【課題】基材層と弾性層とキャリア層を順に備えるキャリア層付きシームレスベルトの製造方法において、製膜時にフィルムがピンチロール等に巻きつかず、次工程でキャリア層を剥離・除去する作業が簡便であること、及びベルト表面の光沢度を低下させ、転写ベルトの使用に伴う光沢度変化を抑制することができるキャリア層付きシームレスベルトを提供する。
【解決手段】基材層と弾性層とキャリア層を順に備えるキャリア層付きシームレスベルトにおいて弾性層はショアA硬度が80以下のウレタン系エラストマーまたはアクリル系エラストマーを含有し、キャリア層は密度が0.940g/cm
以上のポリエチレン系樹脂を含有し、かつ前記弾性層に含まれるウレタン系エラストマーまたはアクリル系エラストマーと前記キャリア層に含まれるポリエチレン系樹脂の溶融粘度の差が10000poise以下であることを特徴とするキャリア層付きシームレスベルト
熱可塑性樹脂と導電性物質を含有した引張弾性率が1000MPa以上である基材層を形成する樹脂組成物と、ショアA硬度が80以下のウレタン系エラストマーまたはアクリル系エラストマーと導電性物質とを含有した弾性層を形成する樹脂組成物と、密度が0.940g/cm3以上のポリエチレン系樹脂を含有し、前記弾性層に含まれるウレタン系エラストマーまたはアクリル系エラストマーと前記キャリア層に含まれるポリエチレン系樹脂の200℃、100kgfにおける溶融粘度の差が10000poise以下であるキャリア層を形成する樹脂組成物とを、別々の押出機に供給し、環状ダイスより共押出して、基材層、弾性層、キャリア層とを順に備えキャリア層が外側に位置するチューブ状に成形することを特徴とするキャリア層付きシームレスベルトの製造方法。
基材層と弾性層と表面層を順に備える画像形成装置用弾性層付き転写ベルトの製造方法において、請求項1乃至4のいずれか記載のキャリア層付きシームレスベルトの最外層であるキャリア層を剥離した後、前記弾性層表面の外側に、表面層形成用塗工液を塗布して活性エネルギー線もしくは熱で硬化させることにより表面層を形成することを特徴とする画像形成装置用弾性層付き転写ベルトの製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式のプリンター、複写機、ファクシミリ等の画像形成装置にはシームレスベルトが使用されている。シームレスベルトとしては、中抵抗領域の導電性を付与した合成樹脂を筒状に成形したものが知られている。最近では、トナーの抜けなどのない鮮明な画像を得るために、基材層の上に弾性層を配したシームレスベルトが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリイミドまたはポリアミドイミド製の基材を遠心成形法で作製し、その上に溶剤に溶かしたゴム系弾性層をコートすることにより形成した弾性層を有するシームレスベルトの製造方法が記載されている。特許文献2には、遠心成形法で製造したポリイミド製の基材上へポリウレタンの原料であるイソシアネート化合物とジオール化合物との混合物をコートすることにより形成した弾性層を有するシームレスベルトの製造方法が記載されている。特許文献3には、基材を形成する樹脂の溶液を金型の外周面上に塗布・乾燥・イミド化した後、弾性層を形成するゴム弾性層形成材料を塗布・乾燥後架橋することにより形成した弾性層を有するシームレスベルトの製造方法が記載されている。これらの特許文献記載の製造方法は、遠心成形法で作製した基材上へ弾性層形成用材料を塗布する方法で製造されているため、製造工程が少なくとも2工程必要となり、製造方法が煩雑かつコスト面に課題がある。
【0004】
また、特許文献4には、表面平滑性に優れた転写ベルトを得るために、共押出機を用いて基材層と表面層よりなる二層の円筒状のフィルムを成形した後、表面層を剥離して表面平滑性のよいフィルムを得る方法が記載されている。具体的には、基材層として非晶ポリアミド、カルボキシ変性NBR、またはポリカーボネート、表面層にはポリエチレンやポリプロピレンが記載され、基材層と表面層を共押出した後、表面層を剥離することにより表面平滑性に優れた転写ベルトを得ている。
【0005】
特許文献5には、シームレスベルトと表面保護層との界面の平滑性が高いため、表面保護層を剥離した後コート層を塗布しても、下地のベルト表面に起因してベルト表面の光沢度が高くなる事が記載されている。ベルト上へのトナーの載り量はベルト表面の光沢度と光沢度ムラをセンサーで読み取り算出しているため、光沢度の高いベルトは長時間使用すると光沢度が低下し光沢度ムラが生じ、その制御が困難となる。ベルト表面の光沢度を下げるためには、コート層をベルト表面に塗布する際の塗布条件で調整可能であるが、僅かな塗布条件で光沢度が不均一になり易く、均一な所望の光沢度が得られにくいという問題があった。
