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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-187087(P2020-187087A)
(43)【公開日】2020年11月19日
(54)【発明の名称】光パルス試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/353 20060101AFI20201023BHJP
【FI】
   G01D5/353 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-93570(P2019-93570)
(22)【出願日】2019年5月17日
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧 達幸
【テーマコード(参考)】
2F103
【Fターム(参考)】
2F103BA37
2F103CA07
2F103EB02
2F103EB12
2F103EB18
2F103EB32
2F103EC09
2F103EC10
2F103ED27
(57)【要約】
【課題】計測の所要時間が増大するのを避けると共に、距離分解能などの性能を向上させることが可能な光パルス試験装置を提供すること。
【解決手段】波長が異なる複数の光をほぼ同時に発生する複数の光発生デバイス14A、14B、・・・と、波長が異なる複数の光の合波および分波を処理するアレイ導波路回折格子43と、計測用光ファイバの入射端で受信した戻り光について、互いに波長が異なる複数の光に基づき計測した複数の計測値を合成する波形統合部52とを備える。送出するパルス光の波長毎に異なる遅延を与えて計測点をシフトする。複数の波長でほぼ同時に計測した複数のデータを統合する際に、複数データを加算して平均化するか、又はデータの並び替えによりサンプリング間隔の間にデータを補完して距離分解能を改善する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象の光ファイバの一端にパルス状の光を送り込み、前記光ファイバ上の任意位置で発生した散乱光を前記光ファイバの前記一端で戻り光として検知する光パルス試験装置であって、
互いに波長が異なる複数の光を発生する複数の光源(14A、14B)と、
前記複数の光に対してそれぞれ異なる遅延を発生する個別遅延発生部(42)と、
前記複数の光の合波および分波を処理する光多重デバイス(43)と、
前記光ファイバの前記一端で受信した前記戻り光について、前記複数の光に基づき計測した複数の計測値を合成する合成処理部(52)と、
を備えた光パルス試験装置。
【請求項2】
前記合成処理部は、前記複数の光に基づき計測した複数の計測値を、それぞれの遅延量を加味した互いに異なる計測位置のデータとして個別に出力する、
請求項1に記載の光パルス試験装置。
【請求項3】
前記合成処理部は、前記複数の光に基づき計測した複数の計測値を加算又は平均化して、同じ計測位置の1つのデータとして出力する、
請求項1に記載の光パルス試験装置。
【請求項4】
前記合成処理部は、切り替え可能な第1モードと第2モードとを有し、
前記第1モードでは、前記合成処理部は前記複数の光に基づき計測した複数の計測値を、それぞれの遅延量を加味した互いに異なる計測位置のデータとして個別に出力し、
前記第2モードでは、前記合成処理部は前記複数の光に基づき計測した複数の計測値を加算又は平均化して、同じ計測位置の1つのデータとして出力する、
請求項1に記載の光パルス試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光パルス試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
OTDR(Optical Time Domain Reflectometer)と呼ばれる光パルス試験器は、一般的に時間幅の短いパルス状の光を生成し、このパルス光を計測対象の光ファイバの一端に送り込む。光ファイバに入射した光は、光ファイバ内部を伝搬する際に、一部の光が内部のガラスによって跳ね返され散乱光を発生する。この散乱光には「レイリー散乱」と呼ばれるものも含まれる。光ファイバ内部で発生した散乱光の一部は光ファイバ内部を伝搬して入射端に戻るので、光ファイバの入射端で散乱光を観測できる。
【0003】
光ファイバにパルス光を入射してからこの入射端で散乱光が観測されるまでの時間差は、光ファイバの入射端と散乱光が発生した場所との距離に応じて変化する。したがって、光ファイバの入射端で観測される散乱光の受光レベルの時系列変化は、この光ファイバの場所毎の散乱光発生に関する分布状況を表すものとなる。このような分布状況を光パルス試験器で表示することができる。
【0004】
例えば、光ファイバの一部分に歪みなどの変化が発生すると、その歪みが生じた場所の近傍で散乱光の発生状況が変化し、この変化が光ファイバの入射端で観測される。入射端から歪みが生じた場所までの距離の違いは、光ファイバにパルス光を入射してから該当する散乱光が入射端で観測されるまでの時間差に反映される。
【0005】
したがって、光ファイバに光パルス試験器を接続することにより、光ファイバ自体を様々なセンサとして利用することも可能になる。また、このようなセンサの場合は、特定の検出対象点に限らず、光ファイバの長さ方向の全域に亘ってほぼ全ての位置で連続的に検出を行うことが可能である。
【0006】
