【解決手段】加工管理システム100は、鋼板の荷重変形に関する所定の特性値の経時的変化を表す特性関数と、前記特性値に関する初期値と、前記初期値が得られた日の日付と、前記特性値の許容範囲と、に基づいて、前記特性値の経時的変化に関する予測結果を表示手段20に表示させる制御部32を備える。鋼板の特性値の経時的変化に関する予測結果を表示手段20に表示することで、ユーザが鋼板の加工予定日等を適切に設定できる。
前記制御部は、前記鋼板の製造時からの経過日数を示す変数にゼロを代入した値が前記初期値となるように前記特性関数を補正し、補正後の前記特性関数に基づいて、前記予測結果を前記表示手段に表示させること
を特徴とする請求項1に記載の加工管理システム。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪第1実施形態≫
図1は、第1実施形態に係る加工管理システム100の構成図である。
加工管理システム100は、鋼板(図示せず)の加工を管理するシステムである。なお、加工対象である鋼板は、例えば、鉄鋼メーカから車両等の製造メーカに納入される帯鋼である。車両等の製造メーカは、鉄鋼メーカから納入された鋼板を保管し、所定の加工予定日に鋼板のプレス加工等を行う。
【0010】
前記したように、鋼板の製造時から加工までの経過日数が長すぎると、時効硬化が進んで、プレス加工の過程で鋼板が破断しやすくなる。そこで、第1実施形態では、所定の加工予定日に鋼板を加工した場合に鋼板が破断する可能性があるか否かを制御部32が判定し、その判定結果を表示手段20に表示させるようにしている。
【0011】
図1に示すように、加工管理システム100は、入力手段10と、表示手段20と、加工管理装置30と、を備えている。
入力手段10は、例えば、マウスやキーボードであり、ユーザの操作によって加工管理装置30に所定のデータを入力する。
表示手段20は、例えば、ディスプレイであり、加工管理装置30の処理結果を表示する。
【0012】
加工管理装置30は、入力手段10を介して入力されるデータ等に基づいて、鋼板の加工予定日の適否(加工予定日が遅すぎるか否か)を判定し、その判定結果を表示手段20に表示させる。加工管理装置30は、図示はしないが、ハードウェア構成として、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、各種インタフェース等の電子回路を含んで構成されている。そして、ROMに記憶されたプログラムを読み出してRAMに展開し、CPUが各種処理を実行するようになっている。
【0013】
また、加工管理装置30は、機能構成として、
図1に示す記憶部31と、制御部32と、を備えている。
記憶部31には、入力手段10を介して入力されるデータや、制御部32の処理に用いられるプログラムの他、複数のデータベースが予め記憶されている。前記した複数のデータベースには、試験結果データベース31a(
図1には「試験結果DB」と記載)の他、特性関数データベース31bと、初期特性データベース31cと、閾値データベース31dと、が含まれている。
【0014】
制御部32は、入力手段10を介して入力される所定のデータや、記憶部31のデータに基づき、所定の処理を実行する。
図1に示すように、制御部32は、関数導出部32aと、関数補正部32bと、判定部32cと、表示制御部32dと、を備えている。以下では、記憶部31や制御部32の各構成要素について、順を追って説明する。
【0015】
試験結果データベース31aには、鋼板の材料試験の結果がデータベースとして記憶されている。前記した材料試験として、例えば、引張試験が挙げられる。引張試験とは、所定の鋼板と略同一組成の試験片(図示せず)に引張荷重をかけて破断まで引っ張り、その歪みや変形を測定する試験である。
【0016】
図2は、加工管理システムが備える試験結果データベース31aの説明図である。
図2の例では、その種類が「JSC/JACXXXA」である鋼板と略同一組成の試験片(図示せず)が引張試験に用いられ、その結果が試験結果データベース31aとして記憶されている。なお、鋼板の種類は、JSC鋼板やJAC鋼板に限定されず、BH鋼板といった他の種類のものであってもよい。
引張試験によって得られるデータには、鋼板の荷重変形に関する複数種類の特性値が含まれている。
図2の例では、前記した特性値として、一様伸び(UEL)や全伸び(EL)の他、降伏点(Yp)、引張強さ(Ts)、n値、r値、及びF値が含まれている。
【0017】
