【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ナノ粒子の各種技術分野での応用として、現在はその実用化の研究が進められており、より小粒径のもの、例えば、粒径50nm以下の値の粒子が求められている。しかしながら、このような小粒径のナノ粒子を効率的に生成することは非常に困難である。
【0008】
液中レーザアブレーションにおいては、まず、レーザ照射によるターゲット表面から放出された分子やイオン、クラスタ等の物質が、溶液に形成されたキャビテーションバブル内で結合してナノ粒子が生成される。最初のレーザ照射で生成されたナノ粒子のみであれば、小さく揃った粒径のナノ粒子が生成されていると考えられるが、現状では、様々な粒径のものが液中に混在し、生成効率も低い。
【0009】
これは、主に最初に生成されたナノ粒子に対して再度、複数回のレーザ照射が行われることに起因する。即ち、生成されたナノ粒子に複数回レーザが照射されてしまうと、レーザ光が散乱して新たなナノ粒子の生成を阻害し、生成率が低減され、また、粒子同士が結合して粒径の肥大化を招いてしまうためである。また、磁性体ナノ粒子としては、粒径50nm以下の小粒径でありながら飽和磁化80emu/g 以上の高飽和磁化を有する粒子が望まれているが、急熱急冷が繰り返されることで結晶構造が非晶質化して飽和磁化が低下する問題もある。
【0010】
従来のナノ粒子生成装置は、溶液を貯留した容器にターゲットを浸漬状態で載置し、容器の上部開口に形成したレーザ光導入ウィンドウから液中のターゲットにレーザ光を照射しており、またレーザ光をターゲット面上で走査させている。このような装置構成においては、生成したナノ粒子は、容器内のレーザ照射領域に比較的長い間滞留することになり、複数回のレーザ照射を受けてしまう。
【0011】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、複数回のレーザ光照射を回避して小粒径のナノ粒子を効率的に生成するため、最初にレーザアブレーションで生成されたナノ粒子をレーザ照射領域から速やかに排出することができる装置と、該装置によるナノ粒子生成方法を提供することにある。また、本発明は、小粒径で高飽和磁化を有する磁性体ナノ粒子を効率的に生成することができる装置と方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、発明者らは、レーザ光が照射されるターゲットを液中載置するナノ粒子生成室に関し、ターゲット上方空間の形状設計を種々検討した結果、生成されたナノ粒子を含む溶液の排出性を向上させて複数回のレーザ照射を回避し得る構成を見出し、本発明に至った。
【0013】
即ち、本発明は、溶液中のターゲットにレーザ光を照射して該ターゲットの構成物質によるナノ粒子を生成させるナノ粒子生成装置であって、
前記ターゲットに向けて前記レーザ光を発生するレーザ発振器と、
前記レーザ発振器からのレーザ光を前記ターゲットの表面上に集光照射させると共に走査させるレーザヘッドと、
前記溶液で満たされると共に前記ターゲットが該溶液中に載置されるナノ粒子生成室が内部に設けられ、前記ナノ粒子生成室の内部へレーザ光を透過させるレーザ透過ウィンドウを有する加圧容器と、
前記加圧容器へ前記溶液を供給する溶液供給手段と、を備え、
前記加圧容器は、前記溶液供給手段によって供給される溶液を前記ナノ粒子生成室へ導入する供給流路と、前記ナノ粒子生成室から前記加圧容器の外部へ生成されたナノ粒子と共に前記溶液を排出する排出流路と、を備え、
前記溶液供給手段は、前記溶液を予め定められた圧力値に加圧する加圧手段を備え、
前記ナノ粒子生成室は、前記ターゲットの上方に前記レーザ透過ウィンドウまで予め定められた高さを有する直方体形空間と、この直方体形空間の下部の互いに対向する位置で前記供給流路と前記排出流路とにそれぞれ連通する同一形状の供給口と排出口とを備え、これら供給口と排出口は、前記ターゲットの上面で前記供給口から前記排出口へ向かう前記溶液の直線的流れが形成されるものである。
【0014】
以上の構成においては、溶液供給手段によって溶液を特定の圧力値に加圧してナノ粒子生成室内へ導入しながらレーザアブレーションすることができ、しかもターゲット上のナノ粒子生成室に対向する供給口と排出口とを備えることで、供給口から加圧導入された溶液が、排出口へとターゲット上の直方体形空間を形成している平行に対面する側壁内面の間を通って直線的に速やかに流される。従って、ターゲット上でレーザアブレーションによって生成されたナノ粒子は、ナノ粒子生成室内に滞留することなく、且つターゲット表面に蓄積されることも無く、直ちに回収側へ排出されるため、レーザ光の複数回の照射が回避され、レーザ光の散乱も防止される。
【0015】