ここで、光パルス試験器の距離分解能を上げるためには、光ファイバの入射端に戻った散乱光の検出信号をサンプリングする時間間隔を非常に短くする必要があり、電気的な信号処理の制約が大きくなる。例えば、数百ピコ秒オーダの信号処理が要求される場合には、電気回路においてシビアな対応が必要になる。また、長距離の光ファイバの全体を計測対象とする場合には、膨大な量のデータ処理が必要になる。
【0007】
一方、例えば特許文献1のOTDR方式測定方法は、高度な電子回路技術を必要とすることなく距離分解能を短くするための技術を示している。すなわち、測定用光ファイバの入射端に(L/N)づつ長さの異なるN本の短尺ファイバを切替接続して測定し、各々測定結果から(L/N)毎の後方散乱光を算出することを示している。
【0008】
また、特許文献2の光パルス試験器は、損失分布特性の波形と波形上に現れるイベントの解析結果を同時に表示する場合に、短時間で精度よくイベントの解析を行うための技術を示している。この光パルス試験器は、表示手段の表示分解能に応じた表示データを作成する表示データ作成手段と、表示データ作成手段で作成した表示データに基づいて仮の損失分布変極点を検出し、仮の損失分布変極点近傍の測定データに基づいて真の損失分布変極点を特定するとともに真の損失分布変極点を含むイベントを解析する解析手段とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−283640号公報
【特許文献2】特開2013−108997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の技術を利用する場合には、高度な電子回路技術を利用しなくても、光パルス試験器における距離分解能を大幅に向上させることが可能である。しかしながら、この技術を採用する場合にはN本の短尺ファイバを順番に切替接続するので、同様の測定手順をN回、繰り返し行う必要がある。そのため、一般的な測定と比べて計測の所要時間がN倍に増大してしまう。
【0011】
したがって、例えば全長が数千kmもあるような光ファイバを利用し、更に距離分解能を上げるためにNの値を増やす場合には、計測の所要時間が増大するのを避ける必要がある。
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、計測の所要時間が増大するのを避けると共に、距離分解能などの性能を向上させることが可能な光パルス試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するために、本発明に係る光パルス試験装置は、下記(1)〜(4)を特徴としている。
(1) 計測対象の光ファイバの一端にパルス状の光を送り込み、前記光ファイバ上の任意位置で発生した散乱光を前記光ファイバの前記一端で戻り光として検知する光パルス試験装置であって、
互いに波長が異なる複数の光を発生する複数の光源と、
前記複数の光に対してそれぞれ異なる遅延を発生する個別遅延発生部と、
前記複数の光の合波および分波を処理する光多重デバイスと、
前記光ファイバの前記一端で受信した前記戻り光について、前記複数の光に基づき計測した複数の計測値を合成する合成処理部と、
を備えた光パルス試験装置。
【0014】
(2) 前記合成処理部は、前記複数の光に基づき計測した複数の計測値を、それぞれの遅延量を加味した互いに異なる計測位置のデータとして個別に出力する、
上記(1)に記載の光パルス試験装置。
【0015】
(3) 前記合成処理部は、前記複数の光に基づき計測した複数の計測値を加算又は平均化して、同じ計測位置の1つのデータとして出力する、
上記(1)に記載の光パルス試験装置。
【0016】
(4) 前記合成処理部は、切り替え可能な第1モードと第2モードとを有し、
前記第1モードでは、前記合成処理部は前記複数の光に基づき計測した複数の計測値を、それぞれの遅延量を加味した互いに異なる計測位置のデータとして個別に出力し、
前記第2モードでは、前記合成処理部は前記複数の光に基づき計測した複数の計測値を加算又は平均化して、同じ計測位置の1つのデータとして出力する、
上記(1)に記載の光パルス試験装置。
【0017】
上記(1)の構成の光パルス試験装置によれば、計測の所要時間を増大させることなく、例えば距離分解能や計測結果の信号対雑音比(SNR:signal-to-noise ratio)などの性能を向上させることが可能である。すなわち、波長が異なる複数の光を光ファイバ上で多重化することにより、ほぼ同じタイミングで複数の波長の光を利用して複数回の計測を実施できるので、波長毎にサンプリング間隔よりも小さい所定の遅延量だけ互いにタイミングをずらして計測を実施することにより、距離分解能の向上が見込まれる。また、波長が異なる複数の光を用いた複数の計測結果を平均化して出力した場合には、信号対雑音比等の確実な向上が見込まれる。
【0018】
上記(2)の構成の光パルス試験装置によれば、光ファイバの一端で受信した戻り光のサンプリング間隔よりも遅延量を小さくすることにより、距離分解能の向上が見込まれる。
【0019】
上記(3)の構成の光パルス試験装置によれば、1回の計測手順だけで、波長が異なる複数の光を用いた複数の計測結果を平均化して出力できる。したがって、信号対雑音比が改善される。
【0020】
上記(4)の構成の光パルス試験装置によれば、第1モードと第2モードとを必要に応じて使い分けることが可能になる。第1モードを選択した場合には、光ファイバの一端で受信した戻り光のサンプリング間隔よりも遅延量を小さくすることにより、距離分解能の向上が見込まれる。また、第2モードを選択した場合には、1回の計測手順だけで、波長が異なる複数の光を用いた複数の計測結果を平均化して出力できるので、信号対雑音比が改善される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の光パルス試験装置によれば、計測の所要時間を増大させることなく、距離分解能などの性能を向上させることが可能である。したがって、特に全長が長い光ファイバを利用して計測を行う場合に効果的である。
