【課題】バイオマスの化学修飾工程と解繊工程を同時に一工程で行うことができる化学修飾バイオマスナノファイバー分散液の製造装置および製造方法、ならびに化学修飾バイオマスナノファイバーの製造方法を提供する。
【解決手段】製造装置100は、原料タンク10と、バイオマスとバイオマスを化学修飾させるための試薬とを含む分散流体を流通させる低圧配管80と、分散流体を低圧配管80に供給する給液ポンプ20と、分散流体を加圧する増圧機40と、増圧機40で加圧された分散流体を流通させる高圧配管90と、分散流体を、高圧噴射処理により、衝突用硬質体に衝突させる、または、互いに衝突させる衝突チャンバー60と、分散流体を冷却する熱交換器70と、を備え、低圧配管80は、衝突チャンバー60と熱交換器70との間に反応用低圧配管81を備え、高圧配管90は、増圧機40と衝突チャンバー60との間に反応用高圧配管91を備える。
原料タンクと、前記原料タンクに投入された、バイオマスと前記バイオマスを化学修飾させるための試薬とを含む分散流体を流通させる低圧配管と、前記原料タンクに投入された前記分散流体を前記低圧配管に供給する給液ポンプと、前記低圧配管に供給された前記分散流体を加圧する増圧機と、前記増圧機で加圧された前記分散流体を流通させる高圧配管と、前記高圧配管に供給された前記分散流体を、高圧噴射処理により、衝突用硬質体に衝突させる、または、互いに衝突させる衝突チャンバーと、前記衝突チャンバーで衝突させた分散流体を冷却する熱交換器と、を備え、
前記低圧配管は、前記衝突チャンバーと前記熱交換器との間に反応用低圧配管を備え、
前記高圧配管は、前記増圧機と前記衝突チャンバーとの間に反応用高圧配管を備えることを特徴とする化学修飾バイオマスナノファイバー分散液の製造装置。
前記反応用低圧配管および前記反応用高圧配管の長さは、50〜20000mmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化学修飾バイオマスナノファイバー分散液の製造装置。
前記反応用低圧配管および前記反応用高圧配管は、脱着可能であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の化学修飾バイオマスナノファイバー分散液の製造装置。
バイオマスと、前記バイオマスを化学修飾させるための試薬とを含む分散流体を、高圧噴射処理により、衝突用硬質体に衝突させる、または、互いに衝突させることで、バイオマスの化学修飾工程と解繊工程を同時に一工程で行うことを特徴とする化学修飾バイオマスナノファイバー分散液の製造方法。
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の化学修飾バイオマスナノファイバー分散液の製造装置を用い、前記原料タンク内の前記分散流体の温度を10〜80℃で制御し、前記高圧配管内の前記分散流体の温度を10〜150℃で制御し、前記反応用低圧配管内の前記分散流体の温度を60〜200℃に制御することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の化学修飾バイオマスナノファイバー分散液の製造方法。
請求項5から請求項8のいずれか一項に記載の化学修飾バイオマスナノファイバー分散液の製造方法で製造された化学修飾バイオマスナノファイバー分散液中の未反応の前記試薬を除去し、化学修飾バイオマスナノファイバーを回収することを特徴とする化学修飾バイオマスナノファイバーの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を適宜省略する。
【0013】
<製造装置>
まず、化学修飾バイオマスナノファイバー分散液の製造装置について説明する。
本発明の実施形態に係る製造装置について、
図1を適宜参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る化学修飾バイオマスナノファイバー分散液の製造装置の概略模式図である。
【0014】
製造装置100は、原料タンク10と、給液ポンプ20と、油圧発生および制御部30と、増圧機40と、チェックバルブ50と、衝突チャンバー60と、熱交換器70と、低圧配管80と、高圧配管90と、を備えている。
【0015】
原料タンク10は、原料、具体的には、バイオマスとバイオマスを化学修飾させるための試薬とを含む分散流体を投入するものである。
