【解決手段】第一スズイオンを加えることによる、ホスホペプチド/リンタンパク質により安定化された非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)の改善された複合体。齲蝕の初期段階に歯組織を再石灰化(修復)し、歯組織の保護に有用な抗齲蝕性を有し、別の歯科的/医学的用途(抗歯石、抗酸蝕症/腐食、および抗象牙質知覚過敏など)を有する。本発明の複合体の製造方法、ならびに齲蝕、歯石、歯牙酸蝕症/歯牙腐食および歯の知覚過敏などの種々の歯科症状を治療または予防する方法も提供される。
前記ACPおよび/またはACFPがホスホペプチド安定化される、請求項1に記載の第一スズが会合した安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体。
前記複合体が、ホスホペプチド1モル当たり少なくとも1モルの第一スズの第一スズイオン含有量を有する、請求項2に記載の第一スズが会合した安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体。
前記複合体が、ホスホペプチド1モル当たり少なくとも5モルの第一スズの第一スズイオン含有量を有する、請求項3に記載の第一スズが会合した安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体。
前記複合体が、ホスホペプチド1モル当たり約7モルの第一スズの第一スズイオン含有量を有する、請求項4に記載の第一スズが会合した安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体。
前記第一スズが、フッ化第一スズ、塩化第一スズ、フッ化第一スズカリウム、フルオロジルコン酸第一スズナトリウム、塩化フッ化第一スズ、酢酸第一スズ、フッ化第一スズナトリウム、ヘキサフルオロジルコン酸第一スズ、硫酸第一スズ、酒石酸第一スズ、グルコン酸第一スズ、クエン酸一第一スズ二ナトリウムからなる群から選択される化合物によって供給される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の第一スズが会合した安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体。
前記化合物がフッ化第一スズである、請求項6に記載の第一スズが会合した安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体。
前記フッ化物がフッ化ナトリウムおよびフッ化第一スズによって供給される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の第一スズが会合した安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体。
第一スズが会合した安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)の製造方法であって、pHを約6.5以下に維持しながら、CPP−ACPと第一スズ化合物とを水溶液中で混合するステップを含む、方法。
第一スズが会合した安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)の製造方法であって、pHを約6.5以下に維持しながら、CPP−ACFPと第一スズ化合物とを水溶液中で混合するステップを含む、方法。
請求項1〜8のいずれか一項に記載の第一スズが会合した安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体を含む組成物。
前記第一スズ化合物が、フッ化第一スズ、塩化第一スズ、フッ化第一スズカリウム、フルオロジルコン酸第一スズナトリウム、塩化フッ化第一スズ、酢酸第一スズ、フッ化第一スズナトリウム、ヘキサフルオロジルコン酸第一スズ、硫酸第一スズ、酒石酸第一スズ、グルコン酸第一スズ、クエン酸一第一スズ二ナトリウムからなる群から選択される、請求項13に記載の組成物。
請求項1〜8のいずれか一項に記載の第一スズが会合した安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体を含む口腔ケア配合物。
歯の表面または表面下に、請求項1〜8のいずれか一項に記載の第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを接触させるステップを含む、歯の表面または表面下の石灰化方法。
歯の表面に結合した保護層を形成する方法であって、前記層がカルシウムおよびホスフェートを含み、前記歯の表面または表面下に、請求項1〜8のいずれか一項に記載の第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを接触させるステップを含む、方法。
前記層が、20〜30重量%の炭素、35〜45重量%の酸素、0.1〜1重量%のフッ化物、8〜12重量%のホスフェート、16〜24重量%のカルシウム、および0.5〜2重量%の第一スズを含有する、請求項27に記載の方法。
前記歯の表面または表面下が、ウシ、ヒツジ、ウマ、および家禽などの家畜、ネコおよびイヌなどのコンパニオンアニマル、または動物園の動物の歯の表面または表面下である、請求項19〜28のいずれか一項に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
フッ化第一スズ(SnF
2)は、齲歯予防薬および歯垢防止薬として提案されている多数の金属フッ化物塩の中の1つであるが、第一スズイオンは不安定であるため、練り歯磨き、マウスウォッシュ、およびその他の口腔ケア製品中へのこの薬剤の供給は困難である。水酸化物イオンおよびリン酸イオンの存在下で、第一スズは水酸化第一スズとリン酸第一スズとの複合体として沈殿しうる。この沈殿物は生物学的な利用可能性が非常に低く、嚥下によって口腔からより容易に除去されうる。さらに第一スズイオンは酸化されて第二スズイオン(SnIV)となることができ、これはさらにより反応性が高く、活性が非常に低く溶解性の低い形態となる。SnF
2を有する新しい練り歯磨き配合物は、非水性であること、または第一スズイオンを安定化させるためにポリホスフェートを使用することに依拠している。しかし、これらの配合物は、口の乾燥した人による許容性が低い。低石灰化病変の改善されたまたは別の治療の提供が必要とされる。
【0010】
本明細書におけるあらゆる従来技術に対する言及は、この従来技術が、オーストラリアまたはあらゆる他の管轄区における共通の一般知識の一部を構成するものであり、この従来技術が当業者によって関連するとして確認され、理解され、見なされるものと合理的に予想されうるとの、承認でもなんらかの形態の示唆でもなく、そのように解釈すべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一態様において、本発明は、第一スズが会合した安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体を提供する。
【0012】
実施例2の実験プロトコルを用いて測定されるように、第一スズは、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)に結合することができる。一実施形態において、第一スズが会合した安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体は、限定するものではないが実施例1に記載の方法などの本明細書に記載の方法によって製造される。
【0013】
なんらかの理論または作用機序によって束縛されるものではないが、カゼインホスホペプチドなどのホスホペプチドは、水性環境中、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)の存在下で第一スズ化合物を安定化させることができ、これらの複合体は、エナメル質表面下病変の再石灰化において他の形態のフッ化物および安定化ACPまたはACFPよりも優れていると考えられる。歯の表面の石灰化は、安定化ACPおよび/または安定化ACFPによる石灰化プロセス中に第一スズ化合物を供給することによって大きく向上させることができる。特に、第一スズが会合したACP複合体および第一スズが会合したACFP複合体の安定化可溶化形態によるエナメル質の石灰化は、会合した第一スズを有さない安定化ACPおよびフッ化物の場合よりも向上することが分かった。言い換えると、第一スズイオンがCPP−ACPおよび/またはCPP−ACFP複合体と錯形成し、次にこれらのSnが会合したCPP−AC(F)P複合体によって優れた性質が得られる。投与のためのこれらの複合体を含む種々の組成物が有用となる。フッ化物第一スズ塩が使用される場合、第一スズが会合したACP/ACFP複合体の組成物中にさらなるフッ化物イオンを使用することができる。組成物中にNaFを混入することによって、さらなるフッ化物イオンを供給することもできる。
【0014】
本発明は、ホスホペプチド1モル当たり少なくとも1モルの第一スズの第一スズイオン含有量を有する第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPも提供する。好ましくは、第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPは、ホスホペプチド1モル当たり少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、または10モルの第一スズの第一スズイオン含有量を有する。さらにより好ましくは、第一スズイオン含有量は、ホスホペプチド1モル当たり1〜100、1〜50、1〜20、または1〜10モルの範囲内の第一スズである。本発明は、本明細書に記載されるような第一スズが会合した安定化ACPおよび/またはACFP複合体を含む、またはからなる組成物も提供する。
【0015】
いずれかの実施形態において、前述の第一スズイオン含有量は、(本明細書に記載されるように)複合体に強く結合した第一スズイオン含有量であってよい。第一スズイオン含有量の評価では、強く結合した第一スズイオン含有量は、本明細書に記載の方法、特に実施例6に記載の方法によって測定される。
【0016】
本発明は、1000の分子量カットオフフィルター中で約3000gで室温において1時間遠心分離した後に複合体との会合が維持される第一スズイオンを含む、第一スズが会合した安定化ACPおよび/またはACFP複合体も提供する。
【0017】
本発明は、実施例6の方法によって測定して、強い結合で複合体に会合した第一スズを少なくとも50、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%有する、第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPも提供する。
【0018】
本発明は、複合体中に混入された複合体の調製に使用される第一スズを少なくとも50、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%有する、第一スズが会合した安定化ACPまたはAC
FPも提供する。複合体は実施例1に概略が示されるように調製することができる。
【0019】
一実施形態において、本発明は、フッ化第一スズが会合した安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/またはフッ化第一スズが会合した非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体を提供する。別の一態様において、本発明は、第一スズ化合物と安定化ACPまたはACFPとを含む組成物を提供する。いずれの実施形態でも、第一スズ化合物は好ましくはフッ化第一スズおよび/または塩化第一スズである。任意選択により、NaFも含まれる。
【0020】
一態様において、本発明は、歯の表面または表面下の石灰化方法であって、歯の表面または表面下に、(a)第一スズ化合物と安定化ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを接触させるステップを含む方法を提供する。
【0021】
第一スズ含有化合物は、口腔用途に好適な任意の可溶性第一スズ含有化合物であってよい。好ましくは、第一スズ含有化合物は第一スズ塩である。第一スズ塩はフッ化物を含有してよい。第一スズ塩としては、フッ化第一スズ、塩化第一スズ、フッ化第一スズカリウム、フルオロジルコン酸第一スズナトリウム、塩化フッ化第一スズ、酢酸第一スズ、フッ化第一スズナトリウム、ヘキサフルオロジルコン酸第一スズ、硫酸第一スズ、酒石酸第一スズ、グルコン酸第一スズ、クエン酸一第一スズ二ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましい第一スズ塩としては、フッ化第一スズおよび塩化第一スズが挙げられる。
【0022】
歯の表面は、好ましくは歯のエナメル質または象牙質である。一実施形態において、歯の表面は、齲蝕、歯牙酸蝕症、またはフッ素症によって発生する病変などのエナメル質中の病変である。別の一実施形態において、表面は、象牙質知覚過敏を引き起こす露出した象牙質である。
【0023】
好ましくは、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)は、ホスホペプチド安定化される。好ましくは、ホスホペプチド(後述のように定義される)はカゼインホスホペプチドである。
【0024】
好ましい一実施形態において、ホスホペプチド安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体は、強く結合したカルシウムおよび緩く結合したカルシウムを有し、複合体中の結合したカルシウムは、pH7.0において形成されるACPまたはACFP複合体中の強く結合したカルシウムよりも少ない。任意選択により、ACPまたはACFPは主として塩基形態である。
【0025】
