【課題】無機繊維多孔体を構成する無機繊維は耐熱性が良好であるが、シランカップリング剤等のバインダーの耐熱性には限界がある。さらに高温下での使用に適した被覆無機繊維多孔体を提供する。
【解決手段】石綿を除く無機繊維を含む多孔体1と、前記多孔体の表面の少なくとも一部を被覆する被覆部材2と、を含み、前記多孔体は全無機成分中に対する前記無機繊維の含有率が80質量%以上であり、前記多孔体全体に対する前記無機繊維及びカップリング剤の含有率が95質量%以上であり、前記有機バインダーの含有量が0.5質量%以上10質量%以下であり、前記多孔体の嵩密度が0.001〜0.1g/cm
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態に係る被覆無機繊維多孔体は、石綿を除く無機繊維を含む多孔体と、前記多孔体の表面の少なくとも一部を被覆する被覆部材と、を含み、前記多孔体の嵩密度が0.001〜0.1g/cm
3であり、前記被覆部材の輻射率が前記多孔体の輻射率よりも低い。
【0009】
かかる被覆無機繊維多孔体は、高温下での使用に適し、例えば、多孔体を構成する無機繊維同士がバインダー(補強材)で結合されている場合であっても、補強材の耐熱温度を超える高温下で使用できる。そのような効果が発揮される理由として、被覆部材によって多孔体の温度上昇が好適に抑制されていることなどが推定される。
【0010】
従来、補強材として用いられるシランカップリング剤は、本来的に撥水性に優れるが、高温下では撥水性を十分に発揮できず、空気中の水分による無機繊維の劣化を防止する観点で改善の余地があった。本実施形態の被覆無機繊維多孔体によれば、高温下においても、シランカップリング剤本来の撥水性が保持されやすくなることによって、無機繊維の劣化が防止される。シランカップリング剤等のような無機バインダーを用いる場合に限らず、有機バインダー等のような他の補強材を用いる場合においても、高温下において、補強材が本来的に有する特性(撥水性、柔軟性等)を好適に保持できる。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る被覆無機繊維多孔体を概念的に説明する断面図である。
図1において、1は多孔体、2は被覆部材である。
【0012】
本実施形態に係る被覆無機繊維多孔体は、多孔体1と、2つの被覆部材2、2とによって構成されており、全体として板状(波板状)である。
【0013】
多孔体1については後に詳述するが、多孔体1の輻射率(放射率ともいう)は、例えば、0.6以上、0.65以上、0.7以上、0.75以上又は0.8以上であり得、また、0.99以下、0.98以下、0.95以下、又は0.9以下であり得る。
多孔体1の輻射率、及び後述する被覆部材2の輻射率は、下記式により算出した値を意味する。
輻射率(−)=1−反射率(−)−透過率(−)
ここで、「(−)」は単位が無次元であることを意味し、反射率(−)および透過率(−)は、高温反射率・透過率測定装置を用いて25℃の温度条件下、測定サンプルに対して波長2〜15μmの電磁波を照射したときに測定される、入射光強度、反射光強度および透過光強度から、下記式により算出した値を意味する。
反射率(−)=(反射光強度/入射光強度)
透過率(−)=(透過光強度/入射光強度)
【0014】
高温反射率・透過率測定装置としては、
図2に概略図で示すものが挙げられる。
図2に示す高温反射率・透過率測定装置Xにおいて、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光(株)製FT−IR6100型)6から照射された波長2〜15μmの入射光71は、反射鏡8により反射されてサンプル室内に導かれ、回転台9の中心部に取り付けたサンプル10に照射される。上記サンプル10は回転台9の中心部に設けたホルダーhに取り付けられた状態で、ハロゲンヒータ(ウシオ電機(株)製UL−SH−V500)11によって加熱される構造になっており、サンプル10の取り付け部を回転軸とする回転台9の腕部に別途設けられサンプル10の周囲を周回する検出器12によって、サンプル10からの反射光または透過光72の強度が検出される。
【0015】
上記高温反射率・透過率測定装置Xの加熱部の構造例を
図3に断面図で示す。