給液ポンプ20は、原料タンク10に投入された分散流体を低圧配管80に供給するものである。
油圧発生および制御部30は、増圧機40を油圧により駆動および制御するものである。
増圧機40は、低圧配管80に供給された分散流体を加圧するものである。増圧機40は、ここでは2つ設けられており、それぞれの増圧機40は、チェックバルブ50に接続されている。
チェックバルブ50は、分散流体が一方向のみに流れ、他方向に流れるのを阻止するものである。
【0016】
衝突チャンバー60は、高圧配管90に供給された分散流体を、高圧噴射処理により、衝突用硬質体に衝突させる、または、互いに衝突させるものである。衝突チャンバー60は、オリフィスノズル61内蔵している。分散流体はオリフィスノズル61から噴射される。オリフィスノズル61の直径は、例えば、0.08〜0.8mmである。直径が0.08mm以上であれば、原料がオリフィスノズル61に詰まりにくく分散流体を噴射し安い。一方、直径が0.8mm以下であれば、分散流体の噴射の際の圧力を所望の範囲に制御し易くなる。
熱交換器70は、衝突チャンバー60で衝突させた分散流体を冷却するものである。
【0017】
低圧配管80は、原料タンク10に投入された分散流体を流通させるものである。また、低圧配管80は、衝突チャンバー60で衝突させた分散流体を流通させるものである。
低圧配管80は、給液ポンプ20と増圧機40、衝突チャンバー60と熱交換器70、熱交換器70と原料タンク10とを接続している。なお、給液ポンプ20と増圧機40は、チェックバルブ50を介して低圧配管80により接続されている。低圧配管80は、衝突チャンバー60と熱交換器70との間に、低圧配管80の一部として反応用低圧配管81を備えている。
反応用低圧配管81は、バイオマスと試薬との化学反応を促進させるためのものである。
【0018】
高圧配管90は、増圧機40で加圧された分散流体を流通させるものである。
高圧配管90は、増圧機40と衝突チャンバー60とを接続している。なお、増圧機40と衝突チャンバー60は、チェックバルブ50を介して高圧配管90により接続されている。高圧配管90は、増圧機40と衝突チャンバー60との間に、高圧配管90の一部として、反応用高圧配管91を備えている。
高圧配管90は、バイオマスと試薬との化学反応を促進させるためのものである。
【0019】
反応用低圧配管81および反応用高圧配管91は、スパイラル形状で形成されている。反応用低圧配管81および反応用高圧配管91をスパイラル形状にすることで、小さな設置面積で必要分の長さを確保できる。
反応用低圧配管81および反応用高圧配管91の長さ、太さ、角度、形状、表面処理の状態、大きさ(スパイラル円径)などに制限はない。しかし、反応用低圧配管81および反応用高圧配管91は、分散流体が通過する距離を長くすることによって、後記するように、分散流体中のバイオマスが試薬により化学修飾されるための時間を確保することができる。
なお、反応用低圧配管81および反応用高圧配管91は、スパイラル形状に限定されるものではなく、例えば、管を折り畳んだ形状であってもよい。また、設置面積を考慮しない場合は、直線状であってもよい。
【0020】
反応用低圧配管81および反応用高圧配管91は、容易に脱着できるように設けられている。すなわち、反応用低圧配管81は、
図1の符号Aの部位が容易に脱着可能である。また、反応用高圧配管91は、
図1の符号Bの部位が容易に脱着可能である。したがって、化学修飾の内容、試薬の種類などによって、容易に反応用低圧配管81および反応用高圧配管91の長さ、太さ、角度、形状、表面処理の状態、大きさ(スパイラル円径)などを、適宜、変更、選択することが可能である。ただし、反応用低圧配管81は、他の低圧配管80と一体となっていてもよい。同様に、反応用高圧配管91は、他の高圧配管90と一体となっていてもよい。
【0021】
反応用低圧配管81および反応用高圧配管91の長さは、50〜20000mmであることが好ましい。長さが50mm以上であれば、バイオマスと試薬との化学反応を促進させ易くなる。また、部品加工がし易く、また、配管を取り付け易くなる。一方、長さが20000mm以下であれば、装置を小型化できる。また、部品加工がし易く、また、配管を取り付け易くなる。反応用高圧配管91および反応用低圧配管81の長さは、バイオマスと試薬との化学反応をより促進させ易くする観点から、また、部品加工のし易さおよび取り付け易さの観点から、特に100mm以上が好ましい。
