【解決手段】信号処理装置は、複数の第1アンテナと複数の第2アンテナとの組み合わせにより生成される複数の仮想アンテナの受信信号を処理する。信号処理装置は、組み合わせに用いられる前記第2アンテナが共通する前記仮想アンテナの組のうち少なくとも1つの組の前記受信信号に基づき、前記第1アンテナにおける電波の方位の候補を第1方位候補として算出する第1方位算出部と、前記仮想アンテナの組ごとに前記受信信号を前記第1方位候補に含まれる方位ごとの複素信号に分離する分離部と、前記第1方位候補に含まれる方位ごとに、前記第2アンテナにおける電波の方位の候補を、前記複素信号に基づき第2方位候補として算出する第2方位算出部と、算出された前記第1方位候補と前記第2方位候補とに基づき所定の比較処理を行う比較部と、を備える。
前記第1方位候補の算出に用いられる前記仮想アンテナの組におけるアンテナ間隔は、前記第2方位候補の算出に用いられる複数の前記仮想アンテナのアンテナ間隔よりも広い、請求項1に記載の信号処理装置。
前記所定の比較処理は、前記第1方位候補に含まれる方位ごとに、前記第1方位候補から得られる位相差候補と、前記第2方位候補から得られる位相差候補との組み合わせを生成して、当該組み合わせごとに位相差の比較を行う処理である、請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
<1.レーダ装置の構成>
図1は、本発明の実施形態に係るレーダ装置1の構成を示す図である。レーダ装置1は、例えば車両、ロボット、航空機、船舶などの移動体に搭載することができる。本実施形態では、レーダ装置1は、例えば自動車などの車両に搭載される。以下、レーダ装置1が搭載されている車両のことを自車両と表現する。
【0019】
レーダ装置1は、他の車両、標識、ガードレール、人などの、自車両の周囲に存在する物標を検知するために用いられる。物標の検知結果は、自車両の記憶装置や、自車両の挙動を制御する車両ECU(Electronic Control Unit)5などに対して出力される。物標の検知結果は、例えば、PCS(Pre-crash Safety System)やAEBS(Advanced Emergency Braking System)などの車両制御に用いられる。
【0020】
図1に示すように、レーダ装置1は、複数の送信部2と、受信部3と、信号処理装置4とを備える。レーダ装置1は、複数の第1アンテナ23と、複数の第2アンテナ31とを備える。本実施形態において、第1アンテナ23は送信アンテナであり、第2アンテナ31は受信アンテナである。以下、第1アンテナ23のことを送信アンテナ23と記載する。第2アンテナ31のことを受信アンテナ31と記載する。
【0021】
なお、レーダ装置1は、いわゆるMIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)レーダ装置である。また、本実施形態では、好ましい形態として、レーダ装置1は、周波数が連続的に増加または減少するチャープ波を送信して検出範囲内に存在する各物標の距離および相対速度を検出するFCM(Fast Chirp Modulation)方式のレーダ装置である。
【0022】
送信部2は、信号生成部21と発振器22とを備える。信号生成部21は、ノコギリ波状に電圧が変化する変調信号を生成し、発振器22へ供給する。発振器22は、信号生成部21で生成された変調信号に基づいてチャープ信号である送信信号を生成して、送信アンテナ23へ出力する。
【0023】
本実施形態では、送信アンテナ23の数は3個である。送信アンテナ23の数に合わせて送信部2の数も3個である。ただし、送信アンテナ23の数は3個以外であってよい。送信アンテナ23の数に応じて送信部2の数も変更されてよい。また、送信アンテナ23の数と送信部2の数は、必ずしも一致しなくてよい。例えば、3個の送信アンテナ23に対して1個の送信部2が設けられ、各送信アンテナ23と送信部2との接続がスイッチで切り替えられてもよい。
【0024】
3個の送信アンテナ23は、それぞれ別々の送信部2から送信信号を受け取り、その送信信号を送信波TWに変換して出力する。3個の送信部2それぞれから出力される送信信号は、互いに直交した信号(直交信号)である。直交とは、例えば時間、位相、周波数、符号等の違いよって互いに干渉しないことである。
【0025】
受信部3は、複数の受信アンテナ31と、複数の個別受信部32とを備える。各受信アンテナ31に対して、個別受信部32が1つずつ接続される。各受信アンテナ31は、物標からの反射波RWを受信して受信信号を取得し、各個別受信部32に出力する。本実施形態では、受信部3は、3個の受信アンテナ31と、3個の個別受信部32とを備える。ただし、受信アンテナ31の数は3個以外であってよい。また、個別受信部32の数は、スイッチを導入することにより、受信アンテナ31の数よりも少なくしてよい。
【0026】
各個別受信部32は、対応する受信アンテナ31で得られた受信信号を処理する。個別受信部32は、ミキサ33とA/D変換器34とを備える。受信アンテナ31で得られた受信信号は、ローノイズアンプ(図示省略)で増幅された後にミキサ33に送られる。ミキサ33には、各送信部2の各発振器22からの送信信号が入力され、ミキサ33において各送信信号と受信信号とがミキシングされる。これにより、各送信信号の周波数と受信信号の周波数との差となるビート周波数を有するビート信号が生成される。ミキサ33で生成されたビート信号は、A/D変換器34でデジタルの信号に変換された後に、信号処理装置4に出力される。
【0027】
信号処理装置4は、各A/D変換器34を介して取り込んだ各ビート信号に基づいて各種の処理を実行する。信号処理装置4は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリ41などを含むマイクロコンピュータを備える。信号処理装置4は、演算の対象とする各種のデータを、記憶装置であるメモリ41に記憶する。メモリ41は、例えばRAM(Random Access Memory)などである。信号処理装置4は、マイクロコンピュータでソフトウェア的に実現される機能として、送信制御部42、変換部43、および、データ処理部44を備える。送信制御部42は、各送信部2の信号生成部21を制御する。