一様伸び(UEL)とは、引張試験において、試験片が引張方向で略一様に変形する永久伸びの限界値である。この一様伸び(UEL)は、加力前の試験片の軸方向長さに対して、前記した限界値に達したときの軸方向長さの増加分が占める割合(パーセント)で表される。なお、一様伸び(UEL)の値が大きいほど、試験片が軸方向で一様に延びやすくなる。
【0018】
全伸び(EL)とは、引張試験における加力前の試験片の軸方向長さに対して、荷重破断後の軸方向長さの増加分が占める割合をパーセントで表したものである。なお、全伸び(EL)の値が大きいほど、いわゆる局所伸びも含めて、試験片が軸方向で延びやすくなる。
【0019】
降伏点(Yp)とは、引張試験において、試験片が降伏現象を示すときの応力である。なお、試験片に加えられる力が降伏点(Yp)よりも小さければ、試験片は、その弾性によって元の形状に戻る。
引張強さ(Ts)とは、試験片が破断するまでに耐えた最大応力である。この引張強さ(Ts)の値が大きいほど、引張の力に耐えやすくなる。
【0020】
n値(加工硬化指数)とは、降伏点(Yp)以上の領域における応力σとひずみεとの関係をσ=Cε
n(C:定数)で近似したときの指数nの値である。このn値が大きいほど、鋼板の張出し成形が行いやすくなる。
r値(ランクフォード値)とは、板厚の対数歪みε
tに対して、幅方向の対数歪みε
wが占める割合(ε
w/ε
t)である。このr値が大きいほど、鋼板が板面方向で変形しやすく、また、板厚方向では変形しにくくなる。したがって、r値が大きいほど、鋼板の深絞り加工が行いやすくなる。
【0021】
F値(塑性係数)とは、引張試験における試験片の応力σとひずみεとの関係をσ=Fε
nで近似したときの係数Fの値である。鋼板の時効硬化が進むにつれて、F値が大きくなる。
なお、前記した各特性値のうち、一様伸び(UEL)の値は、F値、引張強さ(Ts)、及びn値に基づき、以下の式(1)を用いて算出される。
【0023】
ちなみに、鋼板の製造直後は、一様伸び(UEL)の値の大きさが、全伸び(EL)の値の約1/2になることが多い。ただし、全伸びの値(EL)に対する一様伸び(UEL)の値の比率は、鋼板の種類によって異なるため、事前の実験等に基づく所定の比率が用いられる。また、鋼板の時効硬化に伴い、一様伸び(UEL)と、全伸び(EL)×(所定の比率)と、の間の大小関係が変化することもある。
【0024】
図2の例では、鉄鋼メーカが鋼板を出荷する際の「出荷試験」として、2019年3月1日に、所定の試験片を用いた引張試験が行われ、その試験結果に基づいて、一様伸び(UEL)や全伸び(EL)等の特性値が算出されている。なお、
図2では、「UEL0」や「EL0」といったように記載しているが、実際には、引張試験に基づく具体的な数値が、試験結果データベース31aとして記憶されている。
【0025】
また、
図2の例では、出荷試験後の1回目の引張試験、2回目の引張試験、・・・、m回目の引張試験が、出荷試験の次の日から起算して10日ごとに行われている。そして、それぞれの引張試験に基づく各特性値が、試験結果データベース31aとして記憶されている。
【0026】
図1に示す関数導出部32aは、試験結果データベース31aの情報を用いて、鋼板の特性値の経時的変化を表す所定の特性関数を導出する。以下では一例として、関数導出部32aが、鋼板の一様伸び(UEL)の経時的変化を表す特性関数を導出し、この特性関数等に基づいて、判定部32cが鋼板の加工予定日の適否を判定する処理について説明する。
【0027】
図3は、鋼板の引張試験に基づく一様伸び(UEL)の経時的変化を示す説明図である。
なお、
図3の横軸は、鋼板の出荷試験の日(2019年3月1日:
図2参照)からの経過日数である。
図3の縦軸は、試験結果に基づく一様伸び(UEL)の値である。
図3にプロットしたデータは、
図2の枠線P内の一様伸び(UEL)の値UEL0,UEL1,・・・,UELmである。
【0028】
図1に示す関数導出部32aは、一様伸び(UEL)に関する離散的なデータを用いて、例えば、多項式近似を実行し、所定の特性関数(
図3の一点鎖線の曲線)を導く。また、関数導出部32aは、全伸び(EL)や降伏点(Yp)等の他の特性値についても、試験結果データベース31a(
図2参照)の各値に基づいて、それぞれの特性関数を導く。
【0029】
このような処理が開始されるトリガは、例えば、ユーザによる入力手段10(
図1参照)を介した所定の操作である。なお、別種類の鋼板が存在する場合には、時効硬化の進み方も異なるため、関数導出部32aは、その種類の鋼板についても同様にして、各特性値の特性関数を導く。
