【解決手段】静電容量式の荷重センサの第2電極板に加えられる外力に応じて変化する各コンデンサの静電容量を検出する静電容量検出部と、静電容量検出部により検出された各コンデンサの静電容量の変化量に基づいて、それぞれシリンダに加わる荷重の分布を表す分布荷重を計測する分布荷重計測部と、分布荷重計測部により計測された分布荷重に対する各シリンダの伸縮量および当該分布荷重のパターンの関係性に基づいて、荷重センサの第2電極板に加えられる外力の総荷重および荷重中心位置を算出する荷重情報算出部とを備える。
複数の正極が同一平面上かつアレイ状に配置された第1電極板と単一の負極が配置された第2電極板との間に当該正極と同数の粘弾性体からなる所定形状のシリンダをそれぞれ介挿して複数のコンデンサを形成する静電容量式の荷重センサと、
前記荷重センサの前記第2電極板に加えられる外力に応じて変化する前記各コンデンサの静電容量を検出する静電容量検出部と、
前記静電容量検出部により検出された前記各コンデンサの静電容量の変化量に基づいて、それぞれ前記シリンダに加わる荷重の分布を表す分布荷重を計測する分布荷重計測部と、
前記分布荷重計測部により計測された分布荷重に対する前記各シリンダの伸縮量および当該分布荷重のパターンの関係性に基づいて、前記荷重センサの前記第2電極板に加えられる外力の総荷重および荷重中心位置を算出する荷重情報算出部と
を備えることを特徴とする触力覚検知装置。
前記静電容量検出部は、前記各コンデンサについて、荷重印加時から所定時間経過後までの静電容量の増加量に基づいて、対応する前記シリンダの材料特性に応じた当該シリンダに加わる荷重の計測誤差および当該シリンダの硬度に応じた応答遅れをキャリブレーション補正する
ことを特徴とする請求項1に記載の触力覚検知装置。
前記荷重情報算出部は、前記荷重センサの前記第2電極板に加えられる外力の総荷重と、前記第1電極板を平面とするx軸方向の分布荷重の比と、当該第1電極板を平面とするy軸方向の分布荷重の比とに基づいて、荷重中心位置が前記第2電極板の中心外となる不均一荷重に対する誤差補償量を算出し、当該誤差補償量に基づいて荷重中心位置をキャリブレーション補正する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の触力覚検知装置。
複数の正極が同一平面上かつアレイ状に配置された第1電極板と単一の負極が配置された第2電極板との間に当該正極と同数の粘弾性体からなる所定形状のシリンダをそれぞれ介挿して複数のコンデンサを形成する静電容量式の荷重センサを構成しておき、
前記荷重センサの前記第2電極板に加えられる外力に応じて変化する前記各コンデンサの静電容量を検出する第1ステップと、
前記第1ステップにおいて検出された前記各コンデンサの静電容量の変化量に基づいて、それぞれ前記シリンダに加わる荷重の分布を表す分布荷重を計測する第2ステップと、
前記第2ステップにより計測された分布荷重に対する前記各シリンダの伸縮量および当該分布荷重のパターンの関係性に基づいて、前記荷重センサの前記第2電極板に加えられる外力の総荷重および荷重中心位置を算出する第3ステップと
を備えることを特徴とする触力覚検知方法。
前記第1ステップでは、前記各コンデンサについて、荷重印加時から所定時間経過後までの静電容量の増加量に基づいて、対応する前記シリンダの材料特性に応じた当該シリンダに加わる荷重の計測誤差および当該シリンダの硬度に応じた応答遅れをキャリブレーション補正する
ことを特徴とする請求項5に記載の触力覚検知方法。
前記第3ステップでは、前記荷重センサの前記第2電極板に加えられる外力の総荷重と、前記第1電極板を平面とするx軸方向の分布荷重の比と、当該第1電極板を平面とするy軸方向の分布荷重の比とに基づいて、荷重中心位置が前記第2電極板の中心外となる不均一荷重に対する誤差補償量を算出し、当該誤差補償量に基づいて荷重中心位置をキャリブレーション補正する
ことを特徴とする請求項5または6に記載の触力覚検知方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面について、本発明の一実施例を詳細する。
【0024】
(1)本実施の形態による触力覚検知装置の構成
図1(A)〜(C)に本実施の形態による触力覚検知装置1を示す。触力覚検知装置1は、複数の正極が同一平面上かつアレイ状に配置された第1電極板10と単一の負極が配置された第2電極板11との間に当該正極と同数の粘弾性体からなる所定形状のゴムシリンダ12をスペーサとしてそれぞれ介挿して複数のコンデンサを形成する静電容量式の荷重センサ20を有する。
【0025】
ロボットアーム(図示せず)の指部を2リンク機構とすることを想定して、荷重センサ20のサイズを設定した。荷重センサ20における第2電極板11のサイズは、長辺30[mm]、短辺18[mm]、厚み2.3[mm]であり、ゴムシリンダ12は直径2[mm]、高さ0.5[mm]である。
【0026】
荷重センサ20の第2電極板11に荷重が加えられるとスペーサであるゴムシリンダ12が縮み、第1電極板10と第2電極板11との距離が近づき、第1電極板10および第2電極板11間で構成されるコンデンサの静電容量が増加する。このとき、第1電極板10に加えられた荷重は、荷重が作用する面積によらず、その荷重の大きさと荷重中心位置に応じて各ゴムシリンダ12を伸縮させる。各ゴムシリンダ12の伸縮量とそのパターンは、加えられた荷重とその荷重中心位置に応じて一意に定まる。
【0027】
したがって、計測された静電容量の増加量を荷重に変換することにより、荷重センサ20の第2電極板11に加えられた荷重をその接触面積によらず、第1電極板10に対する4つの力からなる荷重分布として計測することが可能であり、この荷重分布により、荷重センサ20に加えられた総荷重とその荷重中心位置の算出が可能となる。静電容量は電極間の距離が近いほど大きな変化(増加)として現れるため、高感度で薄型な荷重センサ20の実現に適している。
