【解決手段】ワイヤボビン25から繰り出されたワイヤ電極WEを受け取って下流側に送出する第1のプーリ26を、径方向中心部を挟んで第1の受取位置と逆側の外周部の第1の送出位置までワイヤ電極WEを巻き掛けて下方へ送り出すように配置する。第1のプーリ26は、径方向一端部を支点として水平方向に揺動自在とする。この揺動の支点を、ワイヤボビン25の幅方向において、ワイヤボビン25の幅方向一端部から他端部までの範囲内に配置する。
前記第1の受取位置は、前記ワイヤボビンの幅方向からみて、前記ワイヤ電極を繰り出す前記ワイヤボビンの繰出位置の鉛直線上、または、前記繰出位置よりも前記第1の送出位置側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工装置。
前記第1のプーリの前記支点は、前記ワイヤボビンの幅方向において、前記ワイヤボビンの幅方向一端部から他端部までの中央部に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のワイヤ放電加工装置。
外周部の第2の受取位置で前記揺動プーリから送り出された前記ワイヤ電極を受け取り、径方向中心部を挟んで前記第2の受取位置と逆側の外周部の第2の送出位置まで巻き掛けられて上方へと前記ワイヤ電極を送り出す第2のプーリをさらに備え、
前記第2のプーリは、前記第2の受取位置が前記第1の送出位置の直下に配置されていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のワイヤ放電加工装置。
前記第1のプーリおよび前記第2のプーリの前記外周部には、前記ワイヤ電極を巻き掛けて保持する溝部が形成されていることを特徴とする請求項3または4に記載のワイヤ放電加工装置。
【背景技術】
【0002】
従来、
図7に示す引用文献1の放電加工装置において、プーリ41に対する進入角度θが比較的小さい場合は、巻回がなされた時の経路を正確に逆向きに辿るようにして、ワイヤ電極WEの巻回が円滑に解かれる。しかし、ワイヤ電極WEの巻回が解かれる位置がワイヤボビン25の端部近く上記進入角度θが比較的大きい場合、ワイヤボビン25から巻回を解くように引っ張られているワイヤ電極WEが、その内側に巻回されているワイヤ電極WEを乗り越えて、別の場所に着地するように動くことがある。このようなワイヤ電極WEの不正な挙動は、その張力に変動を与えるので、ワイヤ放電加工の精度を阻害する要因となる。
【0003】
このワイヤ電極WEの不正な挙動を防止するための構成として、特許文献2に示された構成が知られている。
図8は、そのように構成されたワイヤボビンおよびプーリ周りの構造を示すものである。なお、この
図8において、先に説明した
図7中のものと同等の要素には同番号を付してあり、それらについての説明は、特に必要の無い限り省略する(以下、同様)。すなわち、
図8の構成では、ワイヤボビン25からワイヤガイド40に至るワイヤ電極WEの経路に、軸方向に長く延びるワイヤ電極巻回面を有する円筒プーリ45が介設されている。なおこの円筒プーリ45の回転軸43も、前述した基板44に固定されている。
【0004】
以上の通りの円筒プーリ45を設けておけば、図示されているようにワイヤ電極WEは、常にワイヤボビン25の回転軸(リール21の中心軸)と直交する面内で移動するようにしてワイヤボビン25から巻回が解かれるようになる。従って、前述したようなワイヤ電極WEの不正な挙動を防止することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、