図3に示すように、サンプル10の前面部と背面部には、ハロゲンヒータ11が設置され、サンプル10からの反射光または透過光を検出器12が捉える際に、ハロゲンヒータ11が光路を遮らないようにサンプル10の上部に角度をつけて設置される。反射光または透過光の測定時においては、ハロゲンヒータ11もサンプル10と共に回転させることで、常にサンプル10の表面温度を一定に保つことができる構造となっている。サンプル10が設置される回転台9の底部及びハロゲンヒータ11には、外部から冷却水13が導入され、循環、冷却される。
【0016】
本実施形態ではシート状の多孔体1を用いている。シート状の多孔体1の厚さは格別限定されず、目的、用途等に応じて適宜設定可能であり、例えば、0.2mm以上、0.5mm以上又は1mm以上であり得、また、50mm以下、30mm以下又は20mm以下であり得る。
【0017】
(被覆部材)
2つの被覆部材2、2は、シート状の多孔体1の両面を被覆すると共に、該多孔体1を挟持している。被覆部材2、2は、それぞれ複数の凹凸構造を有するシート状である。被覆部材2が凹凸構造を有することによって、被覆無機繊維多孔体の剛性が向上し、また、被覆無機繊維多孔体自体の振動を抑制する制振性が向上する。制振性の向上は吸音性や静音性の向上にも寄与し得る。
【0018】
被覆部材2の輻射率は、多孔体1の輻射率よりも低く、例えば、0.5以下、0.4以下、さらには0.3以下であることが好ましい。被覆部材2の輻射率の下限は格別限定されず、例えば、0.001、0.005又は0.01であり得る。
【0019】
被覆部材2の材質は、上述した輻射率の条件を満たすものであれば格別限定されず、金属を含むことが好ましい。金属は格別限定されず、例えば、ステンレス、アルミ、マグネシウム、鉄、これらの合金、及びこれらにメッキ処理を施したものなどが挙げられる。
【0020】
シート状の被覆部材の形態は格別限定されず、例えば、金属板、金属箔等が挙げられる。
【0021】
被覆部材の厚さは格別限定されず、目的、用途等に応じて適宜設定可能であり、例えば、0.01mm以上、0.03mm以上又は0.05mm以上であり得、また、3mm以下、3mm以下又は1.50mm以下であり得る。
【0022】
以上に説明した被覆無機繊維多孔体は、例えば、断熱材等として用いることができる。被覆無機繊維多孔体を断熱材として用いる場合は、被覆無機繊維多孔体における被覆部材2が設けられた面を、高温側(発熱体側)に対向させるように設置することができる。
【0023】
以上の説明では、被覆部材がシート状の多孔体の両面を被覆する場合について主に示したが、これに限定されない。被覆部材がシート状の多孔体の片面を被覆するようにしてもよい。
【0024】
以上の説明では、多孔体がシート状である場合について主に示したが、これに限定されない。多孔体は任意の形状であり得、被覆部材は孔体の表面の少なくとも一部を被覆するように設けられればよい。
【0025】
以上の説明では、被覆部材が凹凸構造を有するシート状である場合について主に示したが、これに限定されない。被覆部材は平坦なシート状であってもよい。また、被覆部材は、シート状である場合に限定されず、任意の形状であり得る。
【0026】
(多孔体)
次に多孔体について詳しく説明する。
上述した各実施形態で使用する多孔体は、嵩密度(常温(20℃程度)、圧縮率0%)が0.001〜0.1g/cm
3である。嵩密度が上記の範囲であると、柔軟性を高くでき変形特性を向上できる。嵩密度の下限値は、小さいほど好ましいが、強度や圧縮応力を考慮すると、好ましくは0.005g/cm
3以上であり、より好ましくは0.007g/cm
3以上である。また、上限値は、好ましくは0.050g/cm
3以下であり、より好ましくは0.030g/cm
3以下である。
【0027】
上記の多孔体は、例えば、無機繊維を分散させた液体を発泡させた後、前記液体を除去することによって得られる。発泡に際して、液体に界面活性剤を添加することができる。また、液体が除去された発泡体には、必要に応じて、熱処理を施すことができる。さらに、多孔体は、無機繊維同士の結合を補強するための補強材を含むことができる。そのような補強材は液体に添加しておくか、液体が除去された発泡体に付与するか、又は、熱処理が施された発泡体に付与することによって、多孔体に取り込まれる。
得られる多孔体は、無機繊維からなるセル状の空隙を無数に形成した、いわゆるスポンジ構造を有し、きわめて軽量である。
以下、多孔体の構成部材及び製造方法について説明する。
【0028】
(無機繊維)
多孔体に含まれる無機繊維は格別限定されず、例えば、セラミック繊維、生体溶解性繊維(アルカリアースシリケート繊維、ロックウール等)及びガラス繊維から選択される1以上を用いることができる。尚、多孔体は、石綿繊維を含まない。
