【解決手段】本発明に係る分析方法は、繊維と無機粒子を含む構造体の評価方法であって、(A)走査型電子顕微鏡を用いて繊維構造体表面の2次元画像を取得する工程、(B)取得した画像について、コントラスト値のノイズを除去する工程、(C)ノイズを除去した後のコントラスト値の標準偏差を算出する工程、を有する。
前記無機粒子の少なくとも一部がカルシウム、ケイ酸、マグネシウム、バリウム、アルミニウムの金属塩、あるいはチタン、銅、亜鉛を含む金属粒子である、請求項1または2に記載の繊維構造体。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、繊維と無機粒子を含む構造体およびその分析方法に関する。
【0012】
(走査型電子顕微鏡画像の取得工程)
本発明では、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した画像を分析に用いる。観察に光学顕微鏡、レーザー顕微鏡、マイクロスコープを用いた場合は、繊維と無機物のコントラストの違いを明確にしづらく、これを明確にするためには繊維と無機物のいずれかを染色するなどの前処理が必要となり手順が煩雑となる。また透過型電子顕微鏡(TEM)は画像コントラストの点では有用であるが、試料を薄片化する工程が難しく、大きな手間となる。これらに対して、SEMは繊維と無機物のコントラストの違いを見分けやすく、サンプルの作製も容易で、熟練度が低い者でも簡単に観察が可能なことから検討に適している。
【0013】
本発明で使用するSEMの種類は特に限られず、熱電子放出型、電界放射型(FE)、熱電界放出型(TFE)、ショットキー放出型(SE)のいずれも好適に用いることができる。
【0014】
SEMで観察する際には、試料の帯電(チャージアップ)を防ぐためにあらかじめ導電処理を行う事もできる。導電処理には、金、白金、白金パラジウム等の金属微粒子を蒸着するイオンスパッター、炭素を蒸着するカーボンコーター、四酸化オスミウムを蒸着するオスミウムコーターなどの蒸着装置を用いることができる。導電処理を必要としない低真空モードで観察する場合以外は、上記いずれかの方法で導電処理することが好ましい。
【0015】
SEMで観察する試料は、10〜2000g/m
2もしくは厚さにして20μm〜5000μm(5mm)であることが好ましい。厚みが大きい繊維構造体に関しては、SEMで観察する試料の表面性に影響がないように厚さ方向で分割することができる。肉厚のサンプルだと観察時に試料が帯電して観察が難しくなるためである。
【0016】
一つの態様において、SEM観察を行う試料は3mm×3mm以上の大きさに切り取り、両面テープで試料台に固定して観察する。観察の倍率は50〜100000倍で任意に行うことができる。本発明では100〜1000倍が好ましく、500倍が特に好ましい。100〜1000倍であると、繊維表面の様子や無機物の分布を観察しやすい。
【0017】
観察のモードは二次電子、反射電子のいずれでもよい。二次電子を観察することで、シートの表面状態を鮮明に観察できる。一方、反射電子を観察することで繊維分と無機分の組成の違いをより厳密にコントラストの差として観察できる。
【0018】
(SEM画像のコントラスト値からノイズ除去する工程)
電子顕微鏡で観察した画像は、コントラストが極度に高いもしくは低い部分(ノイズ)を除去する。ノイズの除去は、例えば、任意の画像処理ソフトに取り込んで実施することができる。画像処理ソフトとしては、例えば、ImageJ(アメリカ国立衛生研究所)を好適に用いることができる。
【0019】
SEMで取得した2次元画像は、コントラスト(明度)が極度に高いもしくは低い部分(ノイズ)が存在するため、そのまま解析するとそれらのノイズに解析値が影響を受けてしまう。よって、本発明では、SEMで撮影した2次元画像からノイズを除去する。ノイズ除去の方法はいろいろあるが、例えば、メディアン(中央値)フィルターや平均値フィルターを用いることが可能である。このメディアンフィルターは、全ピクセル(画素)をそのピクセルの近傍(範囲は任意に設定可能)の中央値に置き換える作用を有している。この他にも平均値フィルターを用いることもでき、この場合は全ピクセルがそのピクセルの近傍の平均値に置き換えられる。解析ソフトとしてImageJを用いる場合、「Process」のタブから「Noise」を選択し、さらに「Despeckle」(メディアンフィルター)を選択することにより、全ピクセルがその近傍の3×3ピクセルの中央値(5番目の値)に置き換えられる。
【0020】
(コントラストの標準偏差(σ)を算出する工程)
続いて、ノイズを除去した画像について、コントラストの標準偏差(σ)を算出する。その際、ノイズを除去した画像について、そのコントラスト(輝度の濃淡)をヒストグラム化することが好ましい。本発明におけるヒストグラムとは、横軸に濃淡レベル、縦軸にピクセル数を取ったグラフである。ヒストグラム化については、画像処理ソフトを用いて行うことができる。ImageJを用いる場合は、「Analyze」のタブから「Histogram」を選択するとその画像のヒストグラムが表示される。標準偏差は、得られたヒストグラムを描く元となった数値データ(ノイズ除去後のコントラスト値)から算出することが可能であり、ImageJを用いる場合は、ヒストグラムの表示の下側に「StdDev」として標準偏差が表示される。
【0021】
複合繊維を含む繊維構造体
本発明に係る分析方法は、繊維と無機粒子を含む構造体を分析対象とする。分析対象である繊維構造体は、複合繊維などの繊維や無機粒子を含んで構成され、例えば、モールド、シート、ボード、ブロックなどの様々な形状を有することができ、例えば、メッシュ状部材を用いて、繊維を含むスラリーを脱水することによって様々な形状に成形することができる。
【0022】
繊維と無機粒子を含む構造体は、上述したように、モールドやブロックのように厚みが大きいものについては、必要に応じて表層だけを分割して観察することができる。分割の方法は特に限定されず、例えばカッターのようなもので表層と並行に切り裂くことで分割することが可能である。
【0023】
SEMで観察する試料は、観察面ができる限り平滑であることが望ましい。観察面の凹凸が大きいと、顕微鏡で観察する際にその凹凸がコントラストとなってしまい、画像解析でコントラストを標準偏差にした時の値に影響を与える可能性があるためである。凹凸の大きいサンプルを扱う際には、観察用にサンプル片を切り出す前もしくは後のいずれか適するタイミングでプレスすると良い。プレスの方法は特に限定されず、平滑なプレートに挟んで手や重りで荷重をかけて押しつぶすこともできるし、プレス機やカレンダーのような機械に通して押しつぶすこともできる。
【0024】
一つの好ましい態様において、本発明は、繊維と無機粒子を含む繊維構造体であり、上記方法によって特定したコントラスト値の標準偏差が33以下である。繊維構造体はシート形状であることが好ましく、コントラスト値の標準偏差は両面共に33以下であることが好ましく、32.5以下がより好ましく、32.0以下であってもよい。コントラスト値の下限は特にないが、例えば、25以上とすることができる。
【0025】
本発明に係る評価方法は、種々の用途に用いられる繊維構造体を分析対象とすることができ、例えば、紙、繊維、セルロース系複合材料、フィルター材料、塗料、プラスチックやその他の樹脂、ゴム、エラストマー、セラミック、ガラス、タイヤ、建築材料(アスファルト、アスベスト、セメント、ボード、コンクリート、れんが、タイル、合板、繊維板、天井材、壁材、床材、屋根材など)、家具、自動車部材、各種担体(触媒担体、医薬担体、農薬担体、微生物担体など)、吸着剤(不純物除去、消臭、除湿など)、抗菌材、抗ウイルス剤、しわ防止剤、粘土、研磨材、摩擦材、改質剤、補修材、断熱材、耐熱材、放熱材、防湿材、撥水材、耐水材、遮光材、シーラント、シールド材、防虫剤、接着剤、医用材料、ペースト材料、変色防止剤、電波吸収材、絶縁材、遮音材、インテリア材、防振材、半導体封止材、放射線遮断材、材料等のあらゆる用途に広く使用することができる。また、前記用途における各種充填剤、コーティング剤などに用いることができる。このうち、吸着剤、抗菌材、抗ウイルス剤、摩擦材、放射線遮蔽材、難燃材料、建築材料、断熱材が好ましい。
【0026】
本発明の評価方法は、紙などの繊維構造体を分析対象としてもよく、例えば、印刷用紙、新聞紙、インクジェット用紙、PPC用紙、クラフト紙、上質紙、コート紙、微塗工紙、包装紙、薄葉紙、色上質紙、キャストコート紙、ノンカーボン紙、ラベル用紙、感熱紙、各種ファンシーペーパー、水溶紙、剥離紙、工程紙、壁紙用原紙、難燃紙(不燃紙)、積層板原紙、プリンテッドエレクトロニクス用紙、バッテリー用セパレータ、クッション紙、トレーシングペーパー、含浸紙、ODP用紙、建材用紙、化粧材用紙、封筒用紙、テープ用紙、熱交換用紙、化繊紙、減菌紙、耐水紙、耐油紙、耐熱紙、光触媒紙、化粧紙(脂取り紙など)、各種衛生紙(トイレットペーパー、ティッシュペーパー、ワイパー、おむつ、生理用品等)、たばこ用紙、板紙(ライナー、中芯原紙、白板紙など)、紙皿原紙、カップ原紙、ベーキング用紙、研磨紙、合成紙などが挙げられる。すなわち、単に無機粒子を繊維に配合した場合と異なり、無機粒子を繊維と複合体化しておくと、無機粒子がシートに歩留易いだけでなく、凝集せずに均一に分散したシートを得ることができるが、本発明によれば、これらのシートを簡単に分析することができる。
【0027】
本発明においては、上述のように様々な成形物(体)を分析することが可能である。例えば、シート形状を有する繊維構造体を製造する場合、その製造装置である抄紙機(抄造機)としては、例えば長網抄紙機、丸網抄紙機、ギャップフォーマ、ハイブリッドフォーマ、多層抄紙機、これらの機器の抄紙方式を組合せた公知の抄造機などが挙げられる。抄紙機におけるプレス線圧、後段でカレンダー処理を行う場合のカレンダー線圧は、いずれも操業性や複合繊維シートの性能に支障を来さない範囲内で定めることができる。また、形成されたシートに対して含浸や塗布により澱粉や各種ポリマー、顔料およびそれらの混合物を付与しても良い。
【0028】
シート形状を有する繊維構造体を製造する場合、シート化の際には湿潤および/または乾燥紙力剤(紙力増強剤)を添加することができる。これにより、複合繊維シートの強度を向上させることができる。紙力剤としては例えば、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミド、ポリアミン、エピクロロヒドリン樹脂、植物性ガム、ラテックス、ポリエチレンイミン、グリオキサール、ガム、マンノガラクタンポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルアミン、ポリビニルアルコール等の樹脂;上記樹脂から選ばれる2種以上からなる複合ポリマー又は共重合ポリマー;澱粉及び加工澱粉;カルボキシメチルセルロース、グアーガム、尿素樹脂等が挙げられる。紙力剤の添加量は特に限定されない。
【0029】
また、填料の繊維への定着を促したり、填料や繊維の歩留を向上させたりするために、高分子ポリマーや無機物を添加することもできる。
【0030】
例えば凝結剤として、ポリエチレンイミンおよび第三級および/または四級アンモニウム基を含む改質ポリエチレンイミン、ポリアルキレンイミン、ジシアンジアミドポリマー、ポリアミン、ポリアミン/エピクロヒドリン重合体、並びにジアルキルジアリル第四級アンモニウムモノマー、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド及びジアルキルアミノアルキルメタクリルアミドとアクリルアミドの重合体、モノアミン類とエピハロヒドリンからなる重合体、ポリビニルアミン及びビニルアミン部を持つ重合体やこれらの混合物などのカチオン性のポリマーに加え、前記ポリマーの分子内にカルボキシル基やスルホン基などのアニオン基を共重合したカチオンリッチな両イオン性ポリマー、カチオン性ポリマーとアニオン性または両イオン性ポリマーとの混合物などを用いることができる。また歩留剤として、カチオン性またはアニオン性、両性ポリアクリルアミド系物質を用いることができる。また、これらに加えて少なくとも一種以上のカチオンやアニオン性のポリマーを併用する、いわゆるデュアルポリマーと呼ばれる歩留りシステムを適用することもでき、少なくとも一種類以上のアニオン性のベントナイトやコロイダルシリカ、ポリ珪酸、ポリ珪酸もしくはポリ珪酸塩ミクロゲルおよびこれらのアルミニウム改質物などの無機微粒子や、アクリルアミドが架橋重合したいわゆるマイクロポリマーといわれる粒径100μm以下の有機系の微粒子を一種以上併用する多成分歩留りシステムであってもよい。特に単独または組合せで使用するポリアクリルアミド系物質が、極限粘度法による重量平均分子量が200万ダルトン以上である場合、良好な歩留りを得ることができ、好ましくは、500万ダルトン以上であり、更に好ましくは1000万ダルトン以上3000万ダルトン未満の上記アクリルアミド系物質である場合に非常に高い歩留りを得ることが出来る。このポリアクリルアミド系物質の形態はエマルジョン型でも溶液型であっても構わない。この具体的な組成としては、該物質中にアクリルアミドモノマーユニットを構造単位として含むものであれば特に限定はないが、例えば、アクリル酸エステルの4級アンモニウム塩とアクリルアミドとの共重合物、あるいはアクリルアミドとアクリル酸エステルを共重合させた後、4級化したアンモニウム塩が挙げられる。該カチオン性ポリアクリルアミド系物質のカチオン電荷密度は特には限定されない。