別の一態様においては、本発明は、第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを含み、フッ化物をさらに含む組成物も提供し、フッ化物はフッ化第一スズおよびフッ化ナトリウムとして提供される。好ましくは、組成物は、2%w/vの安定化ACPまたはACFP、フッ化第一スズとしての約1100ppmのフッ化物、およびフッ化ナトリウムとしての約350ppmのフッ化物を含み、または組成物は、0.4%w/vの安定化ACPまたはACFP、フッ化第一スズとしての約220ppmのフッ化物、およびフッ化ナトリウムとしての約70ppmのフッ化物を含む。好ましくは、組成物は練り歯磨きである。
【0026】
好ましい一実施形態において、安定化ACPまたはACFP複合体のカルシウムイオン含有量は、1モルのPP当たり約30〜100モルの範囲内のカルシウムである。より好ましくは、カルシウムイオン含有量は、1モルのPP当たり約30〜約50モルの範囲内
のカルシウムである。
【0027】
好ましい一実施形態において、ACPおよび/またはACFPは、カゼインホスホペプチド安定化されたACPおよび/またはACFP複合体の形態である。
【0028】
好ましくは、ACPの相は、主として(すなわち>50%)塩基性相であり、ACPは、主としてCa
2+、PO
43−、およびOH
−の化学種を含む。ACPの塩基性相は、一般式[Ca
3(PO
4)
2]
x[Ca
2(PO
4)(OH)]で表すことができ、式中、x≧1である。好ましくはx=1〜5である。より好ましくは、x=1であり、すなわち上式の2つの成分は同じ比率で存在する。したがって、一実施形態において、ACPの塩基性相は式Ca
3(PO
4)
2Ca
2(PO
4)(OH)で表される。
【0029】
好ましくは、ACFPの相は、主として(すなわち>50%)塩基性相であり、ACFPは、主としてCa
2+、PO
43−およびF
−の化学種を含む。ACFPの塩基性相は、一般式[Ca
3(PO
4)
2]
x[Ca
2(PO
4)F]
yで表すことができ、式中、y=1の場合x≧1、またはx=1の場合y≧1である。好ましくは、y=1およびx=1〜3である。より好ましくは、y=1およびx=1であり、すなわち、上式の2つの成分は同じ比率で存在する。したがって、一実施形態において、ACFPの塩基性相は式Ca
3(PO
4)
2Ca
2(PO
4)Fで表される。
【0030】
一実施形態において、ACP複合体は、ホスホペプチド、カルシウムイオン、リン酸イオン、および水酸化物イオン、ならびに水から本質的になる。
【0031】
一実施形態において、ACFP複合体は、ホスホペプチド、カルシウムイオン、リン酸イオン、フッ化物イオン、および水酸化物イオン、ならびに水から本質的になる。
【0032】
本発明のさらなる一態様において、歯の表面の石灰化方法であって、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを提供するステップを含む、方法が提供される。好ましい一実施形態において、歯の表面はエナメル質である。
【0033】
本発明のさらなる一態様において、歯の表面上に層を形成する方法であって、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを提供するステップを含む方法が提供される。好ましくは、歯は、歯牙酸蝕症、脱灰、齲蝕、または象牙質知覚過敏のいずれか1つ以上になりやすい、またはそれらに罹患していると確認された被験者の歯である。好ましくは、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)はホスホペプチド安定化される。好ましくは、ホスホペプチド(後述のように定義される)はカゼインホスホペプチドである。
【0034】
このような層は、通常のアパタイトと同じカルシウム:ホスフェート比を有することを特徴とすることができ、好ましくはこの比は約2:1である。この層は理想的には約20重量%のカルシウム量を有する。
【0035】
好ましくは、この層は、エナメル質で測定される量よりも約3〜12倍多い第一スズイオンを有する。
【0036】
好ましくは、この層は、炭素、酸素、フッ化物、ホスフェート、カルシウム、および第一スズを含有する。この層は、20〜30重量%の炭素、35〜45重量%の酸素、0.1〜1重量%のフッ化物、8〜12重量%のホスフェート、16〜24重量%のカルシウ
ム、および/または0.5〜2重量%の第一スズのおおよその元素分析値を示すことができる。あるいは、この層は、表3または4のいずれか1つで示されるようなカルシウム、ホスフェート、フッ化物、炭素および/または第一スズなどの元素のいずれか1つの元素分析値を示すことができる。
【0037】
本発明のさらなる一態様において、歯の表面上の通常のアパタイトの比またはそれに近い比のカルシウム:ホスフェート比を有する層を形成する方法であって、歯の表面に、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを接触させるステップを含む、方法が提供される。
【0038】
(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを提供するステップを含む、歯の表面の保護方法。典型的には、歯の表面は、表面層、たとえば脱灰の可能性が増加したため表面層が有益となると確認された歯の表面であってよい。歯の表面は、エナメル質表面または象牙質表面であってよい。
【0039】
本発明のさらなる一態様において、フッ素症の治療方法であって、歯のエナメル質中のフッ素症病変に、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを接触させるステップを含む、方法が提供される。
【0040】
本発明のさらなる一態様において、齲蝕の治療方法であって、歯のエナメル質中の齲蝕病変に、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを接触させるステップを含む、方法が提供される。
【0041】
本発明のさらなる一態様において、歯牙酸蝕症の治療方法であって、酸蝕症によって生じた歯のエナメル質中の病変に、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを接触させるステップを含む、方法が提供される。
【0042】
本発明のさらなる一態様において、象牙質知覚過敏を軽減する方法であって、露出した象牙質に、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを接触させるステップを含む、方法が提供される。
【0043】
本発明のさらなる一態様において、歯のエナメル質または象牙質中の病変の再石灰化方法であって、病変に(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを接触させるステップを含む、方法が提供される。
【0044】
好ましくは第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPは、ホスホペプチド(PP)によって安定化される。好ましい一実施形態において、このホスホペプチドはカゼインホスホペプチドである。好ましくは、ACPまたはACFPは、カゼインホスホペプチド安定化ACPまたはACFP複合体の形態である。
【0045】
本明細書に記載のいずれかの態様または実施形態において、安定化ACPおよび/またはACFP、または第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPは、追加のリン酸カルシウムを有する配合物中に存在することができる。典型的には、配合物は、PP安定化
ACPおよび/またはACFP複合体とともに、少なくとも同重量のリン酸カルシウムを含む。
【0046】
本発明のさらなる一態様において、歯のエナメル質中の病変の再石灰化方法であって、病変に、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを接触させるステップと、続いて重炭酸ナトリウムまたは尿素を含有する組成物を投与するステップとを含む、方法が提供される。好ましくは、上記組成物は、重炭酸ナトリウムまたは尿素を含有するマウスリンスまたはマウスウォッシュである。
【0047】
本明細書に記載の本発明のいずれかの態様または実施形態において、溶液のpHの上昇または維持が可能な化合物を、前治療として、または後治療として、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPと同時に投与することができる。
【0048】
本明細書に記載の本発明のいずれかの態様または実施形態において、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPは、治療を必要とする被験者によって、または歯科保険医療の専門家によって、口、歯、または病変に投与することができる。
【0049】
第一スズ化合物と安定化ACPまたはACFPとを含む組成物は、歯の表面に、約1〜60分、または約1〜30分の時間接触させることができる。一実施形態においては、第一スズ化合物と安定化ACP/ACFPとを含む組成物を歯の表面に約20分間接触させる。
【0050】
好ましくは第一スズ化合物と安定化ACPまたはACFPとを含む組成物は、歯の表面に、約1分〜2時間、または5分〜60分、または約10分の時間接触させる。第一スズ化合物と安定化ACP/ACFPとを含む組成物は、1日から数か月の期間にわたって歯の表面に繰り返し塗布することができる。
【0051】
第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPは、歯の表面に、約1〜60分、または約1〜30分の時間接触させることができる。一実施形態において、第一スズが会合した安定化ACP/ACFPを歯の表面に約20分間接触させる。
【0052】
好ましくは、第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPは、歯の表面に、約1分〜2時間、または5分〜60分、または約10分の時間接触させる。第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPは、1日から数か月の期間にわたって歯の表面に繰り返し塗布することができる。
【0053】
一実施形態において、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPは、歯の表面に、1〜60分、または1〜30分、または1〜5分接触させる。
【0054】
一実施形態において、歯の表面は、そのような治療が必要である。したがって、本発明は、本明細書に記載のいずれかの方法のステップに加えて、フッ素症、齲蝕、象牙質知覚過敏または歯石、白斑病変;フッ素症病変;齲蝕病変;または歯の酸蝕症、もしくは歯垢もしくは歯肉炎もしくは歯周炎によって生じる病変に罹患した被験者を特定するステップを含む。
【0055】
本発明は、歯垢、歯肉炎、および歯周炎を軽減することもできる歯の表面または表面下
の石灰化のための組成物であって、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを含む、組成物を提供する。
【0056】
さらなる一態様において、齲蝕、齲歯、歯牙酸蝕症、およびフッ素症のそれぞれの1つ以上の治療または予防を行う方法であって、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを投与し、それによって齲蝕、齲歯、歯牙酸蝕症およびフッ素症のそれぞれの1つ以上の治療または予防を行うステップを含む、方法が提供される。複合体の局所投与が好ましい。この方法は好ましくは、前述のような配合物中の複合体の投与を含む。
【0057】
本発明は、第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを含有する組成物も提供する。好ましくは、この組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤をさらに含む。
【0058】
好ましい一実施形態において、組成物中のホスホペプチド安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体は、強く結合したカルシウムおよび緩く結合したカルシウムを有し、複合体中の結合したカルシウムは、pH7.0において形成されるACPまたはACFP複合体中の強く結合したカルシウムよりも少ない。任意選択により、ACPまたはACFPは主として塩基形態である。
【0059】
別の好ましい一実施形態において、組成物中の安定化ACPまたはACFP複合体のカルシウムイオン含有量は、1モルのPP当たり約30〜100モルの範囲内のカルシウムである。より好ましくは、カルシウムイオン含有量は、1モルのPP当たり約30〜約50モルの範囲内のカルシウムである。
【0060】
本明細書に記載のいずれかの実施形態において、組成物中のACPおよび/またはACFPは、カゼインホスホペプチド安定化ACPおよび/またはACFP複合体の形態であってよい。
【0061】
本発明は、齲蝕、フッ素症、歯の知覚過敏、および歯牙酸蝕症の1つ以上の治療または予防のためのキットであって:
(a)溶液のpHの上昇または維持が可能な化合物、および
(b)第一スズ化合物と安定化ACPまたはACFPとを含む組成物、または
(c)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP
を含む、キットにも関する。
【0062】
好ましくは、第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPは、薬学的に許容される担体中に存在する。望ましくは、キットは、そのような治療を必要とする患者の歯の表面の石灰化にそれらを使用するための使用説明書をさらに含む。使用説明書には、齲蝕、齲歯、歯牙酸蝕症、歯の知覚過敏、およびフッ素症のそれぞれの1つ以上の治療または予防のためのキットの使用法を記載することができる。一実施形態において、薬剤および複合体は、患者の治療に好適な量で存在する。
