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-185765(P2020-185765A)
(43)【公開日】2020年11月19日
(54)【発明の名称】印刷方法及び熱転写プリンタ
(51)【国際特許分類】
B41J 2/325 20060101AFI20201023BHJP
B41J 2/32 20060101ALI20201023BHJP
B41M 3/06 20060101ALN20201023BHJP
【FI】
B41J2/325 A
B41J2/32 J
B41M3/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-93532(P2019-93532)
(22)【出願日】2019年5月17日
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】福谷 惇史
(72)【発明者】
【氏名】川村 茂之
【テーマコード(参考)】
2C065
2H113
【Fターム(参考)】
2C065AA01
2C065AB10
2C065AF01
2C065CJ03
2C065CJ09
2C065DA36
2H113AA01
2H113AA04
2H113BA23
2H113BA27
2H113BB07
2H113BB22
2H113EA02
2H113EA07
2H113FA54
(57)【要約】
【課題】印刷画像に対応した立体感を鑑賞者が十分に感じることのできる印刷物を作成する。
【解決手段】熱可塑性樹脂の層を表面に有するシート2における当該表面にインクIを定着させるため、インクリボンを加熱するサーマルヘッドを備えた熱転写プリンタを用いた印刷方法において、前記サーマルヘッドが前記シート2に対して、前記インクリボンから前記シート2へのインクIの転写を行うことなく加熱を行うことで、前記シート2の加熱された部分に凹部21を形成するシート加熱工程と、前記サーマルヘッドが、前記シート加熱工程を経た前記シート2に対して、前記インクリボンを介して前記凹部21の位置に対応した印刷を行う印刷工程と、を有することを特徴とする印刷方法である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の層を表面に有するシートにおける当該表面にインクを定着させるため、インクリボンを加熱するサーマルヘッドを備えた熱転写プリンタを用いた印刷方法において、
前記サーマルヘッドが前記シートに対して、前記インクリボンから前記シートへのインクの転写を行うことなく加熱を行うことで、前記シートの加熱された部分に凹部を形成するシート加熱工程と、
前記サーマルヘッドが、前記シート加熱工程を経た前記シートに対して、前記インクリボンを介して前記凹部の位置に対応した印刷を行う印刷工程と、を有することを特徴とする印刷方法。
【請求項2】
熱可塑性樹脂の層を表面に有するシートにおける当該表面にインクを定着させるため、インクリボンを加熱するサーマルヘッドを備えた熱転写プリンタにおいて、
複数のサーマルヘッドを備え、
前記複数のサーマルヘッドのうち、シート搬送方向上流側の一つのサーマルヘッドが、前記シートに対して、前記インクリボンから前記シートへのインクの転写を行うことなく加熱を行うことで、前記シートの加熱された部分に凹部を形成し、
前記複数のサーマルヘッドのうち、シート搬送方向下流側の他のサーマルヘッドが、前記一つのサーマルヘッドにより前記凹部が形成された前記シートに対して、前記インクリボンを介して前記凹部の位置に対応した印刷を行うことを特徴とする熱転写プリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写プリンタに適用される印刷方法及びその熱転写プリンタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばゲームセンター等に設置されていて、写真を印刷したシールを作成できるプリント機、または、キャラクター等が表示されたカードがもらえるゲーム機、または写真等の画像を印刷するプリンタにおいて、鑑賞者が立体感を感じる印刷物へのニーズが存在する。
【0003】
このニーズに応じるため、従来、印刷物に対してローラを押し当てることで、印刷物の表面に物理的に凹凸を形成する方法があった。しかしこの場合、ローラによって形成される凹凸のパターンは限定されており、印刷画像に対応した凹凸の形成はできなかった。