【0031】
本発明においては、上記の内添薬品(乾燥紙力剤、湿潤紙力剤、凝結剤、歩留剤など)として電荷密度が高すぎないものを用いることが好ましい。電荷密度が高いものを用いると、無機粒子がパルプ表面に定着する力(結合力)よりも無機粒子同士を凝集させる力の方が大きく働くため、薬品の添加によって合成後の繊維複合体の表面から無機粒子が脱離することがあるためである。好ましい電荷密度の範囲としては−6〜+6meq/g、より好ましくは−4〜+4meq/g、特に好ましくは−2〜+2meq/gである。またこれら内添薬品の分子量も、繊維複合体の表面からの無機粒子の脱離に影響することがある。分子量が500万ダルトン以上の薬品の場合は、多量に添加した場合においても繊維複合体の表面から無機粒子は脱離しづらいが、分子量が500万ダルトン未満の場合には脱離が起こりやすくなることがある。したがって、分子量が500万ダルトン未満で高電荷密度の薬品を用いる場合は、その添加量を適切に管理する必要がある。適切な添加量は、複合化されている無機物の種類や用いる薬品の分子構造によっても異なるが、例えば分子量が500万ダルトン未満かつ電荷密度の絶対値が2.1以上の薬品を用いる場合の添加率の目安としては、繊維複合体の固形分に対して1%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.2%以下である。この添加率は0.1%以下や0.05%(500ppm)以下、0.03%(300ppm)以下とすることもできる。
【0032】
その他、目的に応じて、濾水性向上剤、内添サイズ剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、嵩高剤、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、シリカなどの無機粒子(いわゆる填料)等が挙げられる。各添加剤の使用量は特に限定されない。
【0033】
シートの基本重量(坪量:1平方mあたりの重量)は、目的に応じて適宜調整できるが、例えば建材として用いる場合には、60〜1200g/m
2とすると強度が強く、また、製造時の乾燥負荷が低いため良好である。また、シートの坪量は、1200g/m
2以上とすることもでき、例えば2000〜110000g/m
2とすることもできる。さらに60g/m
2以下とすると紙製または不織布製等の、ワイパー(湿式、乾式)、ティシューやタオルなどの衛生用品に好適に用いることもができる。例えば10〜60g/m
2とすることもできる。
【0034】
本発明に係る繊維構造体は、例えば、メッシュ状部材を用いて、繊維を含むスラリーを脱水することによって様々な形状に成形することができる。本発明の分析対象である繊維構造体は、シート化以外の成形法を用いて製造することも可能であり、例えば、モールド成形と呼ばれるように鋳型(モールド)に原料を流し込んで吸引脱水・乾燥させる方法や、フォーム成形(発泡成形)のように発泡させて成型物を得ることもできる。その他にも、樹脂や金属などの基材の表面に塗り広げて乾燥後、基材から剥離する方法などによって、シート形状を有する成形物を得ることができる。
【0035】
また、一般にセメントや石膏などの無機質ボードを作成するのに用いられるような加圧・加熱プレス成形でボード状にしたり、ブロック状に成形したりすることもできる。一般に、シートは、折り曲げたり、巻き取れたりするものであるが、より強度が必要な場合には、ボード状にすることができる。ボードには成形時の鋳型もしくは成形後のプレス加工によって任意の凹凸をつけることも可能である。このように意匠性を持たせたものは、壁材や天井材、床材、家具等のインテリア用の材料などとして好適に用いることができる。また、厚みのある塊であるブロック状に成形することも可能であり、例えば、直方体や立方体などに成形することができる。
【0036】
本発明の分析対象である繊維構造体には、1種類の複合繊維のみを用いることもできるし、2種類以上の複合繊維を混合して用いることもできる。2種類以上を用いる場合は、予めそれらを混合したものを用いることもできるし、それぞれを配合・乾燥・成形したものを後から混合することもできる。
【0037】
また、複合繊維を含む成形物に後からポリマーなどの各種有機物や顔料などの各種無機物を付与したものを分析対象としても良い。
【0038】
本発明によれば、繊維構造体に印刷を施したものを分析対象とすることができる。この印刷方法は特に限定されるものではいが、例えば、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、マイクログラビア印刷、フレキソ印刷、活版印刷、シール印刷、フォーム印刷、オンデマンド印刷、ファニッシャーロール印刷、インクジェット印刷等の公知の方式で行うことができる。この中でもインクジェト印刷は、オフセット印刷のように版下を作製する必要がなく、インクジェットプリンターの大型化が比較的容易であるため、大型シートへの印刷も可能であるため好ましい。また、フレキソ印刷は表面の凹凸が比較的大きい成形物にも好適に印刷できるため、ボードやモールド、ブロックのような形状に成形した際にも好適に用いることができる。
【0039】
また、印刷によって形成される印刷画像の絵柄の種類は特に限定されるものではなく、例えば木目柄、石目柄、布目柄、抽象柄、幾何学模様、文字、記号、又はこれらの組み合わせ等、所望により任意であり、単色無地であってもよい。
【0040】
複合繊維の合成
無機粒子との複合繊維は、繊維表面の15%以上が無機粒子で被覆されるような量で使用することが好ましいが、例えば、繊維と無機粒子の重量比を、5/95〜95/5とすることができ、10/90〜90/10、20/80〜80/20、30/70〜70/30、40/60〜60/40としてもよい。
【0041】
本発明に係る複合繊維は、好ましい態様において、繊維表面の15%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上、よりさらに好ましくは75%以上が無機粒子で被覆されており、このような面積率でセルロース繊維表面が被覆されていると無機粒子に起因する特徴が大きく生じるようになる一方、繊維表面に起因する特徴が小さくなる。
【0042】
無機粒子と繊維との複合繊維は、例えば、セルロース繊維などの繊維を含む溶液中で無機粒子を合成することによって複合繊維を合成することができる。繊維表面が、無機粒子の析出における好適な場となり、複合繊維を合成しやすいためである。複合繊維の合成方法としては、例えば、繊維と無機粒子の前駆体を含む溶液を開放型の反応槽中で撹拌、混合して複合体を合成してもよいし、繊維と無機粒子の前駆体を含む水性懸濁液を反応容器内に噴射することによって合成してもよい。後述するが、無機物の前駆体の水性懸濁液を反応容器内に噴射する際に、キャビテーション気泡を発生させ、その存在下で無機粒子を合成してもよい。無機粒子は、それぞれ、公知の反応によってセルロース繊維上に合成することができる。
【0043】
一般的に、無機粒子の生成は、クラスター状態(集まる原子・分子数が少ない段階で、集合と離散を繰り返す)から、核(クラスターから安定な集合状態に移行し、臨界サイズ以上になると捕まった原子・分子が離散しなくなる)、そして成長(核に新たな原子・分子が集まり粒子が大きくなる)の過程を経ることが知られており、原料濃度や反応温度が高いほど、核生成が起こりやすいと言われている。本願発明の複合繊維は、主に原料濃度、パルプの叩解度(比表面積)、繊維を含む溶液の粘性、添加薬品の濃度および添加スピード、反応温度、撹拌スピードを調整することで、繊維上に効率的に核を結着させることにより、セルロース繊維表面が無機粒子で強く被覆された複合繊維を得ることができる。
【0044】
本発明においては、反応容器内にキャビテーション気泡を生じさせるような条件で液体を噴射してもよいし、キャビテーション気泡を生じさせないような条件で噴射してもよい。また、反応容器はいずれの場合においても圧力容器であることが好ましい。なお、本発明における圧力容器とは0.005MPa以上の圧力をかけることのできる容器のことである。キャビテーション気泡を生じさせないような条件の場合、圧力容器内の圧力は、静圧で0.005MPa以上0.9MPa以下であることが好ましい。
【0045】
(キャビテーション気泡)
本発明に係る複合繊維を合成する場合、キャビテーション気泡の存在下で無機粒子を析出させることができる。本発明においてキャビテーションとは、流体の流れの中で圧力差により短時間に泡の発生と消滅が起きる物理現象であり、空洞現象とも言われる。キャビテーションによって生じる気泡(キャビテーション気泡)は、流体の中で圧力がごく短時間だけ飽和蒸気圧より低くなったとき、液体中に存在する100ミクロン以下のごく微小な「気泡核」を核として生じる。
【0046】
本発明においてキャビテーション気泡は、公知の方法によって反応容器内に発生させることができる。例えば、流体を高圧で噴射することによってキャビテーション気泡を発生させること、流体内で高速で攪拌することによってキャビテーションを発生させること、流体内で爆発を生じさせることによってキャビテーションを発生させること、超音波振動子によってキャビテーションを発生させること(バイブトラリー・キャビテーション)などが考えられる。
【0047】
本発明においては、原料などの反応溶液をそのまま噴射液体として用いてキャビテーションを発生させることもできるし、反応容器内に何らかの流体を噴射してキャビテーション気泡を発生させることもできる。液体噴流が噴流をなす流体は、流動状態であれば液体、気体、粉体やパルプ等の固体の何れでもよく、またそれらの混合物であってもよい。更に必要であれば上記の流体に、新たな流体として、炭酸ガスなど、別の流体を加えることができる。上記流体と新たな流体は、均一に混合して噴射してもよいが、別個に噴射してもよい。
【0048】
液体噴流とは、液体または液体の中に固体粒子や気体が分散あるいは混在する流体の噴流であり、パルプや無機粒子の原料スラリーや気泡を含む液体噴流のことをいう。ここで云う気体は、キャビテーションによる気泡を含んでいてもよい。
【0049】
キャビテーションは液体が加速され、局所的な圧力がその液体の蒸気圧より低くなったときに発生するため、流速及び圧力が特に重要となる。このことから、キャビテーション状態を表わす基本的な無次元数、キャビテーション数(Cavitation Number)σは、0.001以上0.5以下であることが望ましく、0.003以上0.2以下であることが好ましく、0.01以上0.1以下であることが特に好ましい。キャビテーション数σが0.001未満である場合、キャビテーション気泡が崩壊する時の周囲との圧力差が低いため効果が小さくなり、0.5より大である場合は、流れの圧力差が低くキャビテーションが発生し難くなる。
【0050】
また、ノズルまたはオリフィス管を通じて噴射液を噴射してキャビテーションを発生させる際には、噴射液の圧力(上流側圧力)は0.01MPa以上30MPa以下であることが望ましく、0.7MPa以上20MPa以下であることが好ましく、2MPa以上15MPa以下がより好ましい。上流側圧力が0.01MPa未満では下流側圧力との間で圧力差を生じ難く作用効果は小さい。また、30MPaより高い場合、特殊なポンプ及び圧力容器を必要とし、消費エネルギーが大きくなることからコスト的に不利である。一方、容器内の圧力(下流側圧力)は静圧で0.005MPa以上0.9MPa以下が好ましい。また、容器内の圧力と噴射液の圧力との比は0.001〜0.5の範囲が好ましい。