図1に示す特性関数データベース31bには、関数導出部32aによって導かれた特性関数がデータベースとして記憶されている。
【0030】
図4は、加工管理システムが備える特性関数データベース31bの説明図である。
図4の例では、「JSC/JACXXXA」(
図2も参照)という種類の鋼板の一様伸び(UEL)に関して、UELA(x)=a1・x
2+b1・x+c1という特性関数が導出されている。この特性関数UELA(x)は、前記したように、鋼板の一様伸び(UEL)の経時的変化を表す関数である。なお、特性関数UELA(x)における変数xは、鋼板の出荷試験(製造時)からの経過日数であり、a1,b1,c1は所定の係数である。
【0031】
また、「JSC/JACXXXB」という別種類の鋼板の一様伸び(UEL)に関しては、UELB(x)=a2・x
2+b2・x+c2という特性関数が導出されている。このように各特性値の特性関数が、鋼板の種類に対応付けて、特性関数データベース31bとして記憶されている。
【0032】
図5は、加工管理システムが備える初期特性データベース31cの説明図である。
図5に示す「識別情報」は、鉄鋼メーカから納入された鋼板のひとつひとつに付けられる識別情報である。なお、鋼板の種類が「JSC/JACXXXA」で同一であっても、それぞれの鋼板で個体差が存在するため、一様伸び(UEL)等の初期値にもばらつきがある。
【0033】
例えば、識別情報が「JSC/JACA3752TZ」の鋼板は、その種類が「JSC/JACXXXA」であり、2019年3月1日に焼鈍しが行われている。そして、この鋼板と略同一組成の試験片を用いて所定の出荷試験(引張試験)が行われ、その試験結果に基づき、一様伸びの初期値UELsaや全伸びの初期値ELsa等が得られている。なお、前記した初期値UELsaやELsaは、実際には具体的な数値である。このような各特性値の初期値が、初期特性データベース31cとして記憶されている。
【0034】
ちなみに、特性値に関する「初期値」とは、例えば、鋼板の製造時の各特性値である。前記した「製造時」には、鋼板の焼鈍しが行われる焼鈍日の他、鋼板の製造直後の出荷試験(引張試験)が行われる日も含まれる。
図5の例では、鋼板の各特性値に関する初期値が得られた日の日付として、鋼板の焼鈍日が用いられている。
【0035】
鉄鋼メーカから車両等の製造メーカに鋼板が納入される際には、このような特性値の初期値とともに、その初期値が得られた日(例えば、焼鈍日)の日付に関するデータが製造メーカに伝えられることが多い。
【0036】
また、その種類が「JSC/JACXXXA」(
図4参照)である鋼板に関して、一様伸び(UEL)の特性関数:UELA(x)=a1・x
2+b1・x+c1の変数xにゼロを代入した値c1は、一様伸び(UEL)の初期値を近似的に表している。
しかしながら、前記した値c1と、識別情報が「JSC/JACA3752TZ」の鋼板における一様伸び(UEL)の実際の初期値UELsa(
図5の枠線Rを参照)と、の間には、誤差があることが多い。そこで、このような誤差を低減するために、次に説明する関数補正部32b(
図1参照)が設けられている。
【0037】
図1に示す関数補正部32bは、入力手段10を介した操作によって、所定の識別情報の鋼板が選択された場合、この鋼板の初期値に基づいて、前記した特性関数を補正する。このような関数補正部32bの処理について、
図6を用いて説明する。
【0038】
図6は、鋼板の一様伸び(UEL)を近似的に表す特性関数の補正に関する説明図である。
なお、
図6の横軸は、鋼板の製造時からの経過日数(各特性関数の変数x)である。
図6の縦軸は、一様伸び(UEL)の値である。
図6の一点鎖線の曲線は、「JSC/JACXXXA」の種類の鋼板について、関数導出部32aが導いた特性関数UELA(x)(
図4の枠線Qを参照)であり、
図3の一点鎖線の曲線と同一のものである。
図6の実線の曲線は、関数補正部32bによる補正後の特性関数であり、識別情報が「JSC/JACA3752TZ」(
図5参照)の鋼板の一様伸び(UEL)を近似的に表している。
【0039】
図6の例では、経過日数が0のとき、補正前の特性関数の値はc1になっているが、補正後の特性関数の値はUELsaになっている。この値UELsaは、識別情報が「JSC/JACA3752TZ」(
図5参照)である鋼板の一様伸び(UEL)の実際の初期値である(