【0004】
また、画像を印刷した後にシート表面に施されるラミネート層に対してマット処理を行う熱転写プリンタが、例えば特許文献1に記載されている。しかしこのような処理では、ラミネート層に部分的に光沢差を生じさせる程度のことしかできなかったため、鑑賞者はほとんど立体感を感じられなかった。
【0005】
このように従来の技術では、前記ニーズに十分に応えられていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3861293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、印刷画像に対応した立体感を鑑賞者が十分に感じることのできる印刷物を作成する印刷方法及び熱転写プリンタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、熱可塑性樹脂の層を表面に有するシートにおける当該表面にインクを定着させるため、インクリボンを加熱するサーマルヘッドを備えた熱転写プリンタを用いた印刷方法において、前記サーマルヘッドが前記シートに対して、前記インクリボンから前記シートへのインクの転写を行うことなく加熱を行うことで、前記シートの加熱された部分に凹部を形成するシート加熱工程と、前記サーマルヘッドが、前記シート加熱工程を経た前記シートに対して、前記インクリボンを介して前記凹部の位置に対応した印刷を行う印刷工程と、を有することを特徴とする印刷方法である。
【0009】
また本発明は、熱可塑性樹脂の層を表面に有するシートにおける当該表面にインクを定着させるため、インクリボンを加熱するサーマルヘッドを備えた熱転写プリンタにおいて、複数のサーマルヘッドを備え、前記複数のサーマルヘッドのうち、シート搬送方向上流側の一つのサーマルヘッドが、前記シートに対して、前記インクリボンから前記シートへのインクの転写を行うことなく加熱を行うことで、前記シートの加熱された部分に凹部を形成し、前記複数のサーマルヘッドのうち、シート搬送方向下流側の他のサーマルヘッドが、前記一つのサーマルヘッドにより前記凹部が形成された前記シートに対して、前記インクリボンを介して前記凹部の位置に対応した印刷を行うことを特徴とする熱転写プリンタである。
【0010】
これらの構成によれば、シートにおける熱可塑性樹脂の層をサーマルヘッドの熱で収縮させて、シート表面に凹部を形成できる。このように凹部が形成されたシートに対し、凹部の位置に対応した印刷を行うことで、立体的な印刷物を作成できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、印刷画像に対応した立体感を鑑賞者が十分に感じることのできる印刷物を作成できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る熱転写プリンタの構成を示す概略図である。
【
図2】本発明に係る印刷方法の流れを示す概略的な平面図であって、(a)は凹部が形成されたシートを示し、(b)は印刷に用いられるインクリボン(マゼンタ使用)を示し、(c)は凹部の位置に対応した印刷が行われたシートを示す。
【
図3】本発明に係る印刷方法によるシートの状態変化を示す概略的な断面図であって、(a)は印刷前の状態を示し、(b)は加熱により凹部が形成された状態を示し、(c)は印刷中の状態を示し、(d)は印刷後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明につき、一実施形態を取り上げて、図面とともに以下説明を行う。本実施形態に係る熱転写プリンタ(以下単に「プリンタ」と記載)の構成を
図1に概略的に示す。
【0014】
熱転写プリンタの構成は公知であるため、以下に簡単に説明する。本実施形態のプリンタ1は昇華型プリンタであって(一例であってこれに限定されない)、
図1に示すように、筐体11内において、主に、シート供給部12、シート搬送部13、インクリボン搬送部14、サーマルヘッド15、プラテンローラ16、シートカッタ17、電源・制御部18を備える。なお、以下で説明する構成は片面印刷を行うための構成である。両面印刷を行うためには、そのための知られている構成を付加すればよい。
【0015】