【0028】
変換部43は、受信アンテナ31において複数の物標からの反射波が重なり合った状態で受信されるために、受信信号に基づいて生成されたビート信号から、各物標の反射波に基づく周波数成分を分離する処理を行う。本実施形態では、変換部43は、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理により、周波数成分の分離を行う。FFT処理では、所定の周波数間隔で設定された周波数ポイント(周波数ビンという場合がある)ごとに受信レベルや位相情報が算出される。変換部43は、FFT処理の結果をデータ処理部44に出力する。
【0029】
変換部43は、詳細には、各A/D変換器34から出力されるビート信号に対してそれぞれ2次元FFT処理を行う。1回目のFFT処理を行うことで、物標との距離に対応する周波数ビン(以下、距離ビンと記載する場合がある)にピークが出現する周波数スペクトルが得られる。1回目のFFT処理により得られた周波数スペクトルを時系列に並べて2回目のFFT処理を行うことで、ドップラー周波数に対する周波数ビン(以下、「速度ビン」と記載することがある)にピークが出現する周波数スペクトルが得られる。変換部43は、2次元FFT処理により、距離ビンと速度ビンとを軸とする2次元パワースペクトルを得る。
【0030】
データ処理部44は、ピーク抽出部45、距離・相対速度演算部46、および、方位演算部47を備える。
【0031】
ピーク抽出部45は、変換部43におけるFFT処理等の結果からピークを抽出する。本実施形態では、ピーク抽出部45は、2次元FFT処理によって得られた距離ビンと速度ビンとを軸とする2次元パワースペクトルに基づいて、所定以上のパワー値を示すピークを抽出する。また、本実施形態では、ピーク抽出部45は、ピーク抽出の結果を仮想アンテナごとの結果に分類する。仮想アンテナは、複数の送信アンテナ23と複数の受信アンテナ31との組合せにより生成される。仮想アンテナについては後述する。
【0032】
距離・相対速度演算部46は、ピーク抽出部45によってピークが存在するとして特定された距離ビンおよび速度ビンの組み合わせに基づいて物標との距離および相対速度を導出する。
【0033】
方位演算部47は、仮想アンテナごとにピーク抽出部45で抽出された同一周波数ビンのピークに注目し、それらのピークの位相情報に基づいて物標が存在する方位を推定する。方位演算部47は、周波数ビンが異なる複数のピークが存在する場合、ピークごとに方位推定を行う。方位推定には、例えばMUSIC(Multiple Signal Classification)やESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques) 等の公知の手法が用いられる。方位演算部47の処理の詳細については後述する。
【0034】
なお、距離・相対速度演算部46および方位演算部47により求められた、物標までの距離、物標の相対速度、物標の存在する方位を含む物標データは、車両ECU5に出力される。
【0035】
<2.仮想アンテナ>
図2は、本発明の実施形態に係るレーダ装置1が備えるアンテナについて説明するための図である。
【0036】
本実施形態では、
図2(a)に示すように、3個の送信アンテナ23は、水平方向に沿って同一のアンテナ間隔2dで配置される。すなわち、隣り合う第1送信アンテナTx1と第2送信アンテナTx2とのアンテナ間隔、および、隣り合う第2送信アンテナTx2と第3送信アンテナTx3とのアンテナ間隔は、いずれも2dである。なお、隣り合う送信アンテナ23のアンテナ間隔は、複数の組(3個の送信アンテナ23では二組)の間で厳密に同一でなくてもよく、設計上の誤差やばらつきなどを考慮した上で複数の組の間で同一とみなすことができればよい。
【0037】
本実施形態では、
図2(b)に示すように、3個の受信アンテナ31は、水平方向に沿って異なるアンテナ間隔で配置される。隣り合う第1受信アンテナRx1と第2受信アンテナRx2とは、アンテナ間隔dで配置される。隣り合う第2受信アンテナRx2と第3受信アンテナRx3とは、アンテナ間隔5dで配置される。なお、第1受信アンテナRx1と第2受信アンテナRx2とのアンテナ間隔は、隣り合う2個の送信アンテナ23のアンテナ間隔の厳密に半分でなくてもよく、設計上の誤差やばらつきなどを考慮した上で隣り合う2個の送信アンテナ23のアンテナ間隔の半分とみなすことができればよい。また、第2受信アンテナRx2と第3受信アンテナRx3とのアンテナ間隔は、第1受信アンテナRx1と第2受信アンテナRx2とのアンテナ間隔の厳密に5倍でなくてもよく、設計上の誤差やばらつきなどを考慮した上で第1受信アンテナRx1と第2受信アンテナRx2とのアンテナ間隔の5倍とみなすことができればよい。
【0038】
また、
図2に示す複数の送信アンテナ23のアンテナ間隔、および、複数の受信アンテナ31のアンテナ間隔は、例示に過ぎず、アンテナ間隔は適宜変更されてよい。例えば、第1送信アンテナTx1と第2送信アンテナTx2とのアンテナ間隔と、第2送信アンテナTx2と第3送信アンテナTx3とのアンテナ間隔とは異なってよい。第1受信アンテナRx1と第2受信アンテナRx2とのアンテナ間隔と、第2受信アンテナRx2と第3受信アンテナRx3とのアンテナ間隔とは同じとされてよい。
【0039】
図2(a)に示す3個の送信アンテナ23と、
図2(b)に示す3個の受信アンテナ31との組み合わせにより、
図2(c)に示す仮想アレーアンテナが生成される。
