【実施例】
【0052】
(III)実施例
本開示の運用を、以下の代表的な実施例により例示する。当業者に明らかである通り、実施例についての多くの詳細は、本明細書で記載される本開示をなおも実施しながら、変化させることができる。
【0053】
(実施例I)
材料及び方法
細胞の培養
PC3ヒト前立腺癌細胞は、American Type Culture Collection(Rockville、MD、USA)から得た。細胞は、10%のウシ胎仔血清(FBS; Gibco社、NY、USA)、100IU/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、及び0.3mg/mlの1-グルタミンを伴うDMEM/F12培地(Invitrogen社、ON、Canada)中で培養し、空気中に5%のCO
2による加湿雰囲気中、37℃で維持した。細胞は、10cmの組織培養プレート内に、80%の集密度まで増殖させた。
【0054】
化学物質
ドセタキセルは、Santa Cruz Biotechnology社(CA、USA)から購入した。ドセタキセルは、ジメチルスルホキシド(DMSO;Sigma社、St Louis、USA)中で調製し、細胞培養培地で、DMSOの最終濃度を0.01%として希釈した。デスモプレシンは、Ferring Pharmaceuticals社(CA、USA)により恵与された。
【0055】
細胞増殖アッセイ
細胞の増殖は、既に記載されている通り、MTSアッセイにより決定した
14。96ウェルプレートを使用して、細胞(ウェル1つ当たり5×10
3個)を播種した。24時間にわたる培養の後、ある濃度範囲のデスモプレシン(100pM〜1μM)及び/又はドセタキセル(1nM〜100nM)を添加し、最大で72時間にわたり培養を持続した。細胞生存率は、MTSを伴う、2時間にわたるインキュベーションにより評価し、結果として得られる吸光度は、ELISAプレートリーダーを使用して、595nmで測定した。組合せ研究では、各薬剤を、用量を変動させて調べた。実験は、三連で3回ずつ繰り返し、統計学的解析を実施した。
【0056】
創傷治癒アッセイ
細胞の運動性は、Liangら
15により記載されたプロトコールに従い実施される、創傷治癒アッセイを使用して評価した。細胞(ウェル1つ当たり2×10
4個)を、6ウェルプレートに播種した。増殖効果を取り除くために、90%を超える集密度の細胞を、1mg/lのマイトマイシンC(Sigma-Aldrich社、St Louis、USA)と共に、1時間にわたりインキュベートした。マイトマイシンCによる処理の後、200μlのピペットチップを使用して損傷線を施し、細胞単層を、PBSですすいだ。細胞を、デスモプレシン及び/又はドセタキセルで処置し、24時間にわたり遊走させた。コンピュータベースの顕微鏡イメージングシステムを使用して、拡大率を200倍とする顕微鏡により、プレートをスクラッチングした後における創傷治癒を決定した。いくつかの創傷領域を、細胞の遊走について観察した。実験は、三連で3回ずつ繰り返した。
【0057】
細胞遊走浸潤アッセイ
細胞の遊走は、製造元のプロトコールに従い、トランズウェルインサートプレート(BD Biosciences社、Bedford MA)を使用して測定した。細胞を、FBSを補充したDMEM/F12中の、24時間にわたる血清枯渇にかけた。PC3(5×10
4個の)細胞を、8.0μmのトランズウェルインサートプレート内のフィルターへと播種し、無血清培地中の化合物である、デスモプレシン(1nM、1μM)及び5nMドセタキセルで処置した。下方のチャンバーはまた、10%のFBSも含有した。細胞を、24時間にわたり遊走させた。処置後、脱脂綿スワブを使用して、フィルターの上面に残存する細胞を除去した。フィルターの下面に付着した遊走細胞は、4%のホルムアルデヒド中、室温で30分間にわたり固定し、次いで、クリスタルバイオレットで、20分間にわたり染色した。遊走した細胞を、ランダム視野から選び出し、コンピュータベースの顕微鏡イメージングシステムを使用してカウントした。浸潤アッセイでは、細胞を、24ウェルのマトリゲルコーティングトランズウェルプレート(BD Biosciences社、Bedford MA)へと播種することを除き、遊走アッセイで記載した手順と同じ手順を実施した。実験は、二連で2回ずつ繰り返し、統計学的解析を実施した。