また、本発明では、ナノ粒子生成室内の溶液は加圧されているため、溶液中に発生するキャビテーションバブルの成長を抑制することができる。したがって、ナノ粒子生成の後に成長、肥大化したキャビテーションバブルによるレーザ光の散乱が低減され、ナノ粒子の生成効率の向上に寄与する。
【0016】
なお、本発明において、ナノ粒子生成室の直方体形空間は、レーザ透過ウィンドウまで予め定められた高さを有するものである。この直方体形空間は、ターゲット表面を底面としてその上部空間が所定高さの四側壁面に囲まれて形成されるものであり、レーザ透過ウィンドウの下面が天井面となる。直方体形空間が高くなるほど、生成したナノ粒子が上昇して滞留しやすくなり、デッドボリュームが増える。この点に鑑み、高さはできるだけ低くして供給口および排出口の高さ程度にまで抑えることが理想である。一方、レーザ光のパワー密度がターゲットに近いほど高くなり、レーザ透過ウィンドウがパワー密度の高い位置にあるとレーザ光に加工されて破損するおそれがあることから、これを防ぐことのできる距離をターゲットの上方空間で確保するために必要な高さが直方体形空間に設定される。但し、同じ高さ位置でもレーザ集光角が小さいほどエネルギー密度が高くなることから、レーザ集光角をできるだけ大きく設定することでレーザ透過ウィンドウの耐熱に必要な高さ距離を抑えることができる。そして、用いるレーザ透過ウィンドウの耐熱性に応じて直方体形空間の高さを設定できることから、より耐熱性が高いものをレーザ透過ウィンドウとして選択することで直方体形空間の高さをより低く設定できる。例えばサファイヤガラスであれば、前記高さは10mm以下となる。この高さは、キャビテーションバブル内で生成された粒子が崩壊とともに飛散した際のレーザ透過ウィンドウへの粒子付着等の影響を回避するのにも十分である。
【0017】
また、供給口および排出口の形状設計は、流速を上げて排出性を高めるため、溶液流れ方向に対して直交する方向の幅寸法よりも高さ寸法を小さくした横長形状とする。この場合、横長長方形状とすればよいが、そのほか横長の楕円形状でも可能である。また、これらの供給口および排出口の長手方向の幅寸法によって、供給口から排出口への直線的な高速流れの幅が決定されるが、ナノ粒子生成室内のデッドボリュームをできるだけ小さく抑える設計とすることが望ましい。即ち、直線的流れの幅が、実質的にターゲット表面上を走査するレーザ光の照射範囲の幅に一致することが最も効率的であるため、供給口及び排出口の溶液流れ方向に直交する長手方向の内幅を当該レーザ光照射範囲の幅と合致させれば良い。
【0018】
また、加圧容器の下流に、排出口に連通する排出流路から排出される排出液中のナノ粒子を回収する濾過フィルタを配置することによって生成されたナノ粒子を回収できる。さらに、ナノ粒子回収後の排出液を供給容器へ戻す帰還管路を備えることによって、濾過後の溶液を供給容器に戻して再利用することができる。
【0019】
なお、本発明の溶液供給手段には、溶液の供給源としての供給容器と、供給容器内の溶液中の溶存酸素を不活性ガスで置換する不活性ガス供給装置とを備えることが望ましい。これによって、加圧容器へ供給する前の溶液に、供給容器中で不活性ガスバブリングを行い、溶液中の溶存酸素を低減させておけば、レーザアブレーションによって生成されたナノ粒子の溶液による酸化を防止することができる。なお、供給容器は密閉構造とするため、溶液から抜けた酸素や水分を供給容器外に排出する機能を備えておけばよい。また、不活性ガスバブリングの脱気と脱水効率を高める撹拌機能や、溶液を加熱する加熱機能を備えてもよい。
【0020】
また、磁性体ナノ粒子を生成する場合、排出流路の下流に、排出液から磁性体ナノ粒子を磁気分離して回収、選別する磁性体ナノ粒子回収機構を備えることによって、高飽和磁化を有する磁性体ナノ粒子を効率的に選別して回収することができる。
【0021】
磁性体ナノ粒子用の回収機構としては、排出流路に連通し、磁性体ナノ粒子を含む排出液が通過する回収用チューブと、この回収用チューブの外周に該回収用チューブの軸方向に沿った所定領域にわたって着脱可能に装着されたリング状磁石とを備えているものが簡単な構成として好ましい。
【0022】
この磁性体ナノ粒子回収機構によれば、回収用チューブ内を排出液が通過する間に、周囲の磁石の磁力によって磁性体ナノ粒子がチューブ壁面に誘導吸着されるので、排出液通過後にリング状磁石を取り外すだけでチューブ壁面に吸着されていた磁性体ナノ粒子は脱落し、チューブ下方で高飽和磁化の磁性体ナノ粒子のみを回収することができる。また、、磁性体ナノ粒子回収機構を通過した後の排出液は、その下流に配置された濾過フィルタによって、先の回収機構で回収されていないナノ粒子を濾過回収することができる。
【0023】