図5の枠線Rを参照)。このように関数補正部32bは、鋼板の製造時からの経過日数を示す変数xにゼロを代入した値が、鋼板の特性値に関する初期値となるように特性関数を補正する。これによって、実際の加工対象である鋼板について、時効硬化に伴う一様伸び(UEL)の変化を正確に推定できる。
【0040】
関数補正部32b(
図1参照)は、一様伸び(UEL)の他、全伸び(EL)等の他の特性値についても、入力手段10(
図1参照)を介した操作に応じて、特性関数の補正を実行する。また、関数補正部32bは、識別情報等が異なる他の鋼板についても、入力手段10を介した操作に応じて、特性関数の補正を実行する。
【0041】
図1に示す判定部32cは、入力手段10の操作を介して選択された所定の特性値が、鋼板の加工予定日において所定の許容範囲に入っているか否かを判定する。このような判定を行う際、判定部32cは、記憶部31の閾値データベース31dを参照する。
【0042】
図7は、加工管理システムが備える閾値データベース31dの説明図である。
図7の例では、例えば、識別情報が「JSC/JACA3752TZ」の鋼板は、その種類が「JSC/JACXXXA」であり、一様伸び(UEL)の閾値として、値UELthaが設定されている。また、全伸び(EL)等の他の特性値についても、同様に所定の閾値が設定されている。なお、閾値UELthaや閾値ELtha等は、実際には具体的な数値である。
【0043】
これらの閾値は、例えば、識別情報が「JSC/JACA3752TZ」の鋼板に対して行われる様々な加工において、その加工条件が最も厳しいものに基づき、入力手段10(
図1参照)を介した操作によって、予め設定されている。
例えば、プレス加工する際の加工条件が比較的厳しい鋼板であれば、一様伸び(UEL)の閾値として、比較的大きな値が設定される。一様伸び(UEL)の値が大きいほど、鋼板が引張方向で一様に延びやすいからである。このような各閾値が、鋼板の識別情報や特性値の種類に対応付けて、閾値データベース31dとして記憶されている。
なお、
図7では、識別情報が異なる複数の鋼板のそれぞれに所定の閾値が設定される例を示しているが、各鋼板の種類が同一であれば、閾値として共通の値を用いるようにしてもよい。
【0044】
図1に示す表示制御部32dは、前記した判定部32cによる判定結果を表示手段20に表示させる。その他に、表示制御部32dは、関数補正部32bによって補正された関数の他、判定部32cで用いられた所定の閾値も表示手段20に表示させる。
【0045】
図8は、特性関数の導出に関する制御部32の処理を示すフローチャートである(適宜、
図1も参照)。
なお、
図8の「START」時には、入力手段10を介したユーザの操作(例えば、画面上のボタンの選択)によって、特性関数の導出を開始するためのトリガとなる所定の処理が行われたものとする。
【0046】
ステップS101において制御部32は、所定の引張試験の試験結果に関するデータを読み込む。例えば、入力手段10を介したユーザの操作によって、その種類が「JSC/JACXXXA」である鋼板の一様伸び(UEL)が選択された場合、制御部32は、試験結果データベース31aに含まれる「JSC/JACXXXA」の一様伸び(UEL)の試験結果を読み込む(
図2の枠線Pを参照)。
【0047】
ステップS102において制御部32は、特性関数を導出する。例えば、制御部32は、その種類が「JSC/JACXXXA」である鋼板の一様伸び(UEL)について、多項式近似に基づき、所定の特性関数UELA(x)を導出する(
図3の特性関数、
図4の枠線Qを参照)。
【0048】
ステップS103において制御部32は、特性関数を記憶させる。例えば、制御部32は、ステップS102で導出した特性関数UELA(x)に、鋼板の種類「JSC/JACXXXA」や、一様伸び(UEL)という特性値の種類を対応付けて、特性関数データベース31bとして記憶部31に格納する。
【0049】
ステップS103の処理を行った後、制御部32は、特性関数の導出に関する一連の処理を終了する(END)。
なお、
図8では省略しているが、入力手段10を介したユーザの操作に応じて、制御部32は、全伸び(EL)等の他の特性値についても、特性関数を適宜に導出する。
【0050】
図9は、加工予定日の適否に関する制御部32の処理を示すフローチャートである(適宜、
図1も参照)。
なお、
図9の「START」時には、特性関数データベース31bや初期特性データベース31cの他、閾値データベース31dに所定のデータが記憶されているものとする。
【0051】