図8に示す構成において、ワイヤガイド40には、刻々進入角度θを変化させながら、ワイヤボビン25から解かれたワイヤ電極WEが送られる。これは、円筒プーリ45が設置されていない場合も同様である。そして、特にワイヤボビン25の端部からワイヤ電極WEが解かれている場合、ワイヤ電極WEはワイヤガイド40で急激に曲げられてプーリ41に送られるので、ワイヤ電極WEに曲げくせが付くおそれがある。
【0007】
この問題を無くすため、あるいは軽微にするために、ワイヤガイド40を設けないことも考えられるが、その場合はワイヤ電極WEが、上述のように刻々進入角度θを変化させながら直接プーリ41に進入することになる。それによりワイヤ電極WEには、プーリ41のV溝に乗り上げるような力が作用して、ワイヤ電極WEに捻じれが生じるおそれがある。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、ワイヤボビンから解かれたワイヤ電極を、曲げくせや捻じれを発生させることなくワイヤ放電加工部に向けて送ることができるワイヤ放電加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるワイヤ放電加工装置は、
被加工物と所定の経路に沿って送られたワイヤ電極との間に放電を発生させて被加工物を加工するワイヤ放電加工装置において、
上方へとワイヤ電極を繰り出すワイヤボビンと、
径方向一端部を支点として水平方向に揺動自在に設けられ、径方向中心部を挟んで上記支点と逆側の外周部の第1の受取位置でワイヤボビンから繰り出されたワイヤ電極を受け取り、径方向中心部を挟んで上記第1の受取位置と逆側の外周部の第1の送出位置まで巻き掛けられて下方へとワイヤ電極を送り出す第1のプーリと、
を備え、
第1のプーリの上記支点は、ワイヤボビンの幅方向において、ワイヤボビンの幅方向一端部から他端部までの範囲内に配置されていることを特徴とするものである。
【0010】
なお、上記第1の受取位置は、ワイヤボビンの幅方向からみて、ワイヤ電極を繰り出すワイヤボビンの繰出位置の鉛直線上、または、この繰出位置よりも第1の送出位置側に配置されていることが望ましい。
【0011】
また、第1のプーリの揺動の支点は、ワイヤボビンの幅方向において、ワイヤボビンの幅方向一端部から他端部までの中央部に配置されていることが望ましい。
【0012】
また、本発明のワイヤ放電加工装置においては、
外周部の第2の受取位置で上記揺動プーリから送り出されたワイヤ電極を受け取り、径方向中心部を挟んで上記第2の受取位置と逆側の外周部の第2の送出位置まで巻き掛けられて上方へとワイヤ電極を送り出す第2のプーリをさらに備え、
この第2のプーリは、第2の受取位置が上記第1の送出位置の直下に配置されていることが望ましい。
【0013】
また、本発明のワイヤ放電加工装置において、第1のプーリや、あるいは第2のプーリの外周部には、ワイヤ電極を巻き掛けて保持する溝部が形成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のワイヤ放電加工装置によれば、
径方向一端部を支点として水平方向に揺動自在に設けられ、径方向中心部を挟んで前記支点と逆側の外周部の第1の受取位置でワイヤボビンから繰り出されたワイヤ電極を受け取り、径方向中心部を挟んで第1の受取位置と逆側の外周部の第1の送出位置まで巻き掛けられて下方へとワイヤ電極を送り出す第1のプーリが設けられた上で、第1のプーリの揺動の支点は、ワイヤボビンの幅方向において、ワイヤボビンの幅方向一端部から他端部までの範囲内に配置されているので、前述したようにワイヤ電極が進入角度を変化させながら第1のプーリに送られて来ても、その進入角度の変化に追随するように第1のプーリが揺動して、そこに巻き掛かっているワイヤ電極を、曲げくせや捻じれを発生させずに下流側に送り出すことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明によるワイヤ放電加工装置の第1の実施形態を示すものである。