図2(c)に示す仮想アレーアンテナは、9個の仮想アンテナVRx1〜VRx9によって構成される。9個の仮想アンテナVRx1〜VRx9のうち、7個の仮想アンテナVRx1〜VRx7は、水平方向に沿って同一のアンテナ間隔dで配置される。また、9個の仮想アンテナVRx1〜VRx9のうち、3個の仮想アンテナVRx7〜VRx9は、水平方向に沿って同一のアンテナ間隔2dで配置される。MIMO技術を適用することで、受信アンテナ数を超える仮想アンテナを得ることができる。
【0040】
図3は、各仮想アンテナVRx1〜VRx9を構成する送信アンテナ23と受信アンテナ31の組み合わせを示す図である。
図3に示すように、第1仮想アンテナVRx1は、第1送信アンテナTx1と第1受信アンテナRx1とを組み合わせて生成される。第2仮想アンテナVRx2は、第1送信アンテナTx1と第2受信アンテナRx2とを組み合わせて生成される。第3仮想アンテナVRx3は、第2送信アンテナTx2と第1受信アンテナRx1とを組み合わせて生成される。第4仮想アンテナVRx4は、第2送信アンテナTx2と第2受信アンテナRx2とを組み合わせて生成される。第5仮想アンテナVRx5は、第3送信アンテナTx3と第1受信アンテナRx1とを組み合わせて生成される。第6仮想アンテナVRx6は、第3送信アンテナTx3と第2受信アンテナRx2とを組み合わせて生成される。第7仮想アンテナVRx7は、第1送信アンテナTx1と第3受信アンテナRx3とを組み合わせて生成される。第8仮想アンテナVRx8は、第2送信アンテナTx2と第3受信アンテナRx3とを組み合わせて生成される。第9仮想アンテナVRx9は、第3送信アンテナTx3と第3受信アンテナRx3とを組み合わせて生成される。
【0041】
すなわち、第1受信アンテナRx1の受信信号は、互いに直交する第1仮想アンテナVRx1の受信信号、第3仮想アンテナVRx3の受信信号、および、第5仮想アンテナVRx5の受信信号を含む。第2受信アンテナRx2の受信信号は、互いに直交する第2仮想アンテナVRx2の受信信号、第4仮想アンテナVRx4の受信信号、および、第6仮想アンテナVRx6の受信信号を含む。第3受信アンテナRx3の受信信号は、互いに直交する第7仮想アンテナVRx7の受信信号、第8仮想アンテナVRx8の受信信号、および、第9仮想アンテナVRx9の受信信号を含む。信号処理装置4は、複数の送信アンテナ23と複数の受信アンテナ31との組み合わせにより生成される複数の仮想アンテナVRx1〜VRx9の受信信号を処理する。
【0042】
<3.往路と復路の一致・不一致>
図4は、往路と復路の一致および不一致について説明するための図である。
図4において、前方の車両6は自車両であり、後方の車両7はレーダ装置1によって検知されるべき物標である。
図4において、符号8はガードレールである。
【0043】
図4(a)は、自車両6の送信アンテナ23から送信された送信波TWが他車両7に至る往路と、他車両7で反射された反射波RWが自車両6の受信アンテナ31に至る復路とが一致する状態を示す。詳細には、往路と復路とが一致する経路パターンには、2つの経路パターンP1、P2がある。第1経路パターンP1は、自車両6からの送信波TWが他車両7に直接至り、他車両7で反射された反射波RWが自車両6に直接戻るパターンである。第2経路パターンP2は、自車両6からの送信波TWがガードレール8に反射されて他車両7に至り、他車両7で反射された反射波RWがガードレール8に反射されて自車両6に戻るパターンである。
【0044】
なお、往路と復路とが一致するという状態には、往路と復路とが完全に一致している状態だけでなく、ばらつき等を考慮して往路と復路とが一致していると見なせる状態が含まれてよい。
【0045】
図4(b)は、往路と復路とが不一致となる状態を示す。詳細には、往路と復路とが不一致となる経路パターンには、2つの経路パターンP3、P4がある。第3経路パターンP3は、自車両6からの送信波TWが他車両7に直接至り、他車両7で反射された反射波RWがガードレール8に反射されて自車両6に戻るパターンである。第4経路パターンP4は、自車両6からの送信波TWがガードレール8に反射されて他車両7に至り、他車両7で反射された反射波RWが自車両6に直接戻るパターンである。
【0046】
レーダ装置1では、往路と復路とが一致していることを前提として物標データが求められる。このために、
図4(b)に示す往路と復路とが不一致となる経路パターンP3、P4に由来する受信信号は、信号処理の前提となる条件から外れたものであり、誤った物標データの算出原因となる不要な信号である。この点を考慮して、本実施形態の方位演算部47は、往路と復路とが一致する方位を正しく検出して、誤った物標データの算出を抑制できる構成になっている。
【0047】
<4.方位演算の詳細>
図5は、本発明の実施形態に係る方位演算部47の機能を示すブロック図である。
図5に示すように、方位演算部47は、第1方位算出部471と、分離部472と、第2方位算出部473と、比較部474と、判定部475とを備える。すなわち、信号処理装置4は、第1方位算出部471と、分離部472と、第2方位算出部473と、比較部474と、判定部475とを備える。
【0048】
第1方位算出部471は、組み合わせに用いられる第2アンテナが共通する仮想アンテナの組のうち少なくとも1つの組の受信信号に基づき、第1アンテナにおける電波の方位の候補を第1方位候補として算出する。本実施形態では、第1方位算出部471は、組み合わせに用いられる受信アンテナ31が共通する仮想アンテナの組のうち少なくとも1つの組の受信信号に基づき、送信アンテナ23から送信される送信波TWの送信方位の候補を送信方位候補として算出する。
【0049】
本実施形態では、組み合わせに用いられる受信アンテナ31が共通する仮想アンテナの組は、
図3に示すように、第1仮想アンテナ組Gr1、第2仮想アンテナ組Gr2、および、第3仮想アンテナ組Gr3の3個存在する。
【0050】