【0058】
フローサイトメトリー
細胞周期プロファイルについて解析するため、細胞を、10cmのディッシュ1枚当たり1×10
6個の密度で播種した。24時間後の終了時における抗酸化剤による事前の処理を伴うか又はこれを伴わずに、非同期増殖細胞を、10mMのブロモデオキシウリジン(BrdU)で、2時間にわたりパルス標識した。次いで、細胞を採取し、70%のエタノールで固定し、0.1%のHClで処理し、90℃で10分間にわたり加熱して、標識DNAを露出させた。細胞を、抗BrdUコンジュゲートFITC(Becton-Dickinson社)で染色し、ヨウ化プロピジウムで対比染色し、次いで、氷上で30分間にわたりインキュベートした。試料を、ナイロンメッシュを通して濾過した。Cell Quest Proソフトウェアパッケージ(Becton-Dickinson社、CA、USA)を使用して、FACS Caliburフローサイトメーター上で、細胞周期解析を実行した。実験は、三連で3回ずつ繰り返し、統計学的解析は、下記で言及する通りに実施した。
【0059】
ウェスタンブロット解析
デスモプレシン単剤療法による用量反応研究(100pM〜1uM)、デスモプレシン単剤療法による時点研究(1uM、0〜48時間)、及び組合せ研究からのタンパク質解析物、並びにウェスタンブロット解析で利用した濃縮培地は、既に記載されている通りに調製した
14。タンパク質を、10〜12%のSDS-PAGEにかけ、半乾燥転写装置(Bio-Rad Laboratories社、Hercules、CA)を使用して、100V/300mAで、一晩にわたり、電気泳動により、PVDF膜へと転写した。メタノール(100%)中の活性化の後、ブロットを、5%のスキムミルクを含有するTBST中、室温で60分間にわたりインキュベートした。洗浄後、膜を、Bax、bcl-2、p21(waf1/cip1)、p27(kip1)、cdk2、cdk4、uPA、uPAR、MMP-2、MMP-9(1:100〜200、Santacruz Biotechnology社、Santacruz、CA、USA)に対する一次抗体と共にインキュベートした。それぞれの一次抗体を伴うインキュベーション後、膜を、TBSTで、5分間ずつ3回にわたり洗浄し、次いで、適切な二次抗体と共に、室温で1時間にわたりインキュベートし、TBSTで、5分間ずつ3回にわたり洗浄した。タンパク質の検出は、増強化学発光ウェスタンブロット法試薬(Amersham Pharmacia Biotech社、Buckinghamshire、UK)により実施した。
【0060】
異種移植片を使用するin vitro研究
マウスは、University of Toronto Animal Research Ethics Boardにより承認され、Canadian Council on Animal Care(CCAC)によるそれらの関連法規及び規制基準に準拠する施設の、特殊な病原体非含有条件下にある、層流キャビネット内で、飼育及び維持した。細胞(100μlのマトリゲル溶液(BD Biosciences社、CA、USA)を伴う1×10
6個のPC3細胞)を、6〜8週齢の雄ヌードマウス(Harlan Sprague Dawley, Inc.社)へと、皮下(sc)接種した。14日後、発生しつつある腫瘍を測定し、マウスを、異なる処置群へとランダムに割り当てた。腫瘍容量は、キャリパーによる腫瘍の長さ(L)及び幅(W)の測定を介して決定し、式:V=(L×W
2)(π/6)に従い、毎週2回ずつ計算した。所与のマウスを組み入れるには、腫瘍容量が100mm
