【実施例】
【0011】
図1に示すように、サイドマッドガード(樹脂成形品)10は、板状のパネル12,14と、2枚のパネル12,14を繋ぐインテグラルヒンジ16とを備えている。サイドマッドガード10は、インテグラルヒンジ16で折り曲げて、2つのパネル12,14の相対的な姿勢を変更可能に構成されている。具体的には、サイドマッドガード10は、2枚のパネル12,14を展開した姿勢(成形姿勢、
図1〜
図3参照)で成形されて、成形姿勢からインテグラルヒンジ16で折り曲げることで、2枚のパネル12,14を対向して配置した姿勢(使用姿勢、
図4参照)に変更できる。そして、サイドマッドガード10は、使用姿勢で車体に設置される。なお、サイドマッドガード10における2枚のパネルのうち、車体への設置時に内側になるものをインナーパネル12といい、車体への設置時に外側になるものをアウターパネル14という。また、サイドマッドガード10の板面において、使用姿勢で外側となる面を外面といい、使用姿勢で両パネル12,14の対向することになる面を内面という。
【0012】
図3に示すように、成形姿勢にあるサイドマッドガード10は、インナーパネル12が上下方向に延びるように形成され、インナーパネル12の上縁全体に亘ってインテグラルヒンジ16が設けられている。アウターパネル14は、上下方向に延びる上部に対して下部が内側へ湾曲するように形成されており、下縁全体に亘ってインテグラルヒンジ16に連なっている。成形姿勢にあるサイドマッドガード10において、インテグラルヒンジ16は、上下方向に延びるインナーパネル12から該インナーパネル12の内外方向(車両における横方向)に延びるアウターパネル14の下部に切り替わる曲がり部分に設けられている。
図4に示すように、サイドマッドガード10は、使用姿勢において、インテグラルヒンジ16を起点として立ち上がるインナーパネル12とアウターパネル14の上部とが向かい合い、アウターパネル14の下部を底とする「U」字形状となる。
【0013】
図1、
図3〜
図5に示すように、インテグラルヒンジ16は、インナーパネル12およびアウターパネル14よりも薄肉であるように、インナーパネル12およびアウターパネル14と一体的に形成されている。インテグラルヒンジ16は、サイドマッドガード10の内面(一面)側から凹むように形成されている。インテグラルヒンジ16の板厚は、サイドマッドガード10におけるインナーパネル12の外面とアウターパネル14の外面との延長線が交差する屈曲部が、インテグラルヒンジ16の中において最も薄くなっている。すなわち、実施例では、前記屈曲部が、インテグラルヒンジ16において折り曲げが容易な変形起点16aとして設定されている。例えば、インナーパネル12およびアウターパネル14の板厚が2.5mm程度に設定されるのに対して、変形起点16aの板厚が0.8mm程度に設定される。
【0014】
図2に示すように、サイドマッドガード10は、インテグラルヒンジ16の少なくとも一部に設定されたヒンジ補強領域18を備えている。ヒンジ補強領域18は、インテグラルヒンジ16で繋ぐ2つのパネル12,14の並び方向(以下、単に並び方向という。)全体に亘って、インナーパネル12およびアウターパネル14よりも密度が高く形成されている。なお、
図2では、ヒンジ補強領域18を網掛けして示している。実施例のヒンジ補強領域18は、インテグラルヒンジ16において、インテグラルヒンジ16が延びる方向(車両における前後方向)の一部範囲に設けられている。このように、インテグラルヒンジ16は、互いに離して形成された複数のヒンジ補強領域18を備えている。インテグラルヒンジ16は、ヒンジ補強領域18において、パネル12,14より薄肉化された部分全体がパネル12,14よりも密度が高く、ヒンジ補強領域18ではない領域(非補強領域)において、パネル12,14と同等の密度になっている。そして、インテグラルヒンジ16は、高密度であるヒンジ補強領域18が、非補強領域よりも機械的物性が高くなっている。インテグラルヒンジ16は、ヒンジ補強領域18および非補強領域の密度が異なるものの、ヒンジ補強領域18および非補強領域の板厚が同じに形成されている。