このような課題に対し、特許文献5記載の発明は、シームレスベルトの表面に凹凸を形成する目的で、フィラーを配合した表面保護層を基材上に被せて加熱融着させ、基材表面に凹凸を形成させたシームレスベルトが記載されているが、表面保護層にフィラーを配合しなければならないという煩雑さがあった。
【0006】
このような状況に鑑み、押出成形法で低硬度の弾性層を有するシームレスベルトを製造する方法を検討した結果、弾性層を形成する熱可塑性エラストマーは結晶化が遅く、冷却固化した後も表面タック性を有しているため、ダイスから吐出された樹脂チューブを引き取るピンチロール等に巻きつくという課題があった。さらにはベルト表面が平滑で光沢度が高い転写ベルトは長時間使用すると、光沢度が変化するという課題があった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明において「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルの意味で用いている。
【0012】
[キャリア層付きシームレスベルト]
本発明のキャリア層付きシームレスベルトは、基材層と弾性層とキャリア層を順に備えた少なくとも3層構造のチューブ状のベルトである。基材層と弾性層とキャリア層を順に備えていれば良く、基材層、弾性層が多層構成、基材層と弾性層との間に樹脂層、基材層の弾性層と接する側の反対側の表面に樹脂層を形成してもよい。キャリア層付きシームレスベルトは、それ自体で電子写真方式のプリンター、複写機、ファクシミリ等の画像形成装置に組み込まれるものではなく、後述する電子写真方式のプリンター、複写機、ファクシミリ等の画像形成装置に組み込む転写ベルトを製造する上で必要となる半製品のことである。
【0013】
[弾性層付き転写ベルト]
本発明の弾性層付き転写ベルトは、前述したキャリア層付きシームレスベルトの最表面側に位置するキャリア層を剥離し、弾性層の表面に表面層形成用塗布液を塗布して活性エネルギー線硬化もしくは熱硬化により表面層を形成することにより製造される。従って、本発明の弾性層付き転写ベルトは、基材層、弾性層、表面層を順に備えた少なくとも3層のチューブ状のシームレスベルトであり、電子写真方式のプリンター、複写機、ファクシミリ等の画像形成装置に組み込まれて、中間転写ベルトや転写搬送ベルトとして使用される。
【0014】
[基材層]
本発明の基材層は、熱可塑性樹脂を含有していることが必須であり、基材層を形成する成分の主成分が熱可塑性樹脂からなることが好ましい。ここでいう主成分とは、基材層を形成する成分の内、全量の70重量%以上を占める成分を指す。なお、これらの熱可塑性樹脂は、必要に応じて単独或は2種以上を混合使用してもよい。
画像形成装置用の転写ベルトとして使用するためには、プリンター等の高速化に対応して、転写ベルト駆動時に転写ベルトが伸びて、転写位置がずれないように比較的高い引張弾性率が要求されており、基材層の引張弾性率は1000MPa以上であることが好ましい。基材層に用いられる樹脂としては特に制限はないが、引張弾性率が1000MPa以上である材料としては、例えば、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂などを挙げることができ、これらを単独で、または2種以上の材料をブレンドして用いても良く、更には、多層にして用いてもよい。特に、押出加工の観点からフッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、またはフッ素系樹脂とポリアミド樹脂のブレンドした材料が好ましい。
【0015】
これらの中で、フッ素系樹脂は、他の樹脂とは異なりそれ自身が難燃性を有し、且つ押出し成形が容易であり、画像形成装置に用いられる転写ベルトの基材に好適である。このようなフッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリヘキサフルオロプロピレン、エチレン−フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体などが挙げられる。なお、これらのフッ素系樹脂は、単独或は2種以上を混合使用してもよい。
【0016】