【0063】
本発明の組成物またはキットは、フッ化物イオン源をさらに含むことができる。フッ化物イオンは、あらゆる好適な供給源から得ることができる。フッ化物イオン源としては、遊離のフッ化物イオンまたはフッ化物塩を挙げることができる。フッ化物イオン源の例としては、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一スズ、ケイフッ化ナトリウム、およびアミンフッ化物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは溶液(典型的には水溶液)中、または懸濁液中に供給することができる。
【発明を実施するための形態】
【0065】
本明細書に開示され規定される本発明は、本文または図面に記載される、またはそれらより明らかとなる個別の特徴の2つ以上のすべての別の組合せまで拡張されると理解されたい。これらの異なる組合せのすべては、本発明の種々の別の態様を構成している。
【0066】
本発明のさらなる態様、および上記の段落に記載した態様のさらなる実施形態は、添付の図面を参照しながら例として示される以下の説明から明らかとなるであろう。
【0067】
これより本発明の特定の実施形態の詳細に言及する。実施形態とともに本発明が説明されるが、それらの実施形態に本発明が限定されることを意図したものではないことを理解されたい。逆に、本発明は、請求項によって規定される本発明の範囲内に含まれうるすべての代案、修正、および同等物を含むことが意図される。
【0068】
当業者であれば、本発明の実施に使用可能となる、本明細書に記載のものと類似または同等の多くの方法および材料を認識するであろう。本発明は、記載の方法および材料に限定されるものでは決してない。
【0069】
本明細書に引用されるすべての特許および刊行物は、それら全体が参照により援用される。
【0070】
本明細書を説明するために、単数形で使用される用語は複数形をも含み、逆の場合も同様である。
【0071】
文脈が他のことを必要とする場合を除けば、本明細書において使用される場合、用語「含む」(comprise)、ならびにその用語の変形、たとえば「含むこと」(comprising)、「含む」(comprises)、および「含んだ」(comprised)は、さらなる添加剤、構成要素、整数、およびステップを排除することを意図するものではない。文脈が他のことを必要とする場合を除けば、本明細書において使用される場合、「含む」(comprise)および「含める」(include)は同義で使用することができる。
【0072】
カゼインホスホペプチドは、水性環境中、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)お
よび安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)の存在下でSnF
2などの第一スズ化合物を安定化させることができ、これらの配合物は、エナメル質表面下の再石灰化において、フッ化物および安定化ACPまたはACFPの別の形態よりも優れているという発見に本発明は基づいている。歯の表面の石灰化は、安定化ACPおよび/または安定化ACFPによる石灰化プロセス中に第一スズ化合物を供給することによって、大幅に向上させることができる。特に、第一スズが会合したACP複合体および第一スズが会合したACFP複合体の安定化可溶性形態によるエナメル質の石灰化は、会合した第一スズを有さない安定化ACPおよびフッ化物と比較して向上することが分かった。
【0073】
安定化ACPおよび/または安定化ACFPの存在下の第一スズイオンは、エナメル質/象牙質の上に保護表面層を形成することができ、齲蝕、象牙質知覚過敏、歯垢、および歯周疾患の予防に役立てることができる。第一スズイオンと、安定化ACPおよび/または安定化ACFPとを含む層は、歯の表面または表面下の石灰化のためのカルシウム、ホスフェート、およびフッ化物のリザーバーとなることができる。これらの配合物は、第一スズが会合した安定化ACPおよび第一スズが会合した安定化ACFPと呼ばれる。
【0074】
なんらかの理論または作用機序によって束縛されるものではないが、第一スズイオンは、ホスホペプチド、特にカゼインホスホペプチドの存在によって安定化すると考えられる。したがって、ホスホペプチドは、第一スズイオンおよびフッ化物イオンとともにカルシウムイオンおよびホスフェートイオンを供給して、再石灰化を促進すると考えられる。再石灰化によって、カルシウムおよび第一スズのフルオロアパタイトが形成されうる。第一スズイオンはホスホペプチド安定化ACPまたは安定化ACFPと歯の表面で架橋して、歯の表面を脱灰から保護することができる層を形成するとも考えられる。表面層中に第一スズが存在することで、表面層が硬くなり、通常の摩耗および引き裂き、または酸蝕症などの他のプロセスによる劣化に対して抵抗性となる。本発明のさらなる利点の1つは、第一スズイオンが、脱灰を促進する酸およびその他の代謝産物を産生する口腔細菌の死滅を促進できることである。
【0075】
第一スズは、水酸化物イオンおよびホスフェートイオンと沈殿物を形成することが知られており、それによって第一スズイオンのbioavailabiltiyおよび活性が低下する。安定化ACPまたは安定化ACFPによって得られる水酸化物イオン(たとえばOH
−)およびホスフェートイオン(たとえばPO
43−)によって、第一スズから水酸化第一スズおよびリン酸第一スズの沈殿が生じ、それによって第一スズ含有化合物の活性が大きく低下することと予想されるので、安定化ACP/安定化ACFPにより生じる再石灰化の第一スズイオンによって得られる促進は驚くべきことである。さらに、第一スズイオンと水酸化物イオンとの沈殿物の形成によって、第一スズイオンの生物学的利用能が低下するだけでなく、環境から水酸化物イオンも除去され、それによってpHが低下すると予想される。pHの低下は、脱灰を促進し、石灰化を妨害する。
【0076】
本発明は、第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP複合体を提供し、歯の表面または表面下に第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP複合体を接触させるステップを含む歯の表面または表面下の石灰化方法を提供する。歯の表面下は、典型的には低石灰化病変であり、そのため、歯の表面に接触した第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP複合体が、あらゆる表面層、すなわちペリクルおよび/または歯垢を通過し、多孔質の歯の表面を通過して、石灰化を必要とする領域まで移動する。これらの第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP複合体は、エナメル質/象牙質の上に保護表面層も形成して、齲蝕、象牙質知覚過敏、歯垢、および歯周疾患の予防を促進する。歯の表面は、好ましくは歯のエナメル質または象牙質である。歯の表面は、齲蝕、歯牙酸蝕症、またはフッ素症によって生じた病変などのエナメル質中の病変であってよい。
【0077】
一態様において、本発明は、第一スズが会合した安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)または第一スズが会合した非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)を提供する。実施例2の実験プロトコルを用いて測定されるように、第一スズは、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)に結合することができる。一実施形態において、第一スズが会合した安定化ACPまたは第一スズが会合した安定化ACFPは、限定するものではないが実施例1に記載の方法などの本明細書に記載の方法によって製造される。
【0078】
複合体に結合することによって、または複合体中に混入されることによって、第一スズは、第一スズが会合した安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)または第一スズが会合した非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体中に存在する。この第一スズが会合した複合体は、第一スズは複合体に結合する、または複合体中に混入されるが、濾過および原子吸光分光測光法を用いて測定することができる。強く会合し錯形成した第一スズは、全第一スズから緩く結合した第一スズを減じた差として測定される。第一スズが会合した複合体の溶液中に存在する全第一スズ(強く結合したもの、および緩く結合したものの両方)を測定するために、複合体を含有する溶液を採取し、HNO3中に入れ、一定低速で24時間回転混合しながら室温でインキュベートした。次にこの混合物は、約1000gで、好ましくは室温で15分間遠心分離することができる。第一スズイオン含有量を好ましくは原子吸光分光測光法(AAS)によって分析する場合は、上澄み液から、存在する全第一スズ(複合体と結合/会合しているか、溶液中で遊離しているかのいずれか)の値が求められる。次に溶液中の緩く結合した第一スズの量は、第一スズが会合した複合体の溶液の試料を採取し、それを1000MWCOフィルターを有するセントリコン(centricon)中に入れ、約3000gにおいて、好ましくは室温で1時間遠心分離し、AASで分析するための十分な濾液(平衡に影響を与えないため全試料の<10%)を得ることによって求めることができる。濾液は緩く結合した第一スズイオンを含有する。次に、強くCPPに結合した(コロイド状保持液)第一スズイオンは、全第一スズイオンと緩く結合した第一スズイオンとの間の差から計算することができる。「緩く結合した」第一スズは、前述のような遠心分離などの方法によってのみ複合体から分離可能な第一スズである。緩く結合した第一スズは、依然として複合体と会合しているが、上記説明のあまり厳しくない条件によって、強く結合した第一スズイオンよりも容易に解離する。
【0079】
一実施形態において、約3000gにおいて、好ましくは室温で1時間の遠心分離によって複合体から分離できない第一スズを含む、第一スズが会合した安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)または第一スズが会合した非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体。
【0080】
本発明のさらなる一態様において、歯の表面の石灰化方法であって、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを提供するステップを含む、方法が提供される。好ましい一実施形態において、歯の表面はエナメル質である。
【0081】
本発明のさらなる一態様において、フッ素症の治療方法であって、歯のエナメル質中のフッ素症病変に、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを接触させるステップを含む、方法が提供される。
【0082】
本発明のさらなる一態様において、齲蝕の治療方法であって、歯のエナメル質中の齲蝕病変に、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP接触させるステップを含む、方法が提供される。
【0083】
本発明のさらなる一態様において、歯牙酸蝕症の治療方法であって、酸蝕症によって生じた歯のエナメル質中の病変に、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを接触させるステップを含む、方法が提供される。
【0084】
本発明のさらなる一態様において、歯牙酸蝕症の進行を阻止する方法であって、酸蝕症を示す表面に、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを接触させ、それによって歯牙酸蝕症の進行を阻止する表面層を形成するステップを含む、方法が提供される。
【0085】
本発明のさらなる一態様において、露出した象牙質上の象牙質知覚過敏を軽減する方法であって、象牙質に、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを接触させるステップを含む、方法が提供される。
【0086】
本発明のさらなる一態様において、歯のエナメル質中の病変の再石灰化方法であって、病変に、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを接触させるステップを含む、方法が提供される。
【0087】
本発明のさらなる一態様において、安定化ACPおよび/またはACFPを有する組成物の再石灰化効果を増加させる方法であって、上記組成物に第一スズ化合物を加えるステップを含む、方法が提供される。好ましくは、製造中などの水溶性状態のときに、第一スズ化合物が組成物に加えられる。
【0088】
好ましくは、第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPは、ホスホペプチドによって安定化される。好ましい一実施形態においては、ホスホペプチドはカゼインホスホペプチドである。好ましくは、ACPまたはACFPは、カゼインホスホペプチド安定化ACPまたはACFP複合体の形態である。
【0089】
本明細書に記載のようないずれかの態様または実施形態において、安定化ACPおよび/またはACFPは、追加のリン酸カルシウムを有する配合物中に存在することができる。典型的にはこの配合物は、PP安定化ACPおよび/またはACFP複合体とともに、少なくとも同重量のリン酸カルシウムを含む。
【0090】