【0051】
本発明において、キャビテーション気泡が発生しないような条件で噴射液を噴射して無機粒子を合成することもできる。具体的には、噴射液の圧力(上流側圧力)を2MPa以下、好ましくは1MPa以下とし、噴射液の圧力(下流側圧力)を開放し、0.05MPa以下とすることがより好ましい。
【0052】
噴射液の噴流の速度は1m/秒以上200m/秒以下の範囲であることが望ましく、20m/秒以上100m/秒以下の範囲であることが好ましい。噴流の速度が1m/秒未満である場合、圧力低下が低く、キャビテーションが発生し難いため、その効果は弱い。一方、200m/秒より大きい場合、高圧を要し特別な装置が必要であり、コスト的に不利である。
【0053】
本発明におけるキャビテーション発生場所は、無機粒子を合成する反応容器内に発生させればよい。また、ワンパスで処理することも可能であるが、必要回数だけ循環することもできる。さらに複数の発生手段を用いて並列で、あるいは順列で処理することができる。
【0054】
キャビテーションを発生させるための液体の噴射は、大気開放の容器の中でなされても良いが、キャビテーションをコントロールするために圧力容器の中でなされるのが好ましい。
【0055】
液体噴射によってキャビテーションを発生させる場合、反応溶液の固形分濃度は30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下がより好ましい。このような濃度であると、キャビテーション気泡を反応系に均一に作用させやすくなるためである。また、反応溶液である消石灰の水性懸濁液は、反応効率の点から、固形分濃度が0.1重量%以上であることが好ましい。
【0056】
本発明において例えば炭酸カルシウムとセルロース繊維との複合体を合成する場合、反応液のpHは、反応開始時は塩基性側であるが炭酸化反応が進行するにしたがって中性に変化する。したがって、反応液のpHをモニターすることによって反応を制御することができる。
【0057】
本発明では、液体の噴射圧力を高めることで、噴射液の流速が増大し、これに伴って圧力が低下し、より強力なキャビテーションが発生させることができる。また、反応容器内の圧力を加圧することで、キャビテーション気泡が崩壊する領域の圧力が高くなり、気泡と周囲の圧力差が大きくなるため気泡は激しく崩壊し衝撃力を大きくすることができる。更には導入する炭酸ガスの溶解と分散を促進することができる。反応温度は0℃以上90℃以下であることが好ましく、特に10℃以上60℃以下であることが好ましい。一般には、融点と沸点の中間点で衝撃力が最大となると考えられることから、水性溶液の場合、50℃前後が好適であるが、それ以下の温度であっても、蒸気圧の影響を受けないため、上記の範囲であれば高い効果が得られる。
【0058】
炭酸ガスを含むウルトラファインバブル
本発明に係る製法においては、炭酸ガスを含むウルトラファインバブル(平均粒径が1000nm以下の微細気泡、UFB)の存在下で、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムなどの無機粒子を合成する。本発明においては、反応容器内に炭酸ガスを含む気体と液体を噴射することによって炭酸ガスを含むウルトラファインバブルを発生させるが、ウルトラファインバブルの平均粒子径は1000nm以下であれば特に制限されず、好ましくは1〜800nmであり、より好ましくは10〜500nmであり、50〜300nmとしてもよい。本発明においては、高い圧力で液体を噴射することによってキャビテーション気泡を発生させる必要がないので、大きなエネルギーを消費することなく炭酸カルシウムなどの無機粒子を合成することが可能になる。
【0059】
また、炭酸ガスを含むウルトラファインバブルは、ウルトラファインバブルを発生させてからウルトラファインバブルが消失するまで、系中に10秒以上存在しうるものであることが好ましく、60秒以上存在しうるものであることがより好ましい。中でも、本発明に係るウルトラファインバブルは、5分間以上、系中に存在しうるものがさらに好ましく、15分間以上存在しうるものが特に好ましく、60分以上存在しうるものであってもよい。長時間にわたって系中に存在しうるウルトラファインバブルであると、反応液に炭酸ガスを含む気泡が長時間滞留できることになるため、微細な無機炭酸塩粒子を効率的に製造することが可能になる。
【0060】
ウルトラファインバブルは、公知の製造方法に従って発生させることができる。例えば、気液混合せん断式、スタティックミキサー式、ベンチュリ式、キャビテーション式、蒸気凝縮式、超音波式、旋回噴流式、加圧溶解式、微細孔式などの方法によって製造することができる。これらの中でも、気液混合せん断式や旋回噴流式によれば、ポンプなどを用いて簡便にウルトラファインバブルを発生させることができるため好ましい。好ましい態様において、二酸化炭素は吸気部より自然吸気により取り入れることができる(自吸式)。
【0061】
なお、キャビテーションとは、流体の流れの中で圧力差により短時間に泡の発生と消滅が起きる物理現象であり、空洞現象とも言われる。キャビテーションによって生じる気泡(キャビテーション気泡)は、流体の中で圧力がごく短時間だけ飽和蒸気圧より低くなったとき、液体中に存在する100ミクロン以下のごく微小な「気泡核」を核として生じる。キャビテーション気泡は、公知の方法によって反応容器内に発生させることができるものの、従来の方法は大きなエネルギーを要するものであり、効率がよいとはいえなかった。例えば、流体を高圧で噴射することによってキャビテーション気泡を発生させること、流体内で高速で攪拌することによってキャビテーションを発生させること、流体内で爆発を生じさせることによってキャビテーションを発生させること、超音波振動子によってキャビテーションを発生させること(バイブトラリー・キャビテーション)などが考えられる。
【0062】
本発明においては、原料などの反応溶液をそのまま噴射液体として用いてウルトラファインバブルを発生させることもできるし、反応容器内に何らかの流体を噴射してウルトラファインバブルを発生させることもできる。液体噴流が噴流をなす流体は、流動状態であれば液体、気体、粉体やパルプ等の固体の何れでもよく、またそれらの混合物であってもよい。更に必要であれば上記の流体に、新たな流体として、炭酸ガスなど、別の流体を加えることができる。上記流体と新たな流体は、均一に混合して噴射してもよいが、別個に噴射してもよい。
【0063】
液体噴流とは、液体または液体の中に固体粒子や気体が分散あるいは混在する流体の噴流であり、パルプや無機物粒子のスラリーや気泡を含む液体噴流のことをいう。本発明においては、炭酸ガスを含む気泡を含んでいてもよい。
【0064】
ウルトラファインバブルは公知の装置を用いて発生させることができるが、例えば、ノズルまたはオリフィス管を通じて噴射液を噴射して気泡を発生させる際には、ノズルから反応容器内に噴射する場所の圧力(P1、本明細書において上流側圧力ともいう)は特に制限されないが、例えば、0.05〜4.5MPaとすると好ましい。別の態様において、圧力P1を5MPa以上10MPa以下とすることもできる。上流側圧力が0.01MPa未満では反応容器出口の圧力(P2、本明細書において下流側圧力ともいう)との間で圧力差を生じ難く作用効果は小さい。また、30MPaより高い場合、特殊なポンプ及び圧力容器を必要とし、消費エネルギーが大きくなることからコスト的に不利である。一方、反応容器出口の圧力(P2)は静圧で0.005MPa以上0.9MPa以下が好ましい。また、容器内の圧力と噴射液の圧力との比(P2/P1)は0.001〜0.5の範囲が好ましい。なお、圧力(動圧)は、圧力計を用いて測定することができる。
【0065】
炭酸ガスを含む気体と液体とをノズルから噴射する際の流速は、100〜640L/min・cm
2とすることが好ましく、100〜300L/min・cm
2としてもよい。噴射液の噴流の速度は1m/秒以上200m/秒以下の範囲であることが望ましく、20m/秒以上100m/秒以下の範囲であることが好ましい。噴流の速度が1m/秒未満である場合、圧力低下が低く、ウルトラファインバブルが発生し難いため、その効果は弱い。一方、200m/秒より大きい場合、高圧を要し特別な装置が必要であり、コスト的に不利である。
【0066】
本発明における気泡の発生場所は、炭酸ガス法による反応が生じる反応容器内に発生させればよい。また、ワンパスで処理することも可能であるが、必要回数だけ循環することもできる。さらに複数の発生手段を用いて並列で、あるいは順列で処理することができる。
【0067】
液体の噴射は、大気開放の容器の中でなされても良いが、密閉された圧力容器の中でなされるのが好ましい。
【0068】
液体噴射によってウルトラファインバブルを発生させる場合、反応溶液である消石灰の水性懸濁液の固形分濃度は30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下がより好ましい。このような濃度であると、気泡を反応系に均一に作用させやすくなるためである。また、反応溶液である消石灰の水性懸濁液は、反応効率の点から、固形分濃度が0.1重量%以上であることが好ましい。
【0069】
本発明において、反応液のpHは、反応開始時は塩基性側であるが炭酸化反応が進行するにしたがって中性に変化する。したがって、反応液のpHをモニターすることによって反応を制御することができる。
【0070】
本発明では、反応温度は0℃以上90℃以下であることが好ましく、特に10℃以上60℃以下であることが好ましい。一般には、融点と沸点の中間点で衝撃力が最大となると考えられることから、水性溶液の場合、50℃前後が好適であるが、それ以下の温度であっても、蒸気圧の影響を受けないため、上記の範囲であれば高い効果が得られる。
【0071】
本発明においては、界面活性剤を添加することでウルトラファインバブルを発生させるために必要なエネルギーを低減することができる。使用する界面活性剤としては、公知または新規の界面活性剤、例えば、脂肪酸塩、高級アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール、アルキルフェノール、脂肪酸などのアルキレンオキシド付加物などの非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。これらの単一成分からなるものでも、2種以上の成分の混合物でも良い。添加量は噴射液及び/または被噴射液の表面張力を低下させるために必要な量であればよい。
【0072】
本発明では、反応液の電導度や反応時間によって反応を制御することができ、具体的には、反応物が反応槽に滞留する時間を調整して制御することができる。その他、本発明においては、反応槽の反応液を攪拌したり、反応を多段反応としたりすることによって反応を制御することもできる。
【0073】
本発明の複合繊維は、公知の方法によって改質することが可能である。例えば、ある態様においては、その表面を疎水化し、樹脂などとの混和性を高めたりすることが可能である。
【0074】
本発明においては、懸濁液の調製などに水を使用するが、この水としては、通常の水道水、工業用水、地下水、井戸水などを用いることができる他、イオン交換水や蒸留水、超純水、工業廃水、反応液を分離・脱水する際に得られる水を好適に用いることできる。
【0075】
また本発明においては、反応槽の反応液を循環させて使用することができる。このように反応液を循環させて、溶液の撹拌を促すことにより、反応効率を上げ、所望の無機粒子と繊維の複合体を得ることが容易になる。
【0076】
(無機粒子)
本発明において、繊維と複合化する無機粒子は特に制限されないが、水に不溶性または難溶性の無機粒子であることが好ましい。無機粒子の合成を水系で行う場合があり、また、繊維複合体を水系で使用することもあるため、無機粒子が水に不溶性または難溶性であると好ましい。
【0077】
ここで言う無機粒子とは、金属元素もしくは非金属元素の化合物のことを言う。金属元素の化合物とは、金属の陽イオン(例えば、Na
+、Ca
2+、Mg
2+、Al
3+、Ba
2+など)と陰イオン(例えば、O
2-、OH
-、CO
32-、PO
43-、SO
42-、NO
3-、Si
2O
32-、SiO
32-、Cl
-、F
-、S