図1では、ワイヤ電極の規定の走行径路が分かるように、ワイヤ放電加工装置を模式的に示している。
図1において、自動結線装置とワイヤ供給機構、およびワイヤガイド機構は、本機正面から見た状態で示されていて、ワイヤ回収機構は、本機側面から見た状態で示されている。以下、
図1と
図2を参照して、本実施形態によるワイヤ放電加工装置の構成を説明する。
【0017】
ワイヤ電極WEと被加工物WPとの間に所定の加工間隙が形成されるように、ワイヤ電極WEと被加工物WPとが対向配置される。ワイヤ電極WEと被加工物WPは、図示しない移動装置によって水平面上の任意の方向に相対移動する。ワイヤ電極WEを被加工物WPに対して傾斜させる、いわゆるテーパ装置は、図示省略されている。
【0018】
ワイヤ放電加工装置は、自動結線装置1と、ワイヤ供給機構2と、ワイヤ回収機構3と、ワイヤガイド機構4と、電流供給装置5と、圧縮空気供給装置6と、加工液供給装置7と、制御装置8とを含んで構成されている。ワイヤ電極WEは、被加工物WPを挟んで設けられる一対のワイヤガイド4U,4Lの間に、規定の走行径路に沿って所定のテンション(張力)が付与された状態で張架される。
【0019】
自動結線装置1は、ワイヤ電極WEの先端を下穴に挿通して自動的に一対のワイヤガイド4U,4L間に張架する手段である。自動結線装置1は、
図2に詳しく示されるように、少なくとも、ガイドパイプ11と、ワイヤ振動装置12と、アニール電極13と、中間給電電極14と、給電電極駆動装置15とを有する。
【0020】
ガイドパイプ11は、ワイヤ電極WEの規定の走行径路に沿って、水平面に対して略垂直に設けられている。ガイドパイプ11は、ワイヤ電極WEが規定の走行径路から逸脱しないように、ワイヤ電極WEを自動結線装置1の上位から上側ワイヤガイド4Uまで案内する手段である。ガイドパイプ11は、昇降装置によって上下方向に往復移動する。ガイドパイプ11は、ワイヤ電極WEを焼き鈍すときと切断するときは、上限位置に移動する。ガイドパイプ11は、ワイヤ電極WEの先端を下穴に挿通するときは、下限位置である上側ワイヤガイド4Uの入口まで移動する。
【0021】
ワイヤ振動装置12は、ガイドパイプ11の入口の直上に設けられている。ワイヤ振動装置12は、ワイヤ電極WEに上下方向の微小な振動を与える手段である。ワイヤ振動装置12は、図示しない電磁弁を切り換えることによって圧縮空気供給装置6から送られてくる所定の圧力の圧縮空気を一対の導入口12A,12Bから交互に入力して、圧縮空気の圧力を規定の走行径路に沿って直接または間接的にワイヤ電極WEに加える。その結果、ワイヤ電極WEが微小に上下動してワイヤ電極WEを下穴に通しやすくすることができる。
【0022】
上側給電電極13Uと下側給電電極13Lとで、一対のアニール電極13が構成されている。上側給電電極13Uと下側給電電極13Lとの一方が電流供給装置5の直流電源の正極に接続され、他方が負極に接続される。中間給電電極14は、上記直流電源の下側給電電極13Lが接続される極とは反対の極に接続され、下側給電電極13Lとの間でワイヤ電極WEに溶断電流を供給して、ワイヤ電極WEを意図的に切断する。
【0023】
給電電極駆動装置15は、上側駆動装置15Uと下側駆動装置15Lとから構成されている。上側駆動装置15Uは、一対の回転体から成る上側給電電極13Uを開閉する電磁アクチュエータを有する。電磁アクチュエータは電気が供給されている間に、上側給電電極13Uをワイヤ電極WEに向けて付勢する。下側給電装置15Lは、エアシリンダまたは電動シリンダを有する。エアシリンダまたは電動シリンダは、スライダを水平方向に移動させて、スライダに固定されている下側給電電極13Lと中間給電電極14をワイヤ電極WEに向けて付勢する。
【0024】