第1仮想アンテナ組Gr1は、第1仮想アンテナVRx1、第3仮想アンテナVRx3、および、第5仮想アンテナVRx5で構成される。第1仮想アンテナ組Gr1においては、組み合わせに用いられる受信アンテナ31は第1受信アンテナRx1で共通している。第2仮想アンテナ組Gr2は、第2仮想アンテナVRx2、第4仮想アンテナVRx4、および、第6仮想アンテナVRx6で構成される。第2仮想アンテナ組Gr2においては、組み合わせに用いられる受信アンテナ31は第2受信アンテナRx2で共通している。第3仮想アンテナ組Gr3は、第7仮想アンテナVRx7、第8仮想アンテナVRx8、および、第9仮想アンテナVRx9で構成される。第3仮想アンテナ組Gr3においては、組み合わせに用いられる受信アンテナ31は第3受信アンテナRx3で共通している。3個の仮想アンテナ組Gr1〜Gr3のそれぞれにおいて、隣り合う仮想アンテナのアンテナ間隔は2dである。
【0051】
各仮想アンテナ組Gr1〜Gr3においては、受信アンテナ31が共通しているために、送信波TWが物標に至る往路においてのみアンテナ間距離に応じた経路長差が生じる。すなわち、各仮想アンテナ組Gr1〜Gr3においては、送信波TWが物標に至る往路においてのみアンテナ間距離に応じた位相差が生じる。このために、3個の仮想アンテナ組Gr1〜Gr3のうちの少なくとも1組の仮想アンテナ組の受信信号に基づき、送信波TWの送信方位の候補(送信方位候補)を算出することができる。送信方位候補の算出方法の詳細は後述する。
【0052】
分離部472は、仮想アンテナの組ごとに受信信号を第1方位候補に含まれる方位ごとの複素信号に分離する。本実施形態では、分離部472は、仮想アンテナ組Gr1〜Gr3ごとに受信信号を送信方位候補に含まれる方位ごとの複素信号に分離する。複素信号は、位相情報と振幅情報とを含む。分離部472の処理の詳細については後述する。
【0053】
第2方位算出部473は、第1方位候補に含まれる方位ごとに、第2アンテナにおける電波の方位の候補を、複素信号に基づき第2方位候補として算出する。本実施形態では、第2方位算出部473は、送信方位候補に含まれる方位ごとに、受信アンテナ31における反射波RWの受信方位(到来方位)の候補を受信方位候補として算出する。第2方位算出部473は、送信方位候補に含まれる方位ごとに、分離部472で求めた各仮想アンテナ組Gr1〜Gr3の複素信号に基づき受信方位候補を算出する。受信方位候補の算出方法の詳細は後述する。
【0054】
比較部474は、算出された第1方位候補と第2方位候補とに基づき所定の比較処理を行う。本実施形態では、比較部474は、算出された送信方位候補と受信方位候補とに基づき所定の比較処理を行う。本実施形態によれば、往路の候補(送信方位候補)と、復路の候補(受信方位候補)とを求めて、それに基づき往路と復路との一致と不一致とを判断できるために、往路と復路との一致と不一致とを適切に判断することができる。
【0055】
所定の比較処理は、第1方位候補に含まれる方位ごとに、第1方位候補から得られる位相差候補と、第2方位候補から得られる位相差候補との組み合わせを生成して、当該組み合わせごとに位相差の比較を行う処理である。本実施形態では、所定の比較処理は、送信方位候補に含まれる方位ごとに、送信方位候補から得られる位相差候補と、受信方位候補から得られる位相差候補との組み合わせを生成して、当該組み合わせごとに位相差の比較を行う処理である。なお、所定の比較処理は、位相差の比較に替えて角度の比較であってよい。ただし、位相差の比較の方が誤差の影響を受け難く、正しい結果が得られる可能性を高くできる。比較部474の比較処理の詳細については後述する。
【0056】
判定部475は、位相差の差分が所定の範囲となる組み合わせが存在するか否かを判定する。詳細には、判定部475は、位相差の差分が所定の範囲となるか否かに基づき送信方位と受信方位とが一致するか否かを判定する。判定部475が設けられることにより、往路と復路とが不一致となる電波に由来する信号をゴーストとして扱うことができる。この結果、誤った物標データを算出することを抑制することができる。
【0057】
なお、判定部475は、比較部474が角度の比較を行う場合には、角度の差分に基づいて送信方位と受信方位とが一致するか否かを判定してよい。
【0058】
図6は、本発明の実施形態に係るレーダ装置1の概略動作を示すフローチャートである。
図6は、方位演算部47による処理を中心に示したものである。すなわち、
図6においては、物標までの距離や相対速度を求める処理については省略されている。レーダ装置1は、
図6に示す処理を一定時間ごとに周期的に繰り返す。
【0059】
まず、送信アンテナ23が送信波TWを出力する(ステップS1)。次に、受信アンテナ31が物標で反射された反射波RWを受信して受信信号を取得する(ステップS2)。次に、信号処理装置4が所定数のビート信号を取得する(ステップS3)。次に、変換部43が取得したビート信号を対象にFFT処理を行う(ステップS4)。
【0060】
次に、ピーク抽出部45が、FFT処理の結果に基づきピーク抽出を行う(ステップS5)。ピーク抽出部45は、ピーク抽出の結果を仮想アンテナVRx1〜VRx9ごとの結果に分類する。
【0061】
次に、第1方位算出部471が、ピーク抽出部45で抽出されたピークごとに送信方位候補を算出する(ステップS6)。第1方位算出部471は、以下の式(1)で示す相関行列Rxxを3個の仮想アンテナ組Gr1〜Gr3(
図3参照)のそれぞれについて算出する。
Rxx=E[X(t)X
H(t)] ・・・(1)
ここで、
X(t)=[x
1(t), x
2(t), x
3(t)]
T ・・・(2)
である。
【0062】
なお、X(t)は時刻tにおける仮想アンテナ組の受信信号ベクトルである。E[・]は期待値を、Hは複素共役転置を、Tは転置行列をそれぞれ示している。x
m(t)は、m番目の仮想アンテナの受信信号を示す。第1仮想アンテナ組Gr1において、x
1(t)は第1仮想アンテナVRx1の受信信号、x
2(t)は第3仮想アンテナVRx3の受信信号、x
3(t)は第5仮想アンテナVRx5の受信信号である。第2仮想アンテナ組Gr2において、x
1(t)は第2仮想アンテナVRx2の受信信号、x
2(t)は第4仮想アンテナVRx4の受信信号、x