【0022】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る光パルス試験装置の構成例を示すブロック図である。
図2図2は、可変光遅延器の構成例を示すブロック図である。
図3図3は、送出側パルス光および受信光の例を示すタイムチャートである。
図4図4は、遅延後の複数の送出側パルス光の例を示すタイムチャートである。
図5図5は、本発明の第2実施形態に係るパルス光送出部の構成例を示すブロック図である。
図6図6は、本発明の第2実施形態に係る光パルス試験装置の構成例を示すブロック図である。
図7図7は、複数の計測データおよび統合済みデータの例を示すタイムチャートである。
図8図8は、統合済みデータの例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0025】
(第1実施形態)
<光パルス試験装置の構成>
本発明の第1実施形態に係る光パルス試験装置の構成例を図1に示す。
【0026】
図1に示す光パルス試験装置は、OTDRと呼ばれる光パルス試験器である。すなわち、時間幅の短いパルス状の光を生成し、このパルス光を計測用光ファイバ17の一端に送り込む。計測用光ファイバ17に入射した光は、この光ファイバ内部を伝搬する際に、一部の光が内部のガラスによって跳ね返され散乱光を発生する。この散乱光には「レイリー散乱」も含まれる。光ファイバ内部で発生した散乱光の一部は光ファイバ内部を伝搬して入射端に戻るので、計測用光ファイバ17の入射端で散乱光を観測できる。
【0027】
計測用光ファイバ17にパルス光が入射してからこの入射端で散乱光が観測されるまでの時間差は、計測用光ファイバ17の入射端と散乱光が発生した場所との距離に応じて変化する。したがって、計測用光ファイバ17の入射端で観測される散乱光の受光レベルの時系列変化は、この光ファイバの場所毎の散乱光発生に関する分布状況を表すものとなる。図1に示す光パルス試験装置は、このような分布状況を表示することができる。
【0028】
光パルス試験装置は、タイミング制御部11、LDドライバ13、光発生デバイス14、可変光遅延器15、光方向性結合器16、受光デバイス21、増幅器22、A/D変換器23、加算部24、波形解析部25、データ統合部26、および表示部27を備えている。なお、図1に示す可変電気遅延器12を接続すれば、これが可変光遅延器15と同等の機能を果たすので、可変電気遅延器12を可変光遅延器15の代用とすることができる。
【0029】
タイミング制御部11は、光パルス試験装置が動作するために必要な各種のタイミング信号を生成する。例えば、タイミング制御部11は、送出する光パルスのタイミングを決定する制御信号SG1や、受信光の計測値を加算するタイミングを決定する制御信号SG2を生成する。
【0030】
光発生デバイス14は、パルス状のレーザ光を発生可能なレーザダイオード(LD)である。本実施形態の光発生デバイス14は、光通信や計測等の用途に適した特性として、レーザスペクトルの広がりがなく、特定の単一波長のレーザ光のみを出射するようになっている。
【0031】
LDドライバ13は、タイミング制御部11から入力される制御信号SG1に従って、光発生デバイス14のオンオフ、すなわち発光の有無を高速で切り替える。これにより、制御信号SG1のタイミングに同期したパルス幅の非常に短い光パルスを、光発生デバイス14を利用して生成できる。
【0032】
可変光遅延器15は、光発生デバイス14から出射される送出側パルス光Ptaを指定量だけ遅延させた送出側パルス光Ptbを生成する機能を有する。可変光遅延器15における遅延量(遅延時間)は予め定めた数種類の中から選択可能であり、制御信号SG3により選択される。また、可変光遅延器15における遅延量は、光パルス試験装置の受信側の回路で受信光Prに応じた信号から計測値をサンプリングする各タイミングの時間周期を表すサンプリング間隔Lよりも小さい。
【0033】
したがって、サンプリング間隔Lよりも小さい時間だけ、計測用光ファイバ17に入射するパルス光のタイミングを遅れる方向にシフトすることができる。つまり、パルス光が計測用光ファイバ17に入射するタイミングと、各計測値がサンプリングされるタイミングとの相対的な時間関係が遅延量だけシフトする。
【0034】
そのため、各サンプリングのタイミングで検出する位置がサンプリング間隔Lよりも小さい幅(距離)で変更され、距離分解能を上げることが可能になる。例えば、「0」,「L/5」,「2・L/5」,「3・L/5」,「4・L/5」の5種類の遅延量を可変光遅延器15が選択できる場合には、距離分解能を5倍に上げることができる。具体例としては、サンプリング間隔Lの距離分解能が5[cm]である場合に、1[cm]の距離分解能に改良できる。しかも、サンプリング間隔Lを変更する必要がないので、電気回路におけるシビアなタイミングの調整が不要であり、実現が容易である。
【0035】
光方向性結合器16は、光の伝搬方向を制御し、可変光遅延器15の出力から光方向性結合器16に入射する送出側パルス光Ptbを計測用光ファイバ17側に導くと共に、計測用光ファイバ17側から光方向性結合器16に入射する戻り光(散乱光)を受信光Prとして受光デバイス21の入力に導く。
【0036】
受光デバイス21は、アバランシェ・フォトダイオード(APD)であり、光方向性結合器16から入力される受信光Prを受信電気信号SG4に変換する。増幅器(Amp)22は、受光デバイス21が出力する受信電気信号SG4を電気的に増幅し、受信電気信号SG5を出力する。