第一スズ化合物と安定化ACPまたはACFPとを含む組成物は、歯の表面に約1〜60分の時間、または約1〜30分間接触させることができる。一実施形態において、第一スズ化合物と安定化ACPまたはACFPとを含む組成物は、歯の表面に約20分間接触させる。これを行う方法の一例は、第一スズ化合物と安定化ACPまたはACFPとからペーストなどの口腔用組成物を配合し、次にその組成物に歯の表面に接触させる、または塗布することである。ペーストなどの口腔用組成物は、歯の上に必要な時間維持されるのに十分な粘度を有する。
【0091】
好ましくは第一スズ化合物と安定化ACPまたはACFPとを含む組成物は、歯の表面に、約1分〜2時間、または5分〜60分、または約10分の時間接触させる。第一スズ化合物と安定化ACP/ACFPとを含むa組成物は、1日から数か月の期間にわたって歯の表面に繰り返し塗布することができる。
【0092】
第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPは、歯の表面に約1〜60分の時間、
または約1〜30分間接触させることができる。一実施形態において、第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPは、歯の表面に約20分間接触させる。これを行う方法の一例は、第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPからペーストなどの口腔用組成物を配合し、次にその組成物を歯の表面に接触させる、または塗布することである。ペーストなどの口腔用組成物は、歯の上に必要な時間維持されるのに十分な粘度を有する。
【0093】
好ましくは、第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPは、歯の表面に約1分〜2時間、または5分〜60分、または約10分の時間接触させる。第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPは、1日から数か月の期間にわたって歯の表面に繰り返し塗布することができる。
【0094】
一実施形態において、歯の表面は、そのような治療を必要としている。したがって、別の一態様において、本発明は、本明細書に記載のいずれかの方法のステップに加えて、フッ素症、齲蝕、象牙質知覚過敏または歯石、白斑病変;フッ素症病変;齲蝕病変;または歯の酸蝕症、歯垢、歯肉炎、もしくは歯周炎によって生じる病変に罹患した被験者を特定するステップを含む。
【0095】
本発明は、歯の表面または表面下の石灰化、およびその歯の表面上の細菌の生存率の低下に使用するための、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを提供する。
【0096】
本発明のいずれかの方法において、第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとは、歯の表面に逐次または同時に塗布される。いずれかの実施形態において、第一スズ化合物は安定化ACPまたはACFPの前に加えられる。いずれかの実施形態において、第一スズ化合物は安定化ACPまたはACFPの後に加えられる。
【0097】
本明細書に言及されるような第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP複合体としては、7.0未満のpHで形成された第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP複合体が挙げられる。好ましくは複合体は、約5.0〜7.0未満の範囲内のpHで形成される。より好ましくは複合体は、約4.0〜6.5、または5.0〜約6.0のpH範囲で形成される。一実施形態において、形成中のpHはpH6.5以下に維持される。好ましい一実施形態において、複合体は約5.5のpHで形成される。好ましくは、複合体中のACPまたはACFPは主として塩基形態である。工業規模で製造される場合、第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP複合体は、約7.0を超え、好ましくは約9.0のpHを有するバルク溶液中で製造されるが、複合体の形成における局所的なpHは、約7.0未満、好ましくは約4.0〜6.5、好ましくは約5.5である。
【0098】
第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP、または安定化ACPもしくはACFPが、商業規模より少ない量で実験室で製造される場合、溶液全体のpHを特定のpHに維持することができ、すなわちCPP−ACPがpH5.5で調製される場合は、CPP−ACPの形成中の溶液全体がpH5.5に維持される。しかし、バルク溶液の一部のみが酸性pHを有する必要があるのは、複合体が形成される場合であるので、商業的製造でのバルク溶液全体のpHを5.5まで低下させる必要もなく望ましくもない場合があり、バルク溶液はpHの局所的ゆらぎを有することがあり、実際に有する。pHのゆらぎは、特に、ホスフェート化合物、たとえばリン酸二水素が加えられたときに生じるプロトン、および酸性ホスフェートイオンがその塩基形態PO
43−に変換されるときに遊離するプロトンによって生じる。したがって、バルク溶液の全体のpHは7.0を超え、たとえば約pH9であってよいが、CPP−ACPが形成されるときの局所的なpHはより低く、典型的には7.0未満または6.5未満であり、好ましくは約4.0〜6.5であり、より好ましくは約5.5である。これらのゆらぎは、バルク溶液の規模のために局所化され
る。
【0099】
本発明の第一スズが会合した安定化ACPの形成方法の1つは:
(i)少なくとも1種類のホスホペプチドを含む溶液を得るステップと;
(ii)pHを約7.0以下に維持しながら、カルシウムイオン、ホスフェートイオン、および水酸化物イオンを含む溶液を混合するステップと;
(iii)第一スズ化合物を混合するステップと
を含む方法;
または
(i)安定化ACPの溶液を提供するステップと;
(ii)第一スズ化合物を混合するステップと
を含む方法である。
【0100】
第一スズが会合した安定化ACFPの形成方法の1つは:
(i)少なくとも1種類のホスホペプチドを含む溶液を得るステップと;
(ii)pHを約7.0以下に維持しながら、カルシウムイオン、ホスフェートイオン、水酸化物イオン、およびフッ化物イオンを含む溶液を混合するステップと;
(iii)第一スズ化合物を混合するステップと
を含む方法;
または
(i)安定化ACFPの溶液を提供するステップと;
(ii)第一スズ化合物を混合するステップと
を含む方法である。
【0101】
水酸化物イオン、ホスホペプチド溶液を実質的に一定のpHに維持するために溶液中に滴定することができる。カルシウムイオンおよびホスフェートイオンは、一定速度で混合しながらホスホペプチド溶液中でのリン酸カルシウム沈殿物の形成が回避される速度で、ホスホペプチド溶液中に滴定することができる。
【0102】
第一スズが会合した安定化ACPは、pHを約6.5以下に維持しながら、CPP−ACPと第一スズ化合物とを水溶液中で混合するステップを含む方法によって製造することができる。
【0103】
第一スズが会合した安定化ACFPは、pHを約6.5以下に維持しながら、CPP−ACFPと第一スズ化合物とを水溶液中で混合するステップによって製造することができる。
【0104】
第一スズが会合した安定化ACPは:
(i)CPP−ACPを含む溶液を得るステップと;
(ii)pHを約6.5以下に維持しながら第一スズ化合物を混合するステップと
を含む方法によって製造することができる。
【0105】
第一スズ安定化ACFPは:
(i)CPP−ACFPを含む溶液を得るステップと;
(ii)pHを約6.5以下に維持しながら第一スズ化合物を混合するステップと
を含む方法によって製造することができる。
【0106】
好ましくは、第一スズ化合物はフッ化第一スズである。任意選択により、第一スズが会合した安定化ACPまたは第一スズが会合した安定化ACFPの製造方法は、ステップ(ii)でフッ化ナトリウムを混合するステップをさらに含む。
【0107】
好ましくはpHはHClなどの酸を用いて維持される。
【0108】
好ましくは、CPP−ACPまたはCPP−ACFPを含む溶液は、CPP−ACPまたはCPP−ACFPを蒸留水または脱イオン水に加えることによって調製される。
【0109】
第一スズが会合した安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体は、安定化安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体をフッ化第一スズと混合することによって形成される。
【0110】
本明細書に記載されるような安定化ACPまたはACFP複合体は、Cross et
al.,2007の
図2に示される「閉じた」(closed)複合体であってよい。
【0111】
本明細書に言及されるような安定化ACPまたはACFP複合体としては、内容が参照により援用される国際出願PCT/AU2005/001781号明細書に記載されるような安定化ACPまたはACFP複合体が挙げられる。
【0112】
好ましい一実施形態において、ホスホペプチド安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体は、強く結合したカルシウムおよび緩く結合したカルシウムを有し、複合体中の結合したカルシウムは、pH7.0において形成されるACPまたはACFP複合体中の強く結合したカルシウムよりも少ない。任意選択により、ACPまたはACFPは主として塩基形態である。
【0113】
本明細書において言及されるような安定化ACPまたはACFP複合体としては、7.0未満のpHで形成された安定化ACPまたはACFP複合体が挙げられる。好ましくは複合体は約5.0〜7.0未満の範囲内のpHで形成される。より好ましくは複合体は、約5.0〜約6.0のpH範囲で形成される。好ましい一実施形態において、複合体は約5.5のpHで形成される。好ましくは、複合体中のACPまたはACFPは主として塩基形態である。
【0114】
安定化ACPは:
(i)少なくとも1種類のホスホペプチドを含む溶液を得るステップと;
(ii)pHを約7.0以下に維持しながら、カルシウムイオン、ホスフェートイオン、および水酸化物イオンを含む溶液を混合するステップと
を含む方法によって製造することができる。
【0115】
安定化ACFPは:
(i)少なくとも1種類のホスホペプチドを含む溶液を得るステップと;
(ii)pHを約7.0以下に維持しながら、カルシウムイオン、ホスフェートイオン、水酸化物イオン、およびフッ化物イオンを含む溶液を混合するステップと
を含む方法によって製造することができる。
【0116】
ホスホペプチド安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体は、をも含むことができ、複合体中のACPが強く結合したカルシウムおよび緩いカルシウムを有し、複合体中の強く結合したカルシウムは、pH7.0において形成されるACPまたはACFP複合体中の強く結合したカルシウムよりも少なく、ACPまたはACFPは主として塩基形態であり:
a)約5〜7未満のpHで、カルシウムイオンを含む第1の溶液、ホスフェートイオンを含む第2の溶液、および任意選択によりフッ化物イオンを含む第3の溶液を、ホスホペプ
チドおよび溶媒を含む溶液と混合するステップと;
b)水酸化物イオンを加えることによって、混合中に溶液のpHを約5.0〜7.0未満に維持するステップと
を含む方法によって得ることができる、または得られる。
【0117】
ACPまたはACFP中の「強く」および「緩く」結合したカルシウムおよびホスフェートは、分析用限外濾過を用いて測定することができる。簡潔に述べると、pHを約7.0以下に維持しながら混合したホスホペプチド、カルシウム、ホスフェート、および任意選択によりフッ化物の溶液を、最初に0.1ミクロンのフィルターで濾過して、複合体に会合していない遊離のカルシウムおよびホスフェートを除去することができる。この遊離のカルシウムおよびホスフェートは、濾液中に存在し、廃棄される。複合体と全く会合していないすべての遊離のカルシウムまたはホスフェートは、生物学的に利用されない、すなわちホスホペプチドによって歯に送達されることがない。0.1ミクロン濾過で得られる保持液を、3000mwカットオフフィルターを介する1,000gで15分間の遠心分離によってさらに分析することができる。これによって得られる濾液は、複合体に緩く結合または会合したカルシウムおよびホスフェートを含有する。この遠心力において、複合体に強く結合していないカルシウムおよびホスフェートは放出されて、濾液中に移動する。複合体中の強く結合したCaおよびPiは、保持液中に維持される。次に保持液中の強く結合したCaおよびPiの量は、濾液中のCaおよびPiの量を、0.1ミクロン濾過の保持液中のCaおよびPiの総量から引くことによって求めることができる。
【0118】
本明細書において言及されるような安定化ACPまたはACFP複合体としては、内容が参照により援用される国際出願PCT/AU2006/000885号明細書に記載されるような安定化ACPまたはACFP複合体が挙げられる。
【0119】
「過充填」(superloaded)ホスホペプチドまたはリンタンパク質(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体。この複合体は、あらゆるpH(たとえば3〜10)で形成することができる。好ましくはホスホペプチドは、配列−A−B−C−を含み、Aはホスホアミノ酸、好ましくはホスホセリンであり、Bはホスホアミノ酸を含めた任意のアミノ酸であり、Cは、グルタミン酸、アスパラギン酸、またはホスホアミノ酸である。ホスホアミノ酸はホスホセリンであってよい。PPにはカルシウムイオンおよびホスフェートイオンが過充填される。カルシウムイオンは、1モルのPP当たり30〜1000モルの範囲内のCa、または1モルのPP当たり30〜100もしくは30〜50モルの範囲内のCaであってよい。別の一実施形態において、1モルのPP当たりのCaのモルは、少なくとも25、30、35、40、45または50である。