【0029】
生体溶解性無機繊維は、例えば、40℃における生理食塩水溶解率が1%以上の無機繊維である。
生理食塩水溶解率は、例えば、次のようにして測定される。すなわち、先ず、無機繊維を200メッシュ以下に粉砕して調製された試料1g及び生理食塩水150mLを三角フラスコ(容積300mL)に入れ、40℃のインキュベーターに設置する。次に、三角フラスコに、毎分120回転の水平振動を50時間継続して加える。その後、ろ過により得られた濾液に含有されている各元素(主要元素でよい)ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na )、カリウム(K)及びアルミニウム(Al)の濃度(mg/L)をICP発光分析装置により測定する。そして、測定された各元素の濃度と、溶解前の無機繊維における各元素の含有量(質量%)と、に基づいて、生理食塩水溶解率(%)を算出する。すなわち、例えば、測定元素が、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)及びアルミニウム(Al)である場合には、次の式により、生理食塩水溶解率C(%)を算出する;C(%)=[ろ液量(L)×(a1+a2+a3+a4)×100]/[溶解前の無機繊維の質量(mg)×(b1+b2+b3+b4)/100]。この式において、a1、a2、a3及びa4は、それぞれ測定されたケイ素、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムの濃度(mg/L)であり、b1、b2、b3及びb4は、それぞれ溶解前の無機繊維におけるケイ素、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムの含有量(質量%)である。
【0030】
生体溶解性繊維は例えば以下の組成を有する。
SiO
2とZrO
2とAl
2O
3とTiO
2の合計 50質量%〜82質量%
アルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物との合計 18質量%〜50質量%
【0031】
また、生体溶解性繊維は例えば以下の組成を有して構成されることも可能である。
SiO
2 50〜82質量%
CaOとMgOとの合計 10〜43質量%
【0032】
無機繊維の平均繊維径は格別限定されないが細い方が好ましい。一実施形態において、無機繊維の平均繊維径は、例えば、0.08μm〜4.0μm、0.1μm〜2.0μm、又は0.2μm〜1.0μmであり得る。平均繊維径はランダムに選択した繊維100本について測定した繊維径から求めることができる。
【0033】
(補強材)
補強材は格別限定されず、無機繊維同士を結合できるものを用いることができる。一実施形態において、多孔体は、補強材として、カップリング剤、無機バインダー及び有機バインダーからなる群より選ばれる1種以上を含むことができる。
【0034】
カップリング剤は格別限定されず、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等が挙げられる。シランカップリング剤は格別限定されず、例えば、メチルトリメトキシシラン等が挙げられる。多孔体にカップリング剤を付与する方法は格別限定されず、例えば、カップリング剤を加熱して発生した蒸気を多孔体に付着させて、水蒸気と反応させる方法を用いることができる。水蒸気で処理することにより、カップリング剤が加水分解、脱水縮合されて、多孔体に付着する。尚、他の方法として、カップリング剤を多孔体に直接含浸させて加熱した後、水蒸気と接触させる方法を用いてもよい。
【0035】
無機バインダーは格別限定されず、例えば、SiO
2系(SiO
2粒子、水ガラス(ケイ酸ナトリウム)、Al
2O
3系(Al
2O
3粒子、ポリ塩化アルミニウム等の塩基性酸アルミニウム等)、リン酸塩、粘土鉱物(合成、天然)等が挙げられる。多孔体に無機バインダーを付与する方法は格別限定されず、例えば、多孔体の製造過程において、無機繊維を分散させた液体に無機バインダーを含有させておく方法を用いることができる。尚、他の方法として、液体を除去した後の多孔体、又は熱処理後の多孔体に、塗布等によって無機バインダーを付与してもよい。
【0036】