3(t)は第6仮想アンテナVRx6の受信信号である。第3仮想アンテナ組Gr3において、x
1(t)は第7仮想アンテナVRx7の受信信号、x
2(t)は第8仮想アンテナVRx8の受信信号、x
3(t)は第9仮想アンテナVRx9の受信信号である。
【0063】
第1方位算出部471は、3個の仮想アンテナ組Gr1〜Gr3から求めた3個の相関行列Rxxを平均した相関行列を用いて、公知のMUSICやESPRIT等により送信方位の推定を行う。第1方位算出部471は、相関行列Rxxが3×3行列であるために最大2個の送信方位を得る。本実施形態では、3個の仮想アンテナ組Gr1〜Gr3のそれぞれから得られる相関行列Rxxは同じ情報を与えるために、3個の仮想アンテナ組Gr1〜Gr3から得られる3個の相関行列Rxxを平均した相関行列が用いられる。ただし、送信方位の推定は、例えば3個の仮想アンテナ組Gr1〜Gr3のいずれか1個から得られる相関行列Rxxを用いて行われてもよい。
【0064】
図7は、送信方位候補を算出する処理を説明するための模式図である。
図7に示すように、1つのピークに上述した複数の経路パターンP1〜P4の信号が混じっている場合を考える。この場合、第1方位算出部471は、上述の相関行列Rxxに基づく方位推定処理により、送信方位候補として第1送信方位TD1と第2送信方位TD2とを算出する。第1送信方位TD1は、送信波TWが他車両7に直接的に向かう場合の方位である。第2送信方位TD2は、送信波TWがガードレール8に反射されて他車両7に向かう場合の方位である。
【0065】
なお、この時点では、位相の折り返しに関する判定は行われていない。本実施形態では、送信方位の算出に用いられる仮想アンテナのアンテナ間隔は2d(d=λ/2を想定:λは電波の波長)であり、位相の折り返しを生じる。このために、第1送信方位TD1および第2送信方位TD2のそれぞれには、不図示の折り返し候補が更に存在する。アンテナ間隔がd(=λ/2)以下の場合には位相の折り返しが生じない。位相の折り返しが生じない場合には、折り返し候補の考慮は不要である。
【0066】
図6に戻って、送信方位候補が算出されると、分離部472が、仮想アンテナ組Gr1〜Gr3ごとに、仮想アンテナで得られる受信信号を、送信方位候補に含まれる方位TD1、TD2ごとの複素信号に分離する(ステップS7)。分離部472は、以下の式(3)に基づき、受信信号を方位TD1、TD2ごとの複素信号に分離する。
X(t)=AS(t) ・・・(3)
ここで、
A=[a(θ
1),a(θ
2)] ・・・(4)
S(t)=[s
1(t), s
2(t)]
T ・・・(5)
である。
【0067】
なお、a(θ
1)は、送信方位候補に含まれる第1送信方位TD1のモードベクトルである。a(θ
2)は、送信方位候補に含まれる第2送信方位TD2のモードベクトルである。θ
1は、第1送信方位TD1を表す送信角である。θ
2は、第2送信方位TD2を表す送信角である。S(t)は、電波の位相振幅ベクトルである。s
1(t)は、送信方位候補に含まれる第1送信方位TD1の複素信号(位相振幅信号)である。s
2(t)は、送信方位候補に含まれる第2送信方位TD2の複素信号(位相振幅信号)である。
【0068】
第1方位算出部471で第1送信方位TD1と第2送信方位TD2とが求められたために、式(3)における行列Aは既知である。また、式(3)における受信信号ベクトルX(t)も既知である。このために、式(3)に基づき、位相振幅ベクトルS(t)を求めることができる。
【0069】
具体的には、分離部472は、後に第2方位算出部473で行われる受信方位候補の算出を念頭において、水平方向に等間隔で並び、且つ、仮想アンテナを構成する受信アンテナが互いに異なる3個の仮想アンテナに注目して位相振幅ベクトルS(t)を求める。本実施形態では、
図3に破線枠で囲まれる第5仮想アンテナVRx5、第6仮想アンテナVRx6、および、第7仮想アンテナVRx7に注目して位相振幅ベクトルを求める。
【0070】
このために、第1仮想アンテナ組Gr1を用いて式(3)により位相振幅ベクトルS(t)を求める場合には、受信信号ベクトルX(t)およびモードベクトルa(θ
k)に以下の値が代入される。なお、モードベクトルa(θ
k)の基準アンテナは、第5仮想アンテナVRx5である。
X(t)=[x
VRx1(t), x
VRx3(t), x
VRx5(t)]
T ・・・(6)
a(θ
1)=[exp{4jΛdsin(θ
1)}, exp{2jΛdsin(θ
1)},1]
T ・・・(7)
a(θ
2)=[exp{4jΛdsin(θ
2)}, exp{2jΛdsin(θ
2)},1]
T ・・・(8)
Λ=2π/λ ・・・(9)
【0071】
なお、x
VRx1(t)は第1仮想アンテナVRx1の時刻tにおける受信信号である。x
VRx3(t)は第3仮想アンテナVRx3の時刻tにおける受信信号である。x
VRx5(t)は第5仮想アンテナVRx5の時刻tにおける受信信号である。λは電波の波長である。
【0072】
上記代入により、第5仮想アンテナVRx5における、第1送信方位TD1の複素信号(位相振幅信号)s
1VRx5(t)と、第2送信方位TD2の複素信号(位相振幅信号)s
2VRx5(t)とが求まる。
【0073】
また、第2仮想アンテナ組Gr2を用いて式(3)により位相振幅ベクトルS(t)を求める場合には、受信信号ベクトルX(t)およびモードベクトルa(θ
k)に以下の値が代入される。なお、モードベクトルa(θ
k)の基準アンテナは、第6仮想アンテナVRx6である。
X(t)=[x
VRx2(t), x
VRx4(t), x
VRx6(t)]
T ・・・(10)
a(θ
1)=[exp{4jΛdsin(θ
1)}, exp{2jΛdsin(θ
1)},1]
T ・・・(11)
a(θ
2)=[exp{4jΛdsin(θ
2)}, exp{2jΛdsin(θ
2)},1]
T ・・・(12)
【0074】
なお、x
VRx2(t)は第2仮想アンテナVRx2の時刻tにおける受信信号である。x
