【実施例】
【0046】
[近赤外発光蛍光体の製造]
<蛍光体A>
近赤外発光蛍光体として、M(1)がLiであり、M(2)がZnであり、M(3)がSiであるLi
2ZnSiO
4:Cr
4+を製造した。
【0047】
原料粉末には、炭酸リチウム粉末、酸化亜鉛粉末、二酸化ケイ素粉末および酸化クロム粉末を用いた。金属原子の比が
Li:Zn:Si:Cr=2:1:0.96:0.04
となるよう秤取し、エタノールを加えたのち遊星ボールミルを用いて2時間混合を行った。得られた混合スラリーを乾燥、解砕し、空気中1050℃、6時間、第一の焼成を行った。第一の焼成で得られた生成物を十分に解砕し、4体積%の水素ガスを含有し残部がArガスである混合ガス気流中700℃、6時間、第二の焼成を行った。
【0048】
得られた生成物について粉末X線回折およびエネルギー分散型元素分析器(EDS;ブルカー・エイエックスエス社製QUANTAX)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM;日立ハイテクノロジーズ社製のSU1510)を用いて、生成物に含まれる元素の分析を行った。また、得られた生成物の発光スペクトルを、マルチチャンネル型分光光度計(大塚電子製、MCPD916型)を用いて測定した。発光スペクトルを
図3に示す。マルチチャンネル型分光光度計を用いて、蛍光体Aについて種々の励起波長を用いて発光スペクトルを測定した。励起スペクトルを
図4に示す。
【0049】
<蛍光体B1〜B5>
近赤外発光蛍光体として、M(1)がLiであり、M(2)がZnであり、M(3)がSiであるLi
2ZnSiO
4:Cr
4+を製造した。
【0050】
金属原子の比として、
Li:Zn:Si:Cr=2:1:1−x:x
となるよう秤取した以外は、蛍光体Aと同様の条件で合成した。蛍光体B1〜B5は、それぞれ、x=0.005、0.01、0.02、0.03および0.05の生成物である。得られた生成物について、X線粉末回析を行い、発光スペクトル(励起波長は620nmとした)を測定した。結果を表2に示す。
【0051】
<蛍光体C>
近赤外発光蛍光体として、M(1)がLiであり、M(2)がMgであり、M(3)がSiであるLi
2MgSiO
4:Cr
4+を製造した。
【0052】
原料粉末には、炭酸リチウム粉末、酸化マグネシウム粉末、二酸化ケイ素粉末および酸化クロム粉末を用いた。金属原子の比として、
Li:Mg:Si:Cr=2:1:0.99:0.01
となるよう秤取した以外は、蛍光体Aと同様の条件で合成した。
【0053】
得られた生成物について、X線粉末回析を行い、励起発光スペクトルを測定した。結果を
図5に示す。
【0054】
<蛍光体D>
近赤外発光蛍光体として、M(1)がLiであり、M(2)がCaであり、M(3)がSiであるLi
2CaSiO
4:Cr
4+を製造した。
【0055】
原料粉末には、炭酸リチウム粉末、酸化カルシウム粉末、二酸化ケイ素粉末および酸化クロム粉末を用いた。金属原子の比として、
Li:Ca:Si:Cr=2:1:0.99:0.01
となるよう秤取した以外は、蛍光体Aと同様の条件で合成した。
【0056】
得られた生成物について、X線粉末回析を行い、励起発光スペクトルを測定した。結果を
図6に示す。
【0057】
<蛍光体E>
近赤外発光蛍光体として、M(1)がLiであり、M(2)がMgであり、M(3)がGeであるLi
2MgGeO
4:Cr
4+を製造した。
【0058】
原料粉末には、炭酸リチウム粉末、酸化マグネシウム粉末、酸化ゲルマニウム粉末及び酸化クロム粉末を用いた。金属原子の比として、
Li:Mg:Ge:Cr=2:1:0.99:0.01
となるよう秤取した以外は、蛍光体Aと同様の条件で合成した。
【0059】
得られた生成物について、X線粉末回析を行い、励起発光スペクトルを測定した。結果を
図7に示す。
【0060】
<蛍光体F>
近赤外発光蛍光体として、M(1)がLiであり、M(2)がZnであり、M(3)がGeであるLi
2ZnGeO
4:Cr
4+を製造した。
【0061】
原料粉末には、炭酸リチウム粉末、酸化亜鉛粉末、酸化ゲルマニウム粉末および酸化クロム粉末を用いた。金属原子の比として、
Li:Zn:Ge:Cr=2:1:0.99:0.01
となるよう秤取した以外は、蛍光体Aと同様の条件で合成した。
【0062】
得られた生成物について、X線粉末回析を行い、励起発光スペクトルを測定した。結果を
図8に示す。
【0063】
表1に蛍光体A〜Fをまとめて示し、以上の結果を説明する。
【0064】
【表1】
【0065】