有機バインダーは格別限定されず、例えば、シリコーンゴム、アクリルゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴムなどのゴム(ラテックス)材料、ポリエチレンオキサイドなどの水溶性樹脂、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
有機バインダーはポリマーを含むことができ、好ましくは、上述したゴム(ラテックス)材料のような、架橋されたポリマーを含む。多孔体に有機バインダーを付与する方法は格別限定されず、例えば、多孔体の製造過程において、無機繊維を分散させた液体に有機バインダーを含有させておく方法を用いることができる。尚、他の方法として、液体を除去した後の多孔体、又は熱処理後の多孔体に、塗布等によって有機バインダーを付与してもよい。
【0037】
(界面活性剤)
一実施形態において、多孔体は、界面活性剤を含むことができる。そのような界面活性剤は、多孔体の製造過程において、上述した液体を発泡させる目的で添加されたものであり得る。そのため、他の実施形態において、そのような界面活性剤は、液体を除去する処理や、熱処理等によって消失され、多孔体に含まれなくてもよい。界面活性剤として、例えば、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
【0038】
(他の成分)
多孔体は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した成分以外の他の成分を含むことができる。他の成分として、例えば、輻射遮蔽材、シール性改善材、吸音性調整材のような機能性材料が挙げられる。機能性材料は1種類を単独で添加してもよく、また、2種以上を組み合わせて添加してもよい。
【0039】
輻射遮蔽材は、多孔体に輻射(放射)を遮蔽する機能を付与する材料である。ここで、輻射の遮蔽は、例えば、反射、吸収あるいは散乱によって成され得る。輻射遮蔽材としては、例えば、繊維質及び粉末からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
【0040】
シール性改善材は、多孔体のシール性(密閉性)を改善する機能を有する材料である。シール性改善材としては、例えば、鱗片状の粉末を用いることができる。鱗片状の粉末は、その粒子の形状が鱗片状又は板状であり、例えば、タルク、クロライト、セリサイト、マイカ、ガラスフレーク、カオリン、グラファイト(鱗片状黒鉛)、アルミニウムフレーク、二硼化アルミニウム、ニッケルフレーク、窒化ホウ素等から選ばれる一種以上を用いることができる。
【0041】
吸音性調整材は、多孔体の吸音性を調整する機能を有する材料である。吸音性調整材としては、例えば、多孔体に含まれる無機繊維より径の太い繊維、多孔体に含まれる無機繊維より径の細い繊維、粉末を用いることができる。粉末としては、例えば鱗片状の粉末を用いることができ、上述したシール性改善材と同様なものが使用できる。
【0042】
(組成)
一実施形態において、多孔体は、
無機繊維を100質量部;補強材を0〜30質量部、0.5〜20質量部、1〜10質量部又は1〜5質量部;界面活性剤を0〜5質量部、0.1〜0.5質量部又は0.01〜1質量部;及び他の成分を0〜30質量部、0.5〜20質量部又は1〜10質量部の割合で含むことができる。尚、0質量部は、当該成分を含まないことを意味する。
【0043】
一実施形態において、多孔体の70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、96質量%以上、97質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上が、実質的に、無機繊維;無機繊維及び補強材;無機繊維及び界面活性剤;又は無機繊維、補強材及び界面活性剤からなる。ここで、質量%の残部は、上述した他の成分から選択される1種以上、及び不可避不純物の少なくとも一方であり得る。
【0044】
[多孔体の製造方法]
次に、以上に説明した多孔体の製造方法の一例について説明する。上述したように、一実施形態において、多孔体は、無機繊維を分散させた液体を発泡させた後、液体を除去することによって得られる発泡体によって構成される。発泡に際して、液体に界面活性剤を添加することができる。また、液体が除去された発泡体には、必要に応じて、熱処理を施すことができる。さらに、多孔体は、無機繊維同士の結合を補強するための補強材を含むことができる。そのような補強材は、液体に添加しておくか、液体が除去された発泡体に付与するか、又は、熱処理が施された発泡体に付与することによって、多孔体に取り込まれる。