【0120】
ホスホペプチドまたはリンタンパク質(PP)安定化非晶質リン酸カルシウムまたは非晶質フッ化リン酸カルシウム複合体は、1モルのPP当たり約30モルを超えるカルシウムのカルシウムイオン含有量を有することができる。好ましい一実施形態において、カルシウムイオン含有量は、1モルのPP当たり約30〜100モルの範囲内のカルシウムである。より好ましくは、カルシウムイオン含有量は、1モルのPP当たり約30〜約50モルの範囲内のカルシウムである。
【0121】
ホスホペプチドまたはリンタンパク質(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体は:
(i)カルシウム、無機ホスフェート、およびフッ化物(任意選択)を含む溶液を得るステップと;
(ii)PP−ACPを含む溶液と(i)を混合するステップ
とを含む方法によって製造することができる。
【0122】
好ましい一実施形態において、PPはカゼインホスホペプチド(CPP)である。
【0123】
PP安定化ACPおよび/またはACFP複合体は、少なくとも同重量のリン酸カルシウムをさらに含むことができる。好ましくはリン酸カルシウムはCaHPO
4である。好ましくは、リン酸カルシウム(たとえばCaHPO
4)をPP安定化ACPおよび/またはACFP複合体と乾式ブレンドする。好ましい一実施形態において、PP−ACPおよび/またはPP−ACFP複合体:リン酸カルシウムの比は約1:1〜50であり、より好ましくは約1:1〜25、より好ましくは約1:5〜15である。一実施形態において、PP−ACPおよび/またはPP−ACFP複合体:リン酸カルシウムの比は約1:10である。
【0124】
口腔中で使用する場合に、1モルのPP当たりの約30モルを超えるカルシウムのカルシウムイオン含有量を有する、ホスホペプチドまたはリンタンパク質(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)および/または非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体を含む口腔ケア配合物は:
(i)PP−ACPおよび/またはPP−ACFP複合体を含む粉末を得るステップと;(ii)有効量のリン酸カルシウムと乾式ブレンドするステップと;
(iii)乾式ブレンドしたPP−ACPおよび/またはPP−ACFPおよびリン酸カルシウム混合物から口腔ケア配合物を配合するステップと
を含む方法によって製造することができる。
【0125】
好ましくは、乾式ブレンドのためのリン酸カルシウムの形態は、限定するものではないがCaHPO
4、Ca
2HPO
4、および乳酸カルシウムなどの任意の可溶性リン酸カルシウムである。
【0126】
本発明は、歯の表面または表面下の石灰化方法であって:
(i)歯の表面にタンパク質破壊剤を接触させるステップと、
(ii)歯の表面に、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを接触させるステップとを含む、方法も提供する。
【0127】
歯の表面は、好ましくは歯のエナメル質である。一実施形態において歯の表面は、齲蝕、歯牙酸蝕症、またはフッ素症によって生じた病変などのエナメル質中の病変である。あらゆる好適なタンパク質破壊剤を本発明の方法に使用することができる。この物質は、歯の上のペリクルなどの治療すべき表面上に形成されたタンパク質のバリアを減少させるために必要である。好適な物質の例としては、漂白剤、洗浄剤、尿素などのカオトロピック剤、高ホスフェート濃縮物、プロテアーゼのカクテル(たとえばエンドペプチダーゼ、プロテイナーゼ、およびエキソペプチダーゼ)、ならびにその他のタンパク質の可溶化剤、破壊剤、または加水分解剤が挙げられる。好適な漂白剤の例としては、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)、および過酸化カバミド(cabamide peroxide)漂白剤が挙げられる。好ましい一実施形態において、漂白剤はアルカリ性漂白剤である。さらに好ましい一実施形態においては、アルカリ性漂白剤はNaOClである。タンパク質破壊剤は、歯の表面のタンパク質、特にペリクルのタンパク質を可溶化し、部分的または完全に除去する機能を果たす。
【0128】
本明細書に記載の組成物は、遊離のフッ化物イオンをさらに含むことができる。フッ化物イオンは、あらゆる好適な供給源に由来してよい。フッ化物イオン源としては、遊離のフッ化物イオンまたはフッ化物塩を挙げることができる。フッ化物イオン源の例としては、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一スズ、ケイフッ化ナト
リウム、およびアミンフッ化物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは溶液(典型的には水溶液)中、または懸濁液中に供給することができる。
【0129】
フッ化物イオンは好ましくは1ppmを超える量で組成物中に存在する。より好ましくは、その量は3ppmを超える。別の一実施形態において、好ましくは10ppmを超える。後述の典型的な実施形態においては、その量は数百または数千ppmとなりうる。フッ化物含有量は典型的には、当技術分野において一般に使用される方法で口腔用組成物中のppmとして測定される。フッ化物が安定化ACPを有する供給源から得られる場合、ppmは、典型的には生物学的に利用可能なフッ化物の溶液または懸濁液であるその供給源中のフッ化物濃度を意味する。
【0130】
本発明の説明の文脈における「ホスホペプチド」は、少なくとも1つのアミノ酸がリン酸化されているアミノ酸配列を意味する。好ましくは、ホスホペプチドは、1つ以上のアミノ酸配列−A−B−C−を含み、式中、Aはホスホアミノ残基であり、Bはホスホアミノ残基を含めた任意のアミノアシル残基であり、Cはグルタミル残基、アスパルチル残基、またはホスホアミノ残基から選択される。任意のホスホアミノ残基は、独立して、ホスホセリル残基であってよい。Bは望ましくは、側鎖が比較的大きくなく疎水性でもない残基である。これは、Gly、Ala、Val、Met、Leu、Ile、Ser、Thr、Cys、Asp、Glu、Asn、Gln、またはLysであってよい。
【0131】
別の一実施形態において、配列中のホスホアミノ酸の少なくとも2つが好ましくは隣接する。好ましくは、ホスホペプチドは、配列A−B−C−D−Eを含み、式中、A、B、C、D、およびEは独立して、ホスホセリン、ホスホトレオニン、ホスホチロシン、ホスホヒスチジン、グルタミン酸、またはアスパラギン酸であり、A、B、C、D、およびEの少なくとも2つ、好ましくは3つはホスホアミノ酸である。好ましい一実施形態において、ホスホアミノ酸残基はホスホセリンであり、最も好ましくは3つの隣接するホスホセリン残基である。DおよびEが、独立してグルタミン酸またはアスパラギン酸であることも好ましい。
【0132】
一実施形態において、ACPまたはACFPは、無傷のカゼインまたはカゼインのフラグメントの形態であるカゼインホスホペプチド(CPP)によって安定化され、形成される複合体は、好ましくは、式[CPP(ACP)
8]
nまたは[(CPP)(ACFP)
8]
nで表され、式中のnは1以上であり、たとえば6である。形成される複合体は、コロイド状複合体であってよく、そのコア粒子は凝集し、水中で懸濁して大型(たとえば100nm)のコロイド粒子を形成する。したがって、PPはカゼインタンパク質またはホスホペプチドであってよい。
【0133】
PPは、あらゆる供給源から得られてよく、全長カゼインポリペプチドを含めたより大きなポリペプチドの状況で存在することができるし、カゼイン、もしくはホスフィチン(phosphitin)などの別のホスホアミノ酸に富むタンパク質のトリプシン消化もしくはその他の酵素消化もしくは化学的消化によって、または化学合成もしくは組替え合成によって単離されてよく、但し、前述の配列−A−B−C−またはA−B−C−D−Eを含むことが条件である。このコア配列を隣に有する配列は、あらゆる配列であってよい。しかし、α
s1(59−79)[1]、β(1−25)[2]、α
s2(46−70)[3]、およびα
s2(1−21)[4]中の隣接配列が好ましい。隣接配列は、任意選択により、1つ以上の残基の欠失、付加、または保存的置換によって改変されてよい。隣接領域のアミノ酸組成および配列は重要ではない。
【0136】
隣接配列は、非天然アミノ酸の残基を含むこともできる。遺伝暗号によってコードされない一般的に遭遇するアミノ酸としては以下のものが挙げられる:
GluおよびAspの場合の2−アミノアジピン酸(Aad);
GluおよびAspの場合の2−アミノピメリン酸(Apm);
Met、Leu、および別の脂肪族アミノ酸の場合の2−アミノ酪(Abu)酸;
Met、Leu、および別の脂肪族アミノ酸の場合の2−アミノヘプタン酸(Ahe);
Glyの場合の2−アミノイソ酪酸(Aib);
ValおよびLeuおよびIleの場合のシクロヘキシルアラニン(Cha);
ArgおよびLysの場合のホモアルギニン(Har);
Lys、ArgおよびHisの場合の2,3−ジアミノプロピオン酸(Dpr);
Gly、Pro,およびAlaの場合のN−エチルグリシン(EtGly);
Asn、およびGlnの場合のN−エチルアスパリギン(N−ethylasparigine)(EtAsn);
Lysの場合のヒドロキシルリシン(Hyl);
Lysの場合のアロヒドロキシルリシン(AHyl);
Pro、Ser、およびThrの場合の3−(および4)ヒドロキシプロリン(3Hyp、4Hyp);
Ile、Leu,およびValの場合のアロイソロイシン(Alle);
Alaの場合のρ−アミジノフェニルアラニン;
Gly、Pro、Alaの場合のN−メチルグリシン(MeGly、サルコシン)。
Ileの場合のN−メチルイソロイシン(MeIle);
Metおよび別の脂肪族アミノ酸の場合のノルバリン(Nva);
Metおよび別の脂肪族アミノ酸の場合のノルロイシン(Nle);
Lys、ArgおよびHisの場合のオルニチン(Orn);
Thr、AsnおよびGlnの場合のシトルリン(Cit)およびメチオニンスルホキシド(MSO);
Pheの場合のN−メチルフェニルアラニン(MePhe)、トリメチルフェニルアラニン、ハロ(F、Cl、BrおよびI)フェニルアラニン、トリフロウリルフェニルアラニン(triflourylphenylalanine)。
【0137】
一実施形態において、PPは、α
s1(59−79)[1]、β(1−25)[2]、α
s2(46−70)[3]およびα
s2(1−21)[4]からなる群から選択される1種類以上のポリペプチドである:
[1]Gln
59−Met−Glu−Ala−Glu−Ser(P)−Ile−Ser(P)−Ser(P)−Ser(P)−Glu−Glu−Ile−Val−Pro−Asn−Ser(P)−Val−Glu−Gln−Lys
79 α
s1(59−79)
[2]Arg
1−Glu−Leu−Glu−Glu−Leu−Asn−Val−Pro−Gly−Glu−Ile−Val−Glu−Ser(P)−Leu−Ser(P)−Ser(P)−Ser(P)−Glu−Glu−Ser−Ile−Thr−Arg
25 β(1−25)
[3]Asn
46−Ala−Asn−Glu−Glu−Glu−Tyr−Ser−Ile−Gly−Ser(P)−Ser(P)−Ser(P)−Glu−Glu−Ser(P)−Ala−Glu−Val−Ala−Thr−Glu−Glu−Val−Lys
70 α
s2(46−70)
[4]Lys
1−Asn−Thr−Met−Glu−His−Val−Ser(P)−Ser(P)−Ser(P)−Glu−Glu−Ser−Ile−Ile−Ser(P)−Gln−Glu−Thr−Tyr−Lys
21 α
s2(1−21)。
【0138】
本発明の別の一実施形態において、第一スズが会合した安定化ACPおよび/または第一スズが会合した安定化ACFP複合体は、齲蝕、齲歯、歯牙酸蝕症、またはフッ素症、象牙質知覚過敏、歯垢、歯肉炎、または歯周炎の予防および/または治療を促進するための練り歯磨き、マウスウォッシュ、または口用配合物などの口腔用組成物中に混入される。歯の表面上に層を形成するのに十分な量の第一スズが会合した安定化ACPおよび/またはACFPを含む口腔用組成物、好ましくは、この層はカルシウム:ホスフェートの比が通常のアパタイトと同じであり、たとえばこの比は約2:1である。この層は、約20重量%の量のカルシウムを含有することができる。好ましくは、この層は、表3または4のいずれか1つに示されるような、カルシウム、ホスフェート、フッ化物、炭素、および/または第一スズなどの元素のいずれか1つのおおよその元素分析値を示すことができる。第一スズが会合した安定化ACPおよび/またはACFP複合体は、組成物の0.01〜50重量%、好ましくは1.0〜50%を構成することができる。口腔用組成物の場合、投与される第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP複合体の量は組成物の0.01〜50重量%が好ましく、好ましくは組成物の1.0重量%〜50重量%である。特に好ましい一実施形態において、本発明の口腔用組成物は、約2%の第一スズが会合した安定化ACPもしくはACFP複合体、またはそれら両方の混合物を含有する。上記物質を含有する本発明の口腔用組成物は、練り歯磨き、歯磨き粉、および液体歯磨きなどの歯磨き剤、マウスウォッシュ、マウスリンス、マウススプレー、バーニッシュ、歯科用セメント、トローチ、チューインガム、歯科用軟膏、歯肉マッサージクリーム、うがい用錠剤、乳製品、およびその他の食品などの口に使用可能な種々の形態で調製し使用することができる。本発明による口腔用組成物は、個別の口腔用組成物の種類および形態によって、さらなる周知の成分を含むことができる。練り歯磨き、歯磨き粉および液体歯磨き、マウスウォッシュ、マウスリンス、およびマウススプレーなどの本発明の特定の組成物は、比