【0037】
A/D変換器23は、増幅器22から入力される受信電気信号SG5のアナログ電圧を、サンプリングして量子化した数値、すなわちデジタル信号DS1に変換する。
【0038】
加算部24は、計測結果の平均化が必要な場合に、A/D変換器23が出力するデジタル信号DS1、すなわちサンプリングして得られたそれぞれの測定点の計測値について、複数回の計測結果を加算して平均化するためのデジタル処理を行う。
【0039】
例えば、1回目の計測で得られたそれぞれの測定点の計測値を個別に内部メモリで記憶しておき、2回目、3回目、・・・の計測で得られた測定点毎の計測値を、記憶されている1回目の計測値に順次に加算することにより、平均化された結果を出力できる。これにより、計測において発生するノイズの影響を減らし、安定した計測結果を得ることができる。
【0040】
波形解析部25は、加算部24の出力に得られるデジタル信号DS2に基づき所定の波形解析を実行する。
通常、計測用光ファイバ17の入射端から各測定点までの距離が長くなるに従い、戻り光における減衰量が大きくなり、受信光Prの強度が低下する。したがって、受信光Prの強度あるいは減衰量と距離および時間との関係を表す分布特性グラフは、傾きがほぼ一定で右下がりの直線のようになだらかな波形として表される。一方、計測用光ファイバ17上に例えば曲がり、破断、コネクタ接続、終端などの箇所がある場合、これらの箇所の波形に変極点が現れてグラフが非線形になる。波形解析部25は、波形のデータを解析することにより、各変極点の位置やイベントの種類などを検出することができる。
【0041】
データ統合部26は、図1の光パルス試験装置が距離分解能を上げるために複数回の計測動作を繰り返し実施する場合に、1回の計測毎に制御信号SG3を利用して可変光遅延器15の遅延量を切り替える。更に、データ統合部26は、1回の計測毎に波形解析部25が出力するデジタル信号DS3を順番に入力して複数回の計測結果を統合したデータを生成する。また、複数回の計測結果を統合する際に、データの並べ替えを実施してデータの距離分解能を上げる。
【0042】
例えば、サンプリング間隔Lを5[cm]に定め、5回の計測動作を繰り返す場合には、1回目、2回目、3回目、4回目、および5回目の計測における可変光遅延器15の遅延量を、それぞれ0[cm]、1[cm]、2[cm]、3[cm]、および4[cm]に切り替える。この場合、データ統合部26は、データ統合の際に次のように並べ替えたデータを生成する。
【0043】
n−1(5),D(1),D(2),D(3),D(4),D(5),Dn+1(1),Dn+1(2),・・・
n−1(5):n−1番目の測定点の5回目の測定結果の値
(1):n番目の測定点の1回目の測定結果の値
(2):n番目の測定点の2回目の測定結果の値
(3):n番目の測定点の3回目の測定結果の値
(4):n番目の測定点の4回目の測定結果の値
(5):n番目の測定点の5回目の測定結果の値
n+1(1):n+1番目の測定点の1回目の測定結果の値
n+1(2):n+1番目の測定点の2回目の測定結果の値
【0044】
この場合、n番目の測定点とn+1番目の測定点との距離はサンプリング間隔L、すなわち5[cm]であるが、これらのデータD(1)、Dn+1(1)の間に1[cm]ずつシフトした各測定点の4つのデータが挿入され補完された統合データになっている。つまり、距離分解能が1[cm]に向上している。
【0045】
表示部27は、二次元画面を有し、文字、画像、図形などを可視情報として表示できる。例えば、計測結果を表示する表示形態では、表示部27は、計測用光ファイバ17の入射端で検知した散乱光の分布状態を表す波形としてグラフを画面上に表示する。このグラフの横軸は入射端からの距離および時間に相当し、縦軸は検知した散乱光の強度、減衰量等を表す。また、波形解析部25の解析により検知した各変極点の位置やイベントの種類なども必要に応じて表示する。
【0046】
<可変光遅延器の構成>
可変光遅延器15の構成例を図2に示す。
可変光遅延器15は、光経路切替スイッチ31、32、光遅延部33等を備えている。図2の例では光経路切替スイッチ31および32のそれぞれは、5種類の光経路35および36のいずれか1つを制御信号SG3に従い選択することができる。
【0047】
また、光遅延部33は、互いに長さ(実長)が異なる5つの独立した光ファイバ33a、33b、33c、33d、および33eを内蔵している。例えば、0[cm]、1[cm]、2[cm]、3[cm]、および4[cm]の距離に相当する相対的な時間遅延を必要とする場合には、それぞれの実長が1[cm]、2[cm]、3[cm]、4[cm]、および5[cm]の光ファイバ33a、33b、33c、33d、および33eを用いる。
【0048】
光経路34に入射した光は、光経路切替スイッチ31で光経路35のいずれか1つに導かれ、光遅延部33内の光ファイバ33a、33b、33c、33d、および33eのいずれか1つに入射し、その実長の差分に応じた時間遅延を受けた後で、光経路36のいずれか1つ、および光経路切替スイッチ32を通って光経路37に出射される。
【0049】
したがって、可変光遅延器15においては、これを通過する光の相対的な遅延量が、0[cm]、1[cm]、2[cm]、3[cm]、および4[cm]の中から制御信号SG3により選択される。
【0050】
なお、図2に示した可変光遅延器15と同等の機能を可変電気遅延器12を用いて実現することもできる。図示しないが、例えばプリント基板上に実長が互いに異なる5つの導体パターンを配置し、これら5つの導体パターンのいずれか1つの経路を電気信号が通るように制御信号SG3に従い経路切り替えスイッチで切り替えることにより、電気信号の遅延時間を可変光遅延器15の場合と同様に切り替えることができる。