以下に、補強材としてカップリング剤を用いる例と、補強材として有機バインダーを用いる例について、詳しく説明する。
【0045】
(カップリング剤を用いる場合)
補強材としてカップリング剤を用いる場合の製造方法の一例は、無機繊維分散液を作製する作製工程と、無機繊維分散液を発泡させる発泡工程と、発泡体(多孔体)を乾燥する脱水工程(分散媒の除去工程)と、カップリング剤を付与するカップリング剤付与工程とを含んで構成される。カップリング剤の付着を促すために、発泡体を所定温度で焼成を行う焼成工程を、カップリング剤付与工程の前に追加してもよい。
【0046】
前記作製工程の一態様は、無機繊維の表面をアルカリ性又は酸性の処理液に接触させることにより、負又は正に荷電させる荷電ステップと、荷電した無機繊維に界面活性剤を添加させて分散液を作製する界面活性剤添加ステップとを含む。無機繊維の表面を負に荷電させたときは、カチオン性界面活性剤を、又は、無機繊維の表面を正に荷電させたときは、アニオン性界面活性剤を添加することが好ましい。
【0047】
前記荷電ステップでは、アルカリ性又は酸性の処理液を用いてpH調整することにより、無機繊維の表面のゼータ電位を制御する。具体的には、無機繊維の表面のゼータ電位をマイナス又はプラスとする。
【0048】
界面活性剤添加ステップでは、好ましくは、前記荷電した無機繊維に対し、逆符号の親水基を有する界面活性剤を添加し、界面活性剤の親水基側を無機繊維の表面に吸着させて疎水基側を無機繊維の表面と反対側に配置させることで無機繊維(最外面)を疎水化する。このように界面活性剤を無機繊維の表面に吸着させて無機繊維表面を疎水化した状態において、後述の発泡工程によって空気を導入して発泡させると、無機繊維表面の疎水基側に泡の形成が助長されて良好に発泡した発泡体を得ることができる。換言すれば、無機繊維表面のゼータ電位を制御することで、無機繊維に界面活性剤を相互作用させて繊維を疎水化させ、無機繊維の周りに泡を係止(付着)し易くして発泡させた発泡体(スポンジ構造)を形成する。
【0049】
前記処理液には、水に溶解してpHを変化させることができるものであればよく、無機化合物の酸又は塩基、有機化合物の酸又は塩基を用いることができる。無機繊維の表面のゼータ電位は、0でない値を示すこと、例えば−5mV〜−70mV、−7mV〜−60mV、−10mV〜−45mV、+5mV〜+65mV、+7mV〜+60mV又は、+10mV〜+45mVとする。繊維の種類により、所定のゼータ電位にするためのpHは異なるため、pHを一義的に特定することはできないが、pHは、例えばpH7.5〜13で負に荷電し、pH2〜6で正に荷電させ得る。尚、ゼータ電位は、所定のpHに調整した水系の分散媒中に繊維を分散させ、繊維の汎用ゼータ電位計(例えばModelFPA、AFG Analytik社製)を用いて測定することで得られる。
【0050】
また、前記作製工程における荷電ステップと界面活性剤添加ステップとは経時的又は同時に実施し得る。荷電ステップと界面活性剤添加ステップとを同時に実施する場合、処理液、無機繊維及び界面活性剤を一緒に混ぜることができる。一方、荷電ステップと界面活性剤添加ステップとを経時的に実施する場合、無機繊維を、予め処理液で開繊、分散して荷電し、その後、界面活性剤と混ぜることができる。また、前記作製工程の他の態様としては、界面活性剤を用いることなく、両親媒性物質、疎水性の官能基を有するシランカップリング剤、疎水性の官能基を有するチタンカップリング剤等による表面処理によって少なくとも表面を疎水化した無機繊維を分散液(分散媒)に入れて作製することも可能である。尚、この工程のカップリング剤は発泡体を形成するために疎水化の状態にするためのものである。後のカップリング剤付与工程で用いるカップリング剤は発泡体の形態が水に濡れることにより崩壊することを防止するためのものである。
【0051】
分散液における界面活性剤の量は無機繊維より適宜調整できるが、例えば、ガラス繊維100質量部に対し、界面活性剤を0.01〜1.0質量部としてよい。前記界面活性剤は、好ましくは0.1〜0.8質量部、より好ましくは0.2〜0.7質量部とすることが可能である。尚、界面活性剤の添加量は、少なすぎると無機繊維の表面を十分に疎水化できず発泡性が低下する恐れがあり、一方で界面活性剤の量が多すぎると界面活性剤同士が付着し無機繊維の表面を十分に疎水化できない恐れがある点に鑑みて調整され得る。