3の範囲であることを必要とした。異種移植片モデルを使用して、腫瘍の成長を、対照処置マウス及び各処置マウスについて決定した。マウスを、4つの群;対照(n=15)、デスモプレシン単独(n=15)、ドセタキセル単独(n=10)、及びドセタキセルと組み合わせたデスモプレシン(n=10)へと無作為化した。対照動物には、生理食塩液媒体のみを施した。Ferring Pharmaceuticals社(Ferring Inc社、CA、USA)製のデスモプレシンを、0時間後及び24時間後の2回の投与により投与した。マウスには、生理食塩液中、体重1kg当たり2μg/ml (生理食塩液の用量0.3ml当たり50ng)の最終用量で、静脈内により、デスモプレシンを施した。マウスには、5mg/kgの用量、毎週3回のサイクルで、ドセタキセルを、静脈内投与した。デスモプレシンは、ドセタキセル投与の30分前及び24時間後の2回の投与により投与した。ドセタキセル又はドセタキセルと組み合わせたデスモプレシンを投与された動物は、細胞接種の35日間後に屠殺した。対照マウス及びデスモプレシンマウスは、in vivo研究において、デスモプレシンの抗腫瘍効果について査定するために、腫瘍容量がおよそ1500mm
3となるか、又は49日目のいずれか早い方の時点までモニタリングした。
【0061】
統計学的解析
全ての実験を三連で実施した。データは、平均値±平均値の標準誤差を表した。統計学的解析は、有意性の水準をP<0.05とする、スチューデントのt検定により行った。in vivoにおける結果についての解析は、スチューデントのt検定又は反復測定一元ANOVA法を使用して実施した。
【0062】
(実施例1)
ドセタキセル及び/又はデスモプレシンの、PC3細胞の細胞増殖に対する効果
ドセタキセル及び/又はデスモプレシンは、PC3細胞における細胞増殖を阻害する。MTS細胞増殖アッセイを行って、ドセタキセル及び/又はデスモプレシンが、細胞増殖を抑制するのかどうかについて探索した。0〜100nMの用量範囲のドセタキセルで細胞を処置した72時間後にアッセイを実行した。細胞の増殖は、非処置の対照細胞の増殖に照らした相対値として表した。ドセタキセルで72時間にわたり処置されたPC3細胞は、細胞生存率を、用量依存的に低下させた(
図1A)。ある用量範囲のデスモプレシン(1nM〜1μM)で処置された細胞は、72時間後までに、細胞増殖を、対照と比較して有意に低減した(
図1B、p<0.01)。更に、デスモプレシン(1nM、1μM)と、5nMのドセタキセルとによる組合せ療法もまた、細胞増殖の有意な減少(
図1C、p<0.01)を結果としてもたらした。
【0063】
(実施例2)
デスモプレシンの、PC3細胞の遊走に対する、用量依存的な示差的影響
デスモプレシン及びドセタキセルによる処置は、培養物中のPC3細胞に対して、抗増殖効果を結果としてもたらしたので、デスモプレシン単独(1nM、1μM)による処置、及び5nMのドセタキセルと組み合わせたデスモプレシンによる処置の、細胞の遊走に対する効果を、創傷治癒アッセイにより決定した。
図2に示される通り、0時間後〜24時間後の間に対照が遊走した距離の差異を測定し、処置細胞による距離の差異と比較した。24時間後の終了時に、デスモプレシンとドセタキセルとの組合せによる細胞の遊走の有意な減少が観察された(
図2A)。遊走チャンバートランズウェルプレートを使用して、細胞の遊走能を、更に定量化した。異なる用量のデスモプレシン(1nM及び1μM)による処置は、細胞の遊走を、有意に阻害した(
図2B及び
図2C、p<0.01)。更に、デスモプレシン(1nM及び1μM)及び5nMのドセタキセルによる各組合せ処置は、細胞の遊走の、更に有意な低減を結果としてもたらした(
図2B及び
図2C、p<0.01)。
【0064】
(実施例3)
デスモプレシンの、PC3細胞に対する抗浸潤効果
デスモプレシンの抗転移能について評価するため、マトリゲル浸潤アッセイを実施した。
図3に示される通り、5nMのドセタキセル単独及び2つの異なる用量のデスモプレシン(1nM及び1uM)による処置は、細胞浸潤の有意な阻害を誘導した。更に、5nMのドセタキセル及びデスモプレシン(1nM及び1μM)による各組合せ処置は、細胞浸潤の有意な低減を結果としてもたらした(