【0051】
可変電気遅延器12は、電気信号の遅延を切り替えるので、これを利用する場合は図1に破線で示したように、タイミング制御部11とLDドライバ13の間に可変電気遅延器12を挿入する。これにより、光発生デバイス14が発光するタイミングの遅延量を可変電気遅延器12で可変にすることができる。可変電気遅延器12を利用する場合は、図1に示した可変光遅延器15は不要になる。
【0052】
<送出側パルス光および受信光の例>
送出側パルス光および受信光のタイミングの例を図3に示す。
すなわち、図1に示した送出側パルス光Ptbとして、図3に示した送出側パルス光Pt01、Pt02が順次に発生し、これらが計測用光ファイバ17の入射端に送り込まれる。
【0053】
入射端からの距離がL12の位置で計測用光ファイバ17に曲がりなどの変化が発生している場合、この曲がりの影響を受けた散乱光の変化が、受信光Pr01として計測用光ファイバ17の入射端で観測される。この場合、受信光Pr01を観測する時刻t02は、送出側パルス光Pt01を送出した時刻t01から時間長T12を経過した後であり、この時間長T12は計測用光ファイバ17の入射端から受信光Pr01に相当する散乱光の発生地点までの距離およびその位置に対応する。
【0054】
同様に、計測用光ファイバ17の曲がりの影響を受けた散乱光の変化が、受信光Pr02として計測用光ファイバ17の入射端で観測される。この場合、受信光Pr02を観測する時刻t04は、送出側パルス光Pt02を送出した時刻t03から時間長T34を経過した後であり、この時間長T34は計測用光ファイバ17の入射端から受信光Pr02に相当する散乱光の発生地点までの距離およびその位置に対応する。
【0055】
<遅延後の複数の送出側パルス光の例>
遅延後の複数の送出側パルス光のタイミングの例を図4に示す。
図4に示した送出側パルス光Pt01A、Pt02Aは、図2に示した光経路切替スイッチ31、32が光ファイバ33aの経路を選択している状態で、光経路37に出力されるパルス光のタイミングの例を表している。
【0056】
同様に、図4に示した送出側パルス光Pt01B、Pt02Bは、光ファイバ33bの経路を選択した状態で光経路37に出力されるパルス光のタイミングを表し、送出側パルス光Pt01C、Pt02Cは、光ファイバ33cの経路を選択した状態で光経路37に出力されるパルス光のタイミングを表し、送出側パルス光Pt01D、Pt02Dは、光ファイバ33dの経路を選択した状態で光経路37に出力されるパルス光のタイミングを表し、送出側パルス光Pt01E、Pt02Eは、光ファイバ33eの経路を選択した状態で光経路37に出力されるパルス光のタイミングを表している。
【0057】
送出側パルス光Pt01Bは、送出側パルス光Pt01Aに対して遅延時間ΔTdだけ遅れたタイミングで出力される。同様に、送出側パルス光Pt01C、Pt01D、およびPt01Eは、それぞれ遅延時間「2・ΔTd」、「3・ΔTd」、「4・ΔTd」、だけ遅れたタイミングで出力される。
【0058】
すなわち、各光ファイバ33a〜33e内における光の伝搬速度は一定であるので、各光ファイバ33a〜33eの実長の違いに相当する遅延時間差が各送出側パルス光Pt01A、Pt01B、Pt01C、Pt01D、およびPt01Eの間に発生する。各送出側パルス光Pt02A、Pt02B、Pt02C、Pt02D、およびPt02Eについても同様である。
【0059】
例えば、図2に示した各光ファイバ33a、33b、33c、33d、および33eの実長がそれぞれ1[cm]、2[cm]、3[cm]、4[cm]、および5[cm]である場合、各送出側パルス光Pt01B、Pt01C、Pt01D、およびPt01Eは、送出側パルス光Pt01Aに対して、それぞれ1[cm]、2[cm]、3[cm]、および4[cm]相当の時間(ΔTd〜4・ΔTd)だけ遅延する。
【0060】
また、この遅延時間(ΔTd〜4・ΔTd)はサンプリング間隔Lよりも小さいので、サンプリング間隔Lに比べて更に微妙なタイミングの調整が可能になる。その結果、サンプリング間隔Lを小さくしなくても、例えば1[cm]単位で計測位置を区別することが可能な距離分解能の高い統合データをデータ統合部26で作成できる。
【0061】
(第2実施形態)
<概要の説明>
図1に示した第1実施形態の光パルス試験装置においては、計測したデータの距離分解能を上げるためには、可変光遅延器15における遅延量を変更しながら同じ測定動作を複数回繰り返す必要がある。したがって、例えば距離分解能を5[cm]から1[cm]に改善するために計測動作を5回繰り返す場合には、計測を完了するまでに通常の5倍の所要時間がかかってしまう。特に、例えば計測用光ファイバの全長が数千kmに及ぶような状況で測定を実施する場合には、一層長い時間を要することになる。
そこで、以下に説明する第2実施形態の光パルス試験装置においては、計測動作を複数回繰り返すことなく、距離分解能を改善するための機能を搭載している。
【0062】
<パルス光送出部の構成>
本発明の第2実施形態におけるパルス光送出部40の構成例を図5に示す。このパルス光送出部40は、光パルス試験装置の一部分であり、光パルスの送出機能を担う部位を表している。
【0063】
図5に示すように、パルス光送出部40は、光発生部41、光遅延部42、およびアレイ導波路回折格子(AWG)43を備えている。また、光発生部41の出力が光経路44を介して光遅延部42の入力と接続され、光遅延部42の出力が光経路45を介してアレイ導波路回折格子43の入力と接続されている。アレイ導波路回折格子43の出力側の光経路46に、計測用光ファイバ17が接続される。