【0015】
図1〜
図3に示すように、インテグラルヒンジ16で繋がる2つのパネル12,14のうちの少なくとも一方は、パネル12,14におけるインテグラルヒンジ16と反対側の縁側からヒンジ補強領域18に向かうにつれて、内面(一面)側が膨らむように形成された膨出部20,22を備えている。実施例のサイドマッドガード10は、インナーパネル12の内面側に形成されたインナー膨出部(膨出部)20と、アウターパネル14の内面側に形成されたアウター膨出部(膨出部)22とを備えている。インナー膨出部20およびアウター膨出部22は、ヒンジ補強領域18を挟んで前記並び方向に並べて配置されている。なお、サイドマッドガード10は、インナーパネル12およびアウターパネル14の外面が、膨出部20,22に対応して凹凸する形状ではない。
【0016】
図2に示すように、インナー膨出部20は、インナーパネル12において、インテグラルヒンジ16と反対側の縁(成形姿勢における下縁)からヒンジ補強領域18に亘って設けられている。また、
図3に示すように、インナー膨出部20は、下縁からヒンジ補強領域18に向かうにつれて膨らみが大きくなるように形成されている。更に、実施例のインナー膨出部20は、下縁からヒンジ補強領域18に向かうにつれて、インテグラルヒンジ16が延びる方向(車両における前後方向)の幅が広くなるように形成されている(
図2参照)。インナーパネル12は、インナー膨出部20が設けられた部分が、インナー膨出部20が設けられていない部分よりも板厚が大きく、インナー膨出部20によって下縁側よりもインテグラルヒンジ16側の板厚が大きくなっている。
【0017】
図1に示すように、アウター膨出部22は、アウターパネル14において、ヒンジ補強領域18からインテグラルヒンジ16と反対側の縁(上縁)に向かう途中位置までに設けられている。実施例では、アウターパネル14において内外方向(車両における横方向)に延びる下部に、アウター膨出部22が形成されている。また、アウター膨出部22は、ヒンジ補強領域18からアウターパネル14の上縁側に向かうにつれて膨らみが小さくなるように形成されている。更に、アウター膨出部22は、ヒンジ補強領域18からアウターパネル14の上縁側に向かう全体において、インテグラルヒンジ16が延びる方向(車両における前後方向)の幅が同じに形成されている。アウターパネル14は、アウター膨出部22が設けられた部分が、アウター膨出部22が設けられていない部分よりも板厚が厚く、アウター膨出部22によって上縁側よりもインテグラルヒンジ16側の板厚が厚くなっている。
【0018】
図6〜
図9に示すように、前述したサイドマッドガード10は、第1型部32と第2型部34との間にキャビティ36が形成される成形型30を用いた射出成形によって得ることができる。成形型30には、成形姿勢にあるサイドマッドガード10に合わせてキャビティ36が形成され、第1型部32によってサイドマッドガード10の内面を成形し、第2型部34によってサイドマッドガード10の外面を成形するようになっている。第1型部32は、インテグラルヒンジ16のヒンジ補強領域18に対応して、対面する第2型部34の型面に対して進退移動可能に構成されたブロック38を備えている。ブロック38は、得るべきインテグラルヒンジ16の板厚よりも第2型部34の型面から離した拡張状態(
図7(a)および
図8(a)参照)と、得るべきインテグラルヒンジ16の板厚に合わせて第2型部34の型面に近づけた圧縮状態(
図7(b)および
図8(b)参照)とに進退移動する。従って、キャビティ36におけるヒンジ補強領域18に対応する空間が、ブロック38の進退移動に応じて拡張または縮小する可変空間36aとなっている。なお、ブロック38は、例えば、既存の突き出し機構と連動させて動作させることができる。
図6〜