図3A及び
図3B、p<0.01)。
【0065】
(実施例4)
ドセタキセルと組み合わせたデスモプレシンの、細胞周期に対する効果
ドセタキセルと組み合わせたデスモプレシンは、細胞周期の停止を誘導し、デスモプレシンは、ウェスタンブロット解析により決定される、ドセタキセルのアポトーシス効果を増強する。
【0066】
MTSアッセイの結果について確認するため、ウェスタンブロット解析を実施して、細胞増殖について検討した。ドセタキセルは、有糸分裂紡錘体の破壊を帰結とする微小管の抑制を含めた、鍵となる調節性分子を変更する能力を有し、有糸分裂紡錘体の破壊はG2/M期における細胞周期の停止、及びbcl-2のリン酸化の誘導をもたらし、最終的にアポトーシスをもたらす
16〜18。デスモプレシン及びドセタキセルで処置された細胞では、サイクリンA、サイクリンB、CDK2、及びCDK4の発現が低減された(
図4A)。加えて、同じ条件下では、CDK阻害性タンパク質である、p21(waf1/cip1)及びp27(kip1)の発現も上昇した(
図4A)。結果は、ドセタキセルと組み合わせたデスモプレシンによる治療が、細胞周期の進行と関連する分子を阻害することが可能であり、これに付随して、細胞周期の停止を誘導することを指し示す。Bax/Bcl-2比は、1nMのドセタキセルと組み合わせたデスモプレシン及び1μMのドセタキセルと組み合わせたデスモプレシンのそれぞれで処置された細胞内の、4倍及び8倍の発現の増大(いずれも対照と比べて表されている)を明らかにした(
図4C)。加えて、いずれの組合せ処置も、全カスパーゼ3の発現を低減した。デスモプレシン処置単独は、bcl-2、PARP、又はカスパーゼ3の発現を低減しなかった(
図4B)ことから、デスモプレシンは、ドセタキセルのアポトーシス効果を増強することが指し示される。
【0067】
(実施例5)
デスモプレシンは、PC3に対する処置のために、細胞周期の分布を変更しない
デスモプレシン及びDTXの単独及び組合せで処置された細胞上の、BrdUによる標識付けを使用するフローサイトメトリー解析により、細胞周期プロファイルの変更について検討した。5nMのドセタキセル又は1nM/1μMのデスモプレシンとの組合せによる処置は、G2期にある細胞の比率の有意な増大を示し、これは、G2M期における細胞周期の停止と符合した(
図4D)。更に、各組合せ処置は、sub G1期にある細胞の集団を増大させた。これはアポトーシスを示す。
【0068】
(実施例6)
デスモプレシンの、前立腺がん細胞の遊走及び浸潤、並びにuPA-MMP経路に対する効果
MMP及びuPAという2つの分子は、がん細胞の浸潤、運動性、及び腫瘍の休眠に関与する
19。遊走アッセイ及び浸潤アッセイの結果に基づき、デスモプレシンを、単剤療法における、その抗転移特性について検討した。デスモプレシンについて、用量標準化研究及び時点研究を実行した。
図5に示される通り、デスモプレシン単剤療法は、前駆体であるプロuPA、活性uPA、MMP-2、及びMMP-9の発現を変更し、これらの全てを、用量依存的に低減した(
図5A、
図5C、及び
図5D)。これに対し、uPARの発現は、変更されなかった(
図5B)。デスモプレシンの濃度を1μMとして実行した時点研究でもまた、uPA、MMP-2、及びMMP-9の発現は、時間依存的に低減された(
図6A、
図6C、及び
図6D)。しかし、uPARの発現は、変更されなかった(
図6B)。デスモプレシン単剤療法は、チモーゲン型uPA(プロuPAともまた呼ばれる)の発現を低減し、これにより、細胞表面上のuPA活性を緩和する。これらの結果は、デスモプレシンが、uPA-MMP経路を介する腫瘍細胞の遊走及び浸潤を阻害する能力を有することを裏付ける(
図7)。
【0069】
また、ドセタキセルと組み合わせたデスモプレシンが、腫瘍細胞の遊走及び浸潤を阻害することも裏付けられた。
図6に示される通り、5nMのドセタキセル及びデスモプレシン(1nM及び1μM)による組合せ処置は、対照と比較した場合のuPAの発現の低減を結果としてもたらした(