【0028】
また、荷重センサ20の四隅に配置したゴムシリンダ12に荷重を集中させることにより、ゴムシリンダ12の伸縮量を増やし、センサの感度を向上させる構造としている。なお、ゴムシリンダ12の材料には、耐候性、耐熱性、耐寒性に優れたシリコンゴムを用いている。
【0029】
ノイズ対策として、荷重センサ20の全体をシールドし、その背面に計測回路を搭載・シールドしている。これにより、第1電極板10および第2電極板11と他誘電体とのコンデンサ形成を防ぎ、第1電極板10および第2電極板11の近傍でA/D変換された値を出力することにより、外来ノイズの除去が可能な小型触力覚センサモジュールとなっている。
【0030】
なお、荷重センサ20の荷重計測範囲を、生活現場での日用品把持に必要な把持力を考慮して設定した。国際生活機能分類(ICF)を用いた日常生活の分析によると、日常生活における物を持ち上げるという動作において、400[g]以上のものを持ち上げるのは約1割であると報告されている。このため、400[g]の物を持ち上げることができれば日常生活の約9割をカバーできると考えられる。
【0031】
また、人の指の摩擦係数の最低値は0.5であり、人が物を把持する際には、必要最低限の力の1.4倍程度の力を発揮することが報告されている。以上により、荷重センサ20は560[g](=5.488[N])までの計測が必要となる。よって、荷重計測範囲はこれを超えるよう0〜596.7[g](=0〜5.848[N])と設定した。
【0032】
(2)本実施形態による触力覚検知装置1の内部構成
図2において、
図1に示す触力覚検知装置1の内部構成について説明する。触力覚検知装置1において、静電容量検出部30は、荷重センサ20の第2電極板11に加えられる外力に応じて変化する各コンデンサの静電容量を検出する。
【0033】
分布荷重計測部31は、静電容量検出部30により検出された各コンデンサの静電容量の変化量に基づいて、それぞれゴムシリンダ12に加わる荷重の分布を表す分布荷重を計測する。荷重情報算出部32は、分布荷重計測部31により計測された分布荷重に対する各ゴムシリンダ12の伸縮量および当該分布荷重のパターンの関係性に基づいて、荷重センサ20の第2電極板11に加えられる外力の総荷重および荷重中心位置を算出する。
【0034】
また後述するように、静電容量検出部30は、各コンデンサについて、荷重印加時から所定時間経過後までの静電容量の増加量に基づいて、対応するゴムシリンダ12の材料特性に応じた当該ゴムシリンダ12に加わる荷重の計測誤差および当該ゴムシリンダ12の硬度に応じた応答遅れをキャリブレーション補正するようになされている。
【0035】
さらに後述するように、荷重情報算出部32は、荷重センサ20の第2電極板11に加えられる外力の総荷重と、第1電極板10を平面とするx軸方向の分布荷重の比と、当該第1電極板10を平面とするy軸方向の分布荷重の比とに基づいて、荷重中心位置が第2電極板11の中心外となる不均一荷重に対する誤差補償量を算出し、当該誤差補償量に基づいて荷重中心位置をキャリブレーション補正するようになされている。
【0036】
(3)本発明による触力覚検知装置1の基本特性と均一荷重の計測方法
本実施の形態による触力覚検知装置1の基本特性として、硬さの程度を表す硬度が20°、50°、80°のシリコンゴムをゴムシリンダ12に用いて作製した3種類の荷重センサ20に対して、それぞれセンサ中心(第2電極板11の中心)に荷重を印加した際の、応答性とセンサ出力の大きさ(静電容量の増加量)について説明するとともに、均一荷重計測のキャリブレーションについて説明する。
【0037】
図3に荷重印加装置40を示す。この荷重印加装置40は、荷重の受け皿41、当該受け皿41を支える能動リンク機構部42、外殻ガイド43、センサカバー44によって構成されている。荷重の受け皿41の両端を支える能動リンク機構部42の上下動作によって、任意の時間における荷重の印加と除去が可能となる。受け皿41に乗せられた荷重は、外殻ガイド43によって垂直荷重(押下力)のみ触力覚検知装置1の荷重センサ20に伝達される。荷重の作用位置は、センサカバー44の凹部と受け皿軸先の凸部の嵌め合いによって合致される。センサカバー44の凹部位置を調整することにより、荷重センサ20に対して任意の位置に荷重を加えることが可能となる。
【0038】
(3−1)荷重センサ20におけるセンサ出力の応答性
各荷重センサ20の中心位置に10秒間5.848[N]の荷重を印加した際の荷重センサ20のチャネル1(4つの第1電極板10の一つ)の出力を正規化したものを
図4に示す。これらの結果より、荷重センサ20にはシリコンゴムの硬度に応じた応答遅れが存在することが確認された。ここで、ゴムシリンダ12として用いたシリコンゴムは、粘弾性体であるため、瞬発的な弾性変形後に緩やかな粘性変形が生じる。この粘性変形が、
図4に示される応答遅れの原因であり、ゴム硬度が低いほど、応答遅れが大きくなっていることがわかる。
【0039】
本実施の形態では、より厳しい条件で評価を行ったために、応答遅れによる単位時間あたりのセンサ出力の変動量が大きくなった。荷重印加から1秒後の値を用いて特性検証とキャリブレーションを行うものとする。
【0040】
(3−2)荷重に対する静電容量の特性
荷重印加から1秒後のセンサ出力と荷重の関係を
図5に示す。なお、荷重は荷重センサ20の中心位置に対して、0〜596.7[g]までを、荷重印加装置の荷重の受け皿の重さである96.7[g]以降は100[g]ずつ分銅を加えて増量させるものとし、荷重ごとに荷重印加を5試行実施するものとした。
【0041】