ワイヤ供給機構2は、加工に供されていない新しいワイヤ電極WEを、規定の走行径路に沿って加工間隙に連続的に供給する手段である。ワイヤ供給機構2は、テンション装置10を含む。ワイヤ供給機構2は、主に、リール21と、ブレーキ装置22と、第1のプーリ26と、第2のプーリ27と、送出モータ10Bによって自転する送出ローラ10Aとを有する。また、ワイヤ供給機構2には、リミットスイッチのような断線検出器24と、歪ゲージのような張力検出器10Cとが設けられている。
【0025】
リール21と、第1のプーリ26と、第2のプーリ27と、送出ローラ10Aとを含むワイヤ供給機構2の各回転体は、走行するワイヤ電極WEを規定の走行径路に沿って案内するガイドである。以下の説明では、各回転体がワイヤ電極WEを送り出すときに回転する方向を正転方向とし、正転方向とは反対の方向を逆転方向とする。
【0026】
リール21には、ワイヤ電極WEを貯蔵するワイヤボビン25が回転可能に取り付けられる。ブレーキ装置22は、ワイヤボビン25が装填されるリール21の逆転方向に所要のトルクを加えて、ワイヤ電極WEにバックテンションを付与する。こうしてブレーキ装置22は、ワイヤボビン25の空転を阻止して、ワイヤ供給機構2におけるワイヤ電極WEの弛みを防止する。
【0027】
ブレーキ装置22は、具体的に、例えばヒステリシスモータのようなブレーキモータ、もしくは電磁クラッチのような電磁ブレーキである。ブレーキ装置22がブレーキモータである場合は、送出モータ10Bと同期して動作させることができる。ブレーキ装置22が電磁ブレーキである場合は、電磁クラッチの摩擦力によってブレーキ力を得る構成上、送出モータ10Bとは別に独立して制御される。ただし、電磁ブレーキは、制御装置8によって電磁ブレーキを作動させるタイミングとブレーキ力を制御することができるので、自動結線装置1の各装置の動作タイミングに合わせて動作させることが可能である。
【0028】
ワイヤボビン25から繰り出されたワイヤ電極WEは、第1のプーリ26および第2のプーリ27に掛けられてから、後述する送出ローラ10Aに送られる。なお第1のプーリ26は、回転可能にして揺動アーム28に保持されている。この揺動アーム28は揺動軸29に保持されている。なお、第1のプーリ26および第2のプーリ27としては、外周部にワイヤ電極WEを巻き掛けて保持する溝部が形成されてなる、例えばV溝プーリが適用されている。
【0029】
テンション装置10は、ワイヤ電極WEに所定のテンション(張力)を付与する手段、すなわち張力装置である。テンション装置10は、ワイヤ供給機構2に含まれている。テンション装置10は、主に、送出ローラ10Aと、送出モータ10Bと、張力検出器10Cと、ピンチローラ10Dと、モータ制御装置10Eとで構成されている。
【0030】
送出ローラ10Aは、送出モータ10Bによって自転する。送出ローラ10Aは、ピンチローラ10Dがワイヤ電極を送出ローラ10Aの外周面に押し付けることによって、ワイヤ電極WEを移動させる駆動力を得る。送出ローラ10Aは、ピンチローラ10Dを含む複数のローラによってワイヤ電極WEを弛ませないようにして、ワイヤ電極WEを断線させることなく円滑に走行させる。
【0031】
送出モータ10Bは、サーボモータである。送出モータ10Bは、制御装置8の指令信号に従ってモータ制御装置10Eを通して制御される。送出モータ10Bは、モータ制御装置10Eによって張力検出器10Cの検出信号に基づいてサーボ動作する。そのため、設定張力値が小さいときでもワイヤ電極WEのテンションが安定し、ワイヤ電極WEが弛んだり、断線したりするおそれがより小さい。制御装置8は、ワイヤ回収機構3の巻取装置30におけるトルクに合わせて送出モータ10Bを制御することができる。
【0032】