図8A、p<0.01)。加えてまた、MMP-2の発現も、各組合せ療法で処置された細胞内で、対照と比較して有意に低減された(
図8C、p<0.01)。
図8Bに示される通り、uPARの発現は、変更されなかった。MMP-9の発現は、各組合せ療法で処置された細胞内で、対照と比較して有意に低減された(
図8D、P<0.01)。結果として、ドセタキセルと組み合わせたデスモプレシンは、uPA-MMP経路に影響を及ぼす。
【0070】
(実施例7)
異種移植片モデルにおける、デスモプレシンの、PC-3細胞の増殖に対する効果
デスモプレシン単独の、腫瘍の成長に対する効果について検討した。第1段階として、デスモプレシン処置による腫瘍成長の阻害を、対照動物と比較した。上記で記載した通り、無胸腺ヌードマウスを使用して、細胞を、マトリゲルに接種した。毎週2回ずつ、腫瘍容量を評価した。対照動物における腫瘍は、急速に成長し、腫瘍接種後35日目に、923mm
3の容量を測定した。対照的に、デスモプレシン処置マウスにおける腫瘍の成長は、有意に緩徐な腫瘍発生速度を有し、35日目において、642mm
3の平均容量に達っした(
図9、スチューデントのt検定、p<0.01)。対照処置と、デスモプレシン処置とでは、腫瘍容量が有意に異なった(ANOVA、p<0.0001)。次いで、デスモプレシンについて検討して、in vivoにおける、PC3細胞の、ドセタキセルに対する感受性を増強することが可能であるのかどうかを決定した。
図9に示される通り、組合せ群における腫瘍は、対照マウス及びドセタキセル処置単独より有意に小型であった(ANOVA、p<0.05)。ドセタキセル及び/又はデスモプレシンの静脈内注射による処置は、忍容が良好であった。全てのマウスは、各研究において、それらの体重を維持した。
【0071】
考察
線溶系の成分である、ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子(uPA)及びウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子受容体(uPAR)は、新血管形成を生じさせるための基底膜マトリックスの、ターゲティングされたタンパク質分解を容易にする。これらの因子の、腫瘍組織内の過剰発現は、消化器がん、肺がん、子宮がん、子宮内膜がん、膀胱がん、卵巣がん、精巣がん、乳がん、結腸がん、又は前立腺がん等のホルモン依存性がんを含む、多くのヒトがんにおける、転移性拡大及び全生存について予後診断的であると同定されている。これらの因子は、がん細胞の浸潤及び転移に直接関与すると考えられている。uPAは、デスモプレシンにより特異的に阻害される。
【0072】
デスモプレシンは、in vitro及びin vivoにおいて、PC3細胞に対する、抗増殖効果、抗遊走効果、及び抗浸潤効果を有することが見出された。かつての報告は、デスモプレシンが、進行型乳腺がんのための一次手術時において、局所領域疾患の低減に寄与し
11、転移性乳腺腫瘍細胞と共に共静脈内注射された場合の、実験的な肺コロニー形成を阻害することを裏付けた
12。Ripollらは、デスモプレシンが、ヒトcolo-205結腸癌細胞株及びマウスCT-26結腸癌細胞株に対して、抗増殖効果を及ぼすことを裏付けた
20。これらの研究は、V2受容体を発現させるがん細胞に焦点を当てていた。デスモプレシンは、バソプレシンV2受容体に対する選択的アゴニストである
21。V2受容体は、内皮細胞内及び腎集合管内で発現し、抗利尿効果及び止血効果を媒介することが典型的である。前立腺がん細胞株は、V2受容体を発現させないと考えられる
21〜24。これらの実施例は、V2受容体を欠くPC3細胞に対する、デスモプレシンの抗腫瘍効果及び抗転移効果を裏付けている。
【0073】
上記の例は、デスモプレシンの抗転移活性が、uPA経路により媒介されることを示している。デスモプレシンによる単剤療法は、uPA発現の用量依存的低減を結果としてもたらした(
図5A)。uPA及びその受容体であるuPARは、PC3細胞を含む、大半の固形がん及び浸潤がんにおいて発現する。uPAタンパク質は、浸潤性及び成長を容易とする、細胞外マトリックスの分解に関与した