図5によれば、ゴムシリンダ12のゴム硬度が低いほど、荷重センサ20の静電容量の増加量が大きくなることがわかる。これは、ゴム硬度が低くなるほど荷重に対するゴムシリンダ12の伸縮量が増加し、第1電極板10および第2電極板11間の距離が近くなることで、当該第1電極板10および第2電極板11間の距離と反比例の関係にある静電容量が大きくなるからである。これにより、3種類の荷重センサ20のうち、応答性とセンサ出力の位置付けとなったゴム硬度50[°]の荷重センサ20に着目し、計測特性の確認とキャリブレーションを行っていくものとする。
【0042】
(3−3)均一荷重計測のキャリブレーション
図5に示される荷重とセンサ出力のプロットから相関関係を表す近似式を求め、センサ出力−荷重変換に用いることにより、荷重センサ20のチャンネル1の均一荷重計測のためのキャリブレーションを行う。これにより第1電極板10および第2電極板11のサイズ誤差の補正も同時に行われる。同様に、その他のチャンネルのキャリブレーションも行う。今回、印加した荷重に対する応答の範囲では、単調増加する2次曲線によって高い近似性が確認された。なお、決定係数R
2は全てのチャンネルにおいて0.999以上となった。
【0043】
センサに加えられた総荷重F
aは、センサの各チャンネルによって計測された荷重F
chn(n=1〜4)を4で割った値の和として次式(1)にて算出される。
【数1】
……(1)
【0044】
(4)不均一荷重に対する計測特性と誤差補償
続いて荷重中心位置が荷重センサ20の中心外となる不均一荷重の場合について、当該不均一荷重に対するセンサ出力の特性を確認し、荷重計測における誤差補償の必要性について説明する。その後、不均一荷重計測のためのキャリブレーションとして、シミュレーションによる計測荷重の誤差補償式の導出およびセンサ実機への適用について説明する。
【0045】
(4−1)不均一荷重に対するセンサ出力の特性
不均一荷重を荷重センサ20に印加した際のセンサ出力の特性について、ゴムシリンダ12の材料特性とコンデンサの電気的特性の2つの観点から検討する。まず、不均一荷重を印加した際のゴムシリンダ12の材料特性による影響について説明する。
【0046】
上述したセンサ実機において確認した
図5に示されるセンサ出力と荷重の関係より、
図6に示すゴムシリンダ12の伸縮量と荷重との関係を算出した。なお、センサの中心位置に荷重を印加した場合、1つのゴムシリンダ12に加わる荷重は総荷重の4分の1となる。シリコンゴムを含め一般的なゴム素材は材料特性として、荷重に対する伸縮量の関係が非線形となる。
図6によれば、今回印加した荷重に対する応答の範囲では、ゴムシリンダ12の伸縮量と荷重の関係は、単調増加する2次曲線によって高い近似性が確認された。なお、決定係数R
2は0.999以上となった。
【0047】
図6によれば、入力変数を伸縮量、出力を荷重としたとき、係数が正の2次の非線形項をもつため、荷重が一部のゴムシリンダ12に集中する不均一荷重では、均一荷重に比べ、荷重に対するゴムシリンダ12の伸縮量の総和が小さくなる。静電容量は、電極板間の距離に反比例するため、ゴムシリンダ12の材料特性による影響としては、不均一荷重では、荷重中心がセンサ中心から離れるほど、均一荷重に比べセンサ出力が小さくなる。
【0048】
次に、不均一荷重を印加した際の電気的特性による影響について説明する。不均一荷重を印加すると、荷重センサ20の第2電極板11に傾きが生じる。そこで、不均一荷重が印加された際の簡易センサモデルとして、第2電極板11にx軸方向の傾きδが生じた場合のコンデンサの断面図を
図7に示す。ここでは、電気的特性が与える影響のみ確認を行うために、両端のゴムシリンダ12は線形バネであると仮定した。
【0049】
図7において、全体の静電容量は図中の幅dx、電極板間距離zの微小コンデンサの集合と置き換えられる。電極板間距離zはx軸方向に直線的に変化するためz=d−(2δ/a)xとなる。このとき、微小コンデンサの静電容量dCは次式(2)によって示される。
【数2】
……(2)
【0050】
ここで、εは空気の比誘電率、ε0は真空中の誘電率、aはセンサの長辺、bは短辺である。また、傾きによって減少する電極板端部コンデンサのx軸方向の長さxdは次式(3)によって示される。
【数3】
……(3)
よって、全体の静電容量Cは、式(4)によって求められる。
【数4】
……(4)
【0051】
第2電極板11に傾きが生じた場合の電気的特性による影響は、印加荷重の大きさに関わらず同傾向のものが生じる。以下では、その影響が特に大きく現れる最大荷重を印加した場合について説明する。
図6によれば、センサ中心に上述したように定義した荷重の計測範囲における最大荷重5.848[N]を印加した際のゴムシリンダ12の伸縮量は約0.06[mm]であった。
【0052】
荷重センサ20において不均一荷重となったとき、最も大きな第2電極板11の傾きが生じる最大荷重を印加した際の応答を
図7に示す簡易センサモデルのシミュレーションによって確認した。この結果、第2電極板11の中心間距離dを0.44[mm]、傾きδを0[mm]から0.03[mm]まで増加させたときの静電容量の変動率C
δ≠0/C
δ=0は
図8のように示された。なお、C
δ=0は傾きδが0[mm]のときの静電容量であり、C
δ≠0は傾きδが0[mm]でないときの静電容量である。
図8により、電気的特性としては、傾きが大きいほどセンサ出力も大きくなることが確認できた。
【0053】
以上より、不均一荷重を正しく計測するためには、ゴムシリンダ12の材料特性とコンデンサの電気的特性による影響を考慮した補償を行う必要がある。そこで、作成したセンサ実機に基づいてシミュレータを作成し、そのシミュレーション結果から荷重計測における誤差補償式を導出し、これをセンサ実機に適用することとした。
【0054】
(4−2)シミュレーションによる誤差補償式の導出
シミュレーションによって、不均一荷重に対する計測特性の確認と荷重計測における誤差補償式の導出を行う。不均一荷重が印加された際の荷重センサ20のモデルとして、第2電極板11に傾きが生じた場合の下側面図を