2-など)がイオン結合によって結合してできた、一般に無機塩と呼ばれるものを言う。非金属元素の化合物とは、ケイ酸(SiO
2)などである。本発明において、無機粒子の少なくとも一部が、カルシウム、マグネシウムまたはバリウムの金属塩、または、無機粒子の少なくとも一部が、ケイ酸、またはアルミニウムの金属塩、あるいはチタン、銅、銀、鉄、マンガン、セリウムまたは亜鉛を含む金属粒子であることが好ましい。
【0078】
これら無機粒子の合成法は公知の方法によることができ、気液法と液液法のいずれでも良い。気液法の一例としては炭酸ガス法があり、例えば水酸化マグネシウムと炭酸ガスを反応させることで、炭酸マグネシウムを合成することができる。液液法の例としては、酸(塩酸、硫酸など)と塩基(水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなど)を中和によって反応させたり、無機塩と酸もしくは塩基を反応させたり、無機塩同士を反応させたりする方法が挙げられる。例えば、水酸化バリウムと硫酸を反応させることで硫酸バリウムを得たり、硫酸アルミニウムと水酸化ナトリウムを反応させることで水酸化アルミニウムを得たり、炭酸カルシウムと硫酸アルミニウムを反応させることでカルシウムとアルミニウムが複合化した無機粒子を得ることができる。また、このようにして無機粒子を合成する際、反応液中に任意の金属や非金属化合物を共存させることもでき、この場合はそれらの金属もしくは非金属化合物が無機粒子中に効率よく取り込まれ、複合化できる。例えば、炭酸カルシウムにリン酸を添加してリン酸カルシウムを合成する際に、二酸化チタンを反応液中に共存させることで、リン酸カルシウムとチタンの複合粒子を得ることができる。
【0079】
一つの好ましい態様として、本発明の複合繊維における無機粒子の平均一次粒子径を、例えば、1.5μm以下とすることができるが、平均一次粒子径を1200nm以下や900nm以下にすることもでき、さらには平均一次粒子径が200nm以下や150nm以下にすることもできる。また、無機粒子の平均一次粒子径は10nm以上とすることも可能である。なお、平均一次粒子径は電子顕微鏡写真で測定することができる。
【0080】
(炭酸カルシウム)
炭酸カルシウムを合成する場合であれば、例えば、炭酸ガス法、可溶性塩反応法、石灰・ソーダ法、ソーダ法などによって炭酸カルシウムを合成することができ、好ましい態様において、炭酸ガス法によって炭酸カルシウムを合成する。
【0081】
一般に、炭酸ガス法によって炭酸カルシウムを製造する場合、カルシウム源として石灰(ライム)が使用され、生石灰CaOに水を加えて消石灰Ca(OH)
2を得る消和工程と、消石灰に炭酸ガスCO
2を吹き込んで炭酸カルシウムCaCO
3を得る炭酸化工程とによって炭酸カルシウムが合成される。この際、生石灰に水を加えて調製した消石灰の懸濁液をスクリーンに通して、懸濁液中に含まれる低溶解性の石灰粒を除去してもよい。また、消石灰を直接カルシウム源としてもよい。本発明において炭酸ガス法によって炭酸カルシウムを合成する場合、キャビテーション気泡の存在下で炭酸化反応を行うこともできる。
【0082】
炭酸カルシウムの合成では、反応液中の原料(Caイオン、CO
3イオン)が高濃度であるほど、また、低温条件であるほど、核形成反応が進みやすいが、複合繊維を製造する場合、このような条件下では、セルロース繊維に核が定着されにくく、懸濁液中で遊離した無機粒子が合成されやすい。したがって、炭酸カルシウムが強固に結着した複合繊維を製造するには、核形成反応を適切に制御することが重要となる。具体的には、Caイオンおよびパルプ濃度の適正化と、CO
2の時間当たりの供給量を緩やかにすることで、これを達成できる。例えば、反応容器中のCaイオン濃度は、0.01mol/L以上0.40mol/L未満が好ましい。0.01mol/L未満だと反応が進行しにくく、0.40mol/L以上では懸濁液中で遊離した無機粒子が合成されやすい。パルプ濃度は、0.5%以上4.0%未満が好ましい。0.5%未満では繊維に原料が衝突する頻度が減るため、反応が進行しにくく、4.0%以上では攪拌不良から均一な複合体を得ることができない。CO
2の時間当たりの供給量は、反応溶液中のCaイオンの濃度との兼ね合いで決まり、反応溶液中のCaイオン濃度(M;mol/L)と反応液1Lに対する1分あたりの炭酸イオン供給量(mol/min・L)の比が5:1以上であることが望ましい。5:1よりも炭酸イオン供給量が高くなると、核形成が進行しやすくなり、懸濁液中で遊離した無機粒子が合成されやすいためである。
【0083】
(炭酸マグネシウム)
炭酸マグネシウムを合成する場合、炭酸マグネシウムの合成方法は、公知の方法によることができる。例えば、水酸化マグネシウムと炭酸ガスから重炭酸マグネシウムを合成し、重炭酸マグネシウムから正炭酸マグネシウムを経て塩基性炭酸マグネシウムを合成することができる。炭酸マグネシウムは合成方法によって重炭酸マグネシウム、正炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウムなどを得ることができるが、本発明の繊維複合体に係る炭酸マグネシウムは、塩基性炭酸マグネシムにすることが特に好ましい。なぜならば、重炭酸マグネシウムは安定性が比較的低く、柱状(針状)結晶である正炭酸マグネシウムは繊維へ定着しにくい場合があるためである。一方、繊維の存在下で塩基性炭酸マグネシウムにまで化学反応させることで、繊維表面をうろこ状などに被覆した炭酸マグネシウムと繊維の繊維複合体を得ることができる。
【0084】
また本発明においては、反応槽の反応液を循環させて使用することができる。このように反応液を循環させて、反応液と炭酸ガスとの接触を増やすことにより、反応効率を上げ、所望の無機粒子を得ることが容易になる。
【0085】
本発明においては、二酸化炭素(炭酸ガス)などのガスが反応容器に吹き込まれ、反応液と混合することができる。本発明によれば、ファン、ブロワなどの気体供給装置がなくとも炭酸ガスを反応液に供給することができ、しかも、キャビテーション気泡によって炭酸ガスが微細化されるため反応を効率よく行うことができる。
【0086】
本発明において、二酸化炭素を含む気体の二酸化炭素濃度に特に制限はないが、二酸化炭素濃度が高い方が好ましい。また、インジェクターに導入する炭酸ガスの量に制限はなく適宜選択することができる。
【0087】
本発明の二酸化炭素を含む気体は、実質的に純粋な二酸化炭素ガスでもよく、他のガスとの混合物であってもよい。例えば、二酸化炭素ガスの他に、空気、窒素などの不活性ガスを含む気体を、二酸化炭素を含む気体として用いることができる。また、二酸化炭素を含む気体としては、二酸化炭素ガス(炭酸ガス)の他、製紙工場の焼却炉、石炭ボイラー、重油ボイラーなどから排出される排ガスを二酸化炭素含有気体として好適に用いることができる。その他にも、石灰焼成工程から発生する二酸化炭素を用いて炭酸化反応を行うこともできる。
【0088】
炭酸マグネシウムの合成では、反応液中の原料(Mgイオン、CO
3イオン)が高濃度であるほど、また、高温条件であるほど、核形成反応が進みやすいが、複合繊維を製造する場合、このような条件下では、セルロース繊維に核が定着されにくく、懸濁液中で遊離した無機粒子が合成されやすい。従って、炭酸マグネシウムが強固に結着した複合繊維を製造するには、核形成反応を適切に制御することが必要となる。具体的には、Mgイオンおよびパルプ濃度の適正化と、CO
2の時間当たりの供給量を緩やかにすることで、これを達成できる。例えば、反応容器中のMgイオン濃度は、0.0001mol/L以上0.50mol/L未満が好ましい。0.0001mol/L未満だと反応が進行しにくく、0.50mol/L以上では懸濁液中で遊離した無機粒子が合成されやすい。パルプ濃度は、0.5%以上4.0%未満が好ましい。0.5%未満では繊維に原料が衝突する頻度が減るため、反応が進行しにくく、4.0%以上では攪拌不良から均一な複合体を得ることができない。CO
2の時間当たりの供給量は、反応溶液中のMgイオンの濃度との兼ね合いで決まり、反応溶液中のMgイオン濃度(M;mol/L)と反応液1Lに対する1分あたりの炭酸イオン供給量(mol/min・L)の比が20:1以上であることが望ましい。20:1よりも炭酸イオン供給量が高くなると、核形成が進行しやすくなり、懸濁液中で遊離した無機粒子が合成されやすいためである。
【0089】
(硫酸バリウム)
硫酸バリウムを合成する場合、硫酸バリウム(BaSO
4)で表されるバリウムイオンと硫酸イオンからなるイオン結晶性の化合物であり、板状あるいは柱状の形態であることが多く、水には難溶性である。純粋な硫酸バリウムは無色の結晶であるが、鉄、マンガン、ストロンチウム、カルシウムなどの不純物を含むと黄褐色または黒灰色を呈し、半透明となる。天然の鉱物としても得られるが、化学反応によって合成することもできる。特に、化学反応による合成品は医薬用(X線造影剤)に用いられるほか、化学的に安定な性質を応用して塗料、プラスチック、蓄電池等に広く使用されている。
【0090】
本発明においては、繊維の存在下で、溶液中で硫酸バリウムを合成することによって、硫酸バリウムと繊維の複合体を製造することができる。例えば、酸(硫酸など)と塩基を中和によって反応させたり、無機塩と酸もしくは塩基を反応させたり、無機塩同士を反応させたりする方法が挙げられる。例えば、水酸化バリウムと硫酸もしくは硫酸アルミニウムを反応させることで硫酸バリウムを得たり、硫酸塩の含まれる水溶液中に塩化バリウムを加えて硫酸バリウムを沈殿させたりすることができる。
【0091】
硫酸バリウムの合成では、溶液中の原料(Baイオン、SO
4イオン)が高濃度であるほど、また、高温条件であるほど、核形成反応が進みやすいが、複合繊維を製造する場合、このような条件下では、セルロース繊維に核が定着されにくく、懸濁液中で遊離した無機粒子が合成されやすい。従って、硫酸バリウムが強固に結着した複合繊維を製造するには、核形成反応を適切に制御することが必要となる。具体的には、Baイオンおよびパルプ濃度の適正化と、SO
4イオンの時間当たりの供給量を緩やかにすることで、これを達成できる。例えば、反応容器中のBaイオン濃度は、0.01mol/L以上0.20mol/L未満が好ましい。0.01mol/L未満だと反応が進行しにくく、0.20mol/L以上では懸濁液中で遊離した無機粒子が合成されやすい。パルプ濃度は、0.5%以上4.0%未満が好ましい。0.5%未満では繊維に原料が衝突する頻度が減るため、反応が進行しにくく、4.0%以上では攪拌不良から均一な複合体を得ることができない。SO
4イオンの時間当たりの供給量は、反応溶液中のBaイオンの濃度との兼ね合いで決まり、反応溶液中のBaイオン濃度(M;mol/L)と反応液1Lに対する1分あたりのSO
4イオン供給量(mol/min・L)の比が50:1以上であることが望ましい。50:1よりも炭酸イオン供給量が高くなると、核形成が進行しやすくなり、懸濁液中で遊離した無機粒子が合成されやすいためである。
【0092】
(ハイドロタルサイト)
ハイドロタルサイトを合成する場合、ハイドロタルサイトの合成方法は公知の方法によることができる。例えば、反応容器内に中間層を構成する炭酸イオンを含む炭酸塩水溶液とアルカリ溶液(水酸化ナトリウムなど)に繊維を浸漬し、次いで、酸溶液(基本層を構成する二価金属イオン及び三価金属イオンとを含む金属塩水溶液)を添加し、温度、pHなどを制御して共沈反応により、ハイドロタルサイトを合成する。また、反応容器内において、酸溶液(基本層を構成する二価金属イオン及び三価金属イオンを含む金属塩水溶液)に繊維を浸漬し、次いで、中間層を構成する炭酸イオンを含む炭酸塩水溶液とアルカリ溶液(水酸化ナトリウム等)を滴下し、温度、pH等を制御して共沈反応により、ハイドロタルサイトを合成することもできる。常圧での反応が一般的ではるが、それ以外にも、オートクレーブなどを使用しての水熱反応により得る方法もある(特開昭60−6619号公報)。
【0093】
本発明においては、基本層を構成する二価金属イオンの供給源として、マグネシウム、亜鉛、バリウム、カルシウム、鉄、銅、コバルト、ニッケル、マンガンの各種塩化物、硫化物、硝酸化物、硫酸化物を用いることができる。また、基本層を構成する三価金属イオンの供給源として、アルミニウム、鉄、クロム、ガリウムの各種塩化物、硫化物、硝酸化物、硫酸化物を用いることができる。
【0094】