【0064】
光発生部41は、互いに発光波長が異なる5つの独立したパルス光源41a、41b、41c、41d、および41eを備えている。パルス光源41a、41b、41c、41d、および41eの発光波長は、それぞれλ0、λ1、λ2、λ3、およびλ4である。
【0065】
光遅延部42は、互いに独立した5本の光ファイバ42a、42b、42c、42d、および42eを備えている。光ファイバ42a、42b、42c、42d、および42eの実長は、それぞれ、例えば1[cm]、2[cm]、3[cm]、4[cm]、および5[cm]である。つまり、光ファイバ42a〜42eは、遅延量が互いに異なっている。
【0066】
パルス光源41aが発生するパルス光は、光経路44、光ファイバ42a、光経路45を通ってアレイ導波路回折格子43の入力側に送り込まれる。同様に、パルス光源41bが発生するパルス光は、光経路44、光ファイバ42b、光経路45を通ってアレイ導波路回折格子43の入力側に送り込まれる。パルス光源41cが発生するパルス光は、光経路44、光ファイバ42c、光経路45を通ってアレイ導波路回折格子43の入力側に送り込まれる。パルス光源41dが発生するパルス光は、光経路44、光ファイバ42d、光経路45を通ってアレイ導波路回折格子43の入力側に送り込まれる。パルス光源41eが発生するパルス光は、光経路44、光ファイバ42e、光経路45を通ってアレイ導波路回折格子43の入力側に送り込まれる。
【0067】
パルス光源41a〜41eが発生するパルス光は互いに波長が異なっているので、アレイ導波路回折格子43は、互いに異なる光経路45から入力される複数波長のパルス光を1本の光ファイバ上に多重化した状態で光経路46に出力できる。
【0068】
また、パルス光源41a〜41eが発生するパルス光は、互いに実長が異なる光ファイバ42a〜42eのいずれかを経由してアレイ導波路回折格子43に入力される。したがって、パルス光源41a〜41eがそれぞれ同じタイミングでパルス光を送出する場合であっても、アレイ導波路回折格子43が多重化する複数波長のパルス光は、タイミングが光遅延部42内の遅延量だけ互いにずれた状態になる。
【0069】
<光パルス試験装置の構成>
本発明の第2実施形態に係る光パルス試験装置の構成例を図6に示す。
この光パルス試験装置は、複数の独立した光計測ユニット51A、51B、・・・・・、測定制御部20、光遅延部42、アレイ導波路回折格子43、波形統合部52、および表示部53を備えている。
【0070】
複数の独立した光計測ユニット51A、51B、・・・・・は、それぞれ互いに異なる波長の光を処理する。例えば、図5に示した光発生部41aの機能は、光計測ユニット51A内の光発生デバイス14Aに相当し、光発生部41bの機能は光計測ユニット51B内の光発生デバイス14Bに相当する。図5の光発生部41のように5波長分の光発生部41a〜41eを搭載する場合には、5つの光計測ユニットが必要になる。
【0071】
光計測ユニット51Aは、図1に示した光パルス試験装置と同様に、タイミング制御部11、LDドライバ13、光発生デバイス14A、光方向性結合器16、受光デバイス21、増幅器22、A/D変換器23、加算部24、および波形解析部25を備えている。但し、光計測ユニット51Aにおける光発生デバイス14Aの発光波長はλ0である。
【0072】
光計測ユニット51Bも、光計測ユニット51Aとほぼ同様の構成を有している。但し、光計測ユニット51Bにおいては、光発生デバイス14Aの代わりに、発光波長がλ1である光発生デバイス14Bを備えている。
【0073】
つまり、図6に示した光パルス試験装置においては、複数の光計測ユニット51A、51B、・・・・・がそれぞれ送出する光パルスの波長が異なっている。したがって、図5に示したパルス光送出部40の場合と同様に、光計測ユニット51A、51B、・・・・・が、後述する測定制御部20からの信号によりタイミング制御部11が同期動作し、複数波長の光パルスを同時に送出し、アレイ導波路回折格子43で多重化して計測用光ファイバ17の入射端に送り込む事ができる。
【0074】
また、各光計測ユニット51A、51B、・・・・・の光方向性結合器16は、光遅延部42内の互いに異なる光ファイバ42a、42b、・・・・の経路と接続されている。したがって、アレイ導波路回折格子43上で多重化する複数波長の光パルスのタイミングは、波長毎に光遅延部42内の遅延量分だけずれる。
【0075】
複数波長が多重化された光パルスが計測用光ファイバ17の入射端に送り込まれると、計測用光ファイバ17内を伝搬した光パルスによって計測用光ファイバ17上の各位置で散乱光が発生する。この散乱光は、戻り光として計測用光ファイバ17の入射端に戻り、アレイ導波路回折格子43に入射する。
【0076】
戻り光としてアレイ導波路回折格子43に入射する散乱光も、複数波長が多重化されている。アレイ導波路回折格子43は、多重化された散乱光を波長毎に分離して、波長毎に異なる経路で光遅延部42に送出する。
【0077】
したがって、例えば分離された波長λ0の散乱光は、アレイ導波路回折格子43の出力から光ファイバ42aを通り、光計測ユニット51Aの光方向性結合器16に入射する。また、分離された波長λ1の散乱光は、アレイ導波路回折格子43の出力から光ファイバ42bを通り、光計測ユニット51Bの光方向性結合器16に入射する。また、分離された他の波長の散乱光は、他の光計測ユニットに入射する。そのため、計測用光ファイバ17の入射端で戻り光として観測される散乱光を、波長毎に区別してそれぞれ独立した複数の光計測ユニット51A、51B、・・・で処理できる。