図9(A)に示すとともに、右側面図を
図9(B)に示す。なお、d
0はゴムシリンダ12の自然長、l
n(n=1〜4)は式(3)にy軸方向の傾きが加わり、次式(5)のように表される。
【数5】
……(5)
【0055】
ここで、δ
x=(l
4−l
1)=(l
3−l
4)、δ
y=(l
3−l
4)=(l
2−l
1)、x
dとy
dは傾きによって減少する電極板端部コンデンサのx軸方向とy軸方向それぞれの長さであり、a’は左右の電極板間の距離、b’は上下の電極板間の距離である。この式(5)と
図6により求めたバネ特性を用いることで、各荷重や荷重印加位置に応じたセンサ出力のシミュレーションが可能となる。
【0056】
次に、不均一荷重に対する計測特性の確認と誤差補償式導出の前準備として、分布荷重の比についての定義を行う。荷重センサ20は、加えられた荷重とその中心位置に応じて、計測される荷重分布が一意に定まる。この特性を利用することで、不均一荷重の計測における誤差の推定と補償が可能になる。荷重分布において重要な情報は、総荷重と分布荷重のパターンである。総荷重F
aの導出方法については上述の通りである。分布荷重のパターンについては、x軸方向の分布荷重の比R
x、y軸方向の分布荷重の比R
yとして扱うものとする。
【0057】
R
xとR
yの定義はそれぞれ次式(6)と次式(7)のように表される。
【数6】
……(6)
【数7】
……(7)
【0058】
これら式(6)および式(7)により、R
xはx軸方向に、R
yはy軸方向に傾きがない場合、それぞれ値が0となる。また、荷重センサ20は加えられた荷重とその荷重中心位置に応じて、計測される荷重分布が一意に定まるため、その総荷重F
a、x軸方向の分布荷重の比R
x、y軸方向の分布荷重の比R
yにつても同様に一意に定まる。このため、FaとR
x、R
yから必要な誤差補償量を導出できれば、不均一荷重に対する荷重計測における誤差補償が可能となる。
【0059】
このシミュレーションでは、センサ実機と同様に0〜596.7[g]までの荷重を96.7[g]以降は100[g]ずつ加えて増量させるものとし、
荷重センサ20の中心位置から荷重中心をx軸上、y軸上にてそれぞれ移動させた場合におけるF
aおよびR
x、R
yを算出する。
【0060】
さらに印加荷重の真値F
trueとF
aとの差から必要な誤差補償量を算出し、これを縦軸とし、荷重中心をx軸上にて移動した場合にはF
aおよびR
xを、荷重中心をy軸上にて移動した場合には、F
aおよびR
yを底面座標系の各軸として3次元グラフへプロットする。このグラフプロットされたデータ点に対して、入力変換をF
aおよびR
x、R
y、出力を誤差補償量として求めた近似曲面が不均一荷重に対する荷重計測における誤差補償式となる。なお、x軸とy軸の両方向に同時に荷重中心が移動した場合については、後ほど説明する。
【0061】
(4−2−1)荷重中心をx軸上にて移動した場合
荷重センサ20において、荷重中心をx軸正の方向へ0[mm]から12[mm]まで1[mm]ずつ移動した際の荷重計測における誤差とその補償について検討する。シミュレーションによって算出されたF
a、R
x、誤差補償量Fec
xの3次元グラフへのデータ点のプロットを
図10に示す。なお、Fec
x=F
true−F
aである。
【0062】
図10によると、荷重とその印加位置に応じてF
a、R
x、Fec
xの関係は一意に定まることがわかる。よって、入力変数をF
aとR
x、出力をFec
xとした近似曲面が荷重中心をx軸正方向へ移動した場合の不均一荷重に対する荷重計測における誤差補償式となる。ここで、誤差補償は上面電極板に傾きが生じた際、すなわち、R
xが0でない場合に必要となるため、F
aの関数が単独で誤差補償量に影響を及ぼすことはない。
【0063】
これらを踏まえて近似曲面を求めた結果、今回印加した荷重に対する応答の範囲では、F
aについて2次、R
xについて2次の多項式(8)によって高い近似性が確認された。なお、決定係数R
2は、0.987であった。
【数8】
……(8)
【0064】
ここで、p
n(n=1〜7)は導出した誤差補償式の各項の係数であり、荷重中心をx軸負の方向へ移動した場合には、これらのパラメータを別途求めることで同様に誤差補償式が求まる。求めた近似曲面を
図10に示す。
【0065】
(4−2−2)荷重中心をy軸上にて移動した場合
荷重センサ20において、荷重中心をy軸正の方向で0[mm]から6[mm]まで1[mm]ずつ移動した際の荷重計測における誤差とその補償について検討する。この場合、R
xの代わりにR
yを用いることにより、x軸正の方向の場合と同様に誤差補償式を求められる。シミュレーションによって算出されたF
a、R
y、誤差補償量Fec
y=F
true−F
aの3次元グラフへのデータ点のプロットを
図11に示す。また求めた誤差補償式を次式(9)に示す。なお、誤差補償式として求めた近似曲面の決定係数R
2は0.986であった。
【数9】
……(9)
【0066】
ここで、q
n(n=1〜7)は導出した誤差補償式の各項の係数であり、荷重中心をy軸負の方向へ移動した場合には、これらのパラメータを別途求めることで同様に誤差補償式が求まる。求めた近似曲面を
図11に示す。
【0067】
図10および
図11によれば、荷重中心がセンサ中心から離れ、R
xまたはR
yとF
aが増加するほど荷重計測における誤差補償量が増加することがシミュレーションにて確認された。このことから、ゴムシリンダ12の材料特性による影響が荷重の計測誤差として大きく現れていることがわかる。
【0068】
(4−2−3)x軸y軸の両方向に同時に荷重中心が移動した場合
荷重センサ20において、x軸とy軸の両方向に同時に荷重中心が移動した場合として、x軸y軸ともに正方向(第一象限)のセンサの対角線上にて荷重中心を移動した際に、荷重計測に誤差補償Fec