EDSによれば、蛍光体Aは、Li、Zn、Si、CrおよびOの元素の存在が確認され、Li:Zn:Si:O:Crの含有原子数の比は、Li:Zn:Si:Cr:O=2:1:0.96:0.04:4であることが測定された。また、粉末X線回折パターンから蛍光体Aは、Li
2ZnSiO
4の結晶パターンに良好に一致した。このことから、蛍光体Aは、Li
2ZnSiO
4にCrが添加された物質であり、その組成は仕込み組成に一致することが分かった。なお、蛍光体B〜蛍光体Fも同様に、仕込み組成を反映した目的の結晶構造を有する生成物が得られたことを確認した。
【0066】
図3は、蛍光体Aの発光スペクトルを示す図である。
図4は、蛍光体Aの励起スペクトルを示す図である。
【0067】
図3は、蛍光体Aを650nmで励起させた際の発光スペクトルを示す。
図3によれば、蛍光体Aは、650nmの励起により、1240nmにピークを有する近赤外発光を示した。また、蛍光体Aのピークの半価幅は、230nmだった。
【0068】
図4によれば、蛍光体Aは、380nm以上480nm以下および600nm以上800nm以下の波長範囲を有する光で効率よく励起され、1240nmにピークを有する近赤外光を発することが分かった。好ましくは、600nm以上660nm以下の波長範囲を有する赤色の光で励起されると、近赤外光の発光強度が高くなり得る。
【0069】
次に、蛍光体B1〜B5の発光強度と発光波長とを表2にまとめて示す。なお、発光強度は、蛍光体Aの発光強度に対する相対強度で表す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2によれば、蛍光体B1〜B5は、いずれも、Crの添加量に関わらず、600nm以上800nm以下の波長範囲にピークを有する光で励起されて、1050nm以上1350nm以下の波長範囲にピークを有する近赤外光を発することが分かった。
【0072】
さらに、表2によれば、Crの添加量が多くなるにつれて、発光強度が高くなり、好ましくは、Crの添加量xが0.01以上0.06以下(Siに対して1原子%以上6原子%以下)において、発光強度が増大し得、より好ましくは、Crの添加量xが0.03以上0.05以下(Siに対して3原子%以上5原子%以下)において、発光強度がより増大し得ることが分かった。
【0073】
図5は、蛍光体Cの発光スペクトルを示す図である。
図6は、蛍光体Dの発光スペクトルを示す図である。
図7は、蛍光体Eの発光スペクトルを示す図である。
図8は、蛍光体Fの発光スペクトルを示す図である。
【0074】
図5〜
図8は、いずれも、蛍光体を650nmで励起させた際の発光スペクトルを示す。また、発光強度は、蛍光体Aの発光強度に対する相対強度を示す。
【0075】
蛍光体C〜Fは、いずれも、600nm以上800nm以下の波長範囲にピークを有する光で励起されて、1050nm以上1350nm以下の波長範囲にピークを有する近赤外光を発することが分かった。簡単のため、各蛍光体の相対強度、発光波長および半値幅を表3にまとめて示す。
【0076】
【表3】
【0077】
[発光装置]
合成した近赤外発光蛍光体を用いて発光装置を作製した。
【0078】
<実施例1>
図1に示す砲弾型発光ダイオードランプ1を、近赤外発光蛍光体7として蛍光体Aを用いて製作した。まず、リードワイヤ2にある素子蔵置用の凹部2aに発光光源4として赤色発光ダイオード素子を、導電性ペーストを用いてボンディングし、リードワイヤ2と赤色発光ダイオード素子の下部電極4aとを電気的に接続するとともに、赤色発光ダイオード素子を固定した。次に、赤色発光ダイオード素子の上部電極4bとリードワイヤ3とを、ボンディングワイヤ5によってワイヤボンディングし、電気的に接続した。そして、予め作製しておいた近赤外発光蛍光体7を、赤色発光ダイオード素子を被覆するようにして凹部2aにディスペンサで適量塗布し硬化させ、第一の樹脂6を形成した。最後に、キャスティング法により凹部2aを含むリードワイヤ2の先端部2b、赤色発光ダイオード素子、近赤外発光蛍光体7を分散した第一の樹脂6の全体を第二の樹脂8で封止した。第一の樹脂6は、屈折率1.6のエポキシ樹脂を、第二の樹脂8は屈折率1.36のエポキシ樹脂を使用した。
【0079】
本発光装置の製造では、近赤外発光蛍光体7として蛍光体A(メジアン平均粒径は0.1μm以上50μm以下であり、一次粒子の平均アスペクト比は20以下であった)を40質量%の濃度でエポキシ樹脂に混ぜ、これをディスペンサにより適量滴下して、蛍光体を分散した第一の樹脂を形成した。導電性端子に電流を流すと、赤色発光ダイオード素子は660nmの赤色光を発し、この赤色光に励起されて発光波長1240nm、半価幅230nmの近赤外光を発した。これは、蛍光体単体の発光スペクトル形状と同等であった。赤色発光ダイオード素子で励起することにより、近赤外域の発光効率は高かった。