較的低い粘度を有し、口腔内での短い滞留時間で再石化効果を有する。
【0139】
本発明の特定の好ましい形態において、口腔用組成物は、マウスウォッシュ、リンス、またはスプレーなどの実質的に液体の性質であってよい。このような調製物においては、ビヒクルは、典型的には、後述のような湿潤剤を望ましくは含む水−アルコール混合物である。一般に、水対アルコールの重量比は約1:1〜約20:1の範囲内である。この種類の調製物中の水−アルコール混合物の総量は、典型的には調製物の約70〜約99.9重量%の範囲内である。アルコールは典型的にはエタノールまたはイソプロパノールである。エタノールが好ましい。
【0140】
本発明の別の望ましい形態においては、組成物は、歯磨き粉、デンタルタブレット、または練り歯磨き(歯磨きクリーム)、またはゲル歯磨き剤などの実質的に固体またはペースト状の性質であってよい。このような固体またはペースト状の口腔用調製物のビヒクルは、一般に、歯科的に許容される研磨材料を含有する。研磨材料の例は、水不溶性メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、リン酸三カルシウム、二水和リン酸カルシウム、無水リン酸二カルシウム、ピロリン酸カルシウム、オルトリン酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、炭酸カルシウム、アルミナ水和物、焼成アルミナ、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、シリカ、ベントナイト、およびそれらの混合物である。別の好適な研磨材料としては、メラミン−ホルムアルデヒド、フェノールホルムアルデヒド、および尿素−ホルムアルデヒドなどの粒子状熱硬化性樹脂、ならびに架橋ポリエポキシドおよびポリエステルが挙げられる。好ましい研磨材料としては、粒度が最大約5ミクロンであり、平均粒度が最大約1.1ミクロンであり、表面積が最大約50,000cm
2/gである結晶シリカ、シリカゲルまたはコロイダルシリカ、ならびに複合非晶質アルカリ金属アルミノケイ酸塩が挙げられる。
【0141】
視覚的に透明のゲルが使用される場合、SYLOIDの商標でSyloid 72およびSyloid 74として、またはSANTOCELの商標でSantocel 100として販売されるものなどのコロイダルシリカの研磨剤、アルカリ金属アルミノケイ酸塩複合材料が、歯磨き剤中に一般に使用されるゲル化剤−液体(水および/または湿潤剤を含む)系の屈折率に近い屈折率を有するので、特に有用である。
【0142】
いわゆる「水不溶性」研磨材料の多くはアニオン性であり、少量の可溶性材料も含む。たとえば、不溶性メタリン酸ナトリウムは、たとえばThorpe’s Dictionary of Applied Chemistry,Volume 9,4th Edition,pp.510−511に示されるようなあらゆる好適な方法で形成することができる。Madrell塩およびKurrol塩として知られる不溶性メタリン酸ナトリウムの形態は、好適な材料のさらなる例となる。これらのメタリン酸塩は、水に対する溶解性がごくわずかであり、したがって一般に不溶性メタリン酸塩(IMP)と呼ばれる。これらの中には、不純物として少量の可溶性ホスフェート材料が存在し、通常は最大4重量%などの数パーセントで存在する。希望するなら、可溶性ホスフェート材料(不溶性メタリン酸塩の場合には可溶性トリメタリン酸ナトリウムを含むと考えられる)の量は、水で洗浄することによって減少させたり除去したりすることができる。不溶性アルカリ金属メタリン酸塩は、典型的には、1%以下の材料が37ミクロンを超えるような粒度の粉末形態で使用される。
【0143】
一般に研磨材料は、固体またはペースト状の組成物中に約10%〜約99%の重量濃度で存在する。好ましくは、練り歯磨き中に約10%〜約75%の量で存在し、歯磨き粉中に約70%〜約99%の量で存在する。練り歯磨き中、研磨材料がケイ質である場合、その研磨材料は一般に約10〜30重量%の量で存在する。別の研磨材料は典型的には約30〜75重量%の量で存在する。
【0144】
練り歯磨き中、液体ビヒクルは、典型的には調製物の約10重量%〜約80重量%の範囲の量の水および湿潤剤を含むことができる。グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、およびポリプロピレングリコールが好適な湿潤剤/担体の例である。水、グリセリン、およびソルビトールの液体混合物も好都合となる。屈折率が重要な問題となる透明ゲルでは、約2.5〜30%w/wの水、0〜約70%w/wのグリセリン、および約20〜80%w/wのソルビトールが好ましくは使用される。
【0145】
練り歯磨き、クリーム、およびゲルは、典型的には、天然または合成の増粘剤またはゲル化剤を約0.1〜約10、好ましくは約0.5〜約5%w/wの比率で含有する。好適な増粘剤は、合成ヘクトライトであり、たとえばLaporte Industries
Limitedより販売されるLaponite(たとえばCP、SP 2002、D)として入手可能な合成コロイド状マグネシウムアルカリ金属ケイ酸塩複合クレイである。Laponite Dは、おおよその重量基準で58.00%のSiO
2、25.40%のMgO、3.05%のNa
2O、0.98%のLi
2O、およびある程度の水、および微量の金属である。この真比重は2.53であり、8%の水分において1.0g/mlの見掛けのかさ密度を有する。
【0146】
別の好適な増粘剤としては、アイルランドゴケ、イオタカラギーナン、トラガカントゴム、デンプン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルプロピルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(たとえばNatrosolとして入手可能)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および微粉砕Syloid(たとえば244)などのコロイダルシリカが挙げられる。保湿性ポリオール、たとえばプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、およびヘキシレングリコール、セロソルブセロソルブ、たとえばメチルセロソルブおよびエチルセロソルブ、直鎖中に少なくとも約12個の炭素を含有する植物油および蝋、たとえばオリーブ油、ヒマシ油、およびペテロラタム、ならびにエステル、たとえば酢酸アミル、酢酸エチル、および安息香酸ベンジルなどの可溶化剤も含むことができる。
【0147】
従来通り、口腔用調製物は、通常、好適な表示付き包装材料で販売またはその他の方法で配布されることは理解されよう。したがって、マウスリンスの瓶は、実質的にそれがマウスリンスまたはマウスウォッシュであることが記載され、その使用法が記載された表示を有し、練り歯磨き、クリーム、またはゲルは、通常、実質的にそれが練り歯磨き、ゲルまたは歯磨きクリームであることが記載された表示を有する、典型的にはアルミニウム、ライニングされた鉛、もしくはプラスチックの折りたたみ可能なチューブ中、またはその他の内容物を計量供給するための圧搾式、圧送式、もしくは加圧式のディスペンサー中に存在する。
【0148】
予防作用を増加させ、口腔全体への有効物質の徹底的で完全な分散を促進し、本発明の組成物をより化粧品的に許容されるようにするために、有機界面活性物質を本発明の組成物中に使用することができる。有機界面活性材料は、好ましくはアニオン性、非イオン性、または両性であり、好ましくは有効物質と相互作用しない。組成物に洗浄性および発泡性を付与する洗浄材料を界面活性物質として使用することが好ましい。アニオン性界面活性剤の好適な例は、高級脂肪酸モノグリセリドモノサルフェートの水溶性塩、たとえば水素化ヤシ油脂肪酸の一硫酸化モノグリセリドのナトリウム塩、高級アルキルサルフェート、たとえばラウリル硫酸ナトリウム、アルキルアリールサルフェート、たとえばドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、高級アルキルスルホアセテート、1,2−ジヒドロキシプロパンスルホネートの高級脂肪酸エステル、ならびに脂肪酸、アルキル基、またはアシル基中に12〜16個の炭素を有するものなどの低級脂肪族アミノカルボン酸化合物の実質的に飽和した高級脂肪族アシルアミドなどである。最後に記載のアミドの例は、N−ラウロイ
ルサルコシン、ならびにN−ラウロイル、N−ミリストイル、またはN−パルミトイルサルコシンのナトリウム塩、カリウム塩、およびエタノールアミン塩であり、これらはセッケンおよび類似の高級脂肪酸材料を実質的に有するべきではない。本発明の口腔用組成物中でのこれらのサルコナイト(sarconite)化合物の使用は、酸溶液に対する歯のエナメル質の溶解性をある程度低下させることに加えて炭水化物を分解するために、これらの材料が口腔内の酸形成の阻害において長期間顕著な効果を示すので、特に好都合である。使用に好適な水溶性非イオン性界面活性剤の例は、エチレンオキシドと、エチレンオキシドに対して反応性であり長い疎水性鎖(たとえば約12〜20個の炭素原子の脂肪族鎖)を有する種々の反応性水素含有化合物との縮合生成物であり、これらの縮合生成物(「エトキサマー」(ethoxamers))は親水性ポリオキシエチレン部分を含有し、たとえば、ポリ(エチレンオキシド)と、脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪アミド、多価アルコール(たとえばソルビタンモノステアレート)、およびポリプロピレンオキシド(たとえばPluronic材料)との縮合生成物である。
【0149】
界面活性剤は、典型的には約0.1〜5重量%の量で存在する。界面活性剤は、本発明の有効物質の溶解を促進し、それによって必要な可溶化湿潤剤の量を減少させることができることに注目すべきである。
【0150】
ホワイトニング剤、保存剤、シリコーン類、クロロフィル化合物、および/またはアンモニア化材料、たとえば尿素、リン酸二アンモニウム、およびそれらの混合物などの種々の他の材料を本発明の口腔用調製物中に混入することができる。これらの補助剤が存在する場合は、望ましい性質および特性に実質的に悪影響を与えない量で調製物中に混入される。
【0151】
任意の好適な着香または甘味材料を使用することもできる。好適な着香成分の例は、香味油、たとえばスペアミント油、ペパーミント油、ウインターグリーン油、サッサフラス油、丁子油、セージ油、ユーカリ油、マヨラナ油、桂皮油、レモン油、およびオレンジ油、ならびにサリチル酸メチルである。好適な甘味剤としては、スクロース、ラクトース、マルトース、ソルビトール、キシリトール、シクラミン酸ナトリウム、ペリラルチン、AMP(アスパルチルフェニルアラニンメチルエステル)、サッカリンなどが挙げられる。好適には、着香剤および甘味剤は、それぞれまたは合わせたものが、調製物の約0.1%〜5%超を構成しうる。
【0152】
本発明の組成物は、たとえば温かいガムベース中で撹拌することによって、またはガムベースの外面にコーティングすることによって、ロゼンジ中、またはチューインガムもしくは他の製品中に混入することもでき、ガムベースの例は、ジェルトン、ゴムラテックス、ビニライト樹脂などであり、望ましくは従来の可塑剤または軟化剤、糖または別の甘味料、またはグルコース、ソルビトールなどを有する。本発明の組成物は、各相が異なる時間にわたって成分を放出することができる二重相組成物であってよい。たとえば、使用中、二重相組成物は、第1の相から第一スズが会合した安定化ACPおよび/または第一スズが会合した安定化ACFP、好ましくはCPP−ACP/SnF
2および/またはCPP−ACFP/SnF
2を、第2の相から溶液のpHの上昇または維持が可能な化合物を放出するよりも、速い速度で放出することができる。好ましくは、二重相組成物は二重相チューインガムである。
【0153】
別の組成物は、安定化ACPまたはACFPと第一スズ化合物とを提供する組成物であって、口腔などのその場で、第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPを形成する組成物であってよい。代表的な組成物は、ペレット中に安定化ACPまたはACFPを含有し、中央のガム中に第一スズ化合物を含有するチューインガムであってよい。
【0154】
さらなる一態様において、本発明は、前述のような(a)第一スズ化合物と安定化ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP複合体のいずれかとともに、溶液のpHの上昇または維持が可能な化合物と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を含む組成物を提供する。このような組成物は、歯科用の抗齲蝕組成物および治療用組成物からなる群から選択することができる。歯科用組成物または治療用組成物は、ゲル、液体、固体、粉末、クリーム、またはロゼンジの形態であってよい。治療用組成物は錠剤またはカプセルの形態であってもよい。一実施形態において、第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP複合体は、そのような組成物の実質的に唯一の再石灰化有効成分である。たとえば、水、グリセロール、CPP−ACP/SnF
2、D−ソルビトール、二酸化ケイ素、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)、プロピレングリコール、二酸化チタン、キシリトール、リン酸、グアーガム、酸化亜鉛、サッカリンナトリウム、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、酸化マグネシウム、pヒドロキシ安息香酸ブチル、およびp−ヒドロキシ安息香酸プロピルを含有するクリーム配合物を使用することができる。