25、26。uPAの発現は、腫瘍組織内で上方調節されることから、uPAは、がん治療のための魅力的な治療標的となっている
27、28。uPAは、セリンプロテアーゼファミリーのメンバーであり、前立腺がんを含む、様々なヒト悪性腫瘍における、腫瘍進行の促進因子としての関与が強く示唆されている。uPAは、プロ酵素として合成され、分泌される。uPARに結合すると、uPAは、不活性のチモーゲンである、プラスミノーゲンを、活性のセリンプロテアーゼである、プラスミンへと、効率的に転換する。プラスミンは、これもまた多種多様な細胞外マトリックス成分を消化しうる強力な酵素であるMMPも活性化させうる
29。これらの実施例は、単剤療法としてのデスモプレシン及びドセタキセルと組み合わせたデスモプレシンが、uPA、MMP-2、及びMMP-9の発現を有意に阻害することを裏付けている。単剤療法としてのデスモプレシン及びドセタキセルと組み合わせたデスモプレシンは、uPARの発現を変更しなかった。uPAは、前立腺がんの遊走時及び浸潤時において、MMP-2及びMMP-9を活性化させる
30〜32。uPAの、uPARへの結合の、鍵となる役割についての、複数の研究から導出された概念は、腫瘍細胞が、浸潤及び転移する能力が、uPA阻害剤により下方調節されることを裏付ける。結果は、デスモプレシン単剤療法が、プロuPA発現のほか、活性uPAも低減し、これにより、細胞表面上のuPA活性を緩和することを指し示す。デスモプレシンによるuPAの下方調節は、前立腺がん細胞の浸潤及び遊走を阻害することが示されている。したがって、理論に束縛されずに述べると、デスモプレシンは、前立腺がんにおけるuPA活性を阻害するように作用している可能性がある(
図7)。
【0074】
前立腺腫瘍細胞の増殖の、プラスミノーゲン活性化因子系の活性化との関連は、低密度で培養された腫瘍細胞内の増殖速度及びuPA産生が、高細胞密度で増殖させた細胞内で観察される成長速度及びuPA産生より高度であることの裏付けから導出される。このモジュレーションは、腫瘍細胞の増殖に影響を及ぼしうる
27。しかし、細胞増殖の結果は、デスモプレシン単剤療法におけるuPA発現の結果と符合しなかった。TGFβ1、IGF-1、FGF、EGF、及びボンベシン等、多くのサイトカイン及び増殖因子が、uPA系の成分の発現を誘導する
19、28、33、34。これらの因子もまた、uPAの発現及び腫瘍細胞の増殖と関連しうる。
【0075】
ドセタキセルの用量制限毒性を低減し、かつ/又はその有効性を増大させる医薬の組合せは、魅力的である。これらの実施例は、デスモプレシンによる単剤療法が、細胞の増殖を阻害し(
図1B)、組合せ療法(デスモプレシン及びドセタキセル)が、in vitroにおける細胞増殖及びin vivoにおける腫瘍の成長を、対照と比較して有意に阻害することを裏付けた(
図1C、
図9)。デスモプレシン単剤療法は、細胞周期の分布、及びアポトーシスに関連するタンパク質の発現レベルを変更しなかった。にもかかわらず、デスモプレシンは、組み合わせたドセタキセルによる、細胞周期の停止及びアポトーシス効果を増強することが観察された。
【0076】
デスモプレシンは、vWF及びtPAを含む、多数の因子の分泌に影響を及ぼす。vWFは、一次止血において重要な役割を果たし、露出された内皮下層への血小板の接着を可能とする、多量体の血漿糖タンパク質である
35。Terraube Vら
36は、vWFが、vWF欠損突然変異体マウスモデルにおいて、腫瘍細胞の播種に対する保護的役割を果たすことを報告した。組換えvWFの投与による、vWF血漿レベルの回復は、肺転移を低減した
35、36。デスモプレシンの静脈内注射は、約1時間後において時間ピークレベルを伴う、vWFの放出を誘導する
21、37。vWFは、腫瘍細胞の、血小板及び内皮下層との相互作用に関与しうると考えられる。他方、t-PAの主要な機能は、血管内線溶である。t-PAは、血管内皮細胞により合成され、血液中に分泌されるので、t-PAが、フィブリンに対して、高アフィニティーを有することは、血栓溶解の高度な有効性を反映する