送出ローラ10Aは、ワイヤ電極WEが一対のワイヤガイド4U,4Lとの間に張架されているときは、送出ローラ10Aと巻取装置30の巻取ローラ30Aとの間の回転速度差によって、ワイヤ電極WEを実質的に停止させた状態で、またはワイヤ電極WEを所定の走行速度で加工間隙に連続して送り出しながら、ワイヤ電極WEに所定のテンションを付与する。
【0033】
送出ローラ10Aは、ワイヤ電極WEを結線するときは、送出モータ10Bによって正転方向に定速回転し、ワイヤ電極WEの先端を下穴に挿通、通過させてワイヤ回収機構3に捕捉させる。また、送出ローラ10Aは、自動結線のリトライを行なうときは、送出モータ10Bによって逆転方向に定速回転し、ワイヤ電極WEを所定位置まで巻き上げる。
【0034】
ワイヤ回収機構3は、加工に供されて消耗したワイヤ電極WEを、規定の走行径路に沿って加工間隙から回収する手段である。ワイヤ回収機構3は、巻取装置30と、方向転換用のローラ(プーリ)31と、搬送パイプ32と、アスピレータ33と、バケット34と、ワイヤ裁断機35とを有する。巻取装置30は、主に、巻取ローラ30Aと、巻取モータ30Bと、ピンチローラ30Cとから構成される。巻取ローラ30Aは、巻取装置30の駆動ローラを構成し、ピンチローラ30Bは、巻取装置30の従動ローラを構成する。
【0035】
下穴を抜けて下側ワイヤガイド4Lに通されたワイヤ電極WEは、ローラ31によって進行方向を水平方向に変えられて、搬送パイプ32に挿入される。搬送パイプ32の中のワイヤ電極WEは、アスピレータ33によって吸引され推進力を得る。
【0036】
搬送パイプ32を抜け出たワイヤ電極WEは、巻取装置30の巻取ローラ30Aとピンチローラ30Cとの間に捕捉、挟持される。巻取ローラ30Aは、定速回転モータである巻取モータ30Bに
よって正転方向に所定の回転速度で回転し、使用済のワイヤ電極WEを所定の走行速度で走行させながらバケット34の直上まで引き込む。本実施形態のワイヤ放電加工装置では、バケット34の上に引き込まれたワイヤ電極WEを、ワイヤ裁断機35で細断してバケット34に収容する。
【0037】
ワイヤガイド機構4は、被加工物WPを挟んで設けられる上下一対のワイヤガイド4U,4Lから構成されている。上側ワイヤガイド4Uと下側ワイヤガイド4Lは、上下ガイド組体20A,20Bの中にそれぞれ組み込まれている。一対のワイヤガイド4U,4Lは、ワイヤ電極WEを規定の走行径路上に位置決めするとともに、走行するワイヤ電極WEを案内する。一対のワイヤガイド4U,4Lは、共にダイス形状を有する“ダイスガイド”であって、各ワイヤガイド4U,4Lとワイヤ電極WEとの間に数μmのクリアランスがあるので、自動結線時にワイヤ電極WEの先端をワイヤガイド4U,4Lの中に通すことができる。
【0038】
上下ガイド組体20A,20Bには、電流供給装置5からワイヤ電極WEに加工電流を供給するための上側通電体5Uと下側通電体5Lがそれぞれ収容されている。また、上下ガイド組体20A,20Bには、加工液供給装置7から供給されている所定圧力の加工液噴流を、加工間隙に噴射供給するための上下ノズル8U,8Lがそれぞれ組み込まれている。
【0039】
電流供給装置5は、少なくとも、直流電源と、スイッチング回路と、リレースイッチとを備えている。本実施形態のワイヤ放電加工装置では、電流供給装置5は、加工間隙に加工電流を供給する加工電源回路を含んでいる。従って電流供給装置5は、放電加工に必要な電圧パルスを加工間隙に印加して加工電流を供給する手段であるとともに、自動結線時にワイヤ電極WEに所定のアニール電流と所定の溶断電流を供給する手段である。
【0040】