ステップS201において制御部32は、鋼板の特性値に関する所定の初期値に基づいて、特性関数を補正する。例えば、制御部32は、識別情報が「JSC/JACA3752TZ」(
図5参照)の鋼板について、製造時からの経過日数がゼロであるときの特性関数UELA(x)の値c1が(
図4参照)、鋼板の特性値の実際の初期値UELsa(
図5の枠線Rを参照)となるように特性関数を補正する(
図6参照)。これによって、一様伸び(UEL)の値に関する誤差を低減できる。
【0052】
ステップS202において制御部32は、加工予定日における補正後の特性関数の値を算出する。
例えば、識別情報が「JSC/JACA3752TZ」の鋼板に関して、補正後の特性関数が、UELA
cor(x)=a1・x
2+b1・x+UELsaであったとする。また、この鋼板の焼鈍日(製造日)が2019年3月1日であり(
図5参照)、加工予定日が2019年6月9日であったとする。この場合において制御部32は、鋼板の焼鈍日から加工予定日までの経過日数(100日間)を算出し、この経過日数を補正後の特性関数UELA
cor(x)の変数xに代入する。これによって、加工予定日における鋼板の一様伸び(UEL)の値を適切に推定できる。
なお、鋼板の加工予定日は、ユーザによる入力手段10(
図1参照)を介した操作によって入力される。
【0053】
ステップS203において制御部32は、補正後の特性関数の値が所定の許容範囲内であるか否かを判定する。例えば、識別情報が「JSC/JACA3752TZ」の鋼板に関して、制御部32は、閾値データベース31d(
図7参照)を参照し、一様伸び(UEL)の閾値UELthaを読み込む(
図7の枠線Uを参照)。そして、制御部32は、ステップS202で算出した補正後の特性関数UELA
cor(x)の値と、閾値UELthaの値と、の大小を比較する。
【0054】
前記したように、一様伸び(UEL)の値が大きいほど、鋼板が引張方向で一様に延びやすくなる。したがって、一様伸び(UEL)に関して、閾値UELthaに基づく所定の許容範囲とは、閾値UELtha以上となる範囲である。
【0055】
ステップS203において、補正後の特性関数の値が許容範囲内である場合(S203:Yes)、制御部32の処理はステップS204に進む。
図6の例では、鋼板の焼鈍日(製造時)からの経過日数が100日間の場合、一様伸び(UEL)に関して、補正後の特性関数の値UELαが、閾値UELtha以上になっている。したがって、この値UELαは、一様伸び(UEL)の許容範囲に入っている。
【0056】
ステップS204において制御部32は、鋼板の加工において破断の可能性なしと判定する。そして、ステップS205において制御部32は、加工予定日が適切である旨を表示手段20に表示させる。これによってユーザは、加工予定日までの期間中に鋼板の時効硬化がある程度進んでも、鋼板のプレス加工を適切に行うことを把握できる。
【0057】
一方、ステップS203において、補正後の特性関数の値が許容範囲外である場合(S203:No)、制御部32の処理はステップS206に進む。
図6の例では、鋼板の焼鈍日(製造時)からの経過日数が150日間の場合、一様伸び(UEL)に関して、補正後の特性関数の値UELβが、閾値UELtha未満になっている。したがって、この値UELαは、一様伸び(UEL)の許容範囲から外れている。
【0058】
ステップS206において制御部32は、加工予定日における鋼板の加工において、破断の可能性ありと判定する。例えば、加工予定日における一様伸び(UEL)の値が小さすぎて許容範囲外になっていると、鋼板が一様に伸びにくく、加工中に破断しやすいからである。
そして、ステップS207において制御部32は、加工予定日が適切でない旨を表示手段20に表示させる。これによってユーザは、当初の予定よりも加工予定日を早めるべきであることを把握できる。ステップS205又はS207の処理を行った後、制御部32は、加工予定日の適否に関する一連の処理を終了する(END)。
【0059】
なお、鋼板の加工予定日が適切でない場合(S207)、ユーザは、表示手段20に表示されている補正後の特性関数のグラフ(
図6の一点鎖線の曲線)や閾値UELthaを確認した上で、加工予定日として当初よりも早い日付を入力し、
図9の一連の処理を制御部32に再び実行させる。このような処理を繰り返すことで、時効硬化に伴う特性変化を考慮した適切な加工予定日を設定できる。
【0060】
<作用・効果>
第1実施形態に係る加工管理システム100は、基本的に以上のように構成される。次に、加工管理システム100の作用・効果について説明する。