38〜40。加えて、tPAは、血管新生を負に調節することが可能であり、それらの阻害剤は、血管新生を促進しうる
41〜46。よって、vWF及びtPAは、デスモプレシンの、腫瘍細胞の浸潤及び転移に対する効果に影響する重要な因子である(
図7)。
【0077】
これらの実施例は、デスモプレシンによる単剤療法が、PC3細胞上のuPA-MMPの発現を、DNAレベル又はRNAレベルではなく、タンパク質レベルで調節したことを示している。デスモプレシン単独、又はドセタキセルと組み合わせたデスモプレシンは、腫瘍容量を低減し、前立腺がん細胞の、細胞増殖、浸潤、及び遊走を阻害することが示された。デスモプレシンは、前立腺がんにおいて、抗増殖効果、抗遊走効果、及び抗浸潤効果を及ぼす。
【0078】
(実施例II)
本研究では、in vitro及びin vivoにおいて、DU145細胞を使用して、ドセタキセルと組み合わせたデスモプレシンの抗腫瘍効果について探索した。
【0079】
材料及び方法
細胞の培養
去勢抵抗性前立腺がん細胞DU145を使用した。細胞の培養手順は、既に記載されている手順に従った
48、49。
【0080】
化学物質
ドセタキセルは、Sigma-Aldrich社から購入した。ドセタキセルは、ジメチルスルホキシド(DMSO; Sigma-Aldrich社、MO、USA)中で調製し、細胞培養物を処置するために、細胞培養培地(0.01%のDMSO)で希釈した。デスモプレシンは、Ferring(登録商標)(アンプル1本当たり15μg/mLのOctostim)から購入した。
【0081】
細胞増殖アッセイ
細胞の増殖は、MTSアッセイにより決定した
48,49。DU145細胞は、96ウェルプレートに、ウェル1つ当たりの細胞4000個の濃度で播種した。付着の24時間後、様々な濃度のDTX(1nM、10nM、100nM及び1μM)及びデスモプレシン(1nM、10nM、100nM及び1μMの各々)を使用して、用量の標準化を実施した。細胞の増殖は、処置の24、48、及び72時間後において、MTSアッセイを使用して評価した。結果に基づき、10nM及び100nMのDTX及び1μMのデスモプレシンを伴う組合せ処置について、同様の時点において、細胞増殖アッセイを遂行した。結果は、スチューデントの両側t検定を使用して解析し、p<0.05の有意性レベルを、統計学的に有意であると考えた。
【0082】
創傷治癒アッセイ
デスモプレシン単独及び/又はドセタキセルと組み合わせたデスモプレシンの運動性阻害ポテンシャルは、既に記載されたプロトコールに従う創傷治癒アッセイにより評価した
49,50。DU145細胞を、24ウェルプレート上に、ウェル1つ当たりの細胞50,000個の濃度で播種し、それらが90〜100%の集密度に達するまで増殖させた。細胞を、1mg/LのMitomycin C[Sigma社(登録商標)]と共に、1時間にわたりインキュベートした後で、各ウェルにわたり、垂直方向のスクラッチを創出し、浮遊細胞を除去し、細胞培地又は処置溶液を伴う培地を添加した。画像は、ゼロ時点及び処置の24時間後において得た。拡大率を200倍とする、コンピュータベースの顕微鏡イメージングシステム[Axiovision(登録商標)]を使用して、各ウェルの創傷治癒を測定した。各実験は、二連で実行し、3回ずつ繰り返した。
【0083】
異種移植片モデルによるin vivo研究
全ての手順は、Canadian council on animal care(CCAC)による法規、並びに地域の動物研究倫理委員会による手順及び承認に従い行った。
【0084】
6週齢の雄無胸腺ヌードマウス(Charles river社、QC、Canada)を使用して、in vivoにおける、組合せ療法の、DU145腫瘍の成長に対する効果について査定した。マウスは、病原体非含有条件下、層流キャビネット内で飼育及び維持した。飼育の2週間後、100μLのマトリゲル溶液(BD Bioscience社、CA、USA)中に、動物1匹当たり1×10