ポリアミド系樹脂は、ジアミンとジカルボン酸との重縮合、α,ω−アミノカルボン酸の重縮合、ラクタム類の開環重合などによって得られ、十分な分子量を有する熱可塑性樹脂である。ポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,10、ナイロン6,12、ナイロン6/6,6、ナイロン6/6,6/12、ナイロン6,MXD(MXDはm−キシリレンジアミン成分を表す)、ナイロン6,6T(Tはテレフタル酸成分を表す)、ナイロン6,6I(Iはイソフタル酸成分を表す)などが挙げられる。これらの中でも、吸水率が低いポリアミド樹脂が好ましく、吸水率が低いポリアミド樹脂は、湿潤環境における電気抵抗の安定性に優れる。ポリアミド樹脂の吸水率は、1.5%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。吸水率が1.5%以下のポリアミド樹脂としては、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,10、ナイロン6,12などが挙げられ、吸水率が1.0%以下のポリアミド樹脂としては、ナイロン11、ナイロン12が挙げられる。なお、これらのポリアミドは、単独或は2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0017】
基材層の引張弾性率を上げるために、平板状フィラー、ウィスカー等の補強材を添加することもできる。また、基材層の厚みは、上記性能を満たすように50〜300μmが好ましく、75〜200μmがより好ましい。
【0018】
[弾性層]
本発明の弾性層は、ショアA硬度が80以下である樹脂であることが必要である。これら弾性層に用いられるエラストマーは、ショアA硬度が70以下のものが好ましく、ショアA硬度が60以下のものがさらに好ましい。弾性層のショアA硬度が高すぎる場合は、厚さ方向の圧縮弾性率が高いため、トナー転写時にトナーへかかる圧力が高くなって転写効率が悪くなり、その結果弾性層を形成させた効果が小さくなる。
【0019】
本発明の弾性層は、さらに、キャリア層との相性から、ウレタン系エラストマーまたはアクリル系エラストマーを含有することが特徴である。弾性層の機能を付与するため、ショアA硬度が80以下のウレタン系エラストマーまたはアクリル系エラストマーを主成分とすることが好ましい。ここで、主成分とは、弾性層を形成する成分のうち、全量の70重量%以上を占める成分を指す。なお、これらの熱可塑性エラストマーは、必要に応じて単独或は2種以上を混合使用してもよい。さらに、イオン導電剤で抵抗を制御しやすいウレタン系エラストマーがより好ましい。
【0020】
ショアA硬度が80以下である熱可塑性エラストマーにはスチレン系エラストマーがあるが、様々なキャリア層を検討したにもかかわらず、スチレン系エラストマーとキャリア層との剥離強度が非常に高く、キャリア層付きシームレスベルトとした場合、キャリア層の剥離性が良好ではなかった。
【0021】
弾性層の厚みは、柔軟性を付与するために80μm〜600μmが好ましく、さらに200μm〜500μmが好ましい。
【0022】
[キャリア層]
本発明のキャリア層は、弾性層との剥離性及びキャリア層を剥離した弾性層の表面粗さの観点から、密度が0.940g/cm
3以上のポリエチレン系樹脂を含有することが特徴であり、密度が0.940g/cm
3以上のポリエチレン系樹脂を主成分とすることが好ましい。ここで、主成分とは、キャリア層を形成する成分のうち、全量の70重量%以上を占める成分を指す。なお、これらの樹脂は、必要に応じて単独或は2種以上を混合使用してもよい。本発明では密度が0.940g/cm
3以上のポリエチレンを用いる事により、キャリア層にフィラー等を配合せずに弾性層表面へ特定の表面粗さを付与することができる。 また、本発明は、弾性層に含まれるウレタン系エラストマーまたはアクリル系エラストマーとキャリア層に含まれるポリエチレン系樹脂との溶融粘度の差が10000poise以下であることが特徴であり、弾性層とキャリア層を形成する樹脂との溶融粘度の差を特定の範囲に調整することで、キャリア層を剥離した弾性層の表面に適度な凹凸を付与することが可能となる。表面の凹凸は、中心線平均粗さRaで表すことが可能であり、転写ベルトの表面の光沢度を低下させるためには、中心線平均表面粗さRaは0.13以上が好ましく、0.14以上がより好ましい。
【0023】
一方、本願発明のシームレスベルトを中間転写ベルトとして使用する場合、感光体から中間転写ベルトへトナーが転写され、そのトナーを再び紙などに転写し、ベルト上に残ったトナーはクリーニングブレードやブラシでクリーニングされるが、その際、中間転写ベルト表面の凹凸が大きいとクリーニング不良が発生する。このような観点から、転写ベルトの表面粗さは中心線平均粗さRaで0.4μm以下が好ましい。