図1、
図9に示すように、鋼板の加工を管理する加工管理システム100は、鋼板の荷重変形に関する所定の特性値の経時的変化を表す特性関数と、この特性値に関する初期値と、この初期値が得られた日の日付と、特性値の許容範囲と、に基づいて、特性値の経時的変化に関する予測結果を表示手段20に表示させる制御部32を備えている。
このような構成によれば、鋼板の特性値の経時的変化に関する予測結果が表示手段20に表示されるため、ユーザは、この予測結果を見ることで、鋼板の加工予定日等を適切に設定できる。
【0061】
また、
図1、
図9に示すように、制御部32は、予測結果として、鋼板の特性値が、鋼板の加工予定日において所定の許容範囲に入っているか否かを表示手段20に表示させることが好ましい。
このような構成によれば、鋼板の特性値が、加工予定日において許容範囲に入っている場合(
図9のS203:Yes)、ユーザは、加工中に鋼板が破断する可能性がほとんどなく、加工予定日が適切であることを把握できる。一方、鋼板の特性値が、加工予定日において許容範囲に入っていない場合(S203:No)、加工中に鋼板が破断する可能性があるため、ユーザは、鋼板の時効硬化が進みすぎないように加工予定日を適宜に変更できる。
【0062】
また、
図4、
図9に示すように、鋼板の特性値は、鋼板の一様伸びの値であり、制御部32は、特性関数に基づく一様伸びの値が、鋼板の加工予定日において所定閾値以上である場合(
図9のS203:Yes)、加工予定日が適切である旨を表示手段20に表示させる(S205)。一方、特性関数に基づく一様伸びの値が、加工予定日において所定閾値未満である場合(S203:No)、制御部32は、加工予定日が適切でない旨を表示手段20に表示させる(S207)。
このような構成によれば、鋼板の特性値として一様伸び(UEL)の値を用いることで、鋼板の加工予定日の適否を制御部32が適切に判定し、その結果を表示手段20に表示させることができる。
【0063】
また、
図6に示すように、制御部32は、鋼板の特性関数で表される曲線と、鋼板の特性値に関する許容範囲を規定する所定閾値を示す直線と、を重畳させて、表示手段20に表示させることが好ましい。
このような構成によれば、ユーザは、加工予定日の日付をどのように設定すれば鋼板の特性値が所定の許容範囲に入るのかを、表示手段20に表示された特性関数の曲線と、閾値を示す直線と、の位置関係に基づいて予測できる。
【0064】
また、
図6、
図9に示すように、制御部32は、鋼板の製造時からの経過日数を示す変数にゼロを代入した値が初期値となるように特性関数を補正し(
図9のS201)、補正後の特性関数に基づいて、予測結果を表示手段20に表示させることが好ましい(S205又はS207)。
このような構成によれば、鋼板の特性関数の変数にゼロを代入した値が、実際の初期値となるように特性関数を補正することで、制御部32が特性値を推定する際の誤差を低減できる。
【0065】
また、
図6、
図9に示すように、鋼板の加工を管理する加工管理方法は、鋼板の荷重変形に関する所定の特性値の経時的変化を表す特性関数と、特性値に関する初期値と、初期値が得られた日の日付と、特性値の許容範囲と、に基づいて、特性値の経時的変化に関する予測結果を表示手段20に表示させることを特徴とする。
このような構成によれば、鋼板の特性値の経時的変化に関する予測結果が表示手段20に表示されるため、ユーザは、この予測結果を見ることで、鋼板の加工予定日等を適切に設定できる。
【0066】
また、前記した加工管理方法をコンピュータに実行させるためのプログラムが設定されてもよい。
このような構成によれば、鋼板の特性値の経時的変化に関する予測結果を表示手段20に適切に表示させるプログラムを提供できる。
【0067】
≪第2実施形態≫
第2実施形態は、鋼板の加工予定日における特性値の大きさの他、鋼板の製造時から加工予定日までに所定日数が経過しているか否かに基づいて、加工予定日の適否が判定される点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他(加工管理システム100の構成等:
図1参照)については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分の説明を省略する。
【0068】
図10は、一様伸び(UEL)の特性関数、及び、全伸び(EL)の1/2の特性関数に関する説明図である。
図10の横軸は、鋼板の各特性値に関する初期値が得られた日の日付からの経過日数である。なお、初期値が得られた日とは、例えば、鋼板の製造時における焼鈍日であってもよいし、また、鋼板の出荷試験の日であってもよい。