【0078】
各光計測ユニット51A、51B、・・・の内部における受信光の基本的な処理については、図1に示した光パルス試験装置の場合と同様である。但し、図6の光パルス試験装置においては複数の光計測ユニット51A、51B、・・・を同時に使用できるので、1回の計測動作だけで、複数回の計測と同等の結果を得ることができる。特に、互いに波長が異なる複数の光パルスを利用し、これらをアレイ導波路回折格子43で多重化するので、ほぼ同時に、複数の波長で複数の計測を実施できる。
【0079】
また、光遅延部42内で波長毎に異なる遅延が付与された状態で光パルスが光経路46から計測用光ファイバ17の入射端に送り込まれるので、各計測ユニット51A、51B、・・・のサンプリング間隔Lが一定であっても、波長毎の遅延差の分だけ、タイミングを微妙にずらすことができる。これにより、距離分解能を改善したり、信号対雑音比を改善することが可能になる。しかも、図1に示した光パルス試験装置のように、同じ計測動作を複数回繰り返す必要がないので、計測を完了するまでの所要時間が増えるのを防止できる。そのため、計測用光ファイバ17の全長が非常に長い場合でも、光パルス試験装置を実用的に運用できる。
【0080】
測定制御部20は、光計測ユニット51A、51B、・・・・・を統括制御するためのもので、タイミング制御部11を同期動作する信号を生成し、光計測ユニット51A、51B、・・・・・の各タイミング制御部11に入力する。これにより、光計測ユニット51A、51B、・・・・・は、複数波長の光パルスを同時に送出できる。
【0081】
波形統合部52は、図6の光パルス試験装置に備わっている複数の光計測ユニット51A、51B、・・・の計測結果のデータを各波形解析部25の出力から取り込んで、統合したデータを生成する。
【0082】
表示部53は、二次元画面を有し、文字、画像、図形などを可視情報として表示できる。例えば、計測結果を表示する表示形態では、表示部27は、波形統合部52により統合されたデータを画面上に表示する。
【0083】
本実施形態では、波形統合部52は、ユーザのスイッチ操作などに応じて切り替え可能な第1モードと第2モードとを有している。第1モードでは、波形統合部52は互いに波長が異なる複数の光に基づき計測した複数の計測値を、それぞれの遅延量を加味した互いに異なる計測位置のデータとして個別に出力する。
【0084】
例えば、複数の光計測ユニット51A、51B、・・・がそれぞれ出力する計測データDλ0、Dλ1、Dλ2、Dλ3において、Dλ0に対するDλ1、Dλ2、Dλ3の遅延量がそれぞれ「ΔTd」、「2・ΔTd」、「3・ΔTd」である場合には、次のような順番で並べ替えた統合済みデータDΣ1を生成する。
【0085】
Dλ0(n)、Dλ1(n)、Dλ2(n)、Dλ3(n)、Dλ0(n+1)、Dλ1(n+1)、・・・
Dλ0(n):n番目の測定点の計測データDλ0
Dλ1(n):n番目の測定点の計測データDλ1
Dλ2(n):n番目の測定点の計測データDλ2
Dλ3(n):n番目の測定点の計測データDλ3
Dλ0(n+1):n+1番目の測定点の計測データDλ0
Dλ1(n+1):n+1番目の測定点の計測データDλ1
【0086】
この場合、n番目の測定点とn+1番目の測定点との距離はサンプリング間隔Lであるが、これらのデータDλ0(n)、Dλ0(n+1)の間に遅延量分ずつシフトした各測定点の複数のデータが挿入され補完された統合データになっている。つまり、距離分解能がサンプリング間隔Lよりも向上している。
【0087】
一方、第2モードでは、波形統合部52は互いに波長が異なる複数の光に基づき計測した複数の計測値を加算又は平均化して、次に示すように同じ計測位置の1つの統合済みデータDΣ2として出力する。
【0088】
DΣ2(n-1)、DΣ2(n)、DΣ2(n+1)、・・・
DΣ2(n-1):n−1番目の測定点の統合済みデータDΣ2
DΣ2(n):n番目の測定点の統合済みデータDΣ2
DΣ2(n+1):n+1番目の測定点の統合済みデータDΣ2
DΣ2(n-1)=Dλ0(n-1)+Dλ1(n-1)+Dλ2(n-1)+Dλ3(n-1)
DΣ2(n)=Dλ0(n)+Dλ1(n)+Dλ2(n)+Dλ3(n)
DΣ2(n+1)=Dλ0(n+1)+Dλ1(n+1)+Dλ2(n+1)+Dλ3(n+1)
【0089】
これにより、複数の計測データDλ0〜Dλ4を平均化した統合済みデータDΣ2が得られるので、サンプリング間隔Lの距離分解能を下げることなくノイズを低減し、信号対雑音比を改善できる。すなわち、加算するデータ数Nに対して信号対雑音比が√(N)倍になる。
【0090】
<複数の計測データおよび統合済みデータの例−1>
複数の計測データDλ0,Dλ1,Dλ2および統合済みデータDΣ2の例を図7に示す。
【0091】
各光計測ユニット51A、51B、・・・の出力に現れる計測データDλ0、Dλ1、Dλ2、・・・のそれぞれは、図7に示すようにサンプリング間隔L毎の各測定点で得られるデータ数値Vが順番に並んだ時系列データである。
【0092】
波形統合部52が第2モードで動作する場合には、計測データDλ0、Dλ1、Dλ2、・・・に基づいて図7に示した統合済みデータDΣ2が生成される。すなわち、それぞれの測定点について、統合対象の計測データDλ0のデータ数値V、計測データDλ1のデータ数値V、計測データDλ2のデータ数値V、・・・を加算した結果が統合済みデータDΣ2である。
【0093】
第2モードの場合に生成される統合済みデータDΣ2については、測定点の総数は計測データDλ0、Dλ1、Dλ2、・・・と同じであり、サンプリング間隔L毎の測定点のそれぞれについて、データ数値Vが得られる。したがって、距離分解能は変化しないが、平均化により信号対雑音比が改善される。