【0052】
前記発泡工程では、処理液と無機繊維と界面活性剤とが混合されてなる無機繊維分散液に気泡供給装置から空気(気泡)を供給して発泡させる。尚、気泡供給装置を用いることなく、攪拌によって無機繊維分散液に空気(気泡)を供給して発泡させてもよい。かかる気泡供給装置や攪拌によって、気泡倍率、気泡量、気泡径を調整できる。
【0053】
前記脱水工程では、発泡体を所定時間(例えば4時間)、常温又は常温外の所定温度下で分散液に含まれていた分散媒を乾燥(自然乾燥を含む)することによって脱水する。
【0054】
前記焼成工程では、発泡体を高温度(例えば450℃)で焼成し、界面活性剤を除去する。尚、焼成工程は、前記脱水工程と同時に実施することが可能である。
【0055】
前記カップリング剤付与工程では、発泡体と、カップリング剤と水蒸気を反応させて付与する。具体的には、カップリング剤を加熱して発生した蒸気を発泡体に付着させて、水蒸気と反応させる。水蒸気で処理することにより、カップリング剤が加水分解、脱水縮合されて、発泡体に付着する。例えば、閉鎖容器(外から容器内に気体は混入しないが、内部の加熱による圧力の上昇が可能な程度の密閉容器)内で発泡体とカップリング剤蒸気を接触させる。接触後、閉鎖容器に水を入れて水蒸気を発生させてカップリング剤と反応させる。尚、カップリング剤を多く付与させるときは、前記の処理に代えて又は前記の処理に加えて、発泡体にカップリング剤を直接含浸させて加熱してもよい。その後水蒸気と接触させる。
【0056】
カップリング剤を使用した多孔体では、多孔体が、石綿を除く無機繊維とカップリング剤とを含み、全無機成分中に対する前記無機繊維の含有率が80質量%以上であり、多孔体全体に対する無機繊維及びカップリング剤の含有率が95質量%以上であることが好ましい。
本態様の具体例については、国際公開第2016/121400号を参照できる。
【0057】
(有機バインダーを用いる場合)
補強材として有機バインダーを用いる場合の製造方法の一例は、無機繊維分散液を作製する作製工程と、無機繊維分散液を発泡させる発泡工程と、発泡体(多孔体)を乾燥する脱水工程(分散媒の除去工程)とを含む製造方法である。
【0058】
前記作製工程の一態様は、水中で無機繊維の表面を負又は正に荷電させる荷電ステップと、界面活性剤添加ステップと、有機バインダー添加ステップとを含む。
【0059】
前記荷電ステップ及び前記界面活性剤添加ステップについては、上述したカップリング剤を用いる場合の製造方法についてした説明が援用される。
【0060】
前記有機バインダー添加ステップでは、無機繊維を含む水に、有機バインダーを添加することができる。有機バインダーは、例えば樹脂エマルジョン等の形態で添加することができる。そのような樹脂エマルジョンは、ポリマーと、該ポリマーを架橋するための架橋剤を含むことができる。一実施形態において、架橋剤は、例えば後段の脱水工程に伴って、ポリマーを架橋するように作用する。
【0061】
以上に説明した作製工程において、界面活性剤添加ステップは、荷電ステップと同時か、荷電ステップの後に実施することができる。荷電ステップと界面活性剤添加ステップとを同時に実施する場合、処理液、無機繊維及び界面活性剤を一緒に混ぜることができる。荷電ステップの後に界面活性剤添加ステップを実施する場合、無機繊維を、予め処理液で開繊、分散して荷電し、その後、界面活性剤と混ぜることができる。
また、有機バインダー添加ステップは、荷電ステップと同時か、荷電ステップの後に実施することができる。さらに、有機バインダー添加ステップは、界面活性剤添加ステップの前若しくは後、又は界面活性剤添加ステップと同時に実施することができる。
【0062】
尚、前記作製工程の他の態様としては、界面活性剤を用いることなく、両親媒性物質、疎水性の官能基を有するシランカップリング剤、疎水性の官能基を有するチタンカップリング剤等による表面処理によって少なくとも表面を疎水化した無機繊維を分散液(分散媒)に入れて作製することも可能である。尚、この工程のカップリング剤は多孔体を形成するために疎水化の状態にするためのものである。後のカップリング剤付与工程で用いるカップリング剤は多孔体の形態が水に濡れることにより崩壊することを防止するためのものである。
【0063】
前記発泡工程については、上述したカップリング剤を用いる場合の製造方法についてした説明が援用される。
【0064】