本発明においては、層間陰イオンとして陰イオンとして炭酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオンなどを用いることができる。炭酸イオンを層間陰イオンとする場合、炭酸ナトリウムが供給源として使用される。ただし炭酸ナトリウムは、二酸化炭素(炭酸ガス)を含む気体で代替可能で、実質的に純粋な二酸化炭素ガスや、他のガスとの混合物であってもよい。例えば、製紙工場の焼却炉、石炭ボイラー、重油ボイラーなどから排出される排ガスを二酸化炭素含有気体として好適に用いることができる。その他にも、石灰焼成工程から発生する二酸化炭素を用いて炭酸化反応を行うこともできる。
【0095】
ハイドロタルサイトの合成では、溶液中の原料(基本層を構成する金属イオン、CO
3イオン等)が高濃度であるほど、また、高温条件であるほど、核形成反応が進みやすいが、このような条件下では、複合繊維を製造する場合、セルロース繊維に核が定着されにくく、懸濁液中で遊離した無機粒子が合成されやすい。従って、ハイドロタルサイトが強固に結着した複合繊維を製造するには、核形成反応を適切に制御することが必要となる。具体的には、CO
3イオンおよびパルプ濃度の適正化と、金属イオンの時間当たりの供給量を緩やかにすることで、これを達成できる。例えば、反応容器中のCO
3イオン濃度は、0.01mol/L以上0.80mol/L未満が好ましい。0.01mol/L未満だと反応が進行しにくく、0.80mol/L以上では懸濁液中で遊離した無機粒子が合成されやすい。パルプ濃度は、0.5%以上4.0%未満が好ましい。0.5%未満では繊維に原料が衝突する頻度が減るため、反応が進行しにくく、4.0%以上では攪拌不良から均一な複合体を得ることができない。金属イオン(カチオン)の時間当たりの供給量は、反応溶液中のアニオンの濃度との兼ね合いで決まり、金属の種類にもよるが、例えばCO
3イオンとOHイオンに対してMgイオンとAlイオンを供給のする場合、反応溶液中のCO
3イオンとOHイオンの合計濃度(M;mol/L)と反応液1Lに対する1分あたりのMgイオンとAlイオンの合計供給量(mol/min・L)の比が320:1以上であることが望ましい。320:1よりも炭酸イオン供給量が高くなると、核形成が進行しやすくなり、懸濁液中で遊離した無機粒子が合成されやすいためである。
【0096】
(酸化チタン)
酸化チタン複合繊維は、繊維及び酸化チタンを含むスラリー中で、固形状の無機バインダを合成することによって製造することができる。
【0097】
繊維及び酸化チタンを含むスラリー中で無機バインダを合成することによって、繊維に固形状の無機バインダが固着すると共に、酸化チタンが無機バインダに固着する結果、三者が複合化した複合繊維を生成することができる。この複合繊維を用いることで、繊維中に酸化チタンが効率よく定着した酸化チタン複合繊維を得ることができる。
【0098】
例えば、無機バインダがハイドロタルサイトである場合、繊維及び酸化チタンを含む溶液中でハイドロタルサイトを合成することによって、ハイドロタルサイトと酸化チタンと繊維との複合繊維を製造することができる。例えば、まず、反応容器内に中間層を構成する炭酸イオンを含む炭酸塩水溶液とアルカリ性水溶液(水酸化ナトリウム等)に繊維を浸漬し、懸濁してスラリーを形成する。次いで、得られたアルカリ性スラリー中に酸化チタンを添加し、分散させる。次いで、酸化チタンが添加されたアルカリ性スラリーに、酸溶液(基本層を構成する二価金属イオン及び三価金属イオンを含む金属塩水溶液)を添加し、温度、pH等を制御して共沈反応により、ハイドロタルサイトを合成する。これにより、繊維表面上にハイドロタルサイトが形成されるときに、スラリー中に分散する酸化チタンがハイドロタルサイトに取り込まれたり、密着したりする。その結果、スラリー中に存在する酸化チタンを、高い比率で効率よく、且つ、均一に、繊維に固着させることができる。
【0099】
繊維を浸漬し、懸濁して得られるスラリーは、pHが11〜14の範囲となるように、より好ましくは12〜13の範囲となるように調整することが好ましい。スラリーのpHがこの範囲であることにより、次いで添加される酸化チタンが、スラリー中に均一に分散することができる。
【0100】
また、基本層を構成する二価金属イオンの供給源として、マグネシウム、亜鉛、バリウム、カルシウム、鉄、銅、銀、コバルト、ニッケル、マンガンの各種塩化物、硫化物、硝酸化物、硫酸化物を用いることができる。また、基本層を構成する三価金属イオンの供給源として、アルミニウム、鉄、クロム、ガリウムの各種塩化物、硫化物、硝酸化物、硫酸化物を用いることができる。
【0101】
また、例えば、無機バインダが他の金属化合物である場合、同様に、繊維及び酸化チタンを含む溶液中で金属化合物を合成することによって、金属化合物と酸化チタンと繊維との複合繊維を製造することができる。金属化合物の合成法は特に限定されず、公知の方法により合成することができ、気液法及び液液法のいずれでもよい。気液法の一例としては炭酸ガス法があり、例えば水酸化マグネシウムと炭酸ガスとを反応させることで、炭酸マグネシウムを合成することができる。また、水酸化カルシウムと炭酸ガスとを反応させる炭酸ガス法により、炭酸カルシウムを合成することができる。例えば、炭酸カルシウムは、可溶性塩反応法、石灰・ソーダ法、ソーダ法により合成してもよい。液液法の例としては、酸(塩酸、硫酸等)と塩基(水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等)を中和によって反応させたり、無機塩と酸もしくは塩基を反応させたり、無機塩同士を反応させたりする方法が挙げられる。例えば、水酸化バリウムと硫酸とを反応させることで硫酸バリウムを得ることができる。塩化アルミニウムまたは硫酸アルミニウムと水酸化ナトリウムとを反応させることで、水酸化アルミニウムを得ることができる。炭酸カルシウムと硫酸アルミニウムとを反応させることでカルシウムとアルミニウムとが複合化した無機バインダを得ることができる。
【0102】
また、このようにして無機バインダを合成する際に、反応液中に、酸化チタンとは異なるさらなる任意の金属や金属化合物を共存させることもでき、この場合はそれらの金属もしくは金属化合物も、無機バインダ中に効率よく取り込まれ、複合化できる。
【0103】
また、2種類以上の無機バインダを繊維に複合化させる場合には、繊維及び酸化チタンの存在下で1種類の無機バインダの合成反応を行なった後、当該合成反応を止めて別の種類の無機バインダの合成反応を行なってもよく、互いに反応を邪魔しなかったり、一つの反応で目的の無機バインダが複数種類合成されたりする場合には2種類以上の無機バインダを同時に合成してもよい。
【0104】
以上のとおり、酸化チタンと繊維の複合体の製造法においては無機バインダの合成が鍵となる。したがって、例えば無機バインダとしてハイドロタルサイトを使用する場合には、前述したハイドロタルサイトに適した条件(温度、濃度、各種イオンの供給速度)で合成することにより、酸化チタンおよびハイドロタルサイトが強固に決着した複合繊維を得ることが可能である。
【0105】
(アルミナ/シリカ)
アルミナおよび/またはシリカを合成する場合、アルミナおよび/またはシリカの合成方法は公知の方法によることができる。反応の出発物質として無機酸もしくはアルミニウム塩のいずれか1つ以上を用いた場合、珪酸アルカリ塩を添加して合成する。出発物質として珪酸アルカリ塩を用い、無機酸もしくはアルミニウム塩のいずれか1つ以上を添加して合成することもできるが、無機酸および/もしくはアルミニウム塩を出発物質として用いた場合の方が、生成物の繊維への定着は良好である。無機酸としては特に限定されるものではなく、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等を用いることができる。これらの中でもコストおよびハンドリングの点から硫酸が特に好ましい。アルミニウム塩としては、硫酸バンド、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、ミョウバン、カリミョウバン等が挙げられ、中でも硫酸バンドを好適に用いることができる。珪酸アルカリ塩としては、珪酸ナトリウムもしくは珪酸カリウムなどが挙げられるが、入手しやすいため珪酸ナトリウムが好適である。珪酸とアルカリのモル比はいずれでも良いが、一般に3号珪酸として流通しているものはSiO
2:Na
2O=3〜3.4:1程度のモル比のものであり、これを好適に用いることができる。
【0106】
本発明においては、シリカおよび/またはアルミナが繊維表面に付着した複合繊維を製造するにあたって、繊維を含む反応液のpHを4.6以下に維持しながら繊維上にシリカおよび/またはアルミナを合成することが好ましい。これによって、繊維表面がよく被覆された複合繊維が得られる理由の詳細は完全には明らかになっていないが、pHを低く維持することによって3価のアルミニウムイオンへの電離率が高くなるため、被覆率や定着率が高い複合繊維が得られると考えられる。
【0107】
シリカおよび/またはアルミナ合成では、反応液中の原料(珪酸イオン、アルミニウムイオン)が高濃度であるほど、また、高温条件であるほど、核形成反応が進みやすいが、複合繊維を製造する場合、このような条件下では、セルロース繊維に核が定着されにくく、懸濁液中で遊離した無機粒子が合成されやすい。従って、シリカおよび/またはアルミナが強固に結着した複合繊維を製造するには、核形成反応を適切に制御することが必要となる。具体的には、パルプ濃度の適正化と、添加する珪酸イオン、アルミニウムイオンの時間当たりの供給量を緩やかにすることで、これを達成できる。例えば、パルプ濃度は、0.5%以上4.0%未満が好ましい。0.5%未満では繊維に原料が衝突する頻度が減るため、反応が進行しにくく、4.0%以上では攪拌不良から均一な複合体を得ることができない。添加する珪酸イオンとアルミニウムイオンの時間当たりの供給量は、1:1が好ましい。ただしこの時、pH=4.6以下を維持するようにあらかじめAlイオンを過剰に添加しておく必要がある。pH=4.6を上回るようにケイ酸イオンを過剰な速さで供給すると、シリカおよび/またはアルミナから構成される無機粒子がパルプ表面に定着しづらく、懸濁液中で遊離した無機粒子が合成されやすいためである。
【0108】
(繊維)
本発明で使用する複合繊維は、セルロース繊維と無機粒子とを複合化したものである。複合体を構成するセルロース繊維としては例えば、天然のセルロース繊維はもちろん、レーヨンやリヨセルなどの再生繊維(半合成繊維)や合成繊維などを制限なく使用することができる。セルロース繊維の原料としては、パルプ繊維(木材パルプや非木材パルプ)、セルロースナノファイバー、バクテリアセルロース、ホヤなどの動物由来セルロース、藻類などが例示され、木材パルプは、木材原料をパルプ化して製造すればよい。木材原料としては、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、ベニマツ、カラマツ、モミ、ツガ、スギ、ヒノキ、カラマツ、シラベ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、ホワイトファー、スプルース、バルサムファー、シーダ、パイン、メルクシマツ、ラジアータパイン等の針葉樹、及びこれらの混合材、ブナ、カバ、ハンノキ、ナラ、タブ、シイ、シラカバ、ハコヤナギ、ポプラ、タモ、ドロヤナギ、ユーカリ、マングローブ、ラワン、アカシア等の広葉樹及びこれらの混合材が例示される。
【0109】
木材原料(木質原料)などの天然材料をパルプ化する方法は、特に限定されず、製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が例示される。木材パルプはパルプ化法により分類でき、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の方法により蒸解した化学パルプ;リファイナー、グラインダー等の機械力によってパルプ化して得られる機械パルプ;薬品による前処理の後、機械力によるパルプ化を行って得られるセミケミカルパルプ;古紙パルプ;脱墨パルプ等が挙げられる。木材パルプは、未晒(漂白前)の状態であってもよいし、晒(漂白後)の状態であってもよい。
【0110】
非木材由来のパルプとしては、綿、ヘンプ、サイザル麻、マニラ麻、亜麻、藁、竹、バガス、ケナフ、サトウキビ、トウモロコシ、稲わら、楮(こうぞ)、みつまた等が例示される。
【0111】