xとFec
yを適用後に残る誤差とその補償について検討する。
【0069】
ここで、残存誤差補償量Fec
xy=F
true−(F
a+Fec
x+Fec
y)とする。また、これはx軸とy軸の両方向に同時に荷重中心が移動した場合に必要となる補償であるため、x軸方向とy軸方向の分布荷重の比の代わりにそれらの積R
xy=R
xR
yを用いる。
【0070】
シミュレーションによって算出されたF
a、R
xy、Fec
yの3次元グラフへのデータ点のプロットを
図12に示す。近似曲面を求めた結果、F
aについて2次、R
xyについて2次の多項式(10)によって高い近似性が確認された。なお、決定係数R
2は1であった。求めた多項式(10)を以下に示す。
【数10】
……(10)
【0071】
ここで、r
n(n=1〜7)は導出した残存誤差補償式の各項の係数であり、荷重中心の移動を第二から第四象限まで変えた場合についても、それぞれの場合に対してこれらのパラメータを別途求めることにより、同様に残存誤差補償式を求めることができる。求めた近似曲面を
図12に示す。
【0072】
ここでは、x軸とy軸の両方向に同時に荷重中心が移動した場合として、Fec
xyが最も大きくなるセンサの対角線上にて荷重中心を移動した場合の補償について説明した。その他の場合では、荷重中心がx軸またはy軸に近づくこととなり、必要なFec
xyが減少する。例えば、荷重中心のy座標が0に近づいた場合には、Fec
xによってほとんどの誤差が補償される。このとき、R
yは0に近づきR
xとR
yの積であるRxyもまた0に近づく。Fec
xyの全ての項はR
xyとの積になっているため、Fec
xyもまた0に近づく。以上より、本センサの不均一荷重に対する補償を加えた荷重算出式は式(11)となる。
【数11】
……(11)
【0073】
(4−3)センサ実機による誤差補償式の導出
センサ実機における不均一荷重に対する計測特性を確認するために、
図13に示す29箇所に対して荷重の印加を行った。なお、荷重は0〜569.7[g]までを荷重印加装置の荷重の受け皿の重さである96.7[g]以降は100[g]ずつ分銅を用いて加えるものとした。
【0074】
それ以降では、シミュレーションとの比較のために荷重センサ20の第一象限についての結果のみ説明を行うが、不均一荷重計測のためのキャリブレーションとして、第二象限から第四象限についても各種補償式の適用を行った。
【0075】
(4−3−1)荷重中心をx軸上にて移動した場合
荷重センサ20において、荷重中心をx軸正の方向へ0[mm]から12[mm]まで3[mm]ずつ移動した際の計測値におけるF
a、R
xy、Fec
xの3次元グラフへのデータ点のプロットと、シミュレーションから求めた誤差補償式による近似曲面のプロットを
図14に示す。
【0076】
図14と
図10を比較すると、センサ実機での計測値では、R
xが増加した際のデータ点のプロット差異が見られるものの、F
aとR
xが増加するほどFec
xが増加するという特性は一致しており、適用した誤差補償式によってデータ点が存在する近似曲面を求めることができた。なお、決定係数R
2は0.985であった。
【0077】
(4−3−2)荷重中心をy軸上にて移動した場合
荷重センサ20において、荷重中心をy軸正の方向へ0[mm]から6[mm]まで3[mm]ずつ移動した際の計測値に置けるF
a、R
y、Fec
yの3次元グラフへのデータ点のプロットと、シミュレーションから求めた誤差補償式による近似曲面のプロットを
図15に示す。
【0078】
図15と
図11を比較すると、データ点のプロットはシミュレーションによるものと曲面形状が類似しており、適用した補償式によってデータ点が存在する近似曲面を求めることができた。なお、決定係数R
2は0.979であった。
【0079】
図14および
図15において、誤差補償量の大きさがシミュレーションのものに比べ小さい理由は、シミュレーションではゴムシリンダ12の形状を考慮せずバネとしていたためである。実モデルでは、ゴムシリンダ12は円柱であるため、不均一荷重によって電極板が傾いたとき、ゴムシリンダ12の中でも端の断面積が少ない部分に力が集中する。このため、シミュレーションに比べてゴムシリンダ12の伸縮量が大きくなり、必要とされる誤差補償量の大きさが小さくなっている。
【0080】
このように、実モデルでは、ゴムシリンダ12の形状特性によって、荷重計測における誤差補償量がシミュレーションに比べ小さく抑えられるという結果となっている。また、y軸正の方向へ荷重中心を移動した際の低荷重領域におけるシミュレーションとの特性の差異は、電極板の長さに依存するものであり、シミュレーションでは考慮されていない第2電極板11の初期歪みが原因である。
【0081】
そこで、第2電極板11の歪みによる影響を低減し計測精度を向上させるために、荷重中心をx軸正の方向へ移動した際の誤差補償を、移動区間を中間値で区切ったセンサ中心から6[mm]までと6[mm]以上に分けて、式(8)の係数パラメータを求め誤差補償式とすることとした。なお、決定定数R
2の最低値は0.946であった。
【0082】
誤差補償式を荷重中心のx座標に関して2区間で分割した後のほうが決定定数は低くなっているが、これは曲面近似に用いたデータ数の差によるものであり、計測誤差の観点では改善がみられた。荷重センサ20の荷重計測における計算コスト削減および計測精度向上のために、今後、電極板の初期歪みへの対策を行っていく必要がある。その1手法として、軽量かつ絶縁体であり、硬度の高いセラミック板を荷重センサ20の第1電極板10および第2電極板11の基材に使用する。
【0083】
(4−3−3)x軸y軸の両方向に同時に荷重中心が移動した場合
荷重センサ20において、x軸y軸ともに正方向のセンサの対角線上にて荷重中心を移動した際の計測値におけるF
a、R