前記脱水工程では、発泡体(多孔体)を所定時間、常温又は常温外の所定温度下で分散液に含まれていた分散媒を乾燥(自然乾燥を含む)することによって脱水する。有機バインダーを好適に保持する観点で、乾燥温度は、例えば200℃以下、150℃以下、100℃以下、又は90℃以下であり得る。
【0065】
一実施形態において、多孔体の製造方法は、上述した乾燥後の多孔体にカップリング剤を付与するカップリング剤付与工程をさらに含むことができる。前記カップリング剤付与工程は、上述したカップリング剤を用いる場合の製造方法についてした説明が援用される。尚、有機バインダーによる効果を顕著に発揮する観点で、カップリング剤付与工程は省略することも好ましいことである。
【0066】
尚、補強材として有機バインダーを用いる場合の製造方法の他の例においては、多孔体は、例えば、無機繊維分散液を作製する作製工程(有機バインダー添加ステップを除く)と、無機繊維分散液を発泡させる発泡工程と、発泡体(多孔体)を乾燥する脱水工程(分散媒の除去工程)と、乾燥後の発泡体(多孔体)を焼成する工程と、焼成物に有機バインダーを添加する工程と、を含む製造方法により得られる。
第二の製造方法の焼成工程の前の工程は、有機バインダー添加ステップを実施しない他は、第一の製造方法の脱水工程までと同様である。
焼成工程では、乾燥後の発泡体を高温度(例えば450℃)で焼成し、界面活性剤を除去する。尚、焼成工程は、前記脱水工程と同時に実施することが可能である。
有機バインダー添加工程では、焼成して得られた焼成物に、有機バインダーを塗布、噴霧等の方法により、有機バインダーを添加する。
有機バインダーの乾燥工程では、必要に応じて加熱等を行って、塗布した有機バインダー含有物に含まれる分散媒である水や有機溶媒を乾燥除去する。架橋性の有機バインダーを用いている場合には、例えば上記乾燥工程や別途設けることができる熱処理等の架橋工程によって、該有機バインダーを架橋することができる。
【0067】
多孔体に有機バインダーを使用する場合、無機繊維を含む多孔体が、石綿を除く無機繊維と有機バインダーとを含み、無機繊維の含有量が90質量%以上であることが好ましい。
一実施形態において、多孔体における有機バインダーの含有量は、0.5質量%以上10質量%以下である。
多孔体における有機バインダーの含有量は、例えば、1質量%以上、1.5質量%以上、2質量%以上、2.5質量%以上、3質量%以上、3.5質量%以上、4質量%以上、又は4.5質量%以上であり得る。また、一実施形態において、多孔体における有機バインダーの含有量は、例えば、9.5質量%以下、9質量%以下、8.5質量%以下、8質量%以下、7.5質量%以下、7質量%以下、6.5質量%以下、6質量%以下、5.5質量%以下又は5.0質量%以下であり得る。
【0068】
(無機バインダーを用いる場合)
以上、補強材として有機バインダーを用いる場合の製造方法についてした説明は、補強材として有機バインダーに代えて無機バインダーを用いる場合の製造方法に適宜援用される。
【0069】
[多孔体の特性]
次に、多孔体の特性について説明する。多孔体には、目的、用途等に応じて所望の特性(例えば物性等)を適宜付与することができる。
【0070】
一実施形態において、多孔体は、以下の特性(1)〜(7)から選択される少なくとも1以上を有することができる。尚、以下の説明において、常温は20℃である。一実施形態において、以下に記載する特性は、JIS Z 8703による5〜35℃の全域にわたって保持され得る。
【0071】
(1)常温で圧縮率0〜90%における各圧縮率で圧縮した際の圧縮応力が全て、2.5MPa以下、2.0MPa以下、1.5MPa以下、1.3MPa以下、1.0MPa以下、0.8MPa以下、0.6MPa以下、0.4MPa以下、0.2MPa以下、0.05MPa以下、又は0.02MPa以下である。下限は0MPaである。
さらに好ましくは、多孔体は、高温下(450℃)における圧縮率0〜90%の各圧縮率で圧縮した際の圧縮応力が全て、2.5MPa以下、2.0MPa以下、1.7MPa以下、1.5MPa以下、1.3MPa以下、1.0MPa以下、0.8MPa以下、0.6MPa以下、0.4MPa以下、0.2MPa以下又は0.04MPa以下である。下限は0MPaである。
圧縮応力は、試験時の多孔体圧縮時の荷重値を、圧縮方向と直交する方向の被押圧面の面積(例えば縦寸法と横寸法の積)で除算して算出される。圧縮時の荷重は、多孔体の寸法を計測し、この多孔体の厚さを100%として圧縮率を設定(0〜90%)して、材料試験機(オートグラフ、島津製作所)を用いて所定厚さまで圧縮(2mm/min)した際の荷重値とする。圧縮応力N/m