パルプ繊維は、未叩解及び叩解のいずれでもよく、複合体シートの物性に応じて選択すればよいが、叩解を行う方が好ましい。これにより、シート強度の向上並びに無機粒子の定着促進が期待できる。
【0112】
また、これらセルロース原料はさらに処理を施すことで粉末セルロース、酸化セルロースなどの化学変性セルロース、および微細セルロース:セルロースナノファイバー(CNF、TEMPO酸化CNF、リン酸エステル化CNF、カルボキシメチル化CNF、機械粉砕CNFなど)、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)として使用することもできる。
【0113】
本発明で用いる粉末セルロースとしては、例えば、精選パルプを酸加水分解した後に得られる未分解残渣を精製・乾燥し、粉砕・篩い分けするといった方法により製造される棒軸状である一定の粒径分布を有する結晶性セルロース粉末を用いてもよいし、KCフロック(日本製紙製)、セオラス(旭化成ケミカルズ製)、アビセル(FMC社製)などの市販品を用いてもよい。粉末セルロースにおけるセルロースの重合度は好ましくは100〜1500程度であり、X線回折法による粉末セルロースの結晶化度は好ましくは70〜90%であり、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積平均粒子径は好ましくは1μm以上100μm以下である。本発明で用いる酸化セルロースは、例えばN−オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化することで得ることができる。
【0114】
微細セルロースとは、パルプ等のセルロース系原料を解繊して得られる繊維である。本発明において、平均繊維径とは長さ加重平均繊維径であり、平均繊維長とは長さ加重平均繊維長であり、これらは例えばバルメット株式会社製フラクショネーター等で測定できる。
【0115】
微細セルロースは500nm未満の平均繊維径を有するセルロースナノファイバー(以下「CNF」ともいう)、及び、ミクロフィブリルセルロースファイバー(以下「MFC」ともいう)を含む。
【0116】
(1)CNF/MFC
CNF/MFCはセルロースのシングルミクロフィブリルであり、その平均繊維径は2nm以上100nm以下が好ましく、2nm以上30nm以下がより好ましい。その平均繊維長は1μm以上5μm以下程度が好ましい。本発明では、濃度1%(w/v)の水分散液(すなわち、100mLの水中に1gのCNF/MFC(乾燥重量)を含む水分散液)としたときに100mPa・s以上10000mPa・s以下であるB型粘度(60rpm、20℃)を与えるCNF/MFCを用いることが好ましい。CNFの平均繊維径および平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いても測定できる。
【0117】
CNF/MFCの水分散液のB型粘度は、公知の手法により測定することができる。例えば、東機産業社のVISCOMETER TV−10粘度計を用いて測定することができる。測定時の温度は20℃であり、ロータの回転数は60rpmである。一般にCNF/MFCの水分散液は、チキソトロピー性を有し、撹拌しせん断応力を与えることで粘度が低下し、静置状態では粘度が上昇しゲル化するという特性を持つため、十分に撹拌した状態でB型粘度を測定することが好ましい。
【0118】
CNF/MFCの平均アスペクト比は、10以上が好ましく、30以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、1000以下が好ましく、100以下がより好ましく、80以下がさらに好ましい。平均アスペクト比は、下記の式により算出できる。
平均アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0119】
CNF/MFCは、パルプを化学変性した後に機械的に解繊処理を施して得られる機械解繊化学変性CNF/MFCであることが好ましい。上記のとおり、CNF/MFCはセルロース系原料とは解繊の度合いが異なる。解繊の度合いを定量化することは一般に容易ではないが、本発明においては、CNF/MFCの機械解繊前後の濾水度や保水度の変化量で解繊度合を定量化することが可能であることを見出した。本発明の機械解繊化学変性セルロース繊維は、解繊前の化学変性パルプの濾水度(F0)が10ml以上低下する程度に機械解繊または叩解して得たものであることが好ましい。すなわち、処理後の濾水度をFとすると、濾水度の差ΔF=F0−Fは10ml以上であることが好ましく、20ml以上であることがより好ましく、30ml以上であることがさらに好ましい。化学変性パルプの濾水度は変性の度合いによって異なるが、原料とする化学変性パルプの濾水度を基準とするため、このように定義することで化学変性の度合いに因らず解繊度合いを特定できる。前述の通り、F0は化学変性パルプの変性の度合いによって異なるため、ΔFの上限を一義に定めることは困難であるが、処理後の濾水度Fは0mlより大きいことが好ましい。Fが0mlのCNF/MFCとするためには、強力な機械解繊を要するため、このように得られたMFCは平均繊維径が500nm未満(セルロースナノファイバー)となる可能性がある。また、濾水度が0mlのCNF/MFCを抄紙工程に多量に添加した場合、抄紙に供するパルプスラリーの水切れが悪化する恐れがある。バルメット株式会社製フラクショネーターによって求めたMFCのフィブリル化率は3.5%以上が好ましく、4%以上であることがより好ましい。
【0120】
(2)添加量
微細セルロースの添加量は、抄紙後の紙において原料パルプに対して所望の量となるように調整される。原料パルプに対する当該量は原料パルプに対して20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。添加量が上限値を超えると保水性が高すぎることから、抄紙時の水切れが悪化する恐れがあるとともに経済性が低下する。微細セルロースの添加量の下限は本発明の効果が得られる範囲であれば限定されないが、前述のとおりに調整される。原料パルプに対する当該下限量は1ppm重量以上程度が好ましく、3ppm重量以上がより好ましい。
【0121】
(3)微細セルロースの製造
(3−1)セルロース系原料
微細セルロースは、セルロース系原料を必要に応じて化学変性し、その後解繊または叩解することにより製造できる。セルロース系原料は、特に限定されないが、例えば、植物、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物に由来するものが挙げられる。植物由来のものとしては、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)が挙げられる。本発明で用いるセルロース原料は、これらのいずれかまたは組合せであってもよいが、好ましくは植物または微生物由来のセルロース繊維であり、より好ましくは植物由来のセルロース繊維である。
【0122】
(3−2)化学変性
化学変性とはセルロース系原料に官能基を導入することをいい、本発明においてはアニオン性基を導入することが好ましい。アニオン性基としてはカルボキシル基、カルボキシル基含有基、リン酸基、リン酸基含有基等の酸基が挙げられる。カルボキシル基含有基としては、−COOH基、−R−COOH(Rは炭素数が1以上3以下のアルキレン基)、−O−R−COOH(Rは炭素数が1以上3以下のアルキレン基)が挙げられる。リン酸基含有基としては、ポリリン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、ポリホスホン酸基等が挙げられる。これらの酸基は反応条件によっては、塩の形態(例えばカルボキシレート基(−COOM、Mは金属原子))で導入されることもある。本発明において化学変性は、酸化またはエーテル化が好ましい。
【0123】
酸化は公知のとおりに実施できる。例えばN−オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群より選択される物質との存在下で、酸化剤を用いて水中でセルロース原料を酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、およびカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。あるいは、オゾン酸化方法が挙げられる。この酸化反応によればセルロースを構成するグルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。
【0124】
カルボキシル基量の測定方法の一例を以下に説明する。酸化セルロースの0.5重量%スラリー(水分散液)60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース〕=a〔mL〕×0.05/酸化セルロース重量〔g〕
【0125】
このようにして測定した酸化セルロース中のカルボキシル基の量は、絶乾重量に対して、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.5mmol/g以上、さらに好ましくは0.8mmol/g以上である。当該量の上限は、好ましくは3.0mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、さらに好ましくは2.0mmol/g以下である。従って、当該量は0.1mmol/g以上3.0mmol/g以下が好ましく、0.5mmol/g以上2.5mmol/g以下がより好ましく、0.8mmol/g以上2.0mmol/g以下がさらに好ましい。
【0126】
エーテル化としては、カルボキシメチル(エーテル)化、メチル(エーテル)化、エチル(エーテル)化、シアノエチル(エーテル)化、ヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピル(エーテル)化、エチルヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピルメチル(エーテル)化などが挙げられる。この中でもカルボキシメチル化が好ましい。カルボキシメチル化は、例えば、発底原料としてのセルロース原料をマーセル化し、その後エーテル化する方法により実施できる。
【0127】
カルボキシメチル化セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定は例えば、次の方法による。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(カルボキシメチル化セルロース)を水素型カルボキシメチル化セルロースにする。3)水素型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5g以上2.0g以下程度精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH
2SO
4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’−(0.1NのH
2SO
4)(mL)×F)×0.1]/(水素型カルボキシメチル化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1−0.058×A)
A:水素型カルボキシメチル化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのH
2SO
4のファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター
【0128】
カルボキシメチル化セルロース中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましい。当該置換度の上限は、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下がさらに好ましい。従って、カルボキシメチル基置換度は、0.01以上0.50以下が好ましく、0.05以上0.40以下がより好ましく、0.10以上0.30以下がさらに好ましい。
【0129】
(3−3)解繊または叩解
セルロースを機械的に解繊または叩解することで微細セルロースを、化学変性セルロースを機械的に解繊または叩解することで化学変性微細セルロースを製造できる。解繊または叩解処理は1回行ってもよいし、これらを単独でまたは組合せて複数回行ってもよい。複数回の場合それぞれの解繊または叩解の時期はいつでもよく、使用する装置は同一でも異なってもよい。