また、キャリア層付きシームレスベルトから画像形成装置に組み込む転写ベルトを製造するためには、弾性層とキャリア層の界面でキャリア層のみを剥離する必要がある。つまり、弾性層とキャリア層との間の剥離強度の値が小さい必要があり、弾性層とキャリア層の間の剥離強度が100g/10mm幅以下が好ましく、特に後加工において剥離する観点から50g/10mm幅以下がより好ましい。このような観点から、ポリエチレン系樹脂は、安価で弾性層と共押出した場合でも容易に剥離できるためキャリア層として好ましい。
【0024】
[転写ベルトの表面層]
転写効率の優れた転写ベルトは、弾性層表面に形成されたキャリア層を剥離し、弾性層の上に表面層を形成することにより得られ、画像形成装置用弾性層付き転写ベルトとして利用可能である。表面層は、トナーとの離型性やクリーニング性を有し、弾性層と強固に接着し、弾性層の柔らかさを阻害せずクラックの発生しない特性が求められる。
【0025】
本発明の表面層は、電離放射線硬化型もしくは熱硬化型の塗工剤を弾性層の表面に塗布した後、電離放射線もしくは熱により架橋硬化させて形成させることが好ましい。表面層は、前記塗工剤をロールコート、バーコート、ディップコート、スプレーコート等、好ましくはロールコート、スプレーコートにより塗布し、溶剤を含有する場合は乾燥後、電離放射線を照射することにより、あるいは加熱することにより塗工剤を硬化させて形成することができる。
【0026】
ここで電離放射線としては、特に制限がなく、例えば、紫外線、電子線、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、エックス線、中性子線などが挙げられ、その照射量は、紫外線の場合、通常100〜15,000mJ/cm
2、好ましくは300〜8000mJ/cm
2である。
【0027】
電離放射線硬化型の塗工剤は、(メタ)アクリルモノマー又は(メタ)アクリルオリゴマー、特に多官能アクリレートオリゴマー、多官能アクリレートモノマーを主成分とするのが好ましい。
【0028】
多官能アクリレートモノマーとしては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等が挙げられる。また、多官能アクリレートオリゴマーとしては、ノボラック型、ビスフェノール型エポキシ樹脂をアクリレート変性したエポキシアクリレート、ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られるウレタン化合物のアクリレート変性物であるウレタンアクリレート、ポリエステル樹脂をアクリレート変性したポリエステルアクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
電離放射線硬化型の塗工剤は、これらの(メタ)アクリルモノマー及び/又は(メタ)アクリルオリゴマーの他に、光重合開始剤、増感剤、界面活性剤、防汚成分等の各種添加剤、更には希釈溶媒等を配合して用いることが好ましい。
【0030】
熱硬化型の塗工剤は、水系ウレタン樹脂、シリコーン・アクリル系ハイブリッド樹脂、シリコーン・フッ素共重合樹脂等が挙げられる。
【0031】
なお、表面層の硬化後の厚みは、0.2μm〜8.0μmが好ましく、さらには0.4μm〜5.0μmであることが好ましい。表面層の厚みが薄すぎると耐久性に問題が生じ、逆に厚すぎると表面層に割れが発生し、耐屈曲性が悪くなるため好ましくない。
【0032】
[画像形成装置用弾性層付き転写ベルトの体積抵抗]
本発明の画像形成装置用弾性層付き転写ベルトを電子写真方式のプリンター、コピー機等の中間転写ベルト、転写搬送ベルト、搬送ベルトとして用いるには、その体積抵抗率を半導電性領域(1×10
5〜1×10
13Ω・cm)にすることが求められる。体積抵抗率が1×10
5Ω・cm未満の転写ベルトの場合、転写ベルトの片面から電圧を印加して帯電させたベルト上の電荷が直ちに放電してしまい、電荷によって用紙やトナーを吸着するという転写ベルトとしての機能を発揮できない。また、体積抵抗率が1×10
13Ω・cmを超える転写ベルトの場合、ベルト上に発生させた電荷がいつまでもベルト上に残留し、用紙やトナーを吸着し続けるので電荷によって用紙やトナーを脱着するという転写ベルトとしての機能を発揮できない。
本発明の転写ベルトは、体積抵抗率が10
7〜10