VRx4(t)は第4仮想アンテナVRx4の時刻tにおける受信信号である。x
VRx6(t)は第6仮想アンテナVRx6の時刻tにおける受信信号である。
【0075】
上記代入により、第6仮想アンテナVRx6における第1送信方位TD1の複素信号(位相振幅信号)s
1VRx6(t)と、第2送信方位TD2の複素信号(位相振幅信号)s
2VRx6(t)とが求まる。
【0076】
また、第3仮想アンテナ組Gr3を用いて式(3)により位相振幅ベクトルS(t)を求める場合には、受信信号ベクトルX(t)およびモードベクトルa(θ
k)に以下の値が代入される。なお、モードベクトルa(θ
k)の基準アンテナは、第7仮想アンテナVRx7である。
X(t)=[x
VRx7(t), x
VRx8(t), x
VRx9(t)]
T ・・・(13)
a(θ
1)=[1,exp{-2jΛdsin(θ
1)}, exp{-4jΛdsin(θ
1)}]
T ・・・(14)
a(θ
2)=[1,exp{-2jΛdsin(θ
2)}, exp{-4jΛdsin(θ
2)}]
T ・・・(15)
【0077】
なお、x
VRx7(t)は第7仮想アンテナVRx7の時刻tにおける受信信号である。x
VRx8(t)は第8仮想アンテナVRx8の時刻tにおける受信信号である。x
VRx9(t)は第9仮想アンテナVRx9の時刻tにおける受信信号である。
【0078】
上記代入により、第7仮想アンテナVRx7における第1送信方位TD1の複素信号(位相振幅信号)s
1VRx7(t)と、第2送信方位TD2の複素信号(位相振幅信号)s
2VRx7(t)とが求まる。
【0079】
なお、以上においては、分離部472は、水平方向に等間隔で並び、且つ、仮想アンテナを構成する受信アンテナが互いに異なる3個の仮想アンテナとして、第5仮想アンテナVRx5、第6仮想アンテナVRx6、および、第7仮想アンテナVRx7を選択した。しかし、これは例示にすぎない。例えば、分離部472は、第1仮想アンテナVRx1、第4仮想アンテナVRx4、および、第7仮想アンテナVRx7を選択する構成等であってよい。ただし、位相折り返しをなくす点を考慮した場合、本実施形態のようにアンテナ間隔がdで並ぶ3個の仮想アンテナを選択することが好ましい。
【0080】
次に、第2方位算出部473が、送信方位候補に含まれる方位TD1、TD2ごとに、物標で反射された反射波RWの受信方位候補を、ステップS7で求めた複素信号(位相振幅信号)に基づき算出する(ステップS8)。まず、第2方位算出部473は、第1送信方位TD1について、以下の式(16)で示す相関行列Ryyを算出する。
Ryy=E[S1(t)S1
H(t)] ・・・(16)
ここで、
S1(t)=[s
1VRx5(t), s
1VRx6(t), s
1VRx7(t)]
T ・・・(17)
である。
【0081】
第2方位算出部473は、相関行列Ryyを算出すると、当該相関行列Ryyを用いて、公知のMUSICやESPRIT等により受信方位の推定を行う。第2方位算出部473は、相関行列Ryy(3×3行列)を用いた方位演算により最大2個の受信方位を得る。
【0082】
図8は、第1送信方位TD1について受信方位候補を算出する処理を説明するための模式図である。
図8は、上述の
図7において、第1送信方位TD1に送信される送信波TWに注目した図である。
図8に示す例では、第1送信方位TD1に送信された送信波TWは他車両7に反射され、他車両7で反射された反射波RWは第1受信方位AD1と第2受信方位AD2との2方向から自車両6に至る。この例の場合、第2方位算出部473は、受信方位候補として第1受信方位AD1と第2受信方位AD2とを算出する。なお、第1受信方位AD1は、反射波RWが他車両7から直接的に自車両6へと向かう場合の方位である。第2受信方位AD2は、反射波RWがガードレール8に反射されて自車両6に向かう場合の方位である。
【0083】
同様に、第2方位算出部473は、第2送信方位TD2について、以下の式(18)で示す相関行列Rzzを算出する。
Rzz=E[S2(t)S2
H(t)] ・・・(18)
ここで、
S2(t)=[s
2VRx5(t), s
2VRx6(t), s
2VRx7(t)]
T ・・・(19)
である。
【0084】
第2方位算出部473は、相関行列Rzzを算出すると、当該相関行列Rzzを用いて、公知のMUSICやESPRIT等により受信方位の推定を行う。第2方位算出部473は、相関行列Rzz(3×3行列)を用いた方位演算により最大2個の受信方位を得る。
【0085】
図9は、第2送信方位TD2について受信方位候補を算出する処理を説明するための模式図である。
図9は、上述の
図7において、第2送信方位TD2に送信される送信波TWに注目した図である。
図9に示す例では、第2送信方位TD2に送信された送信波TWは他車両7に反射され、他車両7で反射された反射波RWは第3受信方位AD3と第4受信方位AD4との2方向から自車両6に至る。この例の場合、第2方位算出部473は、受信方位候補として第3受信方位AD3と第4受信方位AD4とを算出する。なお、第3受信方位AD3は、反射波RWが他車両7から直接的に自車両6へと向かう場合の方位である。第4受信方位AD4は、反射波RWがガードレール8に反射されて自車両6に向かう場合の方位である。
【0086】
図6に戻って、受信方位候補が算出されると、比較部474が所定の比較処理を行う(ステップS9)。
図10は、所定の比較処理の一例を示すフローチャートである。所定の比較処理を行うにあたって、比較部474は、まず、送信方位候補の中から1つの方位を選択する(ステップS91)。
図7から
図9に示す例においては、第1送信方位TD1と第2送信方位TD2とのいずれか一方が選択される。なお、比較部474は、送信方位候補の中に既に選択した方位がある場合には、その方位は選択しない。
【0087】