さらに、磁性体ナノ粒子生成に適応した加圧容器として、該加圧容器の外壁面から直方体形空間の上方領域での粒子生成室の側壁内面付近まで取り外し可能に挿入される磁性ロッドをさらに備える構成とすることによって、ナノ粒子生成室内から排出されずに残っている磁性体ナノ粒子に対する複数回のレーザ照射をより効果的に回避することができる。即ち、この磁性ロッドを加圧容器に挿入して直方体形空間上方の側壁内面付近に配置すれば、直方体形空間内で生成された磁性体ナノ粒子のうち、前記直線的流れから外れてその上方領域に浮上してしまったものを、前記側壁内面上に磁性ロッドによって誘導吸着させて、レーザ光の照射範囲外へ退避させることができる。これによって、直方体形空間の上方領域に残った磁性体ナノ粒子への複数回のレーザ照射およびレーザ光の散乱を回避することができる。
【0024】
上記の磁性ロッドは、レーザアブレーション工程が終了した時点で加圧容器から抜いて取り外せば、直方体形空間の上方領域の側壁内面上に吸着されていた磁性体ナノ粒子は溶液中に戻り、加圧容器外へ溶液と共に排出され、回収工程へ進むことができる。
【0025】
以上の構成を備えた本発明のナノ粒子生成装置によるナノ粒子生成方法としては、まず、前記加圧容器のナノ粒子生成室内にターゲットを載置して密閉した後、前記溶液供給手段によって前記加圧容器へ溶液を供給し、前記ターゲットが載置された前記ナノ粒子生成室の空気を抜いて溶液で満たす準備工程と、
前記加圧手段によって前記溶液を10〜100MPaの圧力値に加圧しながら前記ナノ粒子生成室へ供給し、前記直方体形空間の前記供給口から前記排出口への溶液の直線的流れを形成した状態にて、前記レーザヘッドを制御して前記レーザ光発振器からのレーザ光を前記ターゲットの表面上に集光照射させると共に走査させてターゲットの構成物質によるナノ粒子を生成させるレーザアブレーション工程と、
前記ナノ粒子生成室から前記排出流路を介して前記加圧容器の外部へ排出された溶液から磁性体ナノ粒子を回収する回収工程と、を備えたものである。
【0026】
以上のように10〜100MPaという所定の圧力値の範囲内で溶液を加圧してナノ粒子生成室へ供給することによって、ナノ粒子生成室のターゲットの上方の直方体形空間では、長方形状の供給口から排出口へ向けて加圧された溶液が高速で直線的に流れ、レーザアブレーションによって生成されたナノ粒子はその直線的流れに伴って直ちに排出される。また、ナノ粒子生成室内の溶液は加圧されているため、レーザアブレーション工程中に発生するキャビテーションバブルの成長を抑制し、レーザ光の散乱を低減することができる。溶液を加圧する圧力値は、高いほどキャビテーションバブルを抑制することはできるが、現実的な問題としてレーザ透過ウィンドウの耐圧設計に基づいて上限を100MPaとする。また、10MPa以上であれば、キャビテーションバブルの成長(肥大化)を抑制することが可能である。
【0027】
また、準備工程には、さらに不活性ガスバブリング工程を設け、加圧容器へ供給する前の溶液に対して撹拌しながら不活性ガスを供給して溶存酸素を不活性ガスで置換することによって、効率的に溶液中の溶存酸素を低減できる。この際、供給容器に設けられた排出配管等の機能によって、溶液から抜けた酸素や水分を供給容器外へ排出すればよい。
【0028】
本発明に用いる溶液としては、生成されたナノ粒子の酸化を防止すると共に分散効果があるものが望まれる。例えば、予めアルコールやメルカプタン類の溶液を沸点付近まで加熱処理しておいたものが好ましい。さらに、界面活性剤と組み合わせて使用することも望ましい。溶液には、テトラエチレングリコール、エチレングリコールなどのアルコールや、1−ドデカンチオール、1−オクタンチオールなどのメルカプタン類、あるいはオレイン酸などの不飽和脂肪酸、またはアルキルナフタレインなどが使用される。これらのうち、テトラエチレングリコールおよびエチレングリコールなどのポリオールは、沸点付近まで加熱する際の化学反応によってナノ粒子の表面に分散性を付与する保護膜を形成する。また、1−ドデカンチオールおよび1−オクタンチオールは、界面活性剤と組み合わせることによって非常に高い分散効果が得られる。以上のような加熱した溶液を用いることによって、その溶液中では生成されたナノ粒子の急冷が回避され、結晶構造が維持される。従って、特に磁性体ナノ粒子を生成する場合、良好に高飽和磁化ナノ粒子が得られる。
【0029】
本発明に用いるターゲットは、磁性体ナノ粒子となる構成物質を提供するものとしては、強磁性体ではあるが、着磁していないものとすることが望ましい。着磁有りのターゲットの場合、生成された磁性体ナノ粒子がターゲットに誘導付着されてしまい、これが蓄積すると、ターゲット表面へレーザ光照射を阻害する原因になる恐れがあるためである。さらに、ターゲットは表面処理を施されていないものとする。これは、表面処理成分がコンタミネーションとなることを防ぐためである。