図9では、インナーパネル12側を下とする向きで図示しているが、サイドマッドガード10の成形時の向きはこれに限らない。
【0019】
図6および
図7に示すように、成形型30は、成形姿勢にあるインナーパネル12の下縁に対応する位置に、ゲート40を備えている。換言すると、キャビティ36の可変空間36aと、インテグラルヒンジ16で繋がる2つのパネル12,14のうちの一方におけるインテグラルヒンジ16と反対側の縁に対応する位置に接続するゲート40とを、2つのパネル12,14が並ぶ方向に並べて配置している。成形型30は、ゲート40からキャビティ36に供給された樹脂原料R(
図7参照)が、インナーパネル12に対応する部位からインテグラルヒンジ16に対応する部位を通って、アウターパネル14に対応する部位に充填される。キャビティ36におけるヒンジ補強領域18となる部位(可変空間36a)は、ゲート40に対して、インナーパネル12となる部位を挟んで反対側に配置され、複数のヒンジ補強領域18に対応してゲート40が複数配置されている。
【0020】
図6に示すように、第1型部32は、インナー膨出部20を形成するインナー凹部32aと、アウター膨出部22を形成するアウター凹部32bとを備えている。キャビティ36におけるインナーパネル12に対応する部位は、インナー凹部32aによって、ゲート40から可変空間36aに向かうにつれて第1型部32と第2型部34との間が広くなっている。キャビティ36におけるアウターパネル14に対応する部位は、アウター凹部32bによって、可変空間36a側における第1型部32と第2型部34との間が広くなっている。このように、成形型30は、キャビティ36におけるゲート40から可変空間36aに向けた部位および可変空間36aの周辺が、インナー凹部32aおよびアウター凹部32bによって広く形成されている。
【0021】
次に、前述した成形型30を用いたサイドマッドガード10の製造方法について説明する。
図6に示すように、樹脂原料Rを供給する前は、ブロック38を拡張状態とすることで、成形型30のキャビティ36において、インテグラルヒンジ16の少なくとも一部に設定されたヒンジ補強領域18に対応する可変空間36aを、得るべきインテグラルヒンジ16の板厚よりも広く設定する。ブロック38を拡張状態としたまま、樹脂原料Rを、ゲート40からキャビティ36に圧力をかけつつ供給し、拡張状態にある可変空間36aを含めたキャビティ36全体に樹脂原料Rを充填する(
図7(a)および
図8(a)参照)。樹脂原料Rを十分に充填してキャビティ36において樹脂原料Rの流動が停止した後、樹脂原料Rにかけた圧力を保持したまま、成形型30における可変空間36aを区画するブロック38を、可変空間36aを狭くするように移動して、可変空間36aに充填された樹脂原料Rを圧縮する(
図7(b)および
図8(b)参照)。これにより、可変空間36aに充填された樹脂原料Rの密度が高くなる。ブロック38の拡張状態において可変空間36aがパネル12,14の板厚以上に広げられ、ブロック38の圧縮状態において可変空間36aがインテグラルヒンジ16の板厚まで縮小される。
【0022】
樹脂原料Rを固化させて、サイドマッドガード10を成形した後、成形型30を型開きし(
図9参照)、サイドマッドガード10を取り出す。得られたサイドマッドガード10は、可変空間36aに対応するインテグラルヒンジ16のヒンジ補強領域18が、並び方向全体に亘って両パネル12,14よりも密度が高くなっている。
【0023】
サイドマッドガード10は、インテグラルヒンジ16にパネル12,14よりも密度が高いヒンジ補強領域18を備えているので、折り曲げて使用されるインテグラルヒンジ16における強度などの機械的物性が向上している。また、サイドマッドガード10は、インテグラルヒンジ16において板厚が薄くなる変形起点16aだけでなく、インテグラルヒンジ16における前記並び方向全体に亘ってヒンジ補強領域18が形成されている。従って、ヒンジ補強領域18によって、インテグラルヒンジ16の折り曲げ時に応力が加わる部位を全体的に補強することができる。また、サイドマッドガード10は、ヒンジ補強領域18をインテグラルヒンジ16の一部範囲に設ける構成とすることで、インテグラルヒンジ16の補強とインテグラルヒンジ16の折り曲げ易さとのバランスを取ることができる。