【0094】
なお、図6に示した構成では、波形統合部52の動作モードとは無関係に、複数の光計測ユニット51A、51B、・・・が扱う信号のタイミングに、光遅延部42内の遅延に起因する時間差が発生する。したがって、波形統合部52が統合する複数の計測データDλ0、Dλ1、Dλ2、・・・は、測定点の位置が上記時間差分だけ互いにシフトしている。しかし、これらのシフト量はサンプリング間隔L以内であるので、サンプリング間隔L内の複数の点の計測値を平均化した結果が第2モードにおける統合済みデータDΣ2に反映され、その内容が表示部53に表示される。したがって、測定点が同じ位置の複数のデータだけを加算する場合と比べて、サンプリング間隔Lに相当する領域内の全体の特性が統合済みデータDΣ2に反映されやすくなる。
【0095】
<統合済みデータの例−2>
統合済みデータDΣ1の例を図8に示す。図8に示した例では、分割数Nが3の場合を想定している。すなわち、複数の光計測ユニット51A、51B、・・・間のタイミングのシフト量が「L/3」になっている。
【0096】
波形統合部52が第1モードで動作する場合には、図7に示したような計測データDλ0、Dλ1、Dλ2、・・・に基づいて図8に示した統合済みデータDΣ1が生成されて表示部53に表示される。
【0097】
例えば、サンプリング間隔Lと同じタイミングの位置に計測データDλ0が配置され、そこから「L/3」だけシフトしたタイミングの位置に次の計測データDλ1が配置され、そこから更に「L/3」だけシフトしたタイミングの位置に次の計測データDλ2が配置された結果が統合済みデータDΣ1である。
【0098】
つまり、図8に示した統合済みデータDΣ1においては、サンプリング間隔Lの周期で発生する2つの計測データDλ0の間に、他の2つの計測データDλ1、Dλ2が追加され補完されている。したがって、実質的な測定点の数が3倍に増えて、距離分解能も大幅に改善されている。しかも、サンプリング間隔Lを変更する必要がないので、各光計測ユニット51A、51B、・・・の電気回路を容易に構成できる。更に、1回の計測動作だけで高い距離分解能が得られるので、全長が非常に長い計測用光ファイバ17を使う場合でも長い時間を掛けることなく計測を完了でき、実用的な光パルス試験装置の運用が可能になる。
【0099】
ここで、上述した本発明の実施形態に係る光パルス試験装置の特徴をそれぞれ以下[1]〜[4]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 計測対象の光ファイバ(計測用光ファイバ17)の一端にパルス状の光を送り込み、前記光ファイバ上の任意位置で発生した散乱光を前記光ファイバの前記一端で戻り光として検知する光パルス試験装置であって、
互いに波長が異なる複数の光を発生する複数の光源(光発生デバイス14A、14B)と、
前記複数の光に対してそれぞれ異なる遅延を発生する個別遅延発生部(光遅延部42)と、
前記複数の光の合波および分波を処理する光多重デバイス(アレイ導波路回折格子43)と、
前記光ファイバの前記一端で受信した前記戻り光について、前記複数の光に基づき計測した複数の計測値を合成する合成処理部(波形統合部52)と、
を備えた光パルス試験装置。
【0100】
[2] 前記合成処理部は、前記複数の光に基づき計測した複数の計測値を、それぞれの遅延量を加味した互いに異なる計測位置のデータとして個別に出力する(図8参照)、
上記[1]に記載の光パルス試験装置。
【0101】
[3] 前記合成処理部は、前記複数の光に基づき計測した複数の計測値を加算又は平均化して、同じ計測位置の1つのデータとして出力する(図7参照)、
上記[1]に記載の光パルス試験装置。
【0102】
[4] 前記合成処理部は、切り替え可能な第1モードと第2モードとを有し、
前記第1モードでは、前記合成処理部は前記複数の光に基づき計測した複数の計測値を、それぞれの遅延量を加味した互いに異なる計測位置のデータとして個別に出力し、
前記第2モードでは、前記合成処理部は前記複数の光に基づき計測した複数の計測値を加算又は平均化して、同じ計測位置の1つのデータとして出力する(図7図8参照)、
上記[1]に記載の光パルス試験装置。
【符号の説明】
【0103】
11 タイミング制御部
12 可変電気遅延器
13 LDドライバ
14,14A,14B 光発生デバイス
15 可変光遅延器
16 光方向性結合器
17 計測用光ファイバ
21 受光デバイス
22 増幅器
23 A/D変換器
24 加算部
25 波形解析部
26 データ統合部
27 表示部
31,32 光経路切替スイッチ
33 光遅延部
33a,33b,33c,33d,33e 光ファイバ
34,35,36,37 光経路
40 パルス光送出部
41 光発生部
41a,41b,41c,41d,41e パルス光源
42 光遅延部
42a,42b,42c,42d,42e 光ファイバ
43 アレイ導波路回折格子
44,45,46 光経路
51A,51B 光計測ユニット
52 波形統合部
Pta,Ptb,Pt01,Pt02 送出側パルス光
Pt01A,Pt01B,Pt02A,Pt02B 送出側パルス光
Pr,Pr01,Pr02 受信光
SG1,SG2,SG3 制御信号
SG4,SG5 受信電気信号
DS1,DS2,DS3,DS4 デジタル信号
ΔTd 遅延時間
T12,T34 伝搬遅延時間
V データ数値
L サンプリング間隔
Dλ0,Dλ1,Dλ2 計測データ
DΣ1,DΣ2 統合済みデータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8