電流供給装置5の直流電源の正極は、上下ガイド組体20A,20Bにそれぞれ収容されている上側通電体5Uと下側通電体5Lに接続され、負極は被加工物WPに接続されている。加工中、電流供給装置5は、上下各通電体5U,5Lと被加工物WPとを通して加工間隙に繰返し電圧パルスを印加して、加工間隙に間欠的に所定の加工電流を供給する。被加工物WPは例えば図示外のXY移動ステージに搭載され、上記電圧パルスの印加に伴って水平2軸方向(X、Y方向)に移動されることにより、X−Y面内で所定形状に加工される。なお、このようにして被加工物WPに加工がなされる部分を「ワイヤ放電加工部」と称する。
【0041】
本実施形態の電流供給装置5では、直流電源の正極が自動結線装置1の上側給電電極13Uと中間給電電極14とにそれぞれ図示外のリレースイッチを介して接続され、負極が下側給電電極13Lにリレースイッチを介して接続されている。電
流供給装置5は、自動結線時に、一対のアニール電極13を導通してワイヤ電極WEに所定のアニール電流を供給する。また、電流供給装置5は、ワイヤ電極WEを意図的に切断するとき、下側給電電極13Lと中間給電電極14を導通して、ワイヤ電極WEに所定の溶断電流を供給する。
【0042】
圧縮空気供給装置6は、自動結線装置1のワイヤ振動装置12に作動用の圧縮空気を供給する手段である。圧縮空気供給装置6は、図示しないエアコンプレッサのような圧縮空気供給源と、複数の電磁弁と、レギュレータとを含んでいる。圧縮空気供給装置6は、圧縮空気供給源の高圧の圧縮空気をレギュレータで所定の圧力に調整し、電磁弁を定期的に切り換えることによって、ワイヤ振動装置12の一対の導入口12A,12Bに交互に所定圧力の圧縮空気を供給する。
【0043】
加工液供給装置7は、加工間隙に所定の圧力の加工液噴流を供給する手段である。加工液供給装置7は図示外の噴流ポンプによって、サービスタンクに貯留されている清浄な加工液を、上下ガイド組体20A,20Bにそれぞれ設けられている上下加工液噴流ノズル7U,7Lに供給する。それにより各加工液噴流ノズル7U,7Lから所定圧力の加工液噴流が、ワイヤ電極WEの規定の走行径路の軸線方向に対して同軸に加工間隙に向けて噴射される。なお
図1では、加工液供給装置7からワイヤガイド機構4に至る加工液の経路を途中は省略して示しているが、加工液供給装置7から出たこの経路の(A)表示部分が、ワイヤガイド機構4に入る経路の(A)表示部分に繋がっている。
【0044】
制御装置8は、ワイヤ放電加工装置の動作を制御する手段である。以下、制御装置8の制御動作のうち、主要な制御について説明する。本実施形態のワイヤ放電加工装置において、制御装置8は、自動結線装置1の動作を制御する。制御装置8は特に、電流供給装置5とテンション装置10を制御する。
【0045】
制御装置8は、電流供給装置5から所定のアニール電流を供給している所定期間中に、設定張力値を80g以下で可能な限り小さくしてワイヤ電極WEにテンションを付与するようにテンション装置10を制御する。制御装置8は特に自動結線装置1を、所定のアニール電流の供給を停止すると同時に、所定期間中にワイヤ電極WEを加熱していない状態で空気中に晒して徐々に冷却するように制御する。
【0046】
制御装置8は電流供給装置5を、ワイヤ電極WEに十分に小さい上記設定張力値のテンションを印加してから、所定期間経過後に所定のアニール電流を供給するように制御している。また制御装置8はテンション装置10を、所定のアニール電流を停止すると同時に上記設定張力値が0gにならない範囲で上記設定張力値を10g以上小さくして所定期間経過後に元の設定張力値に戻すように、ワイヤ電極WEにテンションを付与するように制御している。
【0047】
次に、ワイヤボビン25から解かれたワイヤ電極WEを、曲げくせや捻じれを発生させることなく、ワイヤ放電加工部に向けて送るための構成について、
図3〜
図6を参照して説明する。
図3、
図4および
図5は、