12Ω・cmであることが好ましい。特に転写ベルトの体積抵抗率を上記の範囲に制御するために、本発明の目的を妨げない範囲で基材層及び/又は弾性層に導電性物質を配合することができる。導電性物質には電子伝導性材料とイオン伝導性材料があり、電子伝導性材料としては、例えば、カーボンブラック、グラフト化カーボンブラック、カーボンナノチューブ等のカーボン系材料、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレンなどの導電性高分子、導電性無機粒子が挙げられる。
【0033】
導電性無機粒子としては、例えばアルミニウム・亜鉛酸化物、アンチモン・スズ酸化物、インジウム・スズ酸化物、カーボンブラック等で表面処理を行った無機粒子などが挙げられる。
【0034】
カーボンブラックは、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。
グラフト化カーボンブラックは、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン基、から選ばれる1種以上の官能基を有するポリマーをカーボンブラックの表面にグラフト付加されたカーボンブラックを意味する。
カーボンナノチューブは、平均径が1nm〜200nm、平均長さが0.1μm〜100μm、アスペクト比が10〜10000の範囲内であることが好ましい。カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ(特開平1−270543、特公平3−64606、特公平3−77288、特開2004−299986)、カップ積層型カーボンナノチューブ(特開2003−73928、特開2004−360099)、プレートレット型カーボンナノファイバー(特開2004−300631)、釣鐘状構造単位集合体(特開2012−46864、特開2011−47081、特開2011−46852)などが挙げられる。これらの中でも、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、釣鐘状構造単位集合体が好ましい。
【0035】
イオン伝導性材料としては、例えば、ポリエーテルエステルアミド、ポリエチレンオキサイド−エピクロルヒドリン、ポリエーテルエステル、ポリエーテルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド共重合体、部分架橋ポリエチレンオキサイド共重合体、4級アンモニウム塩含有アクリレート重合体、ポリスチレンスルホン酸、イオン電解質などがあげられ、これらを単独で、あるいは二種類以上を併用することができる。さらに、イオン電解質としては、アルカリ金属のチオシアン酸塩、リン酸塩、スルホン酸塩、硫酸塩、ハロゲン含有酸素酸塩、第1〜3級アンモニウム塩や4級アンモニウム塩などを単独または複数種組合わせて用いることができ、これらのうち特に、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、チオシアン酸リチウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウムが好ましい。このようなイオン伝導性材料の中でも、共押出し時や後述するアニール工程時のような高温にさらされた場合、イオン伝導性材料が樹脂中を移行することを考慮すると、高分子型が好ましい。なお、本明細書では、高分子型のイオン伝導性材料とは数平均分子量が3000以上のイオン伝導性材料のことをいう。
【0036】
基材層に半導電性を付与するためには、導電性物質を含有する必要がある。
基材層にイオン伝導性材料を配合して導電性を付与する場合、熱可塑性樹脂としてはフッ素系樹脂が好ましく、特にポリフッ化ビニリデンおよびその共重合体が好ましい。イオン伝導性材料はポリフッ化ビニリデンおよびその共重合体と親和性があり、イオン伝導性材料を配合したポリフッ化ビニリデンおよびその共重合体に電圧を印加すると、当該樹脂中のイオンが移動し、当該樹脂が導電性を示す。
【0037】
基材層にポリアミド系樹脂を使用した場合、導電性物質としてはカーボンナノチューブを含有することが好ましい。ポリアミド系樹脂とカーボンナノチューブとの配合割合は、特に制限されるものではないが、ポリアミド系樹脂とカーボンナノチューブの合計量のうち、ポリアミド系樹脂を80〜99重量%、カーボンナノチューブを20〜1重量%含むことが好ましく、10〜1重量%含むことがより好ましい。カーボンナノチューブの配合量が20重量%を超えると樹脂組成物は押出適性に劣る為、得られるチューブの表面が平滑でなくなる恐れがある。また、カーボンナノチューブの配合量が1重量%未満では、半導電性領域の体積抵抗率を付与することが困難となる。
【0038】