【0022】
<製造装置の動作>
次に、製造装置100の動作の概略について説明する。
原料タンク10に投入された分散流体は、給液ポンプ20により低圧配管80に供給される。低圧配管80に供給された分散流体は、増圧機40により加圧されて高圧配管90に供給される。分散流体は、高圧配管90の反応用高圧配管91を通過する際に、分散流体中のバイオマスと試薬との化学反応が促進され、バイオマスが試薬により化学修飾される。その後、分散流体は衝突チャンバー60に供給され、衝突チャンバー60により高圧噴射されて、分散流体中のバイオマスが試薬により化学修飾されるとともに衝突によるエネルギーにより解繊される。その後、分散流体は低圧配管80に供給され、低圧配管80の反応用低圧配管81を通過する際に、分散流体中のバイオマスと試薬との化学反応が促進され、バイオマスが試薬により化学修飾される。その後、分散流体は熱交換器70に供給されて冷却される。このようにして得られた分散流体(化学修飾バイオマスナノファイバー分散液)は、回収されるか、必要に応じて、再度、原料タンク10に投入され、循環処理される。
【0023】
<分散液の製造方法>
次に、化学修飾バイオマスナノファイバー分散液の製造方法の一例について説明する。
本発明の実施形態に係る分散液の製造方法について、
図1、2を適宜参照しながら詳細に説明する。
図2は、実施形態に係る化学修飾バイオマスナノファイバー分散液の製造方法のフローチャートである。
本実施形態の分散液の製造方法は、前記した製造装置100を用いて行うことができる。ただし、製造装置100以外の装置を用いて行ってもよい。
【0024】
分散液の製造方法は、分散流体を準備する工程S101と、化学修飾および解繊する工程S102と、分散流体を冷却する工程S103と、を含み、この順に行う。また、分散流体を冷却する工程S103の後、高圧噴射処理(化学修飾および解繊する工程)を繰り返すか否かを判断し(S104)、必要であれば、工程S102、S103を繰り返す。
【0025】
[分散流体を準備する工程]
分散流体を準備する工程S101は、バイオマスと、バイオマスを化学修飾させるための試薬とを含む分散流体を準備する工程である。
バイオマスとしては、例えば、セルロース(粉末セルロースやパルプ)、キチン、キトサンなどが挙げられる。
バイオマスを化学修飾させるための試薬としては、目的の化学反応によって異なるが、代表的なエステル化であるアセチル化を例にすると無水酢酸、塩化アセチルなどが挙げられる。
【0026】
その他、分散剤や触媒を混合してもよい。分散剤としては、例えば、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)が挙げられる。触媒としては、例えば、DMAP(4−(ジメチルアミノ)ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンなど)、TEA(トリエチルアミン)、ピリジンなどが挙げられる。
【0027】
バイオマスと試薬との割合は特に限定されるものではなく、化学修飾の内容、試薬の種類などによって適宜調整すればよい。一例として、試薬をバイオマスに対して1.0〜20.0当量添加することが挙げられる。
【0028】
[化学修飾および解繊する工程]
化学修飾および解繊する工程S102は、バイオマスと、バイオマスを化学修飾させるための試薬とを含む分散流体を、高圧噴射処理により、衝突用硬質体に衝突させる、または、互いに衝突させることで、バイオマスの化学修飾工程と解繊工程を同時に一工程で行う工程である。
【0029】
この工程S102では、製造装置100の原料タンク10から分散流体を増圧機40に送り、増圧機40にて高圧化し、高圧配管90に流通させて衝突チャンバー60により高圧噴射し、衝突用硬質体に衝突させた、または、互いに衝突させた後、反応用低圧配管81を流通させて、熱交換器70まで送っている。
【0030】