次に、比較部474は、選択した方位の位相差候補を導出する(ステップS92)。ここでの位相差は、往路において送信波TWに生じる位相差であり、アンテナ間隔がd(本実施形態ではd=λ/2)である場合に生じる位相差である。位相差は、送信波TWの送信方位に応じて決まる。ただし、送信方位の算出に用いられた仮想アンテナのアンテナ間隔が広くなった場合には、位相の折り返しが生じ、送信方位の候補が増える。すなわち、位相差候補を導出するにあたっては、位相の折り返しを考慮した位相差も位相候補に含める必要がある。
【0088】
本実施形態では、送信方位の算出に用いられた仮想アンテナのアンテナ間隔は2dであり、位相の折り返しが生じる。上述した
図7から
図9に示す例の場合、第1送信方位TD1の他に、位相の折り返しによって1つの折り返し方位TD1A(
図8参照)が生じている。比較部474は、第1送信方位TD1を選択した場合に、第1送信方位TD1の位相差と、折り返し方位TD1Aの位相差とを位相差候補として導出する。
【0089】
次に、比較部474は、選択した方位において算出された受信方位候補から位相差候補を導出する(ステップS93)。ここでの位相差は、復路において反射波RWに生じる位相差であり、アンテナ間隔がdである場合に生じる位相差である。位相差は、反射波RWの受信方位に応じて決まる。ただし、受信方位の算出に用いられた仮想アンテナのアンテナ間隔が広くなった場合には、位相の折り返しが生じ、受信方位の候補が増える。すなわち、位相差候補を導出するにあたっては、位相の折り返しを考慮した位相差も位相候補に含める必要がある。
【0090】
本実施形態では、受信方位の算出に用いられた仮想アンテナのアンテナ間隔はdであり、位相の折り返しが生じない。すなわち、位相折り返しを考慮する必要はない。上述した
図7から
図9に示す例の場合、比較部474は、第1送信方位TD1を選択した場合に、第1受信方位AD1の位相差と、第2受信方位AD2の位相差とを位相差候補として導出する。
【0091】
次に、比較部474は、ステップS92で導出した送信側の位相差候補と、ステップS93で導出した受信側の位相差候補との比較用組み合わせを生成する(ステップS94)。比較部474は、送信側の位相差候補のそれぞれに対して、受信側の位相差候補のそれぞれを1つずつ組わせる。
【0092】
図7から
図9に示す例の場合、第1送信方位TD1の位相差に対して、第1受信方位AD1の位相差と第2受信方位AD2の位相差とが別々に組み合わされて2個の組み合わせが生成される。また、折り返し方位TD1Aの位相差に対して、第1受信方位AD1の位相差と第2受信方位AD2の位相差とが別々に組み合わされて2個の組み合わせが生成される。すなわち、4個の比較用組み合わせが生成される。
【0093】
次に、比較部474は、各比較用組み合わせにおいて位相差の差分値を算出する(ステップS95)。
図7から
図9に示す例の場合、第1送信方位TD1の位相差と第1受信方位AD1の位相差との差分値である第1差分値と、第1送信方位TD1の位相差と第2受信方位AD2の位相差との差分値である第2差分値と、折り返し方位TD1Aの位相差と第1受信方位AD1の位相差との差分値である第3差分値と、折り返し方位TD1Aの位相差と第2受信方位AD2の位相差との差分値である第4差分値とが算出される(
図11参照)。なお、
図11は、第1送信方位TD1が選択された場合における比較用組み合わせを示すテーブルである。
【0094】
次に、比較部474は、送信方位候補の全てについて比較処理を完了したか否かを確認する(ステップS96)。比較部474は、送信方位候補の全てについて比較処理を完了している場合(ステップS96でYes)、所定の比較処理を終了する。比較部474は、送信方位候補の全てについて比較処理を完了していない場合(ステップS96でNo)、ステップS91に戻って所定の比較処理を続ける。
【0095】
図7から
図9に示す例の場合、第1送信方位TD1の比較処理が完了しても第2送信方位TD2の比較処理が残っている。このために、第1送信方位TD1の比較処理が完了した後にステップS91に戻って、第2送信方位TD2に関する処理が行われる。これにより、第2送信方位TD2の位相差と第3受信方位AD3の位相差との差分値である第5差分値と、第2送信方位TD2の位相差と第4受信方位AD4の位相差との差分値である第6差分値と、折り返し方位TD2A(
図9参照)の位相差と第3受信方位AD3の位相差との差分値である第7差分値と、折り返し方位TD2Aの位相差と第4受信方位AD4の位相差との差分値である第8差分値とが算出される(
図12参照)。なお、
図12は、第2送信方位TD2が選択された場合における比較用組み合わせを示すテーブルである。第2送信方位TD2の比較処理が完了すると、送信方位候補の全ての比較処理が終了したことになり、所定の比較処理が終了する。
【0096】
図6に戻って、所定の比較処理が終了すると、判定部475が所定の判定処理を行う(ステップS10)。
図13は、所定の判定処理の一例を示すフローチャートである。所定の判定処理を行うにあたって、判定部475は、まず、送信方位候補の中から1つの方位を選択する(ステップS101)。
図7から
図9に示す例においては、第1送信方位TD1と第2送信方位TD2とのいずれか一方が選択される。なお、判定部475は、送信方位候補の中に既に選択した方位がある場合には、その方位は選択しない。
【0097】
次に、判定部475は、選択した方位において、位相差の差分が所定の範囲内となる組み合わせが存在するか否かを確認する(ステップS102)。所定の範囲は、2つの位相差の間に差があるか否かを判断できるものであればよく、実験やシミュレーション等によって予め決められている。所定の範囲は、例えば−α以上、+α以下の範囲である。αは正の値である。所定の範囲内である場合には、2つの位相差の間には差がないと判断される。
図7から
図9に示す例において第1送信方位TD1が選択されている場合には、第1差分値と、第2差分値と、第3差分値と、第4差分値(いずれも
図11参照)との中に、位相差の差分が所定の範囲内となる組み合わせが存在するか否かが確認される。