6個のDU145細胞を、Fridmanら(51)により記載されている手順に従い皮下接種した。接種の14日後、体重及び腫瘍径を測定し、マウスを、異なる処置群へと、ランダムに割り当てた。群は、対照(偽処置)、腹腔内DTX(体重1kg当たり5mg)、IP注射の30分前及び24時間後における、静脈内デスモプレシン(体重1kg当たり2μg/ml)、又は組合せ療法(群1つ当たりのn=4)を含んだ。各群には、隔週1回ずつ全3回にわたる処置を施した。動物の体重及び腫瘍の測定値は、定期的に評価した。腫瘍径は、キャリパーにより測定される長さ(L)及び幅(W)を介して、式:V=(L×W
2)(π/6)に従い計算した。
【0085】
最終回の処置の2週間後、マウスを安楽死させ、腫瘍を切り出し、キャリパーで直接測定し、組織学的解析に送った。
【0086】
統計学:処置時に計算した腫瘍容量は、反復測定一元ANOVA検定[SPSS(登録商標)]を使用して比較した。最終腫瘍容量及び体重の測定値は、一元ANOVA検定を使用して個別に比較した。
【0087】
結果
細胞の増殖
デスモプレシン及びドセタキセルの最適濃度を決定した(データは示さない)後で、10nM及び100nMのDTXと、1μMのデスモプレシンとによる組合せ療法を使用した。100nMのDTX+1μMのデスモプレシンによる組合せ投与は、処置の72時間における細胞増殖の阻害を結果としてもたらした(p<0.05)(
図10)。24時間後及び48時間後の時点について、DTXの濃度を10nMとして、同様の解析を遂行したところ、DTX処置単独と比較した場合に応答は微小であり統計学的有意性がないことが明らかになった(データは示さない)。
【0088】
細胞の遊走
10nMのDTX濃度を、1μMのデスモプレシンと組み合わせて、DTX処置単独と比較したところ、組合せ処置は、in vitroにおける創傷の閉止を、対照及び各処置単独と比較して阻害した(24.8%対48.9%、p<0.05、スチューデントの二元t検定)(
図11)。10nMのDTX単独が、対照と比較した場合に、遊走阻害効果を及ぼしたのに対し、デスモプレシン処置単独は、統計学的に有意な効果を及ぼさなかった。DTXは、100μMの濃度で、有意な細胞殺滅を引き起こしていた。この濃度についての結果を、
図11に示すが、信頼できる測定値は、引き出されず、結果として、これらの濃度については、いかなる結果も観察できなかった。in vitroにおける創傷の閉止についての代表的な写真を、
図12に提示する。
【0089】
in vivo:異種移植片マウスモデル
組合せ療法(5mg/kgのI.P DTX、並びに化学療法の30分前及び24時間後における、体重1kg当たり2μg/mlのIVデスモプレシン)は、腫瘍容量の減少を結果としてもたらす(
図13)一方で、動物の体重の変化はもたらさなかった(
図14)。ANOVA解析は、DU145接種後42日目(これは、動物へと投与される第3の治療サイクルである)に始まる組合せ療法について、平均腫瘍径の有意な差異を明らかにした。腫瘍を宿すマウス、及び切出し後における腫瘍についての代表的な写真を、
図15に示す。
【0090】
直接的な測定が、より正確な測定であると仮定して、接種後55日目の、腫瘍を切り出した直後において、最終測定を行った。結果は、対照、デスモプレシン単独、DTX単独、及び組合せ療法のそれぞれについて、2049±520、1597±681、1330±550、及び773±314mm
3の平均腫瘍径を明らかにした(DTX処置と比較した組合せ処置について、P<0.05)。
【0091】
考察
DTXとデスモプレシンとによる組合せ処置は、前立腺がん細胞の増殖及び遊走を、有意に阻害することが示された。これらのデータは、DU-145細胞の増殖ポテンシャル及び遊走ポテンシャルの変化も示した。マウス異種移植片モデルでは、デスモプレシンとDTXとの組合せが、腫瘍の成長(腫瘍容量により決定される)を、組合せ療法による3回にわたる処置の後で、単剤を使用する処置と比較して有意に低減することが観察された。
(参考文献)