前記した製造装置100を用いることで、製造装置100が化学反応のリアクターとなり、化学修飾と解繊を同時に1工程で行うことができる。化学修飾は、一瞬で起きるものではなく、時間と相関関係がある。すなわち、化学修飾は徐々に進行していく。解繊は高圧噴射し、衝突させた回数と相関がある。したがって、かける時間、衝突させる回数によって、化学修飾の度合いと解繊の度合いが変化する。また、セルロースのエステル化およびエーテル化においては、反応中の温度を上げることで、反応が促進する。つまり、目的の化学修飾の度合い(置換度)と解繊の度合い(繊維径)になる反応条件(圧力や処理時間など)を見出し、設定することが重要である。よって、反応用高圧配管91の長さや径、高圧噴射処理の際の圧力などを、目的に応じて適宜、設定する。
【0031】
高圧噴射処理は、100〜245MPaの圧力で行うことが好ましい。圧力が100MPa以上であれば、高圧噴射が行い易くなる。一方、圧力が245MPa以下であれば、製造装置100にかかる負担を軽減できる。
分散流体は、衝突チャンバー60に設けられた衝突用硬質体に衝突させてもよいし、分散流体同士を衝突させてもよい。衝突用硬質体としては、例えば、炭化タングステンを主原料とした超硬合金や窒化珪素、ジルコニア、アルミナなどの硬質セラミックスなどが挙げられる。
【0032】
また、高圧噴射処理した後に、反応用低圧配管81により、バイオマスと試薬との化学反応、および、解繊を促進させることができる。
バイオマスの化学修飾および解繊は、化学修飾および解繊する工程S102を経ることで行われるが、高圧噴射処理により分散流体が高温になっているため、この状態を利用し、分散流体が反応用低圧配管81を通る際に、さらに化学修飾を促進させることができる。
なお、本発明は、分散流体に混合する触媒として、例えば、DMAPのような反応促進効果の高いものを用いた場合に、その効果がより発揮される。
化学修飾の種類としては、エステル化、エーテル化などが挙げられる。
【0033】
[分散流体を冷却する工程]
分散流体を冷却する工程S103は、高圧噴射処理された分散流体を冷却する工程である。分散流体の冷却は、熱交換器70により行うことができる。
熱交換器70による冷却の際は、熱交換器70に流す冷却水の流量や温度を制御する。冷却水の供給方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、水道からのかけ流しやチラーを用いるなどが挙げられる。また、熱交換器70の構造は限定されるものではなく、例えば、プレート式、多重管式などが挙げられる。
【0034】
これらの工程S101〜S103を経て、化学修飾バイオマスナノファイバー分散液が製造される。化学修飾バイオマスナノファイバー分散液は、高圧噴射処理を繰り返すか否かを判断し(工程S104)、必要であれば、再度、原料タンク10に投入され、工程S102、S103を繰り返し行う。繰り返しは、複数回行ってもよい。これにより、化学修飾の度合いと解繊の度合いを調整することができる。
【0035】
化学反応は、温度の影響を大きく受ける。そのため、分散流体の温度制御は重要となる。通常、温度が高いほど化学反応は促進するため、分散流体の温度は高いほど好ましい。しかしながら、製造装置100への負担、バイオマスの耐熱性、加熱によるエネルギー消費の面を考慮すると、原料タンク10から増圧機40までは10〜80℃が好ましい。つまり、原料タンク10内の分散流体の温度を10〜80℃で制御することが好ましい。また、高圧配管90内では10〜150℃が好ましい。つまり、高圧配管90の表面を加温することで分散流体を加温してもよく、高圧配管90内の分散流体の温度を10〜150℃で制御することが好ましい。その後、衝突チャンバー60にて衝突用硬質体に衝突させる、または、お互いを衝突させた際に衝突前の分散流体の温度から約50℃上昇するため、反応用低圧配管81内の分散流体の温度は、高圧配管90内の分散流体の温度+50℃程度となる。よって、反応用低圧配管81内の分散流体の温度は、60〜200℃が好ましい。もちろん、反応用低圧配管81の表面を加温して、分散流体をさらに加温してもよい。
反応用低圧配管81から熱交換器70に送られ、熱交換器70で冷却し、分散流体の温度を10〜80℃に制御することで、原料タンク10内の分散流体の温度を制御できる。
【0036】