基材層にフッ素系樹脂とポリアミド系樹脂をブレンドした樹脂組成物を使用した場合、導電剤としてカーボンブラックを含有し、さらに相溶化剤を含有したものが好ましい。相溶化剤を含有することにより、フッ素系樹脂マトリクス中にポリアミド系樹脂が微分散した海島構造を呈し、これにより半導電性領域での電気抵抗の均一性を示す。配合割合は、特に制限されるものではないが、フッ素系樹脂とポリアミド系樹脂との合計量のうち、フッ素系樹脂を50〜95重量%、ポリアミド系樹脂を50〜5重量%含有していることが好ましい。カーボンブラックの配合量は、フッ素系樹脂とポリアミド系樹脂との合計量100重量部に対し、3〜25重量部であることが好ましい。相溶化剤の配合量は、フッ素系樹脂とポリアミド系樹脂との合計量100重量部に対し、0.5〜10重量部であることが好ましい。相溶化剤は、アルキル鎖の炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位と、エポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位とを含む共重合体であって、1分子中に1個以上のエポキシ基を含有するものが好ましい。アルキル鎖の炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピルが挙げられる。エポキシ基を有するビニル単量体由来の構成単位としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、エタクリン酸グリシジル、イタコン酸グリシジル等が挙げられる。
【0039】
弾性層に半導電性を付与するためには、導電性物質を含有させる必要がある。導電性物質としては、特に上述したイオン伝導性材料を配合することが好ましい。弾性層に導電性物質としてカーボンブラックやカーボンナノチューブなどの電子導電剤を配合した場合、導電性はカーボンブラックなどの導電剤の粒子の接触による導電経路の形成もしくは分散したカーボンブラックなどの導電剤の粒子間を電子がジャンプするトンネル効果(粒子間のポテンシャル障壁を越える電子の走り抜けの現象のこと)により発現すると考えられている。しかしながら、基材層上にカーボンブラックなどの電子導電剤を配合した弾性層を形成した弾性層付き転写ベルトは弾性層が柔軟であるため、転写ベルト駆動時に弾性層が伸縮し、長時間使用すると導電剤粒子間の距離が変化するため、電気抵抗が部分的に変動し、電気抵抗のばらつきが生じるため好ましくない。
【0040】
イオン伝導性材料は、分極が大きい熱可塑性樹脂と親和性があり、特にポリフッ化ビニリデンや熱可塑性ポリウレタンへ配合し電圧を印加すると当該樹脂中でイオンが移動し、導電性を発現させることができる。
基材層と弾性層とキャリア層を順に備えるキャリア層付きシームレスベルトの場合、基材層と弾性層のどちらか、または両方に数平均分子量が3000未満の低分子型イオン伝導性材料を配合すると、共押出時またはアニール工程(周長を均一にするため押出機から押出したチューブ状原反を円筒状の金型に挿入し加熱処理する)時に、イオン伝導性材料がより親和性の高い樹脂層へ移行し、所定の電気抵抗を発現させるために配合したイオン伝導性材料の濃度が変化し、電気抵抗が変動するという不都合が発生した。
この結果に鑑み、イオン伝導性材料は数平均分子量が3000以上、好ましくは8000以上の高分子型を使用するのが好ましい。具体的には、基材層にイオン伝導性材料を配合し、弾性層にイオン伝導性材料を配合する場合、基材層と弾性層に用いるイオン伝導性材料の数平均分子量は3000以上が好ましく、8000以上がより好ましい。基材層はポリフッ化ビニリデン系樹脂が好ましく、弾性層はウレタン系エラストマーが好ましい。また、基材層に電子導電性材料を配合し、弾性層にイオン伝導性材料を配合する場合、弾性層に用いるイオン伝導性材料の数平均分子量は3000以上が好ましく、さらには8000以上が好ましい。
【0041】
[キャリア層付きシームレスベルトの製造方法]
基材層、弾性層、キャリア層を順に備えるキャリア層付きシームレスベルトは、共押出法で製造する。具体的に説明すると、3台の押出機と、該押出機の下方に該押出機に連通して環状ダイスが配置され、その環状ダイスの下方には、環状ダイスから下向きに押し出される溶融樹脂を冷却固化する装置が配設された押出成形装置を用いて、基材層を形成する樹脂組成物と弾性層を形成する樹脂組成物とキャリア層を形成する樹脂組成物を、キャリア層が外側、基材層が内側に形成されるようにそれぞれ別々の押出機に供給し、連通した環状ダイスにより共押出して、チューブ状に形成する方法が挙げられる。また、共押出した後の冷却固化には、例えば溶融したチューブをエアリングより吹出される冷風により冷却固化する方法、マンドレルの外周に接触させて冷却固化する方法などが挙げられる。また、得られたチューブ状の成形体を所定長さに切断することにより、キャリア層付きシームレスベルトを得ることができる。