図10の縦軸は、鋼板の一様伸び(UEL)の値や全伸び(EL)の値である。
【0069】
図10に示す実線の曲線は、鋼板の一様伸び(UEL)の特性関数である。一方、
図10に示す破線の曲線は、鋼板の全伸び(EL)の特性関数に1/2を乗じたものである。
鋼板の各特性値に関する初期値が得られた時点(経過日数がゼロの時点)では、鋼板の一様伸び(UEL)と、1/2×全伸び(EL)と、が比較的近い値になっている。また、一様伸び(UEL)の特性関数は下に凸の曲線である一方、1/2×全伸び(EL)の特性関数は、経過日数が短い領域では上に凸の曲線であり、経過日数が長い領域では下に凸の曲線になっている。
【0070】
そして、経過日数d2において、一様伸び(UEL)の特性関数の曲線と、1/2×全伸び(EL)の特性関数の曲線と、が交わっている。仮に、製造時から所定の経過日数d2以上が経過した鋼板をプレス加工した場合、加工の過程で一様伸びの限界に達して「くびれ」が生じてから、鋼板の破断に至るまでの余裕がそれほどない。したがって、第2実施形態では、加工予定日における特性関数の値が所定の許容範囲に入っていても、鋼板の製造時から所定の経過日数d2が経過している場合には、その加工予定日が適切でない(遅すぎる)と制御部32が判定するようにしている。
【0071】
なお、
図10に示す一様伸び(UEL)の特性関数や、1/2×全伸び(EL)の特性関数として、第1実施形態(
図6参照)で説明した補正後の特性関数を用いるようにしてもよい。これによって、各特性関数に関する誤差を低減できる。
【0072】
図11は、特性関数の導出に関する制御部32の処理を示すフローチャートである(適宜、
図1も参照)。
なお、第1実施形態(
図9参照)と同様の処理には、同一のステップ番号を付けている。ステップS202において補正後の特性関数の値を算出した後、ステップS203において制御部32は、補正後の特性関数の値が所定の許容範囲内であるか否かを判定する。補正後の特性関数の値が許容範囲内である場合(S203:Yes)、制御部32の処理はステップS301に進む。
【0073】
ステップS301において制御部32は、鋼板の焼鈍日(製造時)から加工予定日までに所定日数が経過しているか否かを判定する。例えば、制御部32は、全伸び(EL)の値に対する一様伸び(UEL)の値の比率が0.5以上(所定値以上)になるまでの経過日数d2(
図10参照)が、焼鈍日から加工予定日までの間に経過しているか否かを判定する。なお、全伸びの値(EL)に対する一様伸び(UEL)の値の比率は、鋼板の種類によって異なるため、事前の実験等に基づく所定の比率が用いられる。
【0074】
ステップS301において、鋼板の焼鈍日から加工予定日までに所定日数が経過していない場合(S301:No)、制御部32は、加工予定日に鋼板を加工しても破断の可能性はないと判定し(S204)、加工予定日が適切である旨を表示手段20に表示させる(S205)。鋼板の加工中に「くびれ」が生じたとしても、全伸び(EL)の限界までに比較的余裕があるからである。
【0075】
一方、ステップS203において、補正後の特性関数の値が許容範囲外である場合(S203:No)、制御部32の処理はステップS206に進む。また、ステップS301において、鋼板の焼鈍日から加工予定日までに所定日数が経過している場合にも(S301:Yes)、制御部32の処理はステップS206に進む。
【0076】
ステップS206において制御部32は、加工予定日における鋼板の加工において、破断の可能性ありと判定する。例えば、加工予定日における一様伸び(UEL)の値が小さすぎて許容範囲外になっていると、鋼板が一様に伸びにくく、破断しやすいからである。また、鋼板の加工中に「くびれ」が生じた場合、全伸び(EL)の限界までにあまり余裕がないからである。
【0077】
そして、ステップS207において制御部32は、加工予定日が適切でない旨を表示手段20に表示させ、一連の処理を終了する(END)。これによってユーザは、当初の加工予定日では遅すぎることを把握し、加工予定日を適宜に早めることができる。
【0078】
<作用・効果>
次に、第2実施形態に係る加工管理システム100の作用・効果について説明する。
図10、
図11に示すように、鋼板の特性値は、鋼板の一様伸びの値、及び、全伸びの値であり、制御部32は、特性関数に基づく一様伸びの値が、鋼板の加工予定日において所定閾値以上であり(