xy、Fec
xyの3次元グラフへのデータ点をプロットし、シミュレーションから求めた残存誤差補償式による近似曲面のプロットを
図16に示す。
【0084】
図16と
図12を比較すると、データのプロットはシミュレーションによるものとその曲面形状が類似していることが確認された。しかし、近似曲面の決定係数R
2は0.258と低い結果となった。この原因としては、グラフ全体のFec
xyの値が小さいため、センサの分解能に由来するデータ点のばらつきが大きな影響力を持っている。
【0085】
また、シミュレーションでは考慮されていない第2電極板11の初期歪みが存在する。そこで、荷重中心をx軸上にて移動した場合と同様に、荷重中心のx座標に関して、センサ中心から6[mm]までと6[mm]以上に分けて、式(10)の係数パラメータを求め残存誤差補償式とすることとした。その結果、決定係数R
2の最低値は0.524となり改善がみられた。
【0086】
(5)荷重中心位置の導出
不均一荷重に対する荷重計測における誤差補償と同様に、荷重中心位置計測のためのキャリブレーションとして、荷重センサ20のセンサモデルによるシミュレーションからの荷重中心位置の算出式の導出およびセンサ実機への適用について述べる。
【0087】
(5−1)シミュレーションによる荷重中心算出式の導出
荷重センサ20は加えられた荷重とその荷重中心位置に応じて、計測される荷重分布が一意に定まるため、その総荷重F
a、x軸方向の分布荷重の比R
x、y軸方向の分布荷重の比R
yについても
同様に一意に定まる。このため、F
aとR
x、R
yからの荷重中心位置の算出が可能となる。シミュレーションによる荷重中心位置の算出式の導出は、上述の荷重計測の誤差補償式の導出において、誤差補償量を荷重中心位置に置き換えることで可能となる。
【0088】
(5−1−1)荷重中心をx軸上にて移動した場合
荷重センサ20において、荷重中心をx軸正の方向へ0[mm]から12[mm]まで1[mm]ずつ移動した際の荷重中心位置のx座標の算出について検討する。シミュレーションによって算出されたF
a、R
x、荷重中心位置のx座標COF
mxの3次元グラフへのデータ点のプロットを
図17に示す。
【0089】
図17によれば、荷重とその印加位置に応じてF
a、R
x、COF
mxの関係は一意に定まることがわかる。よって、入力変数をF
aとR
x、出力をCOF
mxとした近似曲面が荷重中心のx座標の算出式となる。ここで、F
aの関数が単独で荷重中心位置に影響を及ぼすことはない。これらを踏まえて近似曲面を求めた結果、今回、印加した荷重に対する応答の範囲では、F
aについて2次、R
xについて2次の多項式である式(12)によって高い近似性が確認された。なお、決定係数R
2は1であった。
【数12】
……(12)
【0090】
ここで、s
n(n=1〜7)は導出した誤差補償式の各項の係数であり、荷重中心をx軸負の方向へ移動した場合には、これらのパラメータを別途求めることで同様にCOF
mxが求まる。求めた近似曲面を
図17に示す。なお、近似曲面はFaについて1次、R
xについて1次の多項式によっても比較的高い決定係数にて求めることが可能であるが、本発明では、より高精度な荷重中心位置の計測を実現するために、決定係数がより高い結果となった式(12)を採用することとした。
【0091】
(5−1−2)荷重中心をy軸上にて移動した場合
荷重センサ20において、荷重中心をy軸正の方向へ0[mm]から6[mm]まで1[mm]ずつ移動した際の荷重中心位置のy座標の算出について検討する。この場合、R
xの代わりにR
yを用いることで、x軸正の方向の場合と同様に荷重中心位置のy座標の算出式を求められる。
【0092】
シミュレーションによって算出されたF
a、R
y、荷重中心位置のy座標の誤差補償量COF
myの3次元グラフへのデータ点のプロットを
図18に、求めた算出式を次式(13)に示す。なお、算出式として求めた近似曲面の決定係数R
2は0.999であった。
【数13】
……(13)
ここで、t
n(n=1〜7)は導出した誤差補償式の各項の係数であり、荷重中心をy軸負の方向へ移動した場合には、これらのパラメータを別途求めることで同様にCOF
myが求まる。求めた近似曲面を
図18に示す。
【0093】
(5−1−3)x軸y軸の両方向に同時に荷重中心が移動した場合
荷重センサ20において、x軸とy軸の両方向に同時に荷重が移動した場合として、x軸y軸ともに正方向(第一象限)のセンサが対角線上にて荷重中心を移動した際の荷重中心位置の計測誤差とその補償について検討する。
【0094】
ここで、荷重中心位置の誤差量COFec
(x,y)=COF
true(x,y)−COF
m(x,y)とする。また、これはx軸とy軸の両方向に同時に荷重中心が移動した場合に必要となる補償であるため、x軸方向とy軸方向の分布荷重の比の代わりにそれらの積R
xyを用いる。
【0095】
シミュレーションによって算出されたF
a、R
xy、荷重中心位置のx座標の誤差補償量COFec
xの3次元グラフへのデータ点のプロットを
図19に、F
a、R
xy、荷重中心位置y座標の誤差補償量COFec
yの3次元グラフへのデータ点のプロットを
図20に示す。
【0096】
それぞれ近似曲面を求めた結果、F
aについて2次、R
xyについて2次の多項式(14)および(15)によって高い近似性が確認された。なお、決定係数R
2はそれぞれ0.994と0.971であった。求めた多項式を次式(14)および(15)に示す。
【数14】
……(14)
【数15】
……(15)
【0097】
ここで、u
n、v
n(n=1〜7)はそれぞれ導出した荷重中心位置の計測の誤差補償式の各項の係数であり、荷重中心の移動を第二象限から第四象限まで変えた場合についても、それぞれの場合に対してこれらのパラメータを別途求めることで同様に誤差補償式が求まる。求めた近似曲面をそれぞれ