2=測定荷重(N)÷サンプル面積(m
2)
【0072】
(2)常温において圧縮率80%で圧縮した際の圧縮応力(又は圧縮率0〜80%における各圧縮率で圧縮した際の圧縮応力が全て)が、0.1MPa以下、0.5MPa以下、0.3MPa以下、0.1MPa以下、0.08MPa以下、0.06Pa以下、0.04Pa以下、0.02Pa以下、0.01MPa以下、0.008MPa以下、又は0.005MPa以下である。下限は限定されないが、通常0.0001MPa以上又は0.00001MPa以上である。
圧縮応力は、上記特性(1)と同様に測定される。
【0073】
(3)常温で圧縮率80%(好ましくは0〜90%における各圧縮率)で圧縮した際の復元率が、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、又は95%以上である。上限は限定されないが、通常99%以下である。
より好ましくは、高温下(450℃)における圧縮率80%(好ましくは0〜90%における各圧縮率)で圧縮した際の復元率が、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、又は95%以上である。上限は限定されないが、通常99%以下である。
復元率は、多孔体の厚さを100%として圧縮率を設定(0〜90%)して、材料試験機(オートグラフ、島津製作所)を用いて所定厚さまで圧縮(2mm/min)し、試験終了後のサンプルの厚さを計測し、次の式から算出される。復元率(%)=(圧縮試験後の厚さ÷試験前の厚さ)×100
【0074】
(4)常温において圧縮率80%で圧縮した際の見かけヤング率が1MPa以下、0.7MPa以下、0.6MPa以下、0.3MPa以下、0.1MPa以下、0.05MPa以下、又は0.01MPa以下である。下限は限定されないが、通常0.0001MPa以上である。
見かけヤング率は、上述した圧縮応力と、サンプルの寸法計測によって計測した歪量とに基づいて算出される。
【0075】
(5)常温での嵩密度(圧縮率0%)が、0.13g/cm
3以下、0.12g/cm
3以下、0. 1g/cm
3以下、0.09g/cm
3以下、0.08g/cm
3以下、又は0.05g/cm
3以下であり、また、0.001g/cm
3以上、0.002g/cm
3以上、0.003g/cm
3以上、0.004g/cm
3以上、0.005g/cm
3以上、又は0.006g/cm
3以上である。
嵩密度は、多孔体の重量を、寸法計測装置(例えばノギス)を用いて計測された多孔体の見掛け体積(例えば縦、横及び高さの寸法の積)で除算して算出される。
【0076】
(6)常温において圧縮率40〜80%で圧縮した際の嵩密度と圧縮応力との積算値[MPa・g/cm
3]が、0.30以下、0.28以下、0.1以下、0.05以下、0.01以下、0.001以下、又は0.0005以下である。
【0077】
(7)多孔体における細孔径の平均円相当径が、150μm以上、180μm以上、200μm以上、又は250μm以上であり、また、1000μm以下、800μm以下、700μm以下、又は600μm以下である。
・平均セル径(平均円相当径)
発泡体からサンプルを切断し、X線マイクロCTスキャナ(BRUKER社製SkyScan1272)を用いて、解像度5μm/pixelにて線透過像を撮影した。得られたX線透過像から、付属のソフト(NRrecon及びDATAVIEWER)を用いて3次元像を合成し、サンプル内部の断面像を作成した。得られた断面像の全細孔を計測し円相当径の平均を算出した。計測は、細孔と認められる部分が楕円形状となっていることから、細孔の長径と短径を計測し、断面積を以下の式により算出する。
細孔断面積=長径÷2×短径÷2×π
また、前記断面積から真円相当となる径を円相当径として以下の式により算出する。そして、前記画像内の全細孔についての円相当径の平均を算出する。
円相当細孔径=2×√(細孔断面積÷π)
尚、平均円相当径は、以下の式で求める算術平均細孔径である。
【数1】
(式中、dは円相当径、nは細孔の数である。)
【0078】
尚、上述した各特性は、例えば、多孔体の製造方法において、無機繊維に対する界面活性処理方法、無機繊維の濃度(含有割合)、発泡倍率、気泡量、気泡径等により適宜調整(制御)できる。