図11のS203:Yes)、かつ、全伸びの値に対する一様伸びの値の比率が所定値以上になるまでの所定日数が、鋼板の特性値に関する初期値が得られた日の日付から加工予定日までの間に経過していない場合(S301:No)、加工予定日が適切である旨を表示手段20に表示させる(S205)。
一方、特性関数に基づく一様伸びの値が、加工予定日において所定閾値未満であるか(S203:No)、又は、鋼板の特性値に関する初期値が得られた日の日付から加工予定日までの間に所定日数が経過している場合(S301:Yes)、制御部32は、加工予定日が適切でない旨を表示手段20に表示させる(S207)。
このような構成によれば、全伸び(EL)の値に対する一様伸び(UEL)の値の比率が所定値以上になるまでの所定日数が経過しない範囲で、鋼板の加工予定日をユーザが適切に設定できる。
【0079】
≪変形例≫
以上、本発明に係る加工管理システム100(
図1参照)等について各実施形態で説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、各実施形態では、入力手段10(
図1参照)を介した操作によって、ユーザが鋼板の加工予定日を入力する場合について説明したが、これに限らない。すなわち、制御部32が、鋼板の加工予定日の選択可能な範囲として、鋼板の特性値が所定の許容範囲に入る日の日付の範囲を表示手段20に表示させるようにしてもよい。
これによって、鋼板の加工予定日における選択可能な範囲が、表示手段20に表示されるため、ユーザは、この範囲の中で鋼板の加工予定日を適切に設定できる。なお、前記した日付の範囲を規定する限界(境界)は、補正後の特性関数(
図6の実線の曲線を参照)の値が、特性値の許容範囲を規定する所定閾値(
図6の閾値UELtha)に等しくなるときの経過日数d1(
図6参照)に基づいて特定される。
【0080】
また、各実施形態では、鋼板の一様伸び(UEL)や全伸び(EL)の値に基づいて、制御部32が、鋼板の加工予定日の適否を判定する処理について説明したが、これに限らない。すなわち、鋼板の特性値は、鋼板の一様伸び(UEL)の値、全伸び(EL)の値、降伏点(Yp)の値、引張強さ(Ts)、n値、r値、及びF値のうち少なくとも一つであり、各特性値に関する特性関数、初期値、及び許容範囲が、それぞれの特性値の種類に対応付けて設定されるようにしてもよい。このような構成において制御部32は、複数種類の特性値のうち、加工予定日において所定の許容範囲から外れているものが少なくとも一つ存在する場合、その加工予定日が適切でない旨を表示手段20に表示させる。これによって、制御部32は、鋼板の加工予定日の適否を適切に判定できる。
【0081】
また、各実施形態では、多項式近似に基づいて、制御部32が特性関数を導く処理(
図8のS102)について説明したが、これに限らない。すなわち、線形近似や対数近似の他、指数近似や移動平均、最小二乗法等に基づいて、制御部32が特性関数を導くようにしてもよい。
【0082】
また、各実施形態では、記憶部31(
図1参照)に複数のデータベース(試験結果データベース31a等)が格納される場合について説明したが、これに限らない。例えば、入力手段10(
図1参照)を介した操作によって、ユーザがその都度、所定のデータを入力し、特性関数に基づいて、鋼板の加工予定日の適否を制御部32が判定するようにしてもよい。
【0083】
また、各実施形態では、鋼板の引張試験の結果に基づいて、所定の特性関数が導かれる場合について説明したが、これに限らない。例えば、鋼板の材料試験として、引張試験の他、圧縮試験や曲げ試験、せん断試験等を行い、その試験結果に基づいて、制御部32が所定の特性関数を導くようにしてもよい。
【0084】
また、第2実施形態のステップS301(
図11参照)における「所定日数」として、鋼板の全伸び(EL)の値に対する一様伸び(UEL)の値の比率が0.5以上になるまでの経過日数d2(
図10参照)を用いる場合について説明したが、これに限らない。すなわち、ステップS301の所定日数は、鋼板の全伸び(EL)の値に対する一様伸び(UEL)の値の比率が所定値以上になるまでの経過日数であってもよい。
【0085】
また、各実施形態では、鋼板の加工品が車両に用いられる例について説明したが、これに限らない。すなわち、車両の他、船舶や航空機といった様々な製品にも適用可能である。また、各実施形態で説明した処理のプログラム等の情報は、メモリやハードディスクの他、IC(Integrated Circuit)カード等の記録媒体に格納することも可能である。