分散流体の温度の制御は、原料タンク10、高圧配管90、反応用低圧配管81内の分散流体の液温をモニタリングし、必要に応じて実施する。分散流体の温度の制御は、熱交換器70による冷却の制御だけではなく、反応用低圧配管81や高圧配管90の表面を加熱することによっても行う。反応用低圧配管81や高圧配管90の表面を加熱する方法としては、特に限定されるものではく、例えば、配管の周りにヒーターを巻いたり、配管をオイルヒーターに漬けたり、配管を高温槽に入れたりするなどが挙げられる。また、ヒーター自体の温度制御はもちろんのこと、熱電対を用いて分散流体の温度を直接測定し、ヒーターの温度を制御することも可能である。
【0037】
<ナノファイバーの製造方法>
ナノファイバーの製造方法は、前記した化学修飾バイオマスナノファイバー分散液の製造方法で製造された化学修飾バイオマスナノファイバー分散液中の未反応の試薬を除去し、化学修飾バイオマスナノファイバーを回収するものである。
【0038】
未反応の試薬を除去する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、加圧ろ過、減圧ろ過、遠心ろ過などが挙げられる。
具体的には、例えば、まず、純水に分散液を加えて化学修飾バイオマスナノファイバーを沈殿させる。次に、ろ過によって純水を取り除き、さらに純水洗浄を繰り返すことで化学修飾バイオマスナノファイバーを得る。
【0039】
化学修飾バイオマスナノファイバーがセルロースナノファイバー(CNF)である場合、置換度の好ましい範囲は、疎水性の付与の程度およびセルロースI型の結晶構造保持の観点から、0.05〜2.5であり、より好ましくは、0.1〜1.8である。
また、CNFの平均繊維径の好ましい範囲は、機能性や応用範囲の広さの観点から、3〜1000nmである。より好ましくは、3〜100nmである。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例として、アセチル化の化学修飾の例を示す。なお、化学修飾はアセチル化に限定されることはなく、セルロースのエステル化やエーテル化を中心として幅広いセルロースの化学修飾に対応できる。
以下に示す実施例1〜5の化学修飾およびCNF化(解繊)工程の基本装置としては、実施形態で説明した製造装置に準じた製造装置(スギノマシン社製)を用いた。なお、製造装置は、反応用高圧配管および反応用低圧配管の長さを容易に種々変更可能である。また実施例1〜5および比較例1で得られたサンプルは、実施例6に記した洗浄方法で洗浄した後、回収している。
【0041】
[実施例1(通常回路、温度制御なし)]
ジメチルホルムアミド(DMF)に2質量%となるようにセルロース粉末を分散させ、アセチル化剤として無水酢酸をセルロース(グルコース1分子)に対して10当量、触媒としてDMAP(4−(ジメチルアミノ)ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン)およびTEA(トリエチルアミン)をセルロース(グルコース1分子)に対して0.1当量を添加し、サンプルを作製した。そのセルロース・DMF分散液を本製造装置を用いて下記の条件で高圧処理することで、アセチル化とCNF化(解繊)の同時処理を実施した。
なお、実施例1については、14pass(14回衝突)の処理を行った後、さらに26passまで処理を実施した。
【0042】
合計仕込量(分散流体量):3516.4g(1、6、10、14、18、22passでサンプリング、各約250g)
処理圧力:200MPa
処理回数:14回(約39min)
反応用高圧配管:105mm
反応用低圧配管:300mm
衝突前反応液温度:22〜48℃
衝突後反応液温度:衝突前反応液温度+50℃
【0043】
「実施例2(反応用高圧配管延長、温度制御なし)」
ジメチルホルムアミド(DMF)に2質量%となるようにセルロース粉末を分散させ、アセチル化剤として無水酢酸をセルロース(グルコース1分子)に対して10当量、触媒としてDMAP(4−(ジメチルアミノ)ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン)およびTEA(トリエチルアミン)をセルロース(グルコース1分子)に対して0.1当量を添加し、サンプルを作製した。そのセルロース・DMF分散液を本製造装置を用いて下記の条件で高圧処理することで、アセチル化とCNF化(解繊)の同時処理を実施した。
なお、実施例2については、14pass(14回衝突)の処理を行った後、さらに22passまで処理を実施した。