図19および
図20に示す。以上により、荷重センサ20の荷重中心位置COF
(x,y)の算出式は、次式(16)となる。
【数16】
……(16)
【0098】
(5−2)センサ実機による荷重中心算出式の導出
(5−2−1)荷重中心をx軸上にて移動した場合
荷重センサ20において、荷重中心をx軸正の方向へ0[mm]から12[mm]まで3[mm]ずつ移動した際の計測値におけるF
a、R
x、COF
mxの3次元グラフへのデータ点のプロットと、シミュレーションから求めたCOFmx算出式による近似曲面のプロットを
図21に示す。
【0099】
図21と
図17を比較すると、データ点のプロットはシミュレーションによるものと類似しており、適用した算出式によってデータ点が存在する近似曲面を求めることができた。なお、決定係数R
2は0.998であった。
【0100】
(5−2−2)荷重中心をy軸上にて移動した場合
荷重センサ20において、荷重中心をy軸正の方向へ0[mm]から6[mm]まで3[mm]ずつ移動した際の計測値におけるF
a、R
y、COF
myの3次元グラフへのデータ点のプロットとし、シミュレーションから求めたCOF
my算出式による近似曲面のプロットを
図22に示す。
【0101】
図22と
図18を比較すると、データ点のプロットはシミュレーションによるものと類似しており、適用した算出式によってデータ点が存在する近似曲面を求めることができた。なお、決定係数R
2は0.999であった。
【0102】
(5−2−3)x軸y軸の両方向に同時に荷重中心が移動した場合
荷重センサ20において、x軸y軸ともに正方向のセンサの対角線上にて荷重中心を移動した際の計測値におけるF
a、R
xy、COFec
(x,y)の3次元グラフへのデータ点のプロットとし、シミュレーションから求めた誤差補償式による近似曲面のプロットを
図23および
図24に示す。
【0103】
図23と
図19、
図24と
図20を比較すると、データ点のプロットはシミュレーションによるものに対して差異が確認された。この原因は、シミュレーションで考慮されていない電極間の初期歪みがゴムシリンダ12のバネモデルとの差異であり、COFec
(x,y)の値が小さいため、大きな差異として現れたことがわかる。
【0104】
なお、近似曲面の決定係数R
2はそれぞれ0.290と0.939であった。
図23における近似曲面の決定係数は低いが、グラフ全体のCOFec
xの値が小さいため、センサの分解能に由来するデータ点のばらつきが大きな影響力を持っていることが原因である。これに対して、COFec
xに比べ大きな誤差補償量となったCOFec
yに対して、決定係数が高い近似曲面となったため、荷重中心位置の誤差補償式として有効である。
【0105】
(6)計測性能評価実験
本発明による触力覚検知装置1について、実際に荷重センサ20における荷重と荷重中心位置の計測が可能であることを確認するために、荷重印加実験による各種計測精度の評価と連続計測データの応答確認を行った。
【0106】
(6−1)実験方法
図13に示す29箇所に対して、荷重印加装置を用いて荷重の印加を行い、今回キャリブレーションと誤差補償を行った荷重印加から1秒後の計測値を用いて、荷重センサ20の計測精度の評価を行う。なお、荷重は0〜596.7[g]までを荷重印加装置の荷重の受け皿の重さである96.7g以降は100gずつ分銅を用いて加えるものとし、各位置・荷重ごとに荷重印加を5試行実施した。
【0107】
荷重センサ20上の(x,y)=(12,6)mmに荷重の計測範囲のおおよそ中間値である2.91[N]の荷重を10秒間印加した際の各種計測値の連続データをグラフプロットし、その計測データの応答を確認する。
【0108】
(6−2)実験結果
荷重センサ20による荷重の計測結果を
図25(A)および(B)に示す。
図25(A)は計測値の標本平均、
図25(B)は計測誤差の標本平均である。実験結果より、本実施の形態における荷重センサ20は、誤差の標本平均が±0.030[N]の範囲内にあることを確認した。なお、標準偏差の最大値は0.051[N]であった。
【0109】
続いて、荷重中心位置のx座標COF
x、y座標COF
yそれぞれの計測結果を
図26および
図27に示す。
図26によれば、x座標の計測誤差の標本平均が±0.11[mm]の範囲内にあることを確認した。なお、最大標準偏差は0.27[mm]であった。
図27によれば、y座標の計測誤差の標本平均が±0.12[mm]の範囲内にあることを確認した。なお、最大標準偏差は0.29[mm]であった。
【0110】
荷重センサ20の(x,y)=(12,6)[mm]に2.91[N]の荷重を10秒間印加した際の各種計測値の連続データを
図28(A)〜(C)に示す。なお、荷重中心位置については、低荷重領域において荷重分布における計測荷重誤差の影響が大きく現れるため、0.196[N](=20[g])以下をフィルタリングしている。
図28(A)〜(C)により、計測された荷重と荷重中心位置のそれぞれの応答が印加した荷重と荷重中心位置に対応していることを確認した。
【0111】
(7)本実施の形態による触力覚検知装置1の動作および効果
以上の構成において、触力覚検知装置1では、複数の正極が同一平面上かつアレイ状に配置された第1電極板10と単一の負極が配置された第2電極板11との間に当該正極と同数の粘弾性体からなる所定形状のシリンダをそれぞれ介挿して複数のコンデンサを形成する静電容量式の荷重センサ20と、荷重センサ20の第2電極板11に加えられる外力に応じて変化する各コンデンサの静電容量を検出する静電容量検出部30と、静電容量検出部30により検出された各コンデンサの静電容量の変化量に基づいて、それぞれゴムシリンダ12に加わる荷重の分布を表す分布荷重を計測する分布荷重計測部31と、分布荷重計測部31により計測された分布荷重に対する各ゴムシリンダ12の伸縮量および当該分布荷重のパターンの関係性に基づいて、荷重センサ20の第2電極板11に加えられる外力の総荷重および荷重中心位置を算出する荷重情報算出部32とを備えるようにした。