図1に示す第1のプーリ26および第2のプーリ27の周辺の構造を示す正面図、側面図および平面図である。
図3〜
図5に示されるように、ワイヤ電極WEは、ワイヤボビン25から上方に向けて繰り出される。ワイヤボビン25から繰り出されたワイヤ電極WEを受け取る第1のプーリ26は、揺動アーム28によって保持されている。揺動アーム28は、鉛直方向に延びる揺動軸29によって保持されており、この揺動軸29を支点として水平方向に揺動自在とされている。揺動軸29は、基板44に固定された保持部材50によって保持されている。
【0048】
なお、以下では、上記の揺動を便宜的に「揺動軸29を支点にして揺動」ということもある。揺動アーム28に保持された第1のプーリ26は、揺動アーム28の揺動に伴って揺動軸29を支点として水平方向に揺動する。第1のプーリ26に巻き掛けられたワイヤ電極WEは、下方に向けて送り出される。
【0049】
より詳しく説明すると、
図4に示すように、揺動軸29は、第1のプーリ26の外周部の一点とXY面内において同位置となるように配置されている。第1のプーリ26は、その径方向中心部を挟んで上記支点の逆側となる外周部の所定位置において、ワイヤボビン25から繰り出されたワイヤ電極WEを受け取る。なお、ワイヤ電極WEを受け取る第1のプーリ26の外周部の位置を第1の受取位置という。また、第1のプーリ26は、径方向中心部を挟んで第1の受取位置と逆側となる外周部の所定位置までワイヤ電極WEを巻き掛ける。なお、ワイヤ電極WEが送り出される第1のプーリ26の外周部の位置を第1の送出位置という。
【0050】
また、
図3,5に示すように、第1のプーリ26の揺動の支点となる揺動軸29は(より詳しくはその中心の鉛直軸は)、ワイヤボビン25の幅方向において、該ワイヤボビン25の幅方向一端部から他端部までの範囲内に配置されている。特に本実施形態では、揺動軸29の中心の鉛直軸は、ワイヤボビン25の幅方向において、該ワイヤボビン25の幅方向一端部から他端部までの範囲の中央部に配置されている。
【0051】
ここで、第1のプーリ26における上記第1の受取位置は、ワイヤボビン25の幅方向からみたとき、ワイヤボビン25のワイヤ電極WEの繰出位置の鉛直線上、または、この繰出位置よりも第1の送出位置側に配置されている。
図4では、ワイヤボビン25におけるワイヤ電極WEの巻回径が最大の場合と、最小の場合におけるワイヤ電極WEの位置を示している。前者の場合第1の受取位置は、ワイヤボビン25のワイヤ電極WEの繰出位置の鉛直線上に配置されている。また、ワイヤボビン25におけるワイヤ電極WEの巻回径が最小よりも大である場合は、上記第1の受取位置が、ワイヤボビン25からのワイヤ電極WEの繰出位置よりも第1の送出位置側に配置されている。
【0052】
第1のプーリ26から下方に向けて送り出されたワイヤ電極WEは、第2のプーリ27の下部に巻き掛けられる。すなわち、第2のプーリ27は、第1のプーリ26から下方に向けて送り出されたワイヤ電極WEを外周部の所定位置で受け取るように配置されている。なお、ワイヤ電極WEを受け取る第2のプーリ27の外周部の位置を第2の受取位置という。また、第2のプーリ27は、その径方向中心部を挟んで第2の受取位置と逆側となる外周部の所定位置までワイヤ電極WEを巻き掛け、上方へと送り出す。なお、このようにワイヤ電極WEが送り出される第2のプーリ27の外周部の位置を第2の送出位置という。
【0053】
第2のプーリ27の第2の受取位置は、第1のプーリ26の第1の送出位置の直下に配置されている。つまり、上記第1の送出位置と第2の受取位置との間で、ワイヤ電極WEは鉛直方向に延びている。
図6は、第1のプーリ26および第2のプーリ27の周辺部を上方からみたときの図である。従って、同図では、上記概略鉛直方向に延びているワイヤ電極WEは、その中心をCとして示すように紙面に対して垂直に延びている。