【0024】
インテグラルヒンジ16は、インナーパネル12およびアウターパネル14よりも板厚が薄く形成されるので、キャビティ36におけるインテグラルヒンジ16に対応する部位が狭小になって、樹脂原料Rが通り難くなる。しかしながら、前述したサイドマッドガード10の製造方法によれば、インテグラルヒンジ16の補強領域18に対応する可変空間36aを、得るべきインテグラルヒンジ16の板厚より広くしたもとで、キャビティ36に樹脂原料Rを充填している。従って、広くなった可変空間36aを通して樹脂原料Rをスムーズに流動させることができる。これにより、キャビティ36においてインナーパネル12に対応する部位とアウターパネル14に対応する部位との間で樹脂原料Rの流動不良を防止できる。従って、得られるサイドマッドガード10について、樹脂原料Rの流動不良に起因する、面ヒケやウエルドラインなどの外観不良またはバリの発生などを防止することができる。そして、前記製造方法は、ブロック38で可変空間36aに充填された樹脂原料Rを圧縮してインテグラルヒンジ16を形成するので、可変空間36aに対応するヒンジ補強領域18の密度を簡単に高くすることができる。これにより、得られるインテグラルヒンジ16の強度などの機械的物性を向上させることができる。
【0025】
本開示の製造方法では、可変空間36aおよびゲート40を、前記並び方向に並べて複数配置している。従って、ゲート40からキャビティ36に供給された樹脂原料Rを、インナーパネル12に対応する部位から広がった可変空間36aを通して、アウターパネル14に対応する部位にスムーズに流動させることができる。これにより、得られるサイドマッドガード10について、樹脂原料Rの流動不良に起因する、面ヒケやウエルドラインなどの外観不良またはバリの発生などを防止することができる。なお、ゲート40は、サイドマッドガード(樹脂成形品)10の大きさや形状等に応じて、1箇所のみに配置してもよい。この場合、可変空間36aは、1箇所のみに配置しても、複数配置しても、何れであってもよい。
【0026】
キャビティ36は、インナー凹部32aによってゲート40から可変空間36aに向かうにつれてインナーパネル12の板厚方向に対応する方向に広くなるように形成してあるので、ゲート40から可変空間36aに向けて樹脂原料Rが流動し易い。また、キャビティ36は、ブロック38を拡張状態にして広がった可変空間36a、インナー凹部32aおよびアウター凹部32bによって、インテグラルヒンジ16に対応する部位周辺が広くなっているので、ゲート40が設けられたインナーパネル12に対応する部位側からアウターパネル14に対応する部位側へ樹脂原料Rが流動し易くなっている。これにより、得られるサイドマッドガード10について、樹脂原料Rの流動不良に起因する、面ヒケやウエルドラインなどの外観不良またはバリの発生などを防止することができる。
【0027】
(変更例)
前述した構成に限らず、例えば以下のように変更してもよい。
(1)本開示を適用する対象は、サイドマッドガードに限らず、その他の車両外装部材であってもよく、車両内装部材に適用してもよい。また、車両用の部品に限らず、インテグラルヒンジを有する樹脂成形品全般に適用可能である。
(2)実施例では、インテグラルヒンジが延びる方向における一部範囲をヒンジ補強領域としたが、これに限らず、インテグラルヒンジが延びる方向全体に亘ってヒンジ補強領域としてもよい。
(3)実施例では、1条のインテグラルヒンジを備える樹脂成形品を例示したが、2条以上のインテグラルヒンジを備える樹脂成形品であってもよい。また、本開示を適用したインテグラルヒンジと、本開示を適用していないインテグラルヒンジとが混在する構成であってもよい。