【0112】
この結果、荷重センサ20の第2電極板11に加えられる外力の総荷重および荷重中心位置に応じて、各ゴムシリンダ12に加わる分布荷重が一意に定まることにより、当該第2電極板11に作用する荷重の面積によらず、外部から加えられた荷重の大きさを正確に計測することができる。
【0113】
このように本実施の形態による触力覚検知装置1では、上述したセンサ実機による計測精度評価実験より、必要とする荷重計測範囲において、荷重センサ20が荷重と荷重中心を実際に計測できることを確認した。ここで、荷重中心の計測に着目すると、人の指表面における刺激位置に対する解像度は1.6[mm]程度であり、本実施の形態による荷重センサ20はこれと同等以上の計測精度であることを確認できた。
【0114】
また印加荷重に対する静電容量の増加量については、ゴムシリンダ12に用いたシリコンゴムの硬度が低くなるほど大きくなる。このため、より高い計測精度を必要とする場合には、より硬度の低いシリコンゴムを用いることで、分解能の調整および向上が可能となる。
【0115】
また触力覚検知装置1では、静電容量検出部30は、各コンデンサについて、荷重印加時から所定時間経過後までの静電容量の増加量に基づいて、対応するゴムシリンダ12の材料特性に応じた当該ゴムシリンダ12に加わる荷重の計測誤差および当該ゴムシリンダ12の硬度に応じた応答遅れをキャリブレーション補正するようにした。
【0116】
この結果、粘弾性体であるゴムシリンダ12は、瞬間的な弾性変形後に生じる緩やかな粘性変形に起因して応答遅れが生じるため、硬度の低さに比例して応答遅れが大きくなるとともに、硬度が低くなるほど荷重に対するゴムシリンダ12の伸縮量が増加し、第1電極板10および第2電極板11間の距離が近くなることにより、第1電極板10および第2電極板11間間の距離と反比例の関係にある静電容量が大きくなるため、硬度の低さに比例して静電容量の増加量が大きくなるが、このような材料特性に基づく要因を解消することができる。
【0117】
実際に各種計測データの応答確認では、計測荷重には応答遅れが確認されたが、計測された荷重中心位置では応答遅れに改善が確認された。これは、荷重中心の算出式において、荷重分割比の成分が大きな影響力を持っており、各チャンネルの計測荷重の分力から算出される荷重分割比では応答遅れの影響が打ち消し合うからである。
【0118】
また、ゴムシリンダ12に用いたシリコンゴムの硬度が高いほど、センサ出力の応答性が高くなることを確認した。このため、荷重計測についても応答性を重視する場合には、より硬度の高いシリコンゴムを用いることで、より応答性の高い荷重計測が可能となると言い得る。センサの分解能と応答性はトレードオフの関係にあるが、ゴムシリンダ12の直径や高さを小さくすることで、硬度の高いシリコンゴムを用いた場合でも荷重印加による静電容量の増加量を大きくできるため、分解能と応答性の向上の両立が可能となる。
【0119】
さらに触力覚検知装置1では、荷重情報算出部32は、荷重センサ20の第2電極板11に加えられる外力の総荷重と、第1電極板10を平面とするx軸方向の分布荷重の比と、当該第1電極板10を平面とするy軸方向の分布荷重の比とに基づいて、荷重中心位置が第2電極板11の中心外となる不均一荷重に対する誤差補償量を算出し、当該誤差補償量に基づいて荷重中心位置をキャリブレーション補正するようにした。
【0120】
この結果、荷重中心位置が第2電極板11の中心外となる不均一荷重に対しても、シミュレーションにより誤差補償量を算出して、各第1電極板10のサイズ誤差の補正と同時に荷重中心位置をキャリブレーション補正することが可能となる。
【0121】
さらに触力覚検知装置1では、荷重センサ20は、非導電性材からなるシールド材を用いて全体が被覆されている。この結果、センサ自体と他誘電体とのコンデンサ形成を未然に防いで外来ノイズを除去することが可能となる。
【0122】
(8)他の実施の形態
なお本実施の形態においては、触力覚検知装置1における荷重センサ20を、4個の正極が同一平面上かつアレイ状に配置された第1電極板10と単一の負極が配置された第2電極板11との間に当該正極と同数のゴムシリンダ12をそれぞれ介挿して4個のコンデンサを形成する静電容量式のものを構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、第1電極板10の数は4個以外にも複数配置するようにしてもよい。
【0123】
また本実施の形態においては、第1電極板10および第2電極板11間に介挿する粘弾性体からなるシリンダとして、シリコンゴムを材料とするゴムシリンダ12を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、耐候性、耐熱性、耐寒性に優れるとともに、荷重センサ20のセンサ出力の応答性が所定レベル以上確保可能な硬度があれば、シリコンゴム以外の材料のものを適用してもよい。ゴムシリンダ12以外にもセンサ分解能および応答性の向上の両立が可能であれば、種々の材料のものに広く適用するようにしてもよい。
【0124】
さらに本実施の形態における触力覚検知装置1を、荷重センサ20の第2電極板11が物体を把持する指先の把持面となるように、当該指先に組み込むようにしてロボットアームを構成するようにしてもよい。荷重センサ20を、ロボットアームの指部への組込みを想定してサイズを設計して、ゴムシリンダ12の硬度や形状を調整することにより、分解能と応答性の調整も実現可能であり、人の生活を支援するロボットの触覚としての活用が期待される。また、このロボットアームでは、物体を把持する際に、指先の接触圧および接触位置を正確に認識することが可能となる。