【0130】
解繊または叩解処理に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザーなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものを使用することができる。
【0131】
以上に示した繊維は単独で用いても良いし、複数を混合しても良い。例えば、製紙工場の排水から回収された繊維状物質を本発明の炭酸化反応に供給してもよい。このような物質を反応槽に供給することにより、種々の複合粒子を合成することができ、また、形状的にも繊維状粒子などを合成することができる。
【0132】
本発明においては、繊維の他にも、生成物である無機粒子に取り込まれて複合粒子を生成するような物質を用いることができる。本発明にいては、パルプ繊維を始めとする繊維を使用するが、それ以外にも無機粒子、有機粒子、ポリマーなどを含む溶液中で無機粒子を合成することによって、さらにこれらの物質が取り込まれた複合粒子を製造することが可能である。
【0133】
複合化する繊維の繊維長は特に制限されないが、例えば、平均繊維長が0.1μm〜15mm程度とすることができ、10μm〜12mm、50μm〜10mm、200μm〜8mmなどとしてもよい。このうち、本発明においては、平均繊維長が50μmより長いことが脱水やシート化が容易なため好ましい。平均繊維長が200μmより長いことが通常の抄紙工程で使用する脱水およびもしくは抄紙用のワイヤー(フィルター)のメッシュを使用して脱水やシート化が可能なためさらに好ましい。
【0134】
複合化する繊維の繊維径は特に制限されないが、例えば、平均繊維径が1nm〜100μm程度とすることができ、10nm〜100μm、0.15μm〜100μm、1μm〜90μm、3〜50μm、5〜30μmなどとしてもよい。このうち、本発明においては、平均繊維径が500nmより高いことが水やシート化が容易なため好ましい。平均繊維径が1μmより大きいことが通常の抄紙工程で使用する脱水およびもしくは抄紙用のワイヤー(フィルター)のメッシュを使用して脱水やシート化が可能なためさらに好ましい。
【実施例】
【0135】
具体的な実験例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の具体例に限定されるものではない。また、本明細書において特に記載しない限り、濃度や部などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0136】
実験1.複合繊維の合成
(サンプルA、
図1A)
図1Bに示すような反応装置を用いて、消石灰(水酸化カルシウム:Ca(OH)
2、奥多摩)の1%水性懸濁液2m
3に対し、ウルトラファインバブル発生装置(せん断式、エンバイロビジョン社YJ−9、
図1C)を用いてポンプ流量80L/minで反応液を循環させた(ノズルからの噴射速度:125L/min・cm
2)。ウルトラファインバブル発生装置の給気口から炭酸ガスを吹き込むことによって、炭酸ガスを含む大量のウルトラファインバブルを反応液中に発生させ、炭酸カルシウム粒子を炭酸ガス法によって合成した。反応温度は15℃、炭酸ガスの吹き込み量は16L/minとして365分間反応を行い、反応液のpHが7.5になった段階で反応を停止し、サンプルを得た(反応前のpHは12.8)。また、ウルトラファインバブルの平均粒子径は約137nm、ウルトラファインバブルを発生させてからウルトラファインバブルが消失するまでの平均時間(気泡の存在時間ともいう)は60分間以上だった。
【0137】
(サンプルB、
図2A)
水酸化マグネシウム15000g(宇部マテリアルズ)とクラフトパルプ15000g(LBKP/NBKP=8/2、CSF:390ml、平均繊維長:0.75mm)を含む水性懸濁液を準備した。この水性懸濁液1000Lを、1500L容のキャビテーション装置に入れ、反応溶液を循環させながら、反応容器中に炭酸ガスを吹き込んで炭酸ガス法によって炭酸マグネシウム微粒子と繊維との複合繊維を合成した。反応温度は約45℃、炭酸ガスは市販の液化ガスを供給源とし、炭酸ガスの吹き込み量は40L/minとした。反応液のpHが約7.8になった段階でCO
2の導入を停止し(反応前のpHは約9.5)、その後30分間、キャビテーションの発生と装置内でのスラリーの循環を続け、サンプルを得た。
【0138】
複合繊維の合成においては、
図2Bに示すように反応溶液を循環させて反応容器内に噴射することよって、反応容器内にキャビテーション気泡を発生させた。具体的には、ノズル(ノズル径:1.5mm)を介して高圧で反応溶液を噴射してキャビテーション気泡を発生させたが、噴流速度は約70m/sであり、入口圧力(上流圧)は7MPa、出口圧力(下流圧)は0.3MPaだった。
【0139】
(サンプルC、
図3)
1%のパルプスラリー(LBKP、CSF=450mL、平均繊維長:約0.7mm)866gと水酸化バリウム八水和物(日本化学工業)37.2gをスリーワンモーター(667rpm)で混合後、硫酸アルミニウム(硫酸バンド、49.1g)を0.7g/minで滴下した。滴下終了後、そのまま30分間攪拌を継続してサンプルを得た。
【0140】
(サンプルD、
図4)
1.7%のパルプスラリー(LBKP、CSF=450mL、平均繊維長:約0.7mm)533gと水酸化バリウム八水和物(日本化学工業)12.4gをスリーワンモーター(667rpm)で混合後、硫酸アルミニウム(硫酸バンド原液の4倍希釈水溶液、67.2g)を1.1g/minで滴下した。滴下終了後、そのまま30分間攪拌を継続してサンプルを得た。
【0141】
(サンプルE、
図5)
ハイドロタルサイト(HT)としてMg
6Al
2(OH)
16CO
3・4H
2Oを合成するため、アルカリ溶液(A溶液)として、Na
2CO
3(和光純薬)およびNaOH(和光純薬)の混合水溶液、酸溶液(B溶液)として、MgCl
2(和光純薬)およびAlCl
3(和光純薬)の混合水溶液を調製した。
・アルカリ溶液(A溶液、Naイオン濃度:1.0M)
・酸溶液(B溶液、Mgイオン濃度:0.6M)
複合化する繊維として、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、CSF=410mL)を用いた(平均繊維長1.1mm)。
【0142】
アルカリ溶液にパルプ繊維を添加し、パルプ繊維を含む水性懸濁液を準備した(パルプ繊維濃度:2%、pH:約12.4)。この水性懸濁液750mL(パルプ固形分15g)を1L容の反応容器に入れ、水性懸濁液を撹拌しながら、酸溶液を滴下してハイドロタルサイト微粒子と繊維との複合繊維を合成した。反応温度は50℃、平均滴下速度は1.7g/minであり、反応液のpHが約7になった段階で滴下を停止した。滴下終了後、30分間、反応液を撹拌し、10倍量の水を用いて水洗して塩を除去することで、サンプルを得た。
【0143】
(サンプルF、
図6)
水酸化カルシウム(消石灰:Ca(OH)
2、300g、和光純薬)と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、カナダ標準濾水度CSF:215mL、300g)を含む水性懸濁液30Lを準備した。この水性懸濁液を、40L容の密閉装置に入れ、反応容器中に炭酸ガスを吹き込んでキャビテーションを発生させ、炭酸ガス法によって炭酸カルシウム微粒子と繊維との複合繊維を合成し、サンプルFを得た。反応温度は約25℃、炭酸ガスは市販の液化ガスを供給源とし、炭酸ガスの吹き込み量は40L/minであり、反応液のpHが約7になった段階で反応を停止した(反応前のpHは約12.8)。
【0144】
複合繊維の合成においては、反応溶液を循環させて反応容器内に噴射することよって、反応容器内にキャビテーション気泡を発生させた。具体的には、ノズル(ノズル径:1.5mm)を介して高圧で反応溶液を噴射してキャビテーション気泡を発生させ、噴流速度は約70m/sであり、入口圧力(上流圧)は7MPa、出口圧力(下流圧)は0.3MPaだった。
【0145】
(サンプルG、
図7)
水酸化マグネシウム140g(和光純薬)とクラフトパルプ140g(LBKP/NBKP=8/2、CSF:390ml、平均繊維長:0.75mm)を含む水性懸濁液を準備した。この水性懸濁液14Lを、45L容のキャビテーション装置に入れ、反応溶液を循環させながら、反応容器中に炭酸ガスを吹き込んで炭酸ガス法によって炭酸マグネシウム微粒子と繊維との複合繊維を合成した。反応温度は約36℃、炭酸ガスは市販の液化ガスを供給源とし、炭酸ガスの吹き込み量は4L/minとした。反応液のpHが約7.8になった段階で炭酸ガスの導入を停止し(反応前のpHは約9.5)、その後30分間、キャビテーションの発生と装置内でのスラリーの循環を続け、サンプルGを得た。
【0146】
複合繊維の合成においては、反応溶液を循環させて反応容器内に噴射することよって、反応容器内にキャビテーション気泡を発生させた。具体的には、ノズル(ノズル径:1.5mm)を介して高圧で反応溶液を噴射してキャビテーション気泡を発生させたが、噴流速度は約70m/sであり、入口圧力(上流圧)は7MPa、出口圧力(下流圧)は0.3MPaだった。
【0147】
(サンプルH、
図8)
容器(マシンチェスト、容積:4m
3)に2%のパルプスラリー(LBKP/NBKP=8/2、CSF=390mL、平均繊維長:約0.8mm、固形分25kg)と水酸化バリウム八水和物(日本化学工業、75kg)とを投入して混合後、ペリスターポンプを用いて硫酸アルミニウム(硫酸バンド、98kg)を約5000g/minで滴下した。滴下終了後、そのまま30分間撹拌を継続してサンプルHを得た。
【0148】
(サンプルI、
図9)
1.0%のパルプスラリー(LBKP、CSF=450mL、平均繊維長:約0.7mm)890gと水酸化バリウム八水和物(日本化学工業)12.4gをスリーワンモーター(667rpm)で混合後、硫酸アルミニウム(硫酸バンド、17.3g)を0.8g/minで滴下した。滴下終了後、そのまま30分間攪拌を継続してサンプルIを得た。
【0149】
(サンプルJ、
図10)
ハイドロタルサイト(HT)としてMg
6Al
2(OH)
16CO
3・4H
2Oを合成するため、アルカリ溶液(A溶液)として、Na
2CO
3(和光純薬)およびNaOH(和光純薬)の混合水溶液、酸溶液(B溶液)として、MgCl
2(和光純薬)およびAlCl
3(和光純薬)の混合水溶液を調製した。
・アルカリ溶液(A溶液、Na
2CO
3濃度:0.02M、NaOH濃度:0.4M)
・酸溶液(B溶液、MgCl
2濃度:1.2M、AlCl
3濃度:0.4M)
複合化する繊維として、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を8:2の重量比で含み、シングルディスクリファイナー(SDR)を用いてカナダ標準濾水度を390mlに調整したパルプ繊維を用いた(平均繊維長0.8mm)。
【0150】
アルカリ溶液にパルプ繊維を添加し、パルプ繊維を含む水性懸濁液を準備した(パルプ繊維濃度:2%、pH:約12.4)。この水性懸濁液(パルプ固形分30kg、2000L)を4m
3容の反応容器に入れ、水性懸濁液を撹拌しながら、酸溶液を滴下してハイドロタルサイト微粒子と繊維との複合繊維を合成した。反応温度は60℃、滴下速度は1700g/minであり、反応液のpHが約7になった段階で滴下を停止した。滴下終了後、30分間、反応液を撹拌し、10倍量の水を用いて水洗して塩を除去することで、サンプルJを得た。
【0151】
(繊維複合体の合成:サンプルK、
図49)
ハイドロタルサイト(HT)としてMg
6Al
2(OH)
16CO
3・4H
2Oを合成するため、アルカリ溶液(A溶液)として、Na
2CO
3(トクヤマ)およびNaOH(日本軽金属)の混合水溶液、酸溶液(B溶液)として、MgSO
4(鈴川化学)およびAl
2(SO
4)
3(朝日化学工業)の混合水溶液を調製した。
・アルカリ溶液(A溶液、Na
2CO
3濃度:0.02M、NaOH濃度:0.3M)
・酸溶液(B溶液、MgSO
4濃度:1.4M、Al
2(SO
4)
3濃度:0.25M)