シート供給部12は、ロール状に巻かれた状態の長尺のシート2を引き出し可能に保持する部分である。なお、図示はしていないが、カードに印刷を行う場合等には、個々にカットされた枚葉状のシート(カード)を用いることもできる。シート2は、熱可塑性樹脂の層を表面(プリンタ11の内部でサーマルヘッド15及びインクリボン3に対向する面)に有する。シート2は、紙材または樹脂からなるシート状の基材における一方側の面(片面印刷用)、または、一方側及び他方側の両面(両面印刷用)に熱可塑性樹脂の層が積層されて構成されている。熱可塑性樹脂の層のうち表面側の一部が、染料であるインクが浸み込んで定着される受像層である。サーマルヘッド15により加熱されたインクリボン3から、インクがシート2に転写される。このインクは、シート2における表面に位置する受像層に浸み込むことで、シート2に定着される。
【0016】
シート搬送部13は、シート供給部12から供給されたシート2を、印刷実施位置を経て筐体11外に排出させるための部分であって、図示のように複数のローラから構成されている(図上では1組のローラにのみ付番している)。インクリボン搬送部14は、印刷実施位置においてシート2に対向するようにインクリボン3を供給、搬送、回収する部分である。なお、本実施形態のように、後述の第1サーマルヘッド15aがシート2に対する凹部21の形成専用とされる場合には、第1サーマルヘッド15aについてインクリボン搬送部14を設けないこともできる。この場合、シート2に対して、インクリボン3を介さず直接的に加熱が行われる。そうすることで、熱がインクリボン3によって遮蔽されないことから、高いエネルギー(熱エネルギー)をシート2に与えることができる。このため凹部21を深く、またはくっきりと形成できるので、立体感に富んだ凹凸をシート2に形成できる。
【0017】
インクリボン3は、従来と同じように、イエロー(
図2(b)に「Y」で示す)、マゼンタ(同「M」で示す)、シアン(同「C」で示す)の、転写物質としてのインクが転写されている各色インク領域と、転写物質としてのオーバーコート剤が塗布されているオーバーコート領域(
図2(b)に「OP」で示す領域)とが長手方向に規則的に並べられたものである。なお、前記各領域の組み合わせはこれに限定されるものではなく、他の色のインク領域等を更に設けることもできる。図示のようにインクリボン3はロール状に巻かれた状態とされている。
【0018】
サーマルヘッド15は、ヒータを内蔵しており、ヒータの加熱によりインクリボン3のインクを昇華させてシート2の表面に付着させる部分である。本実施形態では、2台のサーマルヘッド15(第1サーマルヘッド15a、第2サーマルヘッド15b)がシート搬送方向に並んで設けられている。シート搬送方向の上流側に位置するのが第1サーマルヘッド15aであり、シート搬送方向の下流側に位置するのが第2サーマルヘッド15bである。本実施形態では、第1サーマルヘッド15aに対してインクリボン3を使用せず(
図1には破線で表示しているが、本実施形態では存在しない)、第2サーマルヘッド15bに対してのみインクリボン3を使用する。
【0019】
プラテンローラ16は、印刷実施位置においてシート2をサーマルヘッド15に対して一定の距離に保つためのローラである。シートカッタ17は、シート2を幅方向(長手方向に直交する方向)に切断するための刃物である。電源・制御部18は、プリンタ1における各部に駆動のための電力を供給すると共に、各部の動作を司る部分である。
【0020】
立体的な印刷物を作成する場合の印刷方法に関し、本実施形態における2台のサーマルヘッド15のうち、シート搬送方向上流側の第1サーマルヘッド15aは、シート2に対して、インクリボン3からシート2への転写物質(インクまたはオーバーコート剤)の転写を行うことなく加熱を行う。この工程がシート加熱工程である。第1サーマルヘッド15aにおいて凹部21を形成するための加熱条件と、第2サーマルヘッド15bにおいて印刷(インクリボン3からシート2へのインクの転写)を行うための加熱条件は異なっている。
【0021】
シート2が有する熱可塑性樹脂の層は、第1サーマルヘッド15aの熱により、熱のかかった領域が部分的に収縮する。これにより、シート2の表面に凹部21を形成できる(
図2(a)、
図3(a)(b)参照)。一方、第1サーマルヘッド15aにより加熱されなかった領域には凹部21が形成されず、この領域は相対的に凸部となる。このため、シート2の表面が立体的になる。