【0044】
合計仕込量(分散流体量):1758.3g(1、6、10、14、18passでサンプリング、各約150g)
処理圧力:200MPa
処理回数:14回(約21min)
反応用高圧配管:5684mm
反応用低圧配管:300mm
衝突前反応液温度:24〜59℃
衝突後反応液温度:衝突前反応液温度+50℃
【0045】
[実施例3(触媒変更、温度制御)]
ジメチルホルムアミド(DMF)に2質量%となるようにセルロース粉末を分散させ、アセチル化剤として無水酢酸をセルロース(グルコース1分子)に対して10当量、触媒としてTEA(トリエチルアミン)をセルロース(グルコース1分子)に対して各0.1当量を添加し、サンプルを作製した。そのセルロース・DMF分散液を本製造装置を用いて下記の条件で高圧処理することで、アセチル化とCNF化(解繊)の同時処理を実施した。
【0046】
処理圧力:200MPa
処理時間:40min
反応用高圧配管:105mm
反応用低圧配管:300mm
衝突前反応液温度:35〜50℃
衝突後反応液温度:衝突前反応液温度+50℃
【0047】
[実施例4(触媒変更、温度制御)]
ジメチルホルムアミド(DMF)に2質量%となるようにセルロース粉末を分散させ、アセチル化剤として無水酢酸をセルロース(グルコース1分子)に対して10当量、触媒としてTEA(トリエチルアミン)をセルロース(グルコース1分子)に対して各0.1当量を添加し、サンプルを作製した。そのセルロース・DMF分散液を本製造装置を用いて下記の条件で高圧処理することで、アセチル化とCNF化(解繊)の同時処理を実施した。
【0048】
処理圧力:200MPa
処理時間:40min
反応用高圧配管:5684mm
反応用低圧配管:300mm
衝突前反応液温度:35〜50℃
衝突後反応液温度:衝突前反応液温度+50℃
【0049】
[実施例5(無触媒、温度制御)]
ジメチルホルムアミド(DMF)に2質量%となるようにセルロース粉末を分散させ、アセチル化剤として無水酢酸をセルロース(グルコース1分子)に対して10当量添加し、サンプルを作製した。そのセルロース・DMF分散液を本製造装置を用いて下記の条件で高圧処理することで、アセチル化とCNF化(解繊)の同時処理を実施した。
【0050】
処理圧力:200MPa
処理時間:40min
反応用高圧配管:5684mm
反応用低圧配管:300mm
衝突前反応液温度:35〜50℃
衝突後反応液温度:衝突前反応液温度+50℃
【0051】
[比較例1(ビーカー内アセチル化)]
ジメチルホルムアミド(DMF)に2質量%となるようにセルロース粉末を分散させ、アセチル化剤として無水酢酸をセルロース(グルコース1分子)に対して10当量、触媒としてTEA(トリエチルアミン)をセルロース(グルコース1分子)に対して各0.1当量を添加し、サンプルを作製した。そのセルロース・DMF分散液を下記の条件で撹拌し、アセチル化を実施した。
【0052】
撹拌速度:150rpm
撹拌時間:40min
反応液温度:40℃
【0053】
[実施例6(洗浄方法)]
本製造装置による処理後、または、撹拌による処理後、純水に処理液を加えてアセチル化CNFを沈殿させた。減圧ろ過によって純水を取り除き、さらに純水洗浄を繰り返すことでアセチル化CNFを得た。
【0054】
[評価方法]
評価方法としては、反応効率をセルロース中の水酸基の置換度で評価し、解繊度を比表面積と、走査型プローブ顕微鏡(SPM)および電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いた形状観察で評価した。
【0055】
[置換度測定(反応効率評価)]
洗浄済みの実施例1〜5、比較例1で得られたサンプルにアセトンを添加し、ろ過することでアセトンを除去した。その後、恒温乾燥機を用いて40℃で乾燥した。得られた乾燥サンプルの置換度(DS)は、赤外線(IR)吸収スペクトルを測定することにより求めた。なお、実施例1、2は、14passでサンプリングしたサンプルを用いたものである。
DSは下記の式にて算出した。
DS=0.0113X−0.0122(Xは1733cm
−1付近のエステルカルボニルの吸収ピーク面積である。スペクトルは1315cm
−1の値を1で規格化)
【0056】
[比表面積測定(解繊度評価)]