複合化する繊維として、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を8:2の重量比で含み、ダブルディスクリファイナー(SDR)を用いてカナダ標準濾水度を390mlに調整したパルプ繊維を用いた(平均繊維長0.85mm)。
【0152】
アルカリ溶液にパルプ繊維を添加し、パルプ繊維を含む水性懸濁液を準備した(パルプ繊維濃度:3%、pH:約12.5)。この水性懸濁液(パルプ固形分300kg、8000L)を15m
3容の反応容器に入れ、二酸化チタン(堺化学)110kgを添加後、水性懸濁液を撹拌しながら、酸溶液を滴下してハイドロタルサイト微粒子と繊維との複合繊維を合成した。反応温度は50℃、滴下速度は2880g/minであり、反応液のpHが約7になった段階で滴下を停止した。滴下終了後、30分間、反応液を撹拌し、10倍量の水を用いて水洗して塩を除去することで、サンプルKを得た。サンプルKの無機分は38%、画像解析で算出した被覆率は97%であった。
【0153】
(被覆率と無機物量の評価)
得られた複合体サンプルをそれぞれエタノールで洗浄後、電子顕微鏡を用いた観察によって被覆率(無機物質によって被覆されている繊維表面の面積率)を評価した。その結果、いずれのサンプルにおいても繊維表面を無機物質が覆い、自己定着している様子が観察された。各複合体サンプルの被覆率を下表に示すが、いずれも被覆率は15%以上だった。ここで被覆率は、電子顕微鏡にて3000倍で撮影した画像について、無機物が存在する個所を(白)、繊維が存在する個所を(黒)となるように二値化処理し、画像全体に対する白色部分、すなわち無機物が存在する部分の割合(面積率、面積%)を算出して測定した。被覆率の測定には、画像処理ソフト(Image J、アメリカ国立衛生研究所)を使用した。
【0154】
また、得られた複合体について、それに含まれる無機物の重量比率(重量%)を測定した。ここで、重量比率は、複合体を525℃で約2時間加熱した後、残った灰の重量と元の固形分との比率から求めた複合体の灰分に基づいて算出した(JIS P 8251:2003)。
【0155】
【表1-1】
【0156】
【表1-2】
【0157】
実験2.繊維構造体シートの製造
(シート1、
図11)
実験1で得られた複合繊維(サンプルA)に、それぞれカチオン性の歩留剤(分子量1500万、電荷密度+2.1meq/g、ND300、ハイモ)とアニオン性の歩留剤(分子量1400万、電荷密度−1.8meq/g、FA230、ハイモ)を対固形分で100ppmずつ添加して紙料スラリーを調製した。次いで、長網抄紙機を用いて、抄速10m/minの条件でこの紙料スラリーからシートを製造した。
【0158】
(シート2、
図12)
複合繊維としてサンプルB(炭酸Mgと繊維との複合繊維)を用い、坪量を330g/m
2とした以外は、シート1と同様にして、長網抄紙機を用いてシートを製造した。
【0159】
(シート3、
図13)
上記実験1で得られた複合繊維(サンプルC)から、水道水を用いて濃度約0.5%のスラリーを調製した。このスラリーにカチオン性の歩留剤(分子量1500万、電荷密度+2.1meq/g、ND300、ハイモ)とアニオン性の歩留剤(分子量1400万、電荷密度−1.8meq/g、FA230、ハイモ)を対固形分で100ppmずつ添加して後、JIS P 8222:2015に準じて150メッシュのワイヤーを用いて手抄きシートを作製した。
【0160】
(シート4、
図14)
複合繊維としてサンプルDを用いた以外は、シート3と同様にして手抄きシートを作製した。
【0161】
(シート5、
図15)
歩留剤を無添加とした以外は、シート4と同様にして手抄きシートを作製した。
【0162】
(シート6、
図16)
複合繊維としてサンプルEを用い、坪量を250g/m
2とした以外は、シート3と同様にして手抄きシートを作製した。
【0163】
(シート7、
図17)
複合繊維としてサンプルF(炭酸Caと繊維との複合繊維)を用いた以外は、シート3と同様にして、手抄きシートを製造した。
【0164】
(シート8、
図18)
複合繊維としてサンプルG(炭酸Mgと繊維との複合繊維)を用いた以外は、シート3と同様にして、手抄きシートを製造した。
【0165】
(シート9、
図19)
サンプルHに、それぞれカチオン性の歩留剤(分子量1500万、電荷密度+2.1meq/g、ND300、ハイモ)とアニオン性の歩留剤(分子量1400万、電荷密度−1.8meq/g、FA230、ハイモ)を対固形分で100ppmずつ添加して紙料スラリーを調製した。次いで、長網抄紙機を用いて、抄速10m/minの条件でこの紙料スラリーからシートを製造した。
【0166】
(シート10、
図20)
複合繊維としてサンプルIを用いた以外は、シート3と同様にして手抄きシートを作製した。
【0167】
(シート11、
図21)
歩留剤を無添加とした以外は、シート10と同様にして手抄きシートを作製した。
【0168】
(シート12、
図22)
複合繊維としてサンプルJを用い、坪量を200g/m
2とした以外は、シート3と同様にして手抄きシートを作製した。
【0169】
(シート13、
図50)
複合繊維としてサンプルKを用い、歩留剤としてカチオン性の歩留剤(分子量1900万、電荷密度+1.7meq/g)を100ppm添加し、湿潤紙力剤(分子量400万、電荷密度+2.3meq/g)を0.2%添加した以外は、シート9と同様にして長網抄紙機でシートを作製した。
【0170】
(シート14、
図51)
湿潤紙力剤の添加率を1%とした以外は、シート13と同様にして長網抄紙機でシートを作製した。
【0171】
(シートa、
図23)
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、カナダ標準濾水度CSF:215mL)と軽質炭酸カルシウム(平均粒径:約3.5μm)を固形分重量比で50:50になるように混合し、水道水を用いて濃度約0.5%のスラリーを調製した。このスラリーにカチオン性の歩留剤(分子量1500万、電荷密度+2.1meq/g、ND300、ハイモ)とアニオン性の歩留剤(分子量1400万、電荷密度−1.8meq/g、FA230、ハイモ)を対固形分で100ppmずつ添加して後、JIS P 8222:2015に準じて150メッシュのワイヤーを用いて坪量60g/m
2の手抄きシートを作製した。
【0172】
(シートb、
図24)
平均粒径が異なる軽質炭酸カルシウム(平均粒径:約80nm)を用いた以外は、シートaと同様にして手抄きシートを作製した。
【0173】
(シートの評価)
得られたシートについて、走査型電子顕微鏡(JSM−6700F、JEOL社製)を用いて観察したところ、紙の表面や内部を無機物が密に被覆・充填していることを確認できた。また、シートの坪量をJIS P 8124:2011、無機物量をJIS P 8251:2003に基づいて測定した。さらに、シートを抄紙する際の歩留りと濾水時間を測定した。歩留りは、得られたシートの絶乾重量を投入した紙料の絶乾重量で除した値のパーセンテージとして算出した。濾水時間は、排水を開始したところから、ワイヤー上に水膜が認められなくなるまでの時間を測定した。
【0174】
【表2】
【0175】
実験3.繊維構造体シートの画像解析
実験2で得られたシートと下記のシート(シートc〜e)について、走査型電子顕微鏡を用いて表面の2次元画像を撮影した(
図11〜27、
図50〜51)。
・シートc(
図25):水酸化Al含有シート(リンテック、商品名:セラフォーム)
・シートd(
図26):炭酸Ca含有シート(日鉄鉱業、商品名:炭酸カルシウム紙)
・シートe(
図27):ケイ酸Mg含有シート(タイガレックス、商品名:タイガレックス)
【0176】
シートサンプルそれぞれから3mm×3mmの大きさのサンプル片を切り出し、表面と裏面それぞれが上になるように両面テープを用いて真鍮製の観察台に貼り付けた。貼り付けた後のサンプル片を上から指圧により押しつぶし、シート表面の凹凸を均した。オスミウムコーターを用いて膜厚20nmの設定でオスミウムをコーティングし、導電処理を行った。走査型電子顕微鏡(JSM−6700F、JEOL社製)を用いて、2次電子観察モード(SEI)で観察を行った。観察の際は、表面と裏面それぞれについて、ランダムで選んだ場所2か所ずつを500倍で観察した。観察した画像をコンピュータに取り込む際には、オートコントラスト機能を用いてコントラストを適切に調整してから取り込んだ。
【0177】
次いで、走査型電子顕微鏡で観察した画像について、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて平均値フィルターでノイズ除去をした(画像の大きさ:190μm×250μm)。具体的には、「Process」のタブから「Noise」を選択し、「Despeckl」(中央値フィルター)でノイズを除去した。この中央値フィルターでは、全ピクセルがその近傍の3×3ピクセルの中央値(5番目の値)に置換されるが、それによって、コントラスト(輝度)が極度に高いもしくは低い部分(ノイズ)が除去される。シート1の電子顕微鏡写真について、
図11Bにノイズ除去後の画像を示す。
【0178】
その後、画像のコントラストをヒストグラム化し、そのヒストグラムの標準偏差(σ、StdDev)を算出した(
図28〜44、
図52〜53)。ヒストグラムとしては、横軸に濃淡レベル、縦軸にピクセル数を取った。画像解析ソフト(ImageJ)の「Analyze」のタブから「Histogram」を選択して、ヒストグラム化および標準偏差の算出を行ったが、標準偏差はランダムで選んだ2か所から算出したデータの平均値である。ここで、標準偏差の値が小さいほどコントラストの分布が狭い、すなわち単色(灰色)に近い画像であることを意味する。
【0179】
【表3】
【0180】
得られた標準偏差の結果を表に示す。繊維と無機粒子を含む複合繊維を含有するシートは、繊維と無機粒子との単なる混合体と比較して、標準偏差が小さかった。繊維と無機物が同一画面内にある場合、繊維は黒っぽく、無機物は白っぽく観察されるところ、表面が無機物で覆われていない繊維が多いと、繊維の黒色と無機物の白色によって画像のコントラストが二極化する一方、表面が無機物で覆われている複合繊維が多いと、繊維に由来する黒色が少なくなって画像全体が単色(灰色)に近づくためと考えられる。
【0181】
繊維複合体に含まれる無機粒子の重量比率が同じであっても、本発明によれば、繊維表面を無機粒子で被覆した複合繊維から得られる繊維構造体を、繊維と無機粒子を単に混合して得られる繊維構造体と区別することができる。
【0182】
上記の表に示されるように、SEM観察によって算出した繊維表面の被覆率が同程度に高い複合繊維であっても、繊維と無機粒子が強固に複合化された複合繊維を含有するシート(繊維構造体)の場合、標準偏差の数値が両面ともに33以下となった。繊維と無機粒子が強固に複合化された複合繊維は、シート化しても繊維表面の露出が非常に少なく、また、シート化する際の歩留りに優れており、濾水性を向上させることができた。
【0183】
実験4.繊維構造体モールドの製造と画像解析
(モールド1、
図45)
実験1で得られた複合繊維(サンプルC)を30Lのバケツに入れ、水道水を加えて濃度0.6%のスラリー(20L)を調整した。底がメッシュになっている型(モールド)を吸引機(吸水掃除機)の先に取り付けてバケツに入れ、バケツ中のスラリーを吸引し、5秒程度吸引したところで型を引き上げ、そのまま30秒間吸引を続けた。吸引を終了した後、型から内容物をはずし、100℃のオーブンで3時間乾かすことで複合繊維の構造体を得た。
【0184】
(モールド2、
図46)
複合繊維としてサンプルEを用いた以外はモールド成形物1と同様にして繊維構造体を製造した。
【0185】
(無機物量)
得られた繊維構造体について、無機物量(灰分)をJIS P 8251:2003に基づいて測定した。
【0186】
(画像解析)
得られた繊維構造体について、走査型電子顕微鏡を用いて表面の2次元画像を撮影した。
モールドサンプルそれぞれから5mm×5mmの大きさのサンプル片を切り出し、型に接触していなかった面(表面)と型に接触していた面(裏面)のそれぞれが上になるように両面テープを用いて真鍮製の観察台に貼り付けた。これ以降の操作は、実験3と同様の条件で行い、表裏それぞれの画像コントラストの標準偏差を得た。
【0187】
【表4】
【0188】
得られた標準偏差の結果を表に示す。繊維と無機粒子を含む複合繊維を含有するモールドは、シートにした時と同様に標準偏差が小さく、いずれも33以下であった。