図2(a)に示す星形の領域が凹部21の形成された領域である。なお、星形は形状の一例に過ぎない。電源・制御部18により第1サーマルヘッド15aの加熱(具体的には加熱領域及び温度)が制御されることで、種々の形状の凹部21が形成される。凹部21の形状は、第2サーマルヘッド15bがインクリボン3を加熱することにより、後に形成される印刷画像に対応した形状である。このため電源・制御部18は、印刷画像に対応した凹部21を形成するように第1サーマルヘッド15aを制御する。
【0022】
一方、シート搬送方向下流側の第2サーマルヘッド15bは、シート加熱工程を経ることで、第1サーマルヘッド15aにより凹部21が形成されたシート2に対して、インクリボン3を介して凹部21の位置に対応した印刷と、必要によりオーバーコート剤の転写を行う(
図2(b)(c)、
図3(c)(d)参照)。この工程が印刷工程である。
図2(b)ではマゼンタを印刷する例を示している。なお、
図3(d)にはインクIがシート2の表面に付着したように描かれているが、実際にはインクIがシート2の一部(受像層)に浸み込んで定着する。
【0023】
以上、本実施形態によれば、シートにおける熱可塑性樹脂の層をサーマルヘッドの熱で収縮させて、シート2の表面に凹部21を形成できる。このように凹部21が形成されたシートに対し、凹部21の位置に対応した印刷を行うことで、立体的な印刷物を作成できる。従って、印刷画像に対応した立体感を鑑賞者が十分に感じることのできる印刷物を作成できる。
【0024】
また、印刷物に対してローラを押し当てることで、印刷物の表面に物理的に凹凸を形成する方法については、オフセット印刷等で同一の印刷物を大量に作成する場合であれば、印刷画像に対応したローラを作成すれば、印刷画像に対応した凹凸を形成することも可能であった。しかしこの手法は、印刷画像が印刷のたびに異なるオンデマンド印刷では適用不可能であった。これに対して本実施形態では、電源・制御部18によりサーマルヘッド15(第1サーマルヘッド15a)を制御するだけで印刷画像に対応した凹部21を形成することによって、相対的に凹凸を形成することが可能であることから、ハード面での対応は不要でソフト面(制御内容)での対応をすればよいので、オンデマンド印刷に適している。
【0025】
また、例えば印刷及びオーバーコート剤転写終了後のシート2に対して加熱を行うことで、立体的な印刷物を作成することも可能であるが、オーバーコート剤を加熱すると白っぽくなってしまい、印刷物の見栄えが良くないとの問題がある。一方、本実施形態では、印刷及びオーバーコート剤転写の前に凹部21を形成するため、インクやオーバーコート剤が熱の影響を受けないことにより、印刷物の見栄えが低下せず美しい仕上がりとできる。
【0026】
以上、本発明につき一実施形態を取り上げて説明してきたが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0027】
例えば、前記実施形態のプリンタ1はサーマルヘッドを2台備えていた。しかしこれに限定されず、サーマルヘッドを3台以上備えていてもよい。また、サーマルヘッドを1台だけ備えていてもよい。この場合には、例えばシート2を引き戻すことにより、1台のサーマルヘッドが凹部形成用と印刷用を兼ねるようにできる。
【0028】
また、前記実施形態では、第1サーマルヘッド15aに対してインクリボン3を使用しなかった。しかしこれに限定されず、例えば、転写物質(インクまたはオーバーコート剤)が塗布されていない空き領域を形成しておき、その空き領域を第1サーマルヘッド15aに当てられるようにインクリボン3を構成することもできる。このように構成されたインクリボン3(
図1に破線で表示)を第1サーマルヘッド15aに対して用いることで、印刷やオーバーコート剤の転写を行うことなしにシート2に凹部21を形成することができる。しかも、インクリボン3における各色インク領域及びオーバーコート領域を用いて、第1サーマルヘッド15aでも、印刷やオーバーコート剤の転写を行うことができる。なお、前記実施形態のように、第1サーマルヘッド15aに対してインクリボン3を使用しない方が、熱によりインクリボン3に生じた皺がシート2の表面に悪影響を及ぼす可能性がないため、高いエネルギー(熱エネルギー)をシート2に与えることができるので好ましい。
【符号の説明】
【0029】
1 熱転写プリンタ
11 筐体
12 シート供給部
13 シート搬送部
14 リボン搬送部
15 サーマルヘッド
15a 第1サーマルヘッド
15b 第2サーマルヘッド
16 プラテンローラ
17 シートカッタ
18 電源・制御部
2 シート
21 凹部
3 インクリボン
I インク