【0098】
判定部475は、選択した方位において、位相差の差分が所定の範囲内となる組み合わせが存在する場合(ステップS102でYes)、当該組み合わせに係る送信方位と受信方位とは一致していると判断する。そして、判定部475は、送信方位と受信方位とが一致する方位を物標が存在する方位と判断する。換言すると、判定部475は、位相差の差分が所定の範囲内となる組み合わせから得られる方位を物標の方位に決定する。なお、位相差の差分がゼロでない場合には、送信方位と受信方位とに若干の差がある。この場合、例えば、いずれか一方を物標の方位と決めてもよいし、2つの方位の平均値を物標の方位と決めてもよい。
【0099】
図7から
図9に示す例において第1送信方位TD1が選択されている場合には、第1差分値(
図11参照)が所定の範囲内となる。判定部475は、第1送信方位TD1と第1受信方位AD1とが一致すると判断し、第1送信方位TD1と第1受信方位AD1とから決められた方位を物標の方位に決定する。
【0100】
なお、判定部475は、位相差の差分が所定の範囲外となる組み合わせから得られる方位には、物標が存在しないと判断する。本実施形態によれば、位相差の差分によって、送信方位と受信方位との一致と不一致とを正確に判断することができるために、物標の方位を正しく推定することができる。
【0101】
一方、判定部475は、選択した方位において、位相差の差分が所定の範囲内となる組み合わせが存在しない場合(ステップS102でNo)、送信方位と受信方位とが一致する組み合わせがないと判断する。この場合には、判定部475は、得られた方位のいずれにも物標は存在しないと判断する。すなわち、判定部475は、得られた方位は本来存在しない物標(ゴースト)に由来するものであると判定する(ステップS104)。
【0102】
判定部475は、物標の方位を決定した後、或いは、ゴーストと判定した後、送信方位候補の全てについて判定処理を完了したか否かを確認する(ステップS105)。判定部475は、送信方位候補の全てについて判定処理を完了している場合(ステップS105でYes)、所定の判定処理を終了する。判定部475は、送信方位候補の全てについて判定処理を完了していない場合(ステップS105でNo)、ステップS101に戻って所定の判定処理を続ける。
【0103】
図7から
図9に示す例の場合、第1送信方位TD1の判定処理が完了しても第2送信方位TD2の判定処理が残っている。このために、第1送信方位TD1の判定処理が完了した後にステップS101に戻って、第2送信方位TD2に関する処理が行われる。この処理では、第6差分値(
図12参照)が所定の範囲内となる。判定部475は、第2送信方位TD2と第4受信方位AD4とが一致すると判断し、第2送信方位TD2と第4受信方位AD4とから決められた方位を物標の方位に決定する。
【0104】
なお、第2送信方位TD2と第4受信方位AD4とから決められた方位には、実際には物標は存在しない。このために、第2送信方位TD2と第4受信方位AD4とから決められた方位の物標は、この後の処理でゴーストと判定される必要がある。これについては、公知の技術が使用されればよい。例えば、自車両6から見てガードレール8を挟んで反対側に存在すると判断される物標をゴーストと判断する処理等が利用されてよい。
【0105】
本実施形態のレーダ装置1によれば、仮想アンテナVRx1〜VRx9を用いて電波の送信方位と受信方位の候補を算出して、送信方位と受信方位とが一致する組み合わせを適切に検出することができる。このために、往路と復路とが一致しない信号を除外して、本来存在しない物標(ゴースト)を誤って検出することを低減することができる。
【0106】
また、本実施形態においては、第1方位候補(本実施形態では送信方位候補)を得て、当該第1方位候補に基づいて第2方位候補(本実施形態では受信方位候補)を得る構成になっている。そして、この構成において、第1方位候補の算出に用いられる仮想アンテナの組Gr1〜Gr3におけるアンテナ間隔(本実施形態では2d)は、第2方位候補の算出に用いられる複数の仮想アンテナVRx5、VRx6、VRx7のアンテナ間隔(本実施形態ではd)よりも広い。このような構成では、最初に求められる第1方位候補の推定精度を向上することができ、第2方位候補の推定精度も向上することができる。このために、第1方位(本実施形態では送信方位)と第2方位(本実施形態では受信方位)との一致と不一致との判定精度を向上することできる。すなわち、ゴーストを誤って検出する可能性を低減することができる。
【0107】
<5.留意事項>
本明細書における実施形態や変形例の構成は、本発明の例示にすぎない。実施形態や変形例の構成は、本発明の技術的思想を超えない範囲で適宜変更されてもよい。また、複数の実施形態及び変形例は、可能な範囲で組み合わせて実施されてよい。
【0108】
以上においては、第1方位算出部471が送信方位候補を算出し、第2方位算出部473が受信方位候補を算出する構成とした。ただし、これは例示にすぎない。すなわち、第1方位算出部が受信方位候補を算出し、第2方位算出部が送信方位候補を算出する構成としてもよい。
【0109】
以上においては、車載レーダ装置について説明したが、本発明は、道路などに設置されるインフラレーダ装置、船舶監視レーダ装置、航空機監視レーダ装置等にも適用されてよい。
【0110】
以上においてプログラムの実行によってソフトウェア的に実現されると説明した機能の全部又は一部は電気的なハードウェア回路により実現されてもよい。また、ハードウェア回路によって実現されると説明した機能の全部又は一部はソフトウェア的に実現されてもよい。また、1つのブロックとして説明した機能が、ソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよい。また、各機能ブロックは概念的な構成要素である。各機能ブロックが実行する機能を複数の機能ブロックに分散させたり、複数の機能ブロックが有する機能を1つの機能ブロックに統合したりしてよい。