【0054】
以下、
図3〜
図6に示した構成の作用について説明する。
ワイヤ電極WEの繰り出し位置は、ワイヤボビン25の一端部と他端部との間で往復移動するように順次変位する。
図3および
図5では、ワイヤボビン25の幅方向中央部から繰り出されるワイヤ電極WEを実線で示している。ワイヤボビン25の幅方向中央部から繰り出されて第1のプーリ26および第2のプーリ27に巻き掛かるワイヤ電極WEの経路は、ワイヤボビン25の軸方向(
図3中の左右方向で
図5中の上下方向)に対して垂直な一つの面内に存在する。
【0055】
また、
図3および
図5では、ワイヤボビン25の幅方向の最外端位置から繰り出されたワイヤ電極WEを2点鎖線で示し、
図3中の左端位置から繰り出されたワイヤ電極をWE(L)として、また右端位置から繰り出されたワイヤ電極をWE(R1)として示している。さらに、上記右端位置よりも多少ワイヤボビン25の幅方向中央部に近い位置から繰り出されたワイヤ電極をWE(R2)として示している。
【0056】
ワイヤボビン25から繰り出されたワイヤ電極WEには、前述したようにテンション装置10の作用で張力が掛けられている。そのため、ワイヤ電極WEの繰出位置がワイヤボビン25の幅方向中央部から端部側に変位した際、ワイヤ電極WEが巻き掛けられた第1のプーリ26には、揺動軸29を支点として第1の受取位置が外側に開くように(つまり、第1のプーリ26に巻き掛かっているワイヤ電極WEの経路が最短となるように)揺動させる力が作用する。
図3,4では、ワイヤ電極WEの位置変位に対応して揺動した第1のプーリ26を2点鎖線の楕円で概略表示している。
【0057】
上述したように、本実施形態では、第1のプーリ26は、揺動軸29を支点として水平方向に揺動可能に構成されている。また、第1の受取位置は、ワイヤボビン25の幅方向からみて、ワイヤボビン25からのワイヤ電極WEの繰出位置の鉛直線上または同繰出位置よりも第1の送出位置側に配置されている。さらに、揺動軸29の中心の鉛直軸は、ワイヤボビン25の幅方向において、該ワイヤボビン25の幅方向一端部から他端部までの範囲の中央部に配置されている。従って、ワイヤボビン25から第2のプーリ27に至るまでのワイヤ電極WEの経路は一つの面内に有る状態となるため、この経路においてワイヤ電極WEに曲げくせや捻じれが発生することが防止される。それと共に、ワイヤ電極WEに作用している張力が変動することも防止される。
【0058】
また、先に
図6も参照して説明した通り、第2の受取位置は、第1の送出位置の直下に配置されている。そのため、第1のプーリ26の揺動に伴いワイヤ電極WEの経路が変化しても、第2のプーリ27は一定の第2の受取位置でワイヤ電極WEを受け取ることになる。従って、第2のプーリ27は、常に安定してワイヤ電極WEを巻き掛け、そして下流側に送り出せるようになっている。
【0059】
また、ワイヤ電極WEの断線検出器52を設けるならば、
図4に示すように、第1のプーリ26と第2のプーリ27との間のワイヤ電極経路に設けるのが好ましい。この経路においては、第1のプーリ26が揺動してもワイヤ電極WEの位置は変動しないため、断線検出を容易かつ精度良く行うことができる。
【0060】
なお、第2のプーリ27より下流側であって、テンション装置10までの各種部材が配置された加工ヘッドが上下移動可能な構成のワイヤ放電加工装置の場合、第2のプーリ27からのワイヤ電極WEの経路は、加工ヘッドの高さに応じて変化する。
図4では、その加工ヘッドが比較的上方にある場合、比較的下方にある場合のワイヤ電極経路をそれぞれWE(H)、WE(Lo)として示している。第2のプーリ27におけるワイヤ電極WEの巻き掛け範囲は、加工ヘッドの高さに応じて変化することになる。