【0042】
[転写ベルトの製造方法]
次に、画像形成装置に実際に使用する転写ベルトの製造方法について説明する。
まず、最初にキャリア層付きシームレスベルトの外側に位置するキャリア層のみを剥離する。次いで、キャリア層を剥離されたシームレスベルトの弾性層表面に、表面層形成用塗工液を塗布して活性エネルギー線もしくは熱により硬化することにより、表面層を形成させる。塗工液の塗布方法は、例えば、ロールコート、バーコート、ディップコート、スプレーコート等が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明について、実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例、および比較例で作製したキャリア層付きシームレスベルトは、以下の項目について評価し、その結果を表1に示す。
(1)溶融粘度
長さ10mm×直径1mmのダイを取り付けた島津製作所製高化式フローテスターを用いて溶融粘度を測定(測定条件:温度200℃、荷重100kgf)した。なお、その単位を(poise)として表した。また、本発明で用いた溶融粘度の差とは、弾性層を形成する樹脂の溶融粘度からキャリア層を形成する溶融粘度の差の絶対値で表すものとする。
(2)数平均分子量
ポリエチレンオキサイドの数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、溶媒に水を用いて測定した。数平均分子量はポリエチレンオキサイド換算で算出した。なお、GPCで他のイオン伝導性材料の数平均分子量の測定をする場合は、イオン伝導性材料をよく溶解する溶媒を用いる。
(2)ショアA硬度(弾性層)
厚さ2mmのシートを3枚重ねて厚み6mmとし、デューロメータ タイプA(上島製作所製)を用いて測定した。
(3)引張弾性率(基材層)
100kgのセルを取り付けたオートグラフ(試料幅10mm、チャック間100mm、引張速度50m/min)を用いてTD方向の引張弾性率を6点測定し、その平均値を引張弾性率とした。
(4)体積抵抗率
キャリア層付きシームレスベルトのキャリア層を剥離したもの(基材層/弾性層の積層体)について、URSプローブを取り付けたハイレスタUP(MCP−HT450、ダイヤインスツルメンツ社製)を用い、460mm×400mmのサンプルについてTD方向に10点、MD方向に10点の体積抵抗率を測定し、その平均値を体積抵抗率とした。なお、体積抵抗率の単位を(Ω・cm)として表した。
(5)表面抵抗率
キャリア層付きシームレスベルトのキャリア層を剥離したもの(基材層/弾性層の積層体)について、URSプローブを取り付けたハイレスタUP(MCP−HT450、ダイヤインスツルメンツ社製)を用い、460mm×400mmのサンプルについてTD方向に10点、MD方向に10点のサンプルの表側(弾性層側表面から測定)の表面抵抗率を測定し、その平均値を表面抵抗率とした。なお、表面抵抗率の単位を(Ω/□)として表した。
(6)剥離強度
キャリア層付きシームレスベルトより10mm幅の短冊を切り出し、オートグラフを用い、50mm/minの引張速度で剥離させ、弾性層とキャリア層との剥離強度を測定した。
(7)中心線平均粗さRa
本発明でいう中心線平均粗さRaは、JIS B0601:1994年記載の中心線表面粗さのことである。キャリア層付きシームレスベルトのキャリア層を剥離したもの(基材層/弾性層の積層体)について、表面粗さ測定機械(東京精密社製サーフコム570A)を用い、カットオフ0.25mm、トラバーススピード0.3mm/secの条件(測定範囲:2.5mm)で測定した。
【0045】
原料としては、下記のものを用いた。
<基材層の原料>
原料1−1:
二軸混練機を用いて、ナイロン12を96.5重量%とカーボンナノチューブ3.5重量%とを溶融混練して原料1−1とした。なお、本原料を用いた基材層の引張弾性率を測定すると1600MPaであった。
【0046】
<弾性層の原料>
原料2−1:
二軸混練機を用いて、エステル系の熱可塑性ポリウレタン(ショアA硬度:60、溶融粘度:4200)99重量%に対し、ポリエチレンオキサイド(数平均分子量:800,000)0.9重量%、過塩素酸リチウム0.1重量%を溶融混練して原料2−1とした。
原料2−2:
二軸混練機を用いて、エステル系の熱可塑性ポリウレタン(ショアA硬度:60、溶融粘度:8390)99重量%に対し、ポリエチレンオキサイド(数平均分子量:800,000)0.9重量%、過塩素酸リチウム0.1重量%を溶融混練して原料2−2とした。
原料2−3:
イオン導電剤を含有した部分架橋エーテル系の熱可塑性ポリウレタン(ショアA硬度:45、溶融粘度:9550)
原料2−4:
イオン導電剤を含有した部分架橋エーテル系の熱可塑性ポリウレタン(ショアA硬度:45、溶融粘度:2760)
【0047】
<キャリア層の原料>
原料3−1:
高密度ポリエチレン(密度:0.950、溶融粘度:5000)
原料3−2:
高密度ポリエチレン(密度:0.941、溶融粘度:9530)
原料3−3:
高密度ポリエチレン(密度:0.950、溶融粘度:9930)
原料3−4:
高密度ポリエチレン(密度:0.952、溶融粘度:15100)
原料3−5:
低密度ポリエチレン(密度:0.924、溶融粘度:1770)
原料3−6:
低密度ポリエチレン(密度:0.922、溶融粘度:5610)
原料3−7:
ポリアセタール共重合体
【0048】
[実施例1乃至10、比較例1乃至8]
シリンダー径50mmの押出機3台の先端に3層の環状ダイを装着した装置を用い、基材層を形成する樹脂組成物と弾性層を形成する樹脂組成物とキャリア層を形成する樹脂組成物を、キャリア層が外側、弾性層が中間、基材層が内側に形成されるように別々の押出機に供給し、環状ダイスにより共押出して、チューブ状に成形後、長さ400mmにカットし、内層である基材層の厚さ120μm、弾性層の厚さ300μm、キャリア層の厚さ100μm、周長850mm、幅400mmのキャリア層付きシームレスベルトを得た。
【0049】
実施例、および比較例で作製したキャリア層付きシームレスベルトは、以下項目について評価し、その結果を表1及び表2に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、弾性層を形成する樹脂としてショアA硬度が80以下であるウレタン系エラストマーを含有し、キャリア層を形成する樹脂として密度が0.940g/cm3以上のポリエチレン系樹脂を含有し、かつ弾性層に含まれるウレタン系エラストマーまたはアクリル系エラストマーとキャリア層に含まれるポリエチレン系樹脂の溶融粘度の差が10000poise以下である実施例1乃至10は、弾性層とキャリア層が良好な易剥離性を示し、キャリア層を剥離した弾性層の中心線平均粗さRaが0.14以上を示し、さらにキャリア層を剥離したシームレスベルトの体積抵抗値及び表面抵抗値も安定的に半導電性領域を示した。
【0052】
一方、キャリア層を形成する樹脂として、密度が0.94g/cm
3未満であるポリエチレン樹脂を含有した比較例2、3、5、6、7は、キャリア層を剥離した弾性層の中心線平均粗さRaが0.14未満を示し、シームレスベルトの表面粗さが低下した。また、弾性層を形成する樹脂とキャリア層を形成する樹脂の溶融粘度の差が10900poiseである比較例1は、弾性層とキャリア層との剥離強度は良好な値を示したがキャリア層を剥離した弾性層の中心線平均粗さRaが0.40μmを超えた。弾性層を形成する樹脂とキャリア層を形成する樹脂の溶融粘度の差が12340poiseである比較例8は、弾性層とキャリア層との剥離強度が100g/10mmを超え、剥離強度が大きく、且つ表面粗さが大きい値を示した。また、キャリア層を形成する樹脂として他の熱可塑性樹脂との接着性が悪いポリアセタール系樹脂を使用した比較例4は、剥離強度が非常に大きい値を示した。
【0053】
<参考例1>
分子量70000、(メタ)アクリル基1個当たりの分子量が1380のウレタンアクリレートオリゴマー(根上工業製)97重量部、光重合開始剤として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン2.85重量部、シリコーン系撥水剤0.15重量部に溶剤であるメチルイソブチルケトンを1000重量部加え、均一に溶解して表面層形成用塗布液を調整した。
次に、ディッピング法にて実施例1のキャリア層付きシームレスベルトのキャリア層を剥離したシームレスベルトの弾性層表面に表面層形成用塗布液を塗布して、乾燥後、紫外線を3000mJ/cm
2を照射し、厚さ1.0μmの表面層を形成して弾性層付き転写ベルトを得た。
【0054】
参考例1で作製した弾性層付き転写ベルトを中間転写ベルトとしてカラープリンターに装着し、画像出しを行った結果、転写画像に全く中抜けがなく、JIS P8115に準拠した耐折性試験(荷重4.9Nで10000回折り曲げ)では、クラックの発生が見られず、中間転写ベルトとして良好な性能を示した。