【0155】
本発明は、提供された前述の配合物とともに、齲蝕または齲歯、歯牙酸蝕症およびフッ素症、象牙質知覚過敏、歯垢、歯肉炎または歯周炎のいずれか1つ以上の治療または予防使用にするためのその使用説明書をさらに含む。
【0156】
別の一実施形態において、本明細書に記載の本発明の組成物は、リン酸緩衝液および/またはカルシウムキレーターを含まない。たとえば、本明細書に記載のいずれかの歯磨き剤は、リン酸緩衝液および/またはカルシウムキレーターを含まなくてよい。
【0157】
本発明の一実施形態において、第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP複合体を含む歯の石灰化のための組成物が提供され、この組成物はリン酸緩衝液および/またはカルシウムキレーターを含まない。
【0158】
別の一実施形態において、本明細書に記載の本発明の組成物は、粘度調節剤を含まない、または0.5〜50%の粘度調節剤を含まない。
【0159】
別の一実施形態において、本明細書に記載の本発明の組成物は、ナトリウムカルボキシメチルセルロースを含まない、または0.7〜1.0のエステル化度を有する0.01〜10%のナトリウムカルボキシメチルセルロースを含まない。
【0160】
一実施形態において、組成物の有効成分は、第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP複合体から本質的になる。
【0161】
さらなる一態様において、齲蝕、齲歯、歯牙酸蝕症およびフッ素症、象牙質知覚過敏、歯垢、歯肉炎および歯周炎のそれぞれの1つ以上の治療方法または予防方法であって、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP複合体を、被験者の歯に投与するステップを含む方法が提供される。複合体の局所投与が好ましい。この方法は、好ましくは、前述の配合物中の複合体の投与を含む。
【0162】
さらなる一態様において、齲蝕、齲歯、歯牙酸蝕症およびフッ素症、歯の知覚過敏、歯垢、歯肉炎および歯周炎の1つ以上の治療および/または予防のための組成物製造における、(a)第一スズ化合物と安定化ACPまたはACFPとを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP複合体の使用が提供される。
【0163】
本発明のさらなる一態様によると、(a)第一スズ化合物と安定ACPまたはACFP
とを含む組成物、または(b)第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP複合体が加えられた歯科修復材料を含む歯科修復用組成物が提供される。歯科修復材料の基材は、グラスアイオノマーセメント、複合材料、または適合性であるあらゆる他の修復材料であってよい。グラスアイオノマーセメントが好ましい。歯科修復材料中に含まれる安定化された第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP複合体、好ましくはCPP−ACP/SnF
2複合体またはCPP−ACFP/SnF
2複合体の量は0.01〜80重量%が好ましく、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%である。上記物質を含有する本発明の歯科修復材料は、歯科診療に適切な種々の形態で調製し使用することができる。この実施形態による歯科修復材料は、個別の歯科修復材料の種類および形態により、別のイオン、たとえば抗菌イオンのZn
2+、Ag
+など、または別の追加の成分をさらに含むことができる。好ましくは、この実施形態による歯科修復材料のpHは2〜10の間、より好ましくは5〜9の間、さらにより好ましくは5〜7の間である。好ましくは、第一スズが会合した安定化ACPまたはACFP複合体を含有する歯科修復材料のpHは約2〜10の範囲内、より好ましくは約5〜9の範囲内、さらにより好ましくは約5〜7の範囲内である。
【0164】
本明細書は、特に人間に対する用途に言及しているが、本発明は獣医学的目的にも有用であることは明らかに理解されよう。したがってすべての態様において、本発明は、ウシ、ヒツジ、ウマ、および家禽などの家畜、ネコおよびイヌなどのコンパニオンアニマル、ならびに動物園の動物に有用である。
【0165】
石灰化組成物の一例は、(比率が小さくなる順序で)以下のものを含む:
水
グリセロール
CPP−ACP/SnF
2
D−ソルビトール
二酸化ケイ素
カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)
プロピレングリコール
二酸化チタン
キシリトール
リン酸
グアーガム
酸化亜鉛
サッカリンナトリウム
p−ヒドロキシ安息香酸エチル
酸化マグネシウム
p−ヒドロキシ安息香酸ブチル
p−ヒドロキシ安息香酸プロピル
【0166】
これより以下の非限定的な実施例を参照しながら、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0167】
実施例1
カゼインホスホペプチド−非晶質リン酸カルシウム(CPP−ACP)を、商標名Recaldent(商標)でCadbury Enterprises Pte Ltdより入手した。CPP−ACP、SnF
2、およびNaFを用いて溶液を調製し、0.4%w/vのCPP−ACP、SnF
2としての220ppmのF、およびNaFとしての70ppmのFにおいてpH5.6を得た。具体的には、CPP−ACPを蒸留水/脱イオン水に加え、次にpHを4.0〜6.5の間に維持するために1MのHClを加えながら
、SnF
2(固体)およびNaFを加えることによって、CPP−ACP/SnF
2複合体を調製した。pHが6.5を超えないようにした。加えた酸の全体積はCPP−ACP/SnF
2溶液の体積の1%未満であった。この溶液を安定化SnF
2/ACPと名付けた。NaFをこの方法で加えたが、これは少量成分であり、フッ化物の大部分はSnF
2に由来する。この方法は、SnF
2のみを用いて(NaFなしで)行うことが可能である。CPP−ACPおよびNaFを用いて別の溶液を調製し、0.4%w/vのCPP−ACP、およびNaFとしての290ppmのFをpH5.6で得た。この溶液を安定化NaF/ACPと名付けた。
【0168】
両方の溶液は、室温(20℃)で数か月の間、沈殿せずに安定であった。両方の溶液のエナメル質表面下病変の再石灰化能力について試験した。Reynolds,(1997).J Dent Res 76:1587−1595の方法を用いてヒトの歯のエナメル質の脱灰表面下病変を第三大臼歯のエナメル質ブロック中に形成した。ブロックの半分は安定化SnF
2/ACP溶液中で個別に浮遊させて再石灰化させ、残りの半分は安定化NaF/ACP溶液中で行い、37℃で7日間行った。再石灰化後、Reynolds(1997)に記載のように、エナメル質ブロックを埋め込み、切断して、横方向のマイクロラジオグラフィおよびデンシトメーター画像解析を行って、表2に示されるようなパーセント無機質含有量増加(%再石灰化)を求めた。Tukey HSD事後比較を用いて求めた平均の差の分散の一元分析によって、安定化SnF
2/ACP溶液を用いた処理によって、再石灰化量の32%の顕著な増加を示した。
【0169】
【表2】
【0170】
走査型電子顕微鏡法を用いたエナメル質病変の分析(
図1および2)によって、安定化SnF
2/ACPで処理した病変が表面層をさらに有したことが分かった。驚くべきことに、安定化SnF
2/ACP配合物によって、はるかに多くのエナメル質表面下病変再石灰化が得られ(表2)、保護表面層の形成も見られ、安定化SnF
2/ACP配合物の予期せぬ優位性が示された。表面層の走査型電子顕微鏡法−エネルギー分散分光法(SEM−EDS)を用いた実験(
図3および表3)によって、これがアパタイトであることが確認された。表面層のEDS分析から、10.33重量%のPおよび21.18重量%のCaを含有することが示され、典型的なアパタイトのCa:P重量%比の2.05が得られた。正常なエナメル質は、15.26重量%のPおよび30.99重量%のCaを含有し、同じ典型的なアパタイトのCa:P重量%比の2.03が得られた。
【0171】
これらのデータは、表面層がアパタイトで構成されることを示しているが、表面層はよ
り多くのSn(正常なエナメル質の0重量%に対し1.23重量%)およびフッ化物(正常なエナメル質の0.11重量%に対し0.54重量%)を有した。これは当然ながら、SnおよびFを含有するCPP−安定化SnF
2/ACP溶液と一致する。表面層中のCは26.53重量%であるが、正常なエナメル質中ではわずか約10重量%であることから(表4)、CPPも表面層の形成中に関与していた。このことは、第一スズイオンがホスホペプチド安定化ACPまたは安定化ACFPと歯の表面において架橋して、歯の表面を脱灰から保護可能な層を形成できるという機構を支持している。
【0172】
これらの結果は、CPP安定化SnF
2/ACP処理によって、実質的により良好な表面下再石灰化が得られただけでなく、均一な保護表面層も形成されたことを示している。
【0173】
架橋した表面層中に第一スズが会合した安定化ACPまたはACFPが維持されることで、(i)象牙細管が封止されるので歯の過敏症から保護され、(ii)抗菌性イオンSnを含有するので歯垢形成から保護され、(iii)歯牙酸蝕症および齲蝕から保護される。表面下の再石灰化も促進される。なんらかの理論または作用機序に束縛されるものではないが、第一スズイオンは、エナメル質表面におけるCPP−ACPまたはCPP−ACFPの架橋による表面層の促進に役立つと思われる。
【0174】
【表3】
【0175】
埋め込み用樹脂を排除した種々の層のより詳細な走査型電子顕微鏡法−エネルギー分散分光法(SEM−EDS)分析を表4に示す。これは、表3中の正常なエナメル質中の高い炭素含有量が樹脂を含んでいることを示している。樹脂を排除した場合、正常なエナメル質の炭素含有量は6〜10重量%の範囲内であった。CPP安定化SnF
2/ACP処理によって得られた表面層の炭素含有量は正常なエナメル質のほぼ3倍であり、これは層中にホスホペプチドが存在することを示している。石灰化表面層中のフッ化物量が正常なエナメル質中のフッ化物量の5倍であるので、第一スズが会合した安定化ACP複合体によって形成された保護表面層はフッ化物源となる。さらに存在するフッ化物量は再石灰化した病変中に存在する量よりも多い。表面層中に存在する第一スズ量は再石灰化した病変よりもはるかに多い12倍であった。
【0176】
第一スズが会合したACPを用いて再石灰化させた病変中のフッ化物量は、CPP−ACPおよびフッ化ナトリウムよりも多い。さらに、CPP−ACPおよびフッ化ナトリウムと比較すると、第一スズが会合した安定化ACPによって再石灰化させた病変中に存在するカルシウムが増加した。このカルシウム量は、正常なエナメル質中に存在するカルシウム量に近づいている。
【0177】
【表4】
【0178】
実施例2
この実施例では、溶液中のCPP結合(強く結合した)イオン、緩く結合したイオン、および遊離のイオンを測定するための実験プロトコルを説明する。
【0179】
実施例1で調製した各溶液の試料を採取し、3000分子量カットオフCentriprep 3限外濾過膜を用いる濾液として10%未満を収集した。Beckman J2−21遠心分離機中でJA 10.5ローターを用いて、試料の入ったCentriprepを1,000gで15分間遠心分離した。Centriprep遠心分離前の元の試料、およびCentriprep遠心分離後の濾液の試料をカルシウム、ホスフェートフッ化物、および第一スズの濃度の分析用に採取した。元の試料の分析から、全体のカルシ
ウム、ホスフェート、フッ化物、および第一スズのイオン濃度が求められ、濾液の分析から、遊離の(未結合の)カルシウム、ホスフェート、およびフッ化物の濃度が求められた。全体の濃度と未結合の濃度の差は、CPPによるCa、Pi、FおよびSnの結合した濃度となる。
【0180】
実施例3
本発明により、以下の成分を有する局所用クリームを製造することができる:
水
グリセロール
安定化SnF
2/ACPおよび/またはSnF
2/ACFP
D−ソルビトール
カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)
プロピレングリコール
二酸化ケイ素
二酸化チタン
キシリトール
リン酸
フッ化ナトリウム
香味料
サッカリンナトリウム
p−ヒドロキシ安息香酸エチル
プロピルp−ヒドロキシベゾエート(propyl p−hydroxybezoate)
p−ヒドロキシ安息香酸ブチル
【0181】
実施例4
本発明により、以下の組成を有するマウスリンス配合物を製造することができる:
水
アルコール
Poloxamer 407
ラウリル硫酸ナトリウム
安定化SnF
2/ACPおよび/またはSnF
2/ACFP
フッ化ナトリウム
香味料
サッカリンナトリウム
P−ヒドロキシ安息香酸エチル
P−ヒドロキシ安息香酸プロピル
p−ヒドロキシ安息香酸ブチル
【0182】
実施例5
本発明により、以下の組成を有する無糖チューインガム配合物を製造することができる:
結晶ソルビトール/マンニトール/キシリトール
ガムベース
炭酸カルシウム
グリセリン
安定化SnF
2/ACPおよび/またはSnF
2/ACFP
フッ化ナトリウム
香味油
水
【0183】
実施例6
以下は、CPP安定化ACP/SnF
2溶液のイオン分析のためのプロトコルである。全体(強く結合および緩く結合)および緩く結合した試料を以下のように調製した:
全体(強くおよび緩く結合):0.4%のCPP−ACP/220ppmのF(SnF
2として)/70ppmのF(NaFとして)の溶液1mlを採取し、19mlの1MのHNO3中に入れ、一定低速で24時間回転混合(20rpm)しながら室温でインキュベートした。この混合物を約1000gにおいて室温で15分間遠心分離した。上澄みのカルシウム、第一スズ、ホスフェート、およびフッ化物を分析した。