洗浄済みの実施例1〜5で得られたサンプルにt−ブタノールを添加し、よく撹拌した後、高速冷却遠心機(Suprema 21、トミー工業)を用いて4800Gで5minの遠心分離を行い、サンプルを沈降された。上澄みを除去した後、さらに除去した上澄み量と同量のt−ブタノールを添加し、よく撹拌した後、再度同条件で遠心分離を行った。この作業を2回繰り返すことで、サンプル中のDMFをt−ブタノールに置換した。その後、再度t−ブタノールに分散させ、冷凍庫で一昼夜放置することで凍結させた。凍結したサンプルは真空凍結乾燥機(ALPHA2−4,CHRIST)を用いて乾燥させた。得られた凍結乾燥サンプルは、自動比表面積/細孔分布測定装置(トライスターII 3020、島津製作所)を用いてBET法で比表面積を測定することで、CNF化したサンプルの解繊度を評価した。
【0057】
[SPM観察(解繊度評価)]
洗浄済みの実施例3〜5で得られたサンプルを、DMFに極低濃度で添加し、超音波処理することで均一に分散させた。その後、マイカ上に少量滴下し、乾燥させることで観察用サンプルを作製した。本サンプルをSPM(SPM−9700、島津製作所)を用いて形状観察し、解繊度を評価した。
【0058】
[FE−SEM観察(解繊度評価)]
洗浄済みの実施例1〜2で得られた1、6、10、14、22passのサンプル、および、実施例1で得られた26passのサンプルを、比表面積測定に記載した方法と同様な方法で凍結乾燥した。凍結乾燥したサンプルに白金を約3nm蒸着し、観察用サンプルを作製した。本サンプルをFE−SEM(JSM−6700F、日本電子)を用いて形状観察をし、解繊度を評価した。
【0059】
[結果と考察]
以上の結果を表1および
図3〜
図6Eに示す。表1中の「−」は、比表面積の測定を行っていないものである。
図3は、実施例1、2における、処理回数と、置換度(DS)および温度変化との関係を示すグラフである。
図4A〜
図4Eは、それぞれ、実施例1〜5で得られたサンプルのFE−SEM観察像もしくはSPM観察像である。
図5A〜
図5Fは、それぞれ、実施例1で得られた1、6、10、14、22、26passのサンプルのFE−SEM観察像である。
図6A〜
図6Eは、それぞれ、実施例2で得られた1、6、10、14、22passのサンプルのFE−SEM観察像である。なお、
図5A〜
図6E中の括弧内の数値は、比表面積である。また、
図4Aは、
図5Dを拡大したものであり、
図4Bは、
図6Dを拡大したものである。
また、原料セルロースの置換度は、0.00であり、原料セルロースの比表面積は、2.13m
2/gである。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示すように、実施例1〜4のいずれの条件でも、置換度および比表面積の向上が見られるため、アセチル化とCNF化の同時進行が起きていることが分かる。また、実施例1、2の各passのFE−SEM像を見てみると、pass回数が増えるたびにCNF化が進行している様子も観察できる。実施例5に関しては、無触媒のため、CNF化はかなり進行しているが、アセチル化の進行はわずかである。
【0062】
実施例1、2と実施例3、4を比較すると、実施例1、2の方が置換度が高く、比表面積も高くなっている。このことから、触媒としてはTEAよりDMAPを用いる方がアセチル化の進行が早くなることが分かる。また、アセチル化が進行するほど、DMF中での解繊効率が向上し、比表面積も高くなる傾向がある。
【0063】
実施例1と実施例2を比較すると、反応用高圧配管が長い実施例2の方がアセチル化が進行している。また、反応時間および反応温度を揃えた実施例3と実施例4を比較すると、置換度および比表面積に大きな差は見られないことが分かる。つまり、TEAのような反応促進効果の低い触媒を用いると、反応用高圧配管を長くしても反応促進効果は低いことが分かる。
【0064】
実施例3、4と比較例1を比較すると(同一触媒、同一時間、ほぼ同一温度)、実施例3、4では置換度が向上しているため、超高圧処理をすることによりアセチル化の反応促進効果があると考えられる。なお、比較例1では、アセチル化とCNF化(解繊)の同時処理を行うことはできない。
【0065】
[結論]
本発明の製造装置および分散液の製造方法、ならびにナノファイバーの製造方法を用いることで、化学修飾とCNF化の同時進行が可能であることがわかる。