【0080】
<実施例2>
図1に示す砲弾型発光ダイオードランプ1を、近赤外発光蛍光体7として蛍光体Aを用いて製作した。発光光源4として青色発光ダイオード素子を用いた以外は実施例1と同様であるため説明を省略する。
【0081】
導電性端子に電流を流すと、青色発光ダイオード素子は450nmの青色光を発し、この青色光に励起されて発光波長1240nm、半価幅230nmの近赤外光を発した。これは、蛍光体単体の発光スペクトル形状と同等であった。
【0082】
<実施例3>
図1に示す砲弾型発光ダイオードランプ1を、近赤外発光蛍光体7として蛍光体Aを用いて製作した。発光光源4として紫外発光ダイオード素子を用いた以外は実施例1と同様であるため説明を省略する。
【0083】
導電性端子に電流を流すと、紫外発光ダイオード素子は385nmの紫外光を発し、この紫外光に励起されて発光波長1240nm、半価幅230nmの近赤外光を発した。これは、蛍光体単体の発光スペクトル形状と同等であった。
【0084】
<実施例4>
図1に示す砲弾型発光ダイオードランプ1を、近赤外発光蛍光体7として蛍光体Aを用い、発光光源4として青色発光ダイオード素子を用い製作した。近赤外発光蛍光体7として蛍光体Aに加えて赤色蛍光体としてCaAlSiN
3:Eu蛍光体を用いた。詳細には、蛍光体Aを25質量%、CaAlSiN
3:Eu蛍光体を26質量%の濃度でエポキシ樹脂に混ぜ、これをディスペンサにより適量滴下して、蛍光体を分散した第一の樹脂を形成した。これ以外は実施例1と同様であるため説明を省略する。CaAlSiN
3:Eu蛍光体は、国際公開第2005/052087号に記載の方法により製造し、その励起および発光スペクトルを
図9に示す。
【0085】
図9は、CaAlSiN
3:Eu蛍光体の励起および発光スペクトルである。
【0086】
図9に示されるように、CaAlSiN
3:Eu蛍光体は、300nm以上480nm以下の波長範囲にピークを持つ光によって励起され、600nm以上800nm以下の波長範囲にピークを有する赤色蛍光体であった。
【0087】
導電性端子に電流を流すと、青色発光ダイオード素子は450nmの青色光を発し、CaAlSiN
3:Eu蛍光体が発する赤色光とともに本発明の蛍光体を励起し、発光波長1240nm、半価幅230nmの近赤外光を発した。これは、蛍光体単体の発光スペクトル形状と同等であった。近赤外域の発光強度は、実施例2より高かった。これは、LEDの青色光が第二の蛍光体により赤色に変換された後に近赤外光に変換されたことにより、第一の蛍光体の励起効率が高くなったためである。
【0088】
<実施例5>
図1に示す砲弾型発光ダイオードランプ1を、近赤外発光蛍光体7として蛍光体Aを、発光光源4として赤色発光ダイオードを用いて製作した。第一の樹脂6は、屈折率1.51のシリコーン樹脂を、第二の樹脂8は屈折率1.41のシリコーン樹脂を使用した以外は実施例1と同様であるため説明を省略する。
【0089】
導電性端子に電流を流すと、赤色発光ダイオード素子は660nmの赤色光を発し、この赤色光に励起されて発光波長1240nm、半価幅230nmの近赤外光を発した。これは、蛍光体単体の発光スペクトル形状と同等であった。
【0090】
<実施例6>
図1に示す砲弾型発光ダイオードランプ1を、近赤外発光蛍光体7として蛍光体Aおよび蛍光体Cを用い、発光光源4として赤色発光ダイオード素子を用い製作した。蛍光体Aおよび蛍光体Cをそれぞれ20質量%の濃度でエポキシ樹脂に混ぜ、これをディスペンサにより適量滴下して、蛍光体を分散した第一の樹脂を形成した。これ以外は実施例1と同様であるため説明を省略する。
【0091】
導電性端子に電流を流すと、赤色発光ダイオード素子は660nmの赤色光を発し、この赤色光に励起されて発光波長1190nm、半価幅280nmの近赤外光を発した。
【0092】
<実施例7>
図2に示す基板実装用チップ型発光ダイオード11を、近赤外発光蛍光体7として蛍光体Aを用いて製作した。下部電極14a上に発光光源4として青色発光ダイオードが位置し、上部電極14bとボンディングワイヤ5で接続されている。製造手順は、基板19としてアルミナセラミックス基板にリードワイヤ12、13および壁面部材20を固定する部分を除いては、実施例1の製造手順と略同様である。本実施例では、壁面部材20を白色のシリコーン樹脂によって構成し、樹脂16と樹脂18とには同一のエポキシ樹脂を用いた。近赤外発光蛍光体7としては、蛍光体Aを用い、近赤外光を発することが確認された。