【0184】
緩く結合:0.4%のCPP−ACP/220ppmのF(SnF
2として)/70ppmのF(NaFとして)の溶液の試料を採取し、1000MWCOフィルターを有するセントリコン中に入れ、約3000gにおいて、好ましくは室温で1時間遠心分離して、原子吸光分光測光法(AAS)およびイオンクロマトグラフィー(IC)による分析に十分な濾液(平衡に影響を与えないため全試料の<10%)を得た。次に、緩く結合したイオンを得るために、濾液の測定を行った。
【0185】
溶液中の全体および緩く結合したカルシウム、第一スズ、ホスフェート、およびフッ化物は、イオンクロマトグラフィー(フッ化物およびホスフェートの場合)および原子吸光分析(カルシウムおよび第一スズの場合)によって求めた。
【0186】
CPPに強く結合した(コロイド状保持液)イオンは、(前述の説明のように)全体および緩く結合の間の差から計算した。この試料に基づくと、第一スズが会合したACP複合体は、ホスホペプチド1モル当たり約6〜8モルの第一スズイオン含有量を有した。
【0187】
【表5】
【0188】
実施例7
このin situ試験は、5つの溶液:
1)0.4%(w/v)のカルシウムホスホペプチド安定化非晶質リン酸カルシウム(CPP−ACP)、220ppmのフッ化第一スズ(SnF
2)および70ppmのフッ化ナトリウム(NaF)(
図7中に2%CPP−ACP+SnF
2として示される);
2)0.4%(w/v)のCPP−ACPおよび290ppmのNaF;
3)0.4%(w/v)のCPP−ACP;
4)220ppmのSnF
2および70ppmのNaF、CPP−ACPは含有せず(
図7中にSnF
2として示される);および
5)290ppmのNaF
によって促進される確立された口腔内再石灰化モデルを用いて再石灰化を比較するために計画した。
【0189】
このモデルにおいて、被験者は口蓋用器具を着用して、5回の14日連続の治療期間(週末を含む)の間に5mLの溶液で1日4回すすぎ、各治療期間中は異なる溶液ですすぎを行った。
【0190】
この無作為化比較試験では、口腔内再石灰化モデルを用いて5つの溶液がエナメル質再石灰化を向上させる効果を評価するために、二重盲検5元交差計画を用いた。各溶液は、同じ量の290ppmのF(5倍に希釈した練り歯磨き中の1450ppmのFと同等)を含有した[上記参照]。被験者には、第1の治療期間中に5つの溶液の1つを無作為に割り当て、一週間の洗浄休止期間の後、第2の治療中に別の溶液に切り換えた。これを5回の治療で繰り返した。各被験者は、人為的に形成された表面下病変を有するあらかじめ滅菌した4つのエナメル質スラブを有する特注の口蓋用器具を着用し、週末を含めた連続14日(治療期間)の間、1日に4回、割り当てられた溶液5mLで1分間すすぎ、次にすべての溶液およびたまった唾液を吐き出し、器具は着用し続けた。1日に4回のすすぎは、(i)朝食後、(ii)昼食後、(iii)夕食後、および(iv)就寝前に行った。各治療期間の1日の最初のすすぎの後、3つの異なる日に被験者は溶液およびたまった唾液をイオン分析用の清浄な管の中に吐き出した。被験者は、溶液ですすいだ時間および期間を日誌に記録した。被験者には、治療期間中は通常の食事および口腔衛生手順を維持するように指示した。試験期間中の被験者の通常の口腔衛生手順中は、器具を取り外した。口腔衛生手順のために器具を取り外した後、被験者は、ハブラシおよびフッ化物を含有しない義歯用ペースト(どちらも供給される)を用いて指示通りに、溝領域を避けて器具を洗浄し、器具を再配置する前にDDWで器具を優しくすすいだ。口から出す場合、器具は封止された高湿度容器中に保管した。すべての被験者は、研究期間中、スポンサーから供給された標準のフッ化物練り歯磨きを用いて歯を磨いた。それぞれの14日の治療期間の終了後、被験者は器具および日誌を持って臨床現場に戻った。
【0191】
どの治療が行われたかは、研究員にも被験者にも知らせなかった。研究員および記録者のいずれも治療コードにはアクセスしなかった。潜在的バイアスを最小限にするために、試験溶液の分配またはそれらの使用の管理を行う人員は、エナメル質半スラブの検査には関与しなかった。基礎調査の後、被験者に1つの被験者番号を割り当てた。被験者番号は、被験者の症例報告フォームに記録した。被験者には、第1の治療期間中に1つの溶液の使用を無作為に割り当て、次に第2から第5の治療期間は別の溶液に切り換えた。無作為化は、交差試験中の治療の番号に対して標準の乱数表を用いて行った。in situ試験の結果を
図7に示す。これらの結果は、in situモデルにおいて、第一スズが会合した安定化複合体を含む溶液(右側の棒グラフのフッ化第一スズおよびフッ化ナトリウムを有する2%CPP−ACPとして、本明細書では安定化SnF
2/ACPとも記載される)は、フッ化ナトリウム単独、フッ化第一スズおよびフッ化ナトリウム、CPP−ACP単独、またはフッ化ナトリウムを有するCPP−ACPと比較して、エナメル質表面
下の再石灰化量がはるかに多いことを示している。2%CPP−ACP+NaFおよび2%CPP−ACP+SnF
2で示される右側の2つの棒グラフでは有意差があった(p<0.01)。これは、in vivoの口腔内で、本発明の第一スズが会合した安定化複合体は、病変の再石灰化能力が優れていることを明確に示している。
【0192】
各被験者用の口蓋用器具は、実験モデルを形成して連結される上および下歯列弓のアルジネート印象を取ることによって作製した。第一小臼歯から歯列弓の最後の歯までを覆う取り外し可能なアクリル製口蓋用器具をそれぞれの被験者用に作製した。この器具は、4つのステンレス鋼製留め金によって口の中に維持される口蓋プレートからなった。上顎小臼歯/大臼歯の口蓋面に隣接する器具のそれぞれの側の溝に、脱灰表面下病変を有する2つのエナメル質半スラブを収容した。したがって、各器具は4つのエナメル質半スラブを有した。器具は、表面が平滑となり被験者が不快でないように設計した。
【0193】
MelbourneのRoyal Dental Hospital、ならびに個人営業の口腔外科医および一般開業医から、抜歯した第三大臼歯を入手した。付着した軟組織を取り除き、蒸留脱イオン水(DDW)で歯を洗浄した。この試験のすべての歯は、10%(v/v)の中性緩衝ホルマリン溶液中、室温で少なくとも2週間保管することで滅菌した。ホルマリン中で保管した後、歯はDDWで十分に洗浄し、必要となるまでDDW中で保管した。亀裂、着色、およびフッ素症が最小限である(解剖顕微鏡下で観察)滅菌エナメル質の正常で比較的平面状の頬面および舌面を選択し、再びDDWで十分にすすいだ。表面の亀裂を含む外側エナメル質表面は、除去し、次に、低速コントラアングル歯科用ハンドピース上でSoflex(商標)(3M)研磨ディスクを用いて鏡面仕上げまで湿式研磨した。次に、水冷ダイヤモンド刃のこぎりを用いて歯から各研磨面を約8×4mmのスラブとして切り取り、スラブ全体は、互いに約1mm離れた2つの(咬合側および歯肉側)近遠心ウィンドウ(約1×7mm)を除いて、耐酸性ネイルバーニッシュで覆った。厚さ3〜4cmの黄色歯科用粘着性ワックスの端部に各スラブを載せ、80mL/LのNoverite K−702(ポリカクリレート(polycacrylate)、Lubrizol Corporation、Wickliffe、OH;White,1987)、500mg/Lのハイドロキシアパタイト(Bio−Gel(登録商標)HTP、Bio Rad Laboratories、Richmond CL)、および0.1モル/Lの乳酸(Ajax Chemicals、Auburn NSW)pH4.8からなる脱灰緩衝液40mL中に撹拌せずに37℃で4日間浸漬して、エナメル質ウィンドウ中に病変を形成した。2日後に溶液に変化が生じ、その時点でスラブを溶液から取りだし、DDWで3回すすぎ、吸い取って乾燥させ、新しい脱灰緩衝液に入れた。4日の脱灰後、スラブを同様にすすぎ、乾燥させた。人為的病変の断面をマイクロラジオグラフィによって評価すると、この脱灰手順によって、無傷の表面層を有する80〜110μmの深さの一貫した表面下病変が得られた。脱灰後、各エナメル質スラブは、各ウィンドウの正中線で2つの4×4mmスラブに切断し、各スラブの切断面をネイルバーニッシュで覆った。各スラブの半分は脱灰対照(対照半スラブ)として維持し、ラベルを付けた0.5mL微小遠心管中に1滴のDDWとともに保管し、それによって加湿環境を形成した。エナメル質スラブの他方の半分は、再石灰化プロトコル用に歯科用ワックスを用いて口腔内器具に差し込んだ(試験半スラブ)。人為的病変がワックスで覆われないように注意した。in situ治療期間の終了後、エナメル質半スラブを取り出し、新しい試験期間を開始するためにあらかじめ滅菌した新しいエナメル質半スラブと交換した。各治療期間の後、各試験半スラブをその対照半スラブと組合せ、埋め込み、切断して、無機質の変化を求めるための分析を行った。
【0194】
各組のエナメル質半スラブ(再石灰化半スラブとその脱灰対照半スラブとの組は、ネイルバーニッシュを注意深く取り除き、蒸留deioinised水(DDW)で十分にすすいだ。エナメル質半スラブの組(試験再石灰化半スラブとその脱灰対照半スラブとの組
)を小型プラスチックバイアル中にそれらの切断側の上に配置し、病変ウィンドウを並列させ、透明低温硬化性メタクリレート樹脂(Paladur、Heraeus Kulzer、Germany)を半スラブの上に注ぎ、室温で硬化させた。試験半スラブおよび対照半スラブを区別するため、試験エナメル質半スラブの隣のメタクリレートブロックの側に永久識別マークを描いた。内部環状のこぎり(internal annulus saw)のマイクロトーム(Leitz 1600、Ernst Leitz Wetzlar、Germany)を用いて、両方の半病変(half−lesion)の正中線を通って病変表面に対して垂直に、埋め込まれた半スラブから厚さ200〜300μmの断片を切断した。次に、これらの断片について、RotoPol 21/RotoForce4ラッピング装置(Struers、Denmark)を用いて1200グリットのラッピングペーパーで、80±5μmまでラップ仕上げを行った。ラップ仕上げした断片をラッピング装置から取り外し、DDWですすぎ、吸い取って乾燥させ、スライドガラス間のティッシュペーパー上に保管した。Microchrome High Resolutionガラス板(3インチ×3インチ×0.06インチ;Microchrome、USA)を使用し、ニッケルフィルターを有する銅Kα放射線を20kVおよび30mAで8分使用し、XMRマイクロラジオグラフィシステム(Diffraction Technologies Pty Ltd)に、DF3発電機(Spellman High Voltage Electronics Corporation)で電力供給される銅ターゲット(PW2213/20))を有するPANalytical高精度焦点ガラス製XRD管を用いて、再石灰化半病変、および同じエナメル質スラブの対応する脱灰対照半病変を有する各断片について、10×37.5μm厚さ増分のアルミニウム製段階くさびとともに放射線透過写真を撮影した。各ガラス板は、Microchrome Developer D5(1:4希釈、Microchrome、USA)中で5分間現像し、氷酢酸停止浴に30秒間入れ、Microchrome Developer F4(1:4希釈、Microchrome、USA)中で5分間定着させた。すべての光化学物質の温度は20℃に維持した。
【0195】
Dialux20顕微鏡(Ernst Leitz Wetzlar、Germany)によって透過光で病変の放射線透過画像を観察した。PC(Pentium III)上で動作する画像処理ソフトウェア(Image Pro Plus version 7)の制御下で、デジタルカメラ(Insight(商標))によって画像を取得した。0〜256の間のグレイ値の読み取りが得られるプログラムのライン輝度関数を用いて、病変および正常なエナメル質の近傍領域の画像をスキャンした。アーティファクトおよび亀裂のない領域を分析用に選択した。各スキャンは、歯の表面から正常なエナメル質まで200の読取値を含んだ。各スライド上の段階くさびをスキャンし、平均のステップのグレイ値の読み取りをアルミニウム厚さに対してプロットした。歯の断片画像の読取値は、段階くさびの曲線の直線部分にあり、グレイ値データをアルミニウムの同等の厚さの値に変換するために線形回帰を使用した。断片の厚さを測定し、Angmar et al.(1963)の式、ならびにアルミニウム、有機物質+水、およびアパタイトの無機質の線吸収係数(それぞれ131.5、11.3、および260.5)を用いて%無機質データを計算した。2つの病変の間の中間ストリップの画像を6回スキャンし、平均して、対照の正常なエナメル質密度分布を求めた。中間ストリップの歯肉側および咬合側への病変画像(再石灰化ウィンドウおよび脱灰対照ウィンドウ)も、中間ストリップにできるだけ近づけながら病変端部で一般に形成されるむらを回避して、同様にスキャンし、%無機質分布を計算した。
【0196】
実施例8
この実施例では、より一般的に前述した異なる目的の組成物のために本発明の複合体を配合できる方法を例示するために、多数の配合物を提供する。これらは、本発明の種々の実施形態を使用して提供できる種類の配合物の単なる例である。
【0197】
【表6】
【0198】
【表7】
【0199】
【表8】
【0200】
【表9】
【0201】
【表10】
【0202】
【表11】
【0203】
【表12】
【0204】
本明細書において開示され規定される本発明は、本文または図面に記載される、またはそれらより明らかとなる個別の特徴の2つ以上のすべての別の組合せまで拡張されると理解されたい。これらすべての異なる組合せは、本発明の種々の別の態様を構成